【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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皮を切らせて肉を切り肉を切らせて骨を切る

達人の技を強制的にラーニングし、それを警備課相手の実戦で定着させて、再びラーニング作業に戻る。

 

訓練最終日までのその繰り返しを経て、確実に強化されたチルドレン達は、今日この日、再び戦いを挑むべく、第7使徒イスラフェルが焦げ付いている沿岸へと出撃した。

 

当然ながら、回復を行なっていたイスラフェルもエヴァの接近に気付かないわけがなく、活動を再開。エヴァを迎え撃つ形で、戦端が開かれる。

 

そして、現在。海岸線沿いの戦いは、エヴァンゲリオン有利で進行していた。

 

頭数は3対5。数的不利は確実に存在し、周囲を囲まれての不利な戦いなのは間違いない。だが、この6日間の凄まじい特訓による『技術』が、その不利を吹き飛ばす。

 

アスカの駆る弐号機の振るう十字槍、シンジの初号機が持つ日本刀、零号機が振り回す棍。その全てが必殺の威力を以って5色のイスラフェルに襲い掛かり、相手に攻勢を許さない。

 

襲いくるレッドとブルーのダブルドロップキックを、初号機の音を置き去りにした居合い斬りが迎撃して両者を2枚おろしにし、ピンクはアスカの槍に貫かれたまま振り回されて投げ飛ばされ、レイは棍棒でグリーンとイエローを叩き潰して血飛沫と肉片を撒き散らす。

 

1人だけやっている事が残虐超人だが、エヴァという暴力の塊が人間の武道を使う威力は、イスラフェルを相手に明確に証明されていた。

 

しかし、それでもなお、決定的な一撃には遠い。

 

分裂体同士の相互補完による超再生と、強力な肉弾戦能力。イスラフェルのシンプルながらも強力な特性が、エヴァに攻め切らせないのだ。

 

槍に対しては、自ら貫かれることでその刃を受け止め、刀に対しては振り抜かれたその一瞬を狙って組み付きに掛かる。唯一の例外はレイの棍棒だろうか。

 

ブンブン振り回されているそれは刃筋を立てなくとも良い分動きが豪快であり、イスラフェル達も迂闊には近付けない。が、刃物よりは威力が低いので、結局膠着状態なのは変わらない。

 

そんな状況の中、チャンスを生み出すべく、ひっそりと海辺の水中に隠れているサキエルが、一瞬にしてイスラフェル全てを凍結させた。

 

発令所でミサト達が見ている手前、すっぽんぽんのちっぱいおねにいさんボディを晒すわけにもいかず、水中に潜んだままサポートすることしか現状のサキエルには不可能なのだ。

 

もちろん、カメラさえなければ現地スタッフの肉眼観測はATフィールドで阻害できるのだが、この戦いの状況でカメラを破壊するのはシンジ達に不利となる。

 

それ故の、こっそり凍結アシスト。その隙を逃さず、チルドレン3名はイスラフェル全個体のコアを穿つ……が、タイミングが一拍逸れたのか、再生してしまった。

 

凍結からの一撃必殺。プランAとして建てられていた作戦はあえなく失敗したものの、チルドレンに動揺は少ない。

 

プランAももちろん通常の使徒に対して言えば必殺の策ではあるが、今回の相手に対しての成功確率はMAGIの試算で1割程度だったのだ。許容誤差0.3秒というその制約が、同時攻撃の難易度を上昇させているのである。

 

そして、プランAの失敗により全体をまとめて攻撃されない様にという策略なのか、一気にバラけたイスラフェル軍団は、一定の距離を取って立ち回る個体とインファイターに分かれ、凍結時の一撃必殺を避けるべく行動し始める。

 

だが、当然ながら、プランAと言うからにはBやCがあるのだ。

 

「敵散開の場合だから、パターンCで行くわよ!」

「了解!」

 

そんなアスカの掛け声でシンジ達は事前に決めたポジションまで全力移動し、イスラフェルを誘導する。

 

イスラフェル達にとって、巨大な人造人間であるエヴァンゲリオンは始末すべき対象。当然彼らはエヴァが移動すればそれを追おうと立ち回る。

あとは上手くルート取りを行えば、イスラフェルは距離を保ちつつも縦に並ぶ事となるわけで。

 

あとはエヴァが急制動をかけ、ATフィールドを全力で展開すれば、追っていたイスラフェル達は急に現れた不可視の壁に衝突する。

 

そこに、あらかじめ設置してあった秘密兵器————ミサトが戦略自衛隊との交渉の末お買い上げしたポジトロンスナイパーライフルが、ATフィールドの壁に沿って直線上に並んだイスラフェルをブチ抜いた。

 

反物質が物質に直撃する事で発生する莫大な熱が射線上で炸裂するため、スナイパーと言いつつもかなり広い範囲を吹き飛ばせるのがポジトロンスナイパーライフルの特徴。当然、イスラフェルもタダでは済まない。

 

「やったか!」

 

全てを吹き飛ばすその威力に思わず指揮所にいたミサトがそう叫んだのも、無理はない。

 

しかし。

 

閃光が収まったあとには、焼けてボロボロになりつつも蠢くイスラフェルの姿があった。

 

全個体が同様の損傷を負っているせいか、体表に傷は残り、動きは鈍い。しかし、それでも確かに、イスラフェルは動いて見せたのだ。

 

そして、爆炎の中5体のイスラフェルは集結し、ポジトロンスナイパーライフルの発射地点に向けて陣形を組み始める。

 

レッドを中心に、ブルーとグリーンがその両脇を固め、ピンクとイエローがその前でしゃがみこむ。それはまるで、戦隊ヒーローの必殺技の前準備のようで————しかし、名乗りはなく、ただレッドの咆哮と同時に5体が展開したATフィールドが三角柱状の5面体を形成し、その内部に激烈な高エネルギー反応が発生する。尋常ではない高密度プラズマ。ATフィールド5枚張りで制御されるそれは、まさに必殺の一撃。

 

————縮退砲。

 

フェルミ縮退した高エネルギープラズマを指向性を持たせて一気に解放する事で、縮退圧によって凄まじい威力で吹き出すプラズマの奔流により対象を『消し飛ばす』その超攻撃は、ポジトロンスナイパーライフルが据え付けられていた山を消滅させ、蒸発した岩石のガスが噴き上がる。

 

恐るべきその攻撃はしかし、発射の反動も強烈なのか5体は身を寄せ合って互いを支えており、大きな隙を晒している。

 

そんな大技の発射直後の硬直を見逃すはずもなく、アスカの槍が、シンジの刀が、レイの棍棒がイスラフェル達のコアを貫き、大ダメージを叩き込む。

 

が、流石にイスラフェルもタダでは終わらない。

 

ギリギリで急所を逸らしたレッドのヒビ割れたコアが輝き、後続の使徒のため今ここでエヴァを道連れにせんと自爆を敢行し————ようとして、海から飛び出してきたサキエルによって背部からそのコアを貫手で貫かれ、沈黙した。

 

先程の縮退砲のどさくさに紛れてネルフの監視カメラをぶっ壊し、ミサトや他のスタッフに見られるリスクを無くした事でようやくサキエルは海から飛び出せたのだ。

 

まさか不自然にカメラを壊すわけにも行かず、なかなか手助けできないという状況は、サキエルにとってもかなりストレスであったのか、眉根を寄せるその巨人は、エヴァ各機からイスラフェルの死骸を引き剥がすと、3機を優しく放り投げて死体から引き離し、死体と自分の周囲に光すら阻む高密度のATフィールドを展開する。

 

いつカメラが復旧するともしれない状況で焦っているとはいえ『美味しいとこ取り』は流石のサキエルも『良いのかこれで』と思わないではない。

 

だが、ここまで含めてチルドレン達やリツコと立てた計画であり、今回ばかりは事情が事情。

 

早急にイスラフェルを打倒し分裂能力を得なければ一切身動きがとれないというサキエルの事情により、イスラフェルの死骸は強奪されたのであった。

 


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