【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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捨て物は拾い物

冷たい水底で、黙想すること数日。

 

セルフ禅問答とでもいうべきか、『何故、自分は完全生命体になろうとしているのだったか?』という根本的な問いを悩み続けたサキエルは、悩みの果てに、『別に現状でも困らないので現状維持で良いのでは……?』という使徒としていかがなものかと思うような結論に達していた。

 

だが事実として、単体生命として完成しているサキエルにとって、究極完全な生命になって得られるものは精々が『この星を支配する権利』である。

 

欲しいか? と考えてみたが、答えはNo。そもそも、使徒が目的を達した場合、完全生命体の誕生によって放たれるアンチATフィールドがこの星の生命全てをLCLに還元してしまうのだから、あんまり面白みのない星になることだろう。

 

————ん、待てよ? アンチATフィールド?

 

と、そこまで考えてサキエルは気付く。他の使徒が目的を達した瞬間、サキエルは死ぬのだ。

 

つまり、自分以外の使徒を皆殺しにしなければ、サキエルが安穏と海底に暮らすことは出来ないのである。

 

————じゃあ皆殺しにしよう。

 

自分の命題に悩んでいた時と比べて、その決断は、あまりにも早かった。

 

 

* * * * * *

 

 

一方その頃。急ピッチで復旧中の相模湾沿岸防衛戦の指揮所にて、リツコとミサトが仕事をしつつ語り合っていた。

 

「第3使徒はレイを治して謎の逃亡、第4使徒は第3使徒が倒してそのまま持って帰っちゃった、と。……ネルフの面目丸潰れね」

「そうね」

「んー? リツコ、ずいぶん余裕じゃない?」

「まさか。余裕なんか無いわよ。ただ……研究者としては、あの使徒には興味がつきないわね。ヒトとシンクロを試みたのは何故なのか、とか。……それに、得るものも少しはあったわよ」

「ああ、第3使徒の腕ね。……で、腕を調べて何か分かったの?」

「遺伝子を構成する素材は随分と異なるみたいだけれど、使徒と人間の遺伝子情報は99.8%合致している、といったところかしら」

「使徒とヒトがおんなじ、ね……」

「……不快だった?」

「いーえ! ……ただね、ちょっち、アタシの人生ってなんだったのかなって」

 

そう零すミサトに、リツコは流石に作業中のPCから目を離して、ミサトを見つめた。

 

「アタシさ、お父さんを死なせた使徒に復讐するんだ〜ってずっと生きてきたのよね。でも、使徒同士は別の生き物で、お互いに殺し合うぐらいに『別人』な訳でしょ? じゃあセカンドインパクトを起こしたあの使徒への恨み辛みをぶつけるのもお門違いかなって思っちゃったのよね。……ま、アタシみたいな子がこれ以上増えないためにも、サードは絶対阻止しないとだけど。それでもね」

「……凄まじい心境の変化ね。ミサト」

「色々衝撃だったのよ、それだけ」

「……そうね、あの第3使徒は、本当に衝撃的だわ。そう、本当に……」

 

————人類補完計画が、破綻しかねないくらいに。

 

そんな言葉をコーヒーで飲み下して、リツコは再び作業に戻る。手を止めていたミサトも書類にサインを書き込み続ける業務に戻ったが、それでも会話をやめないのは彼女らしいところと言えよう。

 

「そういえばさ、レイは大丈夫なわけ?」

「検査上はね。……シンジ君のトラウマ治療の方が重大なくらいよ。といっても、彼の方も催眠療法が良く効いて随分マシになったみたいだけれど」

「それは良かった。……今回みたいな奇跡に毎度頼ってられないもの。マジで、ネルフとエヴァの面目躍如とまでは行かなくても、私たちも戦えるってとこを見せなきゃね」

「そこなんだけれど、やはり遠距離兵装の開発は急務だわ。今ちょうど強度解析結果が出たんだけれど、第3使徒の表皮、ATフィールドなしでも通常火器を通さないみたい」

「うへぇ、エヴァ用のガトリングとかパレットライフルあったわよね。あれ全部無駄ってこと?」

「少なくとも、第3使徒にはね。……でも良いものが手に入ったわ。……光の槍。興味深い武装だと思わない?」

「……再現できんの?」

「お手本があるんだもの。どうにかして見せるわ」

「頼りにしてるわ、赤木博士」

「光栄ですわ、葛城課長」

 

そんな会話を交わす2人の背後で、サキエルの腕を積んだ大型トラックがネルフ本部に向けて移動して行く。

 

 

* * * * * *

 

 

だが、ネルフが武器を得た様に、サキエルもまた武器を得た。海底に引きずり込んだシャムシエルの遺骸を余さず喰らったサキエルは、シャムシエルのコアから生体プログラムを丸ごと奪い取り、S2機関すらも取り込んだ。

 

もちろん、サキエルも元々生命の果実たるS2機関を有している。だが、2つ目のそれを手に入れることは決して無意味では無い。

 

電池で言えば並列化。無限のエネルギーとはいえ、出力速度には限界があるのだが、タンデム駆動させることで単純に出力が倍増するのである。

 

その具合をしばらく確かめて、サキエルはテストを兼ねて、海中で自身の手から光のパイルを打ち出し————それを即座にシャムシエルの鞭へと変えて、ビュンビュンと振り回した。

 

直線的な刺突のみだった光のパイルに比べればかなり汎用性が高いが、パイルはパイルでシンプル故に出足が早くクセも少ない。

 

臨機応変に使い分ける事を心に決めたサキエルは、今度は自身の肉体へと注意を向けた。

 

シャムシエルの特徴は、鞭と強靭な外皮ばかり目立つが『自由自在な浮遊能力』も忘れてはならないポイントだ。その特徴を取り込んだサキエルは、試しに、と海中から浮上する。

 

そのまま水面の少し上を『スゥー』っと滑る様に飛ぶサキエルは、まさに宙を泳ぐが如し。光輪を使用してのゴリ押し飛行よりだいぶスムーズなその動きは、サキエルにとっても満足できるものだ。

 

そして、便利な移動手段を得てやることといえば。————例の小さいヒト型達を、もう少し観察しておくべきだろう。

 

そう考えて、彼は再び、上陸を開始したのだった。


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