【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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山を張る

マグマの奥底へと逃亡した第8使徒。

 

その足取りを捕捉できたのは、MAGIという超高性能コンピュータあってのことだろう。

 

地中における微細振動を、各地の地震計から拾い集め、自動車や工事によるものを丹念に取り除き、使徒の動向を窺ってみれば、その足取りがまっすぐ第3新東京市へと向かっているのは一目瞭然。

 

そして、その行動と特徴から、使徒の狙いは非常に明確だった。

 

 

* * * * * *

 

 

「総員、第一種戦闘配置。これよりネルフは第8使徒迎撃に備え、第3新東京市民の完全疎開及び都市区画の完全地下格納状態へと移行します」

 

ネルフ本部の発令所でそう告げるミサト。その指示に従い、ネルフの誘導の元近隣住民は強制退去を命じられ、今も地上ではネルフ職員が避難民をとにかく誘導し続けている。

 

兼ねてより疎開が進んでいたとはいえ、『民間人の完全排除』にまでことが及んだのは、ネルフ史上初めてだ。だがそうせねばならないと間違いなく言えるのは使徒の狙いが『箱根山』だとMAGIが予測したからこそ。

 

箱根山は、日本有数の大火山。それを『噴火』させられた場合、最悪の場合火砕流が太平洋まで到達しかねない。つまるところ、神奈川はマグマに沈む。

 

もちろん、ネルフもそれを受け入れるつもりはない。エヴァ各機は箱根山に既に集結しており、万が一の際に火砕流を『迎撃』するべく備えているし、大涌谷付近では工作部隊が大量のボーリング孔を掘削して火山の『ガス抜き』に従事しているのだ。

 

マントル上層部に存在する流動層を泳ぎ箱根を目指しているらしい第8使徒の目標は当然ネルフ本部地下のリリス。それを狙うなら地下から攻めれば良い話ではあるのだが、そうしないのはおそらく『黒き月』の外殻によってマグマの流れが遮断されている為だろう。

 

故にサンダルフォンは箱根山を噴火で吹き飛ばし、邪魔なネルフを排除し黒き月を露出させてからゆっくり攻め込む算段を立てたのだ。

 

随分とダイナミックな計画だが、地下から地球そのもののエネルギーによって攻め込んでくるという豪快なそれは、防ぎようのなさで言えば過去最強クラスと言って良いだろう。

 

将棋で言えば『将棋盤を蹴り飛ばしてから対戦相手をブン殴れば勝てる』並みの暴挙。それに対して受けに回らざるを得ないネルフは、圧倒的な不利に対して懸命に抗おうとしていた。

 

 

* * * * * *

 

 

その一方で、こっそりひっそり第8使徒に嫌がらせをするべく活動しているのが、増殖サキエル軍団である。

 

手始めに行ったのが、箱根山地下のマグマ溜まりの縮小。これにはガギエルから奪った凍結能力が役立った。箱根山と呼ばれる箱根近辺の火山帯には複数の火口が存在するが、それらに繋がるマグマの流れを丁寧に塞ぎ、硬め、その結果として、サンダルフォンの侵入可能経路は大涌谷付近に通じる最も太いマグマの流れに絞られているのだ。

 

本当を言えばこれも塞ぎたいところだが、下手に追い詰めれば何があるかわからない以上、道を絞るに留める事が最大限の妨害工作となる。

 

なおこの作戦の為に大涌谷付近を掘削しているというのが、ガス抜き作戦の裏事情だ。サキエルがマグマに侵入して内側から冷却する以外に、この作戦を行う手法がなかったためであり、過酷な環境での掘削作業をスタッフに強いることとなってしまった。だが、ともすればネルフが丸ごと吹き飛ぶのだから、死なない程度の苦労は飲むしかない。

 

そして第二の対策はサキエルが表の名義で私物化している日本重化学工業にネルフ名義で外注した武装『携行型陽子砲』のエヴァ各機への配備だ。

 

開発者はもちろん時田シロウ。『超火力のキャノン系武装はスーパーロボットには必須ではなかろうか』というサキエルの甘い誘惑により、新型ジェットアローンの武装開発も兼ねて設計されたそれは、N2リアクターと最新式のナノ粒子化タンタル電解コンデンサーを大量に組み合わせたキャパシタを装備することで、携行型でありながら実用レベルの陽子砲として使用できる。

 

なお、陽電子ではなく陽子。すなわちプロトンビーム砲なので、対消滅したりはしない。ただちょっと進路上の何もかもを電離させて高熱とガンマ線を撒き散らすだけだ。十分に害悪兵器である。

 

しかしこのプロトンビーム、使徒であるサキエル目線からして『撃たれたくないなあ』という仕上がりであり、イスラフェルに大ダメージを与えた陽電子砲同様、遠距離からATフィールドをブチ抜ける数少ない武装である。

 

マグマの中を移動するなどという常識外れなサンダルフォンが強烈なATフィールドを全身に纏っているというのは、全身にATフィールドを纏ってマグマダイブし、妨害工作をしていたサキエルだからこそ確信している。故にこそ、プロトンビームが必要だったのだ。

 

だが、それでも。サキエルでも、完全な対策を施せないのが、地底から襲撃するというサンダルフォンの作戦だ。ヒトの文明は地面から未だ離れる術を持たず、大地に牙を剥かれれば、成す術もないのが基本なのだから。

 

 

* * * * * *

 

 

そして。

 

それは、地響きと共に、現れた。


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