【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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縁の下の力持ち

マヤには可愛い後輩をあてがい、リツコにはルイスをあてがい、チルドレンには保護者として振る舞い、加持とミサトの仲を取り持つべくチョコチョコと暗躍。そしてその傍ら、第3新東京市の復興事業やら資金繰りやらジェットアローン開発やらを行うサキエルは、群体生命とはいえ多忙を極めている。

 

そんな彼が、最近チルドレン育成担当を使って子供達を甘やかしているのは、ある種のストレス発散と言えるのかもしれない。

 

ゼーレによって無理矢理に堕天させられ、知恵の実を得てヒトのカタチに縛られた彼は、間違いなく精神的に弱体化した。

 

それは間違いなく心を得た影響であり、その点においてゼーレの策は成功したと言って良いだろう。

 

「レイちゃんは可愛いねぇ……」

「そうね」

「レイちゃんは素敵だねぇ……」

「そうね」

 

「……ねぇアスカ」

「……何、シンジ」

「今日は僕がご飯作るよ」

「じゃあ私洗濯しとくわね」

「私は」

「レイはサキエルに甘えてて」

「そうよ、それがアンタの仕事よレイ」

 

「む。アスカちゃん、シンジ君、あの個体には確かに疲労感を集積しているけど、僕達は全体的には元気だしそこまで気を使わなくても良いよ?」

「良いのよ。たまには家事手伝いする方が健康的でしょ?」

「サキエルが守ってくれてたお陰で家は無事だった訳だし、お礼も兼ねてね。……配給物資で作るから、カレーになるけど」

「……ふむ。そういう事ならお言葉に甘えようかな」

 

そう告げる『元気なサキエル』は、『疲れているサキエル』が膝に乗せたレイを撫で回しているのを苦笑と共に一瞥すると、自身も『疲労感担当』へと振り分けて、ソファで瞑目するのだった。

 

 

* * * * * *

 

 

「まーやセーンパイ♡」

「ひやっ!?」

「差し入れです。あっついですもんね」

 

そう言ってにっこりと笑う佐伯ルイに「びっくりするじゃない」と笑いかけるマヤ。

 

後輩が出来てから自分でも分からない心境の変化があったのか、随分と体調が良い彼女は、後輩の前では『作り笑い』ではない本当の笑顔を溢すまでに復調していた。

 

その原因はもちろん、佐伯ルイという擬態を果たしたサキエルがマヤの欠けまくった魂を必死こいて修復しているからに他ならない。

 

……そもそも、伊吹マヤという女性は、寂しさを埋める方法を知らずにボロボロと壊れ、赤木リツコに依存する形で外面を保っていた女性である。

 

要は似たもの同士の先輩後輩。闇の深い連中は技術開発部に集まるのだろうかと勘繰りたくなるが、そもそも前任の赤木ナオコ博士も病んでいたようなのでまじめにそうなのかもしれない。

 

だがまあ、テコ入れは出来ているのだからいいか、というのがサキエルの意識だ。幸い、オペレーター組だと日向と青葉の野郎コンビの魂は、人並みに欠けてはいるが元気そのもの。

 

青葉に関してはシンジと交流を持ち、音楽関係で盛り上がったりしており『ネルフで1番まともなスタッフ』とサキエルに認識されていたりする。

 

なんならルイスの方で休憩時間にギター系の話題で仲良くなっているので貴重な癒し枠認定まであるかもしれない。

 

一方の日向は、加持とミサトの復縁でしょぼくれてはいたものの、要はちょっと年上のナイスバディな女上司に惹かれていただけなので健全だ。青葉と可愛いアイドルの話なども交わしているので、ダメージは深刻ではない。

 

故にサキエルの課題は今のところ、マヤとリツコのメンタル調整に重点が置かれているというわけだ。

 

 

* * * * * *

 

 

さて、ではマヤが美少女後輩セラピーならリツコはどうしているのかといえば、仕事が忙しい関係でお家デートが主である。

 

というか、普通に同棲している。

 

「おかえり、りっちゃん。ご飯とお風呂、どっちも準備できてるよ」

「じゃあ、お風呂から頂こうかしら」

 

そんな会話と共にリツコを迎えるサキエルは、よく出来た良妻と言うべきだろう。

 

お風呂では背中を流して髪を洗い、軽くマッサージを施して、と甲斐甲斐しく世話を焼き。料理の方ではコーヒーばかり飲んでいるリツコの胃に優しいものを、ということで茶碗蒸しやカボチャの煮物、だし巻き卵など美味しくかつお腹に優しめな料理を手配する。

 

そんな世話を満喫し、食後の温かいお茶を啜るリツコは料理の片付けを終えて同じくお茶を啜るサキエルに対して、ふと疑問を口にした。

 

「ご馳走様。貴方と暮らすとダメ人間になっちゃいそうね……ところで、配給食料にこんなに色々と食材があったかしら?」

「被害の及んでいない地域で買い出ししてきてるからね。あと最近はジオフロントの空きスペースで加持君と畑を少々。ピラルクーの養殖池もあるんだよ?」

「……ジオフロントで何やってるのよ」

「食料自給率向上計画? 遺伝子もガッツリ弄って成長促進してるから結構良い感じだよ」

「遺伝子組み換え作物……私は忌避感は無いけれど、嫌がる子も居そうね?」

「マヤちゃんとかね。まぁ、そこは良い様に言えば良いんじゃないかな。『科学万能の時代の新技術!』みたいな」

「ふふふ、確かにマヤはそういうフレーズ好きそうだものね」

 

そう言って微笑むリツコはしかし、同時に科学者としての顔を覗かせる。

 

「で、どんな風に改造したの?」

「カボチャは普通に病害虫耐性付与。ピラルクーは成長ホルモン分泌を増加させて成長を早めて……あと凶暴だと面倒臭いからオキシトシン分泌を増やしてアドレナリン分泌を抑制して温厚に……」

「改造の域が予想以上だったのだけれど」

「やるならとことんやろうかと思ってね」

「餌は?」

「繁殖力を爆上げした金魚を隣の池で増やしてるからそれを餌に」

「金魚の餌は……?」

「池にLCLを流し込んで曝気したら藻がめっちゃ生えるんだよ。かぼちゃの水やりも薄めたLCLだね」

「ネルフ以外では不可能な手法ね」

「生命の源が手近で手に入るなら使わない理由がないよね……」

「レイのクローンもLCLに浮かべておけばそれだけで生きているものね」

「そうそう……LCL農法はありだと思う。真面目に」

「水耕栽培区画でも造ろうかしら」

「ジオフロントの自給自足化は真面目に真剣に取り組むべき課題だからね」

「現状、陸路を破壊された影響でVTOL輸送に頼っているものね」

「火山灰が止むまでは備蓄食料ばかりだったし、今後の使徒襲来も考えるとガチガチに引きこもるのも重要だからね」

 

そんな会話を交わすサキエルとリツコは、ネルフの今後について穏やかに語りつつ、食後のティータイムを終えると、どちらからともなく寝室に移動する。

 

やがて寝室の戸から漏れ聞こえる甘い声は、リツコの炎の様な女性性をサキエルが優しく受け止めてやっているが故のもの。

 

ストレスを抱えがちなリツコの身と心を癒やしてやるリツコ担当個体は、一切疲労の色を見せることなく、彼女の思う理想の伴侶として振る舞い続ける。

 

その代償に疲労感を一手に引き受けた個体が、レイを撫でくり回していたりするのは、ネルフ全体の為の尊い犠牲というべきだろう。




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