【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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あけましておめでとうございます。


昨日の敵は今日の友

復興途上の第3新東京市。ようやく交通インフラが復活し、陸路での輸送が可能となったこの町は、しかしそれでもどうしようもなく廃墟に近い。

 

無事なのは精々、サキエルが集中的に防衛したネルフスタッフの宿舎ぐらい。地上の建物は壊滅しており、集光塔が死んだせいでジオフロントも人工照明でボンヤリ薄暗い状態を保つのが精々だ。

 

故にいっそ、サキエルは開き直って、瓦礫の撤去以外の地上の復興は早々に諦めた。どうせエヴァを戦わせるなら広々戦わせた方がいいんじゃないのか、というのがその言い分だ。そして、サキエルがそれに伴い実行したのが、ジオフロントの充実であった。

 

N2リアクターで電力を生み出し、その排熱はボイラーに転用。『黒き月』の外殻にも補強を実施して、サンダルフォンの加熱とガギエルの冷却を活かして周囲の岩盤を地下深くに渡って硬化する。

 

などといった基本的な部分から、地上にあった宿舎のジオフロント内移設などの居住性面などにも手を回し、ピラルクー養殖などの食糧自給も考慮。

 

おまけに開き直ってエヴァ由来技術を転用した高度な医療設備——ヘイフリック限界の延長技術を用いた再生医療など——すらも備えた地下都市は、およそ完璧な『自己完結型都市』として改造されていた。

 

では、地上は何もしないのか……と言えば、そういう訳にも行かないのは事実。そこでサキエルが考えたのが、企業誘致————に見せかけた地盤固めと買収である。

 

日本重化学工業の新工場を建造費ネルフ持ちで招聘しつつ、日本重化学工業自体をネルフが買収し技術開発部に編入。メインミッションとしてジェットアローンの開発を行いつつ、エヴァ用の武装も開発する事でノウハウの共有を行い、開発力を強化。

 

当然工場を作ったは良いけど壊された、では困るので、敢えて導入したのは無人工場という発想だ。

 

ズバリ、『ちっさいロボがでっかいロボを作る』工場である。MAGIと同じ第7世代有機スーパーコンピュータによる完全統制された自動工場。そこで兵器を制作し、研究職の皆さんはジオフロントに引きこもっていただく寸法である。

 

サンダルフォン戦で得られた最大の戦訓はズバリ『地上は大変危ない』であろう。地震雷火事親父。どれも頑強な地下要塞に引き篭もれば無縁のものだ。

 

そして、そんな日本重化学工業の新工場を統括する最新コンピュータが今、予備の第二発令所に据え付けられて、ネルフスタッフにお披露目されていた。

 

「これが?」

「そう。これこそ我らが日本重化学工業、改めネルフ技術開発部第三課が作成した『三貴神』。赤い筐体がアマテラス、黄色がツクヨミ、青がスサノオ。この3機の人工知能による複合判断で様々な演算を行う————というのは赤木博士には釈迦に説法でしょうから、MAGIとの差異をば。三貴神は万能型のMAGIとは異なり、『巨大ロボットの運用』に特化したコンピュータシステムです。言うなれば軍事用ですな。その関係で3つの対立思考に関してもMAGIとは異なり男性的側面を有しています」

 

そう言って力説するのは、日本重化学工業代表を退き開発部長に降格したのち、色々あって現在ネルフ技術開発部第三課長に就任し、むしろ大好きな開発に関われたことで機嫌のいい時田シロウ。

 

ネルフとの確執も、サキエルがあれやこれやと根を回した結果、むしろ今では『スーパーロボットを作れる!』と好印象ですらあったりする。

 

そんな彼の紹介する三つの筐体は、MAGIの無骨な筐体とは異なり、パネルに炎や月、水の意匠がレリーフ加工で施されていたりと見栄えが良い。筐体の上に赤青黄のロボットフィギュアが決めポーズで据え付けられているのもあって、どうにも『ヒーローロボットの秘密基地にありそう』感が大きいスパコンになっている。

 

「……それで、男性的と言うと、どういう?」

「アマテラスが『熱情』ツクヨミが『根性』スサノオが『激情』を軸として演算しております」

「……えっと。それは違うモノなのかしら」

「一定の指向性がありつつも微妙に異なる方向性を持たせる事で、三つの心を一つに重ね、一つの正義を実現するのですよ!」

 

そう告げてグッと拳を握る時田は非常に自信有り気な雰囲気だが、その説明を受けているネルフスタッフの反応はそれぞれ異なる。

 

青葉や日向は『ロボットアニメみたいだなぁ』とちょっぴりテンションが高め。リツコとマヤは『やっぱり対立思考じゃないのでは……?』と困惑中。

 

チルドレンは三者三様で、シンジは年相応に『ちょっとカッコいいかも』と考え、レイは素直に『カッコいい』と好評価。アスカは子供っぽいなぁと感じていて興味はないが、テンションのほんのり上がっているシンジの姿に来るものがあったのか『シンジってどうも可愛いのよね』とお姉さん的なオーラを出している。

 

その一方で、ルイスと佐伯ルイとして同席しているサキエルは至って真面目な表情だ。

 

「……ルイス君。時田博士はこう言っておられるけれど……実際どうなの?」

「戦闘演算においてはかなり優秀かと。そもそもコンピュータとしてのスペックはMAGI同等なので、『凄まじく頭の良い熱血タイプ』『凄まじく頭の良いド根性タイプ』『凄まじく頭の良い激情家』の3人格ですからね」

「なるほど……」

「まぁ、戦闘特化型は伊達ではないですよ、本当に。……そうだ、時田博士。三貴神がエヴァンゲリオンのデータから作成した改修案を」

「ああ。そうですね。ではこちらをご覧頂きましょう!」

 

そう告げると共に、三貴神がネルフの大型ディスプレイに投影したのは、新デザインのエヴァンゲリオンだった。

 

「こちら、仮称『エヴァンゲリオンN型装備』です」

 

そこに表示されているのは、『装甲の少ない』エヴァ。肩のウェポンラックや腹部の装甲などが撤廃され、頭部の他に装甲が残るのはコアのある胸部や脛と肘から先のグローブやグリーブに当たる部分、そして死角となる背面部。本来は装甲の下に隠れて見えない黒いタイツの様な軽量伸縮装甲が露出したその姿は、『エヴァが脱いだ』と言っても過言ではない姿だ。

 

そんな『さっぱりした』エヴァのボディの中で、背面に担いだバックパックが、異様な雰囲気を醸し出している。

また、背に残された装甲板にはハードポイントが増設されており、そこに巨大な薙刀や日本刀の様な武装を担ぐその姿はさながら足軽だ。

 

「シャープな印象だけど……背中のコレは?」

「N2リアクターとバッテリーを搭載したバックパックですね。アンビリカルケーブルは非効率的です。エネルギー炉を搭載し、稼働時間を伸ばすのが合理的でしょう」

「……なるほど?」

「ついでに装甲を大幅削減しています。どうも『エヴァを拘束している』様な部分が多いと三貴神が判定したので」

「……」

「追加武装は、3機共通で使える大太刀型武装『ビゼンオサフネ』、複合長柄装備『刀野薙』ですね」

 

そう紹介された機体のスペックは、全スペックが従来の3割増しと見積もられた高性能品。

 

もちろん作戦課長のミサトは「コレが本当なら採用しない理由はないわね!」と気楽に喜んでいるが、リツコとしては迷いどころ。

 

何しろ高スペック化の原因が『拘束具を外したので強い』という点に起因するのだ。武装やエネルギーバックパックは優秀だが、エヴァの拘束を解いているという点がリツコをどうしても不安にさせてしまう。

 

だが、そんな彼女の肩に優しく手を置いたサキエルは、彼女の思念に直接言葉を掛けてその心配の無意味さを説いた。

 

『シンジ君達のシンクロ率は本気を出せば即座に拘束具を破壊するレベルだ。それなら拘束をある程度解いてエヴァのスペックを上げた方がいいだろう?』

 

そう告げられて思うのは、シンジ達の異様なシンクロ率。最近は乗った直後にプラグ深度が危険深度ギリギリまで即座に達して緊急ロックが起動するのがデフォルトとなっている彼らにとっては、確かに拘束具を吹き飛ばすのは訳のない事だ。

 

それならば、まぁ確かに動きの邪魔になる部分を減らす『三貴神』の案は悪くないと言えるだろう。

 

そう考えて『開発許可』を出したリツコは、MAGIに転送されたエヴァ側の改修案をリツコが担当し、武装面は時田が開発する形で同時進行を提案する。

 

それを時田が了承した事で、『三貴神』の戦闘センスのお披露目を終えたネルフスタッフ達は、各々自分の持ち場へと戻ることとなり、技術開発部第三課の顔合わせも兼ねた集まりは解散した。

 

だがそんな中で、時田とリツコ、そしてルイスは、別件の為に人気の無くなった第二発令所に居残っている。

 

その別件とは当然————ジェットアローンだ。

 

「時田博士。それで、ジェットアローンの進捗は?」

「三貴神をフル活用してシミュレートを繰り返し、設計は完成済みです。————こちらがN2リアクター搭載汎用無人決戦兵器、ジェットアローン2の諸元。もちろんカタログスペックですが、三貴神の推算値なのでほぼ実測値と同等でしょうな」

「N2リアクター出力1.5GW、体長40mの大型8脚歩行ロボット……完全に蜘蛛型なのね?」

「初めはケンタウロスっぽかったんですが手があれば作業は事足りますし、多脚にするなら無理に人型にする合理性は薄いですから。あと私、モビルアーマーやゾイドも好きでしてね」

「……そうなのね」

「ああ、女性には関心を持ちづらいジャンルですな。申し訳ない赤木博士。……で、このジェットアローンですが、水陸両用です。武装は内蔵型のプロトンビーム砲と前足に作業用も兼ねたプログレッシブブレード、各部に取り付けられたイオン放射装置による放電攻撃。そして対使徒武装の肝が全身に大電流を纏っての両腕のブレードによる高速タックル攻撃————名付けて超電磁スピン」

「回ってない様な……」

「あぁ、腕部ブレードは回せるのですよルイスさん。……まぁ私のロマンはさておき、過剰エネルギーによる一点飽和攻撃はプロトンビーム同様ATフィールドに対しても有効な筈です。必ず対使徒戦でもお役に立てるかと」

「問題は防御力だけれど……」

「一応通電タイプの電磁装甲は装備していますし、エヴァの装甲技術を転用できれば機体強度もそこそこと予想されています。基本の立ち回りはプロトンビームの引き撃ちですし、支援メカとしては優秀かと」

「他の利点は?」

「ペイロードに余裕があるのでエヴァ2機を乗せて走れます」

「その特徴が一番優秀じゃないかしら?」

「あとは……旧型、つまりヒト型のジェットアローンですが、エヴァ用武装のテスト用に2号機を建造予定です。当然核は不安定なのでリアクターはN2化しますし、例の1号機の反省点を活かした設計にする予定ですよ」

「なるほど……ではその方向性でジェットアローンは進めて貰おうかな。赤木博士から提案は?」

「幾つか思いついたから、エヴァ用の装甲技術と纏めてMAGIから三貴神に転送しておくわ」

「これはかたじけない」

 

ロボ好きマッドサイエンティスト、人外系マッドサイエンティスト、万能型マッドサイエンティストの3人によって行われた密談。

 

その果てに開発が始まったロボットと武装は、ネルフにとって間違いなく光明であり、同時に本格的にネルフ本部がゼーレの支配から逃れようとする第一歩。

 

“希望”を背負うスーパーロボットとしての活躍を期待される2タイプのジェットアローンは、ネルフの元で密かに建造される事となるのであった。

 


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