【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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ゼーレの陰謀によって投稿ミスをしてしまった……!


涙に沈む

打ち下ろされる鉄鎚の如き巨大な脚を掻い潜り、全てを蝕む猛毒の雨の中を突っ切って、ビゼンオサフネを振るうエヴァンゲリオン初号機。

 

3機の中でも最も『刀』の扱いに慣れたシンジの一撃は、強烈な冴えを以ってマトリエルに襲い掛かる。だがしかし、その一撃はマトリエルの噴き出した溶解液の弾丸によって迎撃され、それをATフィールドで受け止めた僅かな隙によって、斬撃は空を斬る。

 

それでもなお、その斬撃の余波がマトリエルの体表を浅く裂くが、再生能力を有する使徒を相手にかすり傷では意味がない。

 

長い4本脚に吊られるように胴をぶら下げるマトリエルの構造は、『胴体を逃がす』という点では素晴らしい性能を持つ。軽く脚の関節を動かせば、それだけで胴は振り子の様に大きく動き、あらゆる攻撃をひょいひょいと躱してしまうのだ。

 

加えて、その『歩幅の大きさ』もまた脅威。

 

胴体だけで軽く直径100m。脚の端から端まで数えれば1kmを超える巨大な体躯。1歩で即座に音の壁をブチ抜くその駆動は、超音速格闘を可能とするエヴァンゲリオンを以ってしてもなお、速い。

 

そんなマトリエルに対してエヴァが唯一優っているのが、頭数であった。

 

「だぁらっしゃああッッ!」

 

そんな裂帛の咆哮と共に、刀野薙を振り翳し、マトリエルの縄文杉の様に太い脚に切り掛かるのは、アスカの弐号機。

 

胴体を執拗に狙うシンジの猛攻によってどうしても脚に生じる隙に、レイとアスカが斬り込むというのがミサトの立てた作戦だ。

 

しかしその作戦の進捗は、あまりよろしくは無い。

 

「無闇矢鱈に硬いわねコイツ!」

「胴体はそうでもないけど! ちょこまか逃げて当たらないッ! ゼァッ! ダメかッ!」

 

移動と攻撃に使う事を見越した強靭な四肢。防御力は並だが大量の溶解液を散布し続ける胴体。

 

そんなマトリエルに対してATフィールドを中和しながら戦っても、通常武器では有効打をなかなか与えられないのだ。

 

だがしかし。

 

「ちぇすと」

 

そんな気の抜けた掛け声と共に、レイが放った斬撃は、マトリエルの硬く頑強な脚の表皮を切り裂いた。

 

「おぉッ!? ナイスレイ!」

「ATフィールドを武器にも展開して。刃じゃなくてフィールドで斬るのよ」

 

そうなんてことのない様に言うレイだが、そのATフィールドの自在な変形能力は『使徒』の次元である。しかしながら、レイはそれがシンジ達にも可能であると信じていた。

 

————そして実際、シンジ達はぎこちないながらも、武器にもATフィールドを纏わせて見せたのだ。

 

「なるほど……?」

「……確かに、MAGIの分析通り、コイツの溶解液がATフィールドによるものだっていうなら……! チェェリャアッ!!! 斬れる!!」

「こ、これなら……! ……。うーん……」

「ぬわっ!? 暴れまくっちゃってコイツ!」

「飛んだァ!?」

「逃げた!?」

「距離を取られた。……何か来る?」

「レイ! アスカ! フィールド全開ッ!」

「「了解ッ!」」

 

その直後、マトリエルは胴体の全ての眼から恐ろしい勢いで溶解液を噴出し、徐々に勢いを増すそれは最終的にビームとなって台地を深く抉り穿つ。そしてあろうことか、マトリエルは『回転した』。

 

4本脚をグッと捻り込んでの大回転。踏み切ると同時に脚をギュッと頭上に畳んだことで角速度を増大させたマトリエルはフィギュアスケートの如く恐ろしい速度で旋回し、溶解液のビームをめちゃくちゃに薙ぎ払う。

 

それにより切り刻まれた地面は崩落し、崩壊しながら海へと溶け落ち、エヴァの足場を奪っていく。範囲にしてマトリエルを中心とした10kmをズタズタに溶断した溶解液ビームは、全てを分解し、ガスとイオンに変換する。

 

そんな、ガリガリとATフィールドに喰らい付く超微細ATフィールドの奔流をどうにか受け切ったエヴァの後方を除き、山も、街も、全てが溶かされたその攻撃は、まさに『世界を洗う雨』。

 

だが、ATフィールドにはATフィールドで対抗できるというその原則は変わらない。

 

そして、レイが見出した『ATフィールドそのものによる攻撃』。そのアイデアを、より昇華させたのは、僅か14歳にして大学飛び級卒業を成し遂げた『努力する天才』のアスカだ。

 

躊躇いなくプラグ深度を固定しているリミッターを解除し、全力で弐号機とシンクロを行った彼女のシンクロ率は、267.3%というおぞましい数値を叩き出し、弐号機の4つの瞳とアスカの瞳が、共鳴するかの様に緑色に発光する。

 

「いくわよママ………飛べェッ!」

 

振るわれる刀野薙。其処から三日月型の光波として放たれたのは、アスカが刀身に纏わせていたATフィールド。

 

その剣呑さを察してか。大量の溶解液を面でぶち撒けることで『飛ぶ斬撃』を迎え打ったマトリエルだが、それすらも切り裂いたアスカの一撃は、減衰しつつもマトリエルの脚の一本を深々と切り裂き、マトリエルはバランスを大きく崩してよろめいた。

 

当然速度も鈍り、シンジとレイによる攻撃も当たり始め、マトリエルの身体には無数の太刀傷が生じていく。

 

それらを無理やり再生し、溶解液を噴出してエヴァに抗うマトリエルだが、レイとシンジもリミッターを解除しており、目を爛々と輝かせたエヴァによって徐々に徐々に劣勢へと追い込まれる。

 

だからこそ、だろう。

 

直後、マトリエルが行ったのは、空中への大跳躍だった。

 

無論、空中では身動きが取れなくなるのは当然。エヴァにそんな隙を晒せば、待つのは結局、落下のタイミングで最大威力を打ち込まれての殲滅だ。

 

だが、空中でも姿勢制御はできる。そして何より、突然の跳躍故に、その対空の間だけは、エヴァ3機にも必ず隙が生じる。

 

故に————全力で跳躍したマトリエルは天高くから、胴の真下にある『最大の目玉』を箱根へと向けて、全力の溶解液噴射を敢行する。

 

それは捨て身の一撃。S2機関が生み出す全エネルギーを溶解液の生成と放出に注ぎ込んだことで、ボロボロの四肢は捥げ飛び、千切れ、胴体だけの不恰好なUFOとなったマトリエルは、それでも最期の瞬間まで、第三新東京市へと溶解液をぶち撒ける。

 

そんな決死の一撃の結末は、零号機と弐号機の『ダブル上段蹴り』を踏み台に跳躍したエヴァ初号機による抜刀一閃。

 

胴体ごとコアを真っ二つに切り裂かれ、大きな水柱を上げて毒の海に落下したマトリエルは、その巨体を奇怪なオブジェクトとしながらも、彼の目的を成し遂げて見せた。

 

溶解した大地に掘り抜かれた水路。山を溶かし、大地を溶かし、マトリエルの放った最期の一撃は、熱海から箱根までの土地を直線状に消滅させて、箱根を海に沈めてしまった。

 

その一撃に耐えたのは、サキエルが必死でATフィールドを展開したことで守られた黒き月の外殻と、その上に乗った第3新東京市のみ。

 

上半分を露出させられた黒き月は直径15kmの巨大な姿を毒の海に沈められ、周囲の地形は絶望的なまでに『見晴らしよく』変えられてしまった。

 

それが意味するのは、絶望的な防衛戦。これだけ露骨に『掘り返された』ならば、もはや使徒はなんの迷いもなく直接第3新東京市を狙いに来るだろう。

 

海からも空からもアクセス出来る、使徒にとって最高な状態に持ち込まれた事で、サキエルは頭を抱え、現場で戦っていたチルドレンや、指揮をしていたミサト達ネルフスタッフも言葉を失うが、誰もそれを責めようは無い。

 

人類の絶対防衛線はこの日、第9使徒マトリエルが天から降らせた滅びの雨による『大洪水』によって完全に海へと溶け落ち、相模湾と駿河湾が繋がり伊豆半島が島と化した。

 

大量のサキエルが溢れ出す毒の海を堰き止め、海に没したマトリエルの残骸を喰らいながら増殖しつつ海の電気分解という無茶を行なって流出金属を強引に回収した事で人類絶滅は回避されたものの、人類が失ったものはあまりに甚大。

 

使徒の侵攻に晒され続けるネルフは、真の意味で丸裸にされ、海からも空からも使徒が直接本部を狙い得る最悪の状態へと落とされた。

 

同時に、サンダルフォンとマトリエルが立て続けに齎した狂気的な被害は遂に、日本政府と国民に、苦渋の決断を迫らせる。

 

 

————広域関東圏の放棄。

 

 

迫り来る使徒から国民を守るべく、首都を札幌に遷都し、大規模な疎開を強制的に推し進める。

 

戦略自衛隊を用いて『国民を武力で脅迫』してまで敢行された大疎開は、ネルフ本部を完全に人類から孤立させた。

 

物資は空輸と自力生産分のみ。防衛機能は壊滅状態。そんなネルフにとって、もはやサキエルに依存しないという選択肢は存在しない。

 

マトリエルという巨大な使徒を喰らい、一層増殖したサキエルの群れ。もはや彼らとエヴァだけが、世界の最前線を維持していた。

 




ほぼ最下位ですが二次創作累計ランキングにめり込みました〜

お祝いとお年玉にファンアートか感想をください(貪欲な壺)

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