【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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To be or not to be, that is the question.

「ヤッホー、私はフォースチルドレン。真希波・マリ・イラストリアス。ヨロシクね、ネルフの……えーっと、お姫ちんと、ワンコくんと、パイセンちゃんで良いかにゃ?」

「僕はフィフスチルドレン。渚カヲル。……会いたかったよ、碇シンジくん」

 

ネルフの第一発令所。そこで行われたのは、チルドレン同士の顔合わせ。

 

だが、その会話はといえば、フォースとフィフスの個性的な挨拶のせいで、奇妙な沈黙が流れている。

 

そんな中でいち早く再起動したのは、ツッコミが板に付いてきたアスカであった。

 

「誰がお姫ちんよ! アタシにはアスカって名前があるし、コイツはシンジでそっちはレイよ! あとフィフスはアタシのシンジに近すぎ! 両手で手を取ってんじゃないわよ! アンタそっちの趣味なの!?」

「にゃはは。面白いね、お姫ちん。……ま、流石にちょっぴ、からかい過ぎちゃったかもにゃー。改めてヨロシク、アスカ姫」

「姫じゃないっつってんでしょ!」

 

カラカラと笑う赤っぽい茶髪の眼鏡っ子こと、真希波マリ。明らかにお調子者らしき彼女に対し、その隣に立つ白髪赤目の少年『渚カヲル』はといえば、どこかフワフワした雰囲気の天然っぽい少年だ。

 

「ねぇ、そっちの趣味ってどっちの趣味だい?」

「ん? そりゃあカヲル。あんたがホモって事じゃん? 同性愛なんじゃないのかって言われてんの。ね、アスカ姫?」

「ふぅん。まぁ僕はシンジくんには好意を覚えて居る。そうかも知れないね」

「ゲェ!? アタシのシンジはやんないわよ!」

「君の?」

「そうよ! アタシの彼氏!」

「にゃんと。カヲル、振られちゃったにゃー」

「あんたのその猫語もムカつくわねマリ!」

「ちょっとー、カヲルの所為で私に飛び火したじゃん」

「そうなのかい? それは申し訳ないね」

 

わいのわいのと騒ぐコミュ力の高い外国組。それに対して、純日本組なシンジとレイはといえば、会話に入るタイミングを失ってか物静かだ。

 

まぁシンジの場合は、アスカが『アタシの!』と抱き寄せたせいでアスカの胸元に埋まっているというのが物静かな原因なのかも知れないが。

 

だが、そんな彼らも、徐々に会話の渦に巻き込まれる形でコミュニケーションに参加することとなる。

 

「良いにゃ良いにゃ〜。ねぇねぇシンジ君。あとでアスカ姫のおっぱい枕代わってくんないかにゃ?」

「……えっと、アスカは僕の彼女だから嫌です」

「カーッ! あつあつだにゃ〜! じゃあほら、私とシンジ君とアスカ姫で付き合えば万事解け————ブハァ!?」

「あんたバカァ!? 何とんでもないこと言ってんのよ!」

 

そんな風にギャアギャアと騒ぐアスカ&シンジカップルとマリ。その一方で、レイとカヲルは、不思議ちゃん同士の謎の共鳴を起こしてか、言葉少なに挨拶を交わす。

 

「渚君……よろしく」

「ん? ああ。綾波さん。……よろしく」

「……貴方と私は同じね」

「そうだね」

「何を望むの?」

「まだ何も」

「……そう」

「うん」

 

各々が、各々なりにある程度打ち解けた後、顔合わせは済んだだろうとチルドレン達に割って入ったのは見慣れない黒服。

 

ゼーレの差配で送り込まれた、マリとカヲルの護衛という事になっているスタッフだ。

 

そんな彼らに連れられて立ち去る2人は「ばいばいぶー、って古い?」「また後で」と個性的な別れの挨拶を行いつつ立ち去って行き、残されたシンジ達3人も、現れたサキエルに連れられて帰宅する。

 

今日はあくまで顔合わせという事なのか、短く終わらせられたその邂逅は、しかしそれでも、子供達にとっては中々の『大事件』だったと言えるだろう。

 

 

* * * * * *

 

 

「ねぇ、アンタたち、アイツらどう思った?」

「真希波さんはATフィールドが思いっきりこっちを警戒してたね」

「そうね。でも分かり易い。何かゼーレに言われて来てるのね、あの子」

「カヲル君は……サキエルっぽい感じしたよね」

「あの子は私と同じ。サキエルとも同じ」

「完全な魂って奴ね。……じゃあ使徒じゃん」

「身体は人間。多分魂だけ。……アダム?」

「あー。……レイはリリスだっけ?」

「ええ。似た感じがする」

「そっか。まぁでもカヲルの方は普通にいい奴っぽいわよね。ホモっぽくもあるけど」

「アレは同性愛というか……なんか一方的に友情を懐かれてる感じ?」

「ああ、それはそうかも。ワンコって言うならアイツの方が犬っぽかったわよね」

「真希波さんは猫っぽかったね……」

「しかも借りて来た猫ね。その内被った猫が取れたら普通に喋るんじゃない?」

 

そんな風に、今日出会った新人2人を評するシンジ達は、ネルフの休憩所でジュース片手に雑談に興じている真っ最中。

 

話題は当然ながらカヲルとマリについてで、シンジ達は先程の邂逅で探った2人の内面を、あれやこれやと詮索していた。

 

「そういえば人造人間枠がカヲルで、改造人間枠がマリなのかしらね」

「超人は前提なんだ?」

「いや、シンジ。このタイミングで『発見しました〜』なんて言ってる癖に妙に場慣れしてるあの感じ、間違いなく何かあるわよ」

「確かに……」

「……シンクロすれば判る?」

「かもね。……次会ったら3人掛かりでやっちゃう?」

「……やっちゃおっか」

「賛成」

 

そんな風に『計画』を立てるシンジ達は楽しげで、新たな同年代との出会いを彼らなりに楽しんでいるのは間違いない。

 

だが、それはあくまで、彼らから見た場合の事だ。

 

 

* * * * * *

 

 

「爺さん連中が『懐柔しろ〜』とか言ってたけどこれ無理なんじゃないかにゃ……? なんか目ん玉ピカピカしてたし」

 

そう言って、『うにゃあ〜!』と頭を抱えているのは真希波マリ。ゼーレの手配したスタッフにカヲルと共用のマンションの一室へと案内された彼女は、そこに監視カメラや盗聴器の類がない事を確認した後、盛大にため息を吐いてカヲルに愚痴っていた。

 

「ヒトとは本来第18使徒リリン……それに至ることが老人達の目的な訳だけど……彼らは既に目覚めているのだろうね。僕の事も察したんじゃないかな?」

「ゲェ!? マジ?」

「マジ……?」

 

煽りではなく素で『意味がわかりません』という顔をするカヲルに、『そういえばこの子最終調整直後とか言ってたっけ』と目の前の少年が培養液から出たばかりな事を思い出したマリは、ため息と共に補足する。

 

「本当かって聞いてんの」

「ああ。本当だよ。ATフィールドに触れて来た感触があったから。……君も触れられていたんじゃないのかい?」

「いや、私人間だから。そういうスーパーパワーとか無いから」

「17年間16歳をやっているのは充分スーパーパワーなんじゃないかい?」

「そりゃあ私じゃなくって爺さんのパワーじゃん!?」

「……それもそうか」

 

『人間はATフィールドの感知が出来ないんだったね』と思い出した様に呟くカヲルはどこかズレているというか、天然さんだ。

 

「全く……ところでさ、さっき黒服が『他の連中と連絡が〜』とか言ってたし、私達消されたりしないかにゃ……?」

「流石に無いんじゃあないかな。……黒服は消されてるんだろうけれど。そうだろう、兄さん」

「兄さん?」

 

マリが首を傾げると同時、マリの背後で気配を絶っていたサキエルが、ATフィールドを解除してカヲルの呼びかけに応じた。

 

「弟であり父でもある君に兄さんと呼ばれるのは不思議な感覚だねタブリス」

「ヌ゛ォェヴァアア゛ァ゛!?!!?」

 

咆哮と共に反射的に振り返り、こっそり持ち込んでいたダブルデリンジャーを袖から振り出して、発砲。

 

流れる様な動作で背後に立つサキエルに向けて2発ブッ放したマリの腕前は、胸のど真ん中めがけて散弾を連射するという中々殺意の高いもの。

 

しかし、サキエルの戦艦の装甲より頑強な柔肌を相手に、バードショットでは分が悪い。ぷるんとサキエルのBカップを波うたせるに留まった。

 

「びっくりした。いきなりどうしたんだいマリ」

「すまない。驚かせたかなマリちゃん?」

「な、なな、なんなのアンタ!?!!?」

「ゼーレから聞いているんじゃ無いかな? 僕が第3使徒のサキエルだ」

「おや? 兄さんは堕天してサマエルになったはずじゃなかったかな?」

「ややこしいからサキエルで通しているんだよ、カヲル君。君がアダムでありタブリスであるように」

 

そう言って笑うサキエルは明らかにこの場の会話の流れを掌握しており、衝撃的な登場風景は交渉の面で確かなアドバンテージとなっている。

 

そして、優位性を逃す事なく、サキエルは動揺しているマリの心を覗き込み、その素性を解析して『興味深いが脅威度は低い』と判断すると、意識をカヲルに集中させる。

 

一方で、サキエルの巨大で完全な魂に触れられたマリはといえば、突如襲いくる『圧倒的な存在の胸に抱かれる安心感』と直前までの緊張感のギャップから、交感神経のバランスを崩して気絶してしまった。

 

その身体を優しく抱きとめたサキエルと、柔和な微笑みで向かい合うカヲル。

 

先程マリが慌てて立ち上がった後の椅子に、マリを優しく膝抱きにしてサキエルが座れば、カヲルはそれと同時に口を開いた。

 

「老人達にとって僕達は本命じゃあない」

「いきなりな話題だね」

「兄さんが聞きたいかなと思ったんだけれど」

「まぁそうだね。聞かせてくれるならぜひ聞かせてもらおうかな」

「本命はエヴァだよ。3号機と4号機には試作型人造S2機関と使徒が組み込まれているんだ」

 

そう事も無げに告げるカヲルのATフィールドには嘘の色はなく、優しい微笑みにも影はない。

 

だが、その内容は、ゼーレによって送り込まれたはずのカヲルの口から語られていい内容ではなかった。

 

「……それ、僕に教えて良いのかい?」

「老人達には止められていたよ。でも彼らは僕が話す事を予想している筈だ」

「情報を漏らされようが関係ない————となれば、タブリスとマリちゃん諸共、というわけか」

「そう。老人達は時計の針を動かすつもりだ。『時計の針は元には戻らない。だが、自らの手で進めることはできる』というのが彼らの考えだろうね」

「ネルフが準備を整えるより早く、使徒を送り込む、と?」

「そうさ」

「……エヴァを送り込むだけなら、君達をチルドレンとして送り込む意味が無いと思うんだけれど」

 

そう問いかけるサキエルの疑問は尤もだ。エヴァと使徒のキメラを暴れさせるなら、パイロットは必要ないのだから。

 

「僕は生贄だよ。アダムの構成要素を揃え、使徒を暴走させる為のね。先んじて送り込んだ僕と、兄さんが食べたアダムの残滓。そしてリリスの魂と、その肉体。役者は充分に揃っているんだ」

「ならエヴァを受け取るより先に撃墜すれば……」

「ゼーレの匙加減1つでS2機関の暴走を起こして超広範囲をディラックの海に引き摺り込む仕掛けになっているからね。やめたほうがいいよ」

「……つまり?」

「君たちは正攻法で使徒を打ち破らないといけない。ゼーレがディラックの海に落とす事を躊躇う唯一の場所はこの黒き月、というわけさ」

「なるほど。ちなみにマリちゃんはなんで此処に?」

「彼女は兄さんの代わりだよ。人間の身体をエヴァンゲリオンにしたと言えば判るかな」

「エヴァの素体の要領で、というわけか。なるほど……それで?」

「ん?」

 

『まだ肝心な事を聞いていない』と瞳で語るかのようにジッとカヲルを見つめるサキエルは、言葉として問いを投げる。

 

「タブリス。君自身の目的は何だい? 仮にもアダム、仮にも『自由意思』の天使タブリス。ゼーレの老人の意図に乗せられるだけではないだろうに」

 

使徒タブリス。あらゆる束縛を意に介さない、自由の使徒。電子的な鍵であろうと機械的な鍵であろうと単なる閂であろうと、彼が門を開く事を望めば開き、ATフィールドを持たぬもの、心を閉ざしたものに対して圧倒的な優位を誇る『最後の使徒』。

 

そんな彼が、何の目的もなく『ゼーレに言われたから来た』というのは、サキエルからすれば笑えない冗談だ。

 

それをカヲル自身も理解しているが故に、彼は実に呆気なく、笑顔で『ネタをバラす』。

 

「あぁ、そうだね。僕には目的がある。……この世界に、永遠に在り続けるべきか否かを見極めたいんだ」

「……永遠の死と永遠の生は等価値故に?」

「ふふふ。兄弟とは良いものだね。リリンが群体でも分体でもなく『個の群れ』を選んだ理由が良く解るよ。……そう。アダムの肉体が失われている以上、僕には永遠に生きるか、死んで永遠となるかの2つの道しかないんだ。……老人達の当初の予定では、リリスをアダムと誤認させるつもりだったようだけれど、流石にどんな使徒でも『黒き月はリリンのものだ』ということぐらい判る」

「……そうだね。そこは騙しようがない。僕達は白き月の子だ」

「そう。だから僕は帰るべき身体を失った事を知った時点で、死ぬかどうか迷った。————けれど、ただ死ぬのも癪だったからね。生きるべきか死ぬべきか、自身の目で見極めることにしたのさ」

 

そう告げて。カヲルは微笑みではなく、満面の笑みを浮かべて、サキエルに告げる。

 

「サキエル。君が永遠の生の価値を作り上げられたなら、僕は生き続ける。だけれど、そうでないなら僕は死を選ぶ。死んで、補完計画のトリガーを引こう」

「最悪な応援ありがとう。……僕は永遠に生きる。滅びなど真っ平御免だ。だから、君にも永遠に生きてもらうよ、タブリス」

「それならまずは兄弟としての親しみを教えて欲しいね」

「そうだね。確かにそうだ」

 

 

————カヲル。家に帰るよ。

 

 

そう告げて、マリを片手で抱き上げながらカヲルの手を取ったサキエルは、別端末を駆り出してチルドレン宅の隣室との間の壁をブチ抜くと、超特急でリフォームに取り掛かる。

 

新たな同居人を抱え込み、無茶な試練を背負ったサキエル。そのストレス係数は疲労担当が2名に増員してレイのベッドで寝込み、レイが喜んでその間に挟まるほど高いが、既にゼーレが計画を発動させた以上、サキエルには抗う以外の選択肢は残されていない。

 

脳裏に火花を散らし、神経経路に稲妻を走らせるサキエルの思考回路は、ただひたすらに、勝利に向けて演算を開始しており、戦いに向けての準備は、今この瞬間もサキエルの無数の肉体によって遂行されている。

 

だがそれでもなおサキエルは守るべき子供達に含めたカヲルとマリに笑顔を向けて、優しく告げた。

 

「今日は腕によりをかけて、ご馳走を作らないとね」




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