寝室はどうにかしたが、水回りやキッチンの統廃合などを超特急でリフォーム中なチルドレン宅。
その都合で、チルドレン達は帰宅前にネルフで入浴を済ませる運びとなった。
「気が狂いそうにゃ……」
「いやなんでよ」
「ネルフの大浴場。嫌なの?」
「いや、お風呂は素敵だと思うけどさー。めっちゃ広いし世界の大温泉って感じ? でも、同じ顔の子供50人と一緒に入浴は、ちょっと、なれないにゃ。いや、可愛いんだけどね? ちょっと多いかなって」
そう言いながら、湯船に浸かるマリ。その周囲に同じく湯船に浸かっているのは『同じ顔の50人』ことレイシリーズの001〜025と051〜075だ。本日休日なグループと、早朝勤務だったグループの入浴タイムがマリ達と重複したのである。
体躯は5歳児でも、思考性能は現在のレイに相当する彼女らは、非常にお行儀良く入浴している。
が、それでも怖いものは怖い。いくら美少女ならぬ美幼女でも50人同じ顔なのは根源的な恐怖が湧き上がってくるのだ。
だがそんなマリに対して、アスカの返答は無情だった。
「マリ。新入りのアンタにネルフで生きる上で重要な事を教えといたげるわ」
「ほほーう。アスカ姫の豆知識かにゃ?」
「同じ顔の50人や100人程度で驚いてたら死ぬわよ」
「へ?」
真剣な声色でそう言われた直後、浴場のドアが開き、ゾロゾロと団体が入ってくる。
「やあ、レイちゃん。妹達とお風呂かい? アスカちゃんとマリちゃんも」
「サキエル、アンタ良いとこに来たわね」
お風呂休憩らしい大量のサキエル軍団。同じ顔どころか同じ意識を持つ群体存在を見たマリは、アスカの言う意図を察して溜息を吐く。
「お爺ちゃんたち、何でこんな連中に勝てると思っちゃったのかなー」
「強いて言うなら、彼等の目は片っ端から塞いであるからじゃないかな」
そう告げるサキエルの声に、マリはヤレヤレと肩をすくめて、疑問を投げる。
「開き直って質問するんだけど、私とカヲルにくっついて来た黒服って死んだの?」
「一般人が迷い込んでいたから丁重にお帰り頂いただけだよ。『普通のサラリーマン』なのにこんな所に来るなんてね」
「記憶処理か。まぁ、温情がある方かにゃー」
「まぁ、控えめに言ってスパイだからね彼ら」
「フロント企業で雇ってあるから会いたい人がいるなら会えるけど、どうするマリちゃん?」
「いや、死んでたら可哀想だなぁってだけ。会いたいとかじゃないかなー」
————私達の監視でもあったし、スッキリした部分もあるかもね。
そう告げて、眉間を揉むマリに対して、サキエルはふと思い出したかのように、話を投げる。
「そういえば、マリちゃんは明日、初号機を使ってシンクロテストだから、朝9時に初号機ケイジまで来てね」
「ん? 弐号機じゃないの? 先行量産タイプの」
「アタシの弐号機に勝手に乗られるのはイヤ!」
「と言うわけなので、相乗りじゃ無い限りは弐号機には乗れない」
「アスカ姫の言いなりって、パイロットの裁量権デカすぎじゃん?」
「最悪、テスト用の模擬体使えばいいから任意前提で聞いただけだよ。で、結果的に、初号機にはマリちゃん、零号機にはカヲルが乗ってテストすることになっただけ。まあカヲルはシンクロ率とかどうにでもなるけどね」
「ほほーん。……それを言ったら私も割と何でも乗れるはずじゃん? 伊達に改造人間じゃないし」
「ま、それはそうなんだけどね。粋な計らい、とでも思って欲しい」
「じゃあ乗ったらいい事あるってことかにゃー?」
「そうなるね」
そんな風に会話を交わすうちに慣れてきたのか、マリはペタペタとサキエルの身体に触れて、おもむろに乳を揉み始めた。
それに対してサキエルが特に嫌がりも咎めもしないせいか揉み方がいやらしくなっていくあたりは、マリなりの『確認』なのだろう。
サキエルの肉体は胸が控えめな女性とも、胸のある男性とも取れる不思議なバランスで構成されており、背中から見れば男、正面から見れば女に見える。肩周りや尻の形、しっかりとした背筋はどちらかといえば男性的。だがその間にある胸から腰にかけては女性的。服のチョイスでどちらにも化けられるその姿は、サキエルの『父親役も母親役もこなす』という肉体形成の指針によるものだ。子供を負う背中は男性的で、子供を抱く正面は女性的、とも言えるかもしれない。
そんなサキエルの胸をモミモミと揉むマリ。『どこまでやったら怒られるのか』という、ちょっかいをかける事で親密性を確かめるスタイルが、彼女なりの距離感の掴み方なのだろう。
グイグイ突っ込んでいって、怒られたらちょっと引く、というスタイルは『ジリジリ距離を詰めていく』シンジとは真逆のタイプ。実は何だかんだ繊細なアスカとも異なる純粋な押せ押せタイプと言えよう。
が、サキエルは基本的に怒らない。なので、マリとしては引きどころを見失ったまま、ズルズルと惰性で行為を続ける事になるのだが————そんな彼女は、『自分自身の胸』が何者かにむんずと掴まれた事で「ゔにゃあ!?」と叫び声をあげてサキエルへのセクハラを停止した。
そんな彼女の胸をぐにぐにと揉むのは、密かにマリの近くにやってきていた綾波クローンの
「ま、マリに何か御用かにゃー……?」
「おっぱい欲しい」
「え゛!?」
「大きいからたくさん出る?」
「出ないよ!?」
「でないの……」
「でないのね……」
「いや何でレイパイセンも残念がってるのかにゃ!?」
「マリ、レイも妹もおっぱい星人だから油断してると吸われるわよ」
「私の魅惑のFカップ程じゃないけどアスカ姫も結構あるじゃん! 絶対Eじゃん! なんで私だけ!? というかレイパイセンはお手元に柔らかそうなCカップがあるじゃん!」
「手元って、レイは性欲じゃなくて食欲で狙ってきてんのよ、マリ。だからレイはアタシからは出ないの知ってるし、妹もレイからコピーした記憶でそれは知ってるから興味ないってわけ。ミサトとリツコ、それにマヤも同じ。でもアンタは今日来たばっかだから————あ」
「ぎにゃあああぁぁぁ!?」
「こらこらヒトミちゃん。ダメだよ。良い子だから僕ので我慢しようねえ」
混沌とし始める女風呂は、女が3人どころじゃなく犇めいているせいで姦しさが頂点に達している。
だがサキエルが大量に入浴している事からも判るように、この場所は技術開発部二課——サキエルだらけのペーパー部署——に設けられた入浴施設だ。
その喧騒が外部の迷惑になることはない。
* * * * * *
だが、風呂の内部。
間仕切り用の壁を隔てた男風呂に浸かるシンジとカヲルは、しっかりと壁の向こうの騒ぎを把握していた。
「ふふ、女性達は楽しそうだねシンジくん。————胸を揉むことや吸う事は楽しい行為なのだろうか?」
「いや。それは色々短絡的だよカヲルくん……うーん。いやでもまぁ……楽しいかもしれない」
カヲルのふとした疑問に対し、少し頬を染めてそんなことを呟くシンジ。言われて己を振り返った結果、アスカとの逢瀬を楽しんでいる身で『楽しくない』と答えるのは違う気がしたのだろう。
歳の近い男子同士の関係性、というのは何気にシンジにとっては初であり、少しばかり胸襟を開いている面もある。
要は、カヲルと友達になりたいので、男子らしくソフトな下ネタトークを振ってみた形だ。
だが、それに対するカヲルの返答は、天然気味だった。
「じゃあシンジくんが僕のを揉んだり、僕が他人の胸を揉むと楽しいということかい?」
「あ、いや。うーん。……あ! 恋人同士! そう、恋人同士でね? 友人や知人じゃ絶対ダメだよカヲルくん。例外として、女の子同士だと許される雰囲気があるだけで、僕らは完全アウトだから。男同士もアウト」
「なるほど。シンジくんは物知りだね」
「物知りというか、うーん。男の子は基本的に女の子に触られるのはいいけど触るのはダメ、って思って行動しとくと良いかも。例外は恋人関係だったり、相手を助けるために必要な時ぐらいかな」
ネルフに来る前のいじめられっ子経験値からの回答だが、男性主観では間違いではない。なんなら見るのもダメなのではという、女性からの『関わってくるなオーラ』というのがあるのだ。
まぁ、カヲルは顔も声も良いから大丈夫じゃないか? という説もあるが、『イケメンなら良いってもんでも無いのよ』という可愛くて美人な恋人からのありがたいお言葉もあるので、シンジは無難な選択肢を選んでおいた。
「なるほどなぁ……で、その恋人というのはどうやったら良いんだい? 惣流さんと付き合ってるんだろう?」
「難しいなぁ。お互いに好きになって告白したら、かな。兄弟姉妹でも友人でも親子でもない『約束』で出来た関係が恋人だと思う」
「難しいね。好きというのは、僕がシンジくんに好感を抱いているのとは別なのかい?」
「うーん。……男同士の秘密なんだけどさ」
「ほほう」
「男だと正直、性欲と恋が混ざりがちな気がする……でも、その、『この人との子供が欲しい』とか『ずっと一緒にいたい』とかが恋心じゃないかな……?」
「なるほど。つまりシンジくんはエロい?」
「その結論はおかしいよカヲルくん。……というかエロいのは仕方ないだろ、中学生だし僕。人並みにはお猿さんな自信があるよ……」
そう告げるシンジだが、まぁ実際問題、アスカと付き合う以前からアスカに懸想して『オカズ』にしていたりと普通の中学生程度のエロさはある。
綾波に関しては、どうもそういう気が起きないのは妹だからだろうが、アスカ来日以前はリツコやミサトの胸元が気になったり、サキエルのおっぱいをオカズにしたりと割と節操がなかった点も中学生らしさ……である筈だ。
あとはヤングエースをこっそり買ったりもしている。
そう明かすシンジの話を興味深げに聞いたカヲルは、しばらく反芻した後に呟いた。
「なるほどねぇ。僕に恋は難しいかもだ。シンジくんの赤ちゃんを産んでみたい気はするけどね」
「……カヲル君って女の子になりたかったりするの?」
「ん? いや、そうでもない……なんと言おうかな。僕は使徒なんだよ。アダムの転生体、タブリスだ」
「うん」
「で、アダムとして子供を沢山作った事はあるけど、人間の女性が行う子供作りとはまた少し違う筈だ。とはいえシンジくんと僕の子供というのは興味がある。そういう感覚かな」
「あぁ。……うーん。サキエルと一緒なのかな? サキエルも男にも女にもなれるみたいだし」
「そうだね。本来使徒に性別はないよ。ただ僕は……綾波さんと同じで肉体はヒトだから、それに引っ張られる面はある」
そう告げつつ湯船の中の自分の股間を見下ろすカヲルと、釣られて見下ろすシンジ。
ナニとは言わないが、カヲルのはシンジの持ち物と比べると大きかった。西洋の血を感じる出来栄えだ。
「あー。なるほど……そういえば、好きな女の子とか逆にいないの?」
「うーん。マリは女性が好きみたいだし、綾波さんはリリスだから気まずいし、惣流さんはシンジくんの彼女だろう?」
「言われてみれば。……というかマリさんってやっぱり女の子が好きなの?」
「うん。綾波さんや惣流さんを見た時のATフィールド、見ただろう?」
「めっちゃテンション上がってたね。なるほど、美少女が好きなんだ……」
「そうなる。シンジくんにも好意的だけれど、波長は女性に対してのそれより穏やかだ」
「……僕、なんかマリさんに会ったことある気がするんだよねそういえば」
「んー。どうなんだろう。僕も彼女の過去には詳しくないね。ただシンジくんを見る彼女の目が優しいのは判るよ」
「そっか」
なんでだろうね、と首を傾げあう2人。のんびりと入浴を行うチルドレン男子2人のお風呂タイムは、女子のそれと比べて穏やかだった。
「ところでカヲルくんって女の子の好みのタイプとかあるの?」
「うーん。思いつかないな……。ああ、シンジくんはどうなんだい?」
「アスカ」
「惚気るねぇ」
そう告げて苦笑するカヲルは、リリスの使徒リリンとして半ば覚醒しているシンジとの会話を、心底楽しんでいる。
近くて遠いその生き物は、カヲルにとってはどこまでも新鮮な存在だった。
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