【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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類は友を呼ぶ

「マリ、調子はどうかな?」

「んー、何気にちゃんとしたエヴァは初乗りだからにゃー、ちょっと緊張してるかも」

 

ピンク色の専用プラグスーツを着込み、エントリープラグの中に座るマリ。

 

その表情は、自称する通り少し硬い。

 

だが、それとは裏腹にそのシンクロ率は良好だ。

 

「シンジくんの設定のままポンと乗せても40%か……ピンチヒッターにはアリだね」

「ふふーん、私ってば、できる女だからにゃあ」

「ちなみに感想は?」

「ん〜。ワンコくんの匂いがする? まぁシンクロパターンを脳が錯覚してるだけとは思うけどにゃあ。アスカ姫、今度初号機乗ったら? 濃厚ワンコ君フレーバー配合だよーぅ?」

「うっさいわバカマリ!」

「にゃーん、姫がこわ〜い」

 

慣れてきたのか軽口を叩き、アスカをイジってみせるマリ。緊張が解れた瞬間にふざけ始めるあたり、その根性はなかなかの傑物と言える。

 

だが、シンクロパターンを再起動し、マリのパターンを当てはめたその瞬間、プラグ深度が一気に下がったことで、マリは勢いよくつんのめった。

 

「ぎにゃぁ……いてて」

「ふむふむ。自分のパターンだと131.7%か。本来でいえば偉業なんだけど……りっちゃんはどう思う?」

「まぁ確かに最近慣れてきたけど、3桁はやはりすごいことよ? 興味深いデータも得られていることだしね」

「うーん……うん? お? おっ!?」

「……どうしたんだいマリちゃん」

「いや……うん。確かにこれはご褒美かもね。懐かしいこの感じ」

 

そう呟いて、目を閉じて微笑むマリは、精神世界に没入し、シンクロに集中する。

 

その先に確かに存在する『よく知る2人』は、ゼーレの走狗へと成り果てたマリにとっては、平穏な過去の象徴なのだから。

 

 

* * * * * *

 

 

大きめのテーブル。無駄に高級なデスクチェア。乱雑に積まれたレポートと、研究用ラットのケージ。

 

その場所にいるのは、懐かしい顔触ればかり。

 

六分儀ゲンドウ、碇ユイ、そしてマリ自身。京都大学の生物工学部で日々を過ごした、「10年に1人の天才3人組」だ。

 

31歳でポスドクのゲンドウ、21歳で4年生のユイ、16歳で飛び級入学のマリという年齢差の大きい関係でありながら、知能指数の近さゆえに、この3人は仲が良かった。

 

その関係性はユイを巡る変則的な三角関係だったとはいえ、ゲンドウとマリの仲も決して悪くはなかったのだ。

 

「うん。懐かしいね。ユイ先輩、ゲンドウ君」

「ああ」

「あれ、ゲンドウくん昔みたいに『ゲンドウさん、だ』とか訂正しないのかにゃ?」

「……俺もそこまで狭量ではない」

「あはは、マリちゃん似てる似てる」

「まじか。……『問題ない、全てはコントのシナリオ通りに。二〇〇〇(フタマルマルマル)より作戦開始。総員集合』」

「ちょっと、ふふっ、マリちゃん、ズルいわよ、んふッ、ふふふ、ひーッ、お腹痛い、ふふふひっ」

「ユイ……」

「ごめんごめんゲンドウさん。そんな寂しそうな顔しないで」

「あー……やっぱりゲンドウ君ってワンコ君のパパだにゃあ」

「ゲンドウさん、おっきい犬みたいで可愛いわよね。そうだ、もっと似てるところ見せてあげる」

「ユイ!?」

 

そんな発言と共にどこからともなく電動髭剃りを持ち出したユイによって、ヒゲを剃られサングラスを奪われたゲンドウ。

 

学生時代の自由奔放さを取り戻した最愛の妻に困惑するその表情は、『成長した碇シンジ』というべき物だ。

 

「うわ! めっちゃ似てるにゃ!」

「でしょう! この髪質の感じとかね!」

「あー、でもワンコ君は目がクリッとしてて小型犬っぽいよにゃあ。目元と鼻筋がユイ先輩似なんだにゃ。口元はムスっとしててゲンドウ君に似てるかも?」

「……」

 

完全に同窓会の雰囲気と化している、精神世界。そんな空気を切り替えたのは、ユイだった。

 

「よし、じゃあそろそろ本題に入りましょうか。マリちゃん」

「はいはい〜。……計画変更かにゃ?」

 

そう告げるマリの目は、真剣な物。そして、彼女のその発言が意味するのは、ゼーレ所属の筈の彼女が『誰の味方だったのか』を示す言葉だ。

 

「さすが察しがいいわね」

「私は『碇ユイの人類補完計画』に乗っかっただけだからにゃ。————それで先輩。ゼーレの方は切った方がいいんですよね」

「ええ。補完計画は破棄。人類の人工進化には使徒の協力を得た上での『補間』を採用します」

「使徒サキエルですよね。信用できるんですか?」

「彼の魂は自己保存を軸に進化を続けている。彼の生存に協力する見返りとして、私達はチルドレンの人工進化を依頼しているわ」

「チルドレンの、か。気の長い計画ですね」

「ふふふ。今度は一万年も掛からないと思うわよ?」

「確かに。……ちなみに私もその人工進化の対象だったり?」

「そうね。あなたがフォースである以上は。……巻き込んでばかりで申し訳ないけど」

「そうですよ、先輩ってば私のことフッてゲンドウくんとくっついちゃったのに」

 

そう告げるマリの目には悪戯な光が戻り、彼女の真面目タイムが悲しいほど短く終わった事を宣言する。それに合わせてか、ユイもまたその瞳に再び奔放な少女の気配を宿した。

 

「ふふ。犬派なの」

「猫は悲しいにゃー。姫とワンコ君の娘に期待だにゃ」

「あら、光源氏計画?」

「先輩の孫で姫の娘とか絶対超可愛いでしょ?」

「……」

「ん、ゲンドウくん何か言いたそうだにゃ?」

「……いや」

「これは『30以上の歳の差はどうなんだ』って顔ね!」

「にゃんだと! 自分も歳の差婚なくせに!」

「しかも、りっちゃんと浮気してたし」

「なにー!? 18歳差だにゃ! りっちゃんって赤木教授の娘さんでしょ!? ……あの頃は可愛かったにゃあ。茶髪の大人しそうなJCで。……今めっちゃ金髪だけど……というか、なんかゲンドウくんエヴァに居るけど、りっちゃんのアフターケアとかどうしたの」

「サキエルがやってくれてるわ」

「なにぃ〜!?」

 

何も言ってないのに怒られるゲンドウ。

 

「なんでサキエルにあげちゃったのにゃ! 見た目と実情のギャップがある歳の差百合とか出来たのに!」

 

とのたまうマリの発言は明らかに無茶だが、リツコとの浮気をネタにされているこのタイミングでは、あらゆる抗弁が許されないことぐらいはコミュ障のゲンドウでも流石にわかる。

 

ゲンドウのいつもの腕組みポーズの手の位置がおでこになった事だけが、彼の心情を表していた。

 

 

* * * * * *

 

 

一方その頃。

 

「えー、シンクロ率、1%、いや上がってきました2、3、5、8、13、21、34、55、89、144%! いや今度は低下!? 121、100、81、64、49、36、25、16、9、4……1%に戻りました」

「……カヲル、ふざけてないで真面目にやろうね。マヤちゃんが困ってるし」

「それだと面白くないだろう? 兄さん」

「し、シンクロ率乱高下!」

「ハーモニクスとバイタルグラフも動いてるな……ってこれ画像データじゃないか。ハーモニクスがX軸でシンクロ率がY軸、バイタルがZ軸……しかもセクハラだし」

「マヤ、今ルイス君が言った3つ、生データを頂戴。こっちで変換するわ」

「りっちゃん、XY軸表示にしてZ軸は色濃度で出力したらわかりやすいよ」

「……あぁ、確かにセクハラかもしれないわね。子供っぽいけど」

「マヤちゃんは見ちゃダメな奴だねこれは。カヲル、シンジ君に嫌われるよ?」

「それは困るな。僕がシンジくんのフルヌード写真を送ったのはどうか内密に」

「男の子って不潔!」

「心外だなぁ伊吹さん。お風呂上がりだから清潔だよきっと」

「違うそうじゃない」

「ははは、わかってるさ。……さて、そろそろ真面目にやろうかな?」

 

そう呟く渚カヲルは、零号機のプラグの中で、悪戯っぽい笑みを浮かべるのだった。


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