【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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投稿を思いっきりミスった件



No pain no gain.

瞳を発光させ、光輪を生じさせ、飛翔する。そんなエヴァの姿はジオフロントにおいて目立ちまくっており、動くたびに『ヴォァッ!』などと声を漏らしているその様は明らかに『暴走』と呼ばれるエヴァの本能を引き出した状態だ。

 

「零号機、初号機、弐号機の覚醒と解放。ゼーレが黙っちゃいない……というか逆に黙るかもだな。言葉を失う的な意味でさ」

 

思わず諧謔気味に加持がそうこぼしたのも無理はない。S2機関こそまだ手に入れていないものの無限電力であるN2リアクターを背負うことで臍の緒(アンビリカルケーブル)から解き放たれたエヴァンゲリオンは、幼年期の終わりを迎え、神の座に至る階段にその片足を掛けた。

 

使徒が3体同時に攻めてくる。その確定的前提を元に、ネルフという機関は目を逸らしていた未知への扉をこじ開けた。

 

即ちそれは、エヴァンゲリオンに幾多にも掛けられていた制約の排除。エヴァンゲリオンの能力を引き出す上で邪魔な物は悉く排除し、最低限パイロットをギリギリで守れるだけの物を残してリミッターを解除されたエヴァンゲリオンは平均シンクロ率217.6%という異常領域に突入し、『ほぼ使徒』とでも言うべきスペックを発揮している。

 

それと同時にチルドレン達のエヴァ化も進行してはいるが、彼等はそれを受け入れていた。というか、流石に受け入れないと死ぬという理解が有った。

 

今まで1体の使徒で巻き起こされた被害は、徐々に徐々に悪化している。第5使徒は山を吹き飛ばし、第6使徒は太平洋を凍らせ、第7使徒も山を消しとばし、第8使徒は箱根を中心に関東を壊滅。そして第9使徒は遂に箱根そのものを消滅させた。

 

『次の使徒は日本ごと滅ぼしに来るんじゃ……』

 

その予想が、マジであり得ると思っているからこそ、チルドレン達はヒトの身体を超えてしまう覚悟を決めたのだ。

 

そして同時に、サキエルもまた覚悟を決めている。次の使徒撃滅にはサキエル自身も出撃する。その為に作られたのが、にせエヴァンゲリオンなのだ。コアもなく、本当にエヴァのリサイクルパーツを縫い合わせただけの肉袋。なんならケイジも無いので、基本的にジオフロント内で野晒しになっている雑な扱いだ。

 

そしてどこまで行ってもエヴァンゲリオンでは無いこの存在には、明確な特徴が存在している。

 

誰も乗っていない時は絶対暴走しないという利点と、魂はないが生きている使徒の肉体であるが故に魂を求めてエヴァ以上に貪欲に搭乗者を吸収しようとする欠点。

 

とはいえ癖はあるものの、そもそもカヲルやサキエルなら乗らずとも操り人形のように動かすことが可能だったりする。

 

問題があるとすれば、そう易々と作れない事だろうか。ツギハギなのは別に好きでそうしているわけではなく、そんなにパーツが無いからなのだ。

 

まぁ、ニセエヴァは1体も居れば十分。サキエルが本気で戦うというのは、エヴァで出撃するという意味ではない。使徒としての話だからだ。

 

もちろん今まで手を抜いていたわけではないのだが、幸いなことに関東全域が避難対象地域になり、日本の人口は関西と東北に集中している。

 

サキエルが戦ったとしても、外見を気にする必要はもうない。

 

そしてさらにいえば、今のネルフの状況だからこそ、サキエルは本気で戦えるという面もある。周囲の被害を気にする必要がないからだ。

 

「……とはいえ、僕以外も頑張ってもらわなきゃだから、シンジ君達には頑張ってもらわなきゃだけどね」

「おいおい。会話を飛躍させないでくれよサキエル」

「おっと申し訳ない。独り言だ。……それで加持君、ゼーレは見つかったかい?」

「いいやさっぱり。人類補完委員会の委員長であるキール・ローレンツ。確実にゼーレのメンバーなんだが……尻尾を掴ませないとかそういうレベルじゃないぞ?」

「……加持君でダメなら、地球上には居ないのかも知れないね」

「おいおい、流石に無いんじゃないか?」

「いやいや。人類が唯一到達した、地球ではない星があるじゃないか」

「アポロ計画……月にゼーレが?」

「僕は十分にあり得ると思う。南極を『原罪の穢れなき清浄な地』とか言い出す宗教団体だ。地球からとんずらしてても不思議はないと思うよ」

「そりゃあ困ったな」

「まぁ最悪どうにかするさ。今はとりあえず、目先の使徒から片付けよう」

「……捜索は一応継続しとくよ」

 

そう言いつつタバコを咥える加持に『りっちゃんも禁煙したんだし加持君もやめたらどうだい?』なんて言いつつ指先に灯した火をつけてやるサキエルは、空中でジタバタしているエヴァを眺めながら想定される使徒への対応を模索するのであった。

 

 

* * * * * *

 

 

「出せるんじゃないかと思ったけど、出せちゃったわね遂に」

「流石アスカ……」

「シンジも出せるわよ多分」

「どうだろ。————あ」

「ね? レイは……めっちゃ出せてるわね」

 

エヴァから降りて休憩中に訓練場の地べたに座ったままそんな会話を行うチルドレン達の姿には、一般人の目では何の変化も現れていない。

 

だが、彼らの輝く目とネルフの高性能な観測機器には、アスカ達チルドレンの周囲に広がる独特の力場がしっかりと見えていた。

 

「ATフィールド。心の壁、魂の領域。シンジくんや惣流さんが使えるのは、やっぱりエヴァとの結びつきが原因だろうね」

「いやー……未改造でやられると改造人間は立つ瀬が無いにゃあ」

 

そう。何度も何度もプラグ深度危険領域に潜った事で一層エヴァとの結びつきを強めたシンジ達は、遂に生身でATフィールドを出せる程に症状を深刻化させてしまっているのだ。

 

さらに、問題はそれだけではない。シンジとアスカは、その片目の色が変わってしまうという『アニメキャラだと格好いいけど実際見るとちょっと嫌』なオッドアイになってしまったのである。

 

しかも、そのレベルがただ事ではない。アスカもシンジも症状が現れたのは左目。虹彩だけでなく、眼球全体の色変化。アスカはオレンジ、シンジはライムグリーンに変わってしまったその目玉の特徴は、両者が乗るエヴァの眼球と同一だ。

 

この眼球、めっちゃ光るので、シンジとアスカは仕方なく眼帯をつけている。

 

「乗り過ぎたら本当にエヴァになっちゃうかもね」

「アタシの美貌を損ねた罪は重いけど、シンジとお揃いならまぁ許してあげるわ」

「誰を許すの……?」

「エヴァよ」

「そう。……体調は?」

「むしろちょっと怖いぐらい良いかもしれない……?」

「使徒として覚醒しつつあるんだ。通常の人間より力が漲るのは気のせいじゃあ無いと思うよ、シンジくん」

「そうなのカヲルくん?」

「ああ。間違いないさ」

「私、目が変わってないわ」

「それは単純に、綾波さんが普通に元から使徒だからじゃないかな? 君の場合、エヴァの影響を受けるというよりはエヴァと共に覚醒している感が強いし。それに何より、君の変化が一番すごいと思うよ?」

 

『天使の輪を頭上に出している』レイにそう言って笑うのはカヲルと、海賊っぽくなってしまったシンジとアスカ。

 

エヴァとの危険レベルでのシンクロは、レイに『生身で光輪を出せる』という能力を与えており、彼女のスペックはほぼ完全にカヲルと同格になっている。

 

エヴァが人造の神に近づくと共にチルドレンもまた人造の神の子として神格を獲得して行く。

 

それは今後の戦いの上では有利に働いても、彼らが普通の生活に戻り得る可能性をどんどんと狭めて行っている。

 

だがそれでも努めて明るく。元気よく。

 

ATフィールドをぶつけ合って手押し相撲のような遊びを行うシンジ達に悲壮の色はなく、その心の強靭さはそのままATフィールドの強度へと転化され、彼らの心の光が干渉する『ギュピーン』という高音が演習場に響く。

 

「うーん。これエヴァでやったらATフィールドの練習になんないかな」

「いやいやワンコ君、エヴァ同士でやったら音じゃ済まないでしょ。衝撃波で訓練場ズタボロになると思うにゃあ」

「うーん。じゃあ生身で練習あるのみ?」

「そうだにゃあ。……よっしゃ、良いこと思いついたにゃ」

「何?」

「まずワンコ君が脱ぎます」

「ほう。面白そうだね」

「待ってカヲル君。僕の裸に面白い要素ある?」

「そしてATフィールドで裸を隠したワンコ君VS中和するカヲルとアスカ姫……!」

「何で!? というかアスカもカヲル君もそんなことしないでしょ!」

「…………そうね。」

「…………ああ、もちろんさシンジ君」

「あれ、おかしいな、貞操の危機を感じる」

 

そんな冗談を交わしつつ、ふざけてATフィールドを張るシンジと、悪ノリして中和しに掛かるアスカとカヲル。天使の輪っかでふよふよ浮かぶレイと、シンジ達のじゃれあいに茶々を入れるマリ。

 

楽しげな彼らは、すっかりチルドレンとして馴染み、互いを尊重している。

 

 

————その関係性の根っこには、『ヒトを越えている』という孤独感があるのは明白で。

 

 

そんな彼らを見守るサキエルは、戦う少年少女の為に今晩のご馳走も腕を存分に振おうと決めるのだった。


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