【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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大童

エヴァ3、4号機輸送当日。

 

案の定現れた第10使徒サハクィエルの威容は『全世界』の度肝を抜いた。

 

「宇宙かぁ」

「宇宙ねぇ」

「宇宙だな」

「宇宙だね」

 

コーヒーを啜りつつ、遠い目でそんなやり取りをするのはミサト、リツコ、加持、そしてサキエル。ネルフのモニターに表示されるそれは、一般人でも肉眼観測できるほど巨大な、『宇宙に浮かぶクソデカいオレンジ目玉お化け』だ。

 

「どうしようかしらね、アレ」

「空間を歪曲するレベルのATフィールドで国連宇宙軍によるN2航空爆雷もまるで効果無し。ジャミング能力でレーダー観測を無効化。さらに恐ろしい事に衛星軌道から地球の通信網を妨害しています。……さらにATフィールドと思しき力場で先程観測衛星が圧壊されたようで」

「毎度毎度何でもありか……天体望遠鏡による光学観測は?」

「実施中です。空間歪曲の影響はありますがおおよその位置はわかるかと」

「使徒が分体を生成! 分体、落下してきます! ATフィールドを確認!」

「————マズいッ! 総員対ショック姿勢! 外殻ATフィールド、最大出力!」

 

「葛城一尉! エヴァ3号機および4号機到着! 緊急投下されるとのこと!」

「くっ! このタイミングで!? 委員会は何を考えてるってぇのよ!?」

「これは————エヴァ3号機および4号機、起動しています!」

「はぁ!? 日向君! チルドレンは!?」

「ケイジ区画の待機室に居るはずです! つなぎます!」

「予測落下時間まで120秒」

「アスカ、レイ、シンジ君、カヲル君、マリちゃん、居る!?」

『はっ? 全員居るわよ?』

「なら良いわ! リツコ!」

「パターン解析……起動しているエヴァ3号機および4号機のパターン、青ね」

「くそったっれぇぇぇえ!!!!」

「口悪いわよミサト。わかるけど。それで、どうするの?」

「くっ。……エヴァを今出してもどうにもならないわ、本部外殻のATフィールドで受け止めるしかない! 使徒な3号機と4号機もATフィールドで締め出してるし、とりあえずは初撃を凌ぐ! エヴァの出撃はその後! 出撃後は即座にエヴァ3号機および4号機の制圧!」

「了解。じゃあ机の下に潜りましょうか。ATフィールドの絶対防御とショックアブソーバーがあるとはいえ、かなり揺れるわよ?」

 

リツコがそう言ってノートパソコンを手にデスクの下に潜り込むと、他の面々もそれに倣う。

 

————その直後、対ショック姿勢を取る彼らに対し、凄まじい衝撃が襲いかかった。

 

 

* * * * * *

 

 

使徒サハクィエルによる、分体メテオアタック。ATフィールドを纏った大質量が加速しながら突っ込んでくるというシンプルに強いその一撃は、着弾後に分体が自爆する事も含めて凶悪だった。

 

だがそんな凄まじい一撃に対し、ネルフ本部を擁する黒き月の外殻は無傷。綾波シリーズが展開した全面のATフィールドが、爆風と衝撃波から黒き月を守ったのである。

 

だが、反面無傷とは行かなかったのがエヴァ3号機と4号機。使徒を仕込まれたこの2機は、どうにかATフィールドを展開したようだが、それでも大きく吹き飛ばされて海中に墜落する。

 

これを好機と見たミサトは、エヴァンゲリオンを全機発進。零号機にレイ、弐号機にアスカ、初号機にマリとシンジ、偽エヴァにカヲルを乗せてカタパルトで高速射出し、エヴァ各機はそのまま光輪を展開して飛行する。

 

狙いは上空の使徒ではなく、海中に没した3、4号機。

 

迫る4体のエヴァに呼応して海上へと飛び出してきた使徒の姿は、エヴァを『フランケンシュタインの怪物』に仕立てた偽エヴァよりも怪物的。

 

エヴァの肩を突き破ってもう一対の腕を生やした3号機。全身を青い紋様が覆い尽くし、その表面に赤く輝く幾何学模様を明滅させた4号機。

 

どちらも決して油断出来る対象ではなく、背中にボコボコと肉を隆起させて翼を作った彼らは、海上から飛び立————とうとして、上空からアスカが放ったATフィールドの光刃により真っ二つに引き裂かれた。

 

しかし、エヴァ達はしっかりと残心を行い使徒2体を睨みつける。

 

そんな彼らの目の前で、使徒は肉を蠢かせて気色悪く再生してみせた。

 

無論それをぼけっと見ているチルドレン達ではない。エヴァの腕を振るいATフィールドの刃を叩きつけて、使徒が構えるATフィールドごと相手をズタズタに切り刻む。

 

それに対して、使徒2体が行ったのは、それぞれ異なる適応だった。

 

3号機に仕込まれた第13使徒バルディエルは、S2機関の出力に任せて強引に再生しつつ4つの腕をタコやイカのように伸ばして宙を舞うエヴァを襲い、4号機に仕込まれた第11使徒イロウルは状況に適応するべくATフィールドの多層展開という技術を習得してみせた。

 

「3号機は脳筋で4号機はインテリっぽいわね!」

「でも腕を伸ばしたところで! ヤァ!」

 

のたうつ腕をシンジのATフィールドの刃が切り刻み、その隙を突いてカヲルが動かす偽エヴァがATフィールドを面で押し出してバルディエルを海中に叩き落とす。

 

しかし、脳筋バルディエルに比べて、イロウルは状況に冷静に対処をし始めた。

 

「うわっ! あっちもATフィールド飛ばしてきたにゃ! ワンコ君迎撃! 迎撃にゃあ!」

「わかってるよ! ぶつけて打ち消す!」

「ナイッスゥ!」

 

「長引きそうね」

「レイ、カヲル、とりあえずあのタコ潰すわよ」

「了解」

「わかったよ惣流さん。……バルディエルは侵食能力持ちだ。決して捕まってはいけないよ」

 

イロウルと光刃の投げつけ合いを演じるエヴァ初号機。チームアップしてタコっぽいバルディエルをタコ殴りにしようとする弐号機、零号機、偽物。

 

だが彼らの戦いに関係なく、上空の第10使徒は分体メテオを投下する。

 

先程よりかなり巨大なその一撃は、ネルフ本部の防御をも叩き潰しかねない大質量。

 

炸裂すれば周囲で戦うエヴァも無事では済まないその一撃に対し、立ち向かったのは海中より現れた、巨大な光の巨人だった。

 

「パターン青! 第3使徒です!!!!」

 

全身から強烈な光を放つその巨人は宙へと浮かび、使徒サハクィエルを叩き潰すべく天を目指す。

 

ルイスと佐伯ルイを残した全ての個体を融合させた超巨大サキエルと宇宙の大目玉の戦いは、まさに怪獣映画。

 

そして、落下し切る前にサキエルに迎撃された分体があげる凄まじい爆炎が、怪獣大決戦の開戦の火蓋となった。


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