【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

7 / 107
噂をすれば影

毎朝上陸しては、昼過ぎに海に帰っていく第3使徒。行ったり来たりをひたすら繰り返すこの巨大生物に対し、国連軍が戦意を維持できたのは1週間が限界だった。

 

何しろ、此方の攻撃は効かないが彼方が何をしても此方は大損害なのだ。鍛え上げた兵士達が軒並み精神をやられて廃人になったせいで、軍病院はパンク寸前。金を大量に垂れ流して、得るものが何もないというのはさしもの国際組織といえども耐え得るものではなかった。

 

そして何より。いざ放置してみれば、当初の猛攻が嘘の様に、第3使徒は無害であった。朝に上陸して、廃墟と化した相模湾沿岸を彷徨き、アレやこれやとガレキを漁っては帰って行く。

 

『もう好きにさせておけ』という気になるのも致し方ない。

 

だが、致し方ないと言って居られない軍事組織が2つあった。

 

一つはネルフ、もう一つは、日本国の戦略自衛隊である。戦略自衛隊は国軍なのだから出動しないわけにはいかない。ネルフも使徒への対抗をお題目として結成されているのだから戦わないわけにはいかない。

 

この内、最も積極的に第3使徒に挑んでいるのが、ネルフなのだが……。

 

「第3使徒出現!」

「了解、総員第1種戦闘配置! エヴァ初号機、および零号機、発進準備!」

「エヴァ初号機、零号機発進準備よし!」

「エヴァ初号機、零号機、発進!」

 

と、エヴァが発進した場合、第3使徒は基本的に逃げ出すのだ。つまり、不戦勝。

 

人類滅亡を阻止できるのだからめでたいことではあるのだが、いかんせん消化不良感は否めない。

 

だからだろうか。口には出さずとも「もっとちゃんとした使徒は来ないのか?」などという思いを抱いてしまったのは。

 

だが。彼らはこの日、その思いを後悔する事になる。

 

 

* * * * * *

 

 

その日、いつものように地上を物色していたサキエルは、突如発生した強烈な高エネルギー反応に対して、咄嗟にATフィールドを展開する事で対応した。

 

その思考は間違いではなく、事実彼自身の防御力にATフィールドを組み合わせれば、N2爆雷の直撃すら些かの痛痒にも成り得ない。

 

しかし。

 

その直後サキエルを直撃した悍ましい迄の高エネルギーを帯びた荷電粒子の奔流は、彼をATフィールドごと吹き飛ばし、サキエルはその背で山を抉り、周辺地形を薙ぎ倒しながら、凄まじい距離を引き摺られてしまう。

 

まるで暴走トラックに轢かれた野良猫の様に手足が引きちぎれた無残な姿となった第3使徒は最終的に三国山にぶち当たって跳ね返り芦ノ湖に墜落した事で停止したが、むしろよくもまあ形が残っているなというべき有様だ。

 

その突然の凶行を行ったのは、相模湾より第3新東京市に向けて悠々と空中を移動する巨大な正八面体。

 

第5使徒、ラミエル。死したシャムシエルの戦訓を元に、『サキエルをブチ殺し得る超絶火力』を装備した天空の超火力砲台である。

 

 

* * * * * *

 

 

「ちょーっち、洒落んなんないわねアレ。荷電粒子ビーム、だっけ? レーザーみたいな物であの第3使徒を相模湾から芦ノ湖まで吹っ飛ばしたってぇの?」

「ミサト、レーザーとビームは似て非なる概念よ? ビームの方がより包括的。……そうね、水鉄砲や消防隊の放水をイメージすると良いわ。並進する粒子運動。今回の使徒の場合は、凄まじい量の金属イオンを帯電させて、放出しているのよ。……つまり」

「第3使徒みたいに光を使ったレーザーで照射先を一瞬で蒸発させて爆発させてる訳じゃなくて、物理的に『抉り飛ばしながら吹き飛ばす』ってわけね。あの攻撃、防げたりする?」

「MAGIの試算だとATフィールドを展開したエヴァが、電磁処理したSSTOを盾にすれば……2秒持つわ」

「2秒!?」

「もちろん、第3使徒を芦ノ湖に叩き落としたあの攻撃の場合よ。……現在第5使徒は相模湾上空で停滞。体表から放射している凄まじい熱からの予想だけど、流石にあの超火力となると連発は出来ない様ね」

「そりゃ、射程30kmもある様な化け物ビームを連発出来たら此処をとっくに消し飛ばしてるわよね」

「荷電粒子ビームの特性上ブラッグピークで射程が制限されるから、地下への砲撃は難しいと思うわ。そもそも大気中であれだけの射程を持つことすら驚異的なのよ? ……今ちょうど除染作業中だけど、アレはおそらくウランイオン加速砲。重いから比較的真っ直ぐ飛ぶけれど、それでもね」

「うっわぁ、ウランとかやめて欲しいわね」

「使徒にとっては放射線程度何も問題にはならないんでしょうね。羨ましい事だわ。……まぁ、幸いネルフの技術なら1週間もあれば完全に除染できるでしょう。……MAGIの計算によれば、第5使徒の冷却完了は3日後だけど」

「3日か……」

「4日目の朝を迎えられるように期待してるわ、ミサト」

「……気合、入れないとね」

 

そう呟くミサトの顔色は青く、額に寄せた皺がその心理的負荷を窺わせる。

 

だがその優秀な頭脳は既に、勝利への作戦を組み上げ始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。