【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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起死回生

第13使徒バルディエル。

 

自在に腕を伸縮させるだけでなくその本数を増やすことで器用に1対3の立ち回りを演じるその使徒は、エヴァンゲリオン3号機を阿修羅の如き三面六臂の異形に変えることで現状に対応していた。

 

だが、イロウルがサキエルに取り込まれた事で、形勢は1対5にまで変化したのだ。

 

サキエルの生み出す重力に囚われ、熱線や溶解液を浴びせかけられ、周囲を囲むエヴァからはATフィールドの光刃を叩き込まれるはめになったバルディエルは誰が見ても不利で、バルディエル自身もそれは認めるところだ。

 

それ故に、バルディエルが取った手法は単純だった。

 

「目標に高エネルギー反応!」

「自爆する気!?」

 

発令所の青葉とミサトが叫んだ直後、バルディエルは凄まじい轟音と共に爆発四散したのだ。

 

エヴァに搭載されていた試作S2機関を暴走させる事で瞬間的に莫大なエネルギーを生み出し、自爆する。なるほど、追い込まれ、包囲された状態ではそれは有効な手段かもしれない。

 

しかし、ATフィールドという絶対防御を持つエヴァはその爆発に耐えきり、バルディエルの最後の一撃は周囲に彼自身の血の雨を降らせるに止まった。

 

「みんな無事!?」

「イタタ……何とかね。爆発するとかアリなの? エヴァも血塗れだしシャワー浴びたい気分よ……」

「アスカ姫〜私と一緒にお風呂入ろうぜ!」

「私も」

「……も、もちろんレイパイセンもに決まってるにゃぁ〜」

「レイ、マリの胸好きにしちゃって良いわよ。アタシが許すわ」

「嬉しい」

「ぎにゃあ!?」

 

「相変わらず女子は楽しそうだねカヲルくん」

「ああ、そうだね。————だけど……バルディエルはどうやらなかなか狡猾だった様だ。油断した」

 

カヲルがそう告げた直後、あらゆるエヴァの計器がエラーを吐き、モニターが異常な明滅を開始する。

 

「何!? なんだっていうのよ!?」

「生きてたの!? なんで!?」

「シンジ君! バルディエルがさっき起爆したのはエヴァのS2機関だ! まだバルディエル自身は死んでいない!」

「だってでもあんなに粉々に……!?」

 

そうシンジが告げた直後、エヴァやサキエルに降り注いでいた血の雨がボコボコと隆起し、赤い粘菌の姿へと変貌する。

 

自身の死を偽装する見事な策略によってエヴァの神経系に侵入してみせたバルディエル。異常なまでの侵食速度で骨身を蝕むその立ち回りはまさに侵食タイプの名に相応しい凶悪さだ。

 

その結果光輪の維持が困難となり海中に落ちていくエヴァ4機。サキエルはイロウルの権能で侵食に抵抗しているものの、主導権の熾烈な奪い合いによってぎこちなく固まってしまっている。

 

通信も断たれ、昏い水底に落ちていく彼らは、雨の様に降った後水面で浮かんでいた赤い粘菌に覆われて、強烈な侵食を受けながら、瞳の輝きを失っていく。

 

だが、その中で、サキエルがシンクロの思念波によって唯一の打開策を提示した。

 

『エヴァが使徒を拒絶すれば、体内から弾き出せるはずだ。そうなれば僕が後は引き受ける』

 

その助言に対し、最も早く適応したのは、カヲル。エヴァと自在にシンクロ可能なカヲルはシンクロ率を400%近くにまで引き上げる事で『異物』であるバルディエルを拒絶し、結界の如く強烈なATフィールドを展開してみせたのだ。

 

通常であればその手法は、エヴァと融合するほどの危険な手段。だが、カヲルに限って言えば、どこまでシンクロ率を引き上げようが取込まれることは無い。エヴァとカヲルの関係性は、カヲルの一方的優位で成り立っているからだ。

 

そして、エヴァに侵食を拒まれた事で、エヴァの全身からのたうちながら赤黒い粘菌が押し出される様は非常にグロテスク。そして体内から押し出された粘菌は、サキエルが強引に重力操作で引き寄せて捕食した。

 

無論その手段は、カヲルの解放と引き換えにサキエルを追い詰める。侵蝕者を自らの内に引き込むのだから、当然だ。

 

そんなサキエルに言葉を聞く余裕が無い事は承知の上で、それでも尚カヲルは呟かずにいられなかった。

 

「兄さん、コレは中々シンジ君達には無茶かも知れないよ……?」

 

そう告げるカヲルは余裕あるいつものアルカイックスマイルではなく、額に汗を滲ませ眉根を寄せた表情。通信が復活した偽エヴァからカヲルが発するその言葉に、発令所の面々も、苦々しい表情を浮かべ、そして、ミサトは苦渋の決断を行う。

 

「カヲル君、いざとなったら他のエヴァからプラグを引き抜いて頂戴」

「そんな強引な手段でシンクロを切ればどうなるかわからないよ……?」

「それでも死ぬよりはマシよ。パイロットが脱出さえできれば、N2リアクターを遠隔で爆破できるわ」

「……わかった。やってみよう。ただタイミングは僕が見極めるよ、葛城さん」

「お願い」

 

エヴァの放棄も織り込んだその作戦。侵食に抗うエヴァ達を見守るカヲルの表情は、先程よりも尚悪くなる。

 

それと同時に『バルディエルを引き受ける』道を選んだサキエルは、身体中を這い回り肉体の主導権を奪おうとするバルディエルとの争いによって、漆黒の身体を赤く明滅させながらガクガクと痙攣しており、状況はあまりよろしくない。

 

起死回生の一手によって一気に形勢を逆転させたバルディエルに抗う彼らは、昏い水底で赤い侵蝕者と孤独な戦いを強いられることになるのだった。

 


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