【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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R17.9回

直接的な描写は一切ないので原作の20話「心の形人の形」ぐらいの内容です。


穴隙を鑽る

「マヤ、エヴァ3、4号機の新造進捗は?」

「9割7分ですね。と言っても弐号機の予備パーツで組んだものになりますけど」

「順調ね。零号機と同じプレーンなコアが使えるフォースとフィフスなら、それで充分でしょう」

「はい。……それにしても弐号機がヘイフリック限界を超越したのは整備的には有難いですね。LCLに浸からせておけば自己修復で殆ど賄えるなんて」

「N2リアクターありきだけれどね。電力がなければ動かないのは相変わらずだわ。……S2機関の開発、急がないとね。じゃあ、今日は上がりにしましょうか」

「はい先輩。お疲れ様です!」

 

そう告げて元気よく去っていくマヤの姿に内心『あの子も随分雰囲気が柔らかくなったわね』と自分の角の取れっぷりを棚に上げて呟くリツコは、大きく伸びをしてからパソコンを閉じ、白衣を椅子の背に掛けて研究室の戸締りを実施する。

 

カードキーで部屋を施錠し、エレベーターでジオフロント内の大空洞部分に移動して、そこからは徒歩で家まで5分。

 

そうして帰宅した我が家では、彼女の素敵なパートナーが、エプロン姿で出迎えてくれる。

 

「おかえり、りっちゃん」

 

そう告げると共に、リツコを抱き寄せて片手で玄関を施錠すると、流れる様な動作で顎先に指を添えて、甘めのキス。

 

少女漫画の一幕のように振る舞う中性的な美青年は、使徒サキエル。

 

サハクィエル、イロウル、バルディエルを取り込んだ彼は以前に増して力強い魂を得ており、一時は2体必要だった疲労担当を再び1人に戻せる程のスペックアップを果たしている。

 

「お風呂にする? ご飯にする? それとも僕?」

 

つぅ、と銀の橋を掛けて離れた唇で、そんなお約束を述べるサキエルに、リツコは今度は自分からキスをする事で答えとし、サキエルはそれに応じて、パンプスを脱いだ彼女をお姫様抱っこで寝室へと連れて行く。

 

ぱさり、ぱさりと脱ぎ捨てられて行く衣服。晒される素肌。甘い女の匂い。

 

触れ合い、重なり、擦り合わせ、掻き混ぜる。

 

泡立つ雫と滴る白がシーツを濡らし、ベットはギシギシと軋みを上げて、甘い息遣いが場を満たして行く。

 

時折、その全てが静止し、喜悦に満ちた嬌声が漏れてリツコが至福の頂に至ったことを示すが、2人は一度では満足せず、二度三度と頂を超えていく。

 

そうして汗だけではない滴りに全身を濡らした2人は、たっぷり楽しんだ後の甘い睦言を交わしながら連れ立って入浴に向かった。

 

ストレスから解放され、タバコもやめたリツコの肌は、毎日熱心に手入れをしてくれる恋人の存在により艶と柔らかさを増しており、元の色の白さも相まって赤ちゃん肌や卵肌と呼ばれる女性なら誰もが羨むハリツヤを手に入れている。

 

もちろん人外であるサキエルの完全な設計による美には敵わないが、人間らしい美しさのある彼女の肢体は、お世辞抜きに魅力的だ。

 

そんな彼女を抱き抱えて広い湯船にゆっくりと浸かるサキエルは、腕の中の手弱女を優しく撫でながら、後に控える食事の事を話題に挙げた。

 

「今日の晩御飯はビーフシチューだよ」

「あら、牛肉が手に入ったの?」

「北海道から。冷凍物だけどね」

「そこは贅沢を言えないわよ……んっ♡」

「……もう一回する?」

「……する」

 

そう答えるリツコののぼせた表情は湯によるものだけではなく、響く水音もまた湯によるものだけではない。

 

どろりと燃える溶岩の様な彼女の情欲の全てを優しく受け止めて、マグマをガムシロップに変えてしまうリツコの素敵な恋人。

 

そんなサキエルは湯船の中で、白く柔らかなリツコの肌を愛でながら、彼女の耳元に爆弾を投下する。

 

「そういえば、バルディエルの権能を取り込んだから、生殖できる様になったんだよね僕」

 

 

そんな不意打ち攻撃の結果として、赤木家の夕ご飯が随分遅くなったのは、言うまでもないことだろう。

 

 

* * * * * *

 

 

さて、一方その頃。チルドレン達が仲良く暮らす一室では、各自の部屋でチルドレン達が思い思いに過ごしていた。

 

カヲルの場合は、音楽鑑賞。シンジがクラシックからポップスまで有名どころのテープとSONYのS-DATを貸してくれたのを皮切りに、彼はすっかり音楽趣味にハマってしまったのだ。

 

ちなみにカヲルに貸しているのはシンジが個人的に買ったもので、ゲンドウから貰ったS-DATはちゃんとシンジの部屋に置いてある。

 

なお『置いてある』というのは、そのまんまの意味で、シンジは普段使い用に最新機種を買っている。

 

MDやCDなどのライバルを下し、テープの高強度化などで進化を続けたDATテープ。今年発売の最新式はなんと非圧縮容量1TBだと言うのだから、流石にシンジもお古から乗り換えたくなってしまったのである。

 

バリウムフェライト磁性テープによる莫大なデータ容量。超強靭な超高分子量ポリエチレンテープの採用により物理破損から無敵となり、S-DATの特徴である固定式ヘッドの読み取り速度も抜群な最新式S-DATウォークマン2015年モデル。

 

シンジがそれを手に入れたことで余った旧型が、現在カヲルが使っている機種、というわけだ。

 

で、そんなお下がりS-DATでカヲルが聞いているのは最近の彼の推しアーティストの曲であった。

 

「宇多田ヒカルは良いねえ……」

 

人外らしく捻くれた楽曲に行くかと思いきや大手も大手にハマったカヲル。しかし彼の部屋にはアスカからもらった『P-MODEL』のアルバムや、マリから借りたポップス歌手の『東京マリ』のアルバムなどいろいろと変わり種や懐メロも積まれており、なんでも楽しく聴けるタイプではあるらしい。

 

ふんふんふ、ふんふーん、とご機嫌な鼻歌を歌うカヲルは、人間生活を思いの外エンジョイしているようだ。

 

 

では、カヲルと同じく新顔のマリはというと、此方は真面目な表情でパソコンと向かい合っていた。

 

「んにゃー。せっかく私のエヴァなんだからなーんか面白いモノ積みたいよにゃー……痛覚フィードバックもあがっちゃうけど、やっぱ反応系マシマシでスーパー美少女クノイチスタイルとかアリじゃね?」

 

そう言いつつカタカタとマリが打ち込んでいるのは、エヴァの制御OSである。正確に言えば、プラグに組み込んでシンクロの調整を行う為のOSだ。

 

サキエルの計らいでリツコから『改造』の許可を貰ったマリは、天才らしく自分好みのシステムを組み上げようとあれやこれやと頑張っている様である。

 

 

ではその隣の部屋に居るレイはというと……良い子なので寝ていた。ただし、ベッドに疲労担当サキエルを引きずり込んで相変わらずの添え乳スタイルである。

 

良く乳を飲む子は育つと言うし、良く寝る子も育つというが、レイはそろそろ成長期も終わる頃。これ以上何を育てようと言うのかは、彼女のみぞ知るところだ。

 

 

では、さらに隣のアスカは……不在。

 

しかしアスカの隣の部屋であるシンジの部屋からは、アスカとシンジの声が微かに漏れており、彼女はどうやらシンジの部屋に居るらしい。

 

では何をしているのかといえば、言うまでもなくイチャイチャしている。

 

熱烈にキスを交わし、シンジの身体を撫で回すアスカと、そんな彼女にされるがままになりつつも、アスカが愛でるほどに甘い声を漏らしてアスカの気持ちを絶妙に盛り上げるシンジ。

 

食う食われるがハッキリしているその関係性は、アスカが食う方、シンジが食われる方。

 

盛り上がってくると敢えてアスカが受けに回ってみる事もあるにはあるのだが、シンジの行動が『ぎゅっと抱きしめる』だの『遠慮がちにキス』だのだったりするせいで大体アスカが『焦らしてくれちゃって!』と逆転攻勢に出てしまうので未だかつてうまく行った試しがない。

 

だから今日も最終的には、シンジをアスカが組み敷いて、シンジは自身の上で艶かしく踊るアスカを見上げる事になるのだ。

 

シンジとしては、アスカをリードできればなぁと夢想しないでもないのだが、シンジ主導で致した際にポリネシアンやらスローやらと呼ばれそうな内容に昂らされるだけ昂らされて焦れたアスカさんによる蹂躙劇が起こってしまって中々上手くいかないのである。

 

なので彼の活躍の場は大体、何もかもひと段落ついた後、くたびれて自身に寄りかかるアスカのお世話になるのだ。

 

乱れた髪を梳いて、着衣を整え、諸々の始末をして、優しく抱きしめて、労る様に優しくその背を撫でながら、甘いキス。精一杯睦言を言ってみたりするその様は、実に紳士的と言えるだろう。

 

一度大人しくなってしまえばアスカの乙女な部分が顔を出すせいか、シンジのそんな優しさにキュンキュン来ていたりするのだが、あんまりキュンキュンし過ぎると男勝りのアスカさんが息を吹き返し、油断していたシンジ君が再び蹂躙される事もある。

 

その度に毎度『アンタが可愛いのが悪い』と言われて複雑なシンジは、『快楽に流されちゃダメだ……! 僕がしっかりしないと……!』と毎回決意を固め、毎回敗北している。

 

斯様にとにかくすれ違うシンジとアスカだが、それでも2人が仲良しカップルなのは、互いの行いに含まれている『愛』はきちんと伝わっているが故。

 

それでも、アスカは『たまにはガツガツしてもいいのに』と思い、シンジは『たまにはのんびりロマンチックな感じで』と思ってしまうのは、無いものねだりなのだろう。


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