【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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喋喋喃喃

「こうしてると本当に天使っぽいわよねアタシ達」

「アスカは似合うよね天使。可愛いし、美人で」

「なっ!? ————うわぁ!?」

「アスカ、危ない」

「惣流さん、気を抜くと落ちるよ」

「ご、ごめんアスカ!?」

「い、いや、今のはアタシが悪いわよ……ありがとねレイ、助けてくれて」

「構わないわ」

 

わいのわいの、と騒ぐのは、ジオフロントの屋外訓練場で天使の輪っかを浮かべてフワフワと浮かぶシンジとアスカ、カヲル、そしてレイ。その一方で唯一『飛べない』マリはといえば、技術二課の装備(時田のおもちゃ)で空をビュンビュン飛んでいた。

 

「速いにゃ凄いにゃぁ!」

「ふっふっふ。エヴァ用フライトユニットは没になってしまいましたが、設計が勿体無いのでヒト用にミニチュアライズしてみたのですよ」

 

マリが背負う『登山用ザック』サイズの装置の名は小型化エヴァ用飛行装置『天狗の仕業』。軽快に空を飛ぶその装置はしかし、バックパック型の箱に、安定翼らしき翼が生えただけのシンプルなものだ。

 

それでも十分すぎる飛行性能が得られているのは、この装置が飛行装置ではなく『重力制御装置』だからである。

 

重力制御翼グラヴィティウイングとジャイロスタビライザーの組み合わせで自在に飛行し、操縦はエヴァのシンクロシステムを応用した思考制御。

 

まさに『謎マシン』であるこの装置、MAGIと三貴神の合作だったりする。

 

この機構を応用した空中戦艦構想については『超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦ヱクセリヲン』と『自律(Automatic)強襲(Assault)方舟(Ark)ヴンダー』の2案が検討中だが、これらはどちらも資材の面でも工期の面でも夢物語に近い存在である。あくまで『将来の予定』に過ぎないのだ。

 

だがそんな事はとりあえず飛べて楽しいマリには割とどうでも良かった。

 

「いやっほー!」

「……マリは楽しそうで良いわね」

「ははは、僕らもアレぐらい飛べる様になれって事じゃない?」

「私は飛べるわ」

「僕も飛べるね」

「飛べるのが普通の身体からしばらく飛べない身体になってただけのアンタ達はそりゃそうでしょうねぇ!?」

 

水泳のイメージで飛んでいるのか『空中で平泳ぎ』というカートゥーンっぽい動きをするレイと、無重力のイメージなのか空中で逆さまに立つという意味不明な一発芸をかますカヲル。最近自分の天然キャラが『ジョークに使える』という俗っぽい学習をした魂使徒コンビは、明らかにアスカとシンジを笑わせにきていた。

 

————だがそれも含めて、この状況はアスカとシンジの訓練なのだ。

 

「シンジ君、アスカちゃん、高度がブレてるよ。集中集中」

「アンタが1番笑わせに来てるわよね!?」

 

そうアスカが突っ込む先にいるのは、額に『熱血!』と書かれた日の丸鉢巻を巻き、ジャージに身を包んで竹刀を担いだサキエルだ。

 

どう考えてもネタである。だが追い討ちを掛けるのは、記録係のスタッフとしてやって来ている『佐伯ルイ』。今時ブルマーに体操着をシャツインして『ぎじゅつ1か さえき』と書かれたゼッケンを胸元に貼り付けているその姿に『なんでやねん』と思わない者がいたらそいつは狂人か馬鹿であろう。

 

————いかなる状況でも飛行を維持するべく、生身でも呼吸するかの様に飛べるようになるべし。

 

そんな思想のもと行われる特訓には納得はできる。飛べるなら飛ぶ練習をしたほうが良いのは当然だ。

 

だが、妨害の仕方がズルいのではなかろうか。そう抗議しようとしたアスカとシンジは、次の瞬間練習場に現れた存在に爆笑してしまい、危うく墜落しかけてしまった。

 

「なによぅ、失礼してくれちゃうわね。月に代わってお仕置きしちゃうわよ?」

 

そう言って膨れて見せつつも『悪戯大成功』と顔に書いてあるのは、セーラー服の葛城ミサトであった。

 

なお、根っからの天然なレイに『可愛い』と評されて満更でもなさそうだった事も、重ねて付記しておく。

 

 

* * * * * *

 

 

それからしばらく。集中を乱す強敵が次々と現れる恐ろしい訓練が終了し、疲れたとぼやくシンジ達は、ちゃんとした服に着替えたサキエルから食堂でアイスを奢られていた。

 

「なんでいちいち笑わせに来んのよ!」

「そりゃあ、1番気が抜けるからね」

 

ひよこの着ぐるみパジャマを着せられたレイシスターズが行進してきたり、リツコがヘアチョークで髪の毛を虹色にしたゲーミングリツコになってたり、カヲルとレイが羽箒でコショコショくすぐってきたり、加持がアフロになってたりと酷い妨害にあったアスカ達は、訓練後半には飛びながら笑える程度の余裕を獲得出来たので、無意味ではなかったのだろう。

 

だがなんだか訓練という感じがしない、とプンスカ怒るアスカと宥めるシンジ。だが彼らは、スタッフ達が楽しそうな訓練を考えた真意を薄っすら察しているが故に、本気で怒ってはいない。

 

「今更アタシもシンジも人間やめた程度で凹まないわよ全く……」

「まぁまぁ……気を使ってくれたわけだし……」

「ははは、バレてたみたいだね」

「あったりまえでしょ、ATフィールドブレブレじゃん皆」

 

そう言ってアスカは苦笑し、アイスをパクりと食べ終えて、サキエルに話を振る。

 

「それで、午後からは何するわけ?」

「ん? ああ、チルドレンの午後の予定はフリーだよ。みんなレイシリーズの調整とか研究開発で忙しいからね」

「ふぅん……ん? どうしたのよレイ。急にこっち見て」

「みんな暇ならお願いがあるの」

「何? 珍しいね、レイがお願いって」

「お? みんなって事はアタシもかにゃ?」

「そうなるだろうねマリ。で、綾波さんの用事はなんなんだい?」

 

そう食い付く皆に対して綾波レイが出した要望は二つ返事で了承され、技術開発部からの許可も得て、彼女の『お願い』は直ちに実行される事となる。

 

 

* * * * * *

 

 

「……繋がった?」

『ん? お? ……ああ、イケてるイケてる! 繋がってるぞ綾波!』

『なんや、繋がったんかケンスケ』

『大丈夫なの? 綾波さん達忙しいんでしょ』

 

パソコンとそれに接続されたカメラを前に、ヒラヒラと手を振るレイ。

 

その画面の向こうに居るのは今は遠く北海道に居るレイの元クラスメイト。

 

相田ケンスケ、鈴原トウジ、洞木ヒカリ。以前ひょんな事から新横浜でレイと再会した彼らは、レイと携帯のアドレスを交換しており、特にヒカリは女の子らしくマメなメールのやり取りを行なっていたのだ。

 

そこに、先日の発表である。彼らが密かに知る秘密のヒーローだった綾波レイは一躍時の人となり、ヒカリ達も年相応に興奮してレイに連絡を取ってしまったのは言うまでもない。

 

その際にレイが提案した『シンジ達を紹介する?』という提案に思いっきり飛びついたのがケンスケ。彼の提案でビデオチャットをしないかということになり、そしてそれに便乗したのが、ヒカリとトウジだった、というわけである。

 

「皆、元気そうね」

『ええ。綾波さんも。メールで元気なのは知ってたけど……というか、また美人になってるし……』

「何を言うのよ……。でも。洞木さんも、大人っぽくなった」

『えへへ。そう?』

 

まさに女の子同士の会話、と言ったやり取りをするレイとヒカリに、それぞれの画面に映り込んでいる面々が興味深そうに視線を向ける。

 

「レイの友達って聞いてたけど仲良いんだね」

「そうね。まっ、良い奴らっぽくて安心したわ。アタシ達も街が無事ならクラスメイトだったんでしょ?」

「学校かぁ。平和になったら行けるのかな」

「僕も興味があるね。学舎と言うのは良いものなのかい?」

「ピンキリだにゃー。……というかアスカ姫と私は大卒だし今更中学に行くってのもアレじゃないかにゃ?」

「なんでよ、クラスメイト作れるなら行ったほうがいいじゃない、学校。チヤホヤされるの好きだしアタシ」

「うわあ、ナチュラルに顔面偏差値高い奴の思考だにゃあ」

 

そう言ってわちゃわちゃと戯れるチルドレンのやりとりは、普段と変わらぬ自然体。一方でそんな彼らを見る一般人な3人はちょっぴり気圧され気味だ。

 

『す、凄いメンツやなケンスケ。画面が眩しいわ』

『俺もそんな気がするよトウジ。イケメン美少女軍団だもんな。————後、綾波含めて物理的に目が光ってるし。これが雑誌にあった『適格者』って奴か……で、綾波。俺達を紹介してくれないのか?』

「……えっと。……これはシンジ、これはアスカ、これがマリ、こっちはカヲル」

『いや、そっちについては一方的に知ってるよ!? ……ははは、相変わらず天然なんだなぁ』

『ちょっと相田君、綾波さんに失礼でしょ?』

「構わないわ。よく言われるもの。天然」

『もう……。ごめんね綾波さん。……それで、えっと、私が洞木ヒカリで、こっちが鈴原トウジ、それでこのメガネの子が相田ケンスケ君です。その、よろしくお願いします』

 

そう挨拶するヒカリに対し、答えたのはアスカだ。

 

「Hi、アタシは惣流・アスカ・ラングレーよ。よろしくね、ヒカリ。それと男子2人も」

「ちょ、アスカ。相田君に鈴原君でしょ? ……えっと、碇です。どうも……?」

『どうも……』

「……なぁにペコペコしてんのよシンジもヒカリも。お見合いじゃあるまいし。……あ、シンジはアタシのだからあげないわよ?」

「アスカ姫〜。心配しないでも日本人は初対面だとお辞儀マシンになるだけで、ヒカリンに他意は無いと思うにゃあ。あ、私は真希波マリだにゃ。よろぴく☆」

「渚カヲルだよ。よろしく、洞木さん、鈴原君、相田君」

 

わいのわいの、という表現がよく似合うやり取りはシンジ達チルドレンにとっても新鮮なもの。

 

チルドレン以外の同年代との会話は冗談抜きに絶無だった彼らにとって、レイのお願いによって実現したこの会談はいい気晴らしになっていた。

 

「アスカ。洞木さんは鈴原君と付き合ってるから平気」

「ん? そうなの? ……ねぇ、レイ。それって言って良いやつ?」

「? ダメなの?」

『ダメな奴だよ綾波さん!?』

「あー……うちのレイがご迷惑をおかけしてます……」

『ははは、碇が気にする事じゃないさ。俺達も慣れてるしね……あ、苗字呼びで良いよな? 俺は相田でもケンスケでも好きに呼んでくれ』

「うん。よろしく相田君、鈴原君」

『よろしゅうな』

『おう! ……それで、碇。実際、あの雑誌みたいに付き合ってたりするのか? パイロット同士で』

 

興味津々、と顔に書いてあるケンスケ達3人。雑誌に思いっきり書かれた『美形パイロットカップル』の存在は、同年代の少年少女にとっては大変気になるネタであるらしい。

 

「えっと。そうだね。……アスカは僕の彼女だよ」

「四年後にはアタシがお婿にもらったげる予定よ」

『素敵! ねぇねぇどんな感じで付き合ったの?』

「お、恋バナかにゃ? 恋愛マイスターの私も混ぜて欲しいにゃ!」

「恋愛マイスター……。恋愛、マイスター……。フッ」

「カヲルなんで今鼻で笑ったのにゃ!?」

『良いなぁ、恋人持ちは。羨ましいよ』

「相田君は居ないの?」

『おいおい綾波、俺はこの通りオタクだしモテないぞ?』

『あれ? 相田君この前山岸さんと本の貸し借りしてなかったっけ』

『いや、委員長。それをモテエピソードにカウントするのは流石にひどいぞ……?』

『えー? そうかしら』

「ちょっとちょっと、スルーは傷つくにゃあ!」

「君が拾いにくいボケをするからだよマリ。……しかし恋か。良いねえ、青春って奴なんだろう? 鈴原トウジ君」

『ワシに振るんか!?』

「お、ジャージ君がヒカリンについて惚気てくれるのかにゃ?」

『ちょ、アホ抜かせ、そんな恥ずかしい事……!』

「しないの? 鈴原君が洞木さんに毎日お味噌汁を作って欲しいって————」

『綾波ぃ!?』

『綾波さん!?』

「おお、ジャージ君やるにゃあ!」

「シンジはむしろアタシに毎日お味噌汁作る方よねえ」

「ははは。そうかも。でも、アスカの肉じゃがも美味しいよ?」

「よし、今日は肉じゃがね」

『チョロっ!? それで良いのか惣流!?』

「覚えときなさい相田。アタシはシンジにだけチョロいのよ」

『委員長はトウジにだけ厳しいのにな』

「へー。尻に敷かれてんのね。良かったわねシンジ、仲間がいて」

『……のう、碇。ワシお前の事センセって呼んでも構わんか』

「……うん。僕もトウジって呼んでも良いかな」

 

尻に敷かれる亭主同士分かり合うシンジとトウジ。そんな彼らを揶揄うのはケンスケとマリのダブル眼鏡で、カヲルとレイが茶々とボケを入れ、ヒカリとアスカは亭主自慢で意気投合。

 

そうしてすっかり仲良くなった子供達は、打ち解けた時間を過ごして、親睦を深めるのだった。




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