【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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深謀遠慮

「これって本当に特訓になってんのかしらね?」

「まぁ割と感覚的だもんねATフィールド。でも使い慣れとくに越した事は無いんじゃないかな?」

「シンジくんの言う通りだよアスカちゃん。ちょっと楽しんでやろうとしてるだけで、訓練メニュー自体は真面目に検討したものだとも」

 

そう告げるサキエルの前で、アスカとシンジが行っているのは卓球。

 

カンコンカンとリズムよくラリーを続けるシンジとアスカはしかし、常人には何も持っていない様に見え、そもそも卓球台も無いということも相俟ってパントマイムをしている様にしか見えない。

 

だが事実としてピンポン玉はそこにラケットと卓球台があるかの様に跳ね回り、ゲームが成立している。

 

その仕掛けは、『卓球台もラケットも全部ATフィールドで構築して卓球で遊ぶ』という今日の訓練メニューによるものだ。審判兼データ取りの為に参加しているマヤとリツコはその状況を特殊カメラ越しに観測し、スコアを付けている。

 

そんなシンジ達を横目に、レイとカヲル、そしてマリの3人は、机に座って談笑中。

 

だが彼らは彼らで、キチンとATフィールドの訓練を実行している。彼らが囲んでいるテーブルの上にあるのは、トランプの山。やっているのは罰ゲームありのポーカーだ。

 

この時点でわかるだろうが、これはATフィールドの中和訓練。自身の心を読まれないように表層のATフィールドをより複雑に、より強固に進化させ、手札を読まれることを避けるのがその目的だ。

 

目的、なのだが。

 

「レイパイセン、ATフィールドは完璧なのに表情筋がゴミカスすぎるにゃ……」

「どうして……」

 

電話猫と化したレイは、現在連敗記録を更新中。表情豊かな方ではないが、逆に表情筋を鍛える機会が無かったせいかレイの表情は割と読みやすいのだ。

 

現在ポーカーは、表情を自在に変えるカヲルの圧倒的得点差で進行しており、どうやら罰ゲームをレイが受けるのは確定になりそうである。

 

ちなみに負けた場合の罰ゲームはセンブリ茶。とっても苦い胃薬だ。

 

「むぬぬ……」

「パイセンが神妙な顔に……!」

「いや、まだ持ち点は残ってるし、今から飲む覚悟決めなくてもいいんじゃないかい、綾波さん」

 

そう告げるものの手は抜かないカヲル。可哀想だと思いつつも負けたく無いので勝ちに行っちゃうマリ、緊張でATフィールドがざわざわしてきたレイ。

 

1人だけカイジみたいな空気感のポーカーになりつつあるATフィールド特訓は、楽しいながらも真剣に進んでいるのだった。

 

 

* * * * * *

 

 

一方その頃。サキエルは、大量の分体を用いて各種業務を熟す傍らで、自身の身に起こりつつある変化を真剣に受け止めていた。

 

————インパクト級のエネルギーが既に発揮出来る。

 

アダムの肉体を取り込み、今まで現れた9体の使徒からS2機関を吸収し、イロウルからは魂すら奪い取った。

 

それらの飽くなき自己強化は、サキエルという総体に真の意味で『無尽蔵のエネルギー』を与えるに至っている。

 

だが、その鍛え上げた超パワーそのものが、今サキエルを悩ませていた。

 

ネルフの支配は順調。日本そのものにすら手を伸ばしており、サキエルの生存戦略は安定していると言っていいだろう。

 

だが、そんな彼にとって唯一の懸念が、現在ゼーレの手にあると思しき神槍、『ロンギヌス』。サキエルが本気を出せば、おそらくその力に照準して地球の裏からでもすっ飛んで来てしまうその槍は、サキエルにとって非常にマズいものだ。

 

何しろ、アレこそはアダムとリリスの制御装置。リリスが持っていた筈の槍はファーストインパクトで何処かに行ってしまったようだが、アダムの槍は地球に健在。それを以てコアを貫かれて仕舞えば、流石のサキエルも活動を停止してしまう。

 

そうなれば待つのは死だ。チルドレンの育成に熱心かつ、リリスたるレイを特に甘やかしているのはその辺りが原因だったりするのだ。

 

エヴァが健在でチルドレンと仲が良ければ槍を抜いてくれるだろうし、リリスであるレイなら槍の主導権を奪える筈、というわけだ。

 

そして、ゼーレがロンギヌスをブチ込みそうな最大のタイミングこそ、最強の使徒との闘いの最中。

 

『第14使徒ゼルエル』。サキエルの演算機能はこの使徒に対しては全力で当たる必要があるという予測を弾き出しており、計算上本気で戦えば槍の飛来も込みで『相打ち』に持ち込めるはずなのだ。

 

であればサキエルがまず行うべきは、自身が活動を停止させられた後の復活の下準備。

 

それについてはもちろん諸々の手を打っており、第一の布石は強化されたエヴァ。第二の布石は、JA。そして第三、本当にどうしようもない時の布石も既に打ってはいる。

 

だが最善を目指すには、とにかくゼルエル戦を優位に進めてしまうのが1番なのだ。

 

理想としては、槍が来る前にゼルエルを瞬殺して速攻で喰らい、槍を受けるまでに少しでも生存率を上げておきたい。だが相手も、伊達に最強と称される使徒ではない。

 

故にこそ、サキエルは知恵を絞る。すこしでも確実な、生存の可能性を掴み取る為に。

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