【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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危急存亡の秋

N2の爆炎が炸裂し、海の水が煮えたぎって白いキノコ雲が上がる中、サキエルとゼルエルの闘いは膠着状態にあった。

 

サキエルがATフィールドを破壊し、ゼルエルが貼り直す。それは千日手の応酬であり、無限の動力を持つ彼らなら、太陽がその身を燃やし尽くして自壊するまで戦い続けることだって可能だろう。

 

だが、防衛すれば勝ちなサキエルに対して、ゼルエルのスタンスは侵攻勢力。当然ながら、膠着状態に先に痺れを切らせたのはゼルエルだった。

 

ビームか、それともまだ知らぬなんらかの能力なのか。ゼルエルの苛立ちを感じとり、警戒しつつも『受け』に回るサキエルはその五体に油断なくATフィールドを張り巡らせ、ゼルエルの攻撃を防————ごうとした。

 

だが、その結果は、訳もわからぬままに右腕を消しとばされたというものだ。

 

————ゴィン

 

と寺の鐘を殴り壊した様な爆音が鳴ったのは覚えている。だが何をされたのかがわからない。

 

そんな困惑と共に肉体を再生させ、ついでに背中に『目を生やして』後方を伺ったサキエルは、そこでようやく、自身の腕を掠めた一撃の威力を認識した。

 

方角的にはちょうど房総半島を挟んで旧東京方面を背にして戦って居たサキエル。だが、彼の後ろにあるはずの房総半島の形状が明らかにおかしい。一直線に舞い上がる土埃。真っ二つになった山。

 

何か巨大な物がその指先でなぞった様に、1直線に綺麗に真っ直ぐブチ抜かれたその一撃の弾道は、宇宙へと抜けており、射程で言えば数百kmにも届くだろう。

 

だが地球が丸い事が幸いし、その総破壊距離は約50kmに留まった。伊豆半島に引き続き房総半島も島になってしまっただけで済んだのは幸いという他ないだろう。千葉を輪切りにして見せたその一撃の正体は、ゼルエルが射出したATフィールドだ。

 

数千、数万枚のATフィールドを僅かにずらしてほぼ同一座標に出現させ、干渉させる事で絶大な反撥力を発生。結果、全てを拒絶する障壁が直線上に全てを抉り抜いて射出される。

 

ゼルエルが行ったのはそんな芸当であり、その一撃は地球の表面に確かな『切り傷』を刻み込んだ。

 

千葉の一部は砕け散りながら宇宙に吹き飛び、速度が乗り切らなかった大きく重いカケラは地球を周回するスペースデブリと化して、やがて隕石群として世界各地をちょくちょく襲う事になる。

 

だが、余波で吹き飛んだ瓦礫が関東にメチャクチャに落下し、ついでにユーラシア大陸にも墜ちまくった程度でどうにか済んでいる。強烈な落石被害ではあるが、人類が滅ぶ様なものではなく、広域関東地域に関していえば避難は完了済み。

 

だが、そうは言っても大ダメージには違いない。

 

2度目を撃たせる訳には行かないサキエルは、ゼルエルを抑え込むべく、改めて『全力』をゼルエルに向けた。

 

行うのは、大量のS2機関に任せた超威力攻撃。ラミエルの荷電粒子砲を連射し、マトリエルの溶解液を噴射してATフィールドを溶かして、ゼルエルの生身を引きずり出すことで、右手に構えたガギエルの『凍結』と左手に構えたサンダルフォンの『灼熱』を全く同時に叩き込む。

 

左右から叩き込まれる強制停止と強制振動の能力でメチャクチャに体内をシェイクされたゼルエルは、苦しげな声を漏らすが、先程の圧縮ATフィールド反撥砲を威力を抑えて乱れ撃つことでサキエルを蜂の巣にして引き剥がし、再びATフィールドの中に籠ろうとする。

 

だが、サキエルはイスラフェルから奪い取った分体能力により即座に自己再生を遂げると、ゼルエルに掛かった自身の体液を媒介にイロウルとバルディエルの権能による侵食を開始した。

 

しかし、その試みはゼルエルが肉体の内側から放出した激烈なATフィールドによって失敗に終わり、フィールドを再び展開したゼルエルは海水や大気すら押し退け光すらも拒絶する黒いATフィールドを生み出して、サキエルを排除するべく再びATフィールド反撥砲を放とうとする。だが、その黒いATフィールドは、飛びかかって来た5機のエヴァによって辛くも中和される。

 

「助けに来たよ!」

「間に合ったわね!」

 

外部スピーカーでそう叫ぶ初号機と弐号機によるATフィールドの光刃がゼルエルの多層ATフィールドを切断し、零号機がその間隙を縫って、ゼルエルの頭部を巨大な『金属バット(バスターホームラン)』でフルスイング。

 

そこに3号機と4号機、そしてJAがプロトンビームを打ち込んで、ゼルエルの体表を穿——てない。

 

 

「かってぇ! アホじゃん!」

「流石はゼルエルだね。兄さんなら行けそうかい?」

「どうにか」

「なら僕らはサポートに回るべきか……」

「それと槍の始末を頼みたい」

「! 老人達が使うと?」

「必ず使う。この戦いが始まった時点で彼らに使わない選択肢はない。彼らは僕がゼルエルを取り込めば、どうなるか理解しているからね」

「まぁ確かにそれはそうか」

「ちょっとサキエル、カヲル、アンタら何ごちゃごちゃ言ってんの!? 作戦は!? 衛星死んでるからネルフと通信出来ないんだし、連携しないとマズいわよ流石に!」

「すまない惣流さん。話が逸れた。散開して相手の動きを封じ————マズい避けるんだ皆!」

 

カヲルの切羽詰まった声に反応し、エヴァ各機は反射的に回避行動を取る。

 

そんな彼らの機体を掠め、浅くエヴァの肌を切り裂くのは、ゼルエルの肉体から展開した無数の帯。

 

凄まじい威力を伴って射出されるそれは強力な斬撃武器であり、どうにか斬り払った初号機のビゼンオサフネはATフィールドを纏わせていたにもかかわらず刃毀れを起こしてしまっている。

 

零号機のバットもへし折れ、可哀想なことに回避の間に合わなかったJAは真っ二つになって海に落ちた。

 

「勿体無いにゃぁ……」

「近接も強い使徒。厄介ね」

「レイ、アンタ武器は大丈夫!?」

「平気。スマッシュホークを使う」

「レイパイセン、武器のセンスが蛮族なのはなんでなのかにゃあ」

「マリ! 余裕ぶっこいてないで集中!」

「はいはーい。姫の仰せのままに〜」

 

 

そんな会話を交わしながら散開して致命には至らないながらも無視できない攻撃を行うエヴァ。そして自分を殺し得る出力を持つ怪物、サキエル。

 

————それらを前に、ゼルエルは自身の『敗北』を予感した。

 

だが、そんなものを到底認められる訳はない。ならば、その障害を排除するのみ。

 

冷徹な演算を行ったゼルエルの次の一手。その身体の周囲をグルリと覆った『空間の歪み』に対し、サキエル達が対応できたのは『運良く初見では無かった』というその一点のみ。

 

シンジとサキエルは『ゼルエルを』ATフィールドで覆い、残るエヴァは初号機の周囲に集まって、ATフィールドを全開にする。

 

 

直後。

 

轟音。

 

衝撃波。

 

火山噴火。

 

 

————それら全てを伴って、太平洋プレートが捲れ上がった。




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