「いやぁ、よく見つけたよねMAGI……」
「運が良いというかなんというか、天文台の観測データに引っかかったみたいですね」
「パターン青、間違いなく使徒ですが……どうしましょうねアレ」
ネルフがそう困惑するのも仕方がない、使徒発見の報。画面に映るのは、天体望遠鏡でめいいっぱい引き伸ばされた観測画像。
マギによる補正処理によって鮮明化されたその画像に写るのは、輝く鳥のような姿の使徒だ。
だが問題なのは、その使徒が存在している場所だった。
「対象は月軌道よりも外側に存在しています。こちらからの手出しは難しいと言わざるを得ませんね」
「40万kmの彼方か……」
そう。第15使徒アラエルは、遥か虚空の彼方に現れたのだ。
「対象の所在は、ネルフ上空に固定されていますね。降下してくるんでしょうか?」
「ネルフ上空に固定……? 今までで最も高速移動している使徒になるわね」
「秒速14.5kmか。ほぼ無重力の真空中とはいえ恐ろしい速さだね」
「ミサイルなどで攻撃する案は無謀でしょうね」
「ジェットアローン3号で飛んで行くのはどうですかね?」
「んー……理論上は宇宙戦闘も可能だけれど流石に相手が悪すぎるね……あれだけ遠くて速いとブースターを吹かす必要があるからプロペラント的に厳しい」
「やはり4号機にはファンネルが必要だな……」
「重力制御装置の高出力化が先では?」
「まぁどの案も一朝一夕には不可能ね。でも、この距離じゃ相手からの攻撃も難しいはずよ。……どうするつもりなのかしら」
「せめて衛星軌道上なら狙撃できるんですけどね」
そんな会話を交わしつつ監視映像を見つめつつ、使徒が何故アレほど遠くに現れたのかと思案するリツコ。流石に遠すぎるせいでエヴァンゲリオンを出撃させる意味がないレベルだが、一応チルドレンには待機命令が下っており、シンジ達5人はプラグスーツ姿で各機体のケイジに控えている。
いっそサキエルの荷電粒子砲は? とルイスに目配せするリツコだが、ルイスは僅かに首を振ってその案を却下する。
相手の出方がわからない上に、やはりどう考えても遠すぎるのだ。狙い撃っても減衰しきったビームをATフィールドで普通に防がれるだけだろう。
唯一どうにか出来そうな
そんなルイスことサキエルの思惑も含め、ミサト、リツコ、ルイスの3名での相談の結果、ひとまずネルフ外殻のATフィールドは起動しているし問題ないか、と相手の出方を見る事にしたネルフ本部。
そんな彼らの注目を集める中で、アラエルは————眩しく輝いた。
「対象発光! ……えー、各種計器に異常なし……」
「エヴァンゲリオン各機、シンクログラフが若干乱れていますが誤差の範囲ですね……」
「アスカ、シンジ君、マリ、レイ、カヲル君、何か気づいた事は無い?」
『なんだろう? 見られてる感じがする……』
『心の中を見られてる』
『なんか探してるみたいなイヤな感じがするわね。……って、ちょっとぉ!?!!?』
「どうしたのアスカ!?」
「パイロットのシンクログラフ、急激に乱高下!」
「目標、光線を収束! 光線の集中点は弐号機ケイジ!」
「弐号機をジオフロント内演習施設に急速発進! ケイジで暴走されたらひとたまりも無いわよ!」
慌ただしい号令。それと共にアスカは弐号機ごとジオフロント内の自然空間に放り出され、しかし光線を振り切ることは出来ずにただただ使徒の輝きに晒されてしまう。
「ダメ、ダメだってば! そんなの見ないでよ! 私の心の中だけにあれば良いの! アンタなんかに見せてたまるか……!」
そう呟きながら頭を抱えるアスカ。パイロットのメンタルを大きく揺さぶるその謎の光に対し、MAGIが下した結論は、可視光波長に変換したATフィールドによる超遠隔シンクロ。侵食と中和に特化していると思しきその攻撃は、あらゆる物体を貫通し、ATフィールドすらも擦り抜けて、アスカの心を直撃したのである。
そして、初めは浅く広く照射されていたそれを現在収束させているからには、初撃は探査、今が本命。
ピンポイントにアスカをわざわざ狙い撃ったその一撃は、果たしてアスカの心に如何なる影響を与えているのか。
外部からは伺いようもないその内実はしかし、漏れ聞こえるアスカの譫言からすれば只事ではない。
「いや、ヤダヤダ、見ないでよぉ!?」
そう叫んでうずくまるアスカとエヴァ弐号機に対し何も出来ない現実。シンジの初号機から鳴り響く出撃要請。
しばしの逡巡ののち、ミサトはエヴァ初号機とシンジを以って弐号機内部のアスカにシンクロし、彼女を救出するようにシンジへと命じる。
だがその命令の結果は、シンクロを開始した直後にシンジが発した「うわあああぁ!?!!?」という素っ頓狂な叫び声で、その失敗を周囲に知らしめる事となるのであった。
* * * * * *
そして。外部の心配も届かないアスカの心の奥底で。
精神世界を使徒に侵食されているアスカと、そこに割り込んだシンジは、とてつもない辱めを受け、その精神を嬲られていた。
精神世界を乗っ取った使徒の手によって、今この精神空間では、引き摺り出されたアスカの記憶が、現実の如きリアリティで再現されているのだ。
そして、現在展開されているのはアスカとシンジがデートで訪れた観覧車の中で、熱烈なキスをしているシーン。
そしてそれを熱心に、舐め回す様に観察している、ぼんやりしたヒト型のシルエット。
『アタシ、今晩アンタを抱くわ』
『アタシ、今晩アンタを抱くわ』
『アタシ、今晩アンタを抱くわ』
「やめて!? 繰り返し再生しないで!? なんでそんなことすんのよ!?」
「言われてる時の僕の顔、ジロジロ見ないでよぉ!?」
剥き出しの心の中故に、溢れ出してしまう羞恥心。
そして、使徒が知りたがって居るのは心の中故に、アスカのその当時の内心すらも、使徒の手により暴かれてしまう。
『(ほっぺ真っ赤でモジモジしちゃって、わっかりやすいんだから。はぁ……可愛すぎじゃない? コイツ。もっと全部、シンジの可愛いところ、恥ずかしいとこ、全部欲しくなっちゃう……。ああもう! 焦ったい! いつ誘ってくれるのよ? 今いいシチュエーションよね? シンジって目の前の美少女押し倒したいとか思わないわけ? もういっそ、アタシがシンジを抱けば良い気が……アリね?) アタシ、今晩アンタを抱くわ』
「ぎゃあああああ!?!!?」
「あ、アスカ!? そんなこと思ってたの!?」
「ち、違うの! いや違わないけど違くて! アンタが可愛すぎなのが悪いのよ!」
「そんなぁ!?」
人の心を知ろうとする使徒が生み出した、阿鼻叫喚の羞恥地獄。アスカとシンジがその中に囚われていたのは、外界時間で僅か1時間。
しかしその内部時間においては数日間が経過している。
鳥の群れが啄むが如くに記憶を突きまわす使徒アラエル。超遠距離からの精神干渉者にして鑑賞者は、アスカとシンジを、かつてないほどに追い詰めるのであった。
「ちょ、ちょっと!? 流石にシてる最中はダメでしょ!?」
「やめて、いや、やめろよぉ!?」