【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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速戦即決

「パターン青出現! 本部直上です!」

 

突如鳴り響く警報。現れる使徒。最後の使徒の登場は今まで同様の唐突なものであり、それに際してネルフがエヴァンゲリオンを出撃させるのも、今まで通りといえば今まで通り。

 

だが、そこで一気に戦端が開かれるのは、久々の事だった。

 

円環状の二重螺旋、ちょうどプラスミドの様な姿の使徒アルミサエルは、エヴァを認識するなりその螺旋の身体を解き、蛇の如く鎌首を擡げて猛然と襲いかかってきたのである。

 

もちろん、エヴァにはATフィールドが存在し、さらにいえばしっかり武装している。今更になって物理攻撃に訴えるというのは、単純に考えれば『無謀』だろう。

 

だがアルミサエルはあろうことか、エヴァのATフィールドを濡れたトイレットペーパーの如くたやすくブチ抜き、自らを叩き伏せようとするエヴァ初号機の武器をその肉体の頑強さで逆に破壊するという恐ろしいパワーとタフネスを発揮したのである。

 

「なッ————!?」

 

咄嗟に体捌きで回避し、背部ウェポンラックから予備の武器を取り出すことで辛くも直撃を避けたシンジだが、アルミサエルはその身体をうねらせると初号機を強かに打ち据える。

 

だがシンジとて使徒と戦い続けた歴戦のパイロット。その一撃の勢いを逆に利用して、アルミサエルから距離を取った。

 

「久々に戦闘タイプって感じねコイツ……でも、シンジのATフィールドを一瞬で中和するって事は……!」

「侵食タイプ。みんな、気をつけて」

「タフネスばっちりな侵食タイプとかウザすぎるにゃあ……!」

 

散開して距離を取り、プロトンビームやATフィールドの刃を飛ばして攻撃するエヴァ。しかし『生身が異常に頑丈』というATフィールドに頼らない超ストロングスタイルなアルミサエルに対しそれらは一切の効果を及ぼさない。

 

そして厄介なことに、アルミサエルは戦いの中で急速にエヴァの動きに対応し始めていた。

 

肉体を枝分かれさせ、無数の触手と化して襲いかかるアルミサエル。縦横無尽なその攻撃に対し、次第に追い詰められるエヴァ。もし稼働当初のエヴァであれば、今までに数百機は壊されているだろう激しい攻防を、チルドレンは飛行能力やATフィールドの活用で避け続け、必死になって反撃を試みる。

 

サーカスの如く縦横無尽に宙を駆ける触手の群れ。

 

ATフィールドで宙を踏み台とし、その猛攻を避け続けるエヴァ。

 

だが、チルドレン達を攻撃するその無数の触手は、決してアルミサエルの本命では無い。

 

「対象、ジオフロント外殻を侵食! ATフィールド展開用エヴァトルソー、汚染されます!」

「まっず!? マヤちゃんシスターズとトルソーのシンクロを強制カット! アイツ、シンクロを媒介に本部に入り込むつもりだわ!」

「カット成功! 対象の侵食は外殻蛋白壁(サキエル細胞)で拮抗中!」

「狙いは本部か……!」

「使徒の構成組織が外殻を覆っていきます……!」

「アスカ! コアみたいなものは見当たらないの!?」

『ぱっと見た限りじゃ見つからないわ! でもコイツ、この感じ————全身がコア……?』

「そんな!?」

「リツコ!? ……全身がコアってどれだけヤバいの?」

「今までの解析に基けば、コアは使徒の本質的な器官。コアさえ無事ならいくらでも再生できる……もしアスカの予想が事実なら、あの使徒は全身を一気に破壊しない限り殲滅不可能よ……!」

 

告げられるのは絶望的な予測。外殻を覆った使徒を殲滅するには、使徒の全身を吹き飛ばさねばならない。その内容が意味するところは、使徒が本部を丸ごと人質に取ったという事実だ。

 

そして、使徒の暴挙に動揺するエヴァに対し、人質を得て有利を取ったアルミサエルは攻撃の厚みを増して、いよいよ彼らを追い詰めていく。

 

シンジとアスカ、マリとカヲル。そしてレイ。器用に触手による誘導で5機のエヴァを分断したアルミサエルは、孤立したレイの零号機を網の様に取り囲み、一斉にその先端を突き立てていく。

 

その地獄めいた鳥籠の中で、必死にアルミサエルの猛攻を凌ぐレイ。だが、徐々に狭まる鳥籠は零号機を完全に拘束し、それを救出しようとする残り4人も、レイを助けに回る余裕がないほど追い詰められている。

 

初号機は既に四次元ATフィールドによる爆砕を駆使してアルミサエルの猛攻に対処し、弐号機はアスカが使徒アラエルとなったこともあり使徒としての十文字ビームを駆使して光の翼で触手を掻い潜る。

 

マリの3号機はその獣の体躯と背負ったプロトンビーム砲で触手の槍衾を振り払い、カヲルの使徒としての力を受けた4号機は、超高出力ATフィールドでアルミサエルを纏めて切り裂いた。

 

それでも、レイの救出に向かうにはあまりにアルミサエルの攻撃の層は厚く。

 

零号機はシンジ達の目の前で、白く発光するアルミサエルの触手の中に飲み込まれてしまったのだった。

 

 

* * * * * *

 

 

「此処は……」

 

くるぶし辺りまでの水嵩の、どこまでも続く水溜り。そんな不思議な光景の中で、レイの意識は目覚めた。

 

キョロキョロとあたりを見回しても、誰もいない。

 

ただ、鏡の様な水面に、自分の姿が映し出されているのみ。

 

だが、そんなレイの前に水の中から音もなく、自身の写し身が現れた。

 

どう考えても使徒。そして先程までレイは使徒と戦闘しており、アスカからアラエル打倒の顛末を若干盛って聞いている。

 

完璧に揃った条件は、使徒なりの演出なのかのんびり浮上してきている自分の分身に対する閃光魔術(シャイニングウィザード)として結実し、使徒は側頭部を膝で蹴り抜かれるエグい音と共に水切りの石の如く水面を無惨に跳ね飛んでいく。

 

「勝った」

「待て待て待て待て……リリス、それは流石にどうなんだ。いや本当に」

「貴方は敵だから」

「キレたイノシシかな……?」

 

困惑の声と共に、今度は間合いの外に一瞬で水中から現れるアルミサエル。衝撃的なファーストコンタクトに困惑するその姿は、レイに蹴られまいとムチムチナイスバディな優しげなお姉さんの姿を取っている。

 

レイはそんなアルミサエルに警戒の眼差しを——特に胸と尻とバストとそれからおっぱいに——向けると、警戒しつつも構えを若干緩めた。

 

「……敵じゃない……?」

「判断基準が欲望に正直すぎる……!」

 

リリスの魂とエヴァの吸収により擬似的に知恵の実を再現し、高い知性に目覚めたアルミサエル。

 

取り込んだリリスの魂と対話するべく精神世界での対面に臨んだ最後の使徒は、あまりに自由なその在り方に戦慄しつつも、その目的を果たすべくレイに向けて言葉を発する。

 

「リリス。私と共に、全ての使徒とヒトの母とならないか?」


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