【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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子供たちよ。今は終りの時である。
あなたがたがかねて反キリストが来ると聞いていたように、今や多くの反キリストが現れてきた。
それによって今が終りの時であることを知る。

ヨハネ第一の手紙 2章18節


1john 2:18

世界を2度は滅ぼせるほどのN2爆雷の雨霰。

 

加持が伝手を辿って得た情報によれば、国外においては『使徒が完全に本部を侵食しサードインパクト目前』との報告がネルフ支部を通じて発表されているらしい。

 

そりゃあまぁ、ありったけのN2をぶっ放すわけである。では日本国のあちこちに流れ弾が落ちているのは何故なのか、といえば理由は実に単純で、『今地球には人工衛星が一つもないから』である。

 

ゼルエル戦の影響でデブリに覆われた宇宙。それにより人工衛星が悉く壊滅し、弾道ミサイルは自前の慣性制御装置だけで日本を目指しているのだ。アメリカやソ連はそれでもさすがに優秀なセンサを積んであるのか至近弾が多いが、国によってはGPSに大きく頼ったタイプのミサイルもあり、それらはひどいものだと襟裳岬や潮岬に落ちている。

 

だが、それら全ての爆雷を、サキエルのATフィールドは完全に遮断していた。

 

完全生命体に至った事で事実上無限の出力を得たサキエル。事前の仕込みも相まって日本全域を離島を含めて完璧にカバーする彼のATフィールドは表向きエヴァ技術の応用とされている。

 

だが、そんな無敵の盾を以ってしても、民衆の恐怖心までは止めようがない。無論、パニックにならない程度の軽い心理誘導は行なっているが、このクソ忙しい状態で民衆一人一人の不安をシンクロで取り除く余裕はサキエルには無かった。

 

とはいえだ。散々作りまくったシェルターは有効活用されており、国民としても避難所生活は長い。恐慌も、数時間経って『なんかバリアで攻撃を防げているらしい』という事実が知れ渡れば随分と落ち着いた。

 

斯くして、数多のN2爆雷を凌ぎ切り、周囲の海が吹き飛んだ事による妙にしょっぱい雨をもATフィールドで弾きながら、日本国はその形を保ち、戦況は第二ラウンドへと移行した。

 

ネルフ支部で建造されたエヴァンゲリオンの起動。サキエルはそれを妨害しようと、本部にハッキングをかけて来ていた支部のMAGIコピーにクリフォトで逆侵攻を掛けて自爆決議を発議する。

 

しかし各支部はMAGIコピーを自閉モードにする事でそれに対応し、自爆による一挙解決は不可能となった。

 

とはいえ、その対応は十分に予測可能なもの。サキエルの本命は、各国支部のMAGIにイロウルの如く情報化したサキエル細胞を感染させ、向こう側の情報をかき集める事だ。

 

そこで判明したのは、エヴァンゲリオン量産機の増産計画と、ロンギヌスコピーの配備。

 

おおよそサキエルの読み通りの展開に対し、サキエルは日本の周囲に貼ったATフィールドを『ちゃっかり取り込んでいた』ゼルエルの権能を用いて複層化させる。

 

もはや起動してしまったエヴァンゲリオン量産機。それを前にサキエルにできるのは、自閉モードのMAGIコピーの中から各種データをもぎ取る事ぐらいだ。起動自体は阻止できず、気色悪い白ナマズの様な量産機は既にリフトで射出されてしまっているので、今更支部を自爆させても意味がない。

 

そして、サキエルがMAGIコピー越しに観察するその目の前で、世界の終わりは訪れた。

 

 

* * * * * *

 

 

アンチATフィールド。その正体は実の所、ATフィールドが『臨界に達した状態』を指す言葉だ。

 

言い換えるならば、『神のATフィールド』。無限の自我と無限の出力により発動されるATフィールドは、矮小な生命が持つATフィールドを一瞬にして中和してしまう。故にこそアンチATフィールド。領域内全ての生命を塗りつぶす、神の御業。

 

そんな神の力を持つものは、地球上に元来4つあった。リリス、リリスのロンギヌス、アダム、アダムのロンギヌス。この4つである。

 

しかしこのうちリリスのロンギヌスは失われて久しく、リリスとアダムは各々の理由で魂と肉体を分たれて、完全な姿で残る『神』はアダムのロンギヌスのみとなった。

 

そのロンギヌスも今はリリスの肉体を鞘として厳重に封印されており、勝手にアンチATフィールドを撒き散らして被害甚大、などという事は起こり得ない。

 

だが、では今現在アンチATフィールドを発動出来るものは地球上に居ないのか、と言われれば答えは否。

 

生命と知恵の実を併せ持つ完全生物はチルドレン達や再誕使徒のレリエルなど複数存在し、彼らは皆アンチATフィールドに『近いもの』を発動させる素質を持っている。

 

それが完全でないのは、『無限の自我』という条件。チルドレン達のアンチATフィールドはあくまで彼らのATフィールドの出力が極限にまで高まったものであり、星を覆うような巨大なエゴなど持ち合わせてはいない。

 

 

————サキエルを除いては。

 

 

ガギエルを捕食しイスラフェルが現れた段階でサキエルが堕天させられ、アダムの使徒としての格を堕とされたのはこの点故だ。危ぶまれたのは、使徒に目覚めた明確な自我。

 

ゼーレはサキエルの魂が得たエゴを恐れ、無垢であるべき使徒としての魂から除外したのである。

 

イスラフェルの分裂能力を獲得すれば、サキエルの自我が急拡大する事は明白。故にこそ堕天させ、彼の肉体を『ヒト』に堕とす事で武器の類を奪い去ったのだ。

 

だが彼らの予想以上に自我を進化させていたサキエルは、イスラフェルを喰らい更なる進化の道を歩んだ。

 

次なる手として用いたロンギヌスのオリジナルは『キチンと魂に当たっていれば』サキエルを無力化できたが、それについてはサキエルが絶体絶命のピンチでありながら『肉体を完全には統合しなかった』事で破綻。

 

斯くしてゼーレの思惑通りには行かなかった『サキエル』は、皮肉にもゼーレの呼称した通り『サマエル』と呼ぶに相応しい存在にまで至ったのだ。

 

サマエル、サタン、ヤルダバオト、デミウルゴス。

 

神話に語られるところの『偽りの神』ないし『アンチキリスト』と化したサキエルは、超越者としての強大な自我とエネルギーを以ってアンチATフィールドすらも我が物としたのである。

 

彼が、ATフィールドを多層化したのもこの為だ。

 

究極のATフィールドたるアンチATフィールドを受け止められるのは、アンチATフィールドのみ。だがそれをそのまま行使すれば、サキエルのエゴに塗りつぶされて日本は滅ぶ。

 

故にこそ、最外部に発動させたアンチATフィールドの衝撃をサキエルは段階的に出力を落とした多層構造のATフィールドで受け止め、自爆を防いだのである。

 

しかし。

 

そういった繊細な配慮は、ゼーレのエヴァたる量産型には一切無い。

 

 

————エヴァ量産型の出撃直後、支部への激烈な振動と共に、その内部の生命反応が途絶していく。

 

魂の収奪を開始したエヴァ量産型により世界各地で同時多発的に展開されたアンチATフィールドは、際限なく拡張しながら世界を赤く染め上げた。

 

ヒトも草木も動物も、その全てをLCLへと還元しながら大地に光の十字架が立ち上がり、アンチATフィールドの発動に伴う物理的衝撃波がネルフ支部を吹き飛ばす。

 

サードインパクト。人類にとっての一つの終わりが、今まさに始まった。


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