「ふわぁ……」
あくびをしながら俺は睡眠不足の目を擦る。
俺の名前は暁暦。歴史探求が趣味の身体的な特徴さえ除けば平々凡々などこにでもいる普通の高校生だ。
まさか、歴史探求でここまで調べる羽目になってしまうとは……殆んど寝れてない。授業を聞くのも億劫だし、寝よ……。
「ねぇ、あの人……」
「痛ましいわねぇ……」
通りすがりの高校生から痛ましいものを見るような同情の視線に少し苛立ちながら逃げるように学校の中に入る。
俺には左肩から先がない。
二年前、当時人気ボーカルユニット『ツヴァイウィング』のライブを観に行った際に起きた悲劇によって左腕を完全に消失してしまったのだ。
だが、これでもまだ運が良い方だ。あいつらに襲われて、生きていること自体が幸運なのだ。
「……寝よ」
教室に入りさっさと席に座り、眠り始める。
「やっと終わった……」
今日の授業が終了し、俺は何時もの帰路に着く。
授業の内容はどれもそこまで難しくないから居眠りしていてもついていける。逆に先生の注意の方が面倒臭くて大変だった。
「……そう言えば、あいつらもこの街に来ていたよな」
小高い丘の上に立てられた私立リディアン音楽院を見上げる。
立花響と小日向未来。俺のかつての友人であり幼なじみの少女たちはあの学園に通っている。
……正直に言って、あの学園はきな臭い。
確かに、音楽の名門校であることは認めている。『ツヴァイウィング』の片翼、風鳴翼はあの学園に通っていることもあって人気だし、授業のレベルもかなり高い。
だが、夜中辺りに借りているアパートの寝室から見えるのだがたまに黒塗りの車が走っている。それも、リディアンに向けて。何か重大な事を隠していると踏んでいる。
「だがまぁ、それが何か分からないが」
これはあくまで予想に過ぎない。だからこそ、つまらない予想から今日の夕食の事を考えながら歩く。
「よし、これで買い終えたな」
エコバッグにこれでもかと言うほど詰められた缶詰めとご飯を持って自室の中に入る。
缶詰めは本当に万能だよ。調理済みだから出すだけで良いしアレンジも簡単だ。この数ヶ月、殆んど缶詰めか外食ばかりだ。
「うん……?」
荷物を部屋に置いていたらテーブルの上に何かが置かれている事に気がつく。
胡桃程度の大きさの木の実で光沢があり金属の塊のようにも見える。
あんなもの、俺は置いてあったか……?まあ、そんなことは今はどうでも良いか。珍妙な物なんて、この世界には結構あるしな。
「さて、さっそくネットサーフィンでもしますか」
部屋の片隅に備え付け備え付けられているパソコンの前に座り、キーボードをいじる。
今日は北欧神話について調べよっと。神話って一度沼に嵌まると一生抜け出せなくなるんだよな。ソースは俺。
―――だが、この時の俺は知るよしもなかった。