夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第9話 大爆発!捨て身の魔導師2人や

 

 

 PM8:53海鳴市中丘町・八神家

 

 ゼロは夕食の後片付けやその他の雑用を終え、リビングではやてとお茶を飲みながら、 まったりテレビを観ていた。

 

「ん……?」

 

 お茶請けの塩煎餅に伸ばした手がピタリと止まる。ゼロは首を傾げた。はやてはそれに気付き、

 

「ゼロ兄……どないしたん?」

 

 怪訝そうに聞いて来る少女に、ゼロは難しい顔を向け、

 

「今……声が聴こえた気がするんだが……? 今の感覚と言うか、今のやり取りにも覚えが……」

 

 その時ゼロの頭の中に、意味ある言葉が響き渡った。

 

《ゼロさん……ウルトラマンゼロさん……き…… 来て下さい……このままじゃみんな殺られる……!》

 

 間違い無くユーノの声だった。前回の出会いで念話のパターンは大体解っている。息も絶え絶えな苦しそうな声。何故かはやてにも、その声が聴こえたような気がする。

 即座にゼロは立ち上がった。はやてはビックリして、持っていた紅茶のカップを落としそうになる。

 

「はやて、ユーノから連絡が来た。かなりヤバそうだ。助けに行って来る!」

 

 言うが早いが、ポケットから2つ折りの『ウ ルトラゼロアイ』を取り出し、開くと両眼に装着した。

 

「デュワッ!」

 

 父親譲りの掛け声と共に、閃光の中ゼロの身体は瞬く間にウルトラマンとしての肉体に変換される。ごく日常のリビングに、非日常の超人が出現した。

 

「がんばってなゼロ兄、行ってらっしゃい」

 

 はやては変身を完了したウルトラマンゼロを見上げ、信頼の籠った眼差しで送り出す。ゼロはつり上がった光る眼で少女を見下ろし、

 

『行って来るぜ!』

 

 力強く言葉を残し、その場からかき消すように姿を消した。

 

 瞬間移動テレポートで家の上空に出たゼロは、ユーノの念話が聴こえた方向に向け飛び 立った。

 瞬間移動は正確な位置が解らない場合、目的地を通り過ぎてしまいタイムロスする恐れがある。急ぐならこの方が速い。

 

 ゼロは一気にマッハの速度で市街地中心部に向かった。その様子を目撃した者が居たならば、空気との摩擦熱で真っ赤になった楕円形のフィールドに包まれ、夜空を天翔る超人の姿が見て取れただろう。

 

 1分も掛からず市街地上空に着いたゼロは、 街中に張られたドーム型の結界に気付いた。常人には知覚すら出来ない結界も、彼の特殊な眼にはハッキリと判る。

 

『あれが結界ってヤツか……どう入る? ぶち壊して無理矢理入るか……?』

 

 結界の事は既にユーノから聞いている。力押しを考えたが、結界内に巨大な影を感じた。

 

(駄目だ、何か得体の知れないデカイ奴が居る? 壊すとヤバイな……そうなると……)

 

 周りへの被害を考え躊躇するゼロの頭の中に、ユーノの悲痛な声が伝わって来た。

 

《なのはごめん……もう駄目だ!》

 

 もう一刻の猶予も無いようだ。ぐずぐずしている暇は無い。

 

『結界内に強制テレポートしか無い! 何とかなんだろう! ウオリャアアアッ!!』

 

 ゼロは結界に突っ込んだ。同時に強引にテレ ポートを敢行する。その姿がドームを前にフッと消え失せた。

 

 結界内では今正にグリーンモンスが、ユーノ達を踏み潰さんとしている。不気味な緑色の巨体が2人に迫ったその時、辛うじて侵入に成功したゼロが姿を現した。

 

『ユーノ、なのは、危ねえ! 野郎ぉぉっ!!』

 

 グリーンモンスに殴り掛かりながら巨大化する。人間サイズから身長49メートルの巨人に、本来の大きさに戻ったのだ。

 その勢いのまま、グリーンモンスに強烈な正拳突きを叩き込む。怪物は吹き飛び、派手な破壊音を立ててビルに激突した。ビルの破片と粉塵が舞い上がる。

 ゼロは大地を揺るがし、ユーノ達の目前に雄々しくそびえ立った。

 

《ユーノ待たせたな!》

 

 片手を上げ呼び掛ける。そして改めてビルに突っ込んだ怪物の姿を見て驚いた。

 

(コイツは確か……グリーンモンス!? 馬鹿な! 何で此処にあっちの世界の怪獣が居るんだ!?)

 

 一瞬混乱するが、大体の状況は判った。ユー ノ達はグリーンモンスの麻酔ガスにやられたのだろう。 ゼロはユーノとなのはに向け、指先から『メ ディカルパワー』を照射した。

 光が2人を包む と、ユーノは痺れが取れ身体が軽くなっている事に気付く。 小さな四肢を踏ん張って立ち上がるフェレットにゼロは、

 

《取り合えずは応急処置だ。後は魔法で何とかなるか?》

 

「大丈夫です、これくらい回復すれば、後は僕の回復魔法で充分です……所でゼロさん……その姿は……?」

 

 ユーノはなのはに解毒の魔法を施しながら、 尤もな質問をする。知り合いが巨人になって現れたら、誰だって驚くだろう。ゼロは親指で自分を指し、

 

『俺の本当の大きさは元々こっちなんだよ』

 

 久々の巨大化で少しスッキリしたように説明した。ユーノは流石宇宙人だ……と感心するやら呆れるやらである。

 一方ビルの下敷きになっていたグリーンモン スは、怒り狂ったように瓦礫を跳ね除けて起き上がった。 悪い事にその大きな瓦礫の幾つかが、路上で動けなくなっていたフェイトとアルフに降り注ぐ。

 

(何ぃ? 他にも人が居たのか!?)

 

 それに気付いたゼロは猛然とダッシュした。 フェイト達の盾となり、瓦礫の雨を背で受け止める。

 まだ意識があったフェイトとアルフは、その光景に驚いていた。身体が動かない上に降り注ぐ瓦礫。もう駄目だと思った時に、とんでもないものが現れ自分達を救ったのだから。

 

(……こ……この巨人は何……?)

 

(な、何なのさ……コイツは……?)

 

 目を見張るフェイト達だが、ゼロも彼女を認め驚いていた。

 

(なっ? フェイトじゃねえか……? 何でこんな所に居る!?)

 

 驚きながらも瓦礫を除け立ち上がる。フェイト達から、なのは達と同じような気配を感じ た。ウルトラマン形態だとそれが良く判る。

 

(フェイトも魔導師だったのか……)

 

 事情を知らないゼロは、ユーノ達の手助けにでも来たのだろうと単純に思ってしまった。直ぐにフェイト達にもメディカルパワーを照射する。

 痺れが取れて行くのをアルフは感じた。身体が動くと直ぐに身を起こす。だがそうしている内に、グリーンモンスが此方に向かって来ていた。

 

『それで動けるな? 後は魔法で何とかしてくれ!』

 

 ゼロはそう伝えると、フェイト達から離れグリーンモンスを誘導する。アルフは少女の姿になると、フェイトを抱え上げた。

 

「誰だか知らないけど、礼は言っとくよ!」

 

 律儀に返すと距離を取り、建物の陰に入るとフェイトの解毒を始めた。グリーンモンスと対峙するゼロは、その様子を視界の隅で捉え、

 

(あの狼……アルフだったのか……)

 

 驚くが今は目前の敵に集中する。グリーンモンスが、腕のような触手を振り上げ襲い掛かって来た。ゼロは素早くバックステップして回避する。

 外れた触手が後ろの大型マンションに降り下 ろされ、一撃で瓦礫の山と化す。恐るべき威力であった。『ジュエルシード』とフェイトとなのはの魔力を吸収して、以前の個体とは桁外れのパワーだ。

 100メートル以上はある巨体でも、不気味な程素早く動く。かわしたゼロに軌道を変え、体 当たりを仕掛けて来た。

 

『ウオッ!?』

 

 不意を突かれたゼロは、猛烈な体当たりを浴び吹き飛ばされてしまう。巨体が商店街に倒れ込み、店舗が軒並み瓦礫と化してしまった。

 

 ここぞとばかりにグリーンモンスは襲い掛かって来る。知性と呼べるものが存在しているか不明だが、まるで知恵ある者のように狡猾に見えた。

 やはり誰かに操られているのかとゼロは推察する。脚も存在しないというのに、ヌメヌメと滑るようにアスファルトを移動しゼロに迫って来た。

 

『舐めるなあっ!!』

 

 無人の商店街を踏み潰し立ち上がったゼロは、グリーンモンスの突撃を真っ向から迎え撃つ。 脚元のアスファルトが衝撃で砕け散り、地面にめり込んだゼロの脚がズルッと後退する。このまま押し切られてしまうのか?

 だが其処でグリーンモンスの勢いがピタリと止まる。半分以下の大きさのゼロが、その巨体の突進をガッチリ受け止めていた。

 凄まじいパワーだ。数百万馬力の腕力は伊達では無い。全身の筋肉がメキメキと唸りを上げる。

 

『調子に乗ってんじゃねえぞ! このニョゴ ニョゴ野郎っ!!』

 

 ゼロは吼えるように叫び、パワーリフトの要領でグリーンモンスの巨体を頭上まで一気に持ち上げた。

 

『デリャアアアアッ!!』

 

 勢いを付け、ビル街目掛けて力任せに投げ飛ばす。緑色の巨体が砲弾のように吹き飛んだ。 ビルを次々となぎ倒し、街中に数百メートルの更地を作る。現実世界ならとんでもない被害になっていただろう。

 

 その頃ユーノの治療を受け、なのははかなりの回復を果たしていた。治療を継続して受けながら、ゼロの戦闘を見て、

 

「凄いね……ウルトラマンさん、あんなに大きくなれるんだ。流石宇宙人さんだね?」

 

 しきりに感心している。ユーノは宇宙人だからで済むのかなあ……? とは思ったが、それより結界が保つか心配になった。

 

 もう一方のフェイトは、アルフの治療でほぼ体調を回復していた。なのはより経験が豊富な彼女は、咄嗟にジャケットを密閉した為、 吸い込んだガスの量も少なかったのだ。

 

「……あの大きな人は誰なんだろうね……?」

 

 立ち上がったフェイトは、ゼロとグリーンモンスの戦いを見てアルフに訊ねてみるが、

 

「解らないよ……助けてくれたのは確かだけど……あのおチビちゃん達の知り合いなのかね……?」

 

 アルフも困惑するしか無かった。異世界から来た彼女達も、巨大生物ならまだしも巨人の存在など見た事も聞いた事も無い。

 

「……アルフ……『ジュエルシード』は、あの怪物が飲み込んでしまったんだよね? あれは 『ジュエルシード』のせいでああなったのかな……?」

 

「それが……アイツ『ジュエルシード』のせいで怪物になったんじゃ無く、最初から怪物だったみたいだよ。いきなり現れてさ……それくらいしか解らないよ……」

 

 アルフにも見当も付かなかった。不可解な事が多すぎる。今は疑問を置く事にした2人は、 ゼロとグリーンモンスの戦いに視線を戻した。

 

 吹っ飛んだグリーンモンスを追い、ゼロは色の無い街を地響きを立てて疾走する。怪物は叫び声のような音を発して立ち上がり、開口部から緑色のガスを噴出した。周囲がたちまち緑色に染まる。

 

(チイッ、結構効きやがる? だが!)

 

 ゼロは構わず突っ込んだ。ウルトラマンも大気のある所では普通に呼吸している。今はガスを吸い込まないように、外気の取り込みをカットしている状態だ。

 しかしモンスガスは、皮膚などからもジワジワ効いて来る。長時間浴び続けるとゼロとて危な い。

 

 グリーンモンスに肉迫すると共に、透視能力 で『ジュエルシード』の位置をサーチする。直ぐに探り当てる事が出来た。身体の中心部に強い反応がある。

 

『其所かっ!』

 

 ゼロは突進しながら、右手刀にエネルギーを集中させる。『ビッグバンゼロ』の態勢だ。

 本来ならその手刀で相手を切断するのだが、 空手の抜き手の要領で、グリーンモンスの胴体に炎を纏った手刀をグサリと突き刺した。

 

ゴアアァアアアアァァァ!!

 

 緑色の怪物は苦しむように音を上げる。ゼロはウネウネと蠢くおぞましい体内を掻き回し、青く輝く『ジュエルシード』を引きずり出す。 緑色の体液が血のように辺りに飛び散った。

 

『コイツを頼む!』

 

 ゼロは引きずり出した『ジュエルシード』を放り投げた。青く輝く石は丁度フェイト達となのは達が居る場所の中央に落ち、地上1メート ル程で静止する。

 

 『ジュエルシード』を抜かれてしまったグリーンモンスは、みるみる小さくなった。しかしそれでもゼロよりまだ大きい。フェイトとなのはの魔力を食ったので、まだパワー充分だ。だがゼロは恐れはしない。

 

『これでもう容赦する必要はねえな!? この野郎っ!!』

 

 怪物の頭? を下から思いっきり蹴り上げ、 よろけた所に続け様に強烈な突きの嵐を叩き込む。明らかにグリーンモンスの動きが鈍る。

 止めとばかりに放ったチョップが光の壁に遮られていた。

 

『バリヤーだと!?』

 

 緑の怪物の前に、魔法障壁らしきものが展開されていた。先程フェイトとなのはから吸収した魔力を利用したのだ。 術式を組める程では無いようだが、それでも本能的に防御などに転用出来るらしい。

 

『面白えっ! ならコイツを受けてみな!』

 

 ゼロは左腕を水平に伸ばす。光線技の予備動作だ。

 

(奴はエネルギーを吸収する習性があったな……下手な所を狙うと逆効果になる……狙うは開口部内の核だ!)

 

 体内のエネルギーが両腕に集中して行く。その高まりが頂点に達した時、ゼロは両腕をL字型に組んだ。

 

『食らいやがれえっ!!』

 

 目も眩む光の奔流がL字型に組んだ右腕から発射された。『ワイドゼロショット』ゼロの必殺光線の1つである。

 

 光の束がバリヤーを紙のように易々と貫通し、狙い違わず黄色に発光するクロロフィル核に命中した。

 破裂したように大爆発を起こし、グリーンモンスの身体はあっという間に燃え上がる。怪物は断末魔の音を上げる間も無く、炭化し灰となって崩れ落ちた。

 

 一撃で怪獣数匹を同時に葬り去る威力。バリヤー程 度で防げる訳も無い。ユーノの心配通り結界を撃ち抜く恐れがあったので、出力は抑えてある。

 久々に巨大化での戦闘を終えたゼロは人間サイズへと縮小し、なのは達の元へと向かった。

 

 

 その頃フェイトとアルフは、空を飛びゼロが抉り出した『ジュエルシード』の元へ急いでいた。

 

「フェイト大丈夫なのかい? まだ完全に抜けた訳じゃないんだよね?」

 

 アルフはフェイトの身を案じるが、少女は無理をして微笑して見せる。まだ痺れは残っていた。

 

「……これくらい平気だよ……それより早く 『ジュエルシード』を……」

 

 平気なように振舞い、飛行魔法の速度を速めた。

 

 一方のなのは達も『ジュエルシード』の回収に向かおうとするが、なのはが回復しきっておらず出遅れてしまっていた。

 ゼロはフェイト達となのは達が争っているのを知らず、結果フェイト達に有利に働いてしまったのだ。

 

 先に『ジュエルシード』に辿り着いたフェイ トは、直ぐに『バルデイッシュ』で再度封印を試みる。その時だった。何処からか放たれた一筋の光が『ジュエル シード』に撃ち込まれた。

 

「!?」

 

 驚くフェイトの前で、光が命中した青い宝石はドクンッと脈動した。飛来した光の余波でバル デイッシュに亀裂が入り破損してしまう。 今の光は強力な破壊光線だったようだ。

 

「誰だ!?」

 

 アルフは光の飛んで来た方向を探るが、影も形も無い。だがそれ所では無かった。

 

 光線を浴びた『ジュエルシード』が青い光を放つ。それが一気に広がったかと思うと、天を突く光の柱が立ち昇り大爆発を起こした。光線のエネルギーで暴走してしまったのだ。

 

「うあっ…!」

 

「フェイトォッ!」

 

 フェイトとアルフは衝撃波で吹き飛ばされてしまう。近くまで来ていたなのは達とゼロにも衝撃波が襲い掛かる。

 物理的な爆発では無いようだが、衝撃波でなのは達も吹き飛ばされ、ゼロは吹き飛ばされないように顔面を庇い踏ん張った。

 

 一度吹き飛ばされたフェイトだったが、破損したバルデイッシュを悲しげに見ると、労るように装飾品形態に戻し、光を発して暴走状態の『ジュエルシード』の元に走った。

 

 アルフが止める間も無く、フェイトは荒ぶる宝石を両手で押さえ込む。凄まじい衝撃が少女の掌の中で荒れ狂う。

 

「フェイト駄目だ! 危ない!!」

 

 アルフは危険を感じて呼び掛けるが、フェイトは離そうとしない。その時ゼロとなのは達が駆け付け、その光景に唖然とする。

 

 フェイトは無理矢理素手での封印を試みる。 本来なら危険な高エネルギーの塊故に、デバイスを使って行っていた封印を素手でやろうと言うのだ。無茶だった。

 荒れ狂う『ジュエルシード』は、少女の小さな手の中で激しく輝いている。

 

「止まれ……止まれ……止まれ……」

 

 全ての魔力を籠め、フェイトは必死で抑え込む。少しでも気を抜けばたちまち飲まれてしまうだろう。手の肉が裂け真っ赤な血がアスファルトに零 れた。

 見兼ねたなのはが近寄ろうとするが、その前にアルフが立ち塞がる。邪魔は許さないという強い眼差しで。

 ゼロには訳が解らなかったが、フェイトの邪魔をしてはいけない気がした。

 フェイトは懸命に封印を施す。やがて祈るように膝を着く。

 

「止まれ……止まれ……止まれ……」

 

 その姿はまるで、何かに必死の祈りを捧げる殉教者のようであった。フェイトは最後の力を振り絞り低く叫んだ。

 

「止まれ……!」

 

 祈りを聞き届けたかのように、青い光が弱くなって行く。遂に光は完全に止んだ。全ての力を使い切ったフェイトは、ガックリと力尽き崩れ落ちる。

 

 地面に倒れる前に、アルフがその小さな身体をしっかりと受け止めていた。主人を抱き上げ、使い魔の少女はなのは達を無言で睨む。

 少しだけ哀しそうな表情を浮かべると、跳躍しビルからビルへと飛び移ると闇の中に姿を消した。

 

 なのはとユーノは黙ってその後ろ姿を見送るしか無かった。完全にフェイトに呑まれていたのだ。ゼロは状況が解らないのでポカンとするだけだが、

 

(お前の言っていた、お袋さんの用事ってのはこれだったのか……?)

 

 2人が消えた闇を見詰め、心の中で呟いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「それで……そのフェイトちゃんと、なのはちゃんとで『ジュエルシード』を巡って争っとったんか……」

 

 はやてはゼロの話を聞いて、う~んと声を漏らしていた。八神家に戻ったゼロは、リビングで帰りを待っていたはやてに一通りを話している所であ る。

 フェイト達が去った後、なのはとユーノから今までの経緯を聞いたゼロは、

 

『次に会ったら話を聞いてみようぜ』

 

 と提案してみたのだが、なのはは暗い顔をし、

 

「でも……フェイトちゃん……話し合うだけじゃ ……言葉だけじゃ何も変わらない、伝わらないって……」

 

 落ち込んでいる。ユーノも乗り気では無い。そんな2人にゼロは必死で知恵を絞り、

 

『だったらよ……事と次第によっちゃ、『ジュ エルシード』も渡してやるし、集めるのも手伝ってやるって言うのはどうだ? これなら話を聞く気にもなるんじゃねえか?』

 

 と言い出し、なのはとユーノを絶句させた。 流石になのはは首を捻り、ユーノは反対したが、

 

『さっきのフェイトお前らも見ただろう? 何か深い事情があるんじゃねえか? 例えば……親の命が懸ってるとかよ……』

 

 ゼロは力説した。母親の事といい、そうなのではないかと思ったのだ。無論確証は無いが。 流石に本人に聞いたとは言えなかった。

 

 なのはは賛成しユーノは迷っていたが、 フェイトの必死さを目の当たりにした事もあり、悪用する恐れと納得出来るだけの理由が無ければ渡さないと言う事で、取り合えず話だけはしてみようと決まったのだ。

 

「はやてはどう思う……?」

 

 こう言った方面は苦手なゼロは、はやてに意見を聞いてみる。実際この話を言い出したのは、フェイト達となのは達が争うのは良くないと思い、半ば思い付き勢いで言ってしまったのである。

 後々考えてみると、本当にこれで良かったのか自信は無い。小学生に相談事を持ち掛けるウルトラマンというのもシュールだが、ゼロははやてを頼りにしているのだ。

 彼女の聡明さには舌を巻く事がある。状況判断が的確なのだ。指揮官に向いていると言うべきかもしれない。はやては頼りにされ少し照れるが、改めて状況を整理してみて、

 

「やってみる価値はあると思うわ……ゼロ兄は間違って無い思うで……フェイトちゃん訳ありのようやし……」

 

「そうか……」

 

 はやてに言われてゼロはホッと息を吐いた。そんな少年を見てはやては微笑み、

 

「しかしまあ……街で偶然出会った子が魔法少女とは……ゼロ兄はよっぽど魔法少女と縁があるんやねえ……」

 

「そ、そうかあ……?」

 

 ゼロは肩を竦める。道に迷った事は言っていないが、はやてにはバレバレな気がする。早々にフェイトとの出会いの話題は切り上げようと思い、

 

「じゃあそっちはまず話をしてみるとして…… 後は……」

 

「ゼロ兄が居た世界から来たらしい怪獣……グリーンモンスやったね? それと『ジュエル シード』を暴走させた犯人の事やね?」

 

 はやてが先を越して言う。ゼロも改めて表情を引き締めた。

 ユーノによると、あの暴走は何者かが『ジュエルシード』に膨大なエネルギー を撃ち込んだのが原因らしい。その結果小規模ながら『次元震』が発生した。

 

 『次元震』とは空間そのものに作用する危険なものらしい。大規模なものになると世界をも破壊してしまう事もあるようだ。

 ユーノも『ジュエルシード』がそんな事態を引き起こすとは思っていなかったので驚いていた。

 

「ゼロ兄から聞いた話からすると……誰かが結界の中に忍び込んで、怪獣をカプセルなり『バトルナイザー』言うもんなりで呼び出して、更に『ジュエルシード』を暴走させて逃げた言う事やね?」

 

「そうなるよな……」

 

 ゼロは頷くが、そこで腕組みして頭を捻る。

 

「しかしよ……そいつは一体何がしてえんだ……? 少なくとも怪獣が居る世界から来た奴なのは間違い無さそうたが、『ジュエルシー ド』が狙いなら簡単に奪えた筈だ……」

 

 訳が解らなかった。チャンスは幾らでもあった。しかし侵入者は敢えて奪わなかったように思える。

 

「ん~、違うやろか……?」

 

 何か考え付いたのか、はやてはぶつぶつ言っている。ゼロは身を乗り出し、

 

「何だ? 思い付いたなら言ってみろよ」

 

「う~ん……何となくなんやけど……その場を引っ掻き回して喜んどる気がするんよ……愉快犯みたいな……せやけど……」

 

 そこではやては一旦言葉を止める。改めてゼロを見ると、

 

「何か……酷い悪意みたいなもんを感じる気がするんよ……」

 

 何故かこの時はやては、漠然といずれ自分の元にその底知れぬ悪意がやって来る気がして、思わずゾッと背筋を震わせた……

 

 

 

 

 

 

 ゼロとの相談を終えたはやては、自室のベッドに潜り込んでいた。かなり話し込んでしまい、もう真夜中近い。

 しかし色々な事を聞き興奮しているのか、中々寝付けなかった。悪意の事は流石に考え過ぎだろうと思い忘れる事にする 。

 それより頭に浮かんだのは、フェイトとなのは、2人の魔法少女の事だった。自分と同い年で魔法を駆使して戦う少女達。

 

(……私も……なのはちゃん、フェイトちゃんみたいに魔法が使えたらええのに……)

 

 そう思う。羨ましいとはまた違った想いからだった。ゼロははやてに何でも話してくれて、相談もしてくれる。

 それがはやてには嬉しい。だが相談相手にしかなれない自分が時に歯がゆくもあった。それに状況から、これから大変な事が起こるのではないかとの予感もある。

 

(私が魔法使いやったら……相談だけやなく…… ゼロ兄のお手伝いが出来るんやけどなあ……)

 

 もっとゼロの役に立ちたい。手助けしたい。 この時はやては自分が魔法使いだったら……と強く想っていた。

 

 魔法の存在を知り、魔法使いになりたいと願う……

 

 それは本来なら、もう少し後に起こる筈の出来事を早めるのに充分だった。

 

 突如はやては眩い光を感じた。不思議に思い 光の射して来る方向を見ると、本棚に飾ってあった1冊の本が紫色の光を放っている。鎖で縛られたあの本であった。

 

「!?」

 

 はやては混乱してしまう。次の瞬間、部屋全体が光に反応したように激しく揺れ動いた。地震でも起こったようにミシミシと音を立てる。

 はやては恐怖のあまり声も上げられない。彼女の目前でその本が光を発しながら、ゆっくりと宙に浮かび上がる。

 金色の剣十字の装飾が施されている表紙が、まるで生きているように脈打ったかと思うと、本を縛っていた鎖が弾け飛んだ。そして……

 

《Ich entferne eine versiege jung.》(封印を解除します)

 

 無機質な女性の声が響いた。機械が喋っているような冷たい声だ。

 

「ゼロ兄ぃぃぃっ!!」

 

 恐怖の限界に達したはやては絶叫していた。

 

 

 

つづく

 

 

 




超フライングであの人達が登場です。纏め投稿はこの辺りまでで。次回『ヴォルケンリッター参上や(前編)』
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