夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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たいへんお待たせしました。夜天のウルトラマンゼロ更新です。


第95話 復讐鬼ツルク1

 

 

 

 

 闇夜だった。星ひとつ無い空は闇を更に深め、寂れた灯りの乏しい寂れた町を暗黒に落としこめていた。

 その中を土煙を上げて進む数台の車両数台があった。獣の咆哮のごときエンジン音が、狂ったように響く。改造車を駆る若者とおぼしき一団だ。

 整備状態が悪い道路を、狂ったようにスピードを出して走っている。暴走しているようであった。

 しかしそれは、蛮勇などとは違う。必死で逃げている。そのように見えた。まるで何者かに追われているようであった。

 

「あ、あの化け物は何処へ行った!?」

 

 先頭車両の助手席の男がデバイスを構えながら辺りを見回した。その目には怯えの色が強い。

 

「振り切ったんじゃねえのか?」

 

 運転席の男は希望的観測を口にする。それからしばらく狂ったように車両は走っていたが、何も起こらない。一団の中に安堵が広まって行く。だが希望的観測は何時の世も裏切られるものだ。

 

「あっ、あいつだ!!」

 

 先頭車両の男は眼を見張った。進行方向に人影が見える。ライトに照らされ、奇怪な人物が闇夜に浮かび上がった。

 金属のアーマーを着込んだような人物だ。その両手にはギラギラと車のライトを反射する、刃渡り二メートル近くある曲線を描いた異形の刃を携えていた。

 

「こっ、殺せええぇっ!!」

 

 中央の車に乗っていた男の命令が響く。周りの男達は窓から身を乗り出しデバイスで砲撃した。魔導師が幾人か混じっているようだ。

 しかし攻撃が届く事は無かった。怪人は砲撃を眼にも留まらぬスピードで全て回避していた。掠りもしない。人間の反応速度など比では無いのだ。

 怪人は砲撃を全て易々とかわし、先頭の車両に瞬時に肉薄していた。

 

「クソオッ! ひっ轢き殺せぇっ!!」

 

 車両は狂獣の如く怪人目掛けて突進した。だが怪人は避ける様子も無く両手の異形の刃を構え、車両に正面から対峙する。

 すれ違い様に剣閃が、闇夜に煌めいた。

 疾走する車両がバターでも切るように、真中から真っ二つに両断されていた。燃料に引火して爆発四散し、車は派手な火柱を上げる。乗っていた人間達は炎に包まれた。

 燃料の燃える臭いと、人間の焼ける厭な臭気が立ち込める。まだ生きてた者が火だるまで中から飛び出し、悲鳴を上げながら断末魔のダンスを踊り崩れ落ちる。地獄絵図であった。

 

 その中で2人程、魔力障壁を張って無事だった魔導師が飛び出し逃げようとする。戦おうとは考えない。何故ならばここに至るまでに、既に多くの魔導師が攻撃を当てることすら出来ず、無惨に斬り殺されていたからだ。

 

 しかしその胴体は、飛び出すと同時に両断されていた。血を撒き散らしながら上半身と下半身が、地面に叩き付けられ絶命寸前の魚のようにのたうち回る。

 残りの車両に乗っていた者達は恐慌状態に陥っていた。我先にてんでばらばらの方向に逃げようとする。

 だが怪人は1人たりとも生かして帰すつもりは無かった。両手の刃が炎をギラリと反射する。

 怪人は残りの者達に残酷で無慈悲な死を与えるべく、疾走を開始した。

 

 

 

 

 

*************************

 

 

 

 

「宇宙の通り魔……」

 

 移動中の車内で、ゼロは鋭い目付きを更に険しくし、端末機のデータの画像を睨み付けた。

 ドキュメントデータに奇怪な怪人が映っている。金属のアーマーのような物を着込み、両手に異形の刃を携えている。

 

「ツルク星人……」

 

『奇怪宇宙人ツルク星人』ゼロの師匠ウルトラマンレオと戦ったことのある宇宙人である。

 夜な夜な通り魔のように出没しては人間を斬殺し、レオに罪を着せようとした。ウルトラマンレオを一度は破った強敵である。別個体であろう。

 

「得意技は両手の刃による2段攻撃か……」

 

 シグナムの目が鋭くなる。剣で戦う彼女にはツルク星人の恐ろしさが分かるのだ。通常剣は利き手で使うものだ。

 両手に持ったからといって単純に2倍強くなる訳ではない。かの剣豪宮本武蔵の二天一流のように、2本の剣を自在に操れなければ虚仮威しにしかならない。

 ツルク星人は鋼鉄や特殊金属をもバターのように両断する宇宙金属製の刃を、自由自在に操れるのだ。

 そして一撃目をかわせたとしても、次の一撃が相手の首を落とす。レオも厳しい修練の末にやっとツルク星人の剣閃を見切ったのだ。恐るべき相手と言えよう。

 

「ゾッとしねえなあ……」

 

 ヴィータが顔をしかめる。厭な事件だと彼女は思った。陰惨なものを彼女は感じていた。はやても同意して頷き、改めて事件の被害者リストを見直した。

 

「これが被害者の数……」

 

 はやては哀しげに呟く。被害者は老人から幼い子供までも。正に悪鬼の所業であった。

 ゼロ達はこのツルク星人を倒す為、この世界にやって来た訳だ。今はもっとも新しい事件現場を目指しているところである。

 リストを確認していたはやてはふと、妙な違和感を感じた。

 

(何やろ……? この感じは……?)

 

 だが違和感の正体が分からない。もう一度リストを確認しようとしていると。

 

「野郎っ……!」

 

 はやての思考は、ゼロの洩らした声に中断された。隣に座るゼロを見ると、拳を握り締めて端末の被害者リストを睨み付けている。

 

「ゼロ兄……」

 

「悪い……驚かせちまったな……ついな……」

 

 ゼロは謝り視線を落とす。落ち着いたかに見えたが、そうではない。怒りが収まらないのだ。

 握り締めた拳に尋常ではない力が籠っている。被害者の数がゼロの怒りを更にたぎらせているのだ。

 殺された人々にはそれぞれの人生があったはずだ。その人を待っている人達も……それを理不尽に奪うツルク星人が許せなかった。

 

「許せねえ……絶対にぶっ倒してやる……!」

 

 怒り心頭で怒りを口にしているのにも気付かないゼロを、シグナムが嗜める。

 

「落ち着けゼロ……過剰な怒りは冷静さを欠き、後れを取るぞ……」

 

「わっ、判ってる……」

 

 自覚したゼロは一反深呼吸した。まだまだ修行が足りないなと思うものの、こんなものを見せられて怒らない訳にはいかなかった。

 

(みんなの無念は俺が必ず……!)

 

 固く被害者達に誓うゼロであった。

 

 

 

 

 車は寂れた街道を抜け、市街地に入っていた。ようやく落ち着いたゼロはふと、周りの様子に気付く。

 

「何だか静かな世界だな……?」

 

 街は静かというより、妙に静まり返っていた。活気が無い。人通りもまばらで寒々しかった。この世界に来てから、ずっとそうであった。

 

「やっぱりツルク星人を恐れてるのか……?」

 

「それだけやないと思う……」

 

 ゼロの疑問にはやては、静かを通り越して寂れている街並みを見渡した。

 

「どういうことだ?」

 

「この世界は長いこと同じ一族が政権を掌握しとる、言ってみれば独裁政権が支配する所なんよ……あまり良い噂は聞かないみたいや……本当なら管理局にも関わって欲しくなかったんやないかな?」

 

「独裁政権……」

 

「そういうところやと監視の目も有るやろうし、自由もかなり制限されとるんやろうな……正直みんな息苦しく暮らしとるんやないかな……?」

 

 はやては眉をひそめた。そんな所であれば、本来時空管理局にも関わってほしくはなかったであろう。

 この第42管理世界は管理局に加入こそしているが干渉を嫌い、地上本部設置も拒否している。最大限に譲歩し、小さな支局があるきりである。

 最初に対応した政府役人の、非協力的態度が思い出される。あまり余計なことはしてくれるなと言外に匂わされた。

 ツルク星人を何とかして、サッサッと出ていけと言わんばかりであった。

 

「……」

 

 ゼロは無言で、まばらに道行く人々の生気の無い表情を見た。空はそんな人々の心を代弁するように、どんよりと重々しく曇っていた。

 

 

 

*************************

 

 

 

「はあ……なんも話してくれないなあ……」

 

 ヴィータがぶちぶちとぼやく。聞き込みも空振りに終わっていた。誰も協力的ではなかった。目撃者も見付からない。

 人々は関り合いを避けるようにはやて達に、何も知らない、関係ないくらいしか喋ってはくれなかった。

 

「ゼロ……」

 

 シグナムがそっとゼロに囁く。頷くゼロ。こちらを監視している者がいる。

 

「ここの政府の奴か……」

 

 ゼロはうんざりした顔でわざと露骨に振り向いて見せる。角で様子を窺っていたスーツの男達は慌てて引っ込んでしまった。

 

「やれやれやなあ……あれじゃあ、誰も証言なんかしてくれへんわ……」

 

 はやてはため息を吐いた。

 

 

*************************

 

 

 ゼロは人気のまったくない路地裏を独り歩いていた。念の為のパトロールだ。はやては一旦ホテルに戻りレティ提督に連絡。ヴィータははやての警護。シグナムはゼロとは反対の地区を回っている。

 外に出てみると、10時を回った辺りだが人気はほとんどない。車もまばらだ。外灯が寒々しく灯っているのがまた寂れた感じを強くしていた。

 

「奴はまだ居やがるのか……?」

 

 相手が無差別殺人を繰り返すなら、次の標的が何処になるのか分からない。行動パターンがまだ分からない今、警戒するしかない。

 ゼロはしばらくうらぶれた街中を独り歩く。2時間程回ったが特に異常はない。深夜を回り、人気もほとんどなくなっている。何気なく超感覚で周囲を探ろうとした時であった。

 

「ギャアアアアアッ!?」

 

 突如闇夜に断末魔の悲鳴が轟いた。ゴトリと何かの塊が地面に転がる音。もう人通りは全くなかった筈だが。

 

「チイッ! 出やがったか!?」

 

 ゼロが駆け付けると、物凄い血臭が鼻孔を打った。胴体を無惨に両断された男達の死体が、血の海の中物のように転がっていた。見覚えがある。ゼロ達を監視していた政府の男達だ。

 

「貴様ああぁっ!!」

 

 ゼロは怒りの咆哮を上げた。そこに幽鬼のようにゆらりと立つ怪人の姿。両手に異形の刃を携えたアーマー姿。ツルク星人だ。その姿は以前現れた標準的ツルク星人と幾分違って見える。

 怒りに燃えるゼロはアスファルトを蹴って、弾丸の如くツルク星人に殴り掛かっていた。

 

「デリャアアアアッ!!」

 

 ゼロの拳は空を切っていた。ツルク星人は軽く体を横にずらしただけで岩をも砕く鋭い拳を避けていたのだ。

 

(くっ!)

 

 ゼロは追撃を避けて間合いをとる。今の体術を見て侮れないと思ったのだ。左手を前に突き出しレオ拳法の構えをとる。がむしゃらに行っては危ない。改めてツルク星人と対峙したゼロはそこで悟った。

 

(なんて威圧感だ!?)

 

 ただのツルク星人とは思えなかった。ゼロは最初、レオに鍛えられた自分ならば動きを見切り倒せると思っていた。だがそれは甘い考えだと思い知らされる。

 

(油断しているとやられる!)

 

 ゼロは全神経を目前の怪人に集中する。互いに動かない。息も出来ぬ程の静寂。ゼロの額から一筋汗が伝う。汗が頬まで達した瞬間、ツルク星人が動いた。恐るべき速さだ。蹴ったコンクリートが衝撃で一拍遅れて粉々に砕け散る。両手の宇宙金属製の刃が唸りを上げた。

 

(2段斬り!?)

 

 ゼロは咄嗟に身を低くした。反応出来たのは彼ならではだ。常人どころか並みのウルトラ戦士でも、何が起こったかも判らないうちにあの世逝きだろう。

 

(これしきっ!)

 

 ゼロはかわせると思った。だがツルク星人の刃は想像を遥かに超えてた。想定を遥かに上回る剣閃がゼロを襲う。

 

(違う! 3……、4段斬りだ!)

 

 背筋に氷を突っ込まれるような感覚。以前のツルク星人の数倍に達する剣閃だった。ツルク星人の刃が空気を切り裂いてゼロの首に迫る。

 

(やられる!)

 

 ゼロは反射的に腕で首を庇った。腕一本犠牲にしなければやられると咄嗟に判断したのだ。

 

「……?」

 

 だが刃がゼロに降り下ろされることはなかった。

 

「ウルトラ戦士か……」

 

 ツルク星人はそう呟き刃を下ろすと、音も無く高く跳躍した。数十メートルを軽々と跳び、その姿は暗闇に消えていった。

 

(何故だ……? 何故攻撃を止めた……? 斬るのは容易かったはずだ……)

 

 ゼロは疑問と共にツルク星人の消えた闇を、怒りと屈辱と疑問の入り交じった視線で凝視した。

 

(奴は強い! 今戦ったら負ける……!)

 

 厳然とした現実が心に重くのし掛かっていた。

 

 

 

 つづく

 

 

 

 


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