『海鳴臨海公園』海に面した自然公園で、広大な面積を誇る市民の憩いの場所である。 夕日が沈む辺りなどは海と空が見事な茜色に染まり、とても絵になる光景が見られる人気ス ポットだ。
しかし今は日も落ちていないと言うのに、 人っ子1人見当たらない。生物の気配すら無いようだ。それは結界が張られているからである。ユーノが張り巡らしたものだ。
その中で1本の大樹が異形の怪物と化し、気味の悪い叫びを上げていた。枝を触手のように蠢かせるその姿は、童話に出て来る森の悪霊のようである。『ジュエル シード』に因り変化した怪物だ。
その前で対峙する2人の少女は、久し振りに出会したなのはとフェイトである。今は争うよりまずは封印をと、2人の魔法少女は怪物に攻撃を仕掛けた。桜色と金色の魔法光が輝き、砲撃魔法が同時に炸裂するが、
「えっ!?」
「魔法障壁……?」
なのはとフェイトは驚いた。大樹の怪物は 『グリーンモンス』のように、前面に魔法障壁を張って攻撃を防いでしまったのだ。2人はならばと、再び攻撃を仕掛けようとデバイスを構える。すると……
『デリャアアアアッ!!』
鋭い気合いと共に、上空から物凄い勢いで何かが落下……いや急降下して来た。何かは怪物に激突し、魔法障壁ごと朽ち木のように粉々に粉砕すると、勢い余って地面に突っ込み直径3メートル程のクレーターを作る。
土砂と飛び散る木片の中、ゆらりと立ち上がる人影。人間大の『ウルトラマンゼロ』である。
粉砕された怪物から青く光る物体が出て来 た。『ジュエルシード』だ。取り憑いた樹木自体が無くなっては発動しようが無い。光線技が駄目ならと言う事だろうが、力技もいい所だ。
『封印を頼む!』
ゼロに促され、フェイトとなのははデバイスを構え同時に封印を完了した。封印され宙に浮かぶ『ジュエルシード』を挟んで、フェイトとなのはは対峙する。
それに動物形態のアルフにユーノ、それにゼロも加わった。油断無く身構えるフェイトとアルフ。使い魔の狼少女は威嚇するように鋭い犬歯を剥き出しにし、
《久し振りだね、オチビちゃん達……敵わないからって今日は助っ人を呼んだって訳かい? また変なのを……》
そこで改めてゼロを見た目が大きく見開かれる。その姿に見覚えがあったからだ。
《アンタ……この間の巨人……!?》
アルフは以前小さくなったゼロの姿も目撃している。フェイトは巨人の時のゼロしか見ていないので、戸惑っているようだ。ゼロは警戒させないようにと、気さくに片手を上げ、
『よお、久し振りだな、身体は大丈夫だったか? 俺はウルトラマンゼロ。並行世界から来た宇宙人だ』
気さく過ぎて、いささか馴れ馴れしい挨拶になってしまっている。ゼロは少しミスったかなと思った。あくまで今は初めて話す態度を貫かなければ不自然だ。
「宇宙人……?」
《宇宙人だってえっ!?》
驚くフェイトとアルフだが、直ぐに警戒し全身を緊張させる。宇宙人と言うのが本当かどうかは別にして、ゼロの常識を超えた戦闘能力は目の当たりにしている。
今の怪物を粉砕した力を見ても、まともにぶつかり合っては不利である。その超人が敵対しているなのは達と現れたのだ。
いざとなったらフェイトだけでも逃がさなくては……悲壮なまでに覚悟を決めようとしたアルフに、ゼロは宥めるように呼び掛けた。
『落ち着け……俺はどっちの敵でもねえ……だからお前らと戦う気もねえ。只いい話を持って来たんだ』
アルフは、三流詐欺師のような台詞をぬかすゼロを胡散臭そうに見る。
《話なら聞かないって、何度も言ってるんだけどね……》
聞く耳持たないと言った感じのアルフに、 フェイトも油断無くバルデイッシュを構える。 ゼロは警戒させないように両手を上げ、取り合えず喋りまくるしか無い。
『だからよ……場合によっちゃ、コッチの 『ジュエルシード』も全部やってもいいし、残りを探すのも手伝ってやるって言ってるんだ』
《はあっ? アンタ正気かい!?》
アルフは呆れたようだ。フェイトもポカンとした顔をする。性格的に細々した駆け引きが苦手なゼロは、直球で真っ正面から語り掛けるのみ。
『その代わり、何で『ジュエルシード』を集めてるのか、納得の行く理由を聞かせてくれ。納得行ったら協力してやる』
なのはとユーノはハラハラしながら成り行きを見守っている。ユーノは『ジュエルシード』が掛っているので気が気では無い。
一方ゼロの条件を聞いたフェイトとアルフは、警戒こそ解かないが一瞬目を見合わせた。
《フェイト……悪い話じゃ無いと思うんだけど……》
アルフは念話でフェイトに相談してみる。意外な提案に迷っていた。
「……うん……」
フェイトは頷きつつも考えを巡らす。確かに悪い話では無いようだがとは思う。ゼロは迷っているフェイト達に更に、
『多分……『ジュエルシード』を欲しがってるのは、お前らじゃねえだろ……?』
母親だろうと当たりを付けながらも、そうカマを掛ける。反応しそうな雰囲気が感じられた。やはり図星らしい。ゼロは一気に畳み掛ける。
『あんな物騒なもん、お前ら子供が欲しがるとは思えねえ……だからそいつに会わせてくれ。直に話を聞く、それが条件だ』
フェイトは無言のまま、ゼロの出した提案を整理してみる。確かに悪く無い条件ではあるが…… しかし金髪の少女はゆっくりと頭を振った。表情を消し、静かにバルデイッシュをゼロに向ける。
『……それが……答えか……?』
ウルトラマンの少年は、表情の無い銀色の顔に残念そうな色を浮かべ問い掛けた。
《フェイト……》
アルフも残念そうに視線を向ける。フェイトは努めて無表情をゼロに向け、
「……確かに、いい話なのかもしれないけど…… 信用出来ない……アナタは正直怪しい……それにその条件は呑めない……」
彼女には母プレシアが承知しないであろう事は、容易に想像が付いた。発見者が競争相手なのは既に報告してある。それでもプレシアは、その相手を潰してでも 『ジュエルシード』を確保しろと厳命されている。
母が悪用などする訳は無いと信じているが、 非合法な目的なのはフェイトにも判っている。それ故応じる事は出来なかった。
更には目の前の正体不明の人物をプレシアに会わせたとして、実は危害を加えようとしている可能性もある。ゼロという異質な存在も、却ってマイナスに働いてしまった。交渉は決裂した……
『済まねえ……ユーノ、なのは……役に立てなく て……』
ゼロは肩を落として2人に謝るしか無い。なのはは首を振り、
「いえ……ウルトラマンさんは一生懸命がんばってくれました、気にしないで下さい」
小学生に慰められるウルトラマンの図であった。フェイトとアルフは、しょんぼりと肩を落とすゼロの姿に、何故か知り合いの好意を踏みにじってしまったような思いに駆られた。
どうも何処かで会った気がする2人だったが、気のせいだと思う事にする。宇宙人の知り合いなど居ない。
声が似ていて、ラーメンを奢ってくれた少年と名前が同じだとは思ったが、流石に同一人物などとは思いもよらない。
「フェイトちゃん!」
そこでなのはが一歩前に踏み出した。レイジングハートを手に、フェイトをしっかりと見据え、
「私もウルトラマンさんと同じ、フェイトちゃんとお話したいだけなんだけど……」
フェイトは無表情を保ったまま応えない。やはり聞く気は無いのだ。なのはは改めて決心した。言葉だけでは足りないのならば、
「私が勝ったら、只の甘ったれた子じゃ無いって判ってくれたら……私とお話してくれる……?」
何ともシンプルで少年漫画的な提案であった。フェイトもその方が分かり易い。キッと表情を険しくすると、それが合図だったかのように2人は同時に空に舞い上がり海上に移動す る。
ゼロら3人もこれは2人だけの勝負だと察し、手を出さず見守る。ある意味人間同士の争いでしか無いこの状況では、ゼロにはどうする事も出来ない。
しかしなのはの気持ちは判る。彼女はフェイトに認めて欲しいのだろう。その為に互角に戦える事を見せたいのかもしれない。
何とも不器用な考えかもしれないが、そう言うのはゼロも嫌いでは無い……と言うより、彼もそのタイプである。
ならばいっそ、とことんやり合うのもいいだ ろう。言葉が駄目なら拳で語り合え! と師匠の『ウルトラマンレオ』なら言うであろう。
(俺らしくもねえ……あの2人が争うのを見たくなくて、らしくも無い事をしちまったな……)
内心で苦笑いする。一方フェイトは沖合いに向かって飛びつつ、アルフにこれからの事を念話で伝えていた。
《……アルフ……此処で決着を着けるよ……あの赤と青の人も気になるから、私があの子を倒したら隙を見て『ジュエルシード』を取って直ぐに撤退しよう……》
《判ったよフェイト、任しといて!》
アルフは何時でも飛び出せるように四肢の力を抜く。素早く反応出来るようにだ。そして海上上空でフェイトとなのはの戦いが始まった。
バルデイッシュとレイジングハートがぶつかり合って火花を散らす。
何合目かの打ち合いの後、接近戦では不利だと一旦距離を取ったなのはは、砲撃魔法『ディ バインシューター』を放つ。追尾性能を持つ桜 色の多重魔力弾5発がフェイトを襲う。
フェイトも負けじと電光の槍を何本も作り出し、同時に発射する『フォトンランサー・マルチショット』で魔力弾を迎撃する。2人の周囲は派手な魔法爆発に埋め尽くされた。
ゼロは初めて見る魔導師同士の戦闘を興味深く観察する。最初は攻撃が当たったら怪我をしたり死んだりするのかと思っていたが、『非殺傷設定』と言うリミッターが互いのデバイスに掛けられているそうだ。
非殺傷設定が掛かっていれば、攻撃が当たっても魔力ダメージで動けなくなるだけと聞いているので、その辺は安心して見ていられる。それでも一歩間違えれば終わりの真剣勝負なのは変わらない。
2人の魔法少女の激闘は続く。なのはの砲撃魔法を、フェイトはバルデイッシュで次々と切り裂いて接近戦に持ち込もうとするが、近付かれたら不利だと判っているなのはは弾幕を張って接近を阻む。
ゼロはなのはの奮闘を見て思う。魔法を覚えて間も無いのに、これ程戦えるなのはは天才と言うヤツであろう。戦闘センスも非凡なものがある。
「あっ!?」
互角の戦いを繰り広げていたなのはは、何時の間にか金色の光のリングに拘束されてしまっていた。捕縛魔法バインドに捕らえられてしまったのだ。
フェイトは戦いながら設置型のバインドを仕掛けて置いていたのである。
その隙にフェイトは、最大の攻撃魔法の為の呪文の詠唱を完了する。彼女の周りに無数の魔力スフィア発射台が出現した。
「『フォトンランサー・ファランクスシフト』 撃ち砕けぇっ、fire!」
フェイトの叫びと共に、計1064発に及ぶ電光の槍の一斉射撃が動けないなのはに襲い掛かっ た。
「なのはぁぁぁっ!!」
ユーノの叫び声が響く。豪雨の如く次々に降り注ぐ金色の槍。凄まじい爆発を起こし、なのははもうもうと立ち込める爆煙の中に消えた。
『まだだ!』
思わず2本の脚で立ち上がり固まるユーノに、ゼロは首を振って見せる。魔法爆発の煙の中から、なのはが姿を現した。バリアジャケットはあちこち破れているが無事なようだ。
レイジングハートを構え、既に砲撃態勢に入っている。なのはは自分がフェイトに比べ、経験やほとんどの能力が劣っているのは判っている。
唯一勝っているのは防御と火力。今の自分の勝機はフェイトの攻撃を耐え凌ぎ、隙を突いて砲撃魔法を叩き込むしか無い。
「ディバイン、バスタァァッ!」
なのはは砲撃を発射した。不意を突かれたフェイトだが、咄嗟に強固な魔法障壁を張り、猛烈な桜色の光の猛攻に耐える。しかしなのはの砲撃魔法は凄まじい。防御しても抉られるようだった。
《行けるよ、なのはっ!》
ユーノは歓声を上げ、アルフは息を呑んだ。
(フェイトが撃ち合いで押されてる? あの子何て馬鹿魔力だい!)
なのはは間髪入れず、フェイトに向けてバインドを仕掛けようとする。このコンボはフェイ トに勝つ為に練習を繰り返して来たのだ。
これで動きを止め自身最大の切り札、周囲の残存魔力をかき集めて一度に放つ『スターライト・ブレイカー』を撃ち込む。それが唯一の勝機であった。
『やはり……なのはには経験が足りないか……』
ゼロの呟きにアルフとユーノが振り向くと、
「あれっ?」
なのは思わず声を洩らした。バインドを掛けた筈のフェイトの姿が見当たらない。慌てて辺りをサーチすると、高速で背後から接近する影を捉えた。フェイトである。
「しまった! 煙を利用して!?」
裏を掛かれなのはは発射態勢を止めるしか無 い。フェイトは砲撃戦でまともにぶつかり合うのは不利と悟り、自身の最大スピードでバインドを掛けられる寸前に離脱、魔力爆発の残煙を利用して死角に回ったのだ。
この後色々な事で追い込まれ、ギリギリの時のフェイトであったなら判断ミスで砲撃を食らい敗北していたかもしれないが、今の彼女に死角は無かった。
しかしなのはは諦めない。背後から襲い掛かるフェイトに振り向いて、レイジングハートを向ける。フェイトはバルデイッシュを振り上げた。
この一撃で勝負は決まるだろう。2人のデバイスが激突ようとしたその時、
「ストップだ!」
打ち合わされる寸前で、バルデイッシュとレイ ジングハートは、突如現れた黒衣の少年に掴まれていた。少年は厳しい目でフェイト達を見据え、
「此処での戦闘は危険過ぎる! 『時空管理局執務官・クロノ・ハラオウン』詳しく話を聴かせて貰おう!」
ゼロもアルフもユーノもポカンとして少年クロノを見上げた。確かに2人の戦いに気を取られ、クロノの転移に気付くのが遅れたが、あんまりにもあんまりなタイミングで出て来たクロノに茫然としてしまった。
ゼロは最近読んだ漫画で言え ば、悟〇とフ〇ーザ、ジョ〇ョとデ〇オ、ケン〇ロウとラ〇ウの宿命の対決のラストに、誰かが割り込んで来るようなものだと思った。シグナムなら無粋の極み! とキレそうである。ゼロは思わず、
「お前! 後1秒待ってくれたっていいじゃねえかあ!? そうすりゃあ決着が着いたのによおっ!!」
魂の叫びである。クロノは何かひんしゅくを買っているような気がしたが、
「何を言ってるんだ……? 危険物の前で大暴れしてる連中が居たら普通は止めるものだ……」
『あ……いけねえ、忘れてた……』
ゼロはクロノの最もな意見に『ジュエル シード』の危険性を、勝負の行方に集中する余りすっかり忘れていた事に気付いた。この辺はまだ甘い。
そんなやり取りの中、フェイトは咄嗟に動いた。浮いている『ジュエルシード』を取ろうと飛び出す。しかしクロノは見逃さなかった。その背に向け容赦なく砲撃魔法を発射する。
「う……っ!」
腕に被弾しフェイトは地上に落下して行く。 あれだけの腕を持つ彼女をあしらうクロノと言う少年は、並々ならぬ実力を持っているようだ。
「フェイトォォッ!」
アルフは狼の瞬発力で疾風の如く駆け出し、 落下して来るフェイトを背中で受け止めた。そのまま逃げようとした彼女達の前に、降下して来たクロノが立ち塞がる。
止めとばかりに杖型のデバイスを2人に向けようとすると、杖の先端を青い手がガッチリと掴んでいた。
『おい……かんりきょくとやらが何かは知らねえが……そこまでにしとけ……』
ゼロは目を光らせ威嚇するように警告する。 この状況では正直クロノの方が怪しい。時空管理局など聞いた事も無い。 なのはもそう思ったのか、フェイト達を庇って両手を広げている。
クロノの注意が逸れた隙にアルフは転移魔法を使い、フェイトと共に脱出に成功した。
それを見届けたゼロは掴んでいたデバイスを放すが、クロノは警戒して、素早く後方に跳んで距離を取る。
「君は何者だ!? その姿はバリアジャケットか? いや……魔力反応は無いようだが……?」
なのはとユーノはともかく、ゼロはあまりにも怪しすぎる。訝しむクロノにゼロは堂々と名乗った。
『俺はウルトラマンゼロ! M78星雲から来た宇宙人だ!!』
「う……宇宙人んん……?」
クロノのは顔をしかめた。一瞬からかわれているのかと思ってしまう。その隙にゼロはユー ノにテレパシーで聞いてみる。
《おいユーノ、コイツお前の来た世界と同じ所から来た奴か? 痔食憂燗痢曲って何だ……?》
《そうです……え~とですね……次元世界間に干渉するような出来事や魔法のリスクを管理する、この世界で言うと警察みたいなものです》
《げっ! 警察かよ!?》
ユーノの説明に、思いっきり違う漢字を当てたゼロは少々引いた。一度逮捕された事のある彼にとっては、あまり関わり合いになりたくない。それにユーノの説明だけでは判断の仕様がない。
健全な組織でも、不用意に接触すべきでは無いだろう。守護騎士達の件もある。4人が管理局に手配されている可能性もあった。
ゼロはクロノと対峙しながら気付かれないように、なのはとユーノの念話回線にテレパシー で語り掛ける。
《俺は色々有るから引き上げるが、お前らはどうする?》
《ちゃんとした所ですから、僕は行って事情を話して来ます》
《私もユーノ君と一緒に行ってみます……》
2人共行くつもりのようだ。やましい所が無いので協力を仰ぐのだろう。
《そうか……判った。怪しまれるようなら、俺の事は好きに喋っても構わねえぞ?》
尤も2人はゼロの事をほとんど知らないが、その強力な戦闘力は見ている。あまり話して欲しくは無いが、ユーノ達が疑われるようなら仕方無いと思っていると、
《偶然出会って少し手伝って貰った……どんな力を持っているかも知らないと言う事ですね?》
《私達もウルトラマンさんの事は良く知らないから、話しようが無いんです》
ユーノもなのはも、ゼロの強大な力の事は知られない方が良いと判っていた。2人の気遣いにゼロは感謝する。
《ありがとよ、なのは、ユーノ、俺も陰で動いてみるつもりだ。また会う事も有るかもな…… 元気でな》
《こっちこそ……色々ありがとうございました……》
なのはとユーノは同時にお礼を言った。最後にふとゼロはなのはに、
《フェイトと、仲良くなれたらいいな……?》
彼女はハッとした。そうなのだ。自分はフェイトと話がしたい。仲良くなりたい。そして……
「はいっ!」
なのはは思わず声に出して返事をしていた。 流石にクロノも気付き、
「君達何をしてるんだ? まずは3人共『アー スラ』まで来て貰おうか?」
このままでは、事情聴取とやらを受ける羽目になりそうだ。そんなクロノに対しゼロは、片手を挙げて見せ、
『悪いな管理局……今日は観たい番組があるんで帰らせて貰うぜ? 用事なら衛星軌道上の宇宙船まで頼む』
また適当な事を、若干カッコ付けて言ってこの場から去ろうとするが、クロノはデバイスを構える。逃がさないつもりのようだ。
「事情の説明と、君が何者なのか確かめるまで逃がす訳には行かない!」
警告した瞬間、ゼロの姿は掻き消すように消えてしまった。テレポートである。クロノは辺りをサーチするが全く反応は無い。転移魔法の類いなどでは無いなと推察する。
「エイミィ、そっちで追跡出来ないか!?」
アースラに連絡を取るが返って来たのは、
《ごめんクロノ君……センサーにまったく反応無し、消えちゃったよ……魔力反応0、転移魔法じゃ無い……》
「そうか……判った、ありがとう……」
案の定であった。通信を切ったクロノは、ゼロが消えたとおぼしき方向を見て、
(一体……何者なんだ……? 本当に宇宙人だって言うのか……?)
管理世界に異星人は存在しない。その代わりのように、異なる次元世界の人間が多数存在する。本当なら彼は次元世界の者では無い事になる。
色々な考えが頭を巡るが、今は他にやる事がある。クロノはなのは達の方へ歩き出した。2人に聴きたい事は山ほどある……
*
「管理局が現れたか……」
ゼロから話を聞いたシグナムは、堅い響きの声で呟いた。 八神家に帰ったゼロは、リビングに集まった 皆に今日の出来事を話している所である。管理局の件を聞いた守護騎士達はざわめいた。
「後を着けられてはいないたろうな……?」
シグナムは用心深く確認する。ゼロははやてに作って貰ったホットミルクを啜りながら、
「そんなヘマはしねえよ、念の為直接此処には跳ばねえで、あちこち遠回りして確認してから帰ったからな」
それに対しシャマルが追加で説明した。
「シグナム大丈夫よ追跡されてないわ、それにゼロ君を捜すのは不可能よ。魔力を全く持ってないし、エネルギー反応も完全に遮蔽出来るから、捜しようが無いわ」
シャマルは直接の戦闘能力こそあまり高くないが、後方支援の能力に優れその広域探査能力は随一だ。その彼女の太鼓判があれば安心である。
ゼロの方の心配が無くなった所で、今度は 『闇の書』の現マスターであるはやてと、守護騎士の皆が気になった。
記憶を見ていたので判るが、案の定皆は管理局に手配されているようだ。歴代のマスター達が『蒐集』の為、人を襲わせていたので管理局と戦った事もある。
当然現マスターであるはやても手配される事になるらしい。何もしていないにも関わらずにだ。 見付からないのか? と言うゼロの素朴な疑問にシグナムは、安心させるように不敵に微笑し、
「我らは強力な結界魔法を持っている……普通にしていれば感知される事は無い。主はやてに至っては魔法資質のほとんどが『闇の書』の中だ……詳しく検査でもされない限り見付かる事は無い……」
「そうか……」
それを聞いてゼロは安心して息を吐いた。はやては感心して膝の上の『闇の書』を撫でている。どうやら此処が見付かる心配は無いようだ。
しかしこっちが大丈夫でも、もう1つの方はそうも行かない。ゼロははやてを見ると、話し合いの顛末を告げた。
「……と言う訳だ……はやて結局話し合いは見事に失敗しちまったよ……」
力無く肩を落とすゼロに、はやては微笑んで、
「しゃあないよ……フェイトちゃん達にも事情があったんやろうし……でも絶体無駄や無かったと思うで?」
「だったらいいんだが……」
それでも納得行かないゼロが、もっと上手く出来たのではと唸っていると、ヴィータがのろいウサギを抱えながら、
「まっ、ゼロに話し合いなんて無理があんだろ? 慣れない事すっからだ」
意地の悪い笑顔を向けて来るが、彼女なりに慰めているらしい。
「うるせえ~、放っとけ」
ゼロもそれを判って苦笑して返した。はやてもその様子を見て笑うが、ふと遠い目をしてポツリと、
「……フェイトちゃん達……これからどないするんやろうな……?」
フェイト達にとっては新たな敵が増えた事になる。シグナムは改まった表情をし、
「管理局が相手では、今までのようには行かないでしょうね……その2人にとって厳しい状況になりますが……」
「諦めたりはしないんやろな……」
悲しげに視線を落とすはやてに、シグナムは頷いた。
「そうですね……話を聞く限り並の覚悟では無いようですし……まず諦めないでしょう……」
事態は大きく変わったのだ。これからは管理局が組織だって『ジュエルシード』の探索を始めるだろう。 それでもフェイト達が、管理局を相手にしてまでも探索を続けるのはゼロにも予想出来た。
(フェイト、アルフどうするんだ……? このままだと、追い詰められて自滅するだけじゃねえのか……?)
ゼロはこの世界の何処かに居る筈の2人に、 心の中で問うしかなかった……
*********
フェイトとアルフは辛うじて拠点にしているマンションに辿り着いていた。 暗い部屋の室内で、フェイトはソファーに倒れ込む。なのはとの戦闘で消耗したのに加え、クロノに負わされた傷もある。
手当てを受けたフェイトはグッタリとしていた。そんな主を心配して見守っていたアルフだったが、とうとう我慢出来ずに思っていた事を口に出した。
「駄目だよ……時空管理局まで出て来たんじゃ、もうどうにもならないよ……逃げようよ、2人でどっかにさ」
実際状況はとても悪い。アルフはこれ以上フェイトに危険な目に遭って欲しく無かった。このままでは取り返しが付かない事が彼女の身に降り掛かってしまう。
「……それは……駄目だよ……」
フェイトは辛そうに体を起こしながらも、 ハッキリと拒否した。だがアルフも引き下がれない。
「だって雑魚クラスならともかく、アイツ一流の魔導師だ、本気で捜査されたら此処だって何時までバレずに居られるか……だからさ」
そこまで言い掛けた時だった。急に部屋の温度が上がった気がする。気のせいでは無かった。まるで室内に不意に燃え盛る炎が出現したかのようだった。
「滅多ナ事ヲ言ッテ、主ヲ惑ワスノハ止メタラドウダ……?」
ぐもったような不気味な声が暗がりから響く。フェイトとアルフは驚いた。全く気配を感じなかったのだ。
2人は侵入者に身構える。夜目が利くアルフの眼に、全身をスッポリとした服で覆いフード を被って顔を隠した、得体の知れない人物が立っているのが見えた。
「誰だ!? 管理局か!!」
怒りに唸りを上げるアルフの問いに、フードの人物は気味の悪い忍び嗤いをし、
「慌テルナ……俺ハ、プレシア様ノ使イダ……」
厭(いや)な声で答える。しかし不気味な声だった。まるで人では無いものが無理に人語を話しているかのようなおぞましさ。
それにこいつが現れてから異様に部屋が暑い。それは気になったが、アルフはまず怪人物の答えに驚いて、
「何だって? アンタみたいなの見た事も無いよ!」
不信感を顕にするが、プレシアの名を知っているのは確かに関係者だけである。フードの人物はフェイト達を見ると、先程の忍び嗤いより更におぞましい嗤い声を発し、
「ゲヒャヒャヒャ……知ラナイノモ無理ハナイ……何シロツイ最近、生マレ変ワッタバカリダカラナ……」
謎の言葉を吐いた。2人にはフードの人物が何を言っているのか解らない。
プレシアの新しい使い魔なのだろうか? とは思ったが、それにしてはあまりに異質なものを感じた。フードの人物はフェイト達の戸惑いを他所に、
「プレシア様ノ伝言を伝エニ来タ……今カラ10日以内に、少ナクトモ後8個ハ『ジュエルシー ド』ヲ集メロトノ事だ……』
「何だって! そんな無茶だよ、管理局だって居るのにさ……それにこの間は急がなくて良いって言ってたじゃないか!!」
言葉で噛み付くアルフだったが、フードの人物は人間では有り得ない程の丸い大きな眼を赤く光らせ、
「プレシア様ノオ考エダ……オ前達は言ウ通リニシテイレバイイ……ソレダケダ……」
そう言い残すとフードの人物は、何時の間にか姿を消していた。現れた時と同じく全く気配を感じられない。部屋の温度も下がって行く。
フェイトとアルフは何とも不吉なものを感じる。2人の前に暗雲が拡がって行くようだった……
「……後……10日……」
フェイトは暗い顔で呟いた……
つづく
次回『津波怪獣の恐怖・海鳴市大ピンチや(前編)』