夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第21話 死闘!超獣VSヴォルケンリッターや

 

 

 数年前『時の庭園』

 

 プレシアは『ヤプール』のオーバーテクノロジーに酔いしれていた。

 『ヤプール』と名乗った女は、プレシアの意思で何時でも始末されるという事実を知ると、素直に協力する事を承知した。

 それから『女ヤプール』は数々の異次元科学の成果を惜し気も無く提供した。それはプレシアの想像を遥かに上回るものではあったが、求めるものにはまだ届かなかった。

 

(『ヤプール』の科学力でも無理だと言うの……?)

 

 暗澹とするプレシアに、ある日の事『女ヤプール』が提案が有ると言い出した。

 

《『アルハザード』を知っているか……?》

 

 それを聞いてプレシアは、小馬鹿にしたように侮蔑の表情を浮かべて見せる。

 

「そちらにも『アルハザード』の伝説が伝わっているの……? おとぎ話でしょう……時間を自在に操り、死者をも蘇らせる技が眠る都……馬鹿馬鹿しい……」

 

 吐き捨てる大魔導師に、『女ヤプール』は光彩のまるで無いドロリと濁った瞳で、唇を三日月形に吊り上げた。

 笑ったのだろうが酷く非人間的だ。人では無い者が形だけ口を動かした、そんな笑みである。

 

 《それが……本当に存在しているとしたら……どうする……?》

 

「!?」

 

 それを聞いたプレシアの眼が、大きく見開かれていた……

 

 

 

 

 

***********************

 

 

 

 

 

 『バラバ』と『ファイヤーモンス』2匹の超獣が地響きを立てて、シグナムとヴィータに迫る。傀儡兵と同じく、庭園のガーディアン的な役割の超獣らしい。

 

 バラバの巨大な脚が2人を踏み潰さんと迫って来る。数万トンの重量が降下する瞬間、シグナムとヴィータは素早く飛行魔法で飛び上がり、百メートル以上ある岩肌の天井近くまで逃れていた。

 

「やはり出て来たか……」

 

 シグナムは超獣達を見下ろし油断無く身構え た。ヴィータは初めて現物の超獣を見て少し感心し、

 

「コイツらが超獣か……デケエな……」

 

 軽口を叩くが永年の戦闘経験から、その異形の姿に容易ならざるものを感じ取る。只のデカブツでは無いと気を引き締めた。

 ただっ広いこの部屋も、2匹の巨体で狭く感じてしまう。 シグナムは『レヴァンティン』に魔力カート リッジを装填しながら、

 

「ヴィータ、ゼロから聞いた、各超獣の知識は頭に入っているな……?」

 

「当然!」

 

 突入前にゼロは、皆に一通りの超獣の能力特徴を伝えていた。戦いにおいて情報は何より勝る武器になる。ヴィータも情報をしっかりと頭に叩き込んで いた。

 此方も『グラーフアイゼン』にカートリッジを補充しながら超獣達を睨み付ける。

 バラバとファイヤーモンスが戦い開始のゴングを告げるように吠えた。同時に2人目掛けて口から火炎を発射する。数万度の火炎攻撃だ。

 

 シグナムとヴィータは素早くその場から離れる。火炎が命中した岩盤が真っ赤に熔解した。2匹の超獣は宙を飛ぶ2人を狙って、連続して火炎を吐く。攻撃を避けながらシグナムはヴィータに念話を送る。

 

《気を付けろヴィータ! まともに食らえば防御魔法も保たんぞ!》

 

《だったら先にぶっ潰してやんよ!》

 

 ヴィータは火炎攻撃で、火の海と化した空間を飛び回りながらアイゼンを両手で構えた。

 

「グラーフアイゼン! カートリッジロード!」

 

《Raketen from!》

 

 カートリッジが余剰魔力と共に排出され、それに伴いグラーフアイゼンのハンマー部分が組み換えられる。ハンマーヘッドの片側に鋭いスパイクが、片側に噴射口が形成された。

 

 噴射口から推進剤が唸りを上げて噴出される。その勢いでヴィータはアイゼンを高速で振り回し、真紅のスカートをなびかせて遠心力をプラスさせた。

 

「ラケーテン……!」

 

 遠心力が頂点に達した時ヴィータはロケット推進で更に加速し、一気にバラバに向かって突っ込んだ。

 

「ハンマァァッ! うおおおぉぉっ!!」

 

 怪物の頭目掛けてアイゼンを降り下ろす。しかしバラバも右腕のスパイク付きの巨大な鉄球を、その強大なパワーで振り回して迎え撃って来た。

 

 耳をつんざく金属音が響く。アイゼンと鉄球が火花を散らして真っ向からぶつかり合っていた。バラバのパワーとアイゼンの推進力のパワーがせめぎ合うが、

 

「うわあっ!?」

 

 バラバのパワーがアイゼンを押し返す。ヴィータは耐え切れず跳ね飛ばされてしまった。

 

「ヴィータ!」

 

 シグナムが叫ぶ。しかしヴィータは壁に叩き付けられる寸前、空中で姿勢を立て直した。バラバは勝ち誇ったように鉄球を降りかざす。

 

「ちきしょう……アタシに向かって打撃で来ようってのか? 上等だ!!」

 

 ヴィータは少々プライドを傷付けられたようだ。今までパワーで押し負けた事など無い。アイゼンを握り直しバラバをきつく睨み、

 

《シグナム、コイツはアタシがやる!!》

 

 宣言すると返事も聞かず突進して行った。 ファイヤーモンスの火炎攻撃を避けて飛行していたシグナムは苦笑し、

 

《分かった……あまり熱くなるなよ……ならば此奴は私がやろう……!》

 

 向きを変えファイヤーモンスに向かう。矢のように宙を翔け、カートリッジをロードする。彼女の足元に紫色の魔方陣が展開され魔法光が渦を巻いた。

 

「飛竜……一閃っ!!」

 

 降り下ろしたレヴァンティンの刀身が蛇腹状に分割し、抜き打ちの如く目にも留まらぬ速さで斬撃が放たれる。 紫色の魔方光に包まれた一撃が空を走り、袈 裟懸けにファイヤーモンスの巨体に炸裂した。

 

「むっ……?」

 

 シグナムは、攻撃の結果を見て眉をしかめる。ファイヤーモンスは飛竜一閃をまともに食らっても、ダメージを受けた様子は無い。生体装甲にかすり傷が付いた程度だ。傀儡兵とは桁が違う。

 

「やはり……一筋縄では行かないな……」

 

 シグナムはファイヤーモンスの反撃を予想し、一旦後方に飛び退き距離を取る。だが意外にもファイヤーモンスは直ぐに反撃して来ない。 怪物はゆっくりと右腕を前面に翳し、鋭い爪の付いた手を広げた。

 

(何の真似だ……?)

 

 シグナムが訝しむと、ファイヤーモンスの手の中に突如巨大な剣が出現したではないか。何処からか転送されて来たようである。

 

 炎の超獣が一際高く吠えると、刃渡り20メー トル近くある刀身が燃え盛る炎に包まれた。これこそファイヤーモンスの秘密兵器『炎の剣』だ。輻射熱がシグナムにまで届いて来る。

 

「フフフ……そうか……貴様にはそれが有るのだったな……ウルトラマンをも一度は屠った炎の剣なる物が……」

 

 シグナムは端正な顔に、戦鬼の笑みが浮かんでいた。強敵相手に奮い立つのが烈火の将の性だ。燃え立たつ闘志のままに、レヴァンティンを上段に構える。

 

「面白い! 貴様の炎の剣と、炎の魔剣レヴァンティンとの勝負だ!!」

 

 ファイヤーモンスに向かい、二撃目の斬撃を放つべくカートリッジをロードした。

 

 

 

 

 その頃ゼロとザフィーラは、別ルートから庭園内に侵入する事に成功していた。シグナムとヴィータの陽動のお陰で、今の所行く手を遮る者は無い。

 古びた神殿のような庭園内を、ゼロと狼ザフィーラはひたすら駆ける。時折地鳴りのような、微かな振動が感じられた。

 ゼロは駆けながら振動が伝わる方向を心配そうに見、

 

「派手にやってるみてえだが……2人共大丈夫か?」

 

「シグナムもヴィータも一騎当千の戦騎……滅多な事ではやられらはせん……」

 

 ザフィーラは安心させるように答えた。その言葉には、永く戦いを共にして来た者の重みがある。

 

「判った……」

 

 ゼロは頷いた。今は信じるしか無い。今自分がすべき事は、一刻も早く『ウルトラゼロアイ』を取り返す事。 ゼロは走る速度を落とさず精神を集中し、その超感覚で庭園内の気配や音を探る。

 

「むっ……?」

 

 かなり奥の方で人の会話らしき物音を捉えた。流石にこの距離では誰が何を話しているまでは分からないが、此処の住人なのは間違い無いだろう。

 

「此方だザフィーラ!」

 

 ゼロの超感覚に従って、通路を走り角を曲がった。2人は疾風の如く駆ける。 更に次の角を曲がった時、通路上に光る魔方陣が現れ傀儡兵が続々と出現した。

 瞬く間に通路を埋め尽くしてしまう。 ザフィーラは行く手を遮る傀儡兵と対峙しながら、

 

「どうやら……警報装置に掛かってしまったようだ……迂回するか……?」

 

「見付かったからには、時間を掛けたら不利だろ……? ぶちのめして通るしかねえ!」

 

 ゼロは首を降り、戦闘的な笑みを浮かべて見せる。ザフィーラは頷き、

 

「判った……行くぞゼロ……!」

 

「おうっ! 行くぜザフィーラ!」

 

 2人は猛然と傀儡兵の群れに突っ込んだ。傀儡兵達も武骨な武器を振り上げて向かって来る。先手とばかりにザフィーラが雄々しく吼え た。

 

「縛れ鋼の軛! テオオオッ!!」

 

 突如床から無数の槍状の刃が突き出し、傀儡兵を串刺しにする。ザフィーラの攻撃にも転用出来る防御魔法だ。

 

「うおおおぉっ!」

 

 その後に続き、ゼロが敵の真っ只中に突入する。正面の傀儡兵目掛け、念力の応用で弾丸のように跳躍し、正拳突きで腹をぶち抜いた。

 

 破片を散らして崩れ落ちる傀儡兵の背を足場に更に跳躍すると、剣を振り回して襲い掛かる傀儡兵に回し蹴りを放つ。

 

「退けええっ!!」

 

『ウルトラ念力』で強化された回し蹴りが鋼鉄の鉈と化し、金属製の胴体を横凪ぎに叩き割る。

 

「行けるぜ!」

 

 ばら撒かれる破片と部品の雨の中、ゼロは闘争本能を剥き出しにして笑う。

 その時横合いの壁をぶち抜いて、一際大型の傀儡兵が襲い掛かって来た。巨大な戦斧をゼロ目掛けて降り下ろす。

 

「しまっ!?」

 

 完全に不意を突かれたゼロは、使い慣れないせいもあり咄嗟に念力を発動出来ない。その為回避の対応が遅れてしまった。

 

(やべえ!!)

 

 ゼロがそう思った時、巨大な戦斧が光る魔方陣によりガッチリと止められていた。見るとザフィーラがゼロを庇って正面に立ち、防御魔法を発動させている。

 

「悪いザフィーラ、助かったぜ……」

 

 ゼロはホッと息を吐き礼を言った。危ない所だ。ザフィーラは振り返り、

 

「まだ使い慣れないようだな……? あまり無理をするな……」

 

 攻撃を弾かれた大型傀儡兵は、再度攻撃すべく巨大な戦斧を振り上げる。それを見上げゼロはニヤリと笑い、

 

「でも今の状況じゃあ、実戦で練習するしかねえよな?」

 

「仕方が無いか……!」

 

 2人は戦斧が降り下ろされるより速く、大型に向けて跳躍した。ゼロの正拳突きとザフィーラの鋭い爪が、同時にその胴体を粉々に粉砕する。

 2人の勢いは止まらない。大型を倒した少年と蒼き狼は、壁を蹴って再び敵の真っ只中に跳ぶ。

 

「雑魚共、其処を退きやがれぇっ!!」

 

 ゼロは傀儡兵の群れの中に躍り込みながら、猛然と吼えた。

 

 

 

 

 勝ち誇るようにそびえ立つバラバとファイヤーモンス。庭園内の広大な部屋は炎で温度が上昇し、岩盤がぶち抜かれ無惨な様子になっている。

 

 そんな地獄のような光景の中、シグナムとヴィータは満身創痍で超獣達に対峙していた。2人共騎士甲冑のあちこちが破れ、火傷を負い流血もしている。

 

 呼吸も乱れていた。無理も無い。1対1で超獣と戦っているのだ。並みの魔導師なら既に跡形も無く消滅しているだろう。

 

「野郎~っ、しぶてえ……」

 

 ヴィータは超獣達を睨み舌打ちする。既に1人あたり20発は有ったカートリッジが残り少なくなっていた。

 シグナムもヴィータもそれだけの攻撃を超獣に叩き込んだのだが、相手は全ての攻撃を跳ね返し逆に攻撃して来る。2人共ズタボロであった。

 

「……想像を絶する耐久力と戦闘力だな……」

 

 シグナムは超獣達を見上げながら、僅かな時間で呼吸を整えようとする。

 

「クソッ……化け物が……」

 

 ヴィータは額から流れる血を拭う。その小さな手にも血が滲んでいた。しかし2人共いささかも闘志は衰えていない。シグナムは残り少な いカートリッジを装填する。

 

「……だが……此処で退く訳にはいかん……今こ奴らをゼロ達の元に行かせる訳にはいかんのだ……!」

 

「……わーってるよ……!」

 

 ヴィータはこの窮地に在っても笑って見せた。ゼロ達の侵入は気付かれたらしい。先程から2匹の超獣はしきりに他の場所へ移動しようとしている。

 

 それを辛うじてシグナムとヴィータで抑えているのだ。 ウルトラ念力しか使えないゼロと、攻撃力ではシグナムとヴィータに及ばないザフィーラとでは、超獣に太刀打ち出来ないだろう。

 

 ヴィータは血の滲む手で再びアイゼンを構える。疲弊しきっている筈の身体に湧き上がるもの……優しく微笑む少女の顔が浮かぶ。

 

「ぜってえ退かねえ……はやてが待ってんだ…… ゼロとみんなで必ず帰るって約束したんだ……!」

 

「そうだな……」

 

 シグナムも小さな主の顔を思い浮かべ、血で汚れた顔に柔らかな笑みを浮かべ応えた。 ヴィータは超獣達の爛々と輝く眼をキッと見据え、

 

「……やっと巡り会えたんだ……こんな奴らの為に、みんなで暮らす世界を壊されてたまっかよ!!」

 

 シグナムは無言で頷いた。彼女も想いは同じ。今までとは違う。自分達の意思で守りたいもの、掛け替えの無いものを守る為に戦うのだ。

 

 それは彼女達にかつて無い程の力を与えた。 烈火の将は瑠璃色の瞳に、燃え盛る戦意をたぎらせて愛剣を構える。

 

「長期戦は不利だ……一気に叩っ斬る!」

 

「判ってらあ! 行くぜ化け物共、ぶっ潰してやる!!」

 

 ヴィータは応っと叫ぶ。2人の戦騎は決着を着けるべく高速で飛び出し、巨大な超獣達に挑む。

 

 

 

 ファイヤーモンスが宙を飛ぶシグナム目掛け、炎の剣を横殴りに叩き付ける。図体の割に動きが速い。

 強大なパワーで振るわれる剣撃は、風圧だけでも衝撃波となって剣士を襲う。

 シグナムは寸での所で斬撃を回避するが、ファイヤーモンスは口からミサイルを連続発射して追撃して来た。

 

「はあっ!」

 

 シグナムは飛来するミサイルを、次々と切り裂き打ち落とす。その隙にファイヤーモンスは二撃目の斬撃を繰り出した。

 

「ちいっ、レヴァンティン!」

 

《Panzer geist!》

 

 回避が間に合わないと判断したシグナムは、 クリスタル状の強固な魔法障壁を張り巡らし防御を固めるが、炎の剣の一撃で防御を砕かれてしまった。

 

 迫る巨大な燃え盛る刀身を、シグナムはレヴァンティンで受け止める。凄まじい炎と高熱が襲う。騎士甲冑でも10秒と保つまい。

 生身なら一瞬で蒸発してしまうだろう。その前に衝撃に耐えられず、爆風に煽られたように吹き飛ばされてしまった。

 

「かはっ……!」

 

 岩盤の壁に叩き付けられ岩にめり込んでしまう。壁にクレーターが出来る程だ。衝撃で息が詰まった。意識が遠退く。止めとばかりにファイヤーモンスは炎の剣を突き出し、シグナムに迫った。

 

 

 

 

 

「ハンマアァァッ!!」

 

 ヴィータの渾身の一撃と、バラバの鉄球が再び激突した。またしても押し負けそうになるヴィータだが、

 

「アイゼン、カートリッジロード!」

 

《Jawohl!》

 

 連続してカートリッジを使う。暴発の危険はあるが、アイゼンのロケット推進力が数倍に増大した。

 

「この野郎ぉぉぉっ!!」

 

 アイゼンが鉄球を押し返す。今度は競り勝った。堪らずバラバは後退したように見えた……

 

(やった!)

 

 ヴィータが確信した時、鋭い一撃が真上から彼女を襲った。直撃こそ避けたが、肩を切り裂かれ床に落下してしまう。

 咄嗟に避けなければ身体を真っ二つにされていただ ろう。それはバラバのもう1つの武器、左腕の大鎌の攻撃だ。

 ヴィータは歯を食い縛り、辛うじて立ち上がる。肩から真紅の血が滴り騎士甲冑を濡らした。しかし紅の鉄騎は不遜に笑いバラバを見上げ、

 

「どーしたデカブツ……? こんなの全っ然痛くねえぞ……! そんなデカイ態でアタシ1人潰せないのかよ!?」

 

 ヴィータの挑発に怒ったのか、バラバの頭頂部に三つ又の巨大な剣がせり出した。バラバの隠し武器である。

 殺し屋超獣の異名を持つ超獣は、頭頂部の剣を大砲のように、手負いのヴィータに向けて射ち出した。

 

 

 

 

 シグナムに迫るファイヤーモンス。炎の剣が一直線に彼女を串刺しせんと突き出される。 シグナムは意識が無いのか動けないのか、まだ岩盤に突っ込んだままだ。このままでは炎の剣に貫かれ、岩盤ごと骨も残さず蒸発してしまう。

 

 ザグリッ、と鈍い音を立てて、高熱の剣がバターに刺し込まれる熱したナイフのように、深々と岩盤に突き刺さった。

 岩盤の壁が真っ赤に赤熱化し熔解する。勝利を確信し、勝ちどきの雄叫びを上げようとしたファイ ヤーモンスの眼に、飛翔する剣士の姿が映った。寸前で脱出したシグナムだ。

 

 怪物は岩盤に突き刺さったままの炎の剣を引き抜こうとするが、深く刺さり過ぎて直ぐには抜けない。シグナムはこれを狙ってギリギリまで引き付けたのだ。

 剣の騎士は獲物を狙う鷹の如く急降下し、レヴァンティンを振り上げる。

 

「紫雷……一閃っ、三連!!」

 

 炎の魔剣の連撃が、炎の剣の側面の一ヵ所に集中して打ち込まれる。バギィンッ、という乾いた金属音を上げ、炎の剣が根本からへし折られていた。

 ファイヤーモンスは驚愕したように小さな眼を見開く。

 刀剣はどんなに頑丈だろうが名刀だろうが、側面は脆い。刀剣は刃と峰の部分で衝撃を受けるように造られているのだ。それにてこの原理をプラス。炎の剣とて例外では無かったようだ。

 

「剣は優れていても、使い手が悪かったな!」

 

 シグナムは素早く飛び上がり、カートリッジを装填しながらファイヤーモンスの頭上まで上昇した。レヴァンティンを再び振り上げ斬り掛かる。

 

 秘密兵器を叩き折られ、動揺する素振りを見せていたファイヤーモンスだが、効きはしないと誘うように両手を広げた。

 接触した時に捻り潰すつもりだ。 斬り掛かるシグナムは、構わずレヴァンティンを振り下ろす。

 

「馬鹿め……紫雷、一閃っ!」

 

 渾身の力を込めた斬撃を、肩口に叩き込んだ。

 

「グギャアアアアアァァッ!?」

 

 次の瞬間、ファイヤーモンスの悲鳴に似た叫び声が轟いた。レヴァンティンが打ち込まれた箇所の生体鎧が、袈裟懸けにバックリと裂けている。

 

「己の力を過信し過ぎたな……?」

 

 シグナムは傷だらけの顔で不敵に笑った。驚くべき事に彼女は、初撃の飛竜から今までの攻撃全て、寸分違わず同じ箇所を攻撃していたのだ。

 

 動き回る相手への一点集中攻撃、恐るべき手腕であった。烈火の将以外にこのような事が出来る魔導師はほとんど居まい。 レヴァンティンを叩き付けたままシグナムは 叫ぶ。

 

「レヴァンティン! カートリッジ全ロー ド!」

 

《Jawohl!》

 

 レヴァンティンからシリンダー内の全カートリッジが一度に排出され、凄まじいばかりの余剰熱が放出された。暴発覚悟で一気に魔力を高めたのだ。刀身の炎が爆発的に増大する。

 

「レヴァンティンッ! 叩っ斬れ!!」

 

《Jawohl!!》

 

 灼熱の魔剣がファイヤーモンスの裂けた肉に深々と食い込む。どんなに強固な装甲でも、綻びが出来れば脆い。

 

「はあああああぁぁぁっ!!」

 

 シグナムの裂帛の気合いと共に、レヴァンティンがファイヤーモンスの巨体を袈裟懸けに両断した。

 

 

 

 

 

 ヴィータに迫るバラバの巨大な隠し剣。彼女はその場を動かない。動けないのかと思いきや、ロケットフォルムに変化させたアイゼンを両手で振り翳す。その目が輝いた。

 

「待ってたぜ、そいつを! ラケーテン・ハン マァァッ!!」

 

 ロケット噴射で側面を叩き、隠し剣を逆にバラバに叩き返した。返された剣は腹部にグサリと突き刺さる。苦し気に呻くバラバ。

 間抜けな話だが、鎌と鉄球の手では刺さった剣を直ぐには抜けない。その隙にヴィータは飛行魔法で突っ込み、敵の後方に回った。

 

「今だ、アイゼン!!」

 

《Gigant from!》

 

 頭上高く掲げたアイゼンのハンマー部が真紅に輝き、ヴィータの身の丈程もある角柱状に巨大化した。 足元にベルカの魔方陣が展開される。

 

 するとグラーフアイゼンが更に膨れ上がり、数十メー トルサイズまで巨大化した。グラーフアイゼンのフルドライブバーストモード『ギガントフォルム』だ。

 ヴィータは一気にバラバの頭の高さまで飛び上がると、超巨大サイズのアイゼンを思いきり振り被った。

 

「轟天! 爆砕! ギガント・シュラアアァ クッ!!」

 

 轟音を上げ周囲の壁をぶち壊しながら、超巨大なハンマーがバラバの弱点の後頭部に炸裂する。

 

「キシャアアアアアッ!?」

 

 バラバの両方の目玉が衝撃で飛び出していた。しかしまだ倒れない。凄まじい生命力だった。 ヴィータも一撃で息の根を止められるとは思っていない。

 

 更に巨大アイゼンをぶん回して2撃目を見舞う。 巨体が衝撃で前のめりに吹っ飛び、壁に激突した。それでもバラバは動いている。

 

「しぶてえ! この野郎ぉぉっ!!」

 

 超獣はしぶとい。ここで止めたら終りだ。もう反撃も出来ず、逆転されやられてしまうだろう。 ヴィータは気力を振り絞り3撃目を繰り出す。バラバは壁に亀裂を作ってめり込んだ。

 

 4撃目。バラバの頭蓋骨にようやく罅が入る。アイゼンを持つ手から鮮血が飛び散った。 だが怪物はまだ生きている。まだだ。ヴィータは最後の力を振り絞った。

 

「ぶっ潰れろおおおおっ!!」

 

 5撃目が唸りを上げてバラバの後頭部に打ち込まれた。硬いものが砕け散る感触。アイゼンが岩盤を砕きぶち抜くと共に、バラバの頭は完全に粉砕された。

 

 どす黒い血を噴水のように撒き散らし、雪崩を打ったように崩れ落ちる。ピクリとも動かない。怪物はようやく生命活動を停止した。

 

 アイゼンが元のサイズに戻って行く。ヴィー タは飛行魔法すら維持出来なくなり、フラフラと辛うじて床に着地し膝を着いた。魔力と体力が限界だ。

 

 ゼエゼエと荒く息を吐き、ふと傍らを見上げるとシグナムも居た。辛うじて立ってはいるものの、ヴィータと同じくボロボロだ。

 

「……立てるか……? ヴィータ……」

 

 満身創痍の将の問いに、ヴィータはよろめきながらも立ち上がった。

 

「……たりめーだ……これ位……」

 

 相変わらずの不遜な態度で強がって見せる。 シグナムは仕方の無い奴だと苦笑し、

 

「……カートリッジは……後何発残ってい る……?」

 

「……後……1発……」

 

 シグナムは扉の方向を見据えフッと苦笑し、 自分の血で濡れたレヴァンティンを握力が弱った手で握り、

 

「……そうか……こちらも1発だ……」

 

「……ちょっと……キツイかもな……」

 

 ヴィータも苦笑を浮かべアイゼンをノロノロと握った。2人の耳に金属音が入る。扉の向こう側に、無数の傀儡兵の軍団が此方に進撃して来るのが見えた……

 

 

 

 

 

 

 プレシアの元に向かうフェイトは、庭園が先程から僅かに揺れている事が気になっていた。

 

(……何か有ったのかな……?)

 

 自然の丘を丸ごと改造し、直径だけでも数キロはある『時の庭園』 ちょっとやそこらではビクともするものでは 無い事を知っているだけに、今までに無い揺れを感じ不安になる。

 だが今はそれよりもと前を向く。プレシアが居る玉座の間の最後の扉の前に着いていた。

 

《入りなさい……フェイト……》

 

 プレシアの思念通話が頭に響く。その抑揚の無い何時も通りの声に、ふと言い知れぬ不安を感じながらもフェイトは扉を開けた。

 

 

つづく

 

 

 




次回『遠い都アルハザードや』

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