数年前『時の庭園』
プレシアは『ヤプール』のオーバーテクノロジーに酔いしれていた。
『ヤプール』と名乗った女は、プレシアの意思で何時でも始末されるという事実を知ると、素直に協力する事を承知した。
それから『女ヤプール』は数々の異次元科学の成果を惜し気も無く提供した。それはプレシアの想像を遥かに上回るものではあったが、求めるものにはまだ届かなかった。
(『ヤプール』の科学力でも無理だと言うの……?)
暗澹とするプレシアに、ある日の事『女ヤプール』が提案が有ると言い出した。
《『アルハザード』を知っているか……?》
それを聞いてプレシアは、小馬鹿にしたように侮蔑の表情を浮かべて見せる。
「そちらにも『アルハザード』の伝説が伝わっているの……? おとぎ話でしょう……時間を自在に操り、死者をも蘇らせる技が眠る都……馬鹿馬鹿しい……」
吐き捨てる大魔導師に、『女ヤプール』は光彩のまるで無いドロリと濁った瞳で、唇を三日月形に吊り上げた。
笑ったのだろうが酷く非人間的だ。人では無い者が形だけ口を動かした、そんな笑みである。
《それが……本当に存在しているとしたら……どうする……?》
「!?」
それを聞いたプレシアの眼が、大きく見開かれていた……
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『バラバ』と『ファイヤーモンス』2匹の超獣が地響きを立てて、シグナムとヴィータに迫る。傀儡兵と同じく、庭園のガーディアン的な役割の超獣らしい。
バラバの巨大な脚が2人を踏み潰さんと迫って来る。数万トンの重量が降下する瞬間、シグナムとヴィータは素早く飛行魔法で飛び上がり、百メートル以上ある岩肌の天井近くまで逃れていた。
「やはり出て来たか……」
シグナムは超獣達を見下ろし油断無く身構え た。ヴィータは初めて現物の超獣を見て少し感心し、
「コイツらが超獣か……デケエな……」
軽口を叩くが永年の戦闘経験から、その異形の姿に容易ならざるものを感じ取る。只のデカブツでは無いと気を引き締めた。
ただっ広いこの部屋も、2匹の巨体で狭く感じてしまう。 シグナムは『レヴァンティン』に魔力カート リッジを装填しながら、
「ヴィータ、ゼロから聞いた、各超獣の知識は頭に入っているな……?」
「当然!」
突入前にゼロは、皆に一通りの超獣の能力特徴を伝えていた。戦いにおいて情報は何より勝る武器になる。ヴィータも情報をしっかりと頭に叩き込んで いた。
此方も『グラーフアイゼン』にカートリッジを補充しながら超獣達を睨み付ける。
バラバとファイヤーモンスが戦い開始のゴングを告げるように吠えた。同時に2人目掛けて口から火炎を発射する。数万度の火炎攻撃だ。
シグナムとヴィータは素早くその場から離れる。火炎が命中した岩盤が真っ赤に熔解した。2匹の超獣は宙を飛ぶ2人を狙って、連続して火炎を吐く。攻撃を避けながらシグナムはヴィータに念話を送る。
《気を付けろヴィータ! まともに食らえば防御魔法も保たんぞ!》
《だったら先にぶっ潰してやんよ!》
ヴィータは火炎攻撃で、火の海と化した空間を飛び回りながらアイゼンを両手で構えた。
「グラーフアイゼン! カートリッジロード!」
《Raketen from!》
カートリッジが余剰魔力と共に排出され、それに伴いグラーフアイゼンのハンマー部分が組み換えられる。ハンマーヘッドの片側に鋭いスパイクが、片側に噴射口が形成された。
噴射口から推進剤が唸りを上げて噴出される。その勢いでヴィータはアイゼンを高速で振り回し、真紅のスカートをなびかせて遠心力をプラスさせた。
「ラケーテン……!」
遠心力が頂点に達した時ヴィータはロケット推進で更に加速し、一気にバラバに向かって突っ込んだ。
「ハンマァァッ! うおおおぉぉっ!!」
怪物の頭目掛けてアイゼンを降り下ろす。しかしバラバも右腕のスパイク付きの巨大な鉄球を、その強大なパワーで振り回して迎え撃って来た。
耳をつんざく金属音が響く。アイゼンと鉄球が火花を散らして真っ向からぶつかり合っていた。バラバのパワーとアイゼンの推進力のパワーがせめぎ合うが、
「うわあっ!?」
バラバのパワーがアイゼンを押し返す。ヴィータは耐え切れず跳ね飛ばされてしまった。
「ヴィータ!」
シグナムが叫ぶ。しかしヴィータは壁に叩き付けられる寸前、空中で姿勢を立て直した。バラバは勝ち誇ったように鉄球を降りかざす。
「ちきしょう……アタシに向かって打撃で来ようってのか? 上等だ!!」
ヴィータは少々プライドを傷付けられたようだ。今までパワーで押し負けた事など無い。アイゼンを握り直しバラバをきつく睨み、
《シグナム、コイツはアタシがやる!!》
宣言すると返事も聞かず突進して行った。 ファイヤーモンスの火炎攻撃を避けて飛行していたシグナムは苦笑し、
《分かった……あまり熱くなるなよ……ならば此奴は私がやろう……!》
向きを変えファイヤーモンスに向かう。矢のように宙を翔け、カートリッジをロードする。彼女の足元に紫色の魔方陣が展開され魔法光が渦を巻いた。
「飛竜……一閃っ!!」
降り下ろしたレヴァンティンの刀身が蛇腹状に分割し、抜き打ちの如く目にも留まらぬ速さで斬撃が放たれる。 紫色の魔方光に包まれた一撃が空を走り、袈 裟懸けにファイヤーモンスの巨体に炸裂した。
「むっ……?」
シグナムは、攻撃の結果を見て眉をしかめる。ファイヤーモンスは飛竜一閃をまともに食らっても、ダメージを受けた様子は無い。生体装甲にかすり傷が付いた程度だ。傀儡兵とは桁が違う。
「やはり……一筋縄では行かないな……」
シグナムはファイヤーモンスの反撃を予想し、一旦後方に飛び退き距離を取る。だが意外にもファイヤーモンスは直ぐに反撃して来ない。 怪物はゆっくりと右腕を前面に翳し、鋭い爪の付いた手を広げた。
(何の真似だ……?)
シグナムが訝しむと、ファイヤーモンスの手の中に突如巨大な剣が出現したではないか。何処からか転送されて来たようである。
炎の超獣が一際高く吠えると、刃渡り20メー トル近くある刀身が燃え盛る炎に包まれた。これこそファイヤーモンスの秘密兵器『炎の剣』だ。輻射熱がシグナムにまで届いて来る。
「フフフ……そうか……貴様にはそれが有るのだったな……ウルトラマンをも一度は屠った炎の剣なる物が……」
シグナムは端正な顔に、戦鬼の笑みが浮かんでいた。強敵相手に奮い立つのが烈火の将の性だ。燃え立たつ闘志のままに、レヴァンティンを上段に構える。
「面白い! 貴様の炎の剣と、炎の魔剣レヴァンティンとの勝負だ!!」
ファイヤーモンスに向かい、二撃目の斬撃を放つべくカートリッジをロードした。
*
その頃ゼロとザフィーラは、別ルートから庭園内に侵入する事に成功していた。シグナムとヴィータの陽動のお陰で、今の所行く手を遮る者は無い。
古びた神殿のような庭園内を、ゼロと狼ザフィーラはひたすら駆ける。時折地鳴りのような、微かな振動が感じられた。
ゼロは駆けながら振動が伝わる方向を心配そうに見、
「派手にやってるみてえだが……2人共大丈夫か?」
「シグナムもヴィータも一騎当千の戦騎……滅多な事ではやられらはせん……」
ザフィーラは安心させるように答えた。その言葉には、永く戦いを共にして来た者の重みがある。
「判った……」
ゼロは頷いた。今は信じるしか無い。今自分がすべき事は、一刻も早く『ウルトラゼロアイ』を取り返す事。 ゼロは走る速度を落とさず精神を集中し、その超感覚で庭園内の気配や音を探る。
「むっ……?」
かなり奥の方で人の会話らしき物音を捉えた。流石にこの距離では誰が何を話しているまでは分からないが、此処の住人なのは間違い無いだろう。
「此方だザフィーラ!」
ゼロの超感覚に従って、通路を走り角を曲がった。2人は疾風の如く駆ける。 更に次の角を曲がった時、通路上に光る魔方陣が現れ傀儡兵が続々と出現した。
瞬く間に通路を埋め尽くしてしまう。 ザフィーラは行く手を遮る傀儡兵と対峙しながら、
「どうやら……警報装置に掛かってしまったようだ……迂回するか……?」
「見付かったからには、時間を掛けたら不利だろ……? ぶちのめして通るしかねえ!」
ゼロは首を降り、戦闘的な笑みを浮かべて見せる。ザフィーラは頷き、
「判った……行くぞゼロ……!」
「おうっ! 行くぜザフィーラ!」
2人は猛然と傀儡兵の群れに突っ込んだ。傀儡兵達も武骨な武器を振り上げて向かって来る。先手とばかりにザフィーラが雄々しく吼え た。
「縛れ鋼の軛! テオオオッ!!」
突如床から無数の槍状の刃が突き出し、傀儡兵を串刺しにする。ザフィーラの攻撃にも転用出来る防御魔法だ。
「うおおおぉっ!」
その後に続き、ゼロが敵の真っ只中に突入する。正面の傀儡兵目掛け、念力の応用で弾丸のように跳躍し、正拳突きで腹をぶち抜いた。
破片を散らして崩れ落ちる傀儡兵の背を足場に更に跳躍すると、剣を振り回して襲い掛かる傀儡兵に回し蹴りを放つ。
「退けええっ!!」
『ウルトラ念力』で強化された回し蹴りが鋼鉄の鉈と化し、金属製の胴体を横凪ぎに叩き割る。
「行けるぜ!」
ばら撒かれる破片と部品の雨の中、ゼロは闘争本能を剥き出しにして笑う。
その時横合いの壁をぶち抜いて、一際大型の傀儡兵が襲い掛かって来た。巨大な戦斧をゼロ目掛けて降り下ろす。
「しまっ!?」
完全に不意を突かれたゼロは、使い慣れないせいもあり咄嗟に念力を発動出来ない。その為回避の対応が遅れてしまった。
(やべえ!!)
ゼロがそう思った時、巨大な戦斧が光る魔方陣によりガッチリと止められていた。見るとザフィーラがゼロを庇って正面に立ち、防御魔法を発動させている。
「悪いザフィーラ、助かったぜ……」
ゼロはホッと息を吐き礼を言った。危ない所だ。ザフィーラは振り返り、
「まだ使い慣れないようだな……? あまり無理をするな……」
攻撃を弾かれた大型傀儡兵は、再度攻撃すべく巨大な戦斧を振り上げる。それを見上げゼロはニヤリと笑い、
「でも今の状況じゃあ、実戦で練習するしかねえよな?」
「仕方が無いか……!」
2人は戦斧が降り下ろされるより速く、大型に向けて跳躍した。ゼロの正拳突きとザフィーラの鋭い爪が、同時にその胴体を粉々に粉砕する。
2人の勢いは止まらない。大型を倒した少年と蒼き狼は、壁を蹴って再び敵の真っ只中に跳ぶ。
「雑魚共、其処を退きやがれぇっ!!」
ゼロは傀儡兵の群れの中に躍り込みながら、猛然と吼えた。
*
勝ち誇るようにそびえ立つバラバとファイヤーモンス。庭園内の広大な部屋は炎で温度が上昇し、岩盤がぶち抜かれ無惨な様子になっている。
そんな地獄のような光景の中、シグナムとヴィータは満身創痍で超獣達に対峙していた。2人共騎士甲冑のあちこちが破れ、火傷を負い流血もしている。
呼吸も乱れていた。無理も無い。1対1で超獣と戦っているのだ。並みの魔導師なら既に跡形も無く消滅しているだろう。
「野郎~っ、しぶてえ……」
ヴィータは超獣達を睨み舌打ちする。既に1人あたり20発は有ったカートリッジが残り少なくなっていた。
シグナムもヴィータもそれだけの攻撃を超獣に叩き込んだのだが、相手は全ての攻撃を跳ね返し逆に攻撃して来る。2人共ズタボロであった。
「……想像を絶する耐久力と戦闘力だな……」
シグナムは超獣達を見上げながら、僅かな時間で呼吸を整えようとする。
「クソッ……化け物が……」
ヴィータは額から流れる血を拭う。その小さな手にも血が滲んでいた。しかし2人共いささかも闘志は衰えていない。シグナムは残り少な いカートリッジを装填する。
「……だが……此処で退く訳にはいかん……今こ奴らをゼロ達の元に行かせる訳にはいかんのだ……!」
「……わーってるよ……!」
ヴィータはこの窮地に在っても笑って見せた。ゼロ達の侵入は気付かれたらしい。先程から2匹の超獣はしきりに他の場所へ移動しようとしている。
それを辛うじてシグナムとヴィータで抑えているのだ。 ウルトラ念力しか使えないゼロと、攻撃力ではシグナムとヴィータに及ばないザフィーラとでは、超獣に太刀打ち出来ないだろう。
ヴィータは血の滲む手で再びアイゼンを構える。疲弊しきっている筈の身体に湧き上がるもの……優しく微笑む少女の顔が浮かぶ。
「ぜってえ退かねえ……はやてが待ってんだ…… ゼロとみんなで必ず帰るって約束したんだ……!」
「そうだな……」
シグナムも小さな主の顔を思い浮かべ、血で汚れた顔に柔らかな笑みを浮かべ応えた。 ヴィータは超獣達の爛々と輝く眼をキッと見据え、
「……やっと巡り会えたんだ……こんな奴らの為に、みんなで暮らす世界を壊されてたまっかよ!!」
シグナムは無言で頷いた。彼女も想いは同じ。今までとは違う。自分達の意思で守りたいもの、掛け替えの無いものを守る為に戦うのだ。
それは彼女達にかつて無い程の力を与えた。 烈火の将は瑠璃色の瞳に、燃え盛る戦意をたぎらせて愛剣を構える。
「長期戦は不利だ……一気に叩っ斬る!」
「判ってらあ! 行くぜ化け物共、ぶっ潰してやる!!」
ヴィータは応っと叫ぶ。2人の戦騎は決着を着けるべく高速で飛び出し、巨大な超獣達に挑む。
ファイヤーモンスが宙を飛ぶシグナム目掛け、炎の剣を横殴りに叩き付ける。図体の割に動きが速い。
強大なパワーで振るわれる剣撃は、風圧だけでも衝撃波となって剣士を襲う。
シグナムは寸での所で斬撃を回避するが、ファイヤーモンスは口からミサイルを連続発射して追撃して来た。
「はあっ!」
シグナムは飛来するミサイルを、次々と切り裂き打ち落とす。その隙にファイヤーモンスは二撃目の斬撃を繰り出した。
「ちいっ、レヴァンティン!」
《Panzer geist!》
回避が間に合わないと判断したシグナムは、 クリスタル状の強固な魔法障壁を張り巡らし防御を固めるが、炎の剣の一撃で防御を砕かれてしまった。
迫る巨大な燃え盛る刀身を、シグナムはレヴァンティンで受け止める。凄まじい炎と高熱が襲う。騎士甲冑でも10秒と保つまい。
生身なら一瞬で蒸発してしまうだろう。その前に衝撃に耐えられず、爆風に煽られたように吹き飛ばされてしまった。
「かはっ……!」
岩盤の壁に叩き付けられ岩にめり込んでしまう。壁にクレーターが出来る程だ。衝撃で息が詰まった。意識が遠退く。止めとばかりにファイヤーモンスは炎の剣を突き出し、シグナムに迫った。
「ハンマアァァッ!!」
ヴィータの渾身の一撃と、バラバの鉄球が再び激突した。またしても押し負けそうになるヴィータだが、
「アイゼン、カートリッジロード!」
《Jawohl!》
連続してカートリッジを使う。暴発の危険はあるが、アイゼンのロケット推進力が数倍に増大した。
「この野郎ぉぉぉっ!!」
アイゼンが鉄球を押し返す。今度は競り勝った。堪らずバラバは後退したように見えた……
(やった!)
ヴィータが確信した時、鋭い一撃が真上から彼女を襲った。直撃こそ避けたが、肩を切り裂かれ床に落下してしまう。
咄嗟に避けなければ身体を真っ二つにされていただ ろう。それはバラバのもう1つの武器、左腕の大鎌の攻撃だ。
ヴィータは歯を食い縛り、辛うじて立ち上がる。肩から真紅の血が滴り騎士甲冑を濡らした。しかし紅の鉄騎は不遜に笑いバラバを見上げ、
「どーしたデカブツ……? こんなの全っ然痛くねえぞ……! そんなデカイ態でアタシ1人潰せないのかよ!?」
ヴィータの挑発に怒ったのか、バラバの頭頂部に三つ又の巨大な剣がせり出した。バラバの隠し武器である。
殺し屋超獣の異名を持つ超獣は、頭頂部の剣を大砲のように、手負いのヴィータに向けて射ち出した。
シグナムに迫るファイヤーモンス。炎の剣が一直線に彼女を串刺しせんと突き出される。 シグナムは意識が無いのか動けないのか、まだ岩盤に突っ込んだままだ。このままでは炎の剣に貫かれ、岩盤ごと骨も残さず蒸発してしまう。
ザグリッ、と鈍い音を立てて、高熱の剣がバターに刺し込まれる熱したナイフのように、深々と岩盤に突き刺さった。
岩盤の壁が真っ赤に赤熱化し熔解する。勝利を確信し、勝ちどきの雄叫びを上げようとしたファイ ヤーモンスの眼に、飛翔する剣士の姿が映った。寸前で脱出したシグナムだ。
怪物は岩盤に突き刺さったままの炎の剣を引き抜こうとするが、深く刺さり過ぎて直ぐには抜けない。シグナムはこれを狙ってギリギリまで引き付けたのだ。
剣の騎士は獲物を狙う鷹の如く急降下し、レヴァンティンを振り上げる。
「紫雷……一閃っ、三連!!」
炎の魔剣の連撃が、炎の剣の側面の一ヵ所に集中して打ち込まれる。バギィンッ、という乾いた金属音を上げ、炎の剣が根本からへし折られていた。
ファイヤーモンスは驚愕したように小さな眼を見開く。
刀剣はどんなに頑丈だろうが名刀だろうが、側面は脆い。刀剣は刃と峰の部分で衝撃を受けるように造られているのだ。それにてこの原理をプラス。炎の剣とて例外では無かったようだ。
「剣は優れていても、使い手が悪かったな!」
シグナムは素早く飛び上がり、カートリッジを装填しながらファイヤーモンスの頭上まで上昇した。レヴァンティンを再び振り上げ斬り掛かる。
秘密兵器を叩き折られ、動揺する素振りを見せていたファイヤーモンスだが、効きはしないと誘うように両手を広げた。
接触した時に捻り潰すつもりだ。 斬り掛かるシグナムは、構わずレヴァンティンを振り下ろす。
「馬鹿め……紫雷、一閃っ!」
渾身の力を込めた斬撃を、肩口に叩き込んだ。
「グギャアアアアアァァッ!?」
次の瞬間、ファイヤーモンスの悲鳴に似た叫び声が轟いた。レヴァンティンが打ち込まれた箇所の生体鎧が、袈裟懸けにバックリと裂けている。
「己の力を過信し過ぎたな……?」
シグナムは傷だらけの顔で不敵に笑った。驚くべき事に彼女は、初撃の飛竜から今までの攻撃全て、寸分違わず同じ箇所を攻撃していたのだ。
動き回る相手への一点集中攻撃、恐るべき手腕であった。烈火の将以外にこのような事が出来る魔導師はほとんど居まい。 レヴァンティンを叩き付けたままシグナムは 叫ぶ。
「レヴァンティン! カートリッジ全ロー ド!」
《Jawohl!》
レヴァンティンからシリンダー内の全カートリッジが一度に排出され、凄まじいばかりの余剰熱が放出された。暴発覚悟で一気に魔力を高めたのだ。刀身の炎が爆発的に増大する。
「レヴァンティンッ! 叩っ斬れ!!」
《Jawohl!!》
灼熱の魔剣がファイヤーモンスの裂けた肉に深々と食い込む。どんなに強固な装甲でも、綻びが出来れば脆い。
「はあああああぁぁぁっ!!」
シグナムの裂帛の気合いと共に、レヴァンティンがファイヤーモンスの巨体を袈裟懸けに両断した。
ヴィータに迫るバラバの巨大な隠し剣。彼女はその場を動かない。動けないのかと思いきや、ロケットフォルムに変化させたアイゼンを両手で振り翳す。その目が輝いた。
「待ってたぜ、そいつを! ラケーテン・ハン マァァッ!!」
ロケット噴射で側面を叩き、隠し剣を逆にバラバに叩き返した。返された剣は腹部にグサリと突き刺さる。苦し気に呻くバラバ。
間抜けな話だが、鎌と鉄球の手では刺さった剣を直ぐには抜けない。その隙にヴィータは飛行魔法で突っ込み、敵の後方に回った。
「今だ、アイゼン!!」
《Gigant from!》
頭上高く掲げたアイゼンのハンマー部が真紅に輝き、ヴィータの身の丈程もある角柱状に巨大化した。 足元にベルカの魔方陣が展開される。
するとグラーフアイゼンが更に膨れ上がり、数十メー トルサイズまで巨大化した。グラーフアイゼンのフルドライブバーストモード『ギガントフォルム』だ。
ヴィータは一気にバラバの頭の高さまで飛び上がると、超巨大サイズのアイゼンを思いきり振り被った。
「轟天! 爆砕! ギガント・シュラアアァ クッ!!」
轟音を上げ周囲の壁をぶち壊しながら、超巨大なハンマーがバラバの弱点の後頭部に炸裂する。
「キシャアアアアアッ!?」
バラバの両方の目玉が衝撃で飛び出していた。しかしまだ倒れない。凄まじい生命力だった。 ヴィータも一撃で息の根を止められるとは思っていない。
更に巨大アイゼンをぶん回して2撃目を見舞う。 巨体が衝撃で前のめりに吹っ飛び、壁に激突した。それでもバラバは動いている。
「しぶてえ! この野郎ぉぉっ!!」
超獣はしぶとい。ここで止めたら終りだ。もう反撃も出来ず、逆転されやられてしまうだろう。 ヴィータは気力を振り絞り3撃目を繰り出す。バラバは壁に亀裂を作ってめり込んだ。
4撃目。バラバの頭蓋骨にようやく罅が入る。アイゼンを持つ手から鮮血が飛び散った。 だが怪物はまだ生きている。まだだ。ヴィータは最後の力を振り絞った。
「ぶっ潰れろおおおおっ!!」
5撃目が唸りを上げてバラバの後頭部に打ち込まれた。硬いものが砕け散る感触。アイゼンが岩盤を砕きぶち抜くと共に、バラバの頭は完全に粉砕された。
どす黒い血を噴水のように撒き散らし、雪崩を打ったように崩れ落ちる。ピクリとも動かない。怪物はようやく生命活動を停止した。
アイゼンが元のサイズに戻って行く。ヴィー タは飛行魔法すら維持出来なくなり、フラフラと辛うじて床に着地し膝を着いた。魔力と体力が限界だ。
ゼエゼエと荒く息を吐き、ふと傍らを見上げるとシグナムも居た。辛うじて立ってはいるものの、ヴィータと同じくボロボロだ。
「……立てるか……? ヴィータ……」
満身創痍の将の問いに、ヴィータはよろめきながらも立ち上がった。
「……たりめーだ……これ位……」
相変わらずの不遜な態度で強がって見せる。 シグナムは仕方の無い奴だと苦笑し、
「……カートリッジは……後何発残ってい る……?」
「……後……1発……」
シグナムは扉の方向を見据えフッと苦笑し、 自分の血で濡れたレヴァンティンを握力が弱った手で握り、
「……そうか……こちらも1発だ……」
「……ちょっと……キツイかもな……」
ヴィータも苦笑を浮かべアイゼンをノロノロと握った。2人の耳に金属音が入る。扉の向こう側に、無数の傀儡兵の軍団が此方に進撃して来るのが見えた……
*
プレシアの元に向かうフェイトは、庭園が先程から僅かに揺れている事が気になっていた。
(……何か有ったのかな……?)
自然の丘を丸ごと改造し、直径だけでも数キロはある『時の庭園』 ちょっとやそこらではビクともするものでは 無い事を知っているだけに、今までに無い揺れを感じ不安になる。
だが今はそれよりもと前を向く。プレシアが居る玉座の間の最後の扉の前に着いていた。
《入りなさい……フェイト……》
プレシアの思念通話が頭に響く。その抑揚の無い何時も通りの声に、ふと言い知れぬ不安を感じながらもフェイトは扉を開けた。
つづく
次回『遠い都アルハザードや』