夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第27話 心からの言葉や

 

 

 雷鳴轟く高次元空間に、白銀の鎧を纏った 『ウルティメイトゼロ』の勇姿が浮かび上がる。その姿は光輝く不死鳥を纏った古代の巨神のようであった。

 

《おのれえええっ! そんなこけ威しになど負けるものかあっ!!》

 

 UキラーザウルスAが全身の発射機関から、全内蔵兵器を一斉に発射する。数千万を超える生体ミサイルに、数キロ先を焦土と化す破壊光線『ザウルス・フルバースト』がゼロに纏めて炸裂した。

 渦巻く空が一面の紅蓮の炎に埋め尽くされ、巨大な生き物のようにゼロを飲み込んでしまう。UキラーザウルスAは女ヤプールの声で嘲笑する。

 

《他愛もない……とんだ見かけ倒しだったようね……あはははは……っ!?》

 

 その嗤い声が途中でギクリと止まった。爆炎が晴れると、先程の場所から微動だにせず傷1つ無いゼロが悠然と姿を現したのだ。

 ゼロは軽く首を振り、全く効いていないとアピールすると、Uキラーザウルスを見下ろした。

 

『……俺は皆のお陰で再びこの力を取り戻した……そして今貴様をここまで追い詰めたのは人間の力だ……』

 

 静かに感慨を込める。そう誰1人欠けても、ここまでヤプールを追い詰める事は出来なかった。死んだプレシアまでもだ。

 自分は皆のお陰で此処まで来れた。ウルトラマンは独りでは戦えない。その事を改めて深く実感する。

 皆の願いを受けるように、右腕と一体化している巨大な剣が光を放った。『ウルティメイトゼロソード』 の神秘の輝きだ。

 ゼロは右腕を振り上げると、一陣の風の如くUキラーザウルス目掛けて降下した。ゼロソードが更に輝きを増す。

 

《うわああああっ!? 来るな、来るな あっ!!》

 

 UキラーザウルスAは、全身の触手を矢のように一斉に伸ばし迎撃しようとする。しかしその身体に触れる前にエネルギー場に触れ、一瞬で触手群は消滅した。ゼロはソードを振り上げ叫ぶ。

 

『ヤプールッ! 貴様らが負けるのは俺にじゃねえ、人間だ! 貴様らが散々見下して来た人間に負けるんだ! 思い知りやがれええっ!!』

 

 ゼロソードが長大な光の剣と化し、唸りを上げてUキラーザウルスに断罪の刃を降り下ろす。

 

《ぎゃあああああああぁぁぁぁっ!!》

 

 女ヤプールのおぞましい絶叫が上がった。その鋒(きっさき)は光速を超え神速を超え、Uキラーザウルスの数百メートルの巨体を、空間ごと肩から真っ二つに両断した。

 空に光の軌跡で、巨大な三日月のような半円が描かれる。ゼロソードの衝撃波でUキラーザウルスの巨体が2つに別れ、内蔵ミサイルなどが誘爆し各部が火を吹く。

 崩れ行くUキラーザウルスを見届けるゼロの目に、額のアリシアの亡骸が映った。心なしかその顔は安らかに見えた気がした。

 誘爆が広がったUキラーザウルスは大爆発を起こす。高次元空間が白く染まり、爆発の閃光がゼロをも呑み込んで行く。

 

 離脱し庭園外壁で合流していたフェイト達は、爆発の中に消えたゼロを見て息を呑む。しばらくしてうねるような爆炎がようやく治まった。

 ゼロはどうなってしまったのか? 不安を覚えるフェイト達だったが、アルフが空を指差し、

 

「あっ、あそこだよ!」

 

 彼女が指した方向を全員で見上げた。黒煙の中から、人間サイズに縮小したウルトラマンゼロが手に青い光を携えて、此方にゆっくりと降下して来るのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 『時の庭園』は次元震の影響と度重なる破壊と戦闘で崩壊が進み、空間異常が発生していた。

 不気味に揺れる庭園内を女が1人、壁を伝いよろめきながらも懸命に歩いている。女ヤプールであった。Uキラーザウルスが倒される寸前、間一髪で脱出に成功していたらしい。

 しかしヤプールは酷い有り様だった。 能面は砕け散り、悪鬼のように耳まで裂けた口を醜く歪め、その脇腹から緑色の血がドクドク流れ床を汚している。

 

「……おのれ……ウルトラマンゼロ……人間共め が……しかし……まだ望みはある……」

 

 異形の血を滴らせながらも女ヤプールは、目的地である庭園奥の一室に辿り着いた。深傷を負っているというのに凄まじい生命力だ。

 

 その部屋は朽ちた巨木や岩石が無秩序に置かれた薄暗い部屋で、その床には『虚数空間』と 呼ばれる空間異常が部屋を侵食している。

 一種の異次元らしい。次元震の影響で出来たものだ。この中では魔法が全く働かない。魔導師に取っては恐ろしい空間である。

 それ故詳しい事は管理局にも解っていない。 女ヤプールはその『虚数空間』の前に立ち、

 

「……『次元断層』を止められてしまったから保証は無いが……一か八か渡ってみるしか無い……」

 

 苦しそうに呟くと、口の中から小型の異様な機械を吐き出した。今まで体内に隠し持っていたらしい。 女ヤプールは機械を操作し始める。すると不意に後ろから声が響いた。

 

『そいつか……? 『アルハザード』の位置を特定出来るマーカー(追跡装置)は……まったく用心深い事だな……今まで判らなかったぜ…… これでやっと『ヤプールの遺産』とご対面出来るって訳か……』

 

 若い男の皮肉っぽい声。女ヤプールは驚いて声のした方を見上げた。 暗がりに紅い2つの光が浮かんでいる。

 『ダークロプスゼロ』らしき双眼の魔人が、闇に半ば漆黒の身体を溶け込ませて倒木に行儀悪く腰掛けていた。 女ヤプールはハッと思い当たり、黒い魔人を睨み付けた。

 

「……き……貴様だな……? 陰で色々動いていたのは……クソッ! 『ヤプールの遺産』が狙いだったのか……何者だ……!?」

 

 ダークロプスは問いを無視し、悪鬼の形相を歪める女ヤプールを悠然と見下ろした。

 

『『ヤプールの遺産』……確か空間と時間をも自在に操る『ヤプールコア』だったな……? しかし生み出したはいいがヤプールにも全く制御出来ず暴走し、『アルハザード』を巻き込んで次元の狭間に沈んだって話だったか……』

 

 女ヤプールは驚いた。そんな事まで知っているとは。咄嗟にマーカーを姑息に後ろに隠す。ダークロプスは女ヤプールの様子に、首を竦め両手を広げた。呆れたとのジェスチャーだ。

 

『まあ……俺には必要無い物だが……どうしても欲しいって奴に頼まれてな……退屈しのぎに引き受けたが、思ったより愉しませて貰ったぜ……』

 

 興味なさそうにヌケヌケとぬかす。完全に眼中に無い。ゴミでも相手にしているかのようだ。女ヤプールは怒りに震え身構えた。

 

「おのれええっ! 貴様の思い通りにはさせん!!」

 

 その姿がグニャリと歪む。本性を現したのだ。赤いおぞましい突起と棘に被われた身体に、鬼のような角を生やした異形に変わる。ヤプールの正体だ。

 

『おい……俺が出るまでも無い、お前片付けろ……』

 

 ダークロプスは面倒くさそうに、ヤプールの背後に声を掛ける。すると……

 

「……承知しました……」

 

 不意に低い女の声が聞こえた。ヤプールは驚いて後ろを振り向いた。全く気配を感じなかったからだ。

 女が1人剣を携えて、音も無くユラリと立っている。しかし丁度濃い影が差しその姿は良く見えない。

 

「貴様ぁっ!!」

 

 ヤプールは右手の半月形クローで、女を攻撃しようと腕を振り上げるが、それより速く銀色の閃光が闇を走った。 パチンという金属音が微かに木霊す。何時抜いたのか、女が抜刀した剣を鞘に納めた音だ。

 

「なっ……?」

 

 ヤプールはそこで自分の身体が、頭から股間に掛けて両断されている事に初めて気付いた。それを最期にヤプールの意識は正しく、断ち切られるように途絶えた。

 そのまま2つに分断された身体は断末魔を上げる暇も無く床に崩れ落ち、マーカーを残して跡形も無く消滅した。呆気ない幕切れであった。

 女の電光の速さで繰り出された斬撃が、一撃でヤプールを葬り去ったのだ。手負いとは言えあのヤプールを剣だけで倒すとは、この女は恐ろしい使い手らしい。

 ダークロプスが倒木から飛び降りて来た。女は回収したマーカーを手渡す。黒い魔人は満足そうにマーカーを翳し、

 

『これで『アルハザード』の位置は判る……行くぞ、奴もまだあの程度だしな……』

 

「承知しました……」

 

 女はうやうやしく静かに頭を下げる。ダークロプスは、物見遊山にでも行くように『虚数空間』へと飛び込んだ。その後に続き、女もポニーテールに括った長い髪をひるがえし、異様な空間の中へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 フェイト達の前に、ウルトラマンゼロはゆっくりと降り立った。 右手に12個の『ジュエルシード』を携えている。Uキラーザウルスが消滅し飛び散る前に確保していたのだ。クロノに手渡してやる。

 

『また散らばっても洒落にならねえからな…… ほらよっ』

 

「感謝するよ」

 

 クロノはホッとして頷き、デバイスに『ジュエルシード』を納めた。これで全てが終ったのだ。

 庭園の揺れも更に酷くなってきた。崩壊もそう遠くはないだろう。そんな中フェイトは、とある事を思い出しハッとした。

 

「ゼロさんの盗られた物を探さないと……!」

 

 庭園内に戻ろうとする。プレシアの遺体は連れて来ているが、色々あったせいでそちらの方はうやむやになったままだ。

 

『そ、それなら……俺が拾っておいたから大丈夫だぞ?』

 

 ゼロは焦ってフェイトを呼び止めた。そのまま忘れてくれたら良かったのだが、あいにく彼女はしっかり覚えていた。

 

「……本当ですか……? ありがとうございます……」

 

 フェイトは感謝して頭を下げた。アルフもペコリと頭を下げる。無論なのは達には何の事か解らな い。フェイトは顔を上げると、

 

「……あのう……すいませんが、私に預けて貰えないでしょうか……? 直接返して謝りたいんです……」

 

 とても真剣に頼んで来る。ゼロは正直とても困った。本当の事を言う訳にもいかない。困り果てた末に、

 

『ざ、残念だったな、そ、それなら俺の超能力で……そう、もう本人の所に返しちまったから、気にすんな!』

 

 無論そんな都合の良い力は持ってないが、苦し紛れに出鱈目を言っておく。

 

「……そうなんですか……」

 

 フェイトはガックリと肩を落とした。きちんと謝りたかったのだろう。ゼロは悪いと思いながらも、話を逸らして誤魔化すしか無い。

 

『……まあ……それはともかく……フェイト達はこれからどうするんだ?』

 

 気になっていた事を聞いてみた。フェイトはゼロの銀色の顔を見上げ、

 

「……管理局に出頭します……やった事の責任は取らないと……」

 

 その瞳にはしっかりしたものがあった。そんな彼女の肩をアルフがポンと叩く。振り向いたフェイトは頷くと、彼女に預けていたプレシアの遺体をそっと受け取りゼロを再び見上げ、

 

「……母さんの為にも……本当の事を話して来ま す……」

 

『そうか……頑張れよ……』

 

 自分の足で歩く事を決めた少女の言葉に、ゼロは願いを込めて激励を送る。更にゼロに何か言おうとしたフェイトだが、不意にその身体がぐらついた。

 

『フェイト!?』

 

 ゼロは慌てて彼女を支えてやる。アルフも小さな主人を心配し、ゼロからフェイトを受け取ると座らせてやった。 なのはも心配して駆け寄って来た。今まで酷い状況で頑張り続け、流石に限界が来たのだろう。

 ゼロは、アルフとなのはに介抱されるフェイトを見ながら、アースラと連絡を取っていたクロノに声を掛ける。

 

『おい、クロノの字、フェイトはまさか重罪に問われるって事はねえよな?』

 

「クロノだ……何だよクロノの字って!?」

 

『ハハハッ、ついな……』

 

 最近時代劇の呼び方がお気に入りで、クロノの名前と合っていたのでつい使ってしまうゼロである。ブツブツ不満そうに口を尖らす執務官だったが、気を取り直し、

 

「……確かに次元干渉は重罪だけど……自らの意思で加担していない事もハッキリしている……」

 

 クロノはそこで、満身創痍のフェイトを横目で温かく見ると、

 

「それに……親を殺され騙されて……何も知らされずに母親の為と信じてやって来た子を罪に問うなんて、管理局はそこまで冷徹な組織じゃない……ヤプールは次元世界でも確認されているし、まず悪いようにはならないよ……」

 

『そうか……ありがとう……』

 

 ゼロはクロノの真摯な言葉に礼を言った。この少年執務官が情に厚く、信用出来るのは判っている。一安心だった。

 安心した所で、ひっきり無しに点滅を繰り返すカラータイマーが目に入る。人間サイズでももう保たない。庭園も間も無く崩壊するだろう。

 

『クロノ、船の方は大丈夫なのか?』

 

 アースラが動けないなら大変だ。するとクロノは空を指差して見せ、

 

「大丈夫だよ……何とか自力航行出来るようになったそうだ。それからアースラの皆を助けてくれてありがとう……感謝するよ……」

 

 深々と頭を下げた。こう言った雰囲気が苦手なゼロは、思わず後退ってしまう。そんなゼロのテレパシー回線に女性の声が入って来た。

 

《これで聴こえるかしら……? 私はアースラ艦長リンディ・ハラオウンです。ウルトラマンゼロさん、艦長として私からもお礼を言わせて貰います……ありがとう》

 

 皆に感謝されて、ゼロは居たたまれない気持ちになってしまう。頭を掻き掻き、

 

『いや……皆の助けが無かったら終ってた……だからそう言うのは無しでな? それより早く此処から離れた方がいいぞ、俺もそろそろ帰るわ……』

 

 照れ隠しにぶっきら棒に言っておく。ツンデレである。最後にフェイト達皆を見ると、

 

『じゃあな……みんな元気でな……』

 

 別れを告げるとフワリと宙に浮かび上がった。なのはとユーノが揃って手を振って見送る。

 

「ウルトラマンさん、ありがとうございました……」

 

「お元気で……本当にありがとうございました」

 

 介抱されていたフェイトも気付いて、アルフの手を借り立ち上がる。

 

「……あの……」

 

 感謝の気持ちを伝えようとしたが、気持ちが先走ってしまい上手く言葉に出来ない。 感謝という言葉では言い表せない程のものを貰ったと思ったからだ。そんなフェイトの代わりに、アルフが盛大に手を振る。

 

「本当にありがとう! フェイトにはアタシが着いてるよ!」

 

 フェイトとアルフを見下ろして、ゼロは照れながらも片手を挙げて、

 

『2人共、あんまり無理すんじゃねえぞ……? 飯はしっかり食うんだぞ……』

 

 フェイトはその言葉に聞き覚えがあるような気がして首を捻った。彼女が戸惑っている間にも、ゼロはゆっくりと上昇して行く。クロノが遠くなるゼロに向けて叫んだ。

 

「最後に聞かせてくれ! どうして君はここまでしてくれたんだ? 恐らく君は次元世界とは何の関係も無い、全く別の世界の住人なんだろう!?」

 

 ゼロのような種族は次元世界では有り得ない。その辺りは察する事が出来た。ゼロはクロノ達を改めて見下ろし、

 

『理由なんか無えよ、俺達はずっと昔からそうして来た……そう言うものなんだよ……それに俺は人が好きだからな……それだけで戦う理由は充分だろ……?』

 

 照れ臭そうに言うゼロの無表情な顔が、微笑んでいるようにクロノ達には見えた。 そしてゼロの姿は高次元空間の薄闇に溶け込むように見えなくなった。

 

(……ゼロさん……)

 

 フェイトはウルトラマンの少年が消えた空を、何時までも見詰めていた……

 

 

 

 

 

 それから数分後。変身が解けたゼロは、シグナム達に抱き抱えられていた。両脇を抱えられたゼロは完全にエネルギーを使い果たし、見事に気絶している。

 ゼロはフェイト達の前から消えた直後に時間切れで変身が解け、落っこちる所だったのを3人掛かりで捕まえたのである。

 

「呆れた意地っ張りだな……やせ我慢にも程がある……」

 

 満足げに気を失っているゼロの顔を見て、シグナムは苦笑するしかない。ザフィーラも微かに苦笑を浮かべる。 どうやらフェイト達に別れを告げた時は、ほ とんど意地だけで立っていたらしい。

 

「まったく……ゼロはしょうがねえなあ……アタシらが着いてねえと、危なっかしくてしょうがねえや……」

 

 ヴィータがゼロの頬っぺを突っついて、とても嬉しそうに笑った。

 

「では帰ろう……我らの帰るべき所に……」

 

 シグナムは微笑んで気絶しているゼロにそっと囁くと、転移魔法を発動させる。戻るくらいの魔力は何とか回復している。クロノ達もアースラに転移したようだ。

 そして『時の庭園』は完全に崩壊し、虚数空間へと呑み込まれて行った。後には何1つ残ってはいなかった……

 

 

 

 

 

 

 次元震が収まり、静寂を取り戻した『第97管理外世界』八神家では食卓に料理を並べ、はやてにシャマル、それに『闇の書』はゼロ達が帰るのを待っていた。

 まだ連絡は取れていない。不安を押し殺していたはやてがふとリビングに目をやると、 ベルカ式特有の三角形の魔方陣が床に現れた。

 

「!」

 

 はやては我を忘れて車椅子を操作し、リビングへ走った。シャマル達も後に続く。魔方陣の上に4つの人影が浮かび上がる。

 ゼロを抱えたシグナムとザフィーラに、満面の笑みのヴィータの姿が見えた。皆傷だらけだ。はやては涙腺が決壊しそうになるのを堪え、駆けながら言葉を発しようとする。

 

「みんな……っ!」

 

 胸が詰まって上手く言葉が出ない。勢い余ってゼロ達に車椅子ごと突っ込んでしまい、気絶しているゼロやヴィータ達が倒れ込んで来た。

 はやてはバランスを崩しそうになりながらも、ゼロ達をしっかりと抱き締める。傷だらけの4人を改めて見ると、

 

「お帰りなさい……」

 

 涙を滲ませて、満面の笑みを浮かべるのだった……

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ヤプールとの激戦から数日が過ぎていた。間も無く5月も終わろうとしている。

 そよ風が心地好く緑の木々を揺らし、行き交う人々 ものんびりして見えた。海鳴臨海公園。 穏やかな日よりの公園を歩く少年、モロボシ・ゼロの姿が在った。

 

 急ぐようにせかせかと先を急いでいる。 実は公園に着くまでダッシュで来たのだが、 そのまま行くと流石に不自然だと思い、仕方無く歩いて目的地に向かっている。

 しばらく歩いていると、ようやく待ち合わせの場所が見えて来た。公園の中を通る小川に架けられたアーチ型の橋の上に、金髪の少女と茶色い髪の少女2人の 姿が見える。

 

「よおーっ!」

 

 ゼロは片手を挙げて声を掛けた。向こうも気付いたようだ。其処に居た2人の少女達はフェイトとなのはであった。

 1時間程前、フェイトから携帯に連絡があったのだ。消え入りそうな声でフェイトは、ゼロに直接謝りたいので出来れば出て来て欲しい、 自分は故あって出向けないと、本当に申し訳無さそうに頼んできた。

 

 本当に勇気を振り絞ったのだろう。あんな目に遭わせた相手に謝ろうというのだから。

 ゼロは二つ返事で電話を切ると、急いで海鳴臨海公園に飛んで来た訳である。本当に飛んで行こうとしたら、はやて達に止められた。

 

 フェイトはゼロの姿を認めると、恐縮しきって頭を下げて来た。なのはも続いてピョコンと頭を下げる。 ゼロはなのはが居る事に少し驚いた。だが良く考えれば不思議では無いだろう。

 

 恐らくフェイトはこれから裁判などで別の場所に移送されるのだろうから、その前にクロノ辺りが気を利かせてこの為の時間を作ってくれたのだろう。その時になのはとゼロに連絡して来たのだ。

 

「よお、久し振り、どうした改まって……?」

 

 申し訳無さで頭を上げられないフェイトに、不思議そうに声を掛けた。前の事は色々ボロが出そうなので、すっ惚ける事にしたのである。

 フェイトは困惑した様子で頭を上げた。ゼロはいささかぎこちなくながら、

 

「……で……電話の事だけどよ……な、何の話 だ……? 俺には何の事かサッパリ解らない ぞ……ゆ、夢でも見たんじゃねえか?」

 

 頬を引きつらせて惚けた。フェイトは慌てて首を激しくブンブン振り、

 

「……そ……そんな事はありません……! 確か に……」

 

 訳が解らなかった。自分がした事を改めて説明しようとするが、当然ゼロとは話が噛み合わない。

 だがこのまま細かい所を突っ込まれては不味い。そこでゼロははやて直伝の言い訳を使う事にした。

 

「ああ……そう言えば……何か妙な赤と青の奴が突然現れて……記憶を消すとか、なんたらかんたら言ってたような……」

 

 さも記憶が無いように額に指を当てて見せる。要するに何か突っ込まれても、宇宙人に記憶を消されましたと言い張れという作戦である。

 嘘が下手なゼロ用の言い訳なのだが、いかんせん台詞が棒読みなのでとても怪しい。フェイトは少し不審に思ったが、

 

「……そうですか……」

 

 そう言われては頷くしか無かった。事情を聞いているらしいなのはは、成る程! という顔をする。ウルトラマンは宇宙人だから、何でも有りだとでも思っているのだろう。

 これ以上突っ込まれると不味そうなので、ゼロは話題をすり替える事にする。

 

「こっ、こっちの子は誰だい……? よお、俺はモロボシ・ゼロって言うんだ、ヨロシクな」

 

 なのはに気安く挨拶をした。なのはも行儀よくペコリと頭を下げ、

 

「高町なのはと言います」

 

 元気良く挨拶を返す。フェイトは照れたように、なのはをチラリと見てからゼロに向き直り、

 

「……友達です……」

 

 頬を染めてもじもじしながらも、ハッキリと伝えた。そこでゼロは、フェイトのツインテールに髪を括っているリボンが、何時もと違う事に気付く。

 

 黒いリボンがピンク色になっている。これは確か……と思ってなのはを見ると、此方は黒いリボンで髪を纏めていた。

 どうやら2人は互いのリボンを交換したらしい。色々な事があったが、2人は分かり合えたようだ。

 ゼロの顔は自然に綻んでいた。フェイトはそんな少年の表情を見て、思わず頬を赤らめてしまう。 ゼロは自分がひどく優しい顔をしているのに気付かず、

 

「ひょっとして、もう此処を離れるのか? だから挨拶しに来てくれたんだろう……?」

 

 結局謝る事も出来ず、どうしたらいいか解らないフェイトに助け船を出した。

 

「……あの……そのう……は……はい……」

 

 フェイトも取り合えず頷くしか無い。その間に彼女の頭には、1つの疑問が浮かんでいた。 ずっと心に引っ掛かっている事……

 

 そうしている内に、此方に歩いて来るクロノとアルフ達の姿が見えた。もう出発の時間なのだろう。

 ゼロは鋭い所のあるクロノと顔を合わせるのは、止めた方が良い気がした。フェイトには悪いが、此処は引き上げた方がいい。

 クロノ達に気付いたフェイトは、残念そうな表情を浮かべる。ゼロはアルフに手を振ると、フェイトの頭に軽く手を置き、

 

「向こうに行っても元気でな……困った事があったら、何時でも連絡して来いよ……?」

 

「……は……はい……」

 

 フェイトは俯きながらも呟くように返事をしていた。本当ならもう会わせる顔が無いと思っているのだが、自分は狡いと自覚しながらもその言葉に甘えたかった。

 

「じゃあなフェイト、元気でな……自分の道がんばれよ、お前ならやれるさっ!」

 

 ゼロは最後にフェイトの頭を笑顔でポンと叩くと、片手を挙げて挨拶し、きびすを返して走り出した。 なのははその後ろ姿を見送り、何気無く隣に立つフェイトを見て驚いた。

 

「フェイトちゃん? ど、どうしたの!?」

 

 見るとフェイトがゼロを見送りながら、両眼から透き通る涙を溢れさせていた。

 

「……な……何でも無い……何でも無いよ……」

 

 フェイトは涙を拭うが、止めどもなく溢れ出る涙は止まらない。彼女はゼロの最後の言葉にとても覚えがあった。

 それはウルトラマンゼロが、フェイトに掛けてくれた言葉と同じ言葉……

  確証は無い。偶然かもしれない。しかし彼女の中で、ゼロの名を持つ2人は1つに重なっていた。

、最初からあの少年が、今までずっと自分を助けてくれていたのではないか? 突拍子も無い話かもしれないがフェイトはそう信じた。いや信じたかった。

 

  フェイトは溢れる涙に構わず、深く深呼吸するとゼロの後ろ姿に向かい、普段では考えられない程の大声を出していた。

 

「ありがとう……ございました!!」

 

 彼女の心からの感謝が籠った言葉だった。 遠ざかるゼロが、片手を挙げて応えるのが涙で滲む目に確かに見える。

 

 そしてその姿は、風にそよぐ緑の木々の中に次第に小さくなって行く。

 

 そよ風がフェイトの濡れた頬を優しく撫でる。

 

 気が付くと、少年の後ろ姿はもう何処にも見えなくなっていた。

 

 

 

無印編完

 

つづく

 

 

 

 

 




 A's編予告

 突如告げられるはやての病状の悪化。彼女を救う為、そして八神はやての騎士としての誇りを汚さぬよう、人を1人も襲わずに『蒐集』を完了させる事をゼロと誓う守護騎士達。

「綺麗事を貫く分は全部俺が背負う!」

 だがそんなゼロ達を嘲笑うかのように、悪意の者達が泥沼の罠に陥れる。そしてゼロの前に現れるもう1人のウルトラマン……

『僕の名はウルトラマンネクサス……ウルトラマンゼロ……君を倒しに来た……』

 激突するウルトラマンゼロと、ウルトラマンネクサス。何故? 陰で暗躍する者達とは?

「貴様は何者だ……? 何故そんな姿をしてい る!?」

 シグナム達を襲う恐るべき敵とは?

「どーした? こっちのシグナムはこの程度か? そんなんじゃ僕には勝てないぞ!」

「そう……私達は本物の悪魔でしょうね……」

 居ない筈の者達が八神家を追い詰めて行く。

 穏やかな青年が戦士の顔となる時、左腕のブレスが唸りを上げる。

「貴方は一体……?」

『僕はゼロと同族のウルトラマンだよ……』

『しゃらくせえ! 俺の身体は全身が鎧、そんなもの通じん!!』

 現れ出でる謎の超人とは?

 絶望に叫ぶはやての心を、黒い憎しみが支配する。

「いやあああああっ! ゼロ兄ぃぃぃっ!!」

 そして遂に姿を現す魔神とは?

 番外編と幕間数話の後A's編が始まります。それでは次回お正月番外編『ウルトラゼロ正月ファイト』

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