夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

31 / 105
第28話 第97管理外世界で出会った奇跡や

 

 

 

 『時の庭園』での決戦からしばらくの時が過ぎ、ようやく平穏を取り戻した八神家では、皆のんびりとした日々を送っていた。

 

 様々な出来事や事件のせいであっという間に5月も終わり、カレンダーはもう6月である。梅雨にはまだ早く、過ごしやすい季節だ。

 程良い気温の心地好い正午のリビングで、はやてを除く全員が何かの準備に勤しんでいた。ヴィータは準備の合間に、はやての部屋の方をチラリと見て、

 

「まだ大丈夫だよな……?」

 

 妙に警戒しているようだ。そんな彼女にゼロは、難しい顔で何やら細かい作業をしながら、

 

「大丈夫だ、後30分は掛かる筈……急いで終わらせるぞ」

 

 幾分慌て気味でヴィータをせっつくと作業に戻る。シグナムもシャマルも、人間姿のザフィーラも一心に何かの作業をしている。非常に悪戦苦闘しているようだった。

 

 

 

 一方のはやては自室で机に向かい、中年の女性と勉強に励んでいる所だった。女性は訪問支援員の先生である。

 訪問支援員とは、はやてのような病気休学児童の勉強の指導をする先生で、教員経験者があたる事になっている。今日ははやての勉強の進み具合をテストする日なのだ。

 

「凄いわね、はやてちゃん……同い年の子達よりずっと出来てるわ……100点よ」

 

 はやての提出した答案用紙の採点を終えた支援員の先生は、感心して答案を彼女に渡した。

 

「……そうですか……ありがとうございます。これもゼロ兄のお陰です」

 

 答案用紙を受け取ったはやては、照れて頬を染めながらペコリと頭を下げた。

 

 

 

 

 支援員の先生を全員で玄関まで見送り、はやては解放感でう~んと両腕を上げ伸びをした。 一息吐いた所で、

 

「さあて……テストも終わった事やし、みんなお茶煎れるから、ちょう待っててな?」

 

 ニッコリ笑うと車椅子を操作し、キッチンに向かおうとする。するとシャマルがひどく慌てた様子で、

 

「はやてちゃん、お茶なら私が煎れますから、ノンビリしていて下さいっ」

 

 先を越してキッチンにパタパタ駆けて行く。すごく焦っているようで、危うく転びそうになったが辛うじて立て直し駆けて行く。続くように今度はヴィータが、

 

「そうそう、はやては勉強で疲れてるんだから、休まないと」

 

 素早く車椅子のグリップを握ると、有無を言わさずリビングまで押して行く。

 

「何やヴィータ、私そんなに疲れとらんよ?」

 

 はやてはヴィータの大袈裟な物言いに苦笑しながらも、されるがままにリビングまで連れて行ってもらう。こういうやり取りも楽しいものだ。

 

 はやては車椅子からソファーに移してもらい、他の皆も彼女を囲むようにそれぞれ座る。煎れてもらった紅茶を受け取ったはやては、 ゆったりと香りを味わいながら顔を綻ばせた。

 

「はやてどうしたの? 何かいい事あった?」

 

 隣でフウフウ紅茶を吹いていたヴィータは、 目敏く見付けて聞いて来る。はやては照れたような笑みを浮かべ、

 

「先生に勉強よう出来とるて誉められてな…… 同い年の子達よりええ言われたんよ……」

 

 学校を休学中の身としては、勉強で誉められて嬉しかったのだろう。つい頬が緩んでしまうようだ。はやてはそこで、床に行儀悪く胡座をかいてお茶を飲んでいるゼロに、

 

「これもゼロ兄のお陰やね……?  ぎょうさん教えてもろたもんなあ……」

 

「……いや……はやてが頑張っただけだろ……?」

 

 照れたウルトラマンの少年は、決まり悪そうに明後日の方向を見る。それを聞いた守護騎士達は、一斉に驚いた顔をした。

 

「えっ? はやてゼロに勉強教わってるのか? このキガ常識音痴にぃっ!?」

 

 ヴィータは物凄おく意外そうに声を上げる。 シグナムとシャマルは知らない人を見るような目で、

 

「……い……意外だな……にわかには信じ難い……一般常識もまだ怪しいと言うのに……」

 

「何か悪いものでも食べたの? そんなのゼロ君のキャラじゃないわ……裏切られた気分よ……」

 

 めいめい勝手な事を言っている。ザフィーラと『闇の書』は今の所無言だが、ザフィーラは目が驚いているようだ。闇の書は喋れないので判らない。

 

「……お前らが俺をどういう目で見てるか、良 ~く判ったぜ……」

 

 ゼロは肩を震わせ、引きつった笑みを浮かべた。何なら、シャマルの微妙料理を食ったからと言ってやろうかとまで思う。言ったら言ったでイジケるので、結局言わなかったが。

 

「みんな、ゼロ兄は一応宇宙人なんよ? めっちゃ頭いいんやから、数字や暗記は得意なんよ」

 

 不貞腐れそうになるゼロを見かねて、はやてはフォローを入れるが、一応とか言ってるあたり彼女も忘れてたくさい。

 ちなみに非公式ながら、ウルトラマンは知能指数1万くらいはあるらしい。

 ゼロは少しでも役に立てればと教科書や参考書を全て覚え、先生代わりに教えて来たのである。シャマルは合点が行ったと、パチンと手を叩いて納得顔をし、

 

「こう考えればいいんですね? いくらゼロ君でも、小学校の問題くらいは簡単だと……」

 

「……成る程……例えるなら、一番不出来な学生でも幼子には教えられるという感覚ですね……? それならば得心します……」

 

 続いてシグナムが腕を組んで、ウンウン頷き嫌な納得の仕方をした。ヴィータは安心してホッと息を吐き、

 

「何だそう言う事かあ……ウルトラマンの中で一番頭が悪いけど、こっちでは良く見えるだけってやつか……あ~、ビックリした……やっぱりゼロはゼロだよなあ~っ」

 

 もうボロクソである。何時の間にか、ウルトラマンの中で一番頭が悪い事にされてしまっていた。確かにあまり頭が良さそうには見えない性格ではある。不良っぽいので。

 

「テメエら……言いたい放題言いやがってぇ ~っ、そこまで言うなら頭で勝負だ! 俺の頭の良さを思い知らせてやるぜ!」

 

 ゼロはカバっと立ち上がり、大人気ない事を言い出した。いくらウルトラマンでも、まだ高校生くらいの年では仕方無いかもしれないが。

 

「面白えじゃん! 受けて立ってやる、吠え面かくなよ!?」

 

 ヴィータが腕捲りして立ち上がる。ニヤニヤだ。完全に舐めくさっている。そんな彼女に向かって、ゼロは得意気に笑い親指で自分の唇を弾くと、

 

「甘えなヴィータ……俺に頭で勝とうなんざ、2万年早いぜぇっ!!」

 

 挑発するように2本指を示す。何故2万年なのかは不明である。一応十年早いみたいなものであろう。

 双方自信満々で睨み合う。頭突き合戦とでも勘違いしているのではないだろうか?

 

「はいはい2人共、そこまでや……お茶が冷めてまうよ」

 

 何時もの事なので、はやてはノンビリした口調でたしなめる。ゼロは頭を掻き、ヴィータはまだニヤニヤしながら引き下がった。はやては隣に座り直すヴィータに、

 

「せやけどヴィータ、ゼロ兄はこう見えても、向こうで『宇宙警備隊』いう堅い仕事に着いとったんよ。一回クビになったみたいやけど……」

 

 こう見えてもとかクビとか、余計なのが2つばかり入っている言葉で再度フォローする。するとシグナムが興味深そうに、

 

「名称からして、かなり大掛かりな組織のようだな……? ゼロのような戦士が数多く所属しているのか?」

 

「ああ……100万人のウルトラ戦士が、侵略者や怪獣から星や人々を日々守ってる。デカイ所だな……」

 

 ちょっと誇らしげに説明するゼロである。シグナムは感心してはやてに話を振った。

 

「しかし……主はやて、ゼロの性格でよくそんな、規律の厳しそうな組織に入れたものですね……?」

 

「ほんまやね……?」

 

 はやても今まで、警備隊時代のゼロの話はあまり聞いた事が無い。そこで当然の事に思い当たる。

 

「ほんなら当然ゼロ兄は、訓練学校みたいな所にも行ってたん?」

 

「あ……? ああ……一応……行ってたけどよ……」

 

 ゼロは応えるが、どうも歯切れが悪い。はやて達は訓練校で他の訓練生達と一緒に、畏まって授業を受けているゼロの姿を、もやもやと想像してみた。

 

「ぷっ……あはははははははっ! 似合わね えっ!!」

 

 ヴィータは耐えきれずに、お腹を抱えて大爆笑してしまった。真面目なゼロが物凄くツボに入ったらしい。

 

「……あ……あかんよヴィータ……そないに笑ったら……ぷぷぷ……」

 

 そう言うはやても完全に吹いている。シャマルは涙目で口を押さえ、シグナムは下を向いてゲフンゲフンと何度も咳をしていた。皆笑いたいのを必死で誤魔化そうとしているがバレバレである。

 

 コイツら~とムカついたゼロだが、ザフィー ラと『闇の書』ならばと2人を見てみると……何故か狼形態になったザフィーラは床に伏せ、『闇の書』ははやての膝の上で静かにしていた。

 一見何とも無いようだが、良く見ると2人共小刻みに震えている。 シグナム達と同じだ。どいつもコイツも裏切者ばかりである。

 

「お前ら~っ! 俺だってなあ……」

 

 ゼロは立ち上がり文句を付けようとした所で、ピタリと勢いが止まった。あれ? と言う風に頭を捻る。記憶を辿っているようだが、何故かダラダラと脂汗が流れて来た。

 はやて達は思ったと言うか見切った。やはりサボっていたクチだなと。 そんなゼロを流石に哀れに思ったのか、シグナムがフォローを入れる。

 

「……しかし……戦いに関する知識は大したもの だ……超獣の能力弱点を全て記憶しているとは……お陰で超獣も倒す事が出来たのだからな……」

 

「あっ、分かったわ、戦い方面の授業だけは真面目に受けて、それ以外は全部聞き流すかサボってたのね?」

 

 シャマルがニコニコしながら痛い所を突いて来た。はやては図星を突かれて、グウの音も出ないゼロに笑い掛け、

 

「それでこそゼロ兄やね?」

 

 妙な所で感心されてしまった。つくづくツッコミ所の多いウルトラマンである。

 

「……嬉しくねえ……キツいぞはやて……」

 

 すっかり拗ねてぶちぶちボヤくゼロだが、開き直って腕を組んで床にドスンと座り込むと、

 

「フッ……所詮俺は、はみ出しもんよ……」

 

 何か格好つけて遠くを見詰めた。最終的に孤独なヒーローを気取って誤魔化す気らしい。どう考えても手遅れである。

 はやてはそんなゼロが可愛いく、撫でくり回してやりたい衝動に駆られた。

 小学生に可愛いと思われているとは知らないゼロの目に、リビングの時計が映る。丁度午後5時を指した所だ。

 

「良しっ、そろそろいいだろう!」

 

 ゼロが合図を送ると、はやてを除く全員が一斉に何かを取り出した。

 

 パンッパンッパパンッ!

 

 リズミカルなクラッカーの音がリビングに鳴り響く。

 

「はやて誕生日おめでとうっ!」

 

「はやて、おめでとうっ!」

 

「主はやて、おめでとうございます……」

 

「はやてちゃん、9歳のお誕生日おめでとうございます」

 

「主……おめでとうございます……」

 

 5人はそれぞれお祝いの言葉を、小さなマスターに述べた。

 

「ふあっ……?」

 

 クラッカーの紙テープ塗れになったはやては、ポカンと口を開け唖然としてしまった。

 

「どうしたはやて? 自分の誕生日を忘れてたのか?」

 

 呆気に取られるはやてに、ゼロが悪戯っぽく笑い掛ける。はやては口ごもり、

 

「……そないな事は無いんやけど……」

 

 無論ゼロと初めて出会った日でもあるので、忘れてなどいない。ただ嵐のような出来事の連続で、言い出すタイミングを失い、そのままになっていたのだ。

 

「さあ、主はやて、此方に……」

 

 シグナムが優しく微笑んではやてを抱き抱え、車椅子に乗せると食卓まで押して行く。

 

「えっ?」

 

 はやては驚いた。何時の間に用意したのか、 テーブルには巻き寿司や唐揚げなどの料理が沢山並べられている。道理でキッチンに行かせたくなかった訳だ。

 

「何でや……? 匂いなんて全然せえへんかったのに……?」

 

 今は料理の良い匂いが香しい。はやては不思議そうに首を傾げた。ゼロは笑って冷蔵庫を開けると、大きなケーキを取り出して見せ、

 

「へへっ、コイツを馴染ませる時間が足りなくてな……その間バレないように『ウルトラ念力』で見えない壁を作っておいたのさ」

 

 何と言う能力の無駄使いであろう。はやては呆れるやら可笑しいやらだ。

 ゼロは彼女の反応をしたり顔で確認しながら、手作りの生クリームケーキをそっとテーブルに置く。

 赤い苺が目に鮮やかな純白のケーキの真ん中 に『はやて9歳の誕生日おめでとう』と手書きの文字が書かれたチョコレートのプレートと、お菓子の家が載っている。

 

「巻き寿司とか、みんなで巻いたんだぜ」

 

 ゼロが示すので見てみると、成る程大きさや具がバラバラだ。

 巻き寿司と言うより、恵方巻きもしくはゲートボールスティック並に太いものから、不器用な作りで何故か切り口だけが異様に鋭く、剣のように斜めになっているものまである。

 皆の悪戦苦闘する様子が、目に浮かぶようであっ た。シグナムがニヤリと笑い、

 

「御安心を……味付けにシャマルは関わっていませんので……」

 

「ちょっとおシグナム、それって酷くな い!?」

 

 自分の事は棚に上げるシグナムに、抗議の声を上げるシャマルである。舌『だけ』は肥えて来たリーダーにだけは言われたくない。

 ゼロはジッと料理を見詰めているはやてに微笑み、カラフルなケーキ用蝋燭を立てて行く。はやては目頭が熱くなってしまった。

 周りには心から自分を祝ってくれる大切な家族達。こんな日がまた訪れるなんて……

 

(ゼロ兄が来てから、ほんまに嬉しい事ばっかりや……)

 

 ゼロとの出会いから丁度1年、はやての脳裏をこの1年の様々な思い出が浮かんだ。色々な事があった宝物のような日々……

 

 ふと思う事がある。自分は夢を見ているのではないのか? 幸せな長い長い夢を見ているだけではないのかと。 本当の自分は変わらず独りきりで……

 だが確かにゼロも守護騎士達も目の前に居る。それは確かな彼女の現実だった。

 

(みんなは確かに、今此処に居るんや……)

 

 こみ上げて来るものがある。はやては涙ぐみそうになるのを必死で堪えた。せっかく皆が準備してくれた誕生会。湿っぽいのは無しやと何とか我慢する。自分は皆のマスターなのだからと。

 そこまで我慢する事は無いのだが、我慢してしまうのが八神はやてという少女なのだ。

 

「……みんな……ありがとうな……めっちゃ嬉しいわ……」

 

 笑顔でお礼を言うはやての目の前で、ヴィータが張り切ってライターで蝋燭に火を点ける。

 

「はやて、はやて、さあ吹き消して」

 

 わくわく顔で催促するヴィータの要望に、はやては気合いを入れ、

 

「よっしゃ、任しときっ」

 

 思いっきり息を吸い込むと、可愛らしく頬を膨らませ力の限りぷう~っと吹いた。9本の蝋燭の火が見事に一度に消える。皆で一斉に拍手で祝った。

 

「あはは……みんな……ありがとうな……」

 

 温かい拍手の中、照れていたはやての顔色がつう~っと白くなりふらついた。それに気付いたゼロは慌てて支え、

 

「どうした、はやて!?」

 

「……あかん……張り切り過ぎてもうた……」

 

 はやては頭をクラクラさせ苦笑を浮かべる。 張り切り過ぎて酸欠になり掛けてしまう彼女であった。

 

 

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

 

 

 其処には死の気配が濃厚に漂っていた。

 

 時空管理局の管轄する、13番目の管理世界の一寒村。今山間の村は、戦火にでも遭ったかのような無惨な有り様であった。

 建築物は原型を留めぬ程に破壊し尽くされ、業火が火の粉を撒き散らし、夜のとばりが降りた村を真っ赤に染めて燃え盛っている。

 地獄のような光景であった。しかしその光景には1つ足りないものがある。人間、生き物の姿が全く見当たらないのだ。

 

 死の気配が充満し、これだけの規模の破壊の中で生き物の姿が無い。死体1つ見当たらなかった。既に村の住人達は全員避難したのであろうか?

 

 その時燃え盛る炎の音に混じり、甲高い悲鳴が辺りに響き渡った。今まで隠れていたらしい中年の女が、恐怖で悲鳴を上げ必死で逃げている。

 その後ろから、見るもおぞましい十数メートルもの怪物が地面を滑るように迫っていた。

 蛞蝓(ナメクジ)や海牛、磯巾着を混ぜ合わせたようなおぞましい怪物だ。粘液をぬらぬらと滴らせ、無数の触手を伸ばした。

 女は逃走空しく絡め取られ、ズルズルと怪物に引き寄せられて行く。怪物のおぞましい身体がイソギンチャクのようにバクリと開いた。

 

「いやああああぁぁぁぁっ! あげえええっ! ぎょべぇげええがああぁぁぁっ!!」

 

 頭から生きながら貪り喰われて行く。耳を塞ぎたくなるような骨が砕ける音と、肉が噛み千切られる音に、断末魔の悲鳴が辺りに木霊しパッタリと止んだ。

 

 怪物は味わうように痙攣を繰り返す女をゆっくりと飲み込むと、芋虫のようにズルリと身体を蠕動させる。すると周囲から、同様の姿をした怪物群がわらわらと集まって来た。

 怪物群は十数メートルサイズの怪物に次々と溶け合うように融合して行く。それに伴い、その躯は数十メートルまで見る見る内に巨大化する。

 この村に生物の姿が見えないのは、この怪物にほとんどの人間が喰われてしまったからであった。そしてこの怪物は、人間のあるものを糧にして更に力を増して行く。

 怪物は粘液に被われる、紫色の身体に炎をテラテラと反射させ、吠えるように不快音を響かせる。次の獲物を見付けた歓喜の反応だ。

 

 怪物がおぞましい頭部を向けた方向から、赤ん坊の泣き声が微かに炎の音に混じって聴こえて来る。まだ生き残りが居たのだ。

 怪物は巨体を不気味に蠕動させ、泣き声が聴こえて来る場所目掛けて真っ直ぐに向かう。すると泣き声が聴こえて来た崩れ掛けた建物の中から、若い夫婦連れが赤ん坊を抱いて飛び出して来た。

 

 2人の顔は恐怖に歪んでいる。父親の腕の中で、赤ん坊は火が点いたように泣き声を上げている。夫婦は怪物から逃れようと駆け出した。

 

 怪物は無数のヌラヌラした触手を伸ばす。夫婦はあっという間に触手に絡み取られ、宙に吊り上げられてしまった。

 怪物の身体の中央が縦に2つに割れ、ゾッとするような顎(あぎと)がバクリと開く。先程の女と同じく3人纏めて喰らうつもりなのだ。

 触手はゆっくりと夫婦と赤ん坊を巨大な口に運ぶ。おぞましい液体を滴らせた顎が更に広がった。夫婦が死を覚悟したその時であった。

 

 突如として一筋の光が闇を翔ける。光は鋭い刃と化し、夫婦を捕らえていた触手を纏めて切断した。怪物はおぞましい怒号を上げる。

 投げ出された夫婦は、重力に従って地面に落下してしまう。この高さではとても助からない。転落死と思いきや、途中で何か弾力を持った物体の上にふわりと落ちていた。

 お陰で怪我は負っていない。だがこれも得体の知れないものだ。恐怖に震える夫婦はパニッ クを起こし掛けるが、その物体は静かに下降すると3人を地面に降ろした。その物体は巨大な手であったのだ。

 

 唖然とする夫婦の目の前に、赤い炎を銀色の身体に反射させた、数十メートルはある巨人がそびえ立っていた。 日本の兜を被ったような頭部、暗闇に強く輝 く2つの眼、胸部にはYの字に似た巨大な赤いクリスタルが光っている。

 

『シェアッ!』

 

 巨人は夫婦連れを庇うように大地を揺るがし、敢然と怪物の前に立ち塞がった。 その巨人は、ある世界で確認されている巨人と酷似していた。その巨人の名は……

 

『ウルトラマンネクサス』

 

 

 

つづく

 

 

 




※訪問支援員制度は実在の制度です。多分はやても使っていたのではと。

 管理世界に現れた、おぞましき怪物スペースビーストの前に立ち向かう銀色の巨人。 その軌跡が明らかに? リンディ提督への特命とは?

 次回『その名はウルトラマンネクサスや』


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。