夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第37話 激戦-フェースファイティング-

 

 

 

「ゼロとあのデカブツが消えた……?」

 

 ヴィータは唖然としてゼロが消えた辺りを見渡すが、2体の巨人の姿は煙のように消え失せ、何処にも見当たらない。

 

「ゼロにあのような力は無い筈……あの巨人の力か……?」

 

 シグナムもそちらに目を向けるが、フェイトが向かって来るのを見てそちらに向き直る。

 怒りの眼差しで此方を睨むフェイトに続き、アルフとユーノも戦闘態勢で上がって来ていた。シグナムは迫るフェイト達に視線を向けつつ、ヴィータとザフィーラに、

 

「あの様子では、ゼロに封鎖領域を破る余裕は無さそうだ……念の為侵入する前に、シャマルに応援を頼んでおいた。今頃察して封鎖領域の解除を始めている頃だろう……その間時間稼ぎをせねばなるまい……」

 

「ゼロは大丈夫かな……?」

 

 ヴィータは心配そうに、再びゼロが消えた辺りを見下ろす。するとシグナムが、

 

「ゼロなら大丈夫だ……あの男がむざむざやられるものか。私は信頼している……」

 

 戦闘中にも関わらず、柔らかく微笑んだ。ヴィータはあのシグナムが、戦鬼の笑み以外を戦闘中に浮かべるのは珍しいなと意外に思うが、確かになと納得して頷いた。

 烈火の将は頷き返すと、レヴァンティンの刃を再び返し、

 

「行くぞ……やり辛いだろうが、ベルカの騎士ならば……」

 

「誓いは貫く! しのいでやるさ!」

 

 ヴィータが空かさず合いの手を入れる。ザフィーラも力強く頷いた。ヴィータは相手に向かいながらふと、違和感を感じ背中に手をやった。

 

「『闇の書』が無い?」

 

 持っていた筈の『闇の書』が何時の間にか消えていた。

 

 

 

 

 はやてはキッチンで、夕食の下ごしらえの真っ最中であった。他の皆が少々遅くなりそうだとの連絡があったので、それなら下ごしらえに手間の掛かる洋風の鍋を試してみようと、シャマルが提案したのである。

 はやても乗り気になり、シャマルは足りない材料の買い出しに出掛けた所だ。鼻歌混じりで包丁を握っていたはやての携帯の着信音が鳴る。シャマルからであった。

 

《すいません……お目当ての食材が見当たらなくって、ちょっと遠くのスーパーまで探して来ます》

 

「別にええよ? 無理せんでも」

 

 はやては言うが、シャマルはここまで来るとどうしても手に入れないと気が済まない、ついでに皆を拾って帰るとの事だった。

 

「なるべく急いで帰りますから……」

 

 ビルの屋上に立つ騎士服のシャマルは、目前の封鎖領域を見上げながら、指輪モードの 『クラール・ヴィント』に話し掛ける。携帯と通話出来るように調整してあるのだ。

 

《あっ、急がんでもええから気い付けてな?》

 

「はい、それじゃあ……」

 

 シャマルは心の中で謝りながら通信を切る。その小脇に『闇の書』が在った。 戦闘の邪魔になると判断し、封鎖領域の術式が組み換えられる前に離脱して来たのだ。

 

 シャマルはシグナムからの思念通話を受けて此処に駆け付け、事態を察し早速封鎖領域の解析に掛かっている所である。

 シグナムの予想通りだ。伊達に永い時を共に戦って来た訳では無い。シャマルは参謀としての役割も担っている。

 

(確かにベルカの封鎖領域なのに、あちこち弄られてるみたいね……解除にはもう少し時間が掛かりそう……みんな無事でいてね!)

 

 湖の騎士は急く気持ちを抑え、解除作業に集中す る。彼女の探査能力でも、中の様子はハッキリと判らなかった。

 

 

 

 

『ディャアアアッ!!』

 

 幻想のような空間の中、先手必勝とばかりに放たれるウルトラマンゼロの上段回し蹴りが、ウルトラマンネクサスに飛ぶ。

 

《同じ手は食わない!》

 

 音速の勢いで繰り出された蹴りを、ネクサスは片手でガッチリと受け止めていた。更に蹴り脚を掴むと、力任せに引っ張っる。

 

『なっ!?』

 

 バランスを崩されたゼロは焦った。だがそれだけでは終らない。何とネクサスは腕一本で、3万トンを超えるゼロの巨体を、頭上まで引っこ抜いたのだ。

 

 凄まじい力だ。ネクサスは引っこ抜いたゼロを、強烈なパワーで地面に叩き付ける。異形の大地が地震のように揺れ砕けた。

 

『グワアッ!』

 

 背中から叩き付けられたゼロは、苦悶の声を上げてしまう。だが痛みに気を取られている余裕も無い。更にネクサスの巨大な脚が振り上げられる。

 ゼロは腹筋の力のみでバネのように一気に立ち上がり、反動を利用してネクサスのボディーに正拳突きを叩き込む。

 

『グオオオッ!』

 

 赤い超人は声を漏らすが、鋼鉄のような腹筋が衝撃を受け止める。

 

(俺の正拳突きをまともに食らって耐えやがっ た!?)

 

 驚くゼロの横腹を狙い、ネクサスは右腕を振り上げ鋭いフックを繰り出して来た。

 

『チイッ!』

 

 避け切れないと瞬時に判断したゼロは、ネクサスの顔面に頭突きを食らわそうと逆に踏み込んだ。しかしネクサスもフックを止め、頭突きを合わせて来た。

 

 ガキンッと鈍い音を立て、2人のヘッドバッドが激突する。ゼロは押し負け、後ろによろめいてしまった。

 ネクサスが更に頭突きを食らわそうとするが、ゼロは辛うじて後方に飛び退き距離を取る。頭を振り赤い超人を睨みながらも、ゼロは驚きを隠せない。

 

(コイツ、さっきと何もかもが桁違いじゃねえか! あの姿はやはりパワーアップ形態なのか!?)

 

 ゼロは額を擦ると、油断なくネクサスに『レオ拳法』の構えで対峙する。しかし同時に疑問をも感じた。

 

(確かに奴のパワーアップは凄えが……それだけか……? どうも調子が上がらないような気がするぜ……)

 

 妙な息苦しさと身体の不調を感じるが、大した事は無いとゼロは自らを奮い立たせる。

 

(ウダウダ考えても仕方ねえ! 行くぜっ! これならどうだ!!)

 

 ゼロの脳波に反応し、頭部の一対の宇宙ブーメラン『ゼロスラッガー』が唸りを上げて飛び出した。赤き超人に向かい、空を切り裂き迫る。

 ネクサスは退かず、両腕の『アームドネクサス』を発動させ、光の刃『パーティクルフェザー』を連続して繰り出す。空中で白熱化したスラッガーと、くの字型の光刃がスパークを上げて激突した。

 

『何いっ!?』

 

 光刃がゼロスラッガーを圧倒的パワーで弾き返し、残りの刃が此方に襲い掛かる。ゼロは横っ跳びに身をかわしてパーティクルフェザーを避けると、大地 を蹴り割って跳躍した。

 

 弾かれたスラッガーを呼び戻し、両手に構えると上から突撃を掛ける。ネクサスは両腕を構え『エルボーカッター』で迎え撃つ。 幻夢の空間を揺るがして、2体の巨人の斬撃音が轟く。暴風雨の如き打ち合いだ。

 

『シェアッ!!』

 

 ネクサスの強烈極まりない一撃が打ち込まれ、受け止め切れなかったゼロの手からスラッガーを弾き飛ばした。

 

(しまった!)

 

 ゼロがスラッガーに気を取られた一瞬をネクサスは見逃さず、右拳にエネルギーを集中させる。

 

『ウオオッ! シェアアッ!!』

 

 気合いと共に、光を放つ猛烈な一撃『ジェネレイドナックル』を、ゼロのボディーに深々と叩き込んだ。

 

『グハアアッ!?』

 

 ゼロ距離から砲撃を受けたようにゼロは数百メートルは吹っ飛び、大地に叩き付けられた。 異形の岩がガラス細工のように飛び散る。

 

(ぐはっ……!)

 

 ゼロは腹を押さえて大地に這いつくばってしまう。凄まじい威力であった。

 

(ばっ……馬鹿な!? 正面からやり合って、俺が力負けしただと!?)

 

 驚愕と悶絶するような痛みで、まだ立ち上がる事が出来ない。ネクサスはゆっくりとゼロの近くに歩み寄った。

 

《投降するなら、これ以上攻撃は加えない…… 罪を認めるなら悪いようにはしない……》

 

《舐めた事……抜かしてんじゃねえ……!》

 

 ゼロが腹を押さえながらも大地を踏み締め立ち上がり、赤き超人を睨み付けると同時だった。ゼロの『カラータイマー』が赤く点滅を始めているではないか。

 

(そんな馬鹿な!? 俺のエネルギーがこんなに早く無くなる訳がねえ!)

 

 予想外の出来事だった。ゼロは動揺を隠せない。時間切れにはまだ早い筈にも関わらず、エネルギーが極端に消耗していた。そこでようやく気付く。

 

(この『メタフィールド』とやらのせいか…… この空間内では奴はパワーアップし、敵には消耗させる専用のバトルフィールドって訳かよ! クソッ、此処に誘い込まれた時点で詰んでたって事か……!)

 

 圧倒的不利な状況だが、ゼロは痛みを堪え再びレオ拳法の構えを取った。

 

 

 

 

 

 シグナムとフェイトは、ビル街上空で激しく打ち合っていた。『レヴァンティン』と『バルディッシュ』が火花を散らす。

 

「くっ……!」

 

 近接で正面から打ち合う不利を悟ったフェイトは、後方に飛び距離を取った。シグナムは彼女の判断力と戦い振りに感心し、

 

(ほう……随分腕を上げたな……以前とはまるで別人だ……)

 

 こんな状況にも関わらず、少し嬉しくなってしまう。血が騒ぐのだ。困った性分だと自らを苦笑する。

 フェイトに無論そんな余裕は無い。彼女の周りに金色の魔力スフィアが現れる。彼女の得意魔法『フォトンランサー』の発射態勢だ。シグナムは動かず、

 

「レヴァンティン……私の甲冑を……」

 

《Panzer Geist!》

 

 女騎士の身体が淡い紫色の魔法光に包まれた。フェイトは構わず射ち出しに掛かる。彼女のフォトンランサーなら、なまじの魔法障壁ならば貫通するだけの威力を持っているのだ。

 

「撃ち抜け、Fire!」

 

 雷音のような発射音を上げ、計4発の電光の槍がシグナムに向かって放たれる。剣の騎士は余裕を見せるかのように着弾前に眼を閉じた。

 

「ああっ!?」

 

 フェイトは目を見張る。轟音と共に炸裂したフォトンランサーは紫色の壁に阻まれ、難無く弾かれてしまった。

 あの大魔力のなのはですら、フォトンランサーの前に揺らいだと言うのに、目の前の女騎士は微動だにせず受けきってしまったのだ。

 フェイトの知りうる防御魔法の範疇を超えている。 驚く少女の前でシグナムは、ゆっくりと愛剣を降ろし、

 

「研鑽を積んで来たようだな……悪くない……だがベルカの騎士に1対1を挑むにはまだ足りん……だがな……」

 

「……?」

 

 直ぐに攻めて来ると思いきや、静かな瞳を向けて来る剣士をフェイトは不審に思う。シグナムはおもむろに口を開き、

 

「退いては貰えんか……? 全ては誤解だ……」

 

「何を今更! なのはを襲って、ゼロさんをたぶらかしているのに!!」

 

 フェイトは普段の彼女に似合わぬ程に、激昂して叫んでいた。シグナムの言葉と態度に、却って怒りを増大させてしまっている。

 尊大だと捉えてしまっていた。 この状況では火に油である。シグナムはため息を吐き首を振った。

 

(やむを得ん……何者かの思惑通りだろうが、 今は仕方無いか……)

 

 思考を巡らせているのを隙ありと見たフェイ トは、バルディッシュを振り上げて突撃するが、

 

「!?」

 

 シグナムの姿が閃光と共に、残像を残して視界から消え失せた。瞬時に高速移動を行ったのだ。姿を見失ってしまったフェイトは、ゾクリとした気配を感じて顔を上げると、

 

「あっ!?」

 

 その瞳に真上から剣を振り下ろす剣士が映る。咄嗟の反射神経だけでバルディッシュを突き出し、防御魔法を張り巡らす。

 しかし一振りで防御壁を叩き割られ、バルディッシュにレヴァンティンが激突した。 フェイトは重い豪剣を辛うじて横に受け流し、後方に跳ぶ。良い動きだとシグナムは思うが、

 

(やるな……ならば仕方無い!)

 

 流石に手加減し過ぎると此方がやられる。フェイトは並の魔導師では無いのだ。レヴァンティンから魔力カートリッジが排出され、刀身が炎と化した。

 

「レヴァンティンッ! 叩き割れ!!」

 

《Jawohl!》

 

 シグナムの炎の一撃が飛んだ。フェイトはバルディッシュで再度受け止めるが、今度は受け流せない。

 業火の剣に耐え切れず杖部に亀裂が入り、コア部分にまで達した。だがそれだけでは終らない。シグナムの鋭い気合いが響く。

 

「ハアアアアアッ!!」

 

 凄まじい衝撃と剣圧に耐え切れなくなったフェイトは、またしても砲弾の如く吹き飛ばされ、後方のビルに叩き付けられてしまった。

 

「フェイトちゃん!?」

 

 見守っていたなのはの悲鳴に近い叫びが木霊す。

 現在ユーノはヴィータと、アルフはザフィーラと戦いながら封鎖領域からの脱出を試みている。しかし領域は堅牢で解析に手間取り進まない。

 シグナム達も状況は同じだ。今外でシャマルが懸命に解析作業に掛かっている。とんだ皮肉であった。

 

 シグナムはカートリッジをレヴァンティンに装填しながら、ビルに叩き付けたフェイトの上空に移動した。これくらいで参る相手で無いの は判っている。

 瓦礫を除けてやはりフェイトは立ち上がり、キッと顔を上げ女騎士を睨み付けた。

 友人を傷付けられ、恩人をたぶらかしている (と思い込んでいる)シグナムへの敵愾心もあるだろうが、一歩も退かない精神力に剣の騎士は感心した。口許に自然笑みが浮かぶ。

 

「いい気迫だ……私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターの将シグナム……そして我が剣レヴァンティン」

 

 彼女のこれまでの研鑽の日々と実力を讃え、静かに名乗りを上げた。

 

「ミッドチルダの魔導師……時空管理局嘱託フェイト・テスタロッサ……この子はバルディッシュ!」

 

 フェイトも絶対に負けないと言う想いから、バルディッシュを掲げ名乗り返す。互いの魔力が集中して行く。第2ラウンドが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 荒涼としたメタフィールド内で、ゼロとネクサスの戦いは続いていた。エネルギーの異常なまでの消耗に焦りを隠せないゼロは、ジュネッスとなったネクサスに押される一方だ。戦況は明らかにゼロが不利である。

 

(クソッ! 手加減出来るような相手じゃねえぞ!)

 

 ゼロは超音速で空を翔け、後方から追撃して来るネクサスに視線を向ける。戦闘は空中戦に移っていた。ソニックブームを巻き起こし、2体の巨人がぶつかり合う。

 ゼロは誤解から始まった戦い故に、最初は手加減をして追い払うつもりだったが、もうそんな余裕は無い。

 柄にも無く話し合いとも思ったが、なのはがヴィータに襲われたと思われているらしい上に『闇の書』の事があるゼロ達には、事情の説明も出来ない。今はネクサス達を退けて脱出をするしか無かった。

 

(これも敵の思う壺かよ、ちきしょう!!)

 

 何処の誰とも知れない敵の、陰湿なやり口に頭に来るゼロだが、ネクサスは容赦なく攻撃して来る。

 ただネクサスもゼロを殺す気がないのか、威力の高い光線を撃って来ない。お陰で必殺光線の撃ち合いまでには至っていなかった。

 しかし相手を戦闘不能まで追い込みたいのは双方同じで、攻撃に容赦は無い。

 

『ディヤアアアッ!!』

 

『シェアアアッ!!』

 

 空中で物理法則を無視したような格闘戦が繰り広げられる。まるで空気を足場に戦っているかのようだ。

 ゼロの突きがネクサスの顔面に打ち込まれるが、向こうも負けじと『ジュネッスパンチ』を鳩尾に叩き込む。やはりメタフィールド内ではゼロが不利なの か、打ち合いで競り負けて地上に落下してしまった。

 

(クソォッ!)

 

 地表に激突する前に体勢を立て直したゼロ は、悔しげに上空のネクサスを見上げる。するその眼にあるものが入った。

 

(何だ? アイツのカラータイマーみたいな物が点滅している?)

 

 ネクサスの胸部に形成された器官『エナジーコア』の点滅が始まっていた。更には動きにキレが無くなって来ているようだ。 状況を素早く分析したゼロは、答えを導き出す。

 

(そうか! この空間を維持出来るのは、そう長い時間じゃねえんだな? 自分に有利ではあるが、その分消耗が激しい諸刃の剣って訳か!)

 

 不利な状況の中、相手の消耗に気付いたゼロは、反撃に移るべく高く上昇する。こちらもあまり時間は残っていなかった。

 

 

 

 

 封鎖領域内でも戦闘は続いていた。色の無い暗い空を激突する6つの光。此方はフェイト達が不利であった。

 戦いの場から離れたビルの屋上で、ユーノの回復防御の結界の中戦いを見守っていたなのはは、追い詰められて行くフェイト達を見て焦燥に駈られていた。

 

「……助けなきゃ……私がみんなを……」

 

 実際はシグナム達は危害を加えるつもりは無く、脱出の為の時間稼ぎをしているだけなのだが、なのは達には思いもよらない。

 このままでは全員やられてしまうと思ったなのはは、ダメージを負った身体に鞭打って結界の外に歩き出した。

 そんな彼女の想いに応え『レイジングハート』はボロボロの状態にも関わらず砲撃モードに変形する。

 

《Lit.s shoot it Starlight Breaker》(撃って下さい、スターライトブレイカーを)

 

「そんな……無理だよ、そんな状態じゃ……あんな負担の掛かる魔法、レイジングハートが壊れちゃうよ……!」

 

 心配するなのはだが、レイジングハートの励ましと信頼に彼女は覚悟を決めた。

 意を決したなのはがレイジングハートを構えると、前面に桜色の魔方陣が展開される。彼女最大の砲撃魔法『スターライトブレイカー』追加効果で結界破壊が可能なのだ。

 

 今の状況で戦局を引っくり返す事が可能だろう。なのははフェイト達に、結界破壊と共に脱出するよう念話を送る。心配するフェイト達に、任せてと返事を返し砲撃に精神を集中した。

 その周囲に膨大な魔力が集中して行く。周りの残存魔力をかき集めて放つその威力は絶大 だ。レイジングハートの途切れ途切れながらのカウントが響く。

 

 その魔力の高まりにシグナム達も気付いた。 一番なのはに近い位置でユーノを引っ張り回していたヴィータは、ほくそ笑んで彼女を見下ろし、

 

(こいつは都合がいいぜ、この魔力なら封鎖領域をぶっ壊せる)

 

 発射態勢を完了したなのはがレイジングハー トを振り下ろし、ヴィータが状況をシグナム達に伝えようとした時だった。

 

「ああっ!?」

 

 なのはの動きがビクンと止まってしまう。 ヴィータは目を見張った。何故ならなのはの胸から、人間の手が生えているのだ。しかも良く見知った光景であった。

 ほっそりした女性の手、その指に『クラール・ヴィント』らしき指輪も見える。シャマルの使用魔法『旅の鏡』空間を繋げて、離れた相手を攻撃する転移魔法の一種だ。

 

 その手の中に光る物体が在る。なのはの『リンカーコア』だ。その光が吸われるように小さくなって行き、彼女は苦悶の声を上げた。

 魔力を『蒐集』されているのだ。 その光景を見たヴィータは、堪らず飛び出していた。

 

「止めろシャマル! 約束を忘れたのかよ!?」

 

 訳が判らず出遅れたフェイト達よりも早く加速し、苦しむなのはに近寄ると、その胸から生えている手を掴むが、

 

「うわあっ!?」

 

 不可視の力を受け撥ね飛ばされてしまう。その異質な力に ヴィータは気付いた。

 

(コイツ、シャマルじゃ無いっ!?)

 

 その手はビクリとしたようにリンカーコアを掴むのを止め、そのまま引っ込んでしまった。

 

 

 

 

「何これ!? 『闇の書』のページが勝手に増えてく!?」

 

 封鎖領域の外で解析を急いでいたシャマルは、驚いて目を見開いた。小脇に抱えていた『闇の書』が突然起動し、真っ白なページが独りでに埋まって行くではないか。有り得なかった。

 

「そ……そんな馬鹿な事が……?」

 

 シャマルは目の前に浮かぶ『闇の書』を見て、驚愕に身を震わせた。

 

 

 

 

 魔力を『蒐集』されてしまったなのはは、それでも砲撃魔法の態勢を止めず、最後の力を振り絞ってレイジングハートを振り下ろす。皆を助けなければとの強い想いが、限界を超えて彼女をつき動かしていた。

 

「スターライト……ブレイカアアアァァァッ!!」

 

 桜色の凄まじい火線が闇夜を明るく染め上げ、身を起こしたヴィータはその閃光に堪らず目を覆った。

 

 

 

 

 ゼロの『カラータイマー』と、ネクサスの 『コアゲージ』が赤く点滅を繰り返していた。双方共消耗している。しかし今の状況では、確実にゼロの方が先にエネルギーが尽きてしまうだろう。

 

(クソッたれえっ!!)

 

 絶体絶命だ。焦るゼロ。その時不意に周りの空間が金色の光を放った。異相空間が通常空間に戻ろうとしているのだ。『メタフィールド』が解除され始めている。

 

《お前っ、何のつもりだ!?》

 

 当然解除したのはネクサスであろう。ゼロは宙に浮かぶ赤い超人に問うた。金色の光の中ネクサスは、ウルトラマンの少年を見下ろし、

 

《君の仲間の作った結界は破壊された……これで皆脱出出来る……此方は怪我人が居るから今日の所はこれで退こう……君も街中で暴れる程堕ちてはいないだろう……?》

 

《クッ……》

 

 確かにそうだ。封鎖領域が破壊され『メタフィールド』も解除されたら、街中で暴れる事になってしまう。ネクサスの姿が朧気になって行く。

 

《このまま人を襲い続けるのなら、次は容赦しない……!》

 

 そう言い残すと、その巨体は幻のように姿を消した。

 

 

 

 

 スターライトブレイカーで全ての魔力を使い果たしたなのはは、コンクリートにパタリと倒れ込んだ。

 ヴィータはやれやれと立ち上がり、気配を感じて空を見上げる。金色の光が溶けるように消え去り、ウルトラマンゼロの巨体が姿を現した。

 

(ゼロ……無事だったか……)

 

 胸を撫で下ろしていると、シグナムから全員に向け念話が届く。

 

《結界が壊れた、脱出するぞ!》

 

 それを合図にゼロ達は、一斉にこの場所から離脱する。

 封鎖領域が壊れ『アースラ』にも状況の映像が入って来ていた。

 

「何故ウルトラマンゼロが!?」

 

「えっ? 何っ? どういう状況!?」

 

 通信室で事態を見守っていたクロノと、サー チしていたエイミィの困惑した声が響く。

 

「こいつら……」

 

 モニターに映し出されたシグナム達の顔を見て、クロノは声を漏らしていた。守護騎士達に見覚えがあるようだ。そしてシャマルが抱えている『闇の書』がその目に映る。

 

「あれは!!」

 

 クロノの表情が変わっていた。その間にもエイミィは必死でセンサーでの追跡を続けるが、 反応を見失ってしまった。

 

「ごめんクロノ君……しくじった……」

 

 エイミィはガックリと顔を伏せる。済まなさで一杯の彼女は、沈黙したクロノに違和感を感じ顔を上げた。クロノは食い入るようにモニターを見詰め、

 

「第一級捜索遺失物ロストロギア……『闇の書』……」

 

 少年執務官は、拳を震える程握り締めていた。

 

 

 

つづく

 

 

 




 最初の戦いが終わり、それぞれの想いが渦を巻く。敵は一体何者で何が狙いなのか。不穏な情勢の中、海鳴市に潜むものとは?

 次回『予兆-プロフェシー-』
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