夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

41 / 105
第38話 予兆-プロフェシー-

 

 

 封鎖領域から脱出したゼロ達は、追跡を逃れる為一旦バラバラに散った。シグナム達は転移魔法を繰り返し、ゼロは人間大に縮小しテレポートで跳ぶ。

 『アースラ』の追跡探知を巧みに逃れ、集合場所にしているビルの屋上に無事全員が集まっていた。重苦しい空気が場を支配している。

 皆深刻な表情だ。自分達の存在が発覚した上、何者かにまんまと嵌められて、管理局と敵対する事になってしまったのだ。最悪の事態だった。

 何も無ければ誰1人襲う事無く『蒐集』を終えてはやてを救い、管理局に知られる事無く静かに暮らせた筈だったと言うのに……

 

 ゼロ達はシャマルが開いた『闇の書』をまじまじと見詰めた。ヴィータが途中で邪魔をしたお陰で10ページ程ではあるが、確かにページが埋まっている。なのはから『蒐集』された魔力だ。

 シグナムは険しい表情で、ページの埋まり具合を確認しながら、

 

「それでシャマル……その時『闇の書』が『蒐集』していないにも関わらず、勝手にページが埋まって行ったと言うんだな……?」

 

「ええ……まるで何処からか、魔力が転送でもされたみたいだったわ……」

 

 シャマルは薄気味悪そうに肩を震わせる。異常だった。無論彼女はなのはを襲ってなどいない。封鎖領域内部の状況さえ良く判らなかったのだ。

 

「魔法だと割りと良くある事なのか……?」

 

『ウルトラゼロアイ』を外し、人間形態になったゼロは疑問を投げ掛ける。シグナムは首を横に振り、

 

「そう簡単にやり取り出来るものでは無い、と言うよりまず有り得ん事だ……一体どうなっている……?」

 

 リーダーの彼女も困惑していた。眉をひそめて『闇の書』を見詰めるしか無い。

 『闇の書』は魔力蓄積型のストレージデバイスだ。様々な魔力を集める事は出来るが、他から魔力を転送出来る機能など無い。それ自体が独立した一個のシステムなのだ。

 第一そんな機能が有ったら、わざわざ『蒐集』などする必要など無いではないか。 困惑する中、ヴィータが複雑そうな顔でシャマルを見上げ、

 

「でもさあ……最初シャマルが血迷って、高町なんとかから『蒐集』したのかと思った……」

 

 実際は不可視の力にはね飛ばされた時、直ぐに分かった。シャマルにあんな力は無い。

 

「そうね……話を聞く限り、私の『旅の鏡』と同じ能力ね……」

 

 シャマルは考え込む。魔法にも『リンカーコア』を抉るものは有るが、『蒐集』までとなると話は違って来る。それは『旅の鏡』でないと無理だ。

 既に失われた技術で産み出された守護騎士と、同じ魔法を使う敵の存在。困惑するヴォルケンリッター達だった。ゼロはそんな皆を見回し、

 

「……催眠波動での撹乱にもう一つ……あの巨人、ネクサスが言ってやがった……魔導師が襲われていて、その犯人が俺達だと……」

 

「そんな馬鹿な! アタシらが魔導師を襲った? 一体どう言う事なんだ!?」

 

 ヴィータは血相を変えた。シグナムはしばらく無言で考え込んでいたが、状況を整理し結論を出す。

 

「状況から判断するに……我等と同じ力を使う紛い者が存在し、魔導師襲撃を繰り返していると言う事か……? 我等を陥れるのが目的で……」

 

 そう考えるとしっくり来る。シャマルはその考えに頷いた。思い当たる事がある。

 

「そう言えば……最近妙に管理局のパトロールが厳しいと思っていたのよ……管理外世界で鉢合わせになりそうになった事も有ったわ」

 

 以前ゼロと『蒐集』に出た時の事を思い返す。あの時はたまたまかと思っていたが、その後も何度か有った事から、警戒態勢が敷かれていたのだろう。

 

「ちきしょう!!」

 

 ヴィータが暗い空に向かって、思いきり叫んでいた。

 

「一体何処のどいつがそんな事やってんだ!? せっかくいい調子でここまでやって来たのに!!」

 

 なのはの偽者の慇懃無礼な台詞を思い出し、怒りの感情を剥き出しにする。あの言葉で完全にキレてしまったのだ。

 

(何がゼロが得体の知れない怪物だ、アタシらに幸せになる資格が無いだよ……そんなに大それた事か? みんなで仲良く暮らす事が……? 夢見ちゃ悪いってのかよ!?)

 

 やり場の無い憤りをぶつけるように、フェンスを殴り付けた。カシャンと乾いた音が静かに屋上に響く。

 

「落ち着けヴィータ……」

 

 シグナムは宥めようとするが、ヴィータは怒りが納まらず怒鳴った。

 

「これが落ち着いてられっか!? お陰で管理局に見付かった! 『蒐集』だって今まで通りには行かなくなる!!」

 

「大丈夫だヴィータ……」

 

 激昂するヴィータの頭に、ゼロはポンッと手を置いた。ムッと見上げる彼女に少年は笑い掛け、

 

「簡単な事じゃねえか……」

 

 ヴィータはその低く押し殺した声にハッとする。ゼロは獰猛な笑みを浮かべて見せ、

 

「……何処のクソ野郎か知らねえが……ぶっ飛ばしてふん捕まえて、管理局に突き出してやればいいだけの話じゃねえかよ……!」

 

 言い方こそおどけてはいたが、凄まじいばかりの怒りと哀しさが込められた言葉だった。

 

「……分かったよ……」

 

 それを汲み取ったヴィータは素直に頷いた。ゼロが一番厳しいのだろう。ヴィータ達が戦ったフェイト達とは、共に戦った者同士なのだ。

 それが家族であるヴィータ達と傷付け合う。 態度や口は悪いが、根が善良なゼロにはとても堪えるのだ。しかしゼロは、何でも無いようにヴィータに再び笑い掛け、

 

「細かい話は後にして、今日は帰ろうぜ……? はやてが美味い鍋を用意して待ってる。これ以上遅くなると心配するぞ?」

 

 彼女の頭をポムポム叩く。ヴィータも乗ってやる事にした。

 

「……そうだな……はやてが心配すっから帰るとすっか!」

 

 ようやく彼女の顔に笑顔が浮かんだ。

 

 

 

 

 全員で夜道を歩き自宅へと向かう。皆足取りが重くなる中、ゼロはヴィータと他愛の無い話をしながら歩いていた。

 くよくよしても仕方無い。努めて明るく振る舞う。 しかしおどけて見せながらも、つい嵌めた犯人の事を考えてしまう。すると、

 

《ゼロはどう思う……?》

 

 後ろを歩くシグナムが、思念通話で話し掛けて来た。ゼロもテレパシーで、

 

《前に何度か、怪獣をけしかけて来た奴かとも思ったんだが……》

 

《ゼロは違うと思うのか……?》

 

《解らねえが……どうもやり口が違う気がする……》

 

《どう違うと思うのだ……?》

 

《上手く言えねえんだが……前の奴はやり口に遊び半分って感じがしたもんだが、今回は全部計算づくでいいように踊らされた気がする……》

 

《ゼロもそう思うか……》

 

 シグナムも同じような感想を持ったようだ。 最初から最後まで、完全にシナリオ通り踊らされた。そんな気がするのだ。何とも気味が悪かった。

 ただどちらにも、ドス黒い底知れぬ悪意を感じるのは共通しているとゼロは思う。

 

 そろそろ八神家が見えて来た。ヴィータは迷子の幼子がようやく家に辿り着いたように、一直線に駆け出した。ゼロは少女の後を追い掛けながら、

 

(以前の奴じゃ無いとすると……一体誰が俺達を嵌めたんだ……?)

 

 家の温かい灯りにホッとするものを感じながらも、その疑問が頭から離れなかった……

 

 

 

**********

 

 

 

 PM8:45 時空管理局本局

 

 倒れたなのはは『アースラ』医療班に搬送され、本局の医療施設に収容されていた。

 検査の結果、魔力ダメージと衝撃による一時的な麻痺、それに魔導師の魔力の源 『リンカーコア』がいくらか小さくなっているだけとの事だった。

 

 命に別状も後遺症も無く、なのはは直ぐに目を覚ます事が出来た。『リンカーコア』の縮小も大して魔力を吸われていないせいで、直ぐに元通りになるそうだ。

 早々に退院したなのはは、クルーに割り当てられている待機室に行き、フェイトやユーノ、アルフとクロノに改めてお礼を言い挨拶を交わしている。

 そのタフネスさにフェイト達は安堵を通り越して苦笑したものだ。

 なのはもフェイトも魔力ダメージも抜けピンピンしているが、代わりに『レイジングハート』と『バルディッシュ』が中破してしまい、 修理の必要があるとの事である。

 

 シグナム達の振るう『ベルカ式魔法』を見た事が無かったフェイト達に、クロノとユーノとで説明をしていると、ドアが開いて孤門が部屋に入って来た。

 

「みんな大丈夫だったかい?」

 

 フェイトはなのはを労りながら、孤門に微笑して見せ、

 

「うん……なのはも大した事は無いって……私達ももう何とも無いよ……」

 

「それは良かった……」

 

 全員の無事が分かり、孤門は安堵の表情を浮かべた。フェイトは、誰だろう? と疑問を浮かべているなのはに、

 

「前にビデオメールでも話した孤門だよ……」

 

 なのはは直ぐに思い当たったようだ。ピョコンと礼儀正しく頭を下げ、

 

「高町なのはです、助けに来て貰ってありがとうございます」

 

「孤門一輝だよ、よろしくね、なのはちゃん」

 

 孤門は腰を落とし、笑顔で右手を差し出した。なのはも顔を上げその手をしっかり握る。 握手を終えたなのはは興味津々な様子で、

 

「孤門さんもウルトラマンなんですか……?」

 

 疑問に思っていた事を聞いてみた。ネクサスのテレパシーは当然なのはにも届いていたので、巨人がネクサスと名乗った事も知っている。

 孤門はチラリとクロノに視線を送った。クロノはコクリと頷き、

 

「孤門の変身した姿を見たんじゃ仕方無いな……」

 

 フェイト達は孤門が何らかの『レアスキル』 を持っていて、艦長とクロノだけがその事を知っているのは察していたが、(それでも、あんな能力などとは思ってもみなかった) その事を知らなかったユーノは驚いたようで、

 

「えっ? じゃあクロノは、孤門さんの力の事知ってたのか?」

 

「ああ……最重要の秘密だったからね……アースラでは艦長と僕しか知らされていなかったが、こうなっては全員に話しておいた方がいいだろう……」

 

 クロノの言葉に孤門は頷くと、全員を改めて見渡した。

 

「僕は次元世界の人間じゃない……別の並行世界から来た者だ。ウルトラマンゼロとも違う世界から来た、光を受け継いだ人間なんだ」

 

 その言葉に一同は驚いた。その中でユーノが代表するように口を開く。

 

「えっ? それって、孤門さんは異星人じゃ無いって事なんですか?」

 

「そうだよ……僕は異星人じゃ無い、れっきとした地求人だ……光を受け継いだごく普通の人間だよ……」

 

 魔法を持つ次元世界の人間にも、それは驚くべき事だった。生まれついての異星人と言われれば、ゼロはまだそういう未知の生命体だとまだ納得は出来る。

 いささか強引ながらも、生命体としての在り方が違うのではと言った感じか。

 しかし普通の人間を、あんな巨大な超人に変えてしまう力など、魔法でも失われた世界の伝聞でも聞いた事が無い。

 『ジュエルシード』が子猫の願いを叶えて巨大化させた事があったが、それなどとは比べ物になるまい。いくら魔法でも限界があるのだ。

 皆の驚きの視線の中、孤門は厳しい表情を浮かべて見せ、

 

「ウルトラマンゼロは僕に任せてもらうよ…… 彼を止められるのは僕だけだろう……」

 

 それを聞いて、フェイトとなのはは慌てて詰め寄った。

 

「何かの間違いだよ孤門……!」

 

「そうですよ、ウルトラマンさんが悪い事する筈無いです!」

 

 つい数時間前に見たものがまだ信じられない2人は、必死でゼロを庇う。そこで黙っていたクロノが重々しく口を開いた。

 

「……残念だが……これで今までの魔導師襲撃事件に、ウルトラマンゼロが関わっていた事がハッキリしてしまった……」

 

「クロノどう言う事……? 魔導師襲撃事件?」

 

 驚くフェイトに、クロノはやり切れない表情を向け、

 

「……実は……今までに様々な世界で、魔導師が襲われる事件が起こっていたんだ……被害者達の証言から、あの連中と一緒にウルトラマンゼロらしき人物が、魔導師を襲っていた事も確認されている……」

 

「そ……そんな……ゼロさんが人を襲ったなん て……」

 

「……最初はハッキリとた確証が無かったから伏せていたんだが……今回の件でハッキリしてしまった……この半年の間に彼に何が有ったのか……?」

 

 あれからもあの偽者らしきゼロ達は出現していたようだ。フェイトはクロノの沈痛な言葉に顔色を無くした。厭な嗤いを向けて来るシグナム達を思い返す。腸が煮え繰り返る気がした。

 

「……ゼロさん言ってた……仕方無いんだって……とても辛そうだった……あの人達に脅されるか騙されてるかしてるんだ……!」

 

 彼女の紅い瞳に、強い決意の光が宿っていた。今度は私が助ける番だと心の中で固く誓う。

 

(でも……あの人達と、一体どんな関係なんだろう……? あのシグナムという女の人……)

 

 ゼロに絡み付いていた美しい女騎士が、今もゼロと一緒に居るのかと想像すると、妙に心がざわめくフェイトだった。

 

 なのはは思い詰めた様子のフェイトを心配そうに見る。恩人が大変な事になって堪えているのだなと思い、自分の事のように心が痛くなった。

 場を沈んだ空気が支配していた。皆ゼロが心配なのだ。するとクロノが気分を変えるように、

 

「今はあれこれ悩んでも仕方無い。彼ならば話せば判ってくれる筈だ。次に会った時に説得してみよう。問題が有るなら力になろうじゃないか……」

 

 その言葉に全員が頷いた。此処に居る者は多かれ少なかれ、ゼロと共に戦い助けられた事がある者達だ。想いは同じである。

 

 落ち込んでいても、ゼロの助けにならないと思い直した。クロノはその様子を見てホッと一息吐く。皆落ち込んで動かないのは似合わない。

 彼なりの気使いが功を奏したようだ。無論ゼロを助けたいのは同じだ。一見融通が効かなそうに見られがちだが、クロノは情に厚く義理堅い。ゼロの為に奔走するつもりである。

 話が一区切り着いた所で、クロノはふと部屋の時計を見た。何か予定があるようだ。

 

「フェイト、そろそろ面接の時間だ……」

 

「あっ……」

 

 フェイトも思い出したらしく声を漏らした。 色々な事が立て続けで起こり、すっかり失念していたのだ。なのはは何の事か解らず首を傾げる。クロノはそんななのはと孤門を見やり、

 

「なのは……君もちょっといいか? それに孤門も……」

 

「?」

 

 なのははキョトンとして、歩き出す少年執務官を見た。

 

 

 

 

 クロノに案内され、フェイト、なのは、孤門の3人は広々とした応接室に通され、ある人物と対面していた。

 相手は管理局の蒼い制服に身を包み、整えられた口髭を蓄え、落ち着いた雰囲気の初老の男性である。管理局顧問官『ギル・グレアム』提督だ。

 歴戦の勇士であり、艦隊指揮官まで勤めた程の人物で、その権限は本局内でも大きい。今回裁判を終了したフェイトの、保護監察官になったのだ。

 

「久し振りだなクロノ……孤門もアースラには馴れたかね?」

 

 皆を座らせるとグレアムは、まず気さくにクロノと孤門に声を掛けた。

 

「ご無沙汰しています……」

 

「何とか……足手まといにならないようにしています……」

 

 顔見知りのように挨拶する2人を見て、フェイトとなのはが不思議に思っていると、クロノが説明してくれた。

 

「グレアム提督は、僕の指導教官だった人なんだ。それに孤門をアースラに乗れるように、口利きをしてくれたのも提督だよ」

 

「この世界に来てから、グレアム提督には何かとお世話になっていたんだよ」

 

 孤門も以前から付き合いがあった事を説明し た。色々と顔が広い人物のようだ。

 意外な事になのはと同じ世界出身で、イギリス人であると言う。それで懐かしくなってなのはも呼んだと言う事らしい。

 話を聞くと、魔法との出会いもなのはと似たようなものだった。怪我をした管理局員を助けた事が切っ掛けだそうで、なのはは更に驚いた。

 それを置いても、初対面のフェイトとなのはの目には、グレアムはとても感じの良い人物に見えた。

 無論歴戦の勇士だった程の男だ。感じの良いだけの人物では無いのだろうが、そんな様子はおくびにも出さず、至って穏やかな好好爺と 言った所である。

 そんな彼が保護監察官として、フェイトに出した条件は……

 

「約束して欲しい事は1つだけだ……友達や自分を信頼してくれる人の事は決して裏切ってはいけない……それが出来るなら、君の行動について何も制限しない事を約束するよ……出来るかね……?」

 

 細々した条件では無く、それは人として誠実であれと言うシンプルなものであった。今の自分は様々な人達の助けで此処に居る。

 

「はいっ、必ず」

 

 それを改めて噛み締め、フェイトは即答していた。

 

「うん……いい返事だ」

 

 フェイトの気持ちの良い程のハッキリとした返事に、グレアムは孫を見るように優しげに目を細めた。

 

 

 

 孤門を除いた3人は、グレアムに挨拶して部屋を辞する。孤門は久々に会ったグレアムと話が有るそうなので残るそうだ。

 最後に部屋を出ようとしたクロノは立ち止まり、振り向いてグレアムを見ると、

 

「提督……もうお聞き及びかもしれませんが…… 先程自分達がロストロギア『闇の書』の捜索捜査担当に決定しました……」

 

「そうか……君がか……今の人員態勢ではやむを得んか……言えた義理では無いかもしれんが…… 無理はするなよ……?」

 

 グレアムは案じる目をする。クロノは安心させるように昔グレアムに教わった言葉を返すと、挨拶をして部屋を出て行った。

 

 グレアムはしばらくの間、クロノが出て行ったドアを凝視したままだ。孤門は静かにその背中に声を掛けた。

 

「クロノ君は『闇の書』と何か有ったんですか?」

 

 この件があってから、クロノが時折思い詰めているのを感じ、グレアムがその理由を知っていると推察したようだ。グレアムは孤門を振り返らず、心無し肩を落とし、

 

「彼の父親は『闇の書』の犠牲者なのだよ…… 私が無能だったせいもあるが……」

 

 背を向ける提督の表情は窺い知れない。しかしその言葉には、深い悔恨の念が感じられるようだった。孤門は痛ましそうにその背中を見詰 めるしか無い。

 グレアムは振り払うように、孤門を振り返る。 その表情は冷徹そのものに見えた。

 

「それよりも……そちらはどうなっている?」

 

「此方はまだ手探り状態ですが……ウルトラマンゼロがあそこまで非常手段に出るとは思いませんでした……それに彼は強敵です……」

 

 孤門は一瞬だけ顔をしかめると腕を上げ、両方の裾を捲り上げる。晒されたその両腕には、無数の痣が刻まれていた。グレアムは厳しい目で腕を見、

 

「確かに彼の行動は予想外だった……身体は大丈夫かね?」

 

「はい……」

 

 孤門は笑って応えた。ゼロの攻撃も全く効かなかった訳では無いようだ。それから2人は小1時間程内密の相談をする。話を終えた孤門は、最後に頭を深々と下げ、

 

「提督には感謝しています……僕に力を貸してくださって……」

 

 グレアムは苦笑し、首をゆっくり横に振って見せた。

 

「少しでも君の役に立てるならお安いものだ……何しろ次元世界の命運が懸っているのだろう……?」

 

「はい……ありがとうございます。『冥王』の好きにはさせませんし、クロノ君達も必ず僕が守り抜きます!」

 

 孤門は力強く誓うと部屋を出て行く。それを見送るグレアムに思念通話が届いていた。 彼は通話相手に厳しい表情で返事をすると、最後に念を押すように付け加える。

 

《孤門にも絶対に気取られるなよ……?》

 

 グレアムの表情と眼が凄味を帯びたようだった……

 

 

 

 

 

 

 素知らぬ顔で家に帰って来たゼロ達は遅い夕食を終え、リビングでくつろいでいる所だった。

 ヴィータははやてのスペシャルな鍋をたっぷり味わい、残りの凹んだ気持ちが大分晴れたようだ。今ははやてとザフィーラとで、一緒に楽しそうにテレビを観ている。

 もう大分遅い時間なので、残りの後片付けをゼロに任せ、シャマルははやてと一緒に入浴を済ませておく事にした。

 ヴィータも一緒にと声を掛けられ、テレビの続きを名残惜しそうにしながらも立ち上がる。するとソファーで、お父さんよろしく新聞を読んでいたシグナムがはやてに、

 

「明日は朝から病院です……あまり夜更かしされませんように……」

 

 どうも夜更かしの癖が抜けない主に、注意を促しておく。本当にお父さんのようだ。

 

「はーいっ」

 

 こんなやり取りも楽しいはやては、笑って返事をする。シャマルはそのやり取りに苦笑すると、はやてをよいしょと抱き抱え、

 

「シグナム、お風呂はどうする?」

 

「私は今夜はいい……明日の朝にするよ……」

 

「お風呂好きが珍しいじゃん?」

 

 ヴィータが意外そうな顔をした。シグナムは日本式の入浴が気に入ったらしく、放っておくと何時までも入っている程だ。侍気質とでも言うか、日本文化が肌に合うようで、特に日本の風呂がいたくお気に入りである。

 

「たまにはそう言う日も有るさ……」

 

 守護騎士リーダーは、フッと微かに笑みを浮かべた。

 

 

 はやて達が浴室に行った後、ザフィーラがシグナムの元にのっそりと歩いて来た。

 

「今日の戦闘か……?」

 

「……聡いな……その通りだ……」

 

 シグナムはブラウスを捲り上げる。チラリと覗く黒のブラジャーの下辺りから腹部に掛け、斜め一直線に赤黒い痣があった。フェイトが隙を突いて一矢報いた証しだ。ザフィーラはその事を鋭く見抜いていた。

 

「お前の鎧を打ち抜いたか……」

 

 その言葉に感心した響きがある。手加減していたとは言え、並の魔導師ならばシグナムに触れる事すら出来ないだろう。 剣の騎士は先程味わったフェイトの攻撃を思い返し、

 

「一途な太刀筋だった……以前とは比べ物にならない程腕を上げていた……余程ゼロを助けたかったのも有るだろうが、まず根幹が確かだ……良い師に学んだのだろう……」

 

 余韻に浸りながらも、ブラウスを元通りにしようとした時である。

 

「おおうっ、これは見事にやられたな……?」

 

「ゼっ、ゼロぉっ!?」

 

 シグナムは思わず飛び上がってしまう所だった。何時の間にかゼロが直ぐ側にしゃがみ込んで、彼女の痣が刻まれた肌を、まじまじと眺めているではないか。

 

「おおおおおお前は、何をしているのだっ!?」

 

 シグナムは湯気が出そうな程赤面し、焦ってブラウスを元に戻そうとするが、その前に裾を掴まれてしまった。

 

「『メディカルパワー』を当ててやるから、 ちょっとじっとしてろ……治りが早くなる」

 

「いいっ! こんな掠り傷直ぐ治る。離せゼロッ!」

 

 拒否するシグナムだが、ゼロはくそ真面目な顔をして、

 

「何言ってやがる。傷が残ったらどーすんだ? お肌は女の命って、テレビでも言ってたぞ」

 

 あまり必要では無い知識だけは増えて行くゼロである。シグナムはあくまで抵抗を試みるが、端から見ると怪しさ満点のこの体勢ではいかんともし難く、結局押し切られてしまった。

 ゼロは彼女の引き締まった新雪のように白いお腹に手を当てて、生体エネルギーを送り込む。

 

「どーしたシグナム? 細かく震えてんぞ、風邪か?」

 

「な……何でも無い!」

 

 シグナムは必死で取り繕うが、全く成功していない。羞恥で身を固くし、プルプル震えてされるがままになるしか無い。

 ザフィーラはあの武骨なリーダーがと少し驚くが、さり気なく視線を逸らして烈火の将のプライドを守る事にしたのだった。

 

 

 ようやく解放されたシグナムは、赤面したままでゼロを恨みがましい目で睨み、「この朴念仁が……」とか何とかぶつぶつ呟いている。

 治療を終えた無自覚セクハラ少年は、良い事をしたとばかりに一息吐いていた。するとその仕草を見たザフィーラが、

 

「そう言うゼロも後でシャマルに診てもらえ……お前が一番辛そうだぞ……」

 

「ちえっ、バレちまったか……」

 

 気使いの守護獣ザフィーラの目は誤魔化せなかった。ゼロは悪戯を見付かった子供のように肩を竦めると、さり気なくこの場を離れようとするが、

 

「見せてみろ……!」

 

 シグナムがお返しとばかりに、逃げようとするゼロの襟首をむんずと掴む。目がちょっと怖い。

 結局圧力に負け、ゼロは仕方無くシャツを脱いで見せる。その身体を見て、2人は言葉を失ってしまった。

 ゼロの全身は痣だらけだった。背中一面に叩き付けられた痕が痣となって残り、腕部も酷い。更に腹部に拳の形をした痣が何ヵ所もくっきり残り、どす黒く内出血していた。ネクサスの猛攻の痕である。

 

「……これは……酷いな……」

 

「お前がこれ程痛め付けられるとは……」

 

 シグナムもザフィーラも、ゼロの身体から熾烈な戦闘を読み取り表情を固くした。常人ならば痛みでろくに動けまい。

 

「アイツ……ネクサスの強さは半端じゃねえ…… あの特殊空間だと更にヤバい……野郎!」

 

 ゼロは悔し気に吐き捨てると、ブルッと身体を震わせ顔をしかめる。寒いのと痛いの両方だ。直ぐに服を着る。

 しかし負けん気の強いゼロの事、悔しくて仕方無い。ほぼ敗けに近い戦いだった。あのまま戦い続けたら確実に敗北していたかもしれない。

 

「次は必ずぶっ飛ばしてやる!!」

 

 拳を握り締め雪辱を誓うゼロだが、シグナムが一言。

 

「倒してどうする……?」

 

「うっ……そうだった……」

 

 鋭いツッコミにゼロは頭を掻いた。これでムキになってネクサスと戦ったら、恐らく敵の思う壷だろう。思い止まるしか無い。

 取り合えず深呼吸して気持ちを落ち着けたゼロは、ドスンと床に胡座をかいて座り込み、

 

「……まあ……本っ当に仕方ねえが……奴へのお返しは諦めるとしてだ……気になる事がある……」

 

「気になる事……?」

 

 ゼロの唯ならぬ様子に、シグナムとザフィーラは身を乗り出していた。少年は切れ長の目を更に鋭くし、

 

「あの催眠波動の事だ……あれだけ強力な催眠波動、使える奴に心当たりがある……そいつが海鳴市に潜んでいるとするとヤバい事になる」

 

「詳しく話してくれ……」

 

 シグナムは話の先を促した。

 

 

 

 

 

 

 翌日、正式に『闇の書』捜索捜査担当となった、リンディ提督以下アースラクルー達は、整備中割り当てられている部屋に集合していた。

 その中にはフェイトとなのは、ユーノに孤門の姿も見える。アースラにこの仕事が正式に来た理由の1つは、孤門『ウルトラマンネクサス』の存在であろう。

 ゼロが関わっている思しき以上、対抗出来るのは彼しか居ない上、その恐るべき戦闘力は『闇の書』へも有効だと判断されたのだと窺える。

 

  一同はこれからの捜査方針をリンディから聞いている所である。

 解析の結果、なのはの住む 『97管理外世界』が中心なのは間違いないと判断された。しかしアースラが整備中でしばらく使えない上に、本局から転移ポートを使うには遠すぎる。

 そこでなのはの住む世界に臨時作戦本部を3ヵ所設け、其所を拠点に捜査にあたる事が決まった。最後にリンディは、

 

「ちなみに司令部はなのはさんの保護を兼ねて、なのはさんのお家の直ぐ近所になりま~す」

 

 暗くなりがちなフェイト達を元気付ける意味も含めて、努めて明るく司令部の場所を発表する。流石にフェイトは、なのはと顔を見合わせて笑顔を浮かべた。

 喜び合う2人を尻目に、孤門は内ポケットからそっと『エボルトラスター』を取り出し、

 

「向こうに着いたら、一度調べてみた方がいい な……」

 

 密かに呟く。エボルトラスターがゼロとの戦闘前に、一瞬だけ反応した気がして気になっていたようだ。 孤門は変身アイテムを仕舞うと、久々に笑顔を見せるフェイト達を後に、ひっそりと部屋を出て行った。

 

 

 

つづく

 

 

 

 




 小劇場

 話し合いの後、なのはは悲壮なまでに決意を固くするフェイトを見て、とても心配になった。声を掛けようとすると、フェイトは拳を握り締めてなのはに振り向き、

「おっぱいが大きいからって何だって言うの! 十年後くらいには……ねえ、なのは!?」

「ええ~っ? フェイトちゃんそっちなのっ!?」

 なのはは変な方向に悔しがる友人に、思わずツッコミを入れていた。その頃当の剣の騎士は、ゾクリと悪 寒を覚えたと言う。



 次回予告

 海鳴市に潜む影を求めて、ゼロ達は探索に立ち上がる。一方の孤門達も謎の敵を探して動き始めた。彼らの前に現れる意外な者達とは?

 次回『追跡-トラッキング-』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。