夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第41話 青-ブルー- ★

 

 

 異様な光が揺らめく『ダークフィールド』の空を切り裂いて、『バグバズン』がフェイトとなのはに迫る。2人は巨体の突撃を一旦別れて回避し、再び合流した。バグバズンは旋回し再度向かって来る。

 

「なのは……いきなり本番だけど行くよ……! バルディッシュ!」

 

「うんっ、フェイトちゃん! レイジングハー トお願い!」

 

 少女達の一歩も退かぬ意思の叫びに応え、新たに生まれ変わった『バルディッシュ・アサルト』『レイジングハート・エクセリオン』中央部のコッキングカバーがスライドした。

 それに連動し、内部のシリンダーがリボルバー拳銃如く回転し、魔力カートリッジがロードされる。デバイス内に爆発的な魔力が満ちた。

 

「これなら行ける……!」

 

「これがカートリッジシステム!?」

 

 フェイトとなのはは、その予想以上の魔力の高まりに驚いた。だが呑気に驚いている暇も無い。迫り来るバグバズンに同時に砲撃魔法を放つ。

 

「プラズマ・スマッシャァァッ!」

 

「アクセルシュタァァッ!!」

 

 以前の砲撃とは比べ物にならない程の勢いで、金色と桜色の無数の魔力弾がまとめてバグバズンに炸裂した。怪物は巨体のバランスを崩し軌道が逸れる。

 

「……す……凄い……前とは比べ物にならない……」

 

「威力が全然、桁違いだよ!」

 

 2人は改めて自分の相棒を感嘆の目で見た。しかし何時までも感心ばかりしていられない。外殻が強固なバグバズンは参らない。直ぐに姿勢を回復し此方に向かって来た。

 口蓋部からおぞましい触手を砲弾のように繰り出し攻撃して来る。フェイトとなのは、触手の猛攻を潜り抜け再度砲弾を撃ち込むが、流石にバグバズンはしぶとい。

 カートリッジシステムでも簡単に倒せる相手では無かった。しかも動きが速いので、弱点の頭部に攻撃を集中し辛い。これではせっかく強化した魔力の無駄射ちになってしまう。

 

「なのは……あいつの動きを止めるよ……!」

 

 フェイトはなのはの顔を見た。なのはは力強く頷く。

 

「判ったよ、フェイトちゃん!」

 

 思い付いた事は同じだった。その一言だけでお互い充分に通じ合う。迫る触手を避け、2人の魔法少女は再び散開した。

 

 

 

 一方のネクサスは、襲い来る『ダークファウスト』と『ダークルシフェル』の猛攻を1人凌いでいた。 闇の巨人2体が放つ、闇色の光刃『ダークレ イ・フェザー』が、刃の嵐となってネクサスを襲う。

 

『クッ!』

 

 ネクサスは両腕をクロスさせ『アームドネクサス』を発動させた。その姿が光を放ち、残像を残して瞬時に消え去る。標的を見失った光刃が大地をズタズタに切り裂いた。

 

『ど、何処へ行った!?』

 

 姿を見失い、辺りを見回すファウストとルシフェルの背後に、不意にネクサスが現れる。超高速移動『マッハムーブ』だ。

 一瞬で背後に回ったネクサスは、間髪入れずアームドネクサスを発動させ、巨大な竜巻『ネクサスタイフーン』を巻き起こす。

 数万トンの質量をも舞い上げる竜巻に怯むファウストだが、ルシフェルは物ともせずタイフーンを強引に突破し、ネクサスに強襲を掛けて来た。

 

『しまった!?』

 

 アームドネクサスを発動中だったネクサスは、一瞬反応が遅れてしまう。ルシフェルの鋭い爪『ルシフェルクロー』が真紅の身体を袈裟がけに切り裂いた。

 

『ウオオオッ!』

 

 光の粒子が血のように散らばる。三つ首の魔人は更に切り裂かんと剛腕を振り下ろす。ネクサスは寸での所で横に体を捌き、クローの攻撃をかわした。

 しかしルシフェルに気を取られている隙に、態勢を整えたファウストの『ダークジュビローム』の一撃がネクサスの背中を直撃する。

 再びネクサスは大地に片膝を着いてしまった。胸の『コアゲージ』が喘ぐように点滅を繰り返す。最早限界に見えた。

 

『ここまでのようだな……?』

 

 ファウストは弄ぶようにゆったりと右腕をネクサスに向けた。ルシフェルは無言で両腕の 『アームドルシフェル』を組み合わせる。最大級の光線で止めを差すつもりだ。

 絶体絶命のネクサス。だが彼は拳を握り締め、燃える闘争本能を両眼に込めて力強く立ち上がった。その両眼が強く輝きアームドネクサスが青い光を放つ。ネクサスの身体が青い波長に包まれた。

 

 

 

 一方のフェイトとなのはは、バグバズンの突進を避け、首尾よく背後に回り込んでいた。狙いは巨体に揚力と機動力を生み出している巨大な羽根だ。

 

「プラズマ・ランサァァッ!」

 

「アクセルシュタァァッ!!」

 

 2人の魔力弾が、高速で振動する羽根の根元の片方に集中してぶち当たる。バグバズンは奇声を上げた。その部分には昆虫と同じく装甲が無い。

 バランスを崩し飛行速度が落ちるが、まだ飛行可能なようだ。触手を背後のフェイト達に伸ばして攻撃して来る。

 触手を逃れた2人は、再度片羽根を狙って砲撃魔法を連続して撃ち込み続ける。巨体が魔力爆発に包まれた。

 爆煙の中から怒り狂った様子のバグバズンが姿を現すが、明らかに飛行速度が落ちている。 効いているのだ。デバイスが以前のままだったら、こうは行かなかっただろう。

 

「今だ!」

 

 フェイトはリボルバー内のカートリッジをロードすると、バルディッシュを『ハーケンセイバー』電光の刃の大鎌に変型させる。

 以前より出力も刃の大きさも格段にアップしたバルディッシュを携え、得意の高速移動でバグバズンの羽根部分に一気に到達した。

 

「はああああっ!!」

 

 連続攻撃により脆くなっていた羽根の根元部分を、電光の大鎌で一気に切り裂く。バルディッシュが中程までザックリと羽根を切り裂いていた。

 こうなってはもう揚力を生み出す事は出来ない。風圧でメリメリと片羽根が完全に千切れ、揚力を失ったバグバズンは軋むような鳴き声を上げて大地に落下して行く。

 大地を揺らして、その巨体が頭から地面に激突した。爆弾でも落ちたように土砂がもうもうと巻き上がる。

 2人は一瞬仕留めたと思ったが、舞い上がる土煙の中からバグバズンがヌッとばかりに立ち上がった。数百メートルの高さから、まともに落下したにも関わらず無事なようだ。

 上空の2人を威嚇して異形の頭を上げる。しかし全くの無傷とは行かなかったようだ。バグバズンの頭部の外殻にヒビが入っている。 打ち所が悪く、落下の衝撃で損傷してしまったのだ。運も味方してくれたらしい。

 

「なのは今っ!」

 

「うん、フェイトちゃん!」

 

 フェイトの合図に、なのははカートリッジをロード、レイジングハートエクセリオンを砲撃形態『バスターモード』に変型させる。

 こちらも以前と違い、二又に槍のように厳つい形だ。その周囲を包むように、桜色の光のリングと光の翼が形成された。その集束力は以前の比では無い。

 

 フェイトはバルディッシュを再び変型させた。鎌状部が柄のように変型し、その先から電光の大剣が伸びる。

 彼女の身の丈を遥かに越える大型剣だ。新たな形態『バルディッシュ・ザンバー』である。

 フェイトは大剣を振り上げ、なのはは周囲の残存魔力を集束しカウントする。 電光の大剣に稲妻が走り、レイジングハートに魔力が集中する。発射態勢を整えた2人は同時に叫んだ。

 

「疾風迅雷! ジェットザンバアアァァッ!!」

 

「全力全開! スターライト、ブレイカア アァァァッ!!」

 

 目も眩むばかりの雷光と、桜色の砲撃魔法がバグバズンの損傷した頭部に炸裂し爆砕する。 頭部が肩部ごと完全に吹き飛んでいた。

 頭を粉砕された怪物の全身に亀裂が入り、甲殻と肉片をばら蒔いて盛大に砕け散った。

 

 

 

 

 アームドネクサスが青く輝き、ネクサスの身体を覆う。青い波長を浴びた真紅の巨体が青く変化した。各部の生体鎧が増設され、明らかに先程とは違う姿になる。

 

『シェアッ!!』

 

 変化したネクサスは、ファウストとルシフェルに腕を翳し、雄々しくファイティングポーズを取り対峙する。

 鮮やかな海のような鮮烈な青の巨人。孤門のみが成し得たもう1つのジュネッス形態『ジュネッスブルー』だ。

 2体の闇の巨人は畏れたように光線を同時発射する。 ジュネッスブルーネクサスは瞬時に飛び上がって光線をかわし、その勢いを利用してファウストに躍り掛かる。

 背後で外れた光線が大地を大きく抉り、追い風のように爆風が吹き荒れた。

 

『デェヤアアアッ!!』

 

『ジュネッスキック』が唸りを上げてファウストの腹に突き刺さり、巨体が勢い良く吹っ飛んだ。ネクサスの背後からルシフェルが、怒りの雄叫びを上げルシフェルクローを振り上げる。

 青い巨人は素早く体を返してクローの攻撃を捌くと同時にその腕を取り、一本背負いでルシフェルを大地に叩き付けた。数万トン分の衝撃がダークフィールドを揺るがす。ルシフェルは悲鳴じみた声を漏らした。

 

『ルシフェルッ!? よくもおおおっ!!』

 

 吹き飛ばされていたファウストが立ち上がり、凄まじい怒号を上げてネクサスに殴り掛かる。尋常でない怒りようだ。

 大砲の一斉射撃のようなパンチの嵐。ネクサスは右腕の『アローアームドネクサス』でラッシュを払い除け、逆に腹目掛けて『ジェネレイドナックル』の痛烈な一撃を叩き込む。

 

『ぐはっ……!』

 

 ファウストは腹を押さえて苦し気に呻く。ネクサスは更にジェネレイドナックルを放とうと拳を向けた。

 その背後からルシフェルが、ダークレイ・ ジュビロームを撃って来る。だが察知していたネクサスは、一瞬早く空に飛び上がり光線をかわす。

 

『があっ!?』

 

 ジュビロームの流れ弾が、逃げ遅れたファウストに命中してしまう。ルシフェルは取り乱したように膝を着くファウストに駆け寄っていた。

 

『今だ!!』

 

 ネクサスはその隙を見逃さず、落下しながら右腕を地上の2体に向ける。 胸の『エナジーコア』の光が右腕のアロー アームドネクサスに投射され、光の弓が形成されて行く。

 ジュネッスブルーの必殺光線の1つ『アローレイ・シュトローム』だ! 光の弓を引き絞るように引く。『コアゲー ジ』の点滅が更に早くなる。残された時間は後僅かだ。

 

『ヘャアアアアッ!!』

 

 ネクサスの気迫を込めた叫びと共に、光の弓が超高速で射ち出された。眩い光の弓が空間を縦に切り裂き、恐ろしい程の勢いで2体の巨人達に炸裂する。

 

 凄まじいまでの閃光と爆発が起こり、ダークフィールドを明るく照らした。閃光を背に、ネクサスは大地を砕いて降り立つ。

 爆発の中闇の巨人達は苦し気にもがくと、闇色の光と化し幻のように消え去った。

 

『逃げたか……』

 

 危機は去ったようだ。ネクサスの眼に、此方に飛んで来るフェイトとなのはの無事な姿が映る。闇の巨人達の撤退と共に、ダークフィールドが解除されて行く。

 星空が見えて来た。先程までの死闘が嘘のような静かな光景だった。フェイトとなのはは、ホッとしてネクサスの足元近くに降り立つ。

 2人の魔法少女達はネクサスの青い巨体を改めて見上げる。星空の元に立つ青い巨人は幻想的にすら見えた。 とても今まで死闘を繰り広げたようには見えない。

 それらも手伝って、普段の孤門とのギャップに少し当惑するものを感じるフェイトとなのはだった。

 

 

 

 

 

 

 

 もう1つのダークフィールド内で『幻影ゼットン』が嘲笑うかのように、消失と出現を繰り返していた。ゼロは成す術も無い。

 

(クソッ! まるで居所が掴めねえ!?)

 

 必死で幻覚を見せている『ガルベロス』を見付けようとするが、強力な催眠波動で全ての感覚を狂わされていた。

 聴覚から皮膚感覚、気配、第6感といったものまでもがおかしくなっている。恐るべき威力であった。『ダークメフィスト』の言う通り、 怪獣墓場で蹴散らした個体とは雲泥の差だ。

 外部からの情報が全て当てにならない状況は、戦闘では致命的である。このままではなぶり殺しにされるだけだ。焦ってめくら滅法にスラッシュを射ち出すゼ ロの背後から、再びゼットン火球が襲い掛かった。

 

『ガッ!?』

 

 今度は避け切れない。背中にまともに火球を食らい、ゼロは異形の大地に倒れ込んでしまった。間髪入れず飛来する火の玉の雨。ゼロは間一髪前転して、辛うじて火球の雨を回避する。

 

『フハハハッ! どうした? その程度なのかウルトラマンゼロッ!?』

 

 メフィストの嘲笑う声が響く。ゼロの周りで火球が爆発し、爆風がシグナムとシャマルの居る場所まで届きそうな勢いだ。シグナムは頭を押さえ、

 

「くっ……魔法防御までもが侵食されている…… 此方でも、あの怪物が存在しているようにしか見えん……!」

 

「私もよ……物凄い催眠波動だわ……このままじゃゼロ君が危ない……!」

 

 シャマルは苦戦するゼロを見ると、指輪形態の『クラールヴィント』を振り子形態に変化させる。振り子があちこちを差し探知を始めた。

 

「シャマル、ガルベロスを探知出来そうなのか!?」

 

「これなら行けそうよ!」

 

 シグナムの問いにシャマルは頼もしく応えて見せた。火球攻撃に翻弄されるゼロに、シャマルは思念通話を送る。

 

《ゼロ君、クラールヴィントで何とかガルベロスの位置が判るわ! 私の言う通り動ける!?》

 

《奴の位置が判るのか!?》

 

 攻撃を凌ぎながら驚くゼロに、シャマルは目を閉じて、

 

《私達も催眠波動のせいで全ての感覚が侵されてるけど、ゼロ君が入力した波動データがあるから、クラールヴィントのセンサーが使えるのよ。それを利用して位置を特定出来るわ!》

 

 それを聞いたゼロは勢い付いて立ち上がった。またしても前方に幻影ゼットンが現れるが、

 

《その話乗ったぜ! 頼むシャマル!》

 

 ゼロは即座に全ての感覚をシャットアウトした。視覚、聴覚、超感覚をも含めた全てを意識的に遮断し、何も無い無の中に身を置く。

 シャマルの思念通話だけに集中する。全てを任せたのだ。他人を信頼し任せる。それが何より彼が成長した証しなのかもしれない。

 

《任せてゼロ君!》

 

 何の躊躇も無い潔い程の信頼を受けて奮い立ったシャマルは、全感覚をガルベロスの位置特定に向ける。

 

「頼むぞシャマル……」

 

 隣で励ますシグナムの声もシャマルには聞こえなくなっていた。ガルベロスの波動トレースのみに集中する。だが、

 

「むっ!?」

 

 シグナムは気配を感じて、周りに視線を向けた。土煙を上げ、地中から何かが次々に這い出して来るではないか。

 

「まだ居たのか……!?」

 

 それは『アラクネア』の群れだった。大きさが十数メートルはある大型タイプが20数匹。 シグナムは『レヴァンティン』を構え、アラクネアの群れに向かって疾風の如く駆ける。

 

「シャマルには、一歩も近付けさせん!」

 

 今シャマルは探知に集中して動けない。邪魔をさせる訳には行かない。幸い幻影ゼットンに波動を集中させているようで此方は実体だ。

 シグナムはカートリッジをロードすると炎の剣を振りかざし、巨大アラクネアは巨大なハサミで襲い来る。此方でも激戦が始まった。

 

 

 

 一方全ての感覚を切り、棒立ちのゼロに迫る幻影ゼットン。顔部の発光器官が光る。再び火球を吐くつもりだ。そこにシャマルの思念通話が飛ぶ。

 

《ゼロ君、右後方40度来るわ!》

 

 その声だけに反応し、ゼロは元居た場所をゼロコンマ1秒の躊躇いも無く飛び退いた。火球が元居た場所を吹き飛ばし土煙が舞う。

 

《左前方31度、時速80キロで接近して来るわ! 300、200、100メートル!》

 

『ウオオオオッ!!』

 

 ゼロは指示通りの位置に、右拳を思いきり繰り出した。その途端幻影ゼットンの姿が一瞬だが揺らいだ。

 

《ゼロ君そのままの位置前方200メートル、 さっきより20メートル下よ!》

 

『これでも食らいやがれぇっ!!』

 

 ゼロはシャマルの示した位置目掛け、額のビームランプから『エメリウムスラッシュ』を撃ち込んだ。緑色の光のラインが、何も無い空間に命中する。

 

「グギャアアアアアアァァッ!?」

 

 その瞬間おぞましいばかりの絶叫が轟いた。同時に感覚を苛んでいた波動がパッタリと止む。ゼロは感覚を戻していた。

 

『おおっ!?』

 

 見るとゼットンの姿は消え失せ、地面をのたうち回る異形の怪物の姿があった。

 犬に酷似した双頭の片方の頭から、ドクドクと血が流れ落ちている。エメリウムスラッシュが直撃したのだ。もう催眠波動は使えまい。

 

『チイッ、ガルベロスの幻覚を破るとは!』

 

 メフィストは舌打ちすると、高見の見物を止めてゼロに向かって来た。ガルベロスも鮮血を滴らせながらも立ち上がって牙を剥く。

 ゼロは闇の巨人とビーストを前に、不敵に親指で唇をチョンと弾き、

 

『散々良いようにコケにしてくれたな! 2万倍にして返してやるぜぇっ!!』

 

 挑発して2本指を示した。メフィストは右腕の鉤爪型の打突武器『メフィストクロー』を伸ばし攻撃態勢を取る。

 

『フン……ガルベロスの幻覚攻撃を破ったくらいでいい気になるなよ……それでも2対1な上に、この俺に勝てるかな……?』

 

『へっ、こちとら勝利の女神が沢山付いてんだ! 負ける理由が思い当たらねえ!!』

 

 ゼロは敢然とメフィストに吼えた。皆の協力あってこそだと改めて感謝する。カラータイマーの点滅が早い。残された時間はもう僅かだ。

 

 

 

 シグナムの炎の斬撃が、夢幻の空間を舞う。

 

「レヴァンティン、叩っ斬れ!!」

 

 催眠波動が消えると同時に、炎の剣が最後の大型アラクネアを真っ二つに両断した。その巨躯が業火と燃え上がる。おぞましい断末魔を上げて崩れ落ちる怪物。

 回りには炭化したアラクネアの屍が転がっている。流石はシグナム。群れを全滅させたのだ。

 ビーストを片付けたシグナムは、極限までの集中で消耗し、地面にへたり込みそうになるシャマルを支えてやる。

 

「シャマル、大丈夫か……?」

 

「へ……平気よこれくらい……シグナムこそ……」

 

 シャマルは笑って見せるが、その笑みには力が無い。無理も無かった。催眠波動の中、全魔力を使ってゼロの眼の代わりをしたのだ。

 

「お前達の将は、そんなに柔では無いぞ……?」

 

 シグナムは苦笑するが、そう言う彼女も魔力カートリッジを全て使い切り、かなり消耗していた。とても今戦力にはならないだろう。

 戦況は実質2対1。まだ不利な状況に見えるが、シグナムは微かに笑みを浮かべ、

 

「後はゼロが決めるだけだな……」

 

「……そうね……後は反撃タイムの時間ね……」

 

 シャマルも笑って見せる。心配はしていない。ゼロが此方の努力を無駄にするような男では無いと、確信しているからだ。2人は視線をゼロに向けた。

 

 

 ガルベロスが計3つの鋭い牙の生えた口から、連続して超高温の火球を射ち出す。

 

『これしきいぃっ!!』

 

 ゼロは構わず、火球の嵐の中に飛び込む。片手で火球を叩き飛ばし、猛然とガルベロスに突進する。

 

『ディヤアアアッ!!』

 

 腹部の3つ目の頭に、ゼロの強烈な正拳突きが叩き込まれた。顎の骨が牙もろとも砕け散り、ガルベロスは絶叫を上げる。

 更に唸りを上げて放たれる回し蹴りが、巨体をなぎ倒す。異形の怪物が大地を砕いて転がった。

 

『貴様っ!!』

 

 メフィストが三日月型の光刃『ダークレイ・フェザー』を連続して発射して来た。無数の光刃が切り裂かんと迫る。ゼロは真っ向から刃に向かう。

 

『甘えっ!!』

 

 その頭部から燕(つばめ)の如く『ゼロスラッガー』2本が飛び出し、ダークレイ・フェザーを全て叩き落とした。

 

『おのれえええっ!!』

 

 メフィストは右腕のクローで襲い掛かる。削岩機のような突きが繰り出された。高層ビルをも倒壊させる程の威力だ。

 ゼロは紙一重でメフィストクローのラッシュを避ける。『ウルトラマンレオ』直伝の見切りだ。伊達に格闘戦最強のレオの弟子では無い。

 巧みに攻撃をかわすゼロの元に、飛来するものがある。銀色に光る物体ゼロスラッガーだ。戻って来たスラッガーを手にしたゼロは、すくい上げるように斬撃を放つ。

 

『オラアッ!!』

 

 スラッガーが突き出されたメフィストクローを弾き返した。反動でメフィストの腕が後ろに持って行かれる。がら空きになった上体に、返す刀でスラッガーの痛烈な二連撃を叩き込んだ。

 

『グオオオオッ!!』

 

 火花を上げ、メフィストはよろめいた。加勢しようとガルベロスが、背後からゼロに襲い掛かろうと迫る。強靭な前脚で背中を切り裂かんとするが、

 

『何度も同じ手を食うかよ!』

 

 ゼロは後ろに目が有るかのような、絶妙のタイミングで空高く跳躍し、ガルベロスの頭上を飛び越えて背後に降り立つ。

 慌てたガルベロスは後ろを振り向いた。しかし振り向いた時はもう遅い。其処には両腕をL字形に組んだゼロの姿が!

 

『くたばれガルベロス!!』

 

 超至近距離から放たれる青白い光の奔流『ワイドゼロショット』がガルベロスを撃ち抜いた。

 ビースト細胞を全て焼き尽くされ、巨体は燃え上がり消し飛んだ。余波の土煙でゼロの姿が見えなくなる。

 

『馬鹿め! 仕留めてやる!』

 

 メフィストは両腕の『アームドメフィスト』 を組み合わせた。闇色の光が激しくスパークする。メフィスト最大の破壊力を誇る破壊光線 『ダークレイ・シュトローム』だ。しかし……

 

『ゥオオオオオオッ!!』

 

 裂帛の気合いと共に、ゼロが土煙を飛び蹴りの体勢で突き破って来た。メフィストは慌ててダークレイ・シュトロームを、突っ込んで来るゼロに放とうとするが、

 

『遅えぇっ!!』

 

 それより一瞬早く、ゼロはメフィストに高速で突撃する。その蹴り脚が炎と燃えた。『ウルトラゼロキック』!

 

『グワアアアァァァッ!!』

 

 ゼロキックをまともに腹に食らったメフィストは、弾丸のように吹っ飛ばされ後ろの崖に叩き付けられた。崖が跡形も無く砕け散り、巨体が岩石に埋まる。

 

『見たか、この野郎っ!!』

 

 ゼロは拳を掲げて吼えた。ざまあ見ろと言わんばかりだ。この辺やはりまだ若い。

 メフィストはやられたと思いきや、まだ動いている。 油断無く近寄ろうとすると、不意に辺りの景色が崩れ始めた。ダークフィールドが解除されたのだ。

 一瞬辺りに気を取られてしまったゼロがメフィストを見ると、既に消え失せてしまっていた。

 

『野郎、逃がしたか……!』

 

 悔しがるゼロだったが、もうエネルギーが限界だ。被害者が出る前に、ガルベロスを倒せただけでも良しと思うしか無い。

 ダークフィールドが完全に消え去り、ゼロは元の山中に再び立っていた。見上げると満天の星空だ。その光景にふと故郷の星を思い出すが、振り払うように首を振ると、ウルトラマン形態を解除する。

 

「……ふう……」

 

 『ウルトラゼロアイ』を内ポケットに仕舞い 一息吐くと、シグナムとシャマルの元へと向かった。

 

 

 

 

「2人共怪我は無いか?」

 

 シグナム、シャマルと合流したゼロは、開口一番2人の心配をする。騎士甲冑を解除した騎士達に怪我は無さそうだったが、シャマルが力無くへたり込んでい た。

 

「シャマル大丈夫かよ……?」

 

「大丈夫よ……ちょっと慣れない事で集中し過ぎただけだから……少し休めば……」

 

 心配するゼロに、疲れた顔に笑顔を浮かべて見せる。ゼロは苦笑し、

 

「それじゃあ、俺が家までおぶって行ってやるよ、シグナムも大分疲れたろう? 2人くらい抱えて帰れるぜ」

 

 するとシグナムは少し怒ったようにそっぽを向き、

 

「……ヴォルケンリッターの将はそんな柔では無い……シャマルだけおぶれ……」

 

「そうか……悪い……」

 

 ゼロも確かに戦士に対して失礼だったなと思う。躊躇うシャマルを無理に背中に乗せて立ち上がった。

 

「……やっぱりいいわよ……少し休めば大丈夫だ し……ゼロ君だって疲れてるでしょう……?」

 

 申し訳無さそうなシャマルに、ゼロはプイと明後日の方向を向き、

 

「気にすんな……そんな生半可な鍛え方はしてねえ よ……さっきはシャマルのお陰で助かったんだ、これくらいさせろ……ありがとうな……」

 

 照れ臭そうにボソボソと呟くように礼を言った。嬉しくなったシャマルはお言葉に甘える事にする。肌寒い夜の大気の中、少年の体温が温かい。

 

 3人は暗い山道を、街の灯目指して降りて行く。ゼロの背中のシャマルはふと、

 

「……ゼロ君って、思ったより背中が広いのね……」

 

「そうかあ? まあ……それなら布団代わりに家まで寝ておけよ……」

 

「……じゃあ……お言葉に甘えて……」

 

 やはり疲れていたのだろう。うつらうつらしていたかと思うと、しばらくしてスウスウ寝息が聴こえて来た。シグナムは気付いて、

 

「本当に寝てしまった……まったく……」

 

 呆れ顔の将にゼロは肩を竦めて、

 

「……仕方無えよ……俺を助ける為に無理したんだからな……寝かしといてやろうぜ……」

 

「……むう……分かった……」

 

 シグナムは若干ムスッとした顔で返事をした。少し面白くなさそうだ。自分でも何故こんな気分になるのか解らない。いや認めていないと言うべきか。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 複雑な気持ちになっていると、ゼロが声を掛けて来た。

 

「……シグナムも……本当に助かったよ……俺達だけじゃ、どうなっていたか……」

 

「そ……それは……その……気にするな……大した事 は無い……」

 

 シグナムは澄まし顔をすると、コホンと咳払いした。それよりも気になる事がある。

 

「そう言うゼロ……お前は大丈夫なのか? 短期間での連続しての巨大化戦闘に、今日はあれだけの激戦の後だぞ……?」

 

 負担が掛かっているとではと心配になったのだ。ウルトラマンの少年は立ち止まると、体ごと振り向いて不敵に笑って見せ、

 

「さっきも言ったろう……? 生半可な鍛え方はしてねえって……楽勝だぜ」

 

 頼もしげな台詞を吐くと、再び歩き出した。 シグナムはその後ろ姿を見て以前と同じ、漠然とした不安を感じてしまうのだった。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 




次回『八神家の午後(前編)』
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