夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第42話 再会-リユニオン-

 

 

 

 ゼロ達が『蒐集』を開始する数ヵ月前。1人の青年が、未来的な建築物がそびえ立つ巨大な都市を訪れていた。

 その都市は地球のものでは無いようだ。それもその筈、管理世界の第1世界『ミッドチルダ』の首都『クラナガン』である。第1世界の名が示す通り管理世界の中心世界であり、時空管理局地上本部が在る世界だ。

 未来的な建築物などが目立つが、人の住む街の外観や道行く車輌設備など、さほど現代の地球とかけ離れていないように見える。

 魔法が発達しているのなら、そこかしこに飛んで移動する魔導師などが見えるかと思いきや、そんな事は無いようだ。

 市内で無許可の飛行は禁止らしい。お陰で魔法世界の首都と言うより、近未来都市と言う方がピッタリ来る。

 休日である街は、親子連れやカップルなどで賑わっていた。その活気溢れる表通りをその青年は、キョロキョロと歩いている。

 

 20歳前後の穏やかな表情をした、人の良さそうな青年だ。街の様子が珍しいのか、辺りを興味深そうに見ながら歩いている。

 田舎から出て来たおのぼりさんに見えるが、それにしては反応が極端だ。いちいち何かに驚いている。世間知らずの天然さん、そんな言葉がピッタリ来る青年であった。

 

 彼はクラナガンにやって来る道すがら色々調べてはいたが、実際に目にするとでは大違いなのに戸惑っているようだ。

 青年にとって、ミッドチルダは全く未知の世界らしい。どうやら田舎者どころではない程、ミッドの知識が不足しているようだ。何とも奇妙な青年であった。

 

 それでも基本的な事は踏まえているようで、 改めて頭に入れた事を思い返す。

 この世界は次元移動の技術が発達し、魔法と呼ばれる力が主流である。 数多くの次元世界が連合し、ミッドチルダを中心に『時空管理局』と言う国連のような組織が、各次元世界に干渉するような危険な事案などを管理しているらしい。

 

 技術の発達が魔法に特化し、次元間移動などの技術は非常に発達している。その代わり彼の良く知る世界より、明らかに遅れている分野があった。

 だがそれも仕方無い事なのかもしれない。 資料によると、管理世界は大規模な戦乱の後に、ようやく今の形に落ち着いたらしい。失われた技術などもかなり有ったようだ。復興の最中なのだろう。

 

 魔法に特化したのも質量兵器、核兵器や光学兵器などにより、多数の命が喪われた反省によるものと言う事である。

 捨て去ったものの代償で、治安維持機関でもある時空管理局では、魔法を使える者の絶対数の不足から慢性的な人員不足で大変らしい。

 

 学習した事を反芻した所で青年は苦笑を浮かべた。別にミッドチルダに勉強しに来た訳ではない。首都であるクラナガンに来たのには訳があった。

 彼が状況の把握に努めていた頃、ふとした事から知り合った農家のお婆さんが、青年の顔を見て思いも寄らない事を言い出したのだ。

 

「あんた……数年前に流されて来た、異世界渡航者の兄ちゃんにそっくりだねえ……?」

 

 青年は顔色を変えていた。『異世界渡航者』何処か別の世界より紛れ込んでしまった人間の事を指す。

 大抵は事故などで飛ばされた、他の次元世界の住人なのが殆どだが、稀に次元世界とは別の世界から流されて来た例も僅かだが有るらしい。

 

 まさか……彼は自分にそっくりな人物に覚えがあった。お婆さんはその時の事を覚えていた。銀色の妙な服を着て、此方では解らない言語を喋っていたと言う。

 調査に来た管理局員も、彼が何処から来たのか分からず困っていたと言う。結局その人物は、管理局に保護されたらしい。

 

 青年はその話に衝撃を受けた。話の内容にあまりに思い当たる事が有り過ぎる。 実はこの青年も、次元世界の人間では無かった。

 ある実験に志願した彼は、その実験中予期せぬ空間異常に遭遇した。緊急措置で丁度この世界が近くだった事もあり、一旦退避しようとした時に妙に引っ掛かるものを感じ、ミッドチルダにやって来たのである。

 

 青年は色々と考えを巡らしてみた。年代的に合わないが、次元転移によりズレが生じた可能性がある。実際かなりのズレが有るのが報告されていた。

 青年はその自分そっくりの漂流者の情報を求めて、 近場の管理局分室に行ってみた。しかし『ロストロギア』がらみの事故が有ったらしく、分室は跡形も無くなっており、その際にデータも一緒に消えてしまっていた。

 こうなれば自分で地道に尋ねて回るしかない。進み過ぎたデータ社会の弊害と言えるだろう。

 

 それから青年は、あちこちを捜し回った。彼は次元世界の住民に成り済まし、とある手段でデータバンクから不正に入手した情報を頼りに、施設などを訪ね歩くしか無い。

 

 しかし見知らぬ世界で人ひとり捜し出すのは容易では無かった。青年は苦労して色々な所を回った末、やっとクラナガンに被災者として送られたらしいとの情報を得てやって来たのである。

 

 此処まで来るのに酷く苦労した青年だったが、微塵も諦めるつもりは無かった。『彼』が生きている可能性がある。それだけで充分だった。

 

 拭いきれない後悔の記憶……一瞬の差で救えなかった青年……

 差し伸べた手は後一歩届かず彼は虚空へと消え、虚しく宙を掴んだあの時……

 再びその場所を訪れる事が出来た時、残されていたのは古びた懐中時計だけだった……

 

 

 

 

 

 

 数日が過ぎていた。何度目かの空振りの後、青年は公園のベンチに腰掛け深くため息を吐いていた。分室の崩壊がここまで祟っているせいも大きい。

 

 あの事故も妙な話だった。分室のコンピューターは跡形も無く爆発し、局員も全員死亡。管理局でも首を傾げていた。漂流者の情報はその巻き添えである。お陰で彼の顔さえ今だハッキリ分からない。

 

「……本当に彼なんだろうか……?」

 

 青年は疑惑を呟いていた。柔和な顔に疲労の色が濃い。今までほとんど休みなしで捜し回っていたのだ。

 本当に生きているのかも怪しくなって来る。何しろ手掛かりは自分とそっくりだという事と、漂流者というだけだ。

 単に他人の空似かもしれず、他の次元世界から流されて来ただけかもしれない。本人という確かな確証が無いのだ。

 考えれば考える程不安要素だけが増えて行く。疲れも手伝い、しばらくの間青年は座り込んでいたが、

 

(下手に考えるのは止めよう……!)

 

 このままじっとしていても何にもならない。今は僅かな希望にすがるしか無いのだ。青年は自分に発破を掛け、ベンチから立ち上がろうとした。すると、

 

「あれ……? お前さん確か……こんな所で何をしてるんだ?」

 

 声を掛けて来る者がいる。青年が顔を上げると、幼い姉妹らしき子供を連れた、渋めの中年男性が目の前に立っていた。

 青年は一瞬何を言われたのか解らなかった。この世界で自分を知っている人間は多くない。クラナガンに来てまだ数日とあっては尚更だ。

 目の前の男性も、紫がかった髪の幼い少女達にも会った事も見た事も無い。だがそれが意味しているものは唯一つ。

 

「貴方は僕に似ている人に、会った事が有るんですね!?」

 

 青年は興奮して勢い良く立ち上がり、男性に詰め寄っていた。子供達はビックリして目を丸くした。

 

 

 

 その子連れの男性は管理局の局員だった。漂流者の彼とは少し話をした事があるそうだ。行方に付いて端末で調べてくれた。

 一通りの話を聞いた青年は、感謝を込めて頭を下げる。すると局員の男性は、

 

「お前さん、彼とはどう言う関係なんだい? 何年も前で俺の記憶違いかもしれんが、随分似てる気がするんだが……?」

 

 最もな質問だった。青年はつい素直に口を開いていた。

 

「僕の名付け親です……」

 

 局員の男性は首を傾げてしまう。からかわれているのかと思ったが必死な様子といい、そういう人間では無い事は何となく判った。

 仕事柄人を見る目はある。その言葉には万感の想いが込められているように思えた。

 

「それはアレかい……? あだ名みたいなものを付けてくれたって事でいいのかい……?」

 

「あっ……はいっ、そうです」

 

 青年はウッカリ口を滑らせた事を慌てて取り繕ったが、局員の男性はそういった風に受け取ってくれたようだ。

 自分が次元世界とは別の、並行世界から来た事は隠した方が良い。青年は嘘が下手であったので、心の中でホッとするのだった。

 

 

 別れ際、髪の長い姉らしき女の子は礼儀正しくペコリと青年に頭を下げた。しっかり者らしい。

 ショートカットの妹らしき女の子は人見知りなのか、男性の後ろに隠れて青年を頭半分だけ出して見ていたが、おずおずと出て来ると手を振って見せた。

 青年はニッコリ2人に笑い掛け挨拶すると、男性に深々と頭を下げ、

 

「ありがとうございました。早速行ってみます」

 

 お礼を述べると、いても立ってもいられないのかせかせかと歩き出した。

 その後ろ姿を見送っていた男性は、ふと下の娘がまだ手を振っている事に気付く。ある事情から、必要以上に人見知りの激しい娘にしては珍しい。

 

「珍しいなスバル、あのお兄ちゃん怖くないのか?」

 

「うんっ、あのお兄ちゃん、ぽかぽかのお日さまみたいで全然怖くなかったよ」

 

 スバルと呼ばれた少女は、無邪気に笑って小さくなる青年の後ろ姿に手を振り続ける。最後に青年は振り向くと、手を振り返してくれ た。

 

 

 

 

 青年は速歩き気味の足取りで教えられた場所に向かうが、はやる気持ちを押さえきれない。我慢仕切れず青年は駆け出していた。

 いっその事飛んで行きたいような気持ちであった。車やバイクを追い越している。いくら何でも速すぎるようだが…… 風のようにひたすら駆け続け、目的地に辿り着いていた。

 かなりの距離を走っただろう。息も絶え絶えな状態である。目的地は集合住宅のような大きな建物だった。管理局の宿舎のようなものらしい。被災者として此処に住まわせてもらっているそうだ。

 

 いざ足を踏み入れようとしたが、流石に此処までの全力疾走で疲れきり、門の前で一息吐く事にした。青年がゼエゼエと息を整えていると、

 

「あのう……大丈夫ですか……?」

 

 後ろから声を掛けられた。振り向いて顔を上げると、心配そうに此方を覗き込む若い男性が立っている。青年はハッとしてその男性の顔をまじまじと見詰めていた。

 

「ぼ……僕の顔に何か……?」

 

 食い入るような青年の眼差しに、男性は若干引き気味になったようだが、ふとおかしな事に気付いた。

 此方を見詰める青年が、自分と全く同じ顔をしているではないか。似ているなどと言うレベルでは無い。

 今の光景を見ている者が居れば、同じ人間が2人いるようにしか見えなかった。青年と男性は、背格好から声まで全く同じであった。

 

「……き……君は一体……っ?」

 

 男性は非常に困惑してしまい、それだけ言うのが精一杯だ。するとその青年は立ち上がると、男性の手をしっかりと握っていた。

 

「!?」

 

 男性は驚いた。目の前の自分そっくりな青年の両眼から、止めどもなく涙が零れ落ちているのだ。それは悲しみの涙では無い。身を震わせる程の歓喜の涙だった。青年はガッチリと男性の手を握り締め、

 

「生きて……生きてられたのですね……『バン・ヒロト』さん……!」

 

「ど……どうして僕の名前を……?」

 

 青年は困惑するヒロトの手を、押し抱くように握り締めた。

 

「僕は『ヒビノ・ミライ』……貴方のお父さん、バン・テツローさんに付けてもらった名前です……」

 

「と……父さん……?」

 

 ヒロトは思いもよらない言葉に目を丸くする。そして青年ミライは名乗る。

 

「そして僕のもう1つの名はメビウス……貴方が名付けてくれた名です……僕はウルトラマン、『ウルトラマンメビウス』です!」

 

 感慨のあまり膝を着き、その場に崩れ落ちていた。

 

「良かった……本当に良かった……うわあああぁぁっ!!」

 

 彼は子供のように大声で泣き出していた。大粒の涙がヒロトの手をぽつぽつと濡らしていた。

 ミッドチルダの砂漠地帯に舞い降りた、巨大な足跡の主『ウルトラマンメビウス』は、数千年もの年月を経て、自らのモデルとした人物『バ ン・ヒロト』と再会を果たしたのである。

 

 ミライの嗚咽はしばらくの間、止む事は無かった……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 それから数日が過ぎていた。ヒロトは1人近場の大型デパートに来ている所である。その足取りは軽い。ミライから聞いた話がそうさせるのだ。

 

 ミライが本当にウルトラマンで、『ウルトラゾーン』に呑み込まれる前に見た本人である事は、実際に正体を見せてもらっている。

 そして何よりの朗報。元の世界に帰れる可能性が有るのだ。

 最初ミライが、ヒロトの居た時間軸から数千年後から来たと聞いた時はガッカリしたものだが、手段が有るらしい。

 ヒロトが流されて来た時空の歪みを辿り、元の時間に行く力を持ったウルトラマンが次元世界に来ているかもしれないとの事だ。

 ヒロトを捜して管理局を訪ねて回っていた時、その仲間らしきデータをたまたま見付けたらしい。ミライは今、その仲間の情報を得る為に管理局に行っている。

 

(父さんの元に……地球に帰れるかもしれない……)

 

 次元世界に流されて以来、もう元の世界には帰れないだろうと覚悟を決めていた。だからミッド語を習得し仕事にも就いた。それが思わぬ形で帰還がかなうかもしれない。

 ヒロトは嬉しさを堪える事に苦労した。気が早いが親不孝のせめてもの詫びに、父に何か買っておくのと、ミライに何か美味いものでもと思ったのである。

 

 20階建ての最上階のレストラン街に有名な食べ物が有った筈と、ヒロトはエレベーターで最上階に上がった。まだ開店からそう経っていないが、そこそこに混み合っている。

 目当ての店に行こうと、足を踏み出した時であった。 突然衝撃が建物を大きく揺らし、閃光と共に奥で何かが爆発を起こした。

 

「きゃああああっ!?」

 

 何処からか恐怖に駆られた女性の悲鳴が響く。爆風と飛ばされた瓦礫が、レストラン街の客達に襲い掛かる。 ヒロトは咄嗟に地面に伏せていた。

 それと同時に爆風が店のガラスを粉々に砕き、瓦礫が砲弾のように壁にめり込み物を滅茶苦茶に破壊する。

 

「……うう……」

 

 しばらくして爆発は収まったようだ。ヒロトは粉塵漂う中、ヨロヨロと立ち上がった。すす塗れだが、幸い掠り傷だけで済んだようだ。

 

「一体……何が……?」

 

 辺りを見渡すと、爆発でレストラン街は酷い有り様になっていた。断然した配線から火花が飛び散り、怪我をした人々が地面に転がって呻いている。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 ヒロトは駆け寄って近場の怪我人を助け起こす。他の無事だった店員や客も、怪我人の救助を始めた。

 店員は直ぐに管理局に連絡を入れ、救助隊が来てくれる事になったが、また爆発が起きる可能性がある。 ボンベが壊れたらしくガスの臭いもする。

 火災があちこちで起きているようで、スプリンク ラーが作動を始めたが火勢が強い。ヒロト達は知るよしも無かったが、この爆発は『ロストロギア』に因るものだった。

 密輸業者が人が多い事を利用し、取り引きをしていた際、管理が甘かったロストロギアが暴走を起こしたのだ。

 至近距離の密輸業者達は全員消し炭となり、エネルギー結晶のロストロギアは、更にエネルギーを放出しようとしている。

 

「お客さま、慌てずに順番に非常階段から避難してください!」

 

 すす塗れの店員が懸命に避難誘導にあたって いる。パニックになり掛ける客達は先を争って非常階段に殺到した。

 煙が蔓延し始めている。換気装置も壊れてしまったようだ。恐怖が全員に伝染する。二度目の爆発が起こった時、それは頂点に達した。

 人々が非常階段を駆け降りた直後、爆発で崩落した天井が非常口を塞いでしまった。

 

 

 一方ヒロトはまだレストラン街に居た。奥で人の声を聞いたような気がして、非常階段に行かなかったのだ。

 煙に噎せながらも店内に入ったヒロトは、背中に重傷を負って倒れているお婆さんを見付けた。見ると孫娘らしき子供をしっかり抱き抱えている。庇って怪我をしたのだ。瓦礫やガラスの破片が直撃し出血が酷い。

 最初の爆発で意識を失い、倒れていたので店員も見落としていたのだ。意識を取り戻した孫娘が声を上げたので気付く事が出来た。

 

 ヒロトは2人を抱え上げると非常階段に走った。だが天井の崩落で、既に入り口は塞がっている。エレベーターは爆発の影響でひしゃげて壊れていた。避難用スロープも無惨に破損して使い物にならない。

 

(どうすればいいんだ……?)

 

 このままでは3人共次の爆発に巻き込まれてしまうかもしれない。いや、この火災だ。直ぐに煙で窒息してしまうだろう。

 飛び降りるにも此処は20階。落ちたら即死だ。八方塞がりであった。

 ヒロトは必死になって脱出の手段を考える。お婆さんの出血が酷い。子供も苦しくて咳き込んでいる。救 助隊が来るまで保ちそうに無い。

 

「そうだ!」

 

 2人を担ぎ、店の中の資材置き場に向かった。他の場所が誘爆して小規模な爆発が起こる。時間が無い。

 

「あった!」

 

 想像通り資材搬入用のリフトがあった。爆発した場所から遠く、被害は比較的少ない。ヒロトは操作盤をチェックしてみる。電源は生きていたが……

 

(動く事は動くけど……自動制御装置が完全に壊れている!)

 

 機械には強い。配線を繋ぎ辛うじて手動操作を生き返らせる事は出来た。だが安全装置も壊れている。更に悪い事に、ワイヤーも破損しているようだった。危険ランプが点滅している。

 これでは荷重を掛け過ぎると、ワイヤーが切れる可能性が高い。宇宙船での経験上、とても3人の重量を支えきれないだろうとヒロトは判断した。

 つまり1人が此処に残って、更に安全に降りられるように手動で操作しなければ、降りる2人も助からないのだ。

 此処も後数分しか保たないだろう。不気味な振動が強くなっている。残る者は確実に死ぬ。しかしヒロトの心は決まっていた。

 

「さあ、此処に入るんだ。大丈夫直ぐに此処から出られるからね」

 

 扉をこじ開け、お婆さんと孫娘を中に入れる。2人共限界だ。扉を閉め装置盤に手を掛ける。ふとヒロトは思い出した。

 

(これじゃあ、前と同じだ……)

 

 煙に噎せながらも苦笑を浮かべ、スイッチを押す。宇宙船の事故の時と状況が似ていた。

 死の恐怖が無いと言ったら嘘になる。それでも彼の身体は動いていた。リフトは軋みながらも、辛うじて動き出す。

 降下して行くのをランプが示していた。もう直ぐ一階に着く。ワイヤーと安全装置の壊れた今此方で調整するしか無い。

 ヒロトは荷重限界を超えないよう慎重に操作し た。 ランプが1階を示す。ワイヤーは保ってくれたようだ。これで大丈夫。安堵の息を漏らした時、3度目の大きな爆発が起こった。

 

「うわあああっ!」

 

 壁が吹っ飛び床が崩壊する。ヒロトは宙に投げ出されていた。その身体は木の葉のように飛ばされ、瓦礫や破片と共に成す術も無く落下して行く。脳裏に父の顔が浮かんだ。

 

(ごめんね父さん……僕はやっぱり帰れそうにないよ……)

 

 死の前に思う事は、父に対する済まなさだった。だが後悔は無い。自分はこう言う人間なのだと……

 

 最期の瞬間、ヒロトが目を閉じようとした時だった。突如として眩い光が辺りを照らした。

 

(これは……?)

 

 ヒロトはその光に見覚えがあった。これで2度目になる、∞メビウスの輪を思わせる光の煌めきが辺りを暖かく照らす。

 そして落ちて行く自分の手を、しっかりと掴む者が居る。力強い手は重力に逆らって、ヒロトの身体を軽々と空に運んだ。

 見上げた目に映る者。空に浮かぶ赤と銀色の超人の姿。『ウルトラマンメビウス』が其処に居た。

 

 今度は間に合った……

 

 ヒロトの目にはメビウスの銀色の顔が、泣き出しそうになりながら、そう言っているように見えた。

 

 

 

 

 

*****************

 

 

 

 

 現在、八神家AM6:30

 

 冬の張り詰めた空気が、暖かい朝の光を浴びてゆっくり緩んで行く。カーテンの隙間から溢れる柔らかな朝日の中、はやては目覚まし時計の音で目を覚まし た。

 一緒に寝ているヴィータは、のろいウサギを抱き締めたまま無邪気な顔で寝入っている。目覚ましが鳴ってもまったく起きる気配は無い。

 小さな主はそんなヴィータの寝顔を見てクスリと笑うと、はだけた蒲団を掛け直してやる。その様子は姉のようであり、母のようだ。

 

 はやては着替えを済ますとベッドから車椅子に器用に乗り移り、朝食の準備にキッチンへと向かう。中に入るとスウスウと誰かの寝息が聴こえて来た。

 キッチンに隣接したリビングを見ると、ゼロがソファーにひっくり返って爆睡しており、毛布代わりのようにザフィーラが寄り添って寝ていた。

 

 変なスイッチが入りそうな光景だが、こうなったのには訳がある。『蒐集』を終え明け方に帰宅したゼロ達は早々に各自仮眠に入ったのだが、シグナムはリビングでついそのまま寝入ってしまった。

 

 それを部屋に戻る前のゼロが見付けて部屋まで抱いて連れて行き、その後リビングのソファーに一休みと座った所で、前後不覚に眠り込んでしまったのである。

 

 管理局の動きが本格的になり、遠くの世界での『蒐集』を余儀なくされてしまった事もある。そして何より『ウルトラマンネクサス』や 『ダークメフィスト』『スペースビースト』との、エネルギーチャージの暇も無いままでの連戦で消耗していたのだ。

 

 無論はやてにはそこまでは分からなかったが、最近スペースビーストと戦って疲れているのだろうと素直に思う。

 毛布を持って来て、ゼロとザフィーラにそっと 掛けると、起こさないように静かに朝食の準備を始めた。

 

 キッチンに包丁のトントンというリズミカルな音が微かに響く。お味噌汁の香しい香りに、炊飯器のお米の炊けるフツフツという音がする。それからしばらくして、

 

「ごめんなさい、はやてちゃんっ」

 

 寝坊をして寝癖を付けたままのシャマルが慌ててやって来た。その後から、しきりに首を傾げるシグナムも起きて来る。

 妙な顔をしているのは、部屋に戻って寝た記憶が無いからだろう。 経緯を聞いたら、どんな顔をするやらである。

 もうしばらくすると、次に眠い目を擦りながらヴィータも起きて来た。 騒がしくなった周りに、ソファーで眠り込んでいたゼロとザフィーラも目を覚ます。リビングは何時もの賑やかさで溢れた。

 

 

 

 

 

 

 海鳴市桜台展望台AM6:00

 

 張り巡らした結界内で、フェイトとなのはは 『カートリッジシステム』を搭載し強化された 『バルディッシュ』と『レイジングハート』を、完全に使いこなす為の特訓を行っていた。

 アルフとユーノも付き合っている。2人共それぞれ仔犬にフェレットの姿だ。此方の世界では基本この姿で通している。 ちなみにアルフは、新開発した仔犬フォームで見違える程小さい。

 

 フェイトもなのはも真剣に特訓に励んでいる。守護騎士達はカートリッジシステムの熟練者。こちらも使いこなせなければ後れを取ってしまう。

 尤も『バグバズン』との戦闘でお陰で、シグナム達とやり合う前に本物の実戦経験を積めたのが心強い。

 一度の実戦は生半可な訓練に勝ると言うが、 恐ろしい怪物との命懸けの戦闘をくぐり抜けて来た2人は、文字通り一皮剥けたようだった。

 

 次々と砲撃魔法や近接格闘の訓練をする魔法少女達だったが、どうもなのはにはフェイトが必要以上にむきになっている気がした。

 

 訓練を終えたフェイトとなのはは、アルフとユーノをそれぞれ膝に乗せ、自販機前のベンチに腰掛け飲み物を飲んで休憩していた。そんな中アルフはフェイトを心配そうに見上げ、

 

「フェイト……ちょっと頑張り過ぎなんじゃないかい?」

 

 アルフも主人の根の詰め方が気になっていたのだ。フェイトはアルフの頭を撫でながら薄く微笑し、

 

「……これくらい大丈夫だよ……それにシグナムは強いから慣れておきたいんだ……少しでも早くゼロさんを解放してあげないと……」

 

 最後の言葉に力が入る。なのはは無理も無いと隣の友人を気遣う。恩人が犯罪に無理に加担させられているとあっては、焦る気持ちも分かる。しかしなのはは気になっている事があった。

 

「……あの人達……本当に悪い人達なのかな……?」

 

 つい口に出していた。それを聞いて全員が呆気に取られてしまう。するとユーノが小さな首でなのはを見上げ、

 

「なのははどうして、そう思うんだい……?」

 

 なのははちらりと、訝しげなフェイトを見た後に困ったような顔をし、

 

「……何だかね……あの赤い服の女の子……私を助けてくれたように見えたんだけど……」

 

 ヴィータが『旅の鏡』と同系列の魔法から、なのはを助けた時の事を言っているのである。 あの時は誰もそうだとは思わなかったが……

 ユーノもあの時の事を思い返す。ヴィータと対峙していたのは彼である。

 

「……確かに……あの時僕にもそう見えた気がするけど……」

 

 悩むなのはとユーノを見て、アルフは馬鹿馬鹿しいと首を竦めた。

 

「何言ってんだい? 第一最初に襲って来たのは向こうじゃないか。あの態度からして有り得ないよ、勘違いさ」

 

「そうだよなのは……あの人達の嫌な笑い顔…… 私は忘れない!」

 

 フェイトはシグナム達の見下した、毒蛇のような目を思い出し細眉をひそめた。彼女も無論アルフと同じ意見だ。いささか感情的になっているのも否めないが……

 なのはにもそれ程自信があった訳では無いので、そう言われてしまうと返事に困ってしまう。だがヴィータの行動が妙に気になった。 全員が黙ってしまう。するとアルフが口を開き、

 

「それよりもアタシは、フェイト達が戦ったって言う、黒い巨人達の事が気になるけどね…… 孤門の話からしても……」

 

 黒い巨人達。フェイト達は孤門から聞いたばかりの話を思い出す。

 

 『ダークルシフェル』達との死闘から戻った後、孤門はリンディやクロノらも含め、フェイト達にも『闇の巨人』について知っている事を話していた。

 今までのスペースビーストとの戦いに、彼が出会って来た『デュナミスト』の事そして……

 

「彼等闇の巨人は『冥王』によって作り出された人形です……時には死んだ人間や、闇に取り込まれた人間に闇の力を与えて駒とする……スペースビーストも『冥王』の先兵に過ぎません……」

 

 死んだ人間のくだりで孤門は表情を曇らせる。リコの事でも思い出したのだろうか。

 人間をあんな巨人に変えてしまう存在。魔法どころか、常識を超えている。自然全員の口は重くなった。そんな存在が敵なのだ。

 黙って話を聞いていたクロノは、本能的な畏れを振払うように、

 

「巨人達については分かったよ……しかしその 『冥王』と言うのは、一体何者なんだい……?」

 

 投げ掛けられた質問に孤門は、悲壮なまでに険しい表情を浮かべた。

 

「『冥王』……それは『ウルトラマンノア』のコピーとして造り出された人造ウルトラマン……間違いない!『ダークザギ』はまだ生きていて、復活を狙っている!!」

 

 『ダークザギ』孤門の言葉が不吉に響く。その名は各自の胸に、厭なざわめきを立てた。関わってはならない禁忌のように……

 

 

 

 

「……本物になりたかった、ウルトラマンのコ ピー……」

 

 孤門の話を思い返したフェイトは、口の中でそっと呟いていた。ザギの生い立ちは、まるで自分を思わせたのだ。

 しかし彼女達は知らなかった。孤門が全ての情報を明かしてはいない事を……

 そう彼は『闇の書』のマスターが誰なのかも、ゼロ達の居場所も知っている筈である。『冥王ダークザギ』がそれを狙っているらしい事も。

 孤門は、いかなる手段を取るつもりなのであろうか?

 

 

 

つづく

 

 




※ メビウス本編を見終わった時、ヒロトは何処かで生きているのではないかと思ったので、妄想を逞しくしてみました。最終回近くで生きていたヒロトが出る予定があったそうですが、結局出ないままでした。
本編に出て来た親子は勿論ナカジマ親子です。局員の男性はゲンヤさんですね。

次回『闇-ダークロプス-』

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