灼熱の大気を切り裂き、唸りを上げて巨大な拳同士が激突した。
『ウルトラマンゼロ』と『ウルトラマンネクサス・ジュネッスブルー』互いの鋼鉄より強靭な拳がぶつかり合い、激しく火花を散らす。
『オラオラオラオラオラオラアッ!!』
『シェアアアアアアアァァッ!!』
暴風雨のようなラッシュの応酬だ。砲弾をぶつけ合うような、耳をつんざく激突音が砂漠に木霊す。
互いの身体に高層ビルをも粉々に打ち砕く、強力無比な拳が打ち込まれる。
いくら超人と言えど、痛覚の無い機械でもロボットでも無い2人は痛みを感じている筈だが、退く事など考えの外とばかりに一歩も退かない。譲れぬものが有るのだ。
荒々しい攻撃を繰り出すゼロに対し、ネクサスも普段の穏やかさをかなぐり捨てて、嵐のようなラッシュを繰り出す。
破壊の鎚(つち)と化した巨拳が、双方の胸部、腹部、腕部にぶち抜けとばかりに叩き込まれる。
大きくモーションを取ったゼロとネクサスの猛烈な右ストレートが、同時にお互いの顔面に打ち込まれた。ゼロコンマ1秒にも満たない一瞬の静止。
『ガッ!』
『ウオオオッ!』
次の瞬間2体の巨人は血の如き火花を上げて、至近距離で爆撃を受けたように後方に吹き飛んだ。
互いの凄まじいパワーの余波で、砂塵が盛大に巻き上がる。ゼロとネクサスは砂漠を踏み締め制動を掛けた。
距離を置いた状態となった2人は、砂漠を揺るがして天高く跳躍する。巨体が重力の枷を振り切って、矢の如く宙を駆けた。
ゼロの赤熱化した右脚と、ネクサスのエネルギーが込められた右脚が飛ぶ。『ウルトラゼロキック』と『ジュネッスキック』の打ち合いだ。
互いのキックが激突し交差する。互角だ。だがすれ違い様にネクサスは、光刃『パーティクル・フェザー』を連射する。
『これしきぃっ!』
ゼロは額のビームランプから『エメリウムスラッシュ』を掃射、光刃を叩き落とし、砂丘を更地にして着地する。ネクサスもほぼ同時に砂漠に降り立った。
逸れた光刃と破壊光線の流れ弾で、周囲が爆撃でも浴びたように吹き飛ぶ。
着地と同時に2人は電光に勝る速さで対峙し、必殺光線の構えを取る。ゼロは両腕をL字型に組み、ネクサスは右腕に光の弓を形成する。
『デリャアアアアッ!!』
『シュワアアアッ!!』
青白い光の奔流と、光の弓が真っ向からぶつかり合う。『ワイドゼロショット』と『アローレイ・シュトローム』が激突し、対消滅したエネルギー波が大爆発を起こした。
これが市街地であったら、既に街の一つや二つ跡形も無く消し飛んでいるレベルである。ゼロは爆風の中一歩も退かず、頭部の『ゼロスラッガー』を両手に構え、
『どうした? 今日はお得意の『メタ・フィー ルド』は使わなねえのかよ?』
『此処は無人の世界だ、砂竜も逃げてしまっては必要無いだろう? それにハンデ抜きの方が君も納得すると思ってね……』
ネクサスも『アローアームド・ネクサス』を発動し、光の剣『シュトロームソード』を構えて静かに応えた。
一見余裕に満ちた態度に見えるが、そうでは有るまいとゼロは判断する。既に『メタ・フィールド』は、ネクサス自身に非常に負担を掛けるらしいと見破っていた。
諸刃の剣と言う訳だ。周囲に被害を出さない為の能力なのだろう。
その心配が無い今、エネルギーの損耗を避けたのだ。全力でゼロを倒しに来ている。光の剣が輝きを増した。
『後悔すんなよ! 手加減抜きってほざいたのはお前だ!!』
此方も全力で行かないと殺られる。ゼロは2本のスラッガーをピタリと空中に静止させた。
『デリャアアアッ!!』
強烈な回し蹴りで、スラッガーを同時に蹴り飛ばす。スラッガーにキックのパワーを上乗せした『ウルトラキック戦法』だ。ゼロ流の『セブンのウルトラノック戦法』と言う所である。
化鳥(けちょう)の如くネクサスに襲い掛かるスラッガーの速度とパワーは、通常投擲の比では無い。
『シェアッ!』
ネクサスは初撃を『シュトロームソード』の一閃で跳ね返そうとするが、降り下ろしたソードはスラッガーのパワーに弾かれ、右腕ごと跳ね上げられてしまった。
『しまった!?』
怯むネクサスに、2撃目のスラッガーが襲い掛かる。その時左腕の『アームド・ネクサス』 のクリスタル部が青い光を放った。
光を放つアームドが変化、右腕のみの装備だった『アローアームド・ネクサス』を左腕にも形成し、もう1本の光の剣が伸びた。
『ウオオオッ!!』
ネクサスは雄叫びを上げ、2撃目のスラッガーをもう一振りのソードで叩き落とした。 『シュトロームソード・二刀流』 青い巨人はソードを胸の前でクロスさせ、 ガッチリと構える。
その姿は古代の巨人神を思わせる勇猛さだ。組み合わされた光の剣の余剰エネルギーが、空中に放電現象を起こしている。
(こいつ……底が知れねえ……)
弾かれたスラッガーを手にしたゼロは、ネクサスの潜在能力に脅威を感じざる得ない。
(出し惜しみしてたら殺られる!)
まだ奥底に躊躇いが有ったようだ。だがそんな甘い相手では無い。腹を決めたゼロは、2本のスラッガーを1つに組み合わせる。
スラッガーは目映い光を放ち、見る見る内に大きく形を変えて行く。そしてゼロの手の中スラッガーは、半円状の巨大な諸刃の剣と化し た。
『ゼロツインソード』『べリアル』や『ダークロプス』などの数々の強敵を葬り去って来た、『プラズマスパーク』のパワーを秘めた必殺剣である。
互いの必殺剣を構えたゼロとネクサスは、砂漠すれすれの高度で飛び出していた。砂塵が巻き上がる。
飛び出すと同時に速度が音速を超え、腹に響く衝撃波を響かせて、2体の巨人達はマッハの速度で激突する。
ギャキィィィンという、鼓膜を破りかねない程の鋭い激突音が、激しいスパークと共に響き渡った。
弾き飛ばされたゼロとネクサスは、放物線を描いて吹っ飛び、盛大な地響きを立てて砂漠に背中から落下する。
『ぐはっ!』
衝撃に思わず呻き声を漏らしてしまうゼロ。ツインソードの結合が解け、元のスラッガー状態に戻ってしまっている。限度を超えてしまったのだ。
ネクサスの二刀流のシュトロームソードも消滅している。此方も限度を超えた激突に、耐えきれなかったようだ。
しかしゼロとネクサスは再び立ち上がる。共にかつては世界を救った事のある筈の戦士同士の死闘。 無意味で虚しい戦いに見えた……
それでも2人の戦いは終わらない。ゼロは2本のスラッガーを、胸部に放熱板の如くセットする。
ネクサスも右腕をゼロに向け、光輝く巨大な弓と剣を形成した。その様は巨大な弓矢の如し。
ゼロの胸にセットされたスラッガーが光を放ち、ネクサスの右腕の光の弓矢が強く輝く。互いの最大の必殺光線『ゼロツインシュー ト』と『オーバーアローレイ・シュトローム』 の発射態勢!
『食らええええぇぇぇっ!!』
『シェアアアアアアアッ!!』
雄叫びと共に、ゼロの胸部から青白い光の激流がほとばしり、ネクサスの右腕から光の弓矢が空間を切り裂いて射ち出される。
直視した者の網膜を焼き尽くす程の閃光を発し、2体の巨人戦士が居た場所一帯に巨大な爆発が起こった。
*
澄みきった蒼天に、複数の月が点在して見える無人の異世界。
ヴィータは1人、鬱蒼と生い茂ったジャングル地帯上空を、紅い騎士服をはためかせて飛 行していた。小脇には『闇の書』を抱えている。
人工的なものが一切含まれていない濃厚な緑の大気の中、『蒐集』対象を求めてさ迷っていたヴィータに、シャマルから思念通話が入っていた。
「ゼロ達が!?」
《うん、砂漠で交戦しているの……ネクサスにテスタロッサちゃんと、その守護獣の子と》
一通りの状況を聞いたヴィータは、自分が今やるべき事を判断する。
(長引くと不味いな……助けに行った方がいい……)
時間を掛ければ、掛けた分だけ此方が不利になる。愚図愚図していたら、管理局も応援を送り込んで来るだろう。
ゼロはネクサス相手で手一杯、自分が乱入してその隙に全員で脱出するのが一番だろう。 自分の考えをシャマルに伝え、ゼロ達の元に 向かおうとした時、
「あっ!?」
空中に浮かぶ白い服の少女の姿。バリアジャケットに身を包んだ高町なのはであった。 ヴィータの様子に心配したシャマルの問い掛けに、
《クソ……此方にも来た……高町……》
なのははデバイスも持たず、攻撃して来る様子も無いが、ヴィータは喧嘩腰で、
「高町なまこっ! お前か!!」
結局ヴィータはまだ、なのはの名前をちゃんと言えていなかった……
「うあっ? なまこじゃ無いよ! なのはだってばあっ! な・の・は!」
なのはは前のように面白い顔で、両手をバタバタさせて間違いの訂正を求めた。しかしいい加減諦めたのか、ため息を吐くと気を取り直し、
「ヴィータちゃん……やっぱりお話聞かせて貰う訳には行かない……?」
なのはは自分を敵意剥き出しで睨み付けるヴィータに、真摯に語り掛ける。レイジングハートもペンダント状態のままだ。戦うつもりは無いと言う意思表示である。
「……もしかしたらだけど……手伝える事が有るかもしれないよ?」
そう言って微笑むなのはに、一瞬はやてに通じるものを感じたヴィータだが……
「うるせえっ! 管理局の言う事なんて信用出来るかよ!!」
振り払うように怒鳴った。実際彼女が悪い人間では無いのは判っているが、どうしようも無いのが現状なのだ。しかしなのはは臆さず両手を差し伸べ、
「私……管理局の人じゃ無いもの……民間協力 者……」
そのあくまで話し合おうとする態度に、彼女の心意気は確かに伝わった。ゼロの言う通り、高町なのはという少女は本当に善い人間なのだろう。
だが現状話し合ってどうにかなる状況でも無い。今は少しでも早くゼロ達の助太刀に向かい、全員で離脱しなければならないのだ。タイミングが悪すぎた。
「そのケツブッ飛ばすのは、また今度だ!!」
なのはの言葉を振り払い、ヴィータは真紅の魔力球を掌に精製した。
「吼えろ! グラーフアイゼン!!」
その魔力球にアイゼンの一撃を叩き込み、バーストさせる。凄まじい閃光と耳朶を打つ轟音が、辺りに鳴り響いた。
「きゃあああああっ!?」
不意を突かれたなのはは目をつむり、耳を塞いで縮こまってしまう。スタングレネードのようなものだ。
「脱出……」
その隙にヴィータはその場を離脱する。ようやくなのはが目を開けた時には、既にその紅い姿は数キロは離れ、豆粒のように小さくなっていた。
なのはは一瞬の逡巡の後にレイジングハートを起動させ、鉄槌の騎士を狙い撃とうとする。
止めなくては自滅の道をひた走るように思えたのだ。それを見たヴィータは阿呆かと思う。
魔法にも射程距離があるのだ。離れれば離れる程威力は弱まり当たる確率も低くなる。今までの経験上、この距離で攻撃を届かせる事の出来る魔導師はまず居ないと踏むが……
「ディバァィィン、バスタアアァァッ!!」
なのはの叫びと共に、凄まじい桜色の光の奔流が射ち出された。
「しまった!?」
高を括っていた上、転移魔法の発動中のヴィータは動けない。『カートリッジシステム』をプラスした今のなのはなら、この距離を物ともせず、砲撃を当てる事が可能なのだ。
ヴィータの判断ミスと言うより、それだけなのはの才能がずば抜けていたのだ。同じ条件で同じ事が出来る魔導師は稀であろう。
棒立ちのままヴィータは、桜色の光の中に呑み込まれてしまった。
(やられた……)
紅の鉄騎は思わず目を瞑るが、襲って来る筈の衝撃は来なかった。
「……?」
目を開けると白い仮面を着けた男が、爆煙の中ヴィータの盾となって立ち塞がっている。ディバインバスターを完全に防いだようだ。
「ア……アンタは……?」
ヴィータの問いに仮面の男は答えず、
「行け……『闇の書』を完成させるのだろう……?」
ヴィータは胡散臭そうに男を見るが、今は助太刀に行くのが先と再び転移魔法に掛かる。
(こいつか……シャマルの言ってた奴は……何が狙いか知らねえが、今は乗っといてやんよ)
転移を開始するヴィータを逃すまいと、なのはは2撃目のディバインバスターを放とうとするが、
「えっ!?」
仮面の男が軽く手を振る仕草を見せたと同時に、なのははリング状のバインドに拘束され、身動きを封じられてしまった。
「バインド!? あんな遠くから一瞬で!?」
驚くなのは。長距離からバインドを決めるには、高度な技術と魔力を必要とする。並の腕前では無い。
なのはが力付くで拘束を引き千切った時に は、ヴィータも仮面の男の姿も既に消え失せていた。
*
照り付ける灼熱の太陽の下、『レヴァンティ ン』と『バルディッシュ』の激突音が止まずに響いていた。
激しい打ち合いの末、砂漠に降り立ったシグナムとフェイトは互いに間合いを計る。両者共息が荒い。出血こそしていないが、防護服も 数ヵ所が裂けていた。
本来なら地力で勝るシグナムが断然有利なのだが、連日の『蒐集』にビーストとの戦いの消耗に加え、残り少ないカートリッジで戦わなければならない現状。
実質今の戦闘能力は、本来の六割以下に低下しているだろう。
それに対しフェイトは暴発の危険性も有った が、カートリッジを湯水のように使い、尚且つ自身の最大の強みスピードを最大限に活かして対抗している。
しかしそれを差し引いても、シグナムはフェイトの驚異的な粘りに舌を巻いた。
(此処に来て尚速い……目で追えない攻撃が出て来た……早めに決めないと消耗が激しい此方が不利だ……だが……大した気迫だ……)
シグナムは自然笑みを浮かべていた。懸命に食らい付いて来る少女に敬意を表するように、愛刀を突き出して構える。
(……やっぱり強い……クロスレンジもミドルレンジも圧倒されっ放しだ……今はスピードで誤魔化してるだけ……まともに食らったら叩き潰される……でもシグナム……やっぱり貴女は……)
フェイトは悟っていた。冷静になってみると、シグナムが如何に今まで此方を傷付けないように戦っていたかを思い知った。
此処までシグナムは全て刀を反したまま、更に刀身に魔力コーティングを施し、魔力ダメージと打撃で戦っている。蛇腹剣での攻撃すらも峰打ちだった。
だからと言って、フェイトを甘く見ての事では無いのは判る事が出来た。理屈では無い。全身全霊で何度も戦って来たからこそ魂で感じ取ったのだ。
この女騎士は己の誇りに懸けて、このような戦い方を課しているのだと。それはとても気高く思えた。
ならば此方は全力で応えるのみ。フェイトも苦しい中笑みを浮かべ、愛機を大きく振りかぶり、シグナムは愛刀を突きの態勢で構えて間合いを計る。
(『シュツルムファルケン』当てられるか……?)
(『ソニックフォーム』やるしかないな……)
もう双方共そんなに長くは戦っていられない。互いの切り札を出すべくタイミングを計るシグナムとフェイト。
ぎらつく複数の太陽の下、沈黙が場を支配する。2人の『気』が極限まで張り詰め、両者は同時に飛び出そうとする。その瞬間だった。
「あっ!?」
飛び出そうとしたフェイトは、ピタリと動きを止め声を漏らす。彼女の胸から人の腕が突き出ていた。
「なっ!?」
シグナムは急制動を掛けて停止した。仮面の男がフェイトの身体を、背後から腕で串刺しにしていたのだ。
「テスタロッサ!」
シグナムの呼び掛けに反応は無く、フェイトは蒼白な顔で虚空を見詰めている。辛うじてまだ意識は有るようだが……
物理的に貫かれているのではなく、シャマルの『旅の鏡』のように、空間を捻じ曲げる魔法らしい。
「うわああああぁぁぁっ!?」
光がフェイトの身体を貫き、少女は絶叫を上げた。
「貴様ぁっ!!」
怒れるシグナムが飛び出そうとすると、仮面の男はフェイトを貫いていた手を開いて見せた。その掌に金色に輝く光の球がある。彼女の 『リンカーコア』だ。
「さあ……奪え……」
仮面の男は冷徹に、感情を感じさせない声色で促して来る。それを聞いたシグナムの怒りは、頂点に達していた。
「愚弄するか、下衆があっ!!」
レヴァンティンを振り上げ、仮面の男に斬りかかる。シグナムの行動は男には予想外だったようで、慌ててフェイトから手を抜き後方に跳んだ。
「クッ……愚かな……」
苦々しく言い放つと、その姿は瞬時に消え去った。
「ちいっ……逃げたか!?」
舌打ちするシグナムだったが、今はフェイトの事が心配だ。倒れている筈の少女を振り返ろうとした時、
(何だ!? この凄まじい剣気は!?)
一度も味わった事の無い、恐ろしいまでの威圧感を背後に感じた。それは永い戦いの日々を生きて来たシグナムに、振り返るのを躊躇わせる程のものだった。
「……後は此方がやってやろう……今の此奴らが、人間から『蒐集』する訳が無いからな……」
暗い響きの、ひどく押し殺した女の声が背後からする。シグナムはその声に聞き覚えがあった。何故ならば……
「貴様!?」
振り向いた目に映ったものは、八重桜色の髪をポニーテールに結い、白と紅の騎士服を身に纏ったシグナムと瓜二つの女であった。
*
熱砂の砂漠に、耳をつんざく轟音が鳴り響く。光線による爆発で盆地となった砂の大地を揺るがし、ゼロとネクサスの戦いは続いていた。
双方共に胸のランプが赤く点滅を始めている。激戦でエネルギーの消費が激しい。限界が近かった。戦いは消耗戦の様相を見せていた。
『オラアアアッ!!』
ゼロの正拳突きがネクサスの顔面を捉える。堪らずぐらついてしまうネクサスだが、砂の大地を踏み締めて持ち堪えた。
ゼロは追撃を掛けようとするが、ネクサスは逆にカウンター気味のフックを顔面に叩き込む。
『グッ!』
首を根こそぎ持って行かれそうな衝撃を耐えたゼロは、大量の砂を巻き上げて、鉈(なた) の如き回し蹴りを繰り出す。
ネクサスも青い巨体を独楽のようにスピンさせ、強烈な回し蹴りを放つ。
赤と青の巨樹の如きキックが激突し、両者は衝撃に耐え切れず後退った。
互いの胸のランプの点滅が早くなっている。残されたエネルギーは僅かだ。
ゼロは同じく満身創痍なネクサスを睨み、再び左手を前に突き出しレオ拳法の構えをとる。ネクサスも半身で両の拳を構えた。どちらも退く気は無い。
『俺は此処で倒れる訳には行かねえんだああっ!!』
ゼロは獣の如く咆哮していた。長く生きられないと哀しく呟いていた少女を想い……
『おうおう、感動的だねえ……』
その時不意に、天空からゼロを嘲笑うかのような声と拍手が降ってきた。
『なっ!?』
反射的に空を見上げたゼロの視界を、黒い影が覆う。影はゼロに向かって来ると思いきや、ネクサスに漆黒の悪魔の如く襲い掛かる。
『お前は!?』
不意を突かれたネクサスに向けて、影から2つの物体が飛び出した。その物体は鋭利な刃と化して青い巨体を切り裂く。
『うおおおおおっ!?』
斬撃を食らったネクサスは、数百メートルは飛ばされ大地に倒れ込んでしまった。そして砂漠に盛大な砂塵を上げて、降り立つ黒と橙色の巨人。
その頭部にネクサスを切り裂いた『ダークロプススラッガー』が装着された。
『貴様は!!』
ゼロは驚きの声を上げてしまう。漆黒と橙のボディー、紅く光る単眼。その姿は紛れもなく『ダークロプスゼロ』 であった。
『ダークロプス……まだ生きてやがったのか!?』
確かに破壊した筈の強敵の出現。驚きを隠せないゼロの耳に、またしても嘲りを含んだ声が響いた。
『派手にぶっ壊してくれたから、ドクターが修理するのに苦労してたぜ……まあ誉めてはやろう……』
もう1体の黒い巨人が皮肉たっぷりに、バチンバチン拍手しながら悠然とゼロの前に降り立った。
『!?』
そいつは一見ダークロプスと全く同じ姿をしていた。唯一の違いは単眼ではなく、ゴーグル状の顔面部分の奥から、2つの鋭く光る眼が覗いている事である。
(何だ……こいつは……?)
ゼロはダークロプスらしき巨人に対し、強い嫌悪感と不吉なものを感じた。不真面目な物腰にも関わらず、思わず後退りたくなる程の威圧感を放っている。
『貴様……ダークロプスなのか!?』
不可解な感覚を跳ね除けて問おうとすると、スラッガーを食らったネクサスが身を起こした。
『……何だ……お前達は……?』
チラリとそちらを見た双眼のダークロプスは、
『Ⅱ(ツヴァイ)そいつと遊んでやれ……』
命令にダークロプスゼロは即座に反応し、起き上がったネクサスの首をむんずと掴んだ。
『グオッ……!?』
呻き声を漏らすジュネッスブルーは、ダークロプスの腕を振り払い反撃しようとする。だが黒い巨人は揉み合った体勢のまま、ネクサスごと空に舞い上がった。
『ウオオオッ!?』
ダークロプスはネクサスに組み付き、高速でこの場を離脱する。1対1で戦うつもりなのか、2体の巨人の姿は地平線の彼方に見えなくなった。
それを確認した双眼のダークロプスは、身構えるゼロにふざけた態度でひらひら片手を挙げ、
『さて……邪魔者が居なくなった所で、初めましての挨拶だ……ウルトラマンゼロォ……』
『誰だお前は!?』
人を食った余裕の態度に、ゼロは不快感全開で怒鳴る。双眼は舐めた事に、少し空を見上げて考える素振りを見せ、
『そうだな……『グリーンモンス』や『シーゴラス』の飼い主って言ったら分かり易いか?』
『貴様が!?』
心底愉しそうに肩を揺らす双眼の返事に、ゼロは怒りがこみ上げるのを抑える事が出来なかった。遊び半分で多くの人々を殺そうとしたやり口が蘇る。
『ウオオオオオオオオッ!!』
若きウルトラ戦士は、怒りの感情のままに黒い巨人に殴り掛かっていた。
*
「誰だ貴様は!? 私と同じ姿……貴様だな、我らの紛い物は!?」
シグナムはフェイトの『リンカーコア』を再び抉り出している、自分そっくりな女を睨み付けた。
フェイトを盾にされている状況なので、迂闊に手を出せない。更に女は少女の細首に手を掛ける。
下手な真似をしたら首をへし折るとの脅しであった。女は醒めた瞳でシグナムを見据え、
「紛い物とは無礼だな……」
僅かに笑みを口許に浮かべる。だがそれは笑みの形に口を動かしただけ、そんな印象を見た者に抱かせる歪な笑みであった。
「紛い物は紛い物だろうが!? テスタロッサを離せ!!」
シグナムの怒号に女は、光彩の少ない暗い眼を少しだけ細め、
「……これが私の本当の姿だ……紛い物呼ばわりされる筋合いは無い……」
「何だと? 貴様ふざけているのか!?」
「……言葉通りの意味だ……他に意味など無い……」
話が噛み合わない。シグナムには女が何を言っているのか解らなかった。だが女の目が異様に胸に迫った。
(何という暗い目をしているのだ此奴は……)
シグナムは女の瞳に底冷えする程の闇を感じ、思わず身震いしてしまう。こんな事は初めてであった。超獣やスペースビースト相手にも、一歩も退かなかった女騎士がである。
「くだらん縛りを課しているお前達に代わって、私が奪ってやろう……」
女の言葉と同時に、シグナムが良く見慣れたものが女の頭上に出現した。
「馬鹿な! それは!?」
現れたもの……表紙の剣十字、見間違えようも無い。『闇の書』だった。
「何故貴様が持っている!?」
主と守護騎士以外の者が扱える訳が無い。中にはもう1人の仲間が居るのだ。だが書は逃げる素振りも見せない。
混乱するシグナムを尻目に、シグナムそっくりの女はその本を見上げ、
「これは『闇の書』ではない……『夜天の魔導 書』だ……尤もこの世界の『闇の書』と同一存在ではあるがな……」
謎の言葉を吐くと、反応するように『夜天の魔導書』が独りでに開いた。『蒐集』するつもりだ。
「止めろ!!」
思わず踏み出すシグナムに女は、フェイトの首に掛けた手に力を込めて見せる。これでは手の出しようが無い。
シグナムの叫びも空しく、フェイトの『リンカーコア』の魔力が魔導書に吸収されて行く。『蒐集』されるフェイトの身体が無意識にピクッピクッと痙攣を繰り返す。
『リンカーコア』が半分以下まで小さくなった所で、女はようやく『蒐集』の手を止めた。そしてフェイトを壊れた人形のように地面に投げ捨て、
「転送……」
低く呟くと『夜天の魔導書』は紫の魔法光を放ち、虚空へと消え失せた。相手がフェイトを放したのでこれで攻撃出来る。シグナムは怒りと共に、愛刀を女に向けた。
「何をした……?」
「以前と同じく、今『闇の書』にテスタロッサの魔力を転送してやった……感謝するのだな…… 綺麗事だけでは埋まらないページを代わりに埋めてやったのだから……」
「貴様あああぁぁっ!!」
クールなシグナムが激昂し、我を忘れて飛び出していた。全てを否定され踏み付けにされ、汚された想いだった。
八神はやての騎士としての誇りも、綺麗事を貫くと決めた誓いもゼロの想いも全てを……血液が沸騰する程の怒りを女に向けた。
「紫電……一閃っ!!」
レヴァンティンが業火の剣と化し、シグナムは必殺の斬撃を唐竹割りに降り下ろす。超獣やビーストをも葬り去って来た一撃。だが……
「何いっ!?」
烈火の将は驚愕で目を見張った。何と女は、右手の指2本のみで必殺の斬撃を受け止めたのだ。刃先は指に挟まれビクともしない。
「ば……馬鹿な……?」
「……微温いな……今のお前はこの程度か……?」
唖然とするシグナムを侮蔑するように一瞥した女は、電光の速さで左拳を繰り出した。レヴァンティンの刀身に強烈な一撃が打ち込まれる。
バキィィィンッという乾いた破壊音が響き渡り、レヴァンティンの刀身が拳の一撃で真っ二つにへし折られていた。
*
双眼のダークロプスの顔面に、鋼鉄をも易々とぶち抜く正拳突きが叩き込まれた。確かな手応え。しかしゼロは瞬時に悟っていた。
(こいつ……わざと受けやがった!?)
微動だにしない双眼のダークロプスは、ゼロの拳を顔面に食らったまま、
『まあ……今のお前はこの程度だろうな……』
蚊にでも刺されたかのように、涼しげに台詞を吐く。それと同時にゼロが拳を打ち込んだ箇所から、ダークロプスの全身に亀裂が入って行くでは
ないか。
(こいつ、ダークロプスじゃ無えっ!!)
無論破壊した訳では無い。何者かがダークロプスの外装を着込んでいただけだったのだ。背筋が凍る程の危険を本能的に察知したゼロは、思わずその場から飛び退いていた。
ダークロプスの亀裂が広がり、黒と橙色の外装が鈍い音を立てて砂漠に剥がれ落ちる。
『なっ!?』
その下から現れたものは、ゼロと全く同じ銀色の顔だった。頭部の一対のスラッガーまで同じだ。だが瓜二つかと思いきや、『カラータイマー』が無い。
上半身の太陽エネルギー吸収アーマーは 『ウルトラセブン』と同一だ。 そして全身が燃えるように赤い。その真紅のボディーに銀のラインがシンプルに走っている。
その姿は、ゼロを更に父セブンに近付けたような姿であった。
『何者だ貴様はっ!?』
尋常ならざる鬼気に、ゼロは問わずにはいられなかった。真紅の巨人は余計な物を脱いで気分が良いのか、コキコキと首を軽く振り、
『『ウルトラセブンアックス』と呼んで貰おう か……?』
皮肉気味に名乗る巨人の口許が、ニヤリと歪に嗤ったようにゼロには見えた。
『ウルトラセブンAX(アックス)』宿敵とゼロとの初対面であった。
つづく
※ウルトラセブンアックス。元はゼロのNGデザインです。ゼロとは違う光線技や武器も設定されていました。銀河伝説の特典に画像が有ったので、結構知られていると思います。
半オリキャラという所ですが、ウルトラセブンという物語に密接に関係したキャラクターです。色々な秘密が有りますが、今はまだ内緒です。
次回予告
遂に姿を見せたウルトラセブンアックスとは? その恐るべき力の一端とは? 更にもう1人のシグナムとは?
次回『宿敵-アックス-』