夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第61話 迷宮-ラビリンス-

 

 

 

 

『ブラッディーダガー』をまともに食らってしまったゼロは、衝撃で弾かれたように後方に吹き飛ばされてしまった。

 

「ウルトラマンさん!!」

 

 なのはは慌てて飛ばされるゼロを追うが、手負いの超人は空中で制動をかけて態勢を立て直した。

 

『……大丈夫だ、これくらいどうって事は無いぜ!』

 

 平気な事をアピールすると、再び『闇の書』 に向き直る。しかしなのははやはり心配だ。

 

「でも……今胸を押さえて苦しそうでしたよ?」

 

『気のせいだ……俺は何とも無いぜ……』

 

 ゼロは自分の唇を指でチョンと弾き、不敵に応える。無論強がりだ。状態はかなり悪い。だがゼロは痛みを堪え『闇の書』に向かって飛び出した。

 

「闇に……沈め……」

 

 『闇の書』は再びブラッディーダガーを連射する。次々とゼロの身体に真紅の短剣が炸裂し、その姿を爆風が覆う。

 

「!?」

 

 『闇の書』は僅かに細眉を寄せた。ゼロが爆風を纏い、攻撃をまともに食らいながらも、構わず正面から突っ込んで来たからだ。

 

『しっかりしろ! 目を覚ませ!!』

 

 ゼロは激痛を堪え強引に彼女の両肩を掴むと、声を張り上げて呼び掛けた。

 

「敵対勢力……排除……」

 

 次の瞬間ゼロはボディーに強烈な打撃を食らった。身体が浮き上がる程の衝撃だ。『闇の書』の桁外れの魔力が込められた一撃。しかしゼロは掴んだ両手を離さない。

 

『……俺だ……! 目を覚ませ! はやてぇっ!!』

 

 あくまで無抵抗で呼び掛けるのを止めない。だが『闇の書』は全く反応せず、立て続けにがら空きのボディーに拳の連打を放つ。

 

『グハッ!!』

 

 この時ゼロはある事に気付くが、衝撃と激痛で遂に手を離してしまい、砲弾のような勢いでビルの壁面に叩き付けられてしまった。壁が砕け散りビルにめり込んでしまう。

 

「ウルトラマンさん!!」

 

 なのはが宙を飛び近寄ると、ゼロは何でも無いように壁面を砕いて飛び出した。

 

『大丈夫だっ、くっ……』

 

 威勢良く応えようとして言葉が途切れた。胸を苦しそうに押さる。なのははそれに気付く。

 

「ウルトラマンさん、やっぱり怪我をしてるんですね?」

 

 気遣いにゼロは、軽いとばかりに胸を張って見せる。

 

『なあに、掠り傷だ……それよりも気付いた事がある……』

 

「気付いた事……?」

 

 怪訝な顔をするなのはに、ゼロは様子見なのか此方を冷たく見下ろしている『闇の書』を見上げ、

 

『今のはやて達は多分、相手に反応する自動攻撃機能みたいなものが働いているようだ……本人達は表に出ていない。だから俺の事も判らない……だがそれだけじゃ無い……』

 

「それだけじゃ無い……?」

 

『他に別の力が働いているようだ……外部から何かの遮断波のようなものがアイツを包んでる……クソッ、どうすりゃ良いんだ!?』

 

 これではいくら呼び掛けても届かない筈だ。苦悩するゼロに、なのはは今までユーノから聞いていた『闇の書』の報告を思い出す。

 

「ユーノ君達に調べて貰って判ったのはですね……あの人のプログラムを書き換えるにはマスター、はやてちゃんが自分でやらないと駄目みたいなんです。それ以外はなにをしても駄目なそうで……」

 

 魔法系の知識はまだ疎い彼女なりに、噛み砕いて理解していた事を伝える。だが下手に専門的な説明をされるより分かり易い。

 

『そうなのか? やっぱり管理局にデータが有ったんだな……それならはやてを起こす事さえ出来れば!』

 

 ゼロは得たりと、思わず拳を掌に打ち付けていた。

 

「どうするんですか? 誰かの邪魔が入ってるなら、呼び掛けても届かないんじゃ?」

 

 最もな疑問を浮かべるなのはに、ゼロは何事か決意したように拳を握る。

 

『1つだけ手が有る。俺自身を魔法プログラムに変えて、はやて達の中に入って妨害を遮り手助けするんだ!』

 

「そっ、そんな事出来るんですか!?」

 

 まだ疎いなのはでもそれがどんなにとんでもない事かは判る。変身魔法どころでは無い。

 だがそこはウルトラマンだ。量子コンピューターの如き頭脳を持つゼロは、魔法プログラムの大方を理解している。

 仕組みを理解出来れば、自身を魔法プログラムに変えて『闇の書』の中に潜る事が出来る筈だ。『ウルトラマンメビウス』が自らをデータに変えて、電脳空間に潜った時と同じイメージである。

 しかし危険な賭けだった。ぶっつけ本番で自らを魔法プログラム体に変えて侵入するなど、無茶を通り越して無謀な行為である。

 一歩間違えれば『闇の書』に飲み込まれるか、異物として消滅させられてしまうかもしれない。だがゼロの心は既に決まっていた。

 

「じゃあその間、あの人を抑えるのは任せてください、今度は私が恩返しする番ですね!」

 

 なのはは頼もし気に微笑し、レイジング・ハートを掲げて見せる。

 

『無茶だ! 無理する事はねえんだぞ!?』

 

 ゼロは反対するが、なのははその瞳に強い決意を込める。

 

「大事な人達なんですよね……? はやてちゃんもあの人も……見ていれば判ります……やらせてください! 私だってフェイトちゃん、はやてちゃんを、友達を助けたいんです!」

 

 この状況でニッコリ笑って見せた。無論怖くない訳など無い。だがなのはは大切な人達を助けたい想いと、泣いている『闇の書』を助けたいという想いが恐 怖を上回っていた。

 これが本当の勇気だ。勇気とは怖いもの知らずの事では無い。恐怖に耐え何事かを成そうとする心なのだ。ゼロは少女の心意気に心から感じ入る。

 

『分かった……やっぱり人間は凄えな……此処は任せるぜ。無理はするなよ、時間を稼いでくれれば良 い!』

 

「任せてください!」

 

 心を決めた超人と魔法少女は、『闇の書』に向かった。

 

 

 

 

 

 

 フェイトは穏やかな光の中で目を覚ました。ベッドに寝ている自分を自覚し困惑する。

 此処は何処だろうと隣を見ると、子犬アルフともう1人、金髪の少女がスヤスヤと眠っていた。

 

「えっ……?」

 

 フェイトは少女の顔を見て驚いた。自分より幼く見えるが瓜二つの容姿、フェイトのオリジナル『アリシア・テスタロッサ』であった。

 訳が判らない。混乱して辺りを見回すと、見覚えのある部屋だ。フェイトが以前に使っていた部屋そっくりだった。

 

「此処は……?」

 

 呟いた時、部屋のドアが軽やかな音を立ててノックされた。

 

「フェイト、アリシア、アルフ朝ですよ」

 

 泣きたい程懐かしい声が耳に入って来る。

 

「まさか……」

 

 驚愕するフェイトの隣で、もそもそとアリシアが起きる気配がする。そしてドアを開けて、ショートカットに山猫の耳と尻尾を生やした若い女性が入って来た。

 

「リニス……?」

 

 それは数年前に役目を終えて消滅した筈の女 性。フェイトの魔法の師でもあり親代わりでもあった、プレシアの使い魔『リニス』であった。

 

 

 

 

(……眠い……眠い…………)

 

 はやては繰り返し呟いていた。泥の中に沈むような強い睡魔が押し寄せる。彼女は上も下も分からぬ奇妙な闇が支配する空間で、1人車椅子にもたれ掛かっていた。

 全身の力が抜けて行く。はやてが抗い難い睡魔に身を任せ掛けていると、ふと人の気配を感じ閉じ掛けていた目を開けた。

 ぼんやりと霞む視界の中で、誰かが此方を見詰めているようだった。良く見ようと目を凝らすと、また睡魔が襲って来る。

 もう今が夢なのか現実なのかも判然としない。そんなはやての耳に、静かな透き通るような女性の声が聞こえた。

 

「そのままお休みを……我が主……貴女の望みは全て私が叶えます……」

 

 優しく懐かしいような、しかし哀しい響きの女性の声。

 

「……目を閉じて、心静かに夢を見てください……」

 

 視界がぼやけて行く。瞼が鉛のように重くなって行った……

 

 

 

 

 

 

 なのはは一気に上昇して『闇の書』の上空位置に着けると、素早く『エクセリオンバスター』を放った。 桜色の光の軌跡が『闇の書』を直撃する。

 彼女は特に避けるでもなく、エクセリオンバスターは触れる前に障壁で飛び散り軽く跳ね返されていた。全く通じていない。

 

「無駄だ……」

 

 反撃を食らわせようと再び右手を上げようとした『闇の書』は、何かに反応して紅い瞳を見開いた。ゼロが更に上空から突っ込んで来る。なのはの攻撃は囮だったのだ。

 

『待ってろおおおっ!!』

 

 ゼロは叫びながら『闇の書』をしっかりと抱き締めていた。

 

「排除……」

 

 彼女は攻撃魔法を発動させる。ゼロはそれでも離れず、今だ涙を流し続ける『闇の書』の顔を間近で見詰める。

 

『泣くな……』

 

 ひどく優しい声で囁いた。『闇の書』は一瞬だけ動きを止めるが、直ぐにゼロを冷たく見やる。

 

「排除……」

 

 無機質な声に従い、無数の真紅の刃がゼロの背後に出現する。だが彼は怯まない。その両眼が電圧を上げたようにカッと輝きを増した。

 

『今その涙を止めてやる!!』

 

「!?」

 

 『闇の書』を抱き締めていたゼロの身体が、目映い光を放った。身体が光となって行く。光は拡散し、全て彼女の中に吸い込まれるように消えて行った。

 

「プログラム内に異物侵入……抗体プログラム起動……」

 

 『闇の書』の無機質な声が響く。彼女の光彩の無い紅い瞳が鈍く光を放った。

 

 

 

 

 

 

『うわあああああああぁぁぁぁぁっ!?』

 

 ゼロは渦巻く闇の激流に翻弄され、暗黒の渦の中を木の葉のように流されていた。渦は悪意あるもののように、ゼロの魔法プログラムと化した身体を苛む。

 ウィルスと判断されて排除行動に出ているのだ。闇に身体が侵食されて行く。意識が遠くなり掛けた。

 

『負けてたまるかあああっ!!』

 

 気力を振り絞って闇の渦を跳ね除ける。濁流のような抗体プログラムは一旦ゼロから離れるが、急激な目眩を覚えた。

 

『うっ!?』

 

 『闇の書』の防衛機能に気を取られている隙に、何かが精神に入り込んで来る。

 

(しまった!? 妨害を仕掛けてる奴に……)

 

 気付いた時には遅かった。濃密な闇のようなものが心の中を侵食する。ゼロの意識は、奈落に落ち込むように遠のいてしまった。

 

 

 

 

 

 その世界には光が在った。目映いばかりの光が溢れる世界。空も大地も暖かな光で満ちている。

 磨き上げられたクリスタルのように光を反射する巨大な建築物。その中を行き交う赤や銀、青い身体をした人々。ゼロが育った『光の国』 であった。

 

(何故俺は此処に……? 何時戻って来たんだ……?)

 

 ぼんやりと辺りを見回すゼロは、戻って来た理由を思い出そうとするが、頭に霞がかかったように何も浮かんではこない。

 行き交う人々の中、ゼロが茫然とその場に立ち尽くしていると声を掛けて来る者がいる。

 

『ゼロ、何をボーッとしてるんだ?』

 

 聞き覚えの有る懐かしい声にハッとして振り返ると、シルバー族に近い姿をした幼い少年が立っていた。

 銀色の割合が多い身体だが、1つだけ他のウルトラ族と違う部分が有る。目が宝石のエメラルドのように静かな緑の輝きを放っていた。

 

『カインッ!?』

 

 ゼロは思わず叫んでいた。忘れられないその姿は親友だった少年そのものであった。

 

『おかしな奴だなあ……何をビックリしてるんだよ?』

 

 カインはクスクスと可笑しそうに肩を揺らすと、ゼロの手を取り引く。何時の間にかゼロ自身も子供の姿になっていた。

 

『早く行こうよ、ゼロの父さんだって待ってるよ』

 

『親父が……?』

 

 セブンが父が待っている。ゼロは言われるがままに着いて行こうとするが、不意にその脚が止まっていた。

 

『どうしたんだよゼロ?』

 

 動こうとしない友人に、カインは不思議そうに問い掛ける。ゼロは俯き無言のままだ。肩が震えていた。

 

『どうしたっていうんだ……?』

 

 心配して顔を覗き込む友人に、ゼロはようやく顔を上げるとひどく悲しげに相手の顔を見詰めた。

 

『……俺は親父がセブンである事をこの時知らなかった……そしてカイン……お前は既に死んだ筈だ……死んでるんだよ……!』

 

 血を吐くような悲痛な叫び。ゼロは正気を取り戻していた。それほどまでに親友を喪った衝撃が大きかったのだ。精神攻撃を破る程に。

 フラッシュバックするカインの最期。どうして忘れられようか。それを生きているように見せ掛ける。親友への冒涜以外の何物でも無い。

 ゼロが正気に還ると周りの光景はグニャリと歪に歪み、再び渦巻く闇の激流の中に居る自分を自覚した。

 

(危ない所だった……書の攻撃に乗じて、敵からの精神攻撃を受けたのか……)

 

 これで追い払ったと思いきや、

 

《ゼロ……》

 

 親友の声が、闇の渦から誘うように聞こえて来る。

 

《良いじゃないか……辛い事もみんな忘れても……》

 

《安らかに眠ればいい……皆と一緒に……》

 

『黙れえええええええっ!!』

 

 ゼロは怒りのあまり叫んでいた。周りを覆おうとする闇の渦が弾かれたように離れる。

 

『忘れろだと!? 夢だと!? ふざけるな!! そんな軽いもんじゃねえんだよおおっ!!』

 

 気迫に押されたように、渦が潮が引くように更に後退する。ゼロは背後に居る筈の本当の敵に向かって叫んでいた。

 

『貴様の思い通りには、絶対にさせねえ!!』

 

 すると親友の声に代わり、闇の奥から嘲笑う得体の知れない声が響いて来た。

 

《お前に何が出来る……? 俺の干渉を絶てたとしても、お前にはそれ以上の事は出来ない……八神はやてが目覚めぬ今の状態では、何れお前も力尽きる……人は弱い……手にしたかったものを与えられて、それを手放せる者など居ない……ウルトラマンゼロ……お前は此処で八神はやて達と共に、永遠の眠りに就くのだ……》

 

『貴様! 人間の底力を舐めんじゃねえ!!』

 

 反論するゼロに再び闇の渦がまとわり付く。キリがない。遂に身動きが取れなくなってしまう。 このままではじり貧だと判断したゼロは、ある事を決意した。

 魔法プログラム体のゼロの身体の一部が光となって拡散して行く。光は二手に別れ渦をすり抜けて行く。

 

(今の俺に出来る事は、敵の影響を遮断するくらいだ……フェイトもう少し頑張れ! はやて後は自分の力で目覚めるんだ! お前なら出来る!)

 

 ゼロは襲い来る攻撃に耐え、少女達をひたすら信じた。

 

 

 

 

 空中で激しくぶつかり合う2つの光。なのはと『闇の書』の激闘は続いていた。舞台は市街地を離れ海上に移っている。

 なのはは圧倒的な『闇の書』の力に押されていた。体力も魔力の消耗も激しいが退く気は無い。此処が正念場であった。

 全ての攻撃を弾かれ、海に叩き込まれながらもなのはは敢然と立ち上がる。立ち向かいながらも『アースラ』に状況を送り、戦闘を海上に移した事と市街地の火災鎮火を頼んだ。

 結界内とはいえ、暴走の火柱は放って置くと現実世界にも影響をもたらしてしまう。

 

《それと今闇の書さんの中に、ウルトラマンさんが助ける為に飛び込んでます。だからもう少しやらせてください!》

 

 なのはは現状を報せると再び『闇の書』に立ち向かう。報告を受けたリンディは直ぐに災害担当の局員を向かわせた。

 無理はしないでと言いたかったが、なのはの気迫の前にリンディはそれを言えなかった。ため息を吐くしか無い。本局との連絡が取れない今、なのは達に賭けるしか無かった。しかし不吉な予感がする。

 

(どうも嫌な感じがするわ……)

 

 リンディは呟き、手にした『アルカンシェル』の起動キーを見詰めた。

 

 

 

 

 

 

「……私の……本当の……望み……?」

 

 はやては睡魔が襲う中でぼんやり考えていた。このまま眠ってはいけないと、心の何処かが訴えている気がする。

 

(私が……欲しかった……幸せ……)

 

 目の前の女性が、眠りに誘うように優しく囁き掛ける。

 

「健康な身体……愛する者達との、ずっと続いて行く暮らし……」

 

(……そう……なんかな……?)

 

 上手く思考が纏まらない。本当にそうなのかすら思い出せなかった。優しい声が心地好く頭に響く。

 

「眠ってください……そうすれば夢の中で貴女 は……ずっとそんな世界に居られます……」

 

 溶けるように周りの闇が姿を消し、気が付くとはやては自宅のリビングに立っていた。

 

(私……自分の足で立っとる……?)

 

 ぼんやりと床をしっかりと踏み締める両足を見て思った。すると、

 

「はやて、のんびりしてると学校に遅れてまうよ?」

 

 懐かしい声に振り返ると、亡くなった筈の母がキッチンで朝食の仕度をしながら、はやてに優しく微笑み掛けていた。その隣では、悪戦苦闘して仕度を手伝っているシャマルの姿も在る。

 

「もうシグナムさんもゼロ君もヴィータちゃんも、みんな食べ始めとるぞ。はやても早う食べてしまいなさい」

 

 食卓では亡くなった筈の父が朝刊を見ながら笑っている。そして一緒にゼロにシグナム、ヴィータが朝御飯をもりもり食べていた。

 

「はやて、早く早くっ」

 

 食欲旺盛にお代わりするヴィータが、顔にご飯粒をくっ付けたまま手招きしている。

 

「はやて遅刻するぞ。今日は学校のマラソン大会だろ? しっかり食っとかねえと倒れるぞ」

 

 ゼロもお代わりをしながら笑った。するとシグナムが判かってないとばかりに、

 

「はやてが後れを取る筈が無かろう? 1位を取れるか取れないかだ。すずかは強敵だからな……」

 

「そうだったな……」

 

 ゼロは頭を掻く。とても和やかな光景だった。和んでいると子犬ザフィーラがちょこちょこと寄って来る。はやてはザフィーラを抱き上げ、蒼いモフモフの毛並みを撫でてやった。

 

 無くしたと思ったもの全てが此処に在った。 ザフィーラを抱くはやての耳に、再び管制人格の女性の声が聞こえて来る。

 

《此処で何時までも……心穏やかにお過ごしください……辛い事も悲しい現実も無い永遠の夢を……》

 

 優しい声が子守唄のように、はやての思考を鈍化させて行く。心が夢の中に溶けて行く。だが……

 

(あれ……?)

 

 はやては身体の中に、何か温かいものが入って来るような気がした。

 

(この温かさ……覚えてる……これは……)

 

 そう思った時、何かのイメージが少女の中に流れ込んで来た。

 

 

 

 

 フェイトは穏やかな日差しの中アリシアと木陰に座り、目に鮮やかな雄大な風景をぼんやり眺めていた。

 見渡す限りの草原の上を白い雲がゆったりと流れ、優しい風が頬をふわりと撫でる。此処をフェイトはよく知っている。

 

 そうフェイトが目覚めた場所は『時の庭園』 に改造される前の、かつてテスタロッサ家が暮らしていた丘だった。

 目覚めた後リニスに連れて行かれたフェイトの前に現れたのは、アリシアの記憶通りの優しい母プレシアだった。困惑するフェイトをプレシアは招く。

 

「怖い夢を見たのね……? でももう大丈夫…… 母さんもリニスもアリシアも、みんなあなたの傍に居るわ……」

 

 優しくフェイトの頬に触れ微笑み掛けた。生前には決して無かった事だった。

 判っていた。プレシアは殺され、アリシアもリニスも既に亡くなっている。皆で過ごす事など有り得ない事だ。

 しかし皆との穏やかな暮らしは、フェイトがずっと欲しかった時間だった。プレシアの本当の心を知った今なら尚更……

 

 雨が降り出して来た。アリシアははしゃいでフェイトの隣に腰掛け、突然の雨を楽しんでいる。フェイトは雨にけぶる山々を見詰めながら、言わなければならない事をポツリと口にした。

 

「ねえ……アリシア……これは夢……なんだよね……?」

 

 出来れば口にしたくなかった。だがフェイトは敢えて問う。このまま夢の世界に身を委ねるには、大事なものが増え過ぎていた。

 

「…………」

 

 アリシアは無言だった。言っても無駄なのかもしれない。これは夢の中、このアリシアも自分の願望が作り出した幻に過ぎない筈。

 言葉を続けようとしたフェイトはふと、どんより曇った雨天が禍々しい気配を帯びた気がした。するとアリシアはおもむろにフェイトを見上げた。

 

「そうだよ……さすが私の妹だ……そう此処は闇の書が作り出した夢の中だよ……」

 

「アリシア……?」

 

 突然の大人びた台詞にハッとして、フェイトは傍らの小さな姉を見詰めた。アリシアは微笑んで妹を見上げる。

 

「ねえフェイト……母さんを酷い人だと思う……?」

 

 その質問にフェイトは、静かに首を横に振って見せた。その眼差しは確固たる光が在る。

 

「母さんは死んだ後でも私を悪魔から守ってくれた……そして最期に生きなさいと言ってくれた……私がこのまま夢の中に沈んでしまったら、母さんもアリシアもリニスも絶対に喜ばない……そうだよね?」

 

 アリシアは満足そうに頷いた。小さいながらもその仕草は、幼き妹を見守る姉そのものだった。

 

「うん……フェイトならそう言ってくれると思った……」

 

 微笑むと手を差し出す。その掌には、装飾品形態の『バルディッシュ』が載っている。フェイトは愛機を受け取りながらも、問わずにはいられなかった。

 

「何故……?」

 

 『闇の書』が作り出した夢の存在ならば、何故自分の手助けをしてくれるのか分からない。

 

「私はフェイトのお姉さんだもの……どんな事になってもお姉さんだよ……あの男の子が悪い奴から守る為に、フェイトに力を分けてくれてるんだよ……お陰で私はフェイトに会えた……」

 

「男の子……?」

 

「フェイトも感じるでしょう……?」

 

 アリシアはそう聞くとフェイトをふわりと抱き締めた。春の日溜まりの香りがする。

 フェイトはそこで言われた通り、優しく温かいものが何処からか流れ込んで来るのを感じた。以前からこの温かさを知っている。

 

「……ゼロ……さん……?」

 

 頭の中にある光景が浮かんだ。それは1人の少年の辿った道……一瞬流れ込んだ光景は直ぐに消えた。

 垣間見た映像にフェイトはキョロ キョロしてしまう。アリシアはそれを確認すると、満足そうに頷いていた。

 

「そういう事だよ……待ってるんでしょ? 優しくて強い子達が……」

 

「うん……行かなきゃ……」

 

 フェイトは別れを惜しんでアリシアを抱き締めた。夢などでは無く本当の姉のような気がした。知らぬ間に涙が溢れる。大きな妹の胸に顔を埋めながら、小さな姉は微笑んだ。

 

「じゃあ……行ってらっしゃいフェイト……」

 

「行ってきます……」

 

 フェイトはアリシアを抱き締め何度も頷いていた。

 

「フェイトには色々大変な事が待ってると思うけど……お姉ちゃんはずっと見守ってるからね……」

 

 穏やかに微笑み、アリシアは光となって消えて行く。天に帰って行くように……

 

「生きてる時でも、こんな風に居たかったな……」

 

 その言葉を最後に、アリシアはフェイトの腕の中からそよ風のように消えた。まだ優しい温もりが残っているようだった。

 

「アリシア……」

 

 フェイトは姉の名を呟く。ふと今のは夢や幻などでは無く、本当のアリシアが会いに来てくれたのではないかと思った……

 

 

 

 

 

 

 はやての前に在る温かな朝の団らん。失ったもの全てが其処に在った。

 両親もゼロも守護騎士達も全員が居る。自由に立って歩く事も出来た。 欠けるものの無い完璧な世界であった。泣きたい程懐かしいものが込み上げて来る。

 

(ほんまだったら、どんなにええんやろ……)

 

 だがはやてはゆっくりと首を拒絶の意味で振っていた。それは違うと。手をしっかりと握り締める。

 

「せやけど……これはただの夢や!」

 

 この世界はしょせん幻。自分しか居ない。満たされているように見えて、実は自分以外誰も存在しない空虚な独りきりの世界。ひとりの楽園に過ぎない。

 

 そして本当の彼が、今自分を信じて抗い続けている事を感じ取れた。

 はやての言葉と共に周りの温かな風景は泡のように崩れ去り、気が付くと再び闇の中に居る自分を自覚した。

 目の前には『管制人格』の女性が困惑した様子で立ち尽くしている。今のはやては全てを理解していた。『管制人格』の記憶を共有した事により、事のあらましを推理し悟る。

 

「私はこんなん望んで無い! あなたも同じ筈や、違うか?」

 

 はやては銀髪の彼女を見上げ、真摯に語り掛ける。管制人格は親愛の眼差しで主を見下ろし、哀しげに目を伏せ、

 

「私の心は騎士達の感情と深くリンクしていま す……だから騎士達と同じように私も貴女を愛おしく思っています……だからこそ……」

 

 そこで一旦言葉が途絶える。 

 

「貴女を殺してしまう自分自身が許せない……」

 

 深い絶望の言葉であった。はやては思う。彼女は永い刻の中、こんな想いを独りで背負って来たのだと。

 

「自分ではどうにもならない力の暴走……貴女を侵食する事も……暴走して貴女を喰らい尽くす事も止められない……」

 

 無力な己を呪う言葉。その言葉尻が震えていた。

 

「覚醒の時、あなたの事少しは分かったんよ……」

 

 はやては皆が来る以前の自分を思い返しながら、静かに語る。

 

「……望むように生きられん哀しさ……私にも少しは判る……シグナム達と一緒や……ずっと悲しい想い寂しい想いしてきた……」

 

 両親を亡くしてからの日々が頭を過った。身寄りも無い身で障害を抱え、親しい者も居らず心に壁を作り何時も寂しさと悲しさを抱えて来た孤独な自分……

 

「せやけど忘れたらあかん!」

 

 目を伏せていた『管制人格』は、主のしっかりとした意思の言葉に目を開けた。はやては車椅子から身を起こすと、彼女の頬に優しく触れる。

 

「あなたのマスターは今は私や……マスターの言う事は、ちゃんと聞かなあかんよ……?」

 

 真っ直ぐに『管制人格』を見詰めるはやての言葉は、命令するような高圧的なものでは無い。優しく子供に語り掛ける母親のそれであった。

 その足元に闇を照らす光る魔方陣が現れる。はやては光に照らされながら、跪く彼女の頬を諭すように両手で触れた。

 

「名前をあげる……もう闇の書だとか呪いの魔導書なんて言わせへん、私が呼ばせへん!」

 

『管制人格』の目から涙が溢れていた。はやては子供を慈しむように彼女に微笑む。

 

「私は管理者や……それが出来る……」

 

 しかし『管制人格』は追い詰められたように首を振った。

 

「無理です……自動防衛プログラムが止まりません……何より外部から正体不明の干渉を受けている為、私は満足に機能出来ない状態です……ゼロも管理局魔導師も戦っていますが、それも何時まで保つか……」

 

 絶望の声を漏らす。『闇の書』完成時に主が目覚めているのは改変されてから初めてだが、外部からの干渉が『管制人格』の活動を妨害していた。『闇の書』を押さえる事が出来ない。

 このままでは何れ、はやて共々暴走に巻き込まれてしまうだろう。しかし小さな主は頼もしささえ感じられる笑顔を浮かべた。

 

「大丈夫や……周りを見てんか……」

 

「……?」

 

『管制人格』は言われた通り、闇に閉ざされた空間を見てみる。すると無数の光が辺りで瞬いているではないか。その様子は闇夜を照らす夜空の星のようであった。

 

「これは……?」

 

 驚く彼女にはやては、一面の星空のような辺りを見上げ、

 

「ゼロ兄が干渉を防ぐ為に、私らに力を流してくれとるや……あなたも感じるやろ?」

 

「ああ……これは……」

 

『管制人格』は声を上げていた。温かな力強いものが身体に入って来るのを確かに感じ取れた。

 

《……目が……覚めたようだな……? 俺の声が……聞こえるか……?》

 

 同時に声が響き渡った。ゼロの声で間違いない。

 

「ゼロ兄ぃ、ちゃんと聞こえとるよっ」

 

 はやては声に喜色を滲ませて応えるが、ゼロの声が途切れ途切れで苦しそうな事に気付く。

 

「ゼロ兄、大丈夫なんか?」

 

《ちと……慣れてないもんでな……脱出するに は……はやて達の力が必要だ……外では……なのはが頑張ってる……頼む……!》

 

 ゼロはもう限界だった。魔法プログラムに変換した身体の一部を融合させ、はやて達を干渉波から守っていたがこれが手一杯だ。もう保ちそうに無い。

 

「任しといて、後は私が!」

 

 ゼロの状況を察したはやてが目を閉じると、足元の魔方陣が輝きを増した。彼女がやっているのだ。『闇の書』本体からコントロールを切り離す。

 魔法素人の筈のはやてだが、思考するだけでその作業が出来る。『管制人格』のお陰だ。何度もやって来たようにそれをやってのける。

 

「ゼロ兄ぃっ、魔導書本体とコントロールを切り離した!」

 

《判った……!》

 

 抗体プログラムの攻撃に耐えていたゼロは、最後の力を振り絞る。その身体が目映いばかりの光を放った。

 『ウルトラゼロレクター』闇を浄化する神秘の光。鮮烈な光が輝く恒星の如く闇を照らし出した。

 

 

 

 

 辺り一面が星空の如く瞬く空間。その中で跪く銀髪の女性に手を差し伸べる車椅子の少女は、一枚絵のように荘厳に見えた。はやては女性に語り掛ける。

 

「夜天の主の名において、汝に新たな名を送る……」

 

 それは以前から考えていたかのように、口から自然に発せられた。不思議とは思わなかった。既に無意識の内に決めていたのだろう。以前に意識の底で出会った時から……

 

「強く支える者……幸運を呼ぶ者……祝福のエー ル……『リインフォース』」

 

 その瞬間2人は白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 庭園に戻ったフェイトは、起動させたバルディッシュを構え静かに佇んでいた。周囲が光を放っている。内部空間が不安定になっているのだ。

 

《待たせたな、フェイト脱出を!》

 

 ゼロの声が直接心に語り掛ける。コクンと頷いたフェイトは、愛機に呼び掛けた。

 

「バルディッシュ、此処から出るよ……『ザンバーフォーム』行ける……?」

 

《Yes sar》

 

「良い子だ……」

 

 変わらず口数の少ない相棒にフェイトは微笑むと、バリアジャケットを纏いバルディッシュを振りかぶるように構えた。

 魔力カートリッジを連続して排出したバルディッシュの形が組み替えられ、フェイトの身の丈を遥かに超える巨大な電光の大剣を形成する。

 

「疾風迅雷! ジェット・ザンバアアアァァッ!!」

 

 電光の大剣が雷を纏い唸りを上げた。空間がガラスのようにひび割れる。それと共に空間が更に不安定になった。ここだとゼロは最大パワーを振り絞る。

 

『ウルトラゼロレクター全開っ! ウオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 ゼロの雄叫びに光が急速に拡大して行く。光は闇を祓い更に広がった。

 

 

 

 

 

 

「あっ……?」

 

 追い詰められていたなのは首を傾げた。後一歩でやられるという時、『闇の書』が急に動きを止めたからだ。

 上手く行ったのかと思ったが、まだ油断は出来ない。注意深く観察していると、不意に『闇の書』から強烈な光がほとばしった。

 

「何!?」

 

 あまりの光量に目を庇うなのはの目前で、光は更に拡大したかと思うと爆発したように一気に弾けた。

 光が収まったのを感じ、なのはが気配を感じて空を見上げると、宙に浮かぶフェイトの無事な姿が其処に在った。

 

「フェイトちゃん!」

 

「なのは……」

 

 フェイトはなのはに微笑み掛ける。丁度アルフもすずか達の安全を確保して来てくれた。

 

「あれは何だい?」

 

 アルフが空に浮かぶものを認めて警戒する。光が在った場所だ。其処には空中に浮かぶ光球が浮かんでいる。

 

「あれは大丈夫……それよりも……」

 

 フェイトは首を振り、海上を見るように促す。海鳴湾の沖合いに巨大な球体状の物体が出現していた。

 

 その内部で蒼黒い得体の知れないものがおぞましく這いずり回り蠢いていた。そして球体の周りから、異形の触手群が球体を守護するように海水をかき分けうねっている。

 『闇の書』の防衛プログラムそのものが形を成したものであった。改変された邪悪な部分の集合体が遂に実体化したのだ。

 

 

 

 光球の中でゼロは、ガクリと膝を着き踞っていた。人間大にも関わらず『カラータイマー』 が赤く点滅している。もうエネルギーはほとんど無い。

 そんなゼロの前に一糸まとわぬ姿のはやてと、『闇の書』では無い『夜天の魔導書』が浮かんでいた。

 

『はやて……』

 

 ゼロは状況が判らず、心配して声を掛ける。

 

《私は全然大丈夫やよ……今色々やっとる所や……》

 

 はやては目を閉じたままだが、ゼロの頭の中に彼女の思念通話が響く。問題は無いようだ。裸だが。

 

《管理者権限発動……防衛プログラムの進行に割り込みを掛けました……数分ですが、暴走までの遅延が出来ます……》

 

 管制人格……『リインフォース』の報告にはやては落ち着いた様子で微笑した。

 

《リンカーコア送還……守護騎士システム破損修復……》

 

 はやてから4色の光球が分離して行く。紫、真紅、緑、蒼の光球だ。

 

「おいで……私の騎士達……」

 

 はやての呼び掛けと共に周りの光球が輝きを増すと、突如として光の柱が天と海を貫いた。衝撃にフェイト達は目を瞑る。

 衝撃が去った後目を開けると、空中に光球を守護するように4つの光る魔方陣が浮かんでいた。

 魔方陣に立っているのはシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの4人だ。シグナムは静かに言葉を発する。

 

「我ら夜天の主の元に集いし騎士……」

 

 シャマルが続く。

 

「主在る限り、我らの魂尽きる事無し……」

 

 ザフィーラが紡ぐ。

 

「この命有る限り……我らは御身の元に在り……」

 

「我らが主……八神はやての名の元に……ウルトラマンゼロと共に主の元に在る事を誓う……」

 

 ヴィータが最後に誓いの言葉を発し、静かに目を開けた。復活した騎士達を、光球から出たゼロは呆けたように見上げる。

 

『お前ら……』

 

「ゼロのバカでけえ声が煩くて、おちおち死んでもいらんねえよ」

 

 ヴィータが悪戯っぽく笑い掛けた。

 

「まったくだ……」

 

 シグナムが同意して苦笑を浮かべる。シャマルはくすりと笑い。ザフィーラは微かに笑みを浮かべた。

 

『バカ野郎……心配掛けやがって……』

 

 ゼロが感極まっていると、光球がガラスのように割れた。中から黒いアンダースーツのような服を纏ったはやてが姿を現す。

 しっかりと見開かれ瞳が、透き通るマリンブルーの海のように変化していた。

 

『はやて……』

 

 ヨロヨロと辛うじて宙に浮かぶゼロに、はやてはニッコリ笑い掛けると、出現させた金色の杖を天に掲げた。

 

「夜天の光よ我が手に集え! 祝福の風リインフォース、セーット、アーップ!」

 

 杖の剣十字が輝き、はやての身体に黒と金を基調とした騎士甲冑が装着される。黒に映える白いジャケットに、綿帽子のような純白の帽子が亜麻色に変化した髪に被さった。

 6枚の漆黒の羽根を広げたはやては軽やかに舞い、ふわりと家族の中央に降り立つ。その姿は小さいながらも、解き放たれ空に羽ばたこうと羽根を広げる凛々しい若鳥のようであった。

 

「はやて……」

 

 その姿にヴィータは目を潤ませる。はやては何も言わず優しく微笑んだ。いたたまれなかったのかシグナムが、沈痛な面持ちで頭を下げる。

 

「すみません……」

 

 シャマルも申し訳無さそうに謝っていた。

 

「あの……はやてちゃん……私達……」

 

『悪かった……黙って蒐集やって……』

 

 ゼロも決まりが悪そうに謝り、ザフィーラも不忠の極みとばかりに頭を下げる。

 

「ええよ……みんな判ってる……皆が悪い事なんかしとらんて事は……リインフォースが教えてくれた……そやけど細かい事は後や、今は……」

 

 はやては反省しきりの全員を改めて見渡し、

 

「お帰り……みんな……」

 

 迷子を迎える慈母のように笑った。ヴィータは我慢仕切れず、泣きながらはやての胸に飛び込んでいた。

 

「はやてぇっ、はやてぇっ、はやてぇっ!」

 

 何度も名を呼ぶ小さな騎士を、はやてはしっかりと抱き締めた。守護騎士達は2人を温かく見守る。

 

(戻ってきた……)

 

 ゼロはその光景をひたすら感動して見入っていた。人間形態だったなら号泣していただろう。そこにフェイトとなのはが降りて来た。それに気付いたはやては顔を上げた。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃんもごめんな……色々惑わされて迷惑掛けてしもて……」

 

 謝罪するはやてに、なのはは首を横に振った。

 

「ううん……はやてちゃん達は悪くないよ」

 

「平気……助けて貰ったりもしたし……」

 

 フェイトは気にしてないと微笑んだ。穏やかな空気が流れる。様々な苦闘を乗り越え、ようやく此処まで辿り着いたのだ。感激もひとしおだった。

 

 その時である。巨岩が海に落下したように、派手な着水音が辺りに響き渡った。

 

『ウルトラマンネクサス!!』

 

 ゼロはハッとして叫んでいた。異様に蠢く防衛プログラムの前に盛大な水柱を上げ、『ウルトラマンネクサス』がその青い巨体を示していた。

 

「孤門……?」

 

 フェイトがネクサスに念話で連絡を取ろうとすると、不意に後ろから声がした。

 

「遅かったか!?」

 

 転移魔法の魔方陣が煌めく。誰かが封鎖領域内に転移して来たようだ。振り向くとその人物は良く見知った者達であった。

 

「クロノ!」

 

「ユーノ君!」

 

 フェイトとなのはは2人の名を発する。それは駆け付けたクロノとユーノであった。次に現れた人物を見て、ゼロはひどく驚いてしまう。

 

『メビウス!? ウルトラマンメビウスじゃねえかぁっ!!』

 

 ゼロが驚くのも無理は無い。クロノ達と共に現れたのは、ウルトラマンメビウスその人であった。

 

『メビウス何で此処に? どうやって来たんだ!?』

 

 驚きと嬉しさがない交ぜのゼロは、色々質問しようとするが、メビウス達が人を抱えている事に気付く。

 初老の外国人らしき男性と、猫耳に尻尾を生やした双子らしい若い女性達である。3人共怪我をし消耗しているようで、グッタリしているが意識は有るようだ。

 ゼロ達の困惑に応えるように、クロノは敵意を込めて海上に立つネクサスを指差した。

 

「騙されるな! 奴はウルトラマンなんかじゃ無い! ウルトラマンに成り済まし、影から全てを操っていた、奴こそが『ダークザギ』 だ!!」

 

『クククク……』

 

 クロノの衝撃的な暴露に声も無い中、静かにそびえ立つ青い巨人は含み嗤いを漏らした。

 さも可笑しくて堪らないと言うように肩を揺らす。揺れは大きくなり、遂には狂ったように天を仰ぎ両腕を広げた。

 

『フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』

 

 巨人の哄笑が暗い海に轟と響き渡る。それは正に悪魔の嗤いであった。

 

 

 

つづく

 




 はいそうです。今まで出ていた孤門……ウルトラマンネクサスは真っ赤な偽者です。ダークザギが化けていたのです。
 孤門は悪い事はしていないとは、そう言う意味です。本物の孤門は確かに悪い事はして無い事になる訳です。拙いですが、斜述トリックというやつでした。もう1つ斜述トリックが本編に有ったりします。

 ザギはノアのコピーなので、ネクサス形態やネクスト形態にもなれる筈と思いまして。
 今まで様々な箇所に伏線を入れてあったのです。設定ややり方がおかしかった部分は独自設定では無く、全て伏線でした。
 気になった方に質問されましたが、デュナミストの身体能力が上がる描写は無いのに、超人クラスのゼロに難なく着いていくなんてのは、暗黒適合者の能力の設定ですね。これも伏線でした。
 偽孤門の所を読み返してみると判ると思います。フェイトの素性を知った時は、明らかにダークザギとして話していますね。ザギの事情や本物のノア孤門に関しては次回で。
 そうなると、あの言葉をゼロに伝えたのは……

 次回『冥王-ダークザギ-』
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