『モロボシ・ダン』は『ギル・グレアム』に案内され、ある人物達の元を訪れようとしていた。本局の近未来的な造りの通路を歩きながら、ダンは此処に来る前のグレアムとのやり取りを思い返す。
「伝説の3提督ですか……? その方々に逢わせたいと……?」
「はい……時空管理局黎明期を支えた功労者です。今は一線を退き、名誉職に就かれ権限はほとんどありませんが、提督達を慕う者は大勢います。影響力は今でも馬鹿に出来ません……」
そこでグレアムは一旦言葉を切った。ダンが不安に感じたのではないかと思ったのであろう。グレアムは微笑し、
「ご心配は要りません……何より信頼が置ける人達です。大局的なものの見方が出来る上に、人として尊敬出来る方達です。私などいまだに坊や扱いですよ……今後の為にも是非提督達の協力が必要です」
「分かりました……グレアム提督お願いします……」
ダンは笑みを浮かべて快諾した。ウルトラ戦士は一度信じた相手を最後まで信じるのみ。甘いと言われようが、それがモロボシ・ダン『ウルトラセブン』ウルトラ戦士の矜持だ。
思い返している内に2人は、提督達が待つ部屋の前に着いていた。ドアが微かな音を立てて自動で開く。
伝説の3提督。一体どんな人物達なのか。ダンはグレアムと共に、部屋の中へと足を踏み入れた。
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「しっ師匠っ!? ウルトラマンレオッ!!」
ゼロは『ウルトラマンレオ』こと『おおとりゲン』との思わぬ再会に声を上げていた。まさか街中でバッタリ会うなどとは思ってもみない。
「何をしているのだゼロ……? 何処かへ行く所か……?」
動じる事無く淡々と聞いてくるゲンに、ゼロは何とか気を取り直す。
「ああ……ちょっとなのはとフェイトん所に、挨拶回りに行く所だ……”親父に言われてな”」
必要以上に親父に言われて、の部分を強調するのは照れ隠しである。
「そうか……それは感心な事だなゼロ……」
ゲンの精悍な表情が柔らかいものになっていた。微笑したのだ。一見取っ付き難そうなイメージだが、笑うと意外に人懐っこい感じである。
「だっ、だから親父に言われてだって……」
ゼロは照れ隠しで、ゴニョゴニョ言い訳をしている。相変わらず素直では無い。ツンデレなゼロは置いておき、リインフォースはゲンに 深々と頭を下げる。
「これはレオ殿……その姿の時はおおとりゲン殿でしたね……? 先日はお世話になりました……」
「お久し振りです、ゲン殿……今日は此方にご用でしょうか……?」
子犬ザフィーラも頭を下げ、その可愛らしい姿に似合わぬ渋い声で尋ねてみる。
「リインフォースにザフィーラ……2人共元気そうだな……私はリンディ提督に渡す物と話が有るのでやって来たのだ……」
「話……?」
何の用事だろうと思うゼロに、ゲンは編み笠を被り直す。
「色々とな……丁度いい、同行させて貰うぞ……ゼロ案内してくれ」
道案内を頼まれてしまったゼロの額から、ダラダラと脂汗が流れ落ちていた……
「ゼロ……お前は少しそのせっかちな所を治せ……! だから詰まらん事で道に迷うのだ……」
「……へい……」
結局道に迷った事を白状させられたゼロは、ゲンから説教(本日2回目)を受けた後、通り掛かったお婆さんに道を聞いて、ようやく翠屋に向かう事になった。
これでやっと目的地に着けると、胸を撫で下ろすリインフォースとザフィーラである。
*
今度は無事翠屋に着いたゼロ一行は、なのはと店に居た両親、士郎と桃子に挨拶をしてお土産を渡す事が出来た。
「これは向こうで買った土産だ。みんなで食べてくれ」
「わああっ、ありがとうございますゼロさんっ」
なのはは喜んでお土産を受け取り、ペコリと頭を下げた。するとゼロは困った顔をし、
「さん付けは止めろって……人間に換算すると、クロノとたいして変わらねえんだし、呼び捨てで構わねえぞ?」
敬語を使われるのは性に合わないのだ。なのはは少し考える。
「さすがに呼び捨ても何ですから……間を取ってクロノ君と同じく、ゼロ君と言う事で?」
「君か……さん付けよりはマシかあ……」
なのはは生粋の日本人なので、年上を呼び捨てにするのは抵抗があるのだろう。ゼロはそれで良いかと納得する事にした。彼にとっては尊敬されるより、友達扱いの方が気楽である。
話がついた所でなのはの両親、高町士郎、桃子夫妻が色々と話し掛けて来た。ゼロは当たり障りのない話をしておく。
2人共魔法については既に聞いているようだが、ゼロの正体に関しては流石に秘密である。 両親はゼロの事も魔導師だと思っているようだ。
「高町なのは……この間は迷惑を掛けた……改めてお礼を言わせてくれ……」
「いえ、そんな気にしないでくださいよ……それより身体の方はいいんですか?」
リインフォースとなのはは、ほのぼのとしたやり取りをしている。ゼロはその光景を見て目を細めた。
そんな自分を、おおとりゲンが微笑ましそうに見ているのに気付いていない。ゲンにしてみれば、あの荒くれ者が……と感慨深いものがあるのだろう。
一通りの挨拶を終えたゼロは、翠屋の中を改めて見渡してみた。小綺麗な店で客の数も多い。海鳴市でも指折りの人気店なのだ。女性客の方が多いのは当然か。
「そうか……前にすずかが持って来てくた美味いケーキは、なのはん家のケーキだったんだな……」
ゼロは意外な縁に不思議なものを感じた。前にすずかがお土産にと、翠屋のケーキを持って来た事があるのだ。
(それならせっかく来たんだ、みんなにケーキを買っていってやろう……)
即決したゼロが、勇んでケーキ売り場に向かった時である。見知った顔を見付けた。
「あれ……? 恭也? 恭也じゃねえか?」
「おおっ? ゼロ、ゼロじゃないか!」
レジに立つ店のエプロン姿の青年もゼロに気付き、『ミラーナイト』そっくりな声で応えた。大学生くらいの凛々しい黒髪の青年、なのはの兄高町恭也である。
「えっ? お兄ちゃんゼロさ……君の事知ってるの?」
なのはは驚いたようだ。ゼロは恭也の苗字か高町なのを思い出した。兄妹とは思わなかったのである。あまり似てなかったので。なのはは母親似で、恭也は父親似のようだ。
『冥王事件』でずっとゴタゴタしていたので、会うのは久し振りである。つい話し込んでしまった。なのはと話し終わったリインは、恭也が仕事に戻ったのを見計らいゼロに尋ねてみる。
「ゼロ……高町なのはの家族と見知った仲だったのか……?」
「ああ、前にトレーニング中に知り合ってな……前に本とかDVDをくれた奴だ」
「本……?」
リインははて……? という顔をする。その時外で待っていた子犬ザフィーラが、ゼロに念話を送って来た。
《ゼロ……その事は他の者には絶対に話すな…… 絶対にだ!》
《おっ、おう……?》
珍しく強い調子で念を押すザフィーラの勢いに押され、ゼロは素直に頷いた。
ザフィーラは以前のようなアホ騒ぎが繰り返されないように、特に念入りに口止めしておくのであった。 あの時はたまたま寝ていたリインは、訳が判らずキョトンとするばかりである。
*
翠屋を後にしたゼロ達は、引き続き直ぐ近くのリンディ達が住むマンションに向かった。事件も終わったので引き払ったと思いきや、引き続き住んでいるそうだ。どうやらこのまま、この世界に住む事にするらしい。
ゼロがインターフォンを鳴らし来訪を告げると、ドタドタと誰かが凄い勢いで走ってくる気配がする。続いてガチャリとドアが開かれ、金髪頭が物凄い勢いで飛び出して来た。
「ゼロさんっ、帰って来たんですね!」
フェイトである。その足許から子犬フォームアルフが、ピョコンッと頭を出した。
「おっ、おうっ、今朝帰ったところだ……」
ゼロはフェイトの反応に少々ビックリしながらも、片手を挙げて挨拶をしておいた。
広々としたリビングに通されたゼロ達は、リンディにフェイトにアルフ、それにたまたま帰っていたクロノに迎えられていた。
「これ……親父に言われて……どうぞ土産です……」
少々ぎこちないながらも、ゼロはリンディにお土産の紙袋を手渡した。
「まあまあ、わざわざありがとうございます。今お茶を煎れるから座っていてくださいね」
早速リンディはお茶の用意をしてきた。急須に湯飲み茶碗、本格的な日本茶のようだ。
「すいませんね……おおとりさん達が日本に住んでいた事があるなんて知らなかったもので、この間は紅茶を出してしまいましたが、今日はちゃんとした日本茶ですよ」
リンディはうきうきした様子でお茶を湯飲みに注いで行く。中々手慣れた手付きだ。日本マニアの提督にとっては、知識を生かせるチャンスとでも思っているのだろう。
それだけなら良かったのだが、一緒に置かれ た砂糖壷とミルクを見て、ゼロとゲンは首を傾げた。
「さあ、どうぞ……」
リンディは満面の笑顔で自分のお茶に、さも当然のように砂糖をスプーンで山盛りにしてたっぷり入れ、ミルクも投入するとかき混ぜて美味しそうに飲み始める。
ゼロは此方の日本では、緑茶に砂糖を入れる地方が有るのだろうか? と記憶を辿ってみたが覚えが無い。秘〇の県民ショーでも見た事が無かった。
ゲンなら知っているかと、隣に座っている師匠に視線を向けると、微妙な顔をしている。どうやらあれは間違った飲み方だと察する事が出来たが、リンディはとても美味しそうに飲 んでいる。
ゲンは何か言いたそうな顔をしたが、あまりにリンディが幸せそうにしているものだからスルーする事にしたらしい。黙ってお茶を飲み出した。
ゼロも確か外国ではそういう飲み方もあった筈と自分に言い聞かせ、お茶を頂く事にする。 人それぞれである。お茶を男らしくグイッと飲み干したゲンは、早速用事を口にした。
「『ダークザギ』の置き土産のゲートですが……1つの通路のようなものでは無く、無数に枝分かれした蟻の巣のようなものらしいです……見付け次第封鎖作業を行っていますが、とても追いきれないのが現状です……」
「そうですか……此方も技術部が解析に掛かっていますが、そう簡単にはいかないようで す……」
リンディも管理局の状況をかい摘まんで伝える。やはりザギの置き土産は相当に厄介なようだ。まだ怪獣こそ現れていないが、何か起こるのは時間の問題であろう。ゲンは頷いた。
「『光の国』で話し合った結果……ゼロと私を含め、数名のウルトラ戦士を此方に派遣する事になりました……」
「助かります……ダンさんも3提督と逢われたそうで……提督達も快く協力を承知してくれたそうです……」
リンディは微笑を浮かべた。向こうもそんなに余裕が有る訳でもないだろうに、戦力を出してくれた事に感謝する。クロノも感謝の意を示す。
「今までの怪獣の戦力を鑑みると、魔導師だけではどれぐらいの被害が出るか判りませんからね……」
今まで見てきた怪獣に対する分析を元に、冷静な感想を述べている。クロノ達やヴォルケンリッターのように強力な魔導師は貴重なのだ。
歩兵レベルの一般魔導師だけで無策に怪獣に当たる事態になったら、相当な犠牲が出るか全滅は免れない。そこでゼロが横から口を挟んだ。
「レオ、そんなに要るかよ? 俺と皆が居れば大丈夫じゃねえのか?」
ゼロは不服そうだ。歴代のウルトラマン達は大体単独で地球防衛の任に就いてきた。自分達だけに任せられないのが不満なのだ。するとゲンは鋭い眼光でゼロを見、未熟者とばかりに返した。
「向こうで聞いて来なかったのか? 管理世界は数十は在る。お前1人でカバー出来るものでは無い!」
「数十ぅっ!?」
ピシャリと言われゼロは驚いてしまった。しかも管理外世界でもゲートが観測された所もある。実質もう少し多くなると思われた。
ウルトラ戦士はそちらも放って置く事は出来ない。 自分の迂闊さに凹んでいるゼロに、ゲンは語気を若干緩める。
「ただ……次元世界では人類より上、もしくは同等それ以下の知的生命体は存在しないらしい……つまり異星人は存在しない、だから侵略宇宙人の心配は要らないそうだ……」
「そうかあ……此方の世界には異星人は居ないのか……」
ゼロは驚いている。あれだけ異星人が居る世界から来たので意外だったのだ。だが次元世界では当然かもしれない。
同等かそれ以上の異星人が『M78ワールド』 のように無数に存在していたら、星間戦争や接触、交渉などでとても他の次元世界にまで手が回らないだろう。
次元世界では、異星人より別次元の人間の方が身近なのだ。
ゼロはその事を理解し頭を掻いた。急いで帰って来た為、その辺りのデータを受け取るのを忘れていたのだ。やはりどんなに強くとも若すぎるので抜けている。
そんな弟子を横目にゲンは、懐からCD状の記録ディスクを取り出しリンディ達に渡した。
「これは過去から現在までに向こうで現れた、怪獣宇宙人の全データです……彼方の地球防衛組織のドキュメントデータを参考にしていますので、活用してください……」
「助かります……」
クロノは受け取って頭を下げた。ちゃんと管理局の規格に合わせたものである。
「情報は強力な武器になります……とても有りがたい……」
クロノは情報の重要性をちゃんと判っているようだ。これから局員が怪獣と遭遇する可能性が高い今、とても心強い。
「クロノ君は年齢に合わず、しっかりしてるな……流石一線で執務官を勤めているだけの事はある……ゼロも見習う事だな……?」
ゲンは感心すると共に、からかい半分でゼロに話を振った。ゼロはムキになって突っ掛かるかと思いきや、
「大きなお世話と言いたい所だけどよ……そうだな、俺なんかよりずっと、しっかりしてるんじゃねえか?」
「よっ、止してくれっ?」
素直に認めるゼロにクロノは慌てた。ゲンも冗談半分だっただけに意外そうだ。ゼロは神妙な顔をクロノに向ける。
「話は聞いているよ……ヴォルケンリッターの皆が過去の罪を問われなかったのは、クロノ達が奔走してくれたお陰だってな……感謝する……本当にありがとう……」
深々と頭を下げた。リインと子犬ザフィーラも感謝して頭を下げる。状況によっては罰せられていた可能性も有ったのだ。
根回しや交渉事に考えも及ばないゼロには、クロノ達の交渉能力は尊敬に値した。口が悪かろうが態度が悪かろうが、やはりウルトラマンであるゼロは受けた恩には素直に感謝する。
クロノは照れてしまったようだ。しきりに咳払いをして誤魔化そうとしている。ゼロはやはりこの少年は良い奴だと微笑ましくなった。
小難しい話も終わり、一同は一息吐いた。リインは改めてフェイト達にお礼を述べる。リンディとクロノは、ゲンに向こうの世界の事などを聞いていた。そんな中、子犬アルフが尻尾をパ タパタさせてゼロに近寄った。
「ゼロ、お土産貰うよ」
「おうっ、どんどん開けろよ」
屈託無く応じるゼロの言葉に甘え、アルフは少女形態になると、早速お土産袋を抱え上げる。
「ちょっ、ちょっとアルフ……」
フェイトは恥ずかしそうに注意するが、アルフは満面の笑みで返すとお土産袋を広げた。目星を付けていたお肉のレーションパックや、 ビーフジャーキーを取り出しご満悦である。
「もう……アルフったら……」
フェイトが顔を真っ赤にしてぶつぶつ呟いていると、ゼロがもう1つの包みを開けて中から縫いぐるみを取り出した。
「これどうだ? 結構フェイトに合ってると思ったから買ってきたんだが……」
「えっ? 私に……?」
フェイトは目を輝かせて縫いぐるみを受け取った。黄色い体にアンテナ状の目、三頭身くらいにデフォルメされた『エレキング』の縫いぐるみである。
「あ、ありがとうございますっ」
フェイトは頬を染め、縫いぐるみを大事に抱き締めた。ゼロはそんなに嬉しかったのかと微笑ましくなる。
「こいつは放電怪獣でな……フェイトと同じく電気を武器に戦うんだ。親父ともやり合った奴もいるが……俺の仲間の『レイ』と一緒に、仲間として悪党と戦った奴もいるぞ」
「うっ、嬉しいです……大事にします……ゼロさんありがとうございます」
フェイトは宝物のように縫いぐるみを抱えて頭を下げる。喜んでいる彼女を見てゼロは、何とも言えない表情をした。
「さん付けはもういいって……フェイトはクロノ達もシグナムも呼び捨てじゃねえか……俺の事もゼロでいいって」
「えっ? ええええっ!?」
ひどく動揺するフェイトをゼロは不思議に思 う。さっきなのはに言った事と、同じ事を言っただけなのにと。
「呼び捨て……呼び捨て……呼び捨て……」
フェイトは見事にテンパってしまっていた。ゼロは何の気なしなのだが、本人にはおおごとである。俯いてぶつぶつ呟いていると、
《フェイト、ファイトだよ!!》
お土産のジャーキーをムシャムシャ食べている、アルフからの激励の念話である。
《判ったよアルフ……私がんばるよ!》
奮い立ったフェイトは気合いを入れた。不思議そうにしているゼロをしっかりと見上げる。両の拳にググッと力を込めた。勇気を振り絞り、小猿のように顔を真っ赤にしていざ口を開く。
「ゼヒョッ!」
思いっきり噛んだ……
*
結構話し込んでしまい、いい時間になっていた。ゼロ達はそろそろ帰る事にする。 壁に向かって何かぶつぶつ呟いているフェイ トにも別れを告げ、ハラオウン家をおいとました。
表に出て編み笠を被るゲンに、ゼロは少々照れ臭そうに話し掛けた。
「レオ……その……何だ……家に寄って行けよ……はやて達も喜ぶだろうし……」
「そうだな……行けたら寄らせて貰おう……今は少し見て回りたいからな……」
応えるゲンの目に懐かしさが浮かんでいるようだった。並行世界とは言え、地球の土を踏んだのは久し振りだ。色々と感慨深いものが有るのだろう。
「判ったよ……仕方ねえな……じゃあ来れたらでいい……」
ゼロはぶっきらぼうに言うが、来て欲しいのがバレバレであった。ちょっと拗ねている。ゲンもそんな弟子の性格は心得ていて、詰まらなそうにしているゼロの肩をポンッと叩いた。
「夜遅くならない内に、必ず寄らせて貰おう……」
温かな微笑を浮かべると、風のように歩き去って 行った。ゲンの後ろ姿を見送るゼロの足が、今にも跳 び跳ねそうになっているのを見て、リインと子犬ザフィーラは微笑ましくなる。
何だかんだ言っても、師匠のウルトラマンレオの事を尊敬しているゼロであった。
*
「うん……はやてちゃん順調よ、凄い回復力だ わ……」
海鳴大学病院の診察室。白衣の女医石田先生は、検査結果のカルテを見て少々驚きながら も、目の前の少女に笑い掛けた。
「はいっ、ありがとうございます」
少女はやては満面の笑顔である。一緒に話を聞いているシグナム、ヴィータ、シャマルも嬉しそうだ。
医者に驚かれる程の回復力。元々『リンカーコア』の侵食以外に悪い所は無かった上に、ゼロの『メディカルパワー』を受け続けたお陰で、回復力がMAXになっているらしい。
後は弱っていた筋力を取り戻せば、歩けるようになるのもそう遠くはないだろう。石田先生は妙に嬉しそうなはやて達を見て、その理由に思い当たった。
「その様子だと、ゼロ君外国から帰って来たようね?」
「えっ、何で判ったんですか? まさか先生エスパー?」
驚くはやてに石田先生は、笑って彼女の鼻先を指差した。
「そんな嬉しそうな顔してたら、直ぐ判るわよ? ヴィータちゃん達もね?」
余程態度に出ていたようだ。後ろでヴィータはそ知らぬ顔をして誤魔化し、シグナムはゲフンゲフンと噎せてしまい、シャマルは照れている。
ちなみにゼロは、父親の居る南米に行った事になっている。はやては苦笑し、
「ゼロ兄、ちょう今日は用事があって来れませんけど、明日にはお土産持って挨拶に来るそうですから」
「気を使わなくてもいいのに……でも楽しみにしてるわ」
嬉しそうな石田先生を見てはやては、あのお土産だと変に思われないか少し心配になった。
病院を後にしたはやて達は、早速買い出しにスーパーマーケットに向かった。もうお正月はとっくに過ぎているので、お節料理に使える材料はあまり売っていない。
「まあ……足りない分はうちで手作りすればええやろ……」
真剣な目付きで材料を吟味するはやてである。ゼロからメールで、ゲンも来るのは既に聞いている。気合いが入るというものだ。そこにシャマルが、何かのパックを持って来た。
「はやてちゃん、タラバ蟹が安くなってますよ。半額です!」
してやったりな顔である。すっかり主婦が板に付いて来たようだ。(料理は除く……)
「おっ、意外な掘り出しもんやね。それも買っとこ。手作りマヨネーズで食べると美味しいんよ」
シャマルに食べ方を教えていると、ヴィータが大き目の箱を抱えて来た。
「はやて~、せっかくだから、この大きいアイスケーキ買っていこうよ?」
「お前は……自分が食べたいだけだろうが?」
シグナムが呆れ顔でたしなめる。するとはやてはヴィータにニッコリ笑い掛けた。
「ヴィータせっかくやから、そんなんよりサー 〇ィワンでアイスケーキ買っていこか?」
「やったぁっ、はやて太っ腹っ!」
小躍りしそうな勢いのヴィータを、微笑ましく眺めるはやてである。シグナムもシャマルも苦笑した。
はやてはちょっと思い付いた事があり、皆から少し離れ調味料コーナーに車椅子を進める。目的のものを探していると、ふと視線を感じた。
何気なく振り返ると、商品棚の角に女性が1人立っている。若い二十歳前程に見える小柄な女性だった。
(車椅子の私が珍しいんやろか……?)
車椅子に乗っていると、たまに奇異の目で見て来る人間が居る。慣れてはいるが、あまり気持ちの良いものでは無い。
そういった不躾(ぶしつけ)な輩の類いだろうと思ったはやては目を逸らそうとしたが、そこで妙な事に気付いた。
(えっ……?)
その女性が自分にひどく似ていたからである。灰色がかったショートカットに、はやてと同じ×形の黒い髪止めをしている。まるではやてを成長させたような女性であった。
ただし、その物腰や目付きは温和なものでは無い。不遜に腕を組み、ひどく刺々しい目で此方を睨んでいるようだ。そしてその瞳には、敵意と暗い感情が込められている気がした。
(誰や……?)
無論そんな女性に心当たりは無い。自分には親戚もいないのだ。確かめようと目を凝らすと、その姿は煙のように消えていた。
「主はやて……どうかなさいましたか……?」
キョロキョロ辺りを見回すはやてに、シグナムが声を掛けて来る。我に還ったはやては頭を振った。
(たまたま似とる人を見掛けて、勘違いしただけやったんかな……?)
はやてはそう自分を納得させる事にした。それが一番有りそうな事ではある。
「何でもあらへんよ……見間違いや」
はやては心配するシグナムに笑い掛けると、再び材料の吟味に掛かった。少し引っ掛かるものを感じたが……
*
修行僧姿のおおとりゲンは、静かに街外れの小道を歩いていた。人家もまばらで木々が生い茂る穏やかな小道である。
そろそろ日も傾いて来た。編み笠から覗くゲンの目に、懐かしさが浮かんでいるようだ。
『M78ワールド』の地球人類は既に広く宇宙に進出し、飛躍的な進歩を遂げている。もうこのような街並みは地球には残っていない。
レオが、おおとりゲンとして暮らしていた時代の地球に近いこの世界は、彼にとって郷愁を誘うものであった。
土や緑、アスファルトに生活の匂い。聴こえてくる音ですら懐かしい。スポーツセンターで働いていた頃 や、下宿していた時の事が思い出された。
(あの頃のようだな……)
遥か昔を思い返し感慨に浸るゲンは、枯れ草の匂いのする道をゆったり歩く。しかし一見隙だらけに見えても、その足取りに一分の隙も無い。
しばらくゆったりと景色を眺めていたゲンだが、ふとあるものに目を止めた。道脇の枯れ草だらけの空き地で、子供が何かゴソゴソやっている。
近寄ってみると、青い髪をツインテールに括った女の子が探し物をしているようだ。
「無いなあ……欠片……ああまぁ……何だっけか……?」
妙な事を呟きながら枯れ木をかき分けたり、キョロキョロ下を見て回っている。その少女の横顔に見覚えがあったゲンは、声を掛けていた。
「フェイト・テスタロッサか……?」
すると聞き付けた青い髪の少女は、枯れ草を頭に載っけたまま立ち上がった。
「僕はヘイトなんて名前じゃないぞぉっ!」
羽織っていた黒いコートの裾を、見得を切るようにバサッと広げ大袈裟なポーズを取った。
つづく
次回『どろまみれ男ひとりや』