夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

82 / 105
第75話 女だ燃えろや!

 

 

 

 

 小さなゼロを見送ったはやては、しばらく彼が消えた虚空を見上げていた。まだ温もりが残っている気がする。何時もとは逆だなとはやては微笑した。

 するとリインフォースがそっと、ハンカチを差し た。 はやてはそこで自分の顔に、涙の跡がくっきり残っているのに気付く。

 

「ありがとうなリインフォース……みっともないなあ、アハハッ」

 

 恥ずかしいやら決まりが悪いやらで、顔を赤らめてハンカチを受け取った。ヴィータが心配そうに彼女を見上げている。

 守護騎士達の前では強く在ろうと思っているはやてだが、つい涙を見せてしまい反省してしまう。気負い過ぎな性格は変えようが無いらしい。

 照れ隠しで冗談めかしながら顔を拭っていると、此方に接近して来る者が居た。

 

「また思念体か!?」

 

 ヴィータは即攻撃出来るように『グラーフ・アイゼン』を構える。 今の幼ゼロのように、自分で消えて行ったのは稀であろう。

 基本思念体は、過去の記憶に引きずられ襲って来る。 緑系統の服の女性が此方に飛んで来るのが見えた。シャマルらしいが……

 

「騙されねえぞっ!」

 

 鉄槌の騎士は即座に飛び出していた。アイゼンを振りかぶって、シャマルらしき女性に襲い掛かる。するとシャマル? は大慌てで両手をパタパタ振った。

 

「ヴィータちゃん? ストップストップッ! 私本物だから!」

 

「嘘吐けぇっ!」

 

 ヴィータは聞く耳持たないと、アイゼンを降り下ろそうとするが、

 

「ちょい待ち、ヴィータッ!」

 

 はやてが制止を掛けた。流石にヴィータはその手を止める。アイゼンはシャマル?の数センチ出前でピタリと停止していた。

 夜天の主は、焦りまくりで冷や汗をかいているシャマル?に尋ねてみる。

 

「シャマル、昨日の煮物にお砂糖何杯入れた?」

 

「ええと…… 山盛り10杯ですけど……?」

 

「隠し味は?」

 

「オレンジジュースを少々……」

 

 シャマル?は困惑した様子ながらも素直に答えた。はやてはうんうん納得したように頷く。

 

「ヨッシャ、本物や」

 

「うん、本物だ。知らないで食べて、甘いしオレンジの香りはキツいし……ウゲッと思ったもんなあ……」

 

「この微妙な味覚感覚…… 間違いなく本人ですね……」

 

 ヴィータとリインフォースも、とても納得顔で頷いていた。

 

「ちょっとお~っ、非道くないですかああっ!?」

 

 シャマルはヨヨヨとばかりに涙目になってしまう。はやては笑って近付くと彼女の肩をポンと叩いた。

 

「アハハ、堪忍な? どうも反応が解り辛くてなあ……」

 

 ゼロなら魔法反応の有無で直ぐ判るのだが、魔力持ちだと思念体と区別がつき辛い場合が有る。はやては近くでシャマルを見て、騎士服が汚れているのに気付いた。

 

「シャマルも思念体と出会したんか?」

 

 シャマルは深々とため息を吐く。

 

「それが…… なのはちゃんに始まり、よりによって、テスタロッサちゃんやシグナムの思念体と次々と出会しちゃいまして……」

 

 相当運が悪かったようである。

 

「良く切り抜けられたなあ……」

 

 はやては感心した。補助に特化したシャマル が、次々と強敵を破った事になる。湖の騎士はそこで苦笑いを浮かべた。

 

「不意討ちと騙し討ちで何とか…… 流石にシグナムの時は逃げました…… 瞳孔は開いていてるし、何か辻斬りみたいになってて凄く怖かったので……」

 

 本人に言ったら怒られそうである。何にせよ、それでも大したものだ。

 シャマルには持って来ていたお茶を飲ませて一息着かせると、はやては改めて辺りを見下ろした。

 

「さて…… 次は何処に行こか…… あれ? アースラからや」

 

 コールに気付いて空間モニターを開くと、エイミィから新しく判明した事の連絡だった。はやて達にそっくりな3人マテリアルの情報などを聞かされる。それにもう一つ……

 

「『アーマードダークネス』…… そんなに不味い物なんですか……?」

 

 シグナム達から連絡を受け、早速アースラに入力されたデータベースで検索したようだ。

 

《正直…… これってすごく不味い物らしいよ……》

 

 モニター上のエイミィの表情にも緊張の色が浮かんでいる。

 『アーマードダークネス』皇帝の鎧。 恐るべき力と勢力を誇った『エンペラ星人』の為に鋳造された暗黒の鎧。何度破壊されても、暗黒の力が有る限り滅ぶ事は無い。

 

 その力は恐るべきものがあり、危険度はトップクラスに属する事などを聞かされた。一通りの情報を仕入れたはやては通信を終え、額に指を当てて情報を整理してみる。

 

「う~ん……そのディアーチェ達言うんが、アーマードを集めとるんか……?」

 

 どうも釈然としない。どうして『闇の書の闇』の残滓が、『アーマードダークネス』の事を知っているのか? 頭を悩ませる主に、リインフォースが提案を出した。

 

「主…… まずはその構造体達を見付けましょう……私が反応の強い場所を捜して来ます。主は少し休息を…… 判り次第報告しますので……」

 

「平気やよ? まだまだ行けるて」

 

 小さくガッツポーズして見せるはやてだが、リインは切れ長の目を細めて微苦笑した。

 

「これから何が起こるか解りません…… いざという時の為に力を温存するのは基本ですよ……?」

 

「う~ん…… 先生のリインにそない言われた ら、しゃあないなあ……」

 

 はやては納得する事にした。リインはヴィータとシャマルをチラリと見る。

 

「ではヴィータ、シャマル、主を頼んだぞ……」

 

 一言言い残し6枚の漆黒の羽根を広げると、暗い空に飛び出した。

 その後ろ姿を見送ったはやては、再び情報の整理と、それを元に状況の推理を試みる。闇雲に捜しても時間を浪費するだけだと思った。この辺り小学生とは思えない。

 

 考え込むはやての隣りで、ヴィータは無言でリインフォースの飛び去った方向を見ていたが、何か決心したようで、

 

「はやて、アタシも行って来る。シャマル、はやてを頼む!」

 

 リインの後を追って飛び出した。シグナム達ももう直ぐ合流する。はやてに危険は無いだろうと判断したのだ。

 

「がんばってなあ~っ」

 

 ヴィータが勇気を出したのを察し、はやてはエールのつもりで後ろ姿に声を掛ける。ヴィータのは照れ臭そうに手を振ると、紅い魔法光を纏い飛び出した。

 

 

 

 

 先に飛び出したリインフォースは、一際強い反応を示す残滓を捉えていた。恐らく大元の基体が其処に居る筈だと判断する。その事を敢えて黙って、彼女は1人其処へ向かおうとしているのだ。

 

(やはり過去は何処までも追って来る…… 逃れられないのが運命ならば…… )

 

 その瞳に暗い陰が差す。後にチラリと視線をやった。今は高層ビルに遮られて、はやて達の姿はもう見えない。

 

「主……申し訳ありません……みんな…… 主の事を…… 後は頼む……」

 

 リインフォースは悲壮な表情を浮かべ頭を深々と下げると、ある決意を胸に目的地へと飛行速度を速めた。

 

 

 

 

 

 

「ぷはあ~っ、やっと着いたあ~っ」

 

 シグナム達の追跡を逃れ、アジトにしている結界に戻った『レ ヴィ・ザ・スラッシャー』は大きく息を吐いていた。

 

「レヴィ…… 後を着けられてはいないでしょうね……?」

 

 同じく戻っていた『シュテル・ザ・デストラクター』が起伏の乏しい声で確認する。

 

「大丈夫だよ! 僕に抜かりは無いっ!」

 

 レヴィは腰に手を当て得意気に断言した。 『アーマードダークネス』を落っことしそうになった事は、もう忘れる事にしたようだ。シュテルは意味無く自信満々の少女を見詰める。

 

「まさかとは思いますが…… 『アーマードダークネス』の事をウッカリ洩らしたりはしてませんよね……?」

 

 シュテルの質問に、レヴィは少し遠くを見詰める。しばらくそうしていたが、あっ、という表情をした。

 

「ゴメン…… 喋っちゃった……」

 

 てへ、と舌を出して可愛らしく頭をコツンと叩く。シュテルはやっぱり…… とため息を吐いた。すると、あまり悪びれていないレヴィの背後からにょきっと手が伸び、その頭に両拳が当てられていた。

 

「王さま?」

 

「王…… お帰りになられましたか……」

 

 レヴィとシュテルが気付いてそれぞれ声を掛ける。『ロード・ディアーチェ』である。こちらもゼロが戦っている間にまんまと逃げおおせたようだ。

 ディアーチェの頭に青筋が浮いていた。レヴィの頭に当てた拳に力を込める。

 

「た・わ・け! 何がバラしちゃっただ!!」

 

 レヴィの頭を拳でグリングリン小突いてやる。これは痛い。

 

「痛い痛い痛い痛いっ!? ごめんごめん、王さまああっ!!」

 

 思いっきりお仕置きされてしまい、レヴィは半泣きで悲鳴を上げていた。

 

 

 

「うう~、ごめんなさい~……」

 

 涙目でしょんぼり反省するレヴィを横目に、シュテルは相変わらずの無表情でディアーチェに真剣な眼差しを向ける。

 

「王……これは急がないと……」

 

「むう……後どれくらい欠片が有れば良いのか……? ええい! あの女何処へ行きおった!?」

 

 ディアーチェは辺りを見回し、苛立って声を荒げる。戻ってみればあの別世界の自分と名乗った女の姿は無かった。ディアーチェがプンスカ憤慨していると、

 

「後一つも有れば良い……」

 

 気が付くと直ぐ後ろにあの女が立っていた。ディアーチェはビックリしてしまったが、それを誤魔化すようにふんぞり反る。

 

「ええい、何処へ行っておった!? こちらは色々大変だったのだぞ!」

 

「フフフ……少し仕掛けを施しにな……」

 

「仕掛けだと……? 何をするつもりだ?」

 

 気を取り直したディアーチェの横柄な問い掛けに、女は黒い杖『ギガバトルナイザー』を掲げて見せる。

 

「此処の発見を遅らせる為の陽動と、まずは夜天の主の大事な存在を一つ壊してやろうと思ってな……」

 

 ひどく陰惨な笑みを浮かべる。正直ディアーチェ達は背筋が寒くなる気がした。一体どんな想いを胸に溜め込めば、こんな嗤い方が出来るのか……

 

「う、うぬは子鴉(こがらす) に何か怨みでも有るのか……?」

 

 名状しがたい憎しみが含まれている気がしたディアーチェは、内心恐る恐るだが横柄に問うてみる。

 

「我には……八神はやてという存在そのものに虫酸が走る……それだけだ……」

 

 女は般若の如き表情で低く返す。その暗い瞳に底知れぬ闇がぐねぐねと蠢いているようであった。身を刺すような鬼気の前に、3人はしばし言葉を無くす。

 

「うぬらも人、塵芥(ちりあくた) 共の醜さ汚さは書の中で嫌という程見て来たであろう……? 塵がどうなろうが知った事ではあるまい……?」

 

 女は汚物を語るように吐き捨てた。語るも汚らわしいと言った感情が見え隠れしているようだった。

 

「むう……確かに……所詮は下郎、塵芥だが……」

 

 ディアーチェは眉をしかめる。そこまでの憎しみは無いが、人間を信じるつもりも無いようだ。女はそんなディアーチェに頷き掛ける。

 

「些末な事より、『アーマードダークネス』は後僅かで残りを呼び集めるまでになろう…… 王よ急げ……」

 

「言われなくとも判っておるわ! 行くぞ、 シュテル、レヴィ! 最後の仕上げだ!」

 

「はい……王よ……」

 

「任せてよ、王さま!」

 

 シュテルとレヴィは、ディアーチェの後に続く。王の号令の元、結界を出たマテリアルは最後の破片を求めて、夜のとばりが降りた海鳴市に飛び出した。

 その途中レヴィはふと、常人には知覚する事すら出来ない結界を振り返る。

 

「あの大きい王さま……すごく恐いや……」

 

 ポツリと呟いた。シュテルはレヴィの素直な感想に頷き、先頭を行くディアーチェに話し掛ける。

 

「王……私も何か、悪い予感がします……」

 

「ふっ……この間も言ったであろう? あやつが何を企もうが、逆に打ち砕いてやるまでの事よ! 我ら3人に勝てはせん!」

 

 自信満々のディアーチェの断言にシュテルは頷くが、用心深い彼女は最後の土壇場まで気を抜かないようにと、気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

「此方か……」

 

 はやて達と別れたリインフォースは、結界が張られた海鳴湾上空に到着していた。闇の残滓の反応を辿って、此処まで来たのである。

 強力な反応であった。今までとは比べ物にならない程の欠片の反応に、リインフォースは表情を厳しくする。同じものであった彼女にしか分からない。

 

(核を叩く事が出来れば、後は私が核となり残りの欠片を呼び集めて……)

 

 中心部に向かって飛び出そうとした時だ。不意に前方に人影が現れた。はやてに瓜二つの少女ロード・ディアーチェ、闇統べる王であった。

 

「寄りにもよって何という姿を……お前が闇の書の闇の構造体か……? 私の邪魔をするつもりか……!?」

 

 リインフォースは憤慨し拳を構える。物静かな彼女でも、大切な主を冒涜された気がしたのだ。ディアーチェは無言でデバイスを構え、行く手を阻む。

 

「闇の書の復活などさせない……私がこの身に代えても阻止してみせる……!」

 

 リインフォースの周りに、魔力で精製された真紅の短剣数本が展開されると同時に、一斉にディアーチェに向け発射された。 『ブラッディーダガー』の連続投擲。

 しかしディアーチェも、魔力の短剣を展開し刃を迎撃する。2人の間で、ぶつかり合った魔力が爆発を起 こす。残煙の中ディアーチェは眉一つ動かさず、不遜に此方をを見下ろしている。

 

「くっ…!」

 

 リインフォースは歯噛みすると、畳み掛けるように砲撃魔法を放つ。レーザー状の闇色の光がディアーチェを襲うが、彼女はその場を動かず紫天の書を眼前に付き出した。

 

「王の威光……」

 

 砲撃が広げられた書の前にかき消されてしまう。リインフォースは攻撃が無効化されたのを見て、間を開けずに次の攻めに入ろうとするが、

 

「はっ!?」

 

 紫色のリングに上半身を拘束されてしまって いた。脱出しようと魔力を込めると、突如身体を貫くような衝撃がリインフォースを襲う。

 

「うあああああっ!?」

 

 相手を捕らえた後に、更にダメージを与えるバインド攻撃だ。 リインフォースは力を振り絞って、拘束を砕き後方に退がる。その肩が上下していた。呼吸が荒い。

 

「やはり……まだ回復しきってはいないか……」

 

 リインフォースの額に汗が浮いていた。ゆっくりと自己修復が働いているとは言え、防衛プログラムを切り離してからそれほど時間は経っていない。

 魔力を使っただけで、どんどん体力を削られて行く。長期戦は不利であった。ここでやられる訳には行かない。欠片の中枢に辿り着くまでは。しかしこの状況はジリ貧であった。

 

「このままでは……」

 

 焦るリインフォースの前で、ディアーチェはニヤリと嗤うと杖状のデバイスを掲げた。此方の不調はお見通しのようだ。

 

「くっ……」

 

 不味いとリインフォースが思ったその時、紅い光がディアーチェ目掛けて飛来した。魔力弾による攻撃だ。王は攻撃を弾き一旦後方に退がる。

 

「だらしねえぞ!」

 

「ヴィータ……!?」

 

 リインフォースは攻撃主を見て声を上げた。 『グラーフ・アイゼン』を不遜に肩に載せて宙に浮かぶ、深紅の騎士服の少女ヴィータであった。

 

「お前は本調子じゃねえんだ! 邪魔だから、すっこんでろ!」

 

 にべも無い言葉とは裏腹に、リインフォースを庇ってディアーチェの前に立ち塞がる。リインはその後ろ姿を呆気に取られたように見ていたが、

 

「済まないが……此処は頼む…… 私は中枢部を叩く!」

 

「あっ、馬鹿っ!?」

 

 ヴィータの制止を振り払い、リインフォースは反応の中心に向かう。高速飛行で沖合いに出た彼女の瞳に、海上に浮かぶ人影が入った。

 

「やはり……」

 

 六枚の漆黒の翼を広げる女性は、リインフォースと瓜二つであった。

 

「お前が中枢の構成体、マテリアルだな……?」

 

 リインフォースの問い掛けに、相手は切れ長の目を細めニヤリと嗤って見せた。

 

 

 

 

 ヴィータを襲うディアーチェの砲撃魔法の嵐。紅の鉄騎は飛び回って砲撃をかわす。外れた砲撃が海面に着弾し、爆発したように水飛沫が上がった。

 

(離れたら不味い、近付いてぶっ叩かないと……)

 

 はやてを元にしただけあって、向こうは遠距離攻撃に長けているようだ。砲撃の撃ち合いでは不利である。それに今は完全に頭を押さえられた形だ。

 ヴィータは古代ベルカ式には珍しく、誘導弾で遠距離攻撃に対応出来るが、やはり本領は接近戦による一撃必殺戦法だ。

 

 ディアーチェは不気味な程に無言のまま、 次々と砲撃魔法を繰り出して来る。ヴィータは海面すれすれを飛び攻撃を避けながら、魔力附与した鉄球を打ち出す。

 しかし攻撃は、ディアーチェの防御壁に全て跳ね返されてしまった。

 

「クソッ!」

 

 ヴィータは的を絞らせないように、ジグザグに動いて飛び出そうとする。すると不意に足元に魔法が発生した。

 ディアーチェが放ったものだ。小爆発が起こる。騎士甲冑で防ぎきれる。大した威力では無かったが、彼女の足止めには充分であった。

 ディアーチェの前面に、計5つの巨大な魔法陣が展開されていた。今の魔法はこの為の前段階だったのだ。

 

「出でよ巨重……ジャガーノート……!」

 

 ディアーチェの詠唱と共に、黒い砲撃魔法が海面上のヴィータ目掛けて発射された。 一発や二発では終わらない。大量の砲撃が撃ち込まれる。水飛沫が天高く舞い上がり、凄まじいばかりの魔力爆発が起こった。

 

「……」

 

 ディアーチェが無言で魔力爆発の残煙と、蒸発した海水の霧が立ち込める海上を見下ろした時だ。

 

「!?」

 

 不意に目の前に、飛び出して来る者が有った。

 

「アイゼン! カートリッジロード!」

 

《Jawohl!》

 

 アイゼンを振り上げるはヴィータである。砲撃の嵐をかい潜り、残煙の中密かに接近して来たのだ。

 カートリッジを吐き出し、変形したアイゼンが勢い良く推進剤を噴出させる。深紅の騎士甲冑姿が独楽の如く回転した。

 ディアーチェはデバイスを振り上げて迎え撃とうとするが、ヴィータの勢いはその上を行っていた。

 

「遅い! ラケーテン、ハンマァァァァッッ!!」

 

 アイゼンの強烈極まりない一撃が防御壁を打ち砕き、ディアーチェのボディーに炸裂した。 小石のように吹っ飛ばされた王は、悲鳴一つ上げず海面に派手な水飛沫を上げ叩き付けられる。

 

「ざまあ見ろ!!」

 

 はやてと似た姿を攻撃してしまった事の罪悪感を誤魔化すように、ヴィータは勝ち名乗りを上げた。

 海面に浮かぶディアーチェの体が光を放ち始める。その身体が光の粒子となって分解して行く。その様子にヴィータは違和感を感じた。ディアーチェの側に降下する。

 

「お前……構造体じゃ無いな?」

 

 消え掛けるディアーチェの気配が弱い。先程までは強い闇の気配がごっそり無くなっている。消え掛けているのを差し引いてもおかしかった。

 

「フハハハ……私は只の欠片よ……」

 

 海面に力無く浮かぶ欠片ディアーチェは不敵に嗤って見せる。

 

「何だと? どういう事だ!?」

 

 ヴィータの問いに欠片ディアーチェは、リインフォースが飛び去った方向に視線を向けた。

 

「……早く行った方が……良いかもしれんぞ……」

 

 謎の言葉を残し欠片ディアーチェは光となって消えたように見えた。

 

「どういう意味だ……? アイツに何か有るってのか…… ?」

 

 胸騒ぎを感じたヴィータは飛び上がり、リイ ンフォースの元へと向かう。その為消えた筈の欠片ディアーチェの異変に気付かなかった。

 

 

 

 

 リインフォースは、構造体リインフォースと激しくぶつかり合っていた。互いに同じ魔法に技術、ブラッディーダガーが激突し、レーザー状の砲撃魔法『ナイトメア』が飛び交う。

 一進一退の攻防だった。しかしリインは焦りを隠せない。構造体の方に消耗は見られないが、彼女の方は確実に体力を削られていた。

 

(何れ私の方が力尽きる……)

 

 それを見越してか、構造体リインは感情の欠けた光彩の無い瞳を向ける。

 

「壊れたその身ではもう保たないだろう……? 止めておく事だ……闇の宿命も果てしない呪いも終わらん……どこまでもお前を追って来る……

ウルトラマンと共に悪と戦ったとしても、それは消せるものではない……正義の味方にでもなった気がしていたのだろう……? だがそれは錯覚だ……」

 

「だろうな……そんな事は判っている……」

 

 リインフォースは一瞬、苦し気な表情を浮かべた。言われなくても百も承知だった。過去は無かった事には出来ない。

 

「ならば帰って来い……心も何もかも無くしてしまえば楽になる……」

 

 構造体は誘うように招く。リインフォースは思う。以前の自分ならそう思っていただろうと。だが今は……

 

「断る!」

 

 リインフォースは、今使えるだけの魔力を全開にした。後先考えないフルパワーだ。足元に展開された魔法陣から、闇色の光が構造体へと伸びて行く。

 

「終わらない呪いを、宿命をこの手で断ち切る! 我らが主達の未来の為、私はその礎(いしずえ)となろう! 来よ、夜の帳(とばり)!」

 

 リインフォースは光のレールで加速し、真っ正面から構造体に突っ込んだ。振り上げた拳が光を放つ。

 

「馬鹿め……壊れた身で私に勝てるか……!」

 

 構造体は魔力の短剣を纏めて投擲した。8本の刃がリインフォースを阻もうと高速で飛来する。しかし彼女は避けない。まともに被弾しても構わず構造体に迫る。

 

「何のつもりだ……?」

 

 構造体リインは続けて砲撃魔法を次々と放つ。それでもリインフォースは避けない。羽根の一部が切り裂かれ、騎士甲冑が裂ける。額から鮮血が飛び散った。

 

「自ら命を断つつもりか!?」

 

 初めて構造体に焦りが見えた。リインフォースはまるで自分の身を守ろうとはしない。捨て身の特攻であった。構造体も同じく拳を構える。突撃するリインの拳に電光が走った。

 

「撃ち抜け……夜天の雷!!」

 

 繰り出した互いの拳が同時に激突し、轟音が鼓膜を打ち闇色のスパークが走る。競り勝ったリインフォースの拳が、見事に構造体の中心を捕らえていた。

 

「ば……馬鹿な……っ!? 壊れているお前の何処にこんな力がっ!? うわあああぁぁぁっ!!」

 

 構造体リインは断末魔の叫びを上げる。渾身の一撃を受けたその身体は、砕け散るように闇に消え去った。

 

「やった……」

 

 リインフォースは大きく息を吐いた。消耗で崩れ落ちそうになるのを堪え、額から流れる血を拭う。

 相打ち覚悟で放った攻撃で倒せたのは、正直意外だった。何処にあんな力が残っていたのだろうと思ったが、そんな訳は無い。前とは違うのだ。

 

 運が良かったのだろうと自分を納得させ呼吸を整えると、ある術式を発動させる用意をする。その足元に三角形の魔法陣が展開された。

 

「これで後は欠片をこの身に……」

 

 厳しい表情でそう呟いた時、

 

「何するつもりだ……?」

 

 ハッとリインフォースが振り向くと、息を切らしたヴィータが背後に浮かんでいた。全速力で駆け付けて来たらしい。リインは淋しげに苦笑を浮かべていた。

 

「構造体を止めてくれたな、ありがとうヴィー タ……後は私がやる。これでもう大丈夫だ……」

 

「何が大丈夫なんだよ……?」

 

 ヴィータの真剣な眼差しに、リインフォースは僅かに目を逸らした。

 

「闇の欠片達を集めて止める……私にしか出来ない……」

 

 ヴィータにはそれがどういう事なのか、容易に察する事が出来た。全ての欠片を自分の身体に集めて、道連れにするつもりなのだ。

 

「てめーの命と引き換えにしようってのか? 馬鹿言ってんじゃねえ!」

 

「仕方が無い……本来であれば私はあの時、闇の書の闇と共に消滅する筈だった……私は決めていたのだ……この命 、主達と罪滅ぼしの為だけに使うと……」

 

 それは助かって以来、ずっと彼女が抱えて来た想いだった。自分のような存在が生き続けて良い筈がないと……

 

「このまま欠片達がアーマードを完成させる事にでもなったら、闇の書と併せて大きな被害が出るだろう……今ならば闇の書の復活も、アーマードの完成も阻止出来る……」

 

 リインフォースは哀しげに目を閉じる。

 

「更には闇の書の本体であった私が居ると、今後そのせいで主達に不利益が生じる可能性も有る……今私が消える方がいいのだ……判るな……?」

 

「ふざけんな! そんな理屈解ってたまっかよ!!」

 

 ヴィータは激昂して怒鳴っていた。だがリイ ンフォースは、ゆっくりと首を横に振り儚げに微笑んでいた。

 

「我が力の殆どは主はやてが受け継いで下さっ た……それにヴィータ、お前は本当に強くなったし、何より優しくなった……見ていて判る…… ゼロも皆と居てくれる……これで私も心残り無く、安心して主を託して逝ける……」

 

「ふざけんなあああぁぁっ!!」

 

 ヴィータは力の限り叫んでいた。その目に光るものが見える。小さな騎士はリインフォースの胸ぐらを思いきり掴んでいた。

 

「何勝手に死のうとしてんだよ! 何1人で全部背負い込んでんだよ! そんな事してはやてが、みんなが喜ぶとでも思ってるのかよ!? せっかくゼロのお陰で助かった命を無駄にする気なら、あたしはお前を許さねえ! それは只逃げてるだけだ!!」

 

「私は……」

 

 戸惑い顔を背けようとするリインフォース を、ヴィータは正面からしっかり見上げた。心を落ち着けるように深呼吸をする。言う言葉は決まっていた。

 

「あたしは"リインフォース"に死んで欲しくない! リインフォースとみんなと一緒に生きて行きたい! 償いなら付き合ってやる! はやてもゼロも、シグナムもシャマルも、ザフィーラもみんなそうだ! そんな事も判んねえのかよ!?」

 

 抑えていた感情が一気に爆発したようだっ た。ギュッとリインの胸ぐらを掴んでいた手に力を込める。その手が震えていた。

 

「悪かった……リインフォースだって辛かったのに、みんなリインフォースのせいにして…… 馬鹿だったよ……だから、謝るから死んだりするんじゃねえよぉぉっ!!」

 

「ヴィータ……」

 

 ヴィータの掛け値なしのストートな気持ちだった。リインフォースは顔を胸に押し付け震える、小さな肩にそっと手を置く。

 

 改めて考えてみると、自分が思い詰めるあまり自縛に陥っていた事に気付く。言われた通り逃避に近い。 リインは己を恥じた。

 ヴィータが居なければ、安易に死を選んでいるところだった。感謝を込めて彼女の肩を抱いていた。

 

「済まない……私が浅はかだった……」

 

「……わ……判ればいいんだよ……」

 

 謝るリインフォースに、ヴィータはようやく顔を上げる。祝福の風の両眼から、はらはらと涙が流れていた。

 

「何泣いてんだよ……?」

 

 決まりが悪いヴィータのつっけんどんな言葉に、リインフォースは泣き笑いの表情を浮かべた。

 

「初めてヴィータが、私の名を呼んでくれたからな……」

 

「おっ、大袈裟に言うなよ……」

 

 そう返すものの、自分も涙ぐんでいる事に気付いたヴィータは、頬を真っ赤にして照れ臭そうに目をごしごし擦る。

 

(ゼロ……照れ臭いけど、ちゃんと言えたよ……)

 

 心の中でそっと報告した。二度とは出来そうに無い。急に恥ずかしさが押し寄せて来たヴィータが、しがみ付いていた手を離した時だった。

 

《もう少しで滑稽な自決を見れたというに…… 不粋な事をしてくれおったな……?》

 

 突然横柄な言葉使いの声が降って来た。はやての声に酷似している。リインとヴィータは、声のした上空に目を向けた。其処には消滅した筈の、構造体リインと欠片ディアーチェが浮かんでいた。

 

「馬鹿な? お前は確かに……!?」

 

「どういう事だ!?」

 

 予期せぬ出来事に身構える2人を、構造体は先程とはうって変わった尊大な態度で見下ろす。

 

《うぬら下郎にも理解し易いように言ってやるなら、その抜け殻が自滅する為に罠を仕掛けていたと言う事よ、アハハハハッ!》

 

 声も言葉使いもディアーチェのものだ。恐らく声の主は違う場所で此方をモニターしているのだろう。ヴィータは油断無く構造体を睨む。

 

「何だと!? だったら……」

 

《その通り……本物の構造体マテリアルは此処には居ない……更には……》

 

 不意に構造体リインと、欠片ディアーチェの形がグニャリと崩れた。それに呼応するように、海面からどろりとした金属の光沢を持つ物体が次々に飛び出す。

 物体は完全に不定形となった2人と融合し、数十メートルはある8本の巨大な槍を形成した。

 

「囲まれたか……」

 

「何だこれは!?」

 

 脱出する間も無くリインフォースとヴィータは、完全に浮遊する巨槍の包囲陣に取り囲まれていた。

 

《フフフ……こやつは面白い特性を持っておってな……変幻自在な上、自ら学んで進化する事が出来る……魔法を学習したこやつが構造体達に擬態していた訳よ……貴様らを片付ける為にな!》

 

 それを合図に、巨槍が一斉にスパークを発した。凄まじいエネルギーだ。

 

《やれ、『金属生命体アパテー』……!》

 

 2人への死刑宣告を告げる、不吉な声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 険しい山中を駆けていたおおとりゲンは、異常な気配を感じ取り脚を止めた。

 

「あれは……?」

 

 見上げた夜空に、光の粒子が2つ地上に降下して来るのが見えた。光は見る見る内に巨大な物体を形成する。同時に異形の影が地響きを立てて、ゲンの目前の森に落下した。

 

 鋭い鳴き声が山中に木霊す。長い首に蠍(さそり)の如く節に別れた身体。鋭い刺が突き出ている良く似た姿の2匹の凶暴な姿。

 兄弟怪獣『ガロン』と『リットル』であった。

 

 

 

つづく

 




絶体絶命のリインとヴィータの運命は? そして兄弟怪獣を前に、ゲンの獅子の瞳が光を放つ。今こそウルトラマンレオ変身の時。

次回『勇者立つや』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。