夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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Portable編最終回です。


第82話 さよなら紫天一家太陽への旅立ちや★

 

 

 

「主……?」

 

 リインフォースは辺りを見渡してみる。しかしはやての姿は何処にも無い。

 

《主……? 我が主?》

 

 思念通話を試みても返事が無かった。リインは嫌な予感を覚える。消耗しているのを差し引いても、はやてが居なくなるのを気付かないのはおかしい。忽然と 消えてしまった事になる。

 

 そこに異変に気付いた、ウルトラマンゼロとシグナムが近付いて来た。他の者達は地上に降りている。

 シグナムはもしもの為に、応急処置でシャマルの回復魔法を受けて来たのだ。少しくらいなら戦闘も可能だろう。他の者も順次受けている最中である。

 

『リイン、どうした?』

 

「主はやては何処に?」

 

 リインは顔色を真っ青にし、ゼロとシグナムに訴えていた。

 

「ゼロッ、将! 主が、主が消えてしまった! 何処へ行かれたか知らないか!?」

 

『何だって!?』

 

「何だと!?」

 

 ゼロはテレパシー、シグナムも思念通話を送ってみるが、やはり応答は無い。他の者に聞いてもはやての姿を見た者は居ない。シグナムは焦るリインに、

 

「私とゼロとで主を捜す。お前は皆と合流しろ」

 

「将、私も!」

 

 リインは居ても立っても居られず、自分も着いて行こうとする。

 

「お前は今戦える状態ではない」

 

 シグナムがそれを諌める。リインはユーリとの戦闘で消耗しきっている。今短時間とは言え戦えるのは、ゼロとシグナムだけだ。 それでもまだ不安そうなリインに、ゼロは拳を掲げて見せる。

 

『リイン任せろ! 必ずはやては見付け出す!』

 

「判った……主を頼む……」

 

 足手まといな事を自覚したリインは承知した。今ははやての行方を捜す事が最優先だ。ゼロは超感覚を動員し周囲を探る。しかし何も反 応は無い。

 

(何処だ、はやて!?)

 

 ゼロは全感覚を極限まで研ぎ澄まし、はやての行方を追った。

 

 

 

 

 ディアーチェを成長させたような女が、薄闇が支配する異様な空間に傲然と浮かぶ。その後ろに、黒い破片群が出現していた。

 原型を留めていないが、巨大な人型状に異相空間を漂う破片を見てはやては目を見張る。

 

「アーマードダークネス!?」

 

 それはゼロとレオに砕かれた『アーマードダークネス』の破片群であった。飛び散る寸前に、爆発に紛れて転移したのであろう。

 はやては内心の動揺を押し隠し、破片群の上に女王然と浮かぶ女に問う。

 

「あなたが黒幕なんやね……?」

 

 状況は悪い。ユーリと戦った後で魔力はほとんど無い。更に逆ユニゾンの副作用か、身体に力が入らない。しかしはやては負けてたまるかと、穏やかな瞳に力を込めた。女は暗い瞳ではやてを一瞥する。

 

「ふんっ……強がるなよ……八神はやて……まあ良い……答えてやろう……その通りだ……」

 

 その冷たい声と、刺すような暗い感情の籠った眼に身がすくみそうになる。はやてはそれでも毅然と女に対峙した。

 

「それで……私をこんな所に呼び寄せて、どないするつもりですか?」

 

 はやての態度に女は一瞬鼻白んだようだった。怯えを見せない少女の反応が、面白くなかったのだろうか。だがそれも一瞬、女はあくまで不遜な態度を崩さない。

 

「少しうぬに挨拶でもしてやろうとな……光栄に思え……」

 

 だがそう言う言葉の端々に、刺すような悪意が感じられる。額面通りに受け取っていいものか。はやては助けが来るのを信じ、時間稼ぎの意味と疑問とで口を開いた。

 

「多分……あなたは、アックスの仲間なんやろ?」

 

「貴様如きが、主様を呼び捨てるか!!」

 

 女はいきなり激昂し怒鳴り付けた。叩き付けるような憤怒の感情に、はやてはビクリとして縮こまりそうになる。

 正直怖い。だが少女は怯まない。否、怯む訳には行かなかった。

 

「生憎……人を面白半分で殺そうとするような人に、使う必要を感じませんから……」

 

 それだけは譲れない。脅されても怖くても、外道におべっかを使うつもりは無かった。

 

「ふん……良い度胸だ……だがお前の考えなどお見通しだ……我がうぬに手を出さんと思っておるのだろう……? それ故余裕が有る……」

 

 女にはお見通しのようだ。確かにそう思っている。はやては話している間は手を出して来ない筈と、間隔を開けず自分の考えを口にした。

 

「否定はせえへん……多分あなたは、勝手にやっとる……違うか?」

 

「何故そう思う……?」

 

「やり口が違う……あなたの主は愉快犯を思わせるけど……あなたからは、違うものを感じる……そしてアックスは今までの行動や言動から、まだ私らに直接手を出すと考え辛い……」

 

 女の眉間に険しい皺が寄る。図星だったよう だ。アックスの配下が勝手に暴走しているのではないかとの読みは当たっていたようだ。

 だから状況を乗り越えれば、追撃の心配は少ないのではないかとはやては読んでいたのだ。女に詰まらなそうな不満そうな、複雑な表情が浮かぶ。

 

「確かに主様からうぬらに今、直接手を出す事は禁じられている……だがな……」

 

 その瞳に暗い感情と悪意が、ぐねぐねと渦を巻いたようだ。はやては背筋に氷でも突っ込まれ気がした。

 女が獲物を弄ぶようにゆったりと近付いて来る。その手がはやての前に翳された。

 

「命は取らなくとも、体の何処かを失わせる事くらいはするかもしれんぞ……? 例えば……うぬの眼球を抉り出すか……その顔を二目と見られぬくらいに醜く無惨に焼いてやるくらいは、主様も許して下さるくださるかもしれん……生きてさえいれば良いのとは思わんか……?」

 

「!」

 

 女の自分と同じ顔が、般若のように歪む。はやてはぞっとし危機を感じた。この女は理屈で動いているのではない。己の暗い感情のままに、自分を害しようとしている。

 何故か自分に強い憎しみを持っているようだった。それが何に起因する感情なのか、まだ今のはやてには判らない。

 

 女の掌に紫色の炎が燃え上がる。はやては動けない。何故か動く事がで出来なかった。不可視の力で何時の間にか身体を拘束されている。女は本気でやるつもりなのだ。

 

(ゼロ兄ぃっ! みんなっ!)

 

 家族の顔が脳裏に浮かぶ。顔の皮膚に火傷しそうな程の熱の輻射熱が当たった。思わず目を瞑ったその時だ。

 

『はやてええっ!!』

 

 聞き慣れた自分を呼ぶ声が異相空間に響き渡り、次の瞬間はやては逞しい腕に抱き上げられ、拘束から開放されていた。

 

『はやて、大丈夫かっ!?』

 

「ゼロ兄ぃっ!」

 

 はやては叫んでいた。思わず目頭が熱くなる。ウルトラマンゼロの雄々しい勇姿が直ぐ目の前に在った。

 逞しく温かなゼロの腕の中、安堵のあまり気が遠くなり掛けるのを辛うじて堪える。まだ敵は目の前なのだ。

 

「主はやて、ご無事で!?」

 

 その後から続く白い女騎士。シグナムも来てくれたのだ。後ろに退がった女に、流石に動揺の色が見える。

 

「何故此処が!?」

 

『お前が黒幕か!? 成る程、ディアーチェの言った通りそっくりだな。何か知らねえが、微かな反応を追って来たらビンゴだったようだぜ!』

 

 はやての無事を確認したゼロは、鋭い眼で女、大人ディアーチェを睨み付ける。

 

「馬鹿なっ!? この空間は完全に反応を遮る 筈……! ウルトラマンレオでも短時間なら欺ける筈が…… ちっ、鎧の長距離転移にはまだ時間が掛か る!」

 

 女にはこんなに早く居場所を特定された事が意外だったようだ。ゼロは得意気に啖呵を切る。

 

『判っちまったもんは仕方無えだろ! んっ!?』

 

 そこでゼロとシグナムは、『アーマードダークネス』の破片群に気付いた。

 

『道理で消滅の仕方がおかしかった訳だ。シグナム、止めを刺すぞ、今なら簡単だ!』

 

「承知っ! レヴァンティン、シュツルムファルケン行けるか!?」

 

《Jawohl!》

 

 レヴァンティンが頼もしく応える。シグナムは最後の魔力カートリッジを取り出し、ゼロははやてを下ろすと、巨大化しようとする。数十秒と保つまいが、必殺光線を一度なら撃てる筈だ。だが、

 

『何ぃっ!?』

 

「むっ!?」

 

 不意に辺りに炎の塊が降り注いだ。凄まじい熱と破壊力。超高熱の火炎弾とでも言うべきものだ。はやてを庇うゼロとシグナム。そして上空に攻撃主らしき、2つの人影が現れた。

 

『ウルトラセブンアックス!!』

 

 悠然と腕組みして宙に浮かぶは、ゼロに似た真紅の魔神『ウルトラセブンアックス』その人であった。

 もう1人はレヴァンティンと同型のデバイスを構えたシグナムそっくりの女だ。黒を基調とした騎士甲冑を纏っている。今の攻撃はこの女が放ったもののようだ。

 

「主様!?」

 

 何時の間にか大人ディアーチェは、アックスの小脇に抱えられていた。ゼロはアックスを睨み付ける。はやても傍らで2人を見上げた。

 シグナムは目の前に立ち塞がるように降り立った黒い女騎士に、レヴァンティンを向け対峙する。

 

「貴様!」

 

 烈火の将の凄絶な剣気を微風のように受け止め、黒騎士は平然と剣を仕舞うと無表情にシグナムを見る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「アーマードを回収するまで、少し待って貰おうか……?」

 

「そんな戯れ言、聞くと思っているのか!? 外道が!!」

 

 シグナムは燃え盛る戦意と共にレヴァンティンを正眼に構え、相手の黒い騎士甲冑姿を改めて見やった。

 

「黒い騎士甲冑か……外道の貴様に似合いだな!?」

 

「悪党なら黒だろうとの事だ……主が偽者遊びを繰り返すのは芸が無い。飽きたとの事だからな……安心しろ……もう偽者遊びは終いだ……」

 

「ぬけぬけと……!」

 

 あくまでアックスにとっては遊びらしい。そのふざけた理由は、清廉な女騎士の怒りに油を注いだ。お陰で自分達がどれ程苦しめられた事か。

 だが怒りよりもシグナムは、黒い女騎士にまずは問いたい事が有った。

 

「以前の我らと同じか!? 主故に外道に着き従うか!?」

 

 問わずにはいられなかった。すると黒シグナムは、心外だと言わんばかりに僅かに眉をひそめる。

 

「私は……自分の意思であの方に従っている…… 誰に強制された訳ではない……」

 

「何だと!?」

 

 シグナムはこの時黒い女騎士に、確かな感情の揺らぎを感じた。光彩の少ない瞳に、確かな光が灯ったようだ。

 

(命令のままに動いているのでは無い……?)

 

 シグナムは意外な答えに困惑を隠せない。何故あんな外道に、自らの意思で従うのか理解出来なかった。

 

「私に残されたものは、主しかないからな……」

 

「?」

 

 黒騎士はひどく物悲しげな自嘲を浮かべた。それは前に見た、形だけ口を動かしただけのものでは無い。決定的なものを喪失してしまった者の、最後の感情に思えた。

 ふとシグナムは、その最後の感情が判る気がした。何故かは判らない。

 

「貴様……やはり並行世界の私なのか!?」

 

「想像に任せよう……同じシグナムでは紛らわしいか……? そうだな……私の事は『シグナム・ユーベル』とでも呼んで貰おうか……?」

 

 黒シグナム、シグナム・ユーベルは、自嘲気味に口の端を上げそう名乗った。

 

「ユーベルだと……?」

 

 ベルカの言葉で、害悪、悪、災いだ。魔神ウルトラセブンアックスに従う彼女に相応しい名だった。ユーベルは悠然と素手のまま、愛刀を構えるシグナムを眺める。

 

「少しはましになったか……?」

 

「修行の成果見せてやろう!」

 

 挑発的な台詞にシグナムはレヴァンティンを炎と化し、全感覚を研ぎ澄ましてシグナム・ ユーベルとの間合いを詰めた。

 

 

 

 

『アックス、やっぱり貴様の仕業かぁっ!?』

 

 怒れるゼロにアックスは、相変わらずの不真面目な態度で手をひらひらさせて見せる。

 

『悪いな……こっちの手落ちだ……こいつが勝手にやりやがってな……アーマードは回収させて貰うぜ……今のお前らに直接手を出すつもりはないからな……詰まらんしよ……』

 

 悪いと言いつつ、全く悪びれない態度だ。抱えられている大人ディアーチェは、一瞬向けられた魔神の視線にビクッと身体を震わせる。

 確かに今までの言動、やり口からそれは本当の事に思える。だがだからと言って、許せるものでもないが。

 

『アーマードダークネスを、何に使うつもりだ!?』

 

『すげえ愉快な事さ……きっと愉しいぜぇ?』

 

 実に愉しげに大袈裟に肩を揺らす。録な事ではないと想像がついた。はやては心底愉しそうで壊れたような様子に正直ぞっとした。

 

 話には聞いていたが、実際本人を目の前にするとふざけた態度とは裏腹に、尋常ではない鬼気に体が竦むようだ。だがはやてはここでこそ冷静にならなくてはと思う。

 

「あんたらは一体何なんや……?」

 

 聞きたい事は山ほどある。情報を会話から探りたかった。アックスは大袈裟に一礼して見せ、はやてを悠然と見下ろす。

 

「逢うのは初めてだな……こっちの八神はやて……前に言った通り、ウルトラマンゼロ……いや、お前達八神家の影さ……」

 

「あんたらがもう1つの私達だって言うのがほんまなら、何でそこまでおかしくなってもうたんや!?」

 

 つい感情が表に出る。まるで堕ちる所まで堕ちた自分達を見ているようで、胸が痛くなるようだった。

 ゼロも同様だった。レオ兄弟にも父セブンにも出会えず、暗黒に堕ちた自分。べリアル以下にまで堕ちた最悪の自分……

 

『当然の結果ってやつさ……なるべくして成ったと言うべきか……おっと、悪役は情報は小出しにしないとな……少しでも情報を探ろうとするのは流石だが、サービスは終わりだ……残りは延長料金が掛かるぜ?』

 

 アックスはしまったとばかりに頭をポンッと叩き、ふざけた事をぬかす。わざとだ。はやての思惑はお見通しと言う訳だ。

 そこではやては、アックス達背後の『アーマー ドダークネス』の破片群の下に、巨大な魔方陣が現れたのに気付いた。

 

「ゼロ兄ぃ、シグナム、アーマードダークネスが!」

 

 アーマードダークネスの破片群が光る魔方陣に包まれ消えて行く。アックス達はこの為の時間稼ぎに出て来たのだ。

 

『しまった!?』

 

 もう遅かった。魔鎧装の破片は光る魔方陣と共に、跡形も無く消え去っていた。

 

 

 

 

「転移は完了したようだな……」

 

 シグナム・ユーベルが後ろに一瞬視線をやった隙を、シグナムは見逃さなかった。

 

「何処を見ている! 紫電、一閃っ!!」

 

 必殺の斬撃を肩口から袈裟懸けに降り下ろす。構えもしないシグナム・ユーベルだったが、一瞬眉をひそめた。予想以上の鋭さだったのだろう。

 当たるかと思われた次の瞬間、炎の剣はユーベルの左腕のアームガードで弾かれていた。

 

「まだだぁっ!」

 

 しかしシグナムは弾かれた反動を利用して回転すると、更なる斬撃を放とうとする。シグナム・ユーベルはその前に疾風の如く掌打を放って来た。

 とっさにレヴァンティンで防御するが、凄まじい威力にガードごと吹き飛ばされてしまう。辛うじて態勢を立て直し再び剣を構えるが、腕が痺れている。

 黒い女騎士はその一連の動きに、少し感心したようだった。

 

「少しは腕を上げたようだな……? だがまだ私に剣を抜かせる程ではない……精々精進しろ……」

 

「くっ……!」

 

 シグナムは愛刀を握り締めた。やはりそう簡単に追い付けるような、生易しい相手ではない。

 シグナム・ユーベルは悠然と上昇を始めた。上空のアックス達と合流する。大人ディアーチェははやてを憎しみの籠った目で睨み付けた。

 

「八神はやて覚えておけ! お前は何れ我が直々に縊り殺してくれる!!」

 

 アックスは大人ディアーチェの懲りない様子に、苦笑したようにみえた。上昇しながらゼロをゆったりと見下ろす。

 

「ゼロ強くなれ、俺をもっと愉しませろ……俺をぶっ殺せるくらいになあっ! フハハハ ハッ!!」

 

 真紅の魔神は狂気の嗤いを上げた。狂笑が響き渡る。聴く者に寒気をもたらすような不吉な嗤い。

 その姿が霞んで行く。アックスの狂笑を残し、3人の姿は幻のように消え去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 異相空間から転移した3人は、海鳴市より遥か彼方の夜空を飛んで行く。先頭を悠然と飛ぶアックスの後を、大人ディアーチェとシグナム・ユーベルが付き従うように続く。

 

 ディアーチェは、傍らを飛ぶシグナム・ユーベルをきつく睨み付けた。アックスに抱かれた時、微かにシグナムの残り香がしていたのを彼女は見逃さなかったのだ。

 

「良い気になるなよ! 一部しか戻れなかった木 偶(でく)がっ!!」

 

 詳細は不明だが、明らかな侮蔑の言葉をユーベルは特に気にした風も無く、光彩の少ない暗い瞳を大人ディアーチェに向けた。

 

「そうだ……お前も判っているだろう……? 私は主の只の捌け口……主が自らの生を冒涜する為の行為だ……」

 

「ふんっ……」

 

 大人ディアーチェは、侮蔑してそっぽを向く。すると先頭を行くアックスが、おもむろに顔だけを彼女に向けた。

 

『おい、ディアーチェ……お前お仕置きな……?』

 

 軽い挨拶のような口調だったが、その銀色の顔が悪魔じみた嗤いを浮かべたように見えた。ディアーチェの顔色が真っ青になる。

 

「うわあああああああああぁぁぁぁっっ!!」

 

 悲痛な絶叫が闇夜に響き渡った。彼女の両腕が肩口から両断され、鮮血とも光とも取れるものが噴水の如く飛び散った。

 華奢な腕がグルグルと、螺旋を描いて無惨に投げ出される。大量の液体はアックスの真紅の身体を、更に紅く染め上げた。

 返り血を浴びた魔神は、血塗れで嗤っているように見えた……

 

 

 

 

 

 

 

「私達の影……」

 

 はやては薄れ行く異相空間を見上げながら、ポツリと呟いた。アックス達が自分達の可能性の一つなら、一体どんな道を辿って来てああなってしまったのだろうか。

 

「せやけど……どんな目に遇ってきたとしても、他人に酷い事をして良いという理由にはならん……!」

 

 それは絶対に間違っている。それだけははっきり言いきれた。

 

『後悔させてやろうぜ、はやて』

 

 ゼロはその通りだと夜天の主の肩を叩く。はやては頷いていた。

 

「奴は必ず私が倒します……」

 

 シグナムは静かに、だが固く主に誓う。少なくとも指二本で止められた時と違い、顔色を少しだが変えさせてやる事が出来た。何れ必ず追い抜くと烈火の将は闘志を燃やす。

 するとゼロは腕組みし、訳知り顔で2人を見回した。

 

『知ってるか? ああいう風に余裕かました悪党 は、余裕かました相手に最後にやられちまうんだぜ』

 

「そうやね。最後に勝つのは私達や」

 

「ふっ……」

 

 はやては少年漫画のようなノリで得意気なゼロに笑ってしまう。シグナムもつい苦笑していた。

 異相空間が完全に解け、八神家の皆がなのは達が此方に飛んで来るのが見える。

 

「我が主っ!」

 

「はやてぇっ!」

 

 リインフォースとヴィータが飛び付いて来た。はやては2人に強く抱き締められる。愛しく頼もしき家族と友人達。 揉みくちゃにされながら、ふとはやては思う。

 

(あっちの私は死んでるやないかな……?)

 

 何となくそう思うと共に『死』の一文字が、中々頭から離れなかった……

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 ゼロ達とクロノ達はアースラに戻っていた。ミーティングルームである。

 くつろぐ皆の中ディアーチェは相変わらずふんぞり返り、ユーリはその後に隠れるように頭半分だけ出し、レヴィはお菓子をパクつきシュテルは静かにお茶を飲んでいた。

 ユーリは人見知りなのかもじもじしていたが、意を決してディアーチェの陰から出る。

 

「本当に皆さんにはご迷惑をお掛けしました。ありがとうございます。すいません、すいません、すいません……」

 

 皆に頭を下げしきりに謝っている。ディアーチェとはやて達は宥めるのに苦労した。呪縛から解き放たれたユーリの素は、恥ずかしがりだが素直な良い子だったのである。

 一段落着いたところで、クロノは4人揃ったマテリアル、紫天一家を困ったように見回した。

 

「さて……君達をどうするかだが……」

 

「我らは誰にも従わん!」

 

 ディアーチェは傲然と言い放った。予想通りの返事である。だが彼女らを放って置くのも色々問題であった。歩くロストロギアなのである。

 だが彼女達の意思を無視して拘束するような真似はクロノもリンディもしたくない。被害が出た訳でもない上、実際無限の魔力を持つ彼女らを止める事は、管理局には難しいだろう。

 するとゲンがおもむろに、ディアーチェ達の後に立っていた。

 

「それなら私がこの者達の保護責任者になろう……どうだろうか?」

 

「そいつは良いやっ」

 

 ゼロがパチンと指を鳴らしていた。これ程適任は無さそうである。惑星をも砕く獅子の戦士。万が一何か有っても大丈夫だろう。

 

「何を勝手な事を!」

 

 ディアーチェが文句を言おうとすると、ゲンは苦笑した。

 

「別にお前達を閉じ込めたり、四六時中見張ったりはせん……安心しろ……普通に暮らして行けばいい……ただし他人に迷惑を掛けたりしなければの話だぞ……?」

 

「むう……」

 

 言葉の意味を察したディアーチェは唸る。つまり何か有った時の責任は負うので、ディアーチェ達を自由にさせてくれないかとゲンは提案しているのだ。

 リンディはしばらく黙って考えているようだったが、紫天一家を改めて見渡す。

 

「そうですね……管理局でどうにかする事になったら、色々波風が立つでしょうし……おおとりさんにお任せするのが良さそうですね。グレアム提督達にも相談してみますが、悪いようにはなりませんよ」

 

 彼女らの力は大き過ぎる。杓子定規に規定に当てはめてやろうとしたら、大変な事になるだろう。クロノも頷いていた。

 恐らく彼女達は表向きには『アーマードダークネス』と共に消滅したとなるであろう。

 

「良かった……本当に……」

 

 ディアーチェ達が追われたりする事は無さそうである。ゼロは心の底からそう思った。つい口に出ている。

 気付くととツンデレ発言をしそうなので、はやて達は敢えて黙って温かくウルトラマンの少年を見守るのであった。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 長い夜を終え、ゼロ達は八神家に帰って来ていた。ゲンと紫天一家も一緒である。ゲンが出発するまで、部屋が余っている八神家で預かる事にしたのだ。

 

 ぐっすり寝て休んだ次の日。何時もの倍以上賑やかになった家で、ゼロはてんてこ舞いで全員分の食事を作る羽目になっていた。

 はやてが逆ユニゾンの影響でしばらく怠さが抜けず、とても料理出来る状態ではなかったからだ。それでゼロに全て回って来た訳である。

 

「ゼロ、次の飯をよそわんか! ユーリも遠慮するなよ」

 

「すっ、すいません……お願いします……」

 

「それでは私も大盛りで……」

 

「あっ、お前! アタシの海老フライを!」

 

「へへ~ん、早い者勝ちぃっ!」

 

 食事はもう戦争状態だった。おかわりの嵐である。ディアーチェ達は欠食児童の如くお代わりしまくり、おかずを奪われたヴィータがキレる。ゼロは自分が食べる暇が全く無く、空になった炊飯器を前にガックリくる事となった。

 

 

 

 賑やか過ぎる夕食を終え、リビングには八神家の面々のみが残っていた。皆に後片付けを任せ、哀しくカップ麺を啜るゼロにはやては、申し訳なさそうに声を掛ける。

 

「ごめんなゼロ兄……明日にはもう大丈夫みたいやから……」

 

「気にすんな、皆も手伝ってくれるしよ。リインも腕を上げて来たしな」

 

 とは言うものの、実際料理の戦力になりそうなのはリインフォースと、味付けに関わらなければ大丈夫のシャマルのみ。

 後はお察しください状態ではある。後片付けは手分けしてやれるのでまだ助かるが。

 するとヴィータと食器の片付けをしていたリインが、手を止め皆を見回した。

 

「主ともお話したのだが……私の事はこれから 『アインス』と呼んで欲しい……」

 

「えっ? リイン改名すんのか?」

 

 まだぎこちない所も有るが、打ち解けてきたヴィータが意外そうな顔をする。

 それはそうだ。リイン贈られた名前をとても大事に思っているのは知っている。リインはヴィータに微笑して見せた。

 

「そうでは無い……やはり主には膨大な魔力をサポートする者が必要だ……私は融合能力を失っている。それで私の妹を造ろうと言う事になったのだ……」

 

「妹……?」

 

「そうだ……直ぐには無理だろうが、何れ……だから私をベルカの1の意味でアインス。妹を2の意味でツヴァイとしようと思う……『リインフォース・アインス』『リインフォース・ツヴァイ』と言う訳だ……」

 

「おおお~っ!」

 

 ヴィータの目が輝く。実質八神家の末っ子としては、自分より年下の妹が出来るのだ。これは嬉しいだろう。

 

「そいつはめでたいなっ」

 

 ゼロは顔を綻ばせた。新しい家族が増えるのだ。こんなに嬉しい事は無い。ゼロには何より嬉しい報せだった。だがそこでリインフォース改めアインスは、 表情を引き締める。

 

「何れ来る時の為にも……」

 

 意味を察した皆の表情も引き締まる。もう一つの八神家だと言う、邪悪なウルトラセブンアックス一味。その影を全員がひしひしと感じていた。

 

「これからが私らの本番やね……」

 

 はやては一同を見回した。その瞳に強い決意が見て取れる。

 

「アックス達は私達が止めんとな……」

 

 ヴィータもシャマルもザフィーラも、アインスも固く誓っていた。

 なのはを襲ったアックス一味のヴィータ、シャマルらしき者達に、ザフィーラを打ち負かした仮面のザフィーラらしき者。もう1人のアインスも存在しているかもしれない。

 そしてシグナムはあの黒騎士、シグナム・ ユーベルとの再戦を誓う。最後に見せたあの感情が気になったが……

 

「おうっ! 必ずアックスの奴らに、吠え面かかせてやろうぜ!」

 

 ゼロは腕をグルグル回して、景気よく気勢を上げて見せる。はやてはそんな少年を頼もしく見上げた。

 そうだ。此方が強くなるまで待ってくれると言うのなら、遠慮なくそうさせて貰おう。皆が居る。必ずアックス達を倒してみせる。そう誓った。

 

 一抹の不安を振り払って……

 

 

 

 

************************

 

 

 

 数日後。『ウルトラマンメビウス』を始めとした他のウルトラ戦士達がもうすぐ到着するという連絡を受けたゲンは、紫天一家共々着任世界に向かう事となった。

 紫天一家は表向き消滅した事になっている。相談の結果そういう判断が為されたのだ。ゲンこと、ウルトラマンレオに任せると。

 リビングは準備やらで、とても賑やかな事になっていた。見送りになのはもフェイト達も来ている。わいわいと話が弾み賑やかである。

 

 ゼロは最後に紫天一家の面々に、聞いておきたい事が有った。お菓子をバックに詰めるレヴィに歩み寄る。

 

「レヴィ、聞きたいんだけどよ……何で師匠に攻撃を躊躇ったんだ……?」

 

 何故森で戦った時に、ゲンに攻撃を躊躇ったのか知りたかったのだ。

 

「師匠……? ああっ、坊さん、ウルトラマンレオの事か。だってレオは親切でお菓子をくれたんだぞ。親切にしてくれた人に攻撃するなんて変だろ? 悪そうで格好いいウルトラマンゼロ」

 

「悪そうは余計なっ?」

 

 レヴィの素直な答えであったが、ゼロは一部訂正しておく。シュテルもコクコク頷いてゼロを見上げる。

 

「それは私も王も同じです……私達は恩を仇で返すようなみっともない事はしません……プライドに反しますので……」

 

 ディアーチェはシュテルの答えに頷き、当たり前だと偉そうにゼロを見上げた。

 

「人間如きと一緒にするな……我は王ぞ! 王の器を侮るでない!」

 

 それだけ聞けば傲慢な答えだが、質問内容を考えると何とも微笑みたくなる答えであった。まあ陰で「ここは雌伏の時、何れ世界は我が物」とでも企んでいるようだが大丈夫だろう。

 

(こいつらは心配要らないな……)

 

 ゼロは染々そう思う。話が終わったのを察し、他の者達も紫天一家にそれぞれが別れの挨拶を交わす。

 

「ナノハ……何れ熱くなる戦いを……」

 

「にゃはは、お手柔らかにね……」

 

 シュテルは戦いが好きなようだ。なのはに、ちゃっかり再戦を申し込んでいる。なのはは苦笑していた。その隣でレヴィがフェイトの肩をポンポン叩いている。

 

「ヘイト、2人で組んで面白かったぞ。また遊ぼう」

 

「フェイトだってば……うん、またね」

 

 フェイトは名前を訂正しながら再会を約束する。訂正部分は聞き流したレヴィは、シグナムにトトトッと駆け寄っていた。

 

「武士のお姉さんっ、決着は必ず着けるぞ!」

 

「シグナムだ……ふふ……何時でも来い、愉しみにしているぞ」

 

 シグナムは微笑すると、姉のように腕白坊主の頭を撫でていた。レヴィは子猫のように気持ち良さそうな顔をする。

 アインスとシャマルはしゃがみ込んで、もじもじするユーリと目線を同じくしていた。

 

「ユーリ元気でな……また会おう……」

 

「ユーリちゃん元気でね」

 

「はっ、はいっ、アインスさんも、シャマルさんもお元気で。ご迷惑をお掛けしました」

 

 ユーリは顔を真っ赤にしてペコペコ頭を下 げ、アインスとシャマルは逆に困っている。車椅子のはやてはディアーチェに、大きな箱を渡していた。

 

「王様、これ餞別に持って行ってな」

 

 ディアーチェは戸惑いつつも受け取った。

 

「子鴉……何だこれは……?」

 

「ケーキ、私が作ったんよ。みんなで食べてな?」

 

 中身はデコレーションされた、生クリームのケーキであった。ユーリが中を見て目をキラキラ輝かせる。

 

「うわあっ! 子鴉っち、気が利くぅ!」

 

 レヴィは飛び上がりそうな程喜んでいる。シュテルも口の端がムズムズしていた。皆食べたかったものらしい。

 

「俺からはこれだ」

 

 ゼロは大きなバックをディアーチェに渡してや る。中を見ると、包丁やまな板やケーキの型、ふるいなど料理道具が入っていた。

 

「料理……道具……? ケーキの……?」

 

 ディアーチェは首を捻るが、思い当たったらしく、顔を真っ赤にした。

 

「きっ、貴様っ!」

 

 ゼロは何か言い掛けるディアーチェに、テレパシーをこっそり送る。

 

《心配すんな、みんなにはお前らがケーキを食べたいらしいとしか言ってねえよ……はやてに負けないように頑張れよ……》

 

 ゼロは最初に出会った時、ディアーチェがケーキ屋の前で、何とも優しい目でショーウインドのケーキを眺めていたのを知っている。その眼差しにゼロは覚えがあった。

 

 そう……あれは皆に美味いしいものを食べさせたいとメニューを考えているはやてと同じだった。はやてを元に実体を持ったせいか、料理に興味があるらしい。それも誰かに食べさせたいと。

 誰かの喜ぶ顔が見たいと思っている者に悪い奴はいない。ゼロはこの時から確信していた。マテリアル達が悪い者ではないと。

 ディアーチェは見透かされた事に不満そうだったが、誰にも言っていないと言う言葉に矛を納める事にしたようだ。

 

「ふんっ、お節介め……子鴉如きに後れは取らん」

 

 偉そうに腕組みし、ぷいっと顔を逸らした。はやては?という顔をして首を捻る。そこでディアーチェは真剣な眼差しをはやてに向けた。

 

「子鴉……」

 

「何や、王様?」

 

「一つ忠告しておく……あの女……別世界の我と名乗るあの女……あ奴は危険だ……」

 

「うん……」

 

 はやてはあの女の、暗い憎しみの籠った眼差しを思い出す。正直恐ろしかった。あれ程の悪意を向けられた事がない。

 

「うぬに憎しみを抱いておる……言っておった……子鴉の存在自体に虫酸が走るとな……正直おぞましきものを感じた……」

 

 ディアーチェもあの女の悪意を思い返し、顔をしかめていた。

 

「ありがとうな王様、心配してくれて……」

 

「ふっ、ふんっ、違うわっ! 少々気になっただけぞ! せいぜい気を付けろ……気が向いたら借りは返してくれるわ!」

 

 照れるディアーチェであった。本気で心配してくれているのであろう。そして借りは必ず返すとも思っているのだ。はやては改めて感謝するのだった。

 

 挨拶も終わり、準備も整った。もうすぐゲン達は出発する。そんな中ゼロは1人密かに煩悶していた。

 

(ヴィータが頑張ったんだ……俺も頑張らないでどうする!)

 

 ゲンに修行時代の自分の態度を謝って、感謝の言葉を告げる。ヴィータとも約束し、彼女は見事自分の約束を果たした。

 兄貴分を自認するゼロにとって、言い出しっぺの自分が頑張らない訳には行かないのである。ゲンの赴任世界はかなり遠い。今を逃すと気軽には会えなくなるだろう。

 

(こうなりゃ、もうヤケクソだ!)

 

 ゼロは自らの顔をバチンッと叩いて気合いを入れる。ソファーに静かに座っていたゲンを廊下に呼び出した。

 

 

 

「どうしたゼロ……? 改まって……」

 

 ゲンはゼロ達の決意も敵も全て承知している。だが敢えて口にせず、見守り助けるつもりだ。その事かと思い、弟子に穏やかに尋ねた。

 

「その……何だ……」

 

 ゼロは上手く口に出来ない。だがここで退く訳には行かない。これくらい何でも無いと言葉を続ける。

 

「今まで……世話になって……こんなクソ餓鬼を面倒見てくれて……その……」

 

 ようやくそこまで口にした時、ゼロの脳裡を修行時代の出来事が溢れかえった。

 反抗して食って掛かるゼロを、レオは厳しく指導した。余計な事など考える暇など無いくらいに。

 追放され腐っていた自分には、それがどれだけ救いになった事か。がむしゃらに打ち込んだあの日々 ……

 

「あれ……? 何だよ?」

 

 気が付くとゼロの瞳から、ポロポロと涙が溢れていた。その先が胸が詰まって言葉にならない。様々な感情が一度に溢れかえったようだった。

 

(何で泣けるんだよ!?)

 

 察したゲンは温かな眼差しで微笑すると、やんちゃな弟子の頭をワシワシと力強くあやすように撫でていた。

 

「馬鹿者……泣く奴があるか……」

 

「だってよぉ……止まら……ねえ……! 止まらね えんだ……っ」

 

 ゼロは父親にあやされる幼児のように泣きじゃくっていた。胸がいっぱいでどうしても止まらず言葉が出ない。それを影でこっそり見守っていたはやて達。

 

「ゼロ兄……感極まったんやね……」

 

「ゼロ、頑張れ……っ」

 

 ヴィータがひっそり声援を贈る。シグナムはハラハラしながらゼロを見守っていた。アインスもシャマルも、ザフィーラも心の中で声援を贈る。

 皆の密かな声援が届いたのか、ゼロは涙で顔をくしゃくしゃにしながらも言葉を発していた。

 

「師匠……ありがとうございました……! これからも、よろしくお願いします……!」

 

 ゼロはようやく言いたかった言葉を、精一杯の感謝の気持ちと共にゲンに告げた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 epilogue

 

 その場所は見渡す限り、荒涼とした荒れ地がひたすら拡がっていた。草一本生えていない。生命の息吹が全く感じられない。暗黒の空間の中に浮かぶ、果てが見えない大陸……

 

 その場所はこう呼ばれている。『怪獣墓場』 と……

 

 死んだ怪獣、宇宙人の魂が集まる場所。宇宙の何処かにある定常的な空間の歪み……世界とは外れた空間に存在する、怪獣達の最期に行き着く場所……

 

 その中をさ迷う人影があった。黒いタキシー ドを着込んだ姿を連想させる異形に、鎧を着こんだ宇宙人だ。『メフィラス星人』と呼称される一族の1人であった。

 

 名は『魔導のスライ』あの『カイザーべリアル』貴下の『ダークネスファイブ』の1人である。

 彼らダークネスファイブが『M78ワールド』 で活動していた最中、カイザーべリアルは向こうの世界でウルトラマンゼロに敗れ去り死亡。

 進軍したダークロプス軍団もウルトラ戦士の反撃に遭い全滅。ダークネスファイブは命からがら逃げ延びた。だが彼らはまだ諦めてはいなかった。

 スライは怪獣墓場に流れ落ちたと思われるべリアルの魂を捜し出し、何としても復活させるのが目的だった。

 だが具体的な方策は見出だせず、べリアルの魂の行方も判らない。今はただ執念に従って怪獣墓場をさ迷っていた。

 

『むっ……?』

 

 スライは異様な気配を感じて脚を止めた。何時の間にかボロボロのマントを頭から被った人物が、近くの岩場に悠然と腰掛けて居たのだ。

 

『どちら様かな……?』

 

 スライはあくまで紳士的に話し掛ける。それでも油断はしていない。目の前の人物から、容易ならざる鬼気を感じ取ったのだ。

 その人物が指をパチンと鳴らす。するとスライの前に、漆黒の鎧が出現した。ゼロとレオが破壊した筈の『アーマードダークネス』であった。

 

『こっ……これは!?』

 

 驚くスライに、謎の人物はさも可笑しそうに肩を揺らす。

 

『アーマードダークネス……本物だ……これをくれてやろう……べリアル復活に役立つぜ……魔導のスライ……』

 

『何が目的です……? 取り引きですか?』

 

 マントの人物は、フードの奥の鋭い眼を刃物のように光らせ答えた。

 

『そうだな……ウルトラマンゼロを精々苦しめて、面白くしてくれればそれで良い……愉しみにしてるぜぇ……』

 

 それだけ言い残すと、マントの人物は幻のように消え失せていた。気配すら無い。

 スライは辺りを見渡したが、荒涼とした大地が広がっているだけであった。まるで怪獣墓場の亡霊と出会したのかと思う程に……

 だが依然として暗黒の鎧はスライの前に在った。邪悪な気配が漂う。幸いな事に機能を停止しているようであった。

 

『そうか……アーマードにはエネルギーを吸収する特性が有った筈……陛下の強靭な魂なら逆に鎧を支配する事も……!』

 

 希望が出てきた。スライは深紅に光る眼を見開き、誓いを新たにする。

 

『どんなに時が掛かろうと、必ず陛下の魂を捜し出す!』

 

 残りの4人にも集合を掛けなければ。ふと、遠くで誰かが嗤っているような気がした。死の大地は変わらず果てが無い程に拡がっている。

 その荒野を、木枯らしのように不吉な嗤い声が木霊しているようだった。スライはそれも自分に相応しいと、その中を独り歩き出した。

 

 ウルトラマンゼロの前途に、不吉な影が射し始めている……

 

 

Portable編完

 

つづく

 




お付き合い頂きありがとうございます。portable編最終話でした。夜天ではこれでサーガ、ゼロファイトに繋がる事になります。
次回は映画予告番外編二本に、空白期予告となります。次で再掲載分は最後となります。週一投稿ラストです。
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