シャドウラン翻訳短編   作:CanI_01

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以下はシャドウランの掌編Post Mortemの全訳となります。
誤訳もあると思いますので気になる方は以下の原文をご覧の上ご指摘をいただけると幸いです。

https://shadowrun.fandom.com/pl/wiki/Post_Mortem

Post Mortem
by Tom Dowd

ちなみにPost Mortemは検死解剖の意味のようです。

例によって後書きとして注釈を記載しています。
ご参考までに。

しかし、エーラーンとハーレクインが第四世界で恋人同士だったという話があるのですが、出所はどこなのでしょうかね。


ポストモータム

数分間、その2人は不穏な沈黙の中でただ座っている。その日公園を訪れ人々はいたが、この2人がベンチに腰掛けていることを気にする者は誰もいなかった。それ以外の反応としても特別な反応を返すでもなくただそこにあるものとして目にするだけでなのだ。この日の2人はオークとドワーフのホームレスのように見え、一方に関しては当たらずとも遠からずであり、少し正気を失っているようにすら見える。

 

年老いた黒褐色の肌のオークはついに少しだけもう1人に顔を向ける。その瞳は部分的な白内障のように灰褐色に濁っている。ドワーフは白い肌に長く整えていない髭を蓄え、その表情は熟考するかのように微動だにせず一点を見つめている。

 

オークは渋々と口を開く。その声は低音で慎重な響きを帯びている。

 

「それで、お前が彼を殺したのか?」

 

ドワーフはその瞳を相手に向け、頭を横にふる。

 

「いや私ではない。君の仕業ではないのかね?」

 

黒褐色のオークはため息をつく。

 

「俺でもない。」

 

ドワーフは頷く。

 

「君の罪をどのような方面からであれ話すことはできそうにないね。」

 

「同感だ。」

 

ドワーフはモジャモジャの眉毛を上げる。

 

「いつものように、君の口車にのるつもりはないよ。」

 

オークは再びため息をつき、返答する。

 

「わかっている。時間がある時に彼を殺すためにいつどのように調整すれば可能か考えてはみたさ。だが、不可能だ。だが実際には行われている。だから俺は混乱しているんだ。」

 

「多く仲間達は君が手を下したと信じているがね。」

 

「あいつらの考えそうな事だ。良いだろう。俺が実行犯なら恐ろしく救いようの無い話にならないか。」

 

オークはそう告げ肩をすくめる。

 

「では、誰がやったと言うのかね?」

 

長い沈黙が2人を覆う。

そして、ついにオークが口を開く。

 

「血と嘆きを積み重ねたリストこそ混乱への最短ルートだ。」

 

ドワーフがため息をつく。

 

「そよ風のように私達の間を長年の月日が過ぎ去った。敵のような友としての関係だったが、噂に踊らされることはなかったはずだ。」

 

オークは大声で笑うと澄んだ湖のようにドワーフを睨みつけた。

 

「お前の知っているより良い場所を誰かに見せることができたことがあるのか?」

 

ドワーフは頭をふり口を開く。

 

「いいや。もちろん噂は耳にするさ。だがそれが真実であった試しはない。」

 

オークは言い返す。

 

「俺は時々奇妙な程他人との疎外感を感じる時がある。だが、こいつは俺が始めて見た覚醒の瞬間だ。普通のことのはずなんだ。」

 

「多分だが…」

 

ドワーフは口ごもり、何かを決断したのか、再び口を開く。

 

「ロフヴィルが断言していたが、彼はこの件に他のドラゴンが干渉していると信じているようだ。」

 

オークは僅かに首を傾げる。

 

「本当に? 一体誰が?」

 

「わからん。彼はアラメイズの復活について話していたが、その方法には触れず私はまだ疑っている。」

 

オークはまたため息をつく。

ドワーフは続ける。

 

「かつて宮廷で、生き延びてきた者達の多くが君に語ったことがあると思うのだがね。」

 

オークは肩をすくめる。

 

「多分な。」

 

「君は私が知らない相手については君も知らないと言うのだろうがね。」

 

オークはドワーフに顔を向け僅かに眉を上げる。

 

「どうやったらあんな爆破を起こしたと俺が言えるんだ? だが、俺達が顔を合わせて以来自分の知識の最良の部分を伝えてきたが、誰もその言葉を気にかけなかっただろう。」

 

ドワーフは視線を外しため息をつく。あたりには再び沈黙が落ちる。

ついにドワーフは本当に尋ねたいことを口にする。その言葉からは彼ができうる限り平成を装った響きであった。

 

「それで私達はここに来ている訳だが、私の娘はどうしている?」

 

黒褐色の肌のオークの外見が突然変化する。薄汚れた色は突然滑り落ち、驚きからその瞳は見開かれる。まるで落ち着きを取り戻すための時間を稼ごうとするかのようにゆっくりとドワーフに顔を向ける。

 

「ああ、すまん?」

 

ドワーフは相手の無造作に絡んだ白髪を見下ろしながらうっすらと微笑む。

 

「もちろん、君が皮肉屋なのは十分知っている。私は完全に君を信頼できてはいない。」

 

「いや、俺はお前が思っているような…」

 

「あの娘はどうしているのだ? 君はあの娘の訓練を図々しくも引き受けたのか? あの娘の習熟速度は速いのか?」

 

その瞳は驚くほど渇望に満ちたものだ。

 

「もちろん、もちろんだ! 彼女は俺の想定以上の速度で熟達して行っている。」

 

更に他人事のように付け加える。

 

「彼女はやらなければならない事をやった上でそれ以外の時間をクソッタレな訓練に費やすと言う変わった人生観を持っている。」

 

「良かろう。」

 

不自然な沈黙の後ドワーフは続ける。

 

「それであの娘は知っているのか?」

 

オークはできる限り悪気が無さそうな雰囲気で聞き返す。

 

「何をだ?」

 

「君が知っている私が皮肉屋な老いぼれであることを正確に知っているのか?」

 

オークはニヤリと笑い答える。

 

「いや、彼女は知らないよ。」

 

「良かろう。」

 

「良かろうだと? 何が良かろうだ? お前が俺の骨をミミズの餌にしようとしたのはそこまで昔ではないだろう!」

 

ドワーフは言葉を返す。

 

「事実だが、あの娘はあの娘のやり方で真実を求めるべきだろう。それにあの娘は私のものではないし、あの娘も私ではない。その目を閉じさせるように何者も強要するべきではあるまい。」

 

オークも口を開く。

 

「本当にグラスゴー人にろくなやつはいないな。」

 

ドワーフも言い返す。

 

「それに関しては言い返すことはないな、目の前に実例もあるしな。」

 

オークは再びため息をつく。

 

「俺は未だにお前が厄介な事を言い出さないことに驚いているよ。俺はこの顔を突き合わせての話し合いで聞かれる内容が娘のことなのか、ドラゴンのことなのか確信が持てなかったんだ。」

 

「君がより多く関わっているのはどっちなのだ?」

 

「娘だ。」

 

そしてオークは少し間を空けて続ける。

 

「お前はドラゴンに関して全く興味が無いわけではなかろう。」

 

「私はドラゴンと険悪な関係にはないからな。彼が何を話していようとだ。」

 

「俺はその時お前と一緒にいたはずだがな。」

 

ドワーフはゆっくりと言い返す。

 

「そんな事よりもあの娘の話だ。君と私はかつて目すら合わせない関係だった。だからといって、今や今後もそのような関係である必要はないだろう。」

 

「ドラゴンについては同意可能ではあるな。」

 

「部分的にはだがね。そして、我々が合意できないにも関わらず、君がその姿勢を続けるのであれば君のことを分別がなく、せっかちで、野暮な、議論好きの、怠け者の…」

 

「怠け者だと?」

 

「黙れ。私が君を表現できる唯一の言葉だ。誰かさんの仮面の後ろに隠された最適な言葉を不特定多数の誰かではなく私が選んだのだ。」

 

オークは再び視線を外す。

 

「私には自分の娘が君の後見を受けたり世話をされたりしている状況で健康で快適な生活をできるとは考えられん。」

 

ドワーフは言い切ると頭を下げた。

サラリとドワーフは頭を上げ新たな話題を口にする。

 

「ドラゴンに話を戻そう。エクスカリバーはまだ見つからないのかね?」

 

鼻を鳴らしオークはドワーフに目を向ける。

 

「お前の方がそんな物は存在しないと俺よりもよく知っているだろう。」

 

「厳密に言うならば、そうとも言えんよ。だが、長の年月を経る中でごくごく僅かに関係のある物が転化している可能性はある。我々はその実例を見てきたはずだ。」

 

オークは再びため息をつく。

 

「鎧は体によく合ったがな。」

 

この言葉にドワーフはクスクスと笑う。

 

「衝撃的な告白を聞いてしまったよ。」

 

そう告げるとドワーフは立ち上がる。

 

「もう行かなければならん。今晩の宮廷の打ち合わせに欠席する訳にはいかんのでな。」

 

「気にするな。お前が宮廷を掌握していれば、あいつらはお前さんと話すだけで済むからな。」

 

ドワーフは鼻を鳴らし、歩み始める。

その背にオークが声を掛けるとドワーフは足を止める。

 

「だが、お前は知っているはずだ。俺達では誰かドラゴンを殺したのか決めることはできない、とな。」

 

ドワーフは頷き返答する。

 

「確かに誰が殺したのかは決めれんよ。だが、君がどうやって仕立てられるかを覚えているなら、我々が知ることで君が何にあるい誰に祈れば良いかを指示することができるようになる。」

 

言葉と共にドワーフは霧をその身に纏い姿を消していく。

 

「そうでなかったとしても、な。」

 

そして、その姿は完全に消える。

 

オークはその後も公園を夕闇に染める頃まで座り続けていた。時々ポケットから取り出した茶色の紙に包まれた琥珀色のボトルから何かを飲みながら。その苦味を味わうように。

誰も彼を気に留めず、いつの間にかその姿は消え失せていた。




ドワーフとオーク

本編のドワーフはイモータルエルフの‘書記の’エーラーンであり、オークは同じくイモータルエルフのハーレクインです。

時代
2057年。ダンケルザーンの暗殺されたしばらく後。
ハーレクインが獅子心王の鎧を手に入れていることからアイナと共にドラコ財団に鎧を受け取った後ではないかと思われる。


エーラーンの娘であるジェーン・フォスター(HN:フロスティ)のこと。
ハーレクインがエーラーンの復讐の為に始めた儀式でハーレクインに攫われたフロスティですが、その後ハーレクインの弟子兼恋人となっている。
この時期はハーレクインの本拠地であるイフ城でお留守番しているはず。

ダンケルザーンの遺産
彼らは以下のものを贈られている。
ハーレクイン:リチャード獅子心王が十字軍のときに着用していた甲冑、エクスカリバー(捜索中)
エーラーン:シェイクスピアの二つ折りフォリオを含む希少な初版文庫
フロスティ:竜の指輪

エクスカリバー
存在しないが関連するものが転化するかもしれない。
ハーレクインとエーラーンはアーサー王が実在したと思われる時代を経験しているための台詞と思われる。
反面アイテムは名前を与えられ、それが結果を出すことで魔力を帯びることがあるためエクスカリバーと命名された剣が今後生まれる可能性があるという話と思われる。

宮廷
ティルタンジェルもしくはシーリーコートのことと思われます。

お話近傍のハーレクイン略年表

2051年
ハーレクインがエーラーンに意趣返しを仕掛けフロスティを誘拐する。
恐らくそのまま自身の拠点フランスの小島にあるイフ城に連れていく。
そのままフロスティはハーレクインの弟子となる。

2052年
小説『ワームトーク』。
フロスティと自堕落に暮らしているところにダンケルザーンが訪ねてくる。

2055年
生きることに絶望しかけていたハーレクインが神の啓示により異世界からの侵略者であるホラーが迫っていることを知り対策に動く。
この際にフロスティを不肖の弟子としてランナーに紹介し古代のエルフの女王チャイラを救出する。

2056年
ハーレクインは1人で世界中を回りホラーの痕跡に対処する。
その過程で第四世界からホラーの目を付けられているイモータルエルフ、アイナ・デュプリーと再会し行動を共にする。


2057年
ダンケルザーン死亡。
この遺産の受け取りにハーレクインとアイナが連れ立ってドラコ財団を訪問
する。
このことから2人で世界を放浪していたと思われる。
その後ハーレクインとアイナは分かれハーレクインはイフ島に戻りドラコ財団と協調する。
本編はこのあたりのタイミングの物語と思われる。

2062年
ティルタンジェルのプリンスをエーラーンが退陣する。


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