宵闇に浮かぶひとつの黒い影。
それは、かつて存在した音もなく人々の命を刈り取る『シノビ』の様であった。
「抹殺」
そう書かれた
そしていとも簡単に人々は死んでいく。
頸動脈から吹き出る赤い血がビル街を真紅に染める。さしずめそれはインキによる路上アートのようであった。
「人類死すべし、慈悲はない」
シノビはそう念じた。
その一方で、ある事件が発生しているのであった。
「無差別殺人事件…か」
そう呟いたのは紗和だった。街ビルに設置されたテレビで観て知ったようだ。
「次のニュースです。山門市の孤児院から突如子供が消える事件が発生しました」
ニュースキャスターは淡々と述べた。
ため息を吐いた紗和はこのことを慎太郎達に連絡し始めた。何か、不吉な予感がすると思ったからだ。
ところが、何度コールしても慎太郎たちは応答しなかった。
紗和は諦めて自分の足で慎太郎達を探すのと事件について単独調査をすることにした。紗和の考えは自分がウルトラマンだから考察出来るものだった。
《この二つの事件は、普通の人では出来ない》そう考察をしたのだった。
そんな中、一本の連絡が入る。
「んっ……もしもし?」
変身アイテムでもあるスマホを耳に近づけてそう言った。
「睦月だ!すぐに来てくれ!」
「え!?あ、ら、羅衣のところの睦月さんかな?わ、分かった…基地に向かえば良いのかな?」
「迅速に来い!」
「わ、分かった…!」
よく分からないまま通話を切り、駆け足でSDT基地へ向かった。
「……これを見てくれ」
目の前には凄惨な死体があった。
りゅーどのものだった。
「ッ…!なんて悪臭……血の匂いでもこれは酷い…そして…どうしてりゅーどさんが…」
「僕も…分かりません。彼、ちゃんと出勤時間には来る人だったのですが…今日は時間が過ぎても来ないので何故かと思い探したら…この有様で」
羅衣は顔を真っ青にしたままそう言った。
「……死んでるんだよ。DNAも見たが完全にりゅーどのそれだった」
「そんな…ッ」
紗和は驚きのあまりにこれ以上何も言えなかった。
羅衣とキャスもそうだった。新たに入った仲間がこのような無差別殺人に巻き込まれて死んでしまったことに…
「……きな臭いな」
睦月はそう呟くと、舌打ちをした。
「そうですね…血の匂いがとても…凄いですね」
羅衣は鼻元を抑えながらそう言った。
「あ……そういえば…慎太郎達…見た?電話にも出なくて…」
「え?僕ら…今日一度も見てませんよ?稽古する時間もまだですし…」
「うん、私たち見てないよ」
そういうキャスの口元には何故かヨダレが滴り落ちていた。
「君死体を見て出したでしょ?」
「ふ、不本意です…!ごめんなさい!」
「はぁー…全く…それでみんな見てないってことだね」
「……ホンットきな臭いな、少し行ってくる」
「え?ど、どこへ行くのですか…?」
「ん?ちょっとな」
「……分かりました…」
羅衣とキャスは現場に残り、調査を続けたが、紗和だけ何故か無ツ木の後を追うように後ろからついて行った。何故かカバー力が高く、次の壁へ向かう速さも尋常じゃないほどの速さだった。まるで《怪盗》のようだ。
「……なるほどなァ、こういう事か……」
睦月はそう呟き、銃を抜く。
紗和は壁の後ろからバレないように顔を出して様子を見ていた。
「……チッ」
睦月は諦めたように銃をしまった。
「こっちからは干渉できねえか」
「………何か…見つけたみたいだね」
即立ち上がり、いつの間にか居たかのように無ツ木の横顔から顔を出してそう言った。
「……異次元の扉だ」
「………なるほど…なら、例の失踪事件は解決するかもね。その扉を開けない限り、救出は不可能だけどね…(この中に慎太郎達……は、流石に居るわけないよねぇ〜)」
陽気なことを考えているが、このような状況ではないと我に戻り、扉の出現方法を探していた。
「……まぁ、いいか」
「…いいの?」
「仕方ねえや」
「……そう、ボクはこの謎解きをしたい、かな?(とはいえどうするか…光エネルギー、反応するかな?あと、は…)」
紗和は1人で考察を始めてしまった。その場から動かず、ずっと1人で考えて続けていた。素直に言えば止めた方が良い。
「戻るぞ」
「はぁ……分かった」
溜息を吐いた紗和は言われた通りに戻ることにした。
戻る直前に、小さく《毒》を塗ったが効果はないと判断し、戻っていった。
「……カレカレータ」
そんな声がしたように思った。
「ッ…!?(この声…)」
紗和は咄嗟に振り返ったが、誰もいなかった。
胸奥からさらに嫌な予感が増し、さらには恐怖を抱くようになってしまった。
その晩、とんでもない事件が起きた。
「うふふっ……あははははっ!」
哄笑とともに、ビルだとかが消え失せた。
「………息苦しい…」
紗和は小声でそう呟いて街を徘徊していた。ここのところ、慎太郎達との連絡が不通であり、自分の足で探し回っていた。
ふと、昨日と同じ場所で見たテレビに目が止まった。
「速報です。先程、對馬遊園地が突如として消えたという事件が発生しました。警察は事件事故両面から操作を始める模様です」
「……まさか…ッ」
紗和は何か思いついたのか、昨日行ったあの場所へ向かった。
「………絶対にこれだ」
普通なら何も見えないが、紗和には勘づいているのかその見えないものの前に立ち止まった。
「……まさか…ヤプールの…」
手を伸ばそうとしてもただ何も触らず、ただ空気だけを掴んでいるだけだった。
「………嫌な予感がする…」
一か八かで紗和はスマホを取り出し、慎太郎に通話をかけた。
「おかけになった電話は電源が入っていないか電波の届かないところにあるか貴方と話したくないためかかりません」
慎太郎の声が聞こえた。
「最後のセリフ…なんか腹立つ」
紗和はそう言って通話を諦めた。
「……頼むしかない、か」
紗和はそう言って羅衣達がいる基地へ向かった。
ふと、足を止めて背後を振り返った。やはり誰もいなかった。そしてまた何故か一か八かでスマホを取り出した。
「《アルセーヌ》」
小声でそう呟いた瞬間、紗和の身体に異変が起き、何もない場所に《スラッシュ》を放った。
斬撃と共にかかってくるは土煙。
ピリリリ、と音が鳴る。
「……!」
音を頼りに手を伸ばして握りしめた。
そして、パリン。
空間が割れた。
「この空間……ヤプールのと同じだ!!」
紗和は見つけた喜びのあまりに大声で言ってしまった。
「飛んで火に入る夏の虫」
そんな声がして、体に刺さるはクナイであった。
「ッ……ガフッ…な、なん、だ…?」
紗和は膝をついて吐血をしながら後ろを振り返った。
そこに居たは忍者。
忍者は紗和の顔を蹴り抜き、消えた。
「ガァッ!!」
その場に倒れ込んでしまった紗和は痛感のあまりに動こうにも動けなかった。
最後の願いとして、SDTに、通話をかけた…が
「たす……け、て…………」
通話を待つ間に気を失ってしまったのだった。
「……カレカレータ」
「今度は紗和が消えたのかよ」
「紗和…ッ」
キャスの瞳は鬼になった時と同じように見えるが、その瞳は怒りを表していた。
だがその後ろでは、明らかに挙動不審の羅衣がいた。普段怒らない羅衣が、身体中を震わせてしまうほどの静かな怒りを表していた。
「……で、これが異次元の扉らしいな」
そう言ってる側から超獣出現だ。
「ッ……肝心な時に…!キャスさん、後はお願いします…」
そう言って羅衣はその場から離れ、ヴィクロスへと変身した。
キャスは溜息を吐き、異次元の扉に手を伸ばした。
「……入ったら、二度と出られなくなりそう…」
『キュゴンッ』
超獣はそう吠えた。
「ッ……今度は何の超獣ですか…」
羅衣は両手の拳を強く握り、殴り飛ばした。
……かのように見えた。
殴っても当たらない。
「な…ッ!(な、何故ですか…今確かに当たったはず…透明化にも見えませんし…)」
よく分からないままヴィクロスは殴り続けた。
しかし当たらない。
その時ヴィクロスの脳裏に、ある人達の声が聞こえた。
「言った通りさ!信じられないだろうがあの超獣の体の構成物質は《リン》とその《炎》なんだ!理屈では説明できないが、我々は虚像と戦っていることとなる」
「それじゃまるで幽霊じゃあないか」
「現在開発中の超兵器でもダメか」
「絶対に役に立たない」
まるで幽霊のようだ。
ヴィクロスはそう察した。
消すことの出来ぬ炎、凍ることの無い恨み。
「ッ……エース…師匠…」
1人の声には聞き覚えがあった。自分自身が尊敬する
ヴィクロスはどうするべきか考えることしかできず、拳も体の横に下ろしてしまった。
「エース師匠……僕は…どうすれば良いのでしょうか…」
『諦めるな』
そんな声がした。
一方、異次元のなか。
「ッ……ッッ……」
クナイを刺され、その場で倒れていた紗和が少しずつ目を開き始めた。
そこには子供たちがいた。
楽しそうに街を壊す子供達。
「ッ……クッ…なに、これ…!」
紗和は痛感が残るものの、なんとか身体を起こしその光景を見つめた。
「わーい!」
「あはははっ!」
「破いちゃえー!」
無邪気ゆえの邪気がそこにあった。
「な……なにして、いるの?」
紗和は顔が真っ青になりながらそう言った。
「えいがみたい!」
「こわすのたのしー!」
「ど、どうして…壊すのが楽しいの?」
「とちゃもかちゃもおれをすてたもん!」
「ッ……!」
紗和は即座に察した、ここにいる子供達は《憎しみ》を持った子供達なのだと…
だが別の脳裏では慎太郎がいたら色んな意味で楽しんでそう、という謎の考えてもしてしまったがすぐさま消してどうやって止めるべきか考えた。
「(生殺与奪の権を)握っちゃえ!握っちゃえ!」
「………や、やめなさい!」
紗和は焦りのあまりに1人の子供の腕を握った。
「なんで?(殺意)」
「(もの凄い殺意だ…でも…)ダメだよ、君達がこんなことをしてはいけないよ。やめて…お願い」
紗和はなんとか止めようと、罪悪感を覚えながらも手刀で失神させようとした。
……果たして、子供達は救われたかはわからない。しかし、子供達とのリンクは途切れ、超獣は真の姿を表す。
「……ごめんなさい。どうか…ここから出られたら……幸せになって」
紗和はその場で膝をつきながら謝り続けた。だが他にも誰もいないのかを確認するために立ち上がり、さらに異次元内を彷徨い続けたのだった。
「……この声…は…」
ヴィクロスは脳に電気のようなものが通り、その声が誰なのか思い出そうとしていた。
『ゴアアアアアアアッ』
超獣は吠えた。
双竜超獣 アドルフキング。
「ッ…!!」
ヴィクロスは目の前の超獣を知っていた。地球に来る前、エースが直々に教えてくれたことだった。
油断禁物、ヴィクロスの脳内にこの文字が浮かんだ。
アドルフキングはその二つの頭から火球を放った。
ヴィクロスは回避し、アドルフキングを殴り続けた。
慎太郎達との稽古で教わったことを生かし、闘い続けた。
その至近距離で、アドルフキングは腹部の口から炎を放つ。
「アッツ…!」
炎が直撃し、熱さに耐えきれず後ろに回避する。相手が今まで戦った超獣とは桁が違うほどの強さを感じた。それでもなお、攻撃を止めることはなかった。
その時、アドルフキングはヴィクロスを容易く吹き飛ばした。
「ダァァァ……!」
ビルに激突したヴィクロスは痛みに耐えながらも少しずつ立ち上がろうとした。
そこに放たれるは無数のクナイ。
「なっ……ガァァァァァ!?」
ヴィクロスの身体中にクナイが直撃する。
「ど、どこか、ら…クナイがッ!」
「……忍」
『遅いよ旦那様』
「すまないね嫁様、遅れちまった」
ヴィクロスはクナイが飛ぶ先に顔だけを向けた。
黒い。
まるで闇が具現化したようだ。
「あれは…」
ヴィクロスはなんとか立ち上がり、フラつきながらも拳を構えた。幸いにもまだカラータイマーは鳴っていなかった。
「そろそろ」
『うん』
アドルフキングは隙を見せた。
黒いウルトラマンは何かを用意した。
黒滔々たる闇が包む。
「ッ……これ、は…一体なんなんですか…ッ(でも、今なら光線を打てるかもしれません…)」
ヴィクロスは両手をL字に構えてフロージウム光線を放った。
フロージウム光線は何かを凍らせた。
次第に闇が晴れていく。
「……キエテ・カレカレータ」
黒いウルトラマンは笑った。
「よし…ッ(このまま後砕けば…)」
拳を構えた瞬間、ヴィクロスの目に何かが映った。
────────凍りついた、ウルトラウーマンラピスであった。
「………ラピス…さ、ん…?」
ヴィクロスは震えた手で少しずつラピスに向けて伸ばした。
「ヴィク……ロ…ス………どうし……て……」
寒さに耐性がないラピスは凍った状態で喋り、その瞬間──氷はラピスと一緒に砕け散った。
「あぁ…!ラピスさ……ん……ラピスさぁん!!」
「残念だったね殺人鬼くん」
そう言い残し、黒いウルトラマンは消えた。
アドルフキングも霧散したのだった。
「ラピス……さん…」
ヴィクロスはその場に膝をついて虚無のような状態となってしまった。そして心奥底に溜めていた、ウルトラ戦士の心が闇に染まり始めた。
「エース……師匠。僕は…どうすれば良いんですか…?もう、戦いたくありません…」
ヴィクロスは青空に顔を上げてそう言った。ヴィクロスの瞳は、死に始め、光を失っていた。
気付けば、青空は急激に曇り、やがて雨が降り始めた。
雨に濡れるヴィクロスはただ、何もせずに膝をついたまま羅衣へと戻った。
雨でびしょ濡れになる羅衣はエースから授けられたブレスレットを右腕から取り外した。
「……僕は…仲間を殺した。なら……僕は、もう…ウルトラマンではありません…」
羅衣はそう言った瞬間、手にしたブレスレットをポケットにしまった。だがしまっただけで、《二度と》変身しないようだ。
そして最悪なのが、羅衣はその日から《無断欠勤》したのだった。
「……またサボりかアイツ」
「Imposterとちゃう?」
「まさか、アモアスとちゃうねんし」
「そんなこと言わないであげて。今は彼を……1人にさせた方が良いよ」
そういうキャスも羅衣の気持ちを同情していた。だが今の状況で羅衣を復帰させるのは流石に厳しいと思い、キャスは何もしなかった。仲間を殺してしまったことを信じたくなかったからだ。
「……はァ」
またため息が出た。
空気が重くなった。
その頃、惑星G-r・ゴーダ。
「テェヤァッ!」
「クソッ、この空間では力が出ないのか!」
「畜生、腹が減ってきた……」
「ケェアァッ」
「最悪……だ……」