ウルトラマンヴィクロス《完結》   作:ラピス・ラズリ

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本当の力と刀

 ───────遡ること、おおよそ三万年ほど前だろうか。

 エンペラ星人率いる闇の軍勢が、ウルトラの国に侵略をかけてきた。ウルトラ大戦争である。

 その大規模の歴史に一つの謎めいた歴史が書かれていた。その歴史は未だに解明できておらず、知る人は少なかった。

 その歴史は———ウルトラの剣士のことだ。

 あのウルトラ大戦争では己の拳で戦い、己の光線で戦っていたが……剣士はたった1人だけ存在していた。表の歴史には顔を出さぬ、ある剣士が。

 あれはそうだ、青年がヤプール率いる超獣と戦闘を繰り広げていた時の頃に話を向けるとしようか。

 当時、青年はコンビを組んでいた。ウルトラマンだと言うのにも関わらず銃撃の得意な戦士とのコンビを。

 青年は若くして普通のウルトラマンとは違い、刀を持って数々の怪獣や超獣を切り倒していった。デコボココンビでありながらも深い絆で倒していった。

 しかし……それは長く続かなかった。

 青年は相棒を守るために身を庇い、星となって消えてしまった。銃撃を得意とするものは深い悲しみに暮れ、刀を宇宙へと手向けた。そしてあの時の刀は無限の宇宙を彷徨い続けていると、御伽噺に刻まれている。

 そして相棒だった銃撃が得意だった戦士はというと……。

「力だ……力が欲しい! あの悪党共を皆殺しにできる力が!!」

 ────────その戦士は、ウルトラマンベリアルの一歩手前で留まることは出来た。しかし、未だに心に闇を抱え続けていたため、現在はゴライアンと共にウルトラキーの防衛を任されている。

「……という歴史をウルトラの父を聞いて。この刀が未だに存在するなら調査をしてほしいと頼んだわけだ」

「ほわぁ〜……」

 現在に戻り、光の国は平和で刀を探すために地球に行ってたラピスの他に、(ラピスには深い因縁がある)アバドン、ビータそしていつの間にか後ろにいるヴェラムはその話を最後まで聞いた。ウルトラ大戦争に参戦していたアバドンとヴェラムでさえ、聞いたことがない歴史だった。

「兄貴の裏でそんな事が。すっかり忘れてた」

「はぇーすっごい。銃撃ってあの子か。今じゃすっかり丸い性格だよな」

 ……前言撤回。二人とも聞いてねぇ。思い出しただけだ。

「……しかし、何故突然そのようなことを?」

「ウルトラの父曰く……『ヤプールは2度倒されたはずなのに再び復活したのなら、何か強い怨念を持って復活したのではないか』……と、言われてな」

「…………あれ復活だっけ?」

 このウーマン話聞いていないのか。

「復活だな、どう考えても。一度目はウルトラマンエース、二度目はウルトラマンメビウス。さらに言うと、ヤプールはその後にウルトラマンギンガとウルトラマンビクトリーによって二回殺されている。その後、残留思念はバラバになりウルトラマンZに殺された。つまり五回だ」

「ガタきてるなアイツ。さっさと引退すりゃいいのに」

 小競り合いになりそうな空気である。

「とりあえず落ち着け。だが今、こうして刀は再びここにあるが、錆びているが調べない限り……どうなのかは分からないだろう」

「あのー……質問です」

「なんだ?」

「その……先ほど話した歴史に出てきた『銃撃が得意なウルトラ戦士』は現在……どうなっているのですか? 今までウルトラキー? を守っているのですか?」

 U40出身のラピス。ウルトラキーの存在は知っているがよく分かってない。一応知識は良い方だが……

「ウルトラキーってのはなぁ、とんでもねぇ超兵器でもあるのさ。あの忌々しいウルトラマンケンがウルトラキーでデモス一等星を破壊しなければ、きっと俺の友達は────()()()()()()()()は死ななかったと言うのに!! ああーっ思い出すだけでイライラしてきた!! 夜襲だ、夜襲だ、カチコミだッ! アイツはブッ殺してやる!!」

 アバドンは三千万年と三千年前の怒りを思い出すと、紅八潮赫剱を取り出した。

「本編が進まないからとりあえず落ち着いて……また地球に行く時にご飯食べてストレス発散すれば?」

「その件だがちょうどいい。またヴィクロスがいる地球に向かってくれ」

 4人、数秒の沈黙が場を包む。

「……は?」

「えーと…………刀は見つけたし……もう良いのでは?」

「悪いが……この刀の件の調査は……まだ終わってない」

「─────────は?」

 アバドンは紅八潮赫剱を仕舞うと、今度はブラフマーシラーストラを取り出そうとして、ヴェラムに軽く小突かれた。

 

 場所は変わり、地球へ────。

 ようやく復帰することが出来た羅衣は……案の定その場で正座させられてしまい、長時間説教を喰らっていた。だが羅衣の状況というのを分かってくれていたこともあり、だいぶ優しめな説教だった。無ツ木は除いて……

「お前もうそろそろ仕事考えろ?」

「それは……ご勘弁ください……」

 震え声で羅衣は言った。反省している気持ちは充分あるそうだ。

「……ったく」

「状況が状況とはいえ……せめて長期休暇の届でも出した方が良かったのでは……」

 同族として羅衣の気持ちを察しているキャスは控えめに答える。正論でもある。

「……面目……ありません……」

 しかし、羅衣が無断欠勤をしてる間は何故か超獣の目撃情報や出現などは全く起きておらず、平和ではあった。まるで……羅衣もといヴィクロスがいないと始まらない《何か》がこれから起きるかのような予知かのように。

「……ったく、こりゃ面倒だ」

「な……何がですか?」

 羅衣は既に足の痺れに限界が来ていて立つことも出来なくなっていた。

 だが羅衣が再び隊員として基地に戻ってきた瞬間、辺りの空気は一気に変わったかのように見える。

「なんでもねぇよ、さっさと仕事に戻れ。でねえと殺す」

 無ツ木はそう言って睨みつけた。

「殺すのは勘弁してくださいよぉ……! 無ツ木さんはそこら辺は変わりませんね」

 ようやく立ち上がり、少し笑みを浮かばせながら軽く無ツ木の背中を叩いて仕事を再開した。

「うん……こうじゃないと」

 キャスは1人で笑みを浮かべてそう言った。

 

「無ツ木さん。昼食前に1本、手合わせよろしいですか?」

 いつもなら机に向かって仕事をしているか、美学好きなので愛用のスケッチブックに絵を描いているかの羅衣が自ら手合わせを申し込んだ。

「あぁ? 構わんが」

「ありがとうございます。無ツ木さんに負けるのはもう懲り懲りなんですよ」

 満面の笑みで言う羅衣。以前より増して、勝つ自信があるのだろうか。そしてその笑みは無ツ木から見れば《挑戦》的にも見えた。

「……ほう、いいぜやってみろ」

 そう言うと、彼は大鎌を取り出そうとし────

「場所を変えるかぁ」

「はい、良いですよ」

 

 シミュレータの中で、二人は構える。

 慎太郎達との特訓、そしてヴィクロスキラーの戦い以来、羅衣の中の何かが変わったようにも見える。

 だがそれは、今から始まる手合わせによって分かるが、果たしてどうなのだろうか。

「……開始だ」

 その瞬間、()()()()()()()

 最初の頃の羅衣は困惑しながら辺りを見渡し、不意を喰らっていたが……

「…………」

 ただ何も言わずに、その場に立ち続けていた。

「シッ」

 次の瞬間、大鎌が振るわれた。

 だがその大鎌の刃は止められた。いつの間にか羅衣の両手には、木刀が握り締められていた。武器は任務の時のみしか手にしない羅衣が、自分から武器を持っていたのだ。

「……ほぉ」

「……自分もよく分からないんです。自分は何故、《刀》を手にすると強くなるのかが……」

 ヴィクロスキラーの件の時、錆びた刀を見つけた瞬間だった。ヴィクロスの中に眠る隠された力が解放されたかのようにヴィクロスは刀を持つ瞬間、別人のように戦うことに。だがそれは本人さえよく分かっていない。ならばどうするべきか考えた答えは……『自分の手』で見つける、と。

 木刀で大鎌を振るいのけ反る。その瞬間、右肩、両足の脛を一瞬にして叩きのめした。

「うおっ!?」

 無ツ木は地面に附す。次の瞬間、また無ツ木が消えたと思えば、羅衣は顔面に鉄塊をぶつけられたかのような衝撃を覚えた。そして、大きく吹き飛ばされた。

「ッ……っと」

 だが羅衣は倒れなかった。木刀を両手に握りしめ、無ツ木に向け続けた。

「今の一撃……結構来ました」

 木刀の持つ手を変えた瞬間、羅衣は無ツ木の首元に先端を向けた。

「面、ありです」

 そう言った瞬間、軽く頭部を叩いた。

「チィッ!」

「ふぅー……ようやく、無ツ木さんに勝てました。嬉しい限りです」

 木刀を下ろして羅衣は嬉しそうな笑みを見せながら言った。

「無ツ木さんとは良き相棒でもありながら、良きライバルです」

「けっ、抜かせ」

「え? 僕は褒めただ……ッ!?」

 羅衣は何か視線を感じて勢いよく背後を振り向いた。だが背後には誰もいなかった。

「見えるもんだけ信じるな」

 その瞬間、羅衣の首筋に手刀が炸裂する。

「ッ……!?」

 羅衣は木刀の手持ち部分で回避したものの、背後から感じた視線は無ツ木からのでは無く思った。まるで、羅衣を《監視》しているかのような視線だった。

「はぁ」

「ッ……っと……」

 羅衣はそのまま体重を崩して地面に尻を付けた。

「……今のは……一体……」

「さあな」

「ッ……嫌な予感が……」

 羅衣が小声でそう呟く、扉の前にキャスがいることに気づいた。

「……ヤバイ知らせだよ」

「キャスさん……知らせ、とは?」

「……この数分で……無数の無差別殺人が発生したの」

 その言葉を聞いて羅衣の脳裏に《彼》が思い浮かんだ。

「……ハァ!?」

「ど、どこで?」

「人気のない路地裏、日陰など光が少ない住宅街など……ヤバイよこれ」

「……犯人は?」

「分かんない。警察も捜査難航。だから出動しろって隊長が……」

「…………ッ……(まさか、彼が……!)」

「……出動するしかねぇよな」

「うん、今すぐ支度して向かうよ」

「は、はい!」

 一同はとんでもないことに巻き込まれていることを知らずに殺人現場へ向かったのだった。

 

 現場は捜査難航ではあるが、血の悪臭が酷く、今にも嘔吐しそうだった。ただキャスに関しては一瞬だけヨダレを垂らしていた。

「我慢してください」

「分かってるよ……ジュル」

「……うーん、まあいい匂いだな」

 さすがは過去数百人を殺したサイコパスである。

「この副隊長はホントに……」

 無ツ木は呆れながら言った。軽蔑の声色だった。とはいえ鬼とウルトラ族の間に産まれた鬼子のキャスにとっては血まみれの人肉は食べ物に見えてしまうが、なんとか我慢していた。

 ここにビーマがいたら、多分鯖折りにされていただろう。

「…………ん?」

 ふと、羅衣は空を見上げた。一瞬だけ、何か影が通ったが瞬時に消えてしまった。

「……今、人影のようなものが通りませんでしたか?」

「え? 上から……? 忍者じゃあるまいし……」

「……忍者」

 無ツ木が消えた。

「……え? 無ツ木さん?」

 羅衣にとって忍者は1人だけ思いつく人物がいたが、なんの情報もないので探すことが出来なかった。

 時間だけがすぎてゆく……。

「捜査は難航のまま……か」

 殺人事件の書類を確認しながらキャスはそう言った。

 ただ羅衣は窓の外を見上げながら何かを思い込んでいるようだ。

「…………」

 ぼんやりと愛用のスケッチブックを片手に何かを描いているように見えて、何にも書いていなかった。

「羅衣? どうしたの?」

 キャスが声をかけるも、羅衣は何も返事をしなかった。疑問に思いながらそっと肩に触れた。

 その瞬間、羅衣の顔色は真っ青になり、その場に膝をついた。

「ッ……!」

「え!? ちょっと!!? 大丈夫!?」

 ────その羅衣の背に、何かが刺さった。

「……ガフッ!」

「ッ……隊長!!! 羅衣が!!」

 吐血をしながら羅衣はその場に伏せたが、即座に立ち上がった。

「キャスさ、ん……は、隊長のところへ……」

「……え?」

「急いで……!!」

 困惑しながらキャスは走っていく。それを見て、目の前の忍者は軽く笑っていた。

「死んでないとはたまげたなぁ」

「あなたと……ようやく手合わせが出来るようですね!」

 背中に刺さったものを自力で抜いて血を流しながらも話し続けた。

「目的はなんですか? ウルトラマンの皆殺しですか? それとも……ヤプールからの直々命令で殺せと言われたのですか?」

「それが僕の仕事だからね。君はシステムエンジニアに向けて「なんで要件定義なんて面倒なことしてるんですか?」だとか、「なんで黒い画面でプログラム打ってないんですか?」とか聞くかい? 空手家に「それ意味ある?」と聞くかい? そういう物さ。物の道理を知らん若造め、なんと愚かな!」

「さすがにそれは失礼じゃないですか()()()()さん。ヤプールからの命令ではないのですか? それとも、ただ単に無差別殺人の被害者の1人にさせようかなと思っているのですか?」

 海のように青い瞳が少しずつ光が消えて、普段が怒らない羅衣は瞳の光を消して怒りを表していた。あの羅衣が……《憤怒》に満たされているのだ。

「呵呵ッ、大馬鹿者のミスター童貞には分かるまいて」

 対して、ドーゲンは平然と────あるいは、むしろ歓喜に包まれているように見えた。

「童貞で悪かったですね。ですが……僕はようやくあなたへの報復を果たすことができますよ」

 ふと、ドーゲンは違和感を憶えた。普通なら既に出血多量で死ぬはずだ。だというのに、目の前の怨敵は満面の笑みで話していた。ウルトラマンとしての回復力のせいで止血し始めているからか、それとも。

「ドーゲンさん。あなた、とんでもない腹黒忍者ですね。今すぐにでも牢に入れたいですよ」

「腹黒で結構。そうじゃなかったらバガヴァッド・ギーターなんてアルジュナに教えてないじゃあないの。

 そもそもクリシュナとは黒や紺を意味する言葉、正しく僕を指す言葉だ。だってラインは紺色で肌は黒いんだから。

 さてヴィブロスだったか、ヴィカルナだったか。なんともまあ学のない子だ。地下の世界にいた住民や、そいつらに脳髄のどこかをおかしくされたヒトモドキとよく似ているよ────その能天気で阿呆な姿は!!」

 ドーゲンは笑っていた。

「この地球を守るのがウルトラマンの役目。貴方のような人殺しとは正反対なんですよ」

 何故か隊員服を脱ぎ始め、それでもなおドーゲンとの罵倒のような会話は続く。

「それにですねドーゲンさん。僕は貴方に負けるようなヘマはしませんよ。絶対に」

 羅衣は笑みを浮かべてそう言った。隊員服を脱ぎ捨て、血まみれのシャツが見えた。だが、羅衣自身の血では無かった。

「……ほう」

「ん? 身体に事前に細工していたの……驚きましたか?」

 笑いながら羅衣は自分の体を見せた。身体中に輸血パックを装備され、背中の部分が破れて血が流れているのだ。

「ある人から、手品のようなトリックを教わりましてですね……試したんですよ」

 そう言った瞬間、首元に師匠であるエースから直伝した長ドスを手にして首元に向けた。

「貴方への復讐と……無差別に殺した人間達の悲しみ……僕は貴方を許しません」

「勝手にしたらどうだい? 僕を止めることはまず不可能だ、聖仙でも何人か呼んでこない限りはね!」

 瞬間、ドーゲンは消失する。

 影に溶けたのだ。

「ッ……復讐心……こんな気分になるのは初めてですよ。ドーゲンさん」

 長ドスを手にしたまま、青空を見上げて呟く。

 2人の戦いが、今にも始まろうとしている。

 

 その青空に、翳りが見え始めた。

 ゆらり、陽炎がひとつ。

 その瞬間、弦楽器にも似た音か、或いは嘲笑にも聞こえる音色ともに何かが巨大化した。

 ─────元ウルトラ忍者部隊、ウルトラマンクリシュナだ。

「……キャスさん。ここは僕に任せてください。隊長にもそう伝えてください。そして……無ツ木さんが戻ってきた時にも」

 背後で何も言わずに佇んでいたキャスに向かってそう言う。困惑しながらもキャスは我に帰る。

「わ……分かった」

 その場から駆け走るキャス。その足音が消えた瞬間、羅衣は光に包まれ、ウルトラマンヴィクロスへと変身した。

「……ウルトラ忍者部隊……初めて見ました。エース師匠から話は聞いたことはありますが、お初目にかかります」

「ドーモ、ヴィクロス=サン。クリシュナです。エースの弟子死すべし、慈悲はない」

 諸手を合わせアイサツをするクリシュナ、アイサツなど意に介さずに構えるヴィクロス。いくらクリシュナが君視点では悪とはいえ、スゴイシツレイだぞヴィクロス!

 気付けば、少しずつ日が傾いてきた。夕焼けが美しい。

 ある市民は二人をこう言った。

《夕映えの戦士》だと。

「ウルトラマン夕陽に死す────ああ、なんとも素晴らしいじゃあないか」

 そう言って、クリシュナは笑った。

 ヴィクロスは何も言わずにただ長ドスを握りながらドーゲンに向けて構えた。夕陽に照らされるせいか、まるで死刑執行人にも見えてしまう。その姿はギロチン王(エース)にも見えた。

 その一方で、クリシュナは静かに立ち尽す。それはまるで影の巨人(トレギア)のようであり、そしてそれは殺し屋(スレイヤー)のようでもあった。

 先手を取ったのはヴィクロス。勢いよく長ドスを振り回した。

 クリシュナはそれを避ける。そして懐に入り、拳を突き刺した。

「イヤーッ!」

「ッ……」

 片手で受け止めて回避する。そのまま勢いよく顎を蹴り上げようとする。

 クリシュナはそれを予見したかのように避けていた。

 普通ならヴィクロスはその場で後ろからコントのように倒れていくが、そんなヴィクロスはもういない。顎蹴りで上げた足を勢いよく落とし、頭部に踵を直撃させた。まるで石頭ならぬ石踵のように。

 ……しかし、(クリシュナ)は痛覚を捨てた。故に、まだ生きている。

「……シュナアッ」

 刹那、クリシュナが風にかき消される。

 ヴィクロスは驚愕しながら慌てて長ドスを握りながら辺りを見渡す。一瞬の隙が命取りだと言うのを分かっていながらも、隙というのは必ず起きてしまうものだ。

「なんと隙だらけだろうか。イヤーッ!」

 その瞬間、ヴィクロスはなにかに刺された。

「ッ……しまっ……た」

 痛覚のあまりに長ドスを地面に落としてしまう。

「ヴィーッシュ……!」

 それは貫手である。その貫手はまるでナイフのごとき鋭さでヴィクロスを襲っていたのだ。

「ぐぅ……ッ!」

 なんとか長ドスを握ろうと手を伸ばす。それを、クリシュナは蹴りで止める。

「カカカ、武器など直ぐに作れば良い物を! フィーヒヒヒ、頂いていくぞ! イヤーッ!」

 クリシュナはヴィクロスを何度も殴り付ける。喉仏を殴打し、眼窩付近を殴打し、鳩尾を、鎖骨を、あらゆるところを殴打する。

「脆いなァ!!」

 その瞬間、クリシュナは片腕を斬り落とし、ナイフを全て弾くような一刀両断の動きが見えた。

 クリシュナは切られた腕を見て、ただ何も思わずにヴィクロスに視線を向ける。既に、クリシュナの腕はゆっくりと生えてきていた。

「……かた、な?」

 ヴィクロスの隣には光の国に預けたはずのあの錆びた刀が地面に刺さっていた。よく分からないまま刀を握りしめ、地面から抜いた。

 次の瞬間、刀が7色に光始めた。光の眩しさに思わずヴィクロスは目を閉じたが、光が収まるのを感じ、ゆっくりと目を開くと……自分が握る刀はいつの間にか刃が7色に光輝き、鍔には刀自身の名前のようなものが刻まれていた。

 

 

 その名も……七ノ宝刀(ナナノホウトウ)

 

 

 ヴィクロスは不思議と握る手に馴染みを感じ、ゆっくりとクリシュナに刃を向けた。クリシュナは何故かその姿のヴィクロスを見て背筋に悪寒が通ってきていた。

「……はァ、久々だよこの手は。ヴゥウウッ……ダァーッ!!」

 そう言うと、クリシュナは背後に廻るや否や、なんとヴィクロスの首をロープで絞めた。ギリギリと音が鳴り、光の血が止まり始める。

「ガァ……ッ」

 苦しみを感じる声を上げながらもヴィクロスは軽々と刀でロープを斬り落とした。

 その瞬間、クリシュナは気づいた。刃の色が変わっていることに……

「水……波ッ」

 ヴィクロスはそう呟いた瞬間、波の動きのように刀を振り回し、クリシュナの両腕を斬り落とした。

「ラァッ……! ……ク、ククカカカ。」

 ヴィクロスの攻撃を見て、クリシュナは静かに笑った。

 だがそんなヴィクロスは困惑していた。頭の中に知らない技や風景が流れていき、ヴィクロスは無意識にその力を放っていた。ヴィクロスは止まることがなかった。

「マトモな日本語も使えんガキが、粋がるでないわ」

 そう言ってクリシュナは静かに立つ。手裏剣を頸動脈目掛け投擲し、さらに撒き菱で足止めをする。

「日本語くらい……使えてますよ!! ボクは異国人じゃありませんから!!」

 存在自体が異国というより人外だが……ヴィクロスが無意識に放つ刀の技は止まらない。

「火・火炎放射」

 刃から火が出てきた瞬間、手裏剣を焼き落とし、撒きを薙ぎ払う。そのまま片足を斬り落とした。

「ラァーマッ……! バァーラッシュ!!」

 クリシュナの異常な体幹が片足立ちを容易にしていた訳で、倒れることはなく。そして彼は浮き、残った足で斬撃を放つ。

「(何故両腕を斬り落とし、片足を切り落としてもなお……正常なのですか!?)」

 ヴィクロスは考えながらも相手を倒すために動きを止めることはなかった。だがしかし、身体には限度というものがあり、カラータイマーが鳴り始めた。

「クカカカ、ざまあないねえ愚か者めが! その強大な力を何の代償もなく使えると思ったら大間違いだ、嗚呼哀れ哀れ! そうか! 君は……かわいそ……ク、カカ、カカカカカ!!!」

 クリシュナの失った四肢は、いつの間にかエネルギー体で再生されている。

 クリシュナは右腕を掲げ、超巨大なチャクラムを生成する。

「九十九戦輪を束ねれば、こんな芸当もできるんだよ。世は腐り、命は腐り、そして僕の魂も腐る。腐臭漂うこの命に、せめて僅かな慈悲を見せてやろう。疾走せよ、我が戦輪! 『 聖なる戦輪よ、遍く魂を喰らい裂け(スダルシャンチャクラ・ヴィーシュン)』!!」

 巨大な八つ裂き光輪がヴィクロスを狙う、だがしかして、ヴィクロスは刀を振るう。それは月の如き優しき光。

「月────狂月満ツ!!」

 満月が如き斬撃は、聖なる戦輪よ、遍く魂を喰らい裂け(スダルシャンチャクラ・ヴィーシュン)とぶつかり合い、クリシュナの放った技の軌道を大きく変えた。

 それを見て、クリシュナは少し驚いて。しかしこれでいいと笑い。

「あー、殺すつもりだったんだが。まあ、チャージはお陰で終わったよ。ではこの怒りを込めて今放とう────────この一発で地獄に行け!」

 クリシュナはマントラを唱えて印を組み、滅命魂(メツメイコン)光線を放った。

「クリィッ……シュナァアアアアッ!!」

「ッ……」

 強く刀を握り、タイミングを見る。

 どす黒い。当たれば即死は免れない。たとえそれがシヴァであろうとも。そういう物なのだ、滅命魂(メツメイコン)光線は。そう決まっているのだ、ヴィシュヌという神は。

 いくらチートラマンとて、殺すことができる。いくら破壊神であれど、全てを無視してぶっ殺す。ヴィシュヌの化身(アヴァターラ)、クリシュナは伊達ではないのだ。だが死んでしまえばこの物語はバッドエンド。

 そんなのは……

「断じてお断りします!!!! 日……日の丸!!」

 太陽の光を浴びた刃が太陽のようにヒカリ輝き、円を縦に書いた瞬間、光線を斬った。その直後、クリシュナの四肢と首を勢いよく斬り落とした。

「……驚いたな、こんなきちがいみたいなチートがいるとは」

 クリシュナは首だけでそう言って、

「まあ、そうか。そうだろうな。お前はそういう男だよ。カハハ、何ともまあ愚かで愉快で。莫迦を担ぎ上げるのはさぞ面白かろう、エース! さて、そろそろ爆散する頃合いか? ……では、最期くらい忍者らしく、()()()で締めるとしよう。三千年 孤独の道は 瞬く間─────サヨナラ!」

そう言い残して爆散した。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……好きに言ってください…僕も…よく《分かってない》のですから…」

カラータイマーが響き渡り、刀をいつの間にか腰に身につけていた鞘にしまい、空へと飛び立った。

地上では、フードを被って顔を隠しながらヴィクロスの戦いを見届けていた少女がいた。

「はぁー……一か八かで取った(盗んだ)錆びた刀がまさかあんな力を隠していたなんて…」

人気のない路地裏で一緒に身を潜めている3人に向かって言った。

「……エースさんに頼まれた調査って…本当はこのことだったのかな?」

「知るか、自分で考えろガイジ。脳みそって知ってるぅー?便利だよ脳みそ」

慎太郎は煽った。

「うるさいなぁ…一応頼まれの身なんだからちょっとは協力してよ…」

フードを外した紗和は慎太郎との口喧嘩が始まる。

なんとか止めようとする肇。興味なしにソシャゲをするシュン。今いる路地裏に本当に誰もいなくて良かったと思う。状況がいきなりカオスになったからだ。

刹那、羅衣の首に違和感が。

ぎぅ、と絞められている!

「ガァッ!?」

羅衣はなんとか振り向こうと自力で身体を動かした。

しかし解けない。

不運な事に、その隙に四人は消失している。

羅衣を締めているのは、クリシュナの悪霊だ。

羅衣の魂を削り取るがためだけに、そしてあわよくば殺すために。

これはクリシュナが()()()()()()()()を忌み嫌っているという性格に起因する。羅衣をチート認定したということだ。

「ッ……僕をどれだけ怨んでいるのですか?僕は…死んでも必ず生き返りますよ!!!」

羅衣はそう叫ぶ。だがもう手遅れであり、いつの間にか意識を失ってしまった。

次に亡霊は羅衣の心臓に毒を仕掛けた。気付かれぬように。悟られぬように。

そして最後に、亡霊は体細胞サンプルを持ち帰って異次元に消失する。

そして羅衣はただその場に死んでいるかのように倒れているのだった。

闇の奥底で…助けを求めながら。

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