暗い。暗い。何も見えない。寂しい。苦しい。痛い。
ここはどこ?なんで誰もいないの?
怖い。怖いよ。
誰か助けて。
闇の中で誰かがそう叫ぶ。先が何も見えない闇。目を開けても見えない永遠の闇。
それはあまりにも虚しく、苦しく、怖い。
《彼》は1人、その闇の中で目を閉じながら立ちすくんでいた。
何も見えない闇の中で独り。声を出そうにも何も聞こえない、誰もいない。
彼の心には不安と恐怖で満ちていく。
怖い、怖いよ。
この言葉が心に溢れていく。闇の中には光がない。自分の道を導いてくれるような光が一つもなかった。
闇に染まりたくないよ。
消えたくない。怖いよ。
誰か助けて
そんな悲痛の言葉が闇の中で響き渡るのだった。
時は遡り、リュード対ヴィクロス戦後になる。
ヴィクロスから羅衣に戻った瞬間、あの4人組は地球に戻ってきた。エースに頼まれた依頼が終わっていなかったわけだ。
だが、何故か突然言い合いが始まる。
「面倒くさ……」
ソシャゲに夢中だったシュンが、ある事に気づいた。
彼らの眼前に、普通とは言い難い、ゴスロリチックな女性がいる。そこで言い合いは中断される。目の前にいる女性は《人間ではない》と気づいたからだ。戦士の勘がそう言っている。
「………アドルフキング…だね」
「俺らに何の用だ…?あってもなくても殺すがな」
「普通なら止めるが相手が敵なら同感だ」
「せっかく
コメントはバラバラだが、アドルフキングは動こうとせず、話そうともしなかった。ただその場に突っ立っているだけだが、そこから感じる憎悪と闇の力は凄まじかった。
それでもこの4人が怯むことは、無かった。
3人の戦士が耳をふさいだ瞬間、慎太郎は「あ゛ぁ゛!」とシャウトする。瞬間、アドルフキングの周りは静寂に包まれる。
きぃ────……ん。
耳鳴り、そして────無数の、乱打。
「ブルゥ───────フィ────────────リィング!!」
ガギャギャギャギャ、と云う音がする。パワーA、スピードBの光速ラッシュだ。蒼き感情が慎太郎の中を駆け巡り、ブルーフィーリングがアドルフキングを殴り抜く。
その背後から、イマージュの攻撃が雨のように降り注ぐ。炎、核熱、氷、大地─────全属性が降り注ぐ!
アドルフキングは吹き飛ばされる。その腹を鋭く蹴る者がいた。
シュンである。
躰道の蹴りを放ち、瞬間的に動きを止める。
そして、紗和は毒を放った。
「やった!?」
「おいコラメスガキィ!!フラグ立てんな殺すぞ!!」
───────案の定、ピンピンしていた。
「コラクソガキィ!!!」
慎太郎は二の句が継げなくなった。身体はブロンズになっていた。
シュンと肇も────────そして、紗和すらも。
「フフフ……首尾よく行えたようだな、ヒッポリト星人!」
「ヒョポポポポ!この地獄星人、やってやりましたぞよ!」
異次元空間で、異次元人と地獄星人が談笑していた。
「アドルフキング、辛いことをさせたな。すまなかった……しかし、これで計画は遂行できる!」
「……旦那様を迎えに行ってきますね」
「────異次元の恐怖を思い知らせてやろう。愚かな人類よ!」
ヤプールは哄笑した。
失意に染るアドルフキングの肩には、黒い亡霊がいた。
時は戻り、SDTの医務室。そこには道端で倒れているところを発見された羅衣が死んでいるかのように眠っていた。
無ツ木に関してはあの日以来、姿を見なくなってしまった。隊員として動けるのはキャスと隊長である常田のみになってしまった。
たった2人で任務を遂行するのは肉体的にキツいが、それでもなお任務は必ず遂行し続けた。
しかし、医務室で眠る羅衣は日々魘されていた。《怨霊》が羅衣を苦しませているからだ。
苦しい、怖い、辛い、嫌だ。
闇の中で羅衣はその言葉を呟き続ける。
「うぅ………ここ、は…」
静かに瞳を開けると、海のように青い瞳とは裏腹に周りは闇のように黒く染まった場所だった。道もなければ光も見当たらない。
「お前は無能だな」
そんな声が木霊する。ゾクリと背筋に悪寒が通り、手にしたばかりの刀を構えながら辺りを見渡す。
「お前は永遠に孤独だ」
「雑魚が」
「お前なんか消えてしまえ」
「お前はどうしようもないクズだ」
「そんな刀なんか捨てろ」
「その刀で腹斬りしちまえ」
罵詈雑言が羅衣の精神を攻撃する。額に汗が落ち、呼吸を荒くしながらも周りを見渡し続ける。
「お前が役立たずだから身内が死ぬんだ」
「お前の母親も…だ」
その言葉を聞き、羅衣の顔中から汗が流れ落ちる。
「母上が……死んだ?嘘だ…母上が…」
「お前の家族はもうこの世にいない。お前が長年放置していたせいだ。お前が見捨てたのも突然だ」
ショックと受け入れない現実のせいで刀を両手から離そうとした。その瞬間だった…
「諦めるな」
そんな声が闇の中に木霊した。声は変わりながらも木霊し続けた。
「お前はそこ諦めるのか?」
「ヤプールを倒せるのはお前だけだ」
「その刀は何のために手にしたんだ?強くなるためだけか?」
その言葉が木霊した瞬間、離しかけた刀を再び握る。だがリュードはそれを邪魔するようにさらに追い討ちをかける。
「やめろ、言葉に耳を傾けるな。全て嘘だ。お前は信用されてない。全員お前のことを恨んでいるぞ」
だが羅衣は微動だにせず、言葉を聞き続けた。
「お前しかいないんだ。この地球に現れる超獣を倒せるウルトラマンは…」
「お前は私の誇りだ、ヴィクロス」
羅衣のためでもあり、仲間との絆が羅衣を闇から這い上がるように木霊し続けた。
ふと、奥を見ると微かな光が見え、羅衣は一歩一歩光に向かって進む…
「お前はそこに行くヤツじゃねぇ。こっちだ。俺と来い」
闇のように黒く、そして冷たい腕が羅衣の腕を掴む。
リュードが引き止め、羅衣は先に進むことが出来なかった。
「我が受け継がれ者に手を出すな」
そんな言葉と共にリュードの腕が斬られる音が聞こえた。
羅衣は思わず背後を振り返る。目の前には見知らぬウルトラマンが自分が持つ刀と同じ刀を持っていた。
「………キサマ…」
「我が刀をもつ者。お前には使命がある。進め、ウルトラマンヴィクロス」
「…あなたは?」
羅衣が問いかけた瞬間、光に吸い込まれるように身体が勝手に後ろに引っ張られていった。
「あなたの本当の役目は…この時よ」
そんな声を最後に、光が全体に包まれた。
「……母上…ッ」
最後にそう呟き、羅衣は目を覚ました。しかし、心臓には激痛が時折通ることが多かった。リュードに毒を盛られてしまったせいで進行してしまっていた。それでもなお、羅衣は病室のベッドから飛び降り、いつもの隊員服を身につけ、腰に刀をつける。
羅衣、いや…ヴィクロスは…
───────覚悟に満たされた
「……羅衣ッ!?」
通路を歩いてたキャスが気付き、駆け足で近づいた。
「平気なの!?あんなに苦しがって1週間も寝ていたんだよ!?」
「……もう、大丈夫です。僕には、僕のやるべきことを終わらせないといけないんです」
だがキャスにはよく分からず、首を傾げていたが…
いつもとは違う羅衣が目の前にいることだけは分かっていた。
その時、基地内にコールが鳴り響き渡る。窓の外を見上げると、羅衣の心が一瞬にして復讐心へと変わった。
アドルフキングが街で暴れていたのだ。
『ゴアアアアアアッ』
アドルフキングは叫びながら街を破壊していた。
「……アドルフキング…」
羅衣がそう呟いた瞬間、瞬時にブレスレットを服の袖から出した。
だが隣にいたキャスが何故か羅衣を止めた。
「君の心臓には毒が盛られているんだよ?これ以上動いたら…」
だがしかし、羅衣の瞳に決心を感じたのか、震える手が止まらなかった。
「……分かってます。無謀なことは。ですが…これがボクの使命なんです」
キャスは止めることが出来ず、離れて託すことにした。
「私も……ウルトラ族なのに…」
「それでも…この使命は僕が選ばれたんです。だから、僕がやらないとなりません…!」
ブレスレットが光り輝いた瞬間、羅衣は光に包まれてヴィクロスへと変身した。腰には刀が身につけられていた。
『ゴアアアアアアアアアッ』
アドルフが復讐心を表したかのようにヴィクロスに向かって吠えた。ヴィクロスは微動だにせず、その場に立ちすくみ続けた。
『返セ、私ノ旦那様ヲ…返セ!!』
「殺したことには謝ります。ですが…僕をあの時騙したことを謝ってくれれば…謝りますよ。アドルフ・キング」
冷静な口調で刀を抜いて刃を向ける。
『ゴアアアアアアッ!!』
アドルフは吠えに吠え、ヴィクロスに向かって突撃する。
その後を追うように刀を持ちながらヴィクロスも突撃した。
『ゴアアアアッ』
吠えながら高熱火災を吐いて攻撃する。
「火……!」
刃を火災に向けてその火災の中に入れた。その瞬間、刃は炎のように燃え始める。
『ッ……忌々しいウルトラマンが…!チート過ぎる…ッ』
「お好きなだけ言ってください。これはチートでもなんでもありません。《受け継いだ》だけです」
いつものヴィクロスはそこにいなかった。目の前にいるのは、復讐心で怒りを表すヴィクロスだった。刀を持つヴィクロスはどことなく、恐怖を覚える。
『ッ…ゴアアアアアアッ!!』
アドルフは怒りに任せて吠え、再び高熱火災を放った。
「(日差しが強い…頭から勝手に流れる光景に身体が動かされる、でも…良いんですよね…《父上》)炎天下!」
縦に勢いよく振り上げた瞬間、高熱火災が真っ二つに割れ、アドルフに炎天下が直撃した。
『ゴアアアア…ゴアアア…ッ』
「ふぅ…ふぅ…」
しかし、まだ使い慣れていないのかカラータイマーが鳴らなくとも疲れは一気にやってくる。身体中の負担が大きいのだ。
『何よ…疲れてるじゃん』
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…それで煽っているのなら、誤算ですよ」
刃は既に元に戻っており、ただの刀になっていた。刀の力は一度しか使えないのが分かり、ヴィクロスは意識と脳を集中させて動きを考えた。
脳裏には、見覚えのない記憶がすぐに蘇る。刀を持つ人物は見たことはないが、不思議と懐かしさを感じた。
それ以前に、心臓には毒が盛られているせいで余計な動きが出来なかった。一歩でも油断したら身体中に毒が回り、今度こそバッドエンドとなる。
「………木」
倒れていた木が刃に当たった瞬間、草の匂いと一緒に刃の色が緑に変わり、蔦が生えた。
『ゴア!!』
勢いよく突進するアドルフキング。だがそれはすぐに止められた
「蔦花ッ」
地面に刀を刺した瞬間、無数の花蔦が無数に生えまくり絡みついた。
『ゴアッ!ゴアアアアッ!』
高熱火災を放ち、蔦を燃やしたその瞬間だった。
「火…火災……ッ」
ヴィクロスはいつの間にか目の前に現れ、刃が燃えに燃えていた。
「これで終わりですッ!」
刀の持ち手が変わった瞬間、アドルフキングの目の前にいるヴィクロスが見知らぬウルトラ族が映った。そのウルトラ族は《剣士》だった。
「大火災ッ!」
『ッ……ガァァァァァァァァァ!!!!!!』
アドルフキングは恐怖の叫びを上げながら炎に囲まれながら爆発四散したのだった。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…ガフッ…!」
元には戻らず刀を地面に落として咳き込み続けた。心臓に盛られた毒がさらに悪化し、身体に悪影響を悪化させていた。
小さくなれば毒はさらに回るが、光エネルギーにも限界が来ていたため仕方なく人間体に戻り、体力を温存し、呼吸で毒の回りを抑えた。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……エース、師匠…僕は……生き、続けます…」
周りは瓦礫まみれで人は誰もいないが、羅衣だけがその場に倒れ込み、青空に向かってそう答えた。
だが、絶望はまだ終わらない。
どこからか、聞き覚えのある笑い声が上から聞こえてきた。
「ッ…!?ガァッ、ぐッ…」
毒の痛みに耐えながらも立ち上がり、空を見上げた。腰に背負った刀が何故か重く感じながらも、立ち上がり、空を見上げた。
『フッハハハハハハッ!!!!』
「ッ………ヤプール…!」
『無様だなぁウルトラマンヴィクロス!だがそんな状態の貴様はもうすぐ死ぬ!貴様が殺したリュードの毒が心臓に盛られ、身体中に周り、やがて死ぬ!』
ヤプールの言う通り、羅衣もといヴィクロスは毒の周りが先程の戦いにより身体半分が毒に盛られてしまっていた。
『今の貴様になら私が勝つ!この地球でウルトラマンは死ぬ!ここを墓場にし、我がヤプールの帝国を作るのだぁ!!』
「ふざけるのは良い加減にしてください!まだ僕は戦えます!!」
『フフフ…毒で身体を汚染され、最早死ぬ直前のお前が勝つと?滑稽だなぁ!だが、私だけだと思うかぁ〜!?』
「なに…!?」
その言葉と直後に背後から黒い影と重い足音が聞こえた。
『ヒョポポポポ……』
「ッ…!?ヒ………ヒッポリト星人!!!!??」
地獄星人 ヒッポリト星人。かつてウルトラマンエースとの闘いの、エースを含め、ウルトラ兄弟をブロンズにさせた張本人。ヤプールが復活したことにより、再びヤプールの手によってヒッポリト星人も復活したのだった。
最も、最悪な事態なのに気づいたのはヒッポリト星人の手のひらに置かれたあるものが目に入った瞬間だった。
「あ……ッ」
一瞬にして声が止まった。
ヒッポリト星人の手のひらに置かれたモノとは…
ブロンズ像にされてしまった諸星慎太郎、松本肇、橘シュン…そして宝星紗和が置かれていた。
羅衣は驚きのあまりに声が出なかった、そして…最後の戦いの覚悟を決めた。
『ヒョポポポポ!地獄星人ヒッポリト星人とヤプール様が貴様を死へと運んでやろう!』
『エースの弟子!ウルトラマンヴィクロス!!コレが最後の戦いだぁ!!!!』
「望むところです!!」
こうして、因縁のヤプールとの最後の戦いが幕を開けるのだった…!!
次回…last battle…!!