オーディションを問題なく、通過したマリア。その後もすぐにヒットチャートに名を連ねるようにまでなっていて、その存在は無視出来ないほどになっていた。
「わかっていますね? マリアは今が大事な時期です。余計な問題を起こさぬようお願いしますよ?」
教授からの連絡を終えて、俺もその気持ちは一緒だった。マリアをトップアーティストにするためにも、ここで変な問題を起こすわけにはいかない。
「マリア、わかっていると思うが、ここからが勝負だ」
「もちろんよ」
収録のあった楽屋で、俺の言葉にそっけなく返すだけだが、その目には覚悟と闘志を感じ取れた。
「君がマリア・カデンツァヴナ・イヴだね?」
そんな俺たちにとって問題となる存在が現れる。大手レコード会社の重役らしいその人物は、マリアの全身を舐めるように見つめている。
「君が望むなら、うちの所属になれるように手配しよう。すぐにその名を全米に知らせることが出来ると思うが?」
マリアの肩に手を置きながら話すその姿に嫌悪感が凄まじい。
「君の働きによってはもっといい条件もつけよう」
「有難い話だけど、断るわ。私は自分の力で這い上がってみたいのよ」
肩に置かれた手を振り払い告げるマリア。断られると思っていなかったのか、重役の顔は真っ赤になり、怒っているのがわかる。
「失礼しました。しかし、マリア本人が望んでいないのでこの辺で」
マリアを引き連れ、すぐに部屋を後にする。
「教授、報告が」
マリアをホテルの部屋まで送り、すぐに報告する。大手レコード会社から万が一妨害などがあれば、こちらの目論見はダメになる可能性が高いからだ。今後の動きを相談するためにも。
「それはいけない話です。妨害ももちろん考えられる。なにより、マリアを愛人にでもしようとしたことがダメですね。処分しましょうか?」
教授ではなく、ドクターが報告を聞いてくれてよかったと感じる。
「了解です。ただちに」
マリアを守るのは俺の役目だ。
「ちょっと信、聞いたかしら? 昨日の彼、惨殺されたらしいわよ」
翌日、あの人物が死亡したニュースが朝から流れていた。マリアも目にしたのだろう。俺を見かけるとすぐにその話題を振ってきた。
「沢山人物から恨みを買っていたようだし、仕方ないことかもしれない」
実際、彼と一夜を共にしてデビューすらさせてもらえずにいる女性も多いようだ。他にも関係を強要され、断って仕事を回してもらえなくなり引退や移籍した者も多い。誰に殺されても文句は言えないだろう。