銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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小説執筆の息抜きに小説を書く生き物・・・それが我々書き手である!(色んなものから目を背けながら
だって書きたくなったんだもん! 書きたくなったんだもん!


プロローグ 彼の最期と彼女の入学試験

 悲鳴と破壊音が、ジェダイテンプル内に響き渡る。同時に迫り来る暗黒面のフォースの揺らめきに、テンプル内に詰めていたすべてのジェダイが緊急事態を悟って駆け出した。

 そのほとんどが既にライトセーバーを手にしており、臨戦態勢に入っている。クローン戦争を通じて将軍としての色を強めていた彼らは、以前にも増して荒事に敏感になっていた。

 

 だが、そんな彼らをしてもなお。

 

「やれ」

 

 青い光刃を手にした若き英雄……そのはずの青年を前に、硬直するしかなかった。

 

 クローン戦争の英雄、アナキン・スカイウォーカー。そのはずだった。近年稀に見る強力なフォースの持ち主であり、人柄も申し分ない好青年だったはず。

 その彼が。率いていたクローントルーパーに躊躇なく指示を出し、自らもまたセーバーを閃かせて殺戮を始める。それはあまりにも、信じがたい光景だった。

 

「そんな、嘘だ、なぜ!? なぜ君がこんなことを!?」

 

 馴染みのあるフォースを感じたがゆえに、誰よりも早くそこにたどり着いたジェダイナイト、アヴタス・イーダが思わず叫ぶ。

 

 しかし返答はなかった。その首を狙って、アナキンのセーバーが襲いかかる。

 フォースの導きに従い、アヴタスはそれを辛うじて防いだ……が、辛うじてでしかなかった。

 

 元よりアヴタスは、戦場に立つ機会が少なかった。ジェダイ公文書館での情報の管理と精査こそが本分だった彼は、この戦時下にあってなお実戦経験が少なかったのだ。

 そんな彼が、いかにアナキンと訓練した時間が他より長いとはいえ、ドゥークー伯爵を圧倒し暗黒面に身を浸したアナキンに抗するなど不可能であった。

 

 二合。それがアヴタスにできた抵抗であり、三回目の一閃は寸分の狂いなく彼の首を刎ね飛ばした。

 

 ごろり、と身体と首が床に転がる。

 

 その彼が完全に意識を閉ざすまでのわずかな間、二人は視線を重ね合う。

 

 ――なぜだ、アナキン! 誰よりも英雄然としていた君がなぜ!

 

 もはや動かせない口の代わりに、目でそう問いかける。

 

 だが、アナキンからの返事はなかった。彼はただ憤怒に満ちた顔に、暗黒面に堕ちたことをうかがわせる黄金の瞳をギラつかせているだけで。

 

 アヴタスには、彼がジェダイというものに怒りを抱いてるのではないか、という裏付けのない推測を抱くことしかできなかった。

 

 しかしその時間もすぐに終わる。アヴタスにとっては人生を振り返るだけの時間があったようにも感じられたが、それはただの錯覚でしかない。

 いわゆる走馬灯の中には、アナキンとセーバーを合わせて稽古をした記憶や、共に機械いじりをした記憶なども含まれていた。それがまた、アヴタスになぜと思わせる。

 

 が、それへの解答などあるはずもなく。走馬灯が今というこの瞬間に追いつくと同時に、彼は一気に意識を失った。

 

 刹那のうちに終わった生命の一部始終を眺めていたアナキンは、終わりを認識すると同時に動き出す。ライトセーバーを振るい、フォースを迸らせて、彼を止めようと躍りかかるジェダイたちを蹴散らす。

 そうして床を蹴り、殺戮に戻った彼はもう二度と振り返らなかった。

 

 残されたのはアヴタスと、彼同様にこの場で殺されたジェダイたちの骸のみ。

 それすらも、すべてが終わったあとになされたテンプルの破却によってあっさりとこの世から失われた。彼らは、路傍の石のごとくこの銀河から消えたのだ。

 

 実際、皇帝となった暗黒卿にとっては石ころ同然だっただろう。そこに一人の人間としての尊厳など、見出されるものではない。アヴタスを含めて、ここで死に絶えたすべてのジェダイたちは、暗黒卿にしてみればその他大勢でしかなかったのだ。

 

 それでも、時間は平等に過ぎていく。低きに従う水のごとく、それを止められるものなどいはしない。

 

 月日は過ぎる。共和国と共にジェダイが滅びてから、幾年。気が遠くなるほどの時間が経った。

 共和国どころか、その後継となった銀河帝国も、新たに興った新共和国すらも時の彼方へ過ぎ去った、あるとき。

 

 銀河共和国のあった銀河から遠く離れた、惑星地球。その北半球に位置する巨大な列島で、一人の赤ん坊が自我を取り戻した。

 

***

 

 太陽系第三惑星、地球の日本国。その中央からやや東寄りの自治体、静岡県の雄英高校において、今まさに入学試験が始まろうとしていた。

 

 全体のおよそ八割に当たる人間が何らかの、しかもそれぞれが唯一の特異な能力を持つこの星において、この試験は日本のみならず諸外国にとっても無視できない。

 なぜなら雄英高校は、世界に名を轟かせるトップヒーローを始め、多くの有能なヒーローたちを世に送り出してきた名門校。彼らの多くは多大な活躍をしており、次代を担う新星が現れるかどうか期待を寄せられているのだ。

 

 その試験の内容は、筆記と実技の二種類。中でも重要視されるのは実技であり――

 

《ハイ、スタートー》

 

 ――今まさに、気の抜けた一言で幕を上げたその内容は、将来ヒーローになるなら絶対に求められる戦闘力をはかる実戦的なものだ。

 だが、開始の合図に応じてすぐさま行動できた受験生は、膨大な人数の中でも両手で数えられる程度しかいなかった。

 

 無理からぬことではある。絶対的に治安のよくないこの星にあって、日本は例外的にかなり安全な国だ。そこで育った少年少女たちが、いきなり実戦の中に放り出されてすぐさま動けるはずがないのである。

 

 しかし何事にも例外はある。前述した通りわずかではあるが、確かにすぐさま動いた若者も確実にいた。

 

 その中の一人に。

 多種多様な見た目の者が多い現代社会にあって、高校の入試会場にはいささか不釣り合いにも見える幼い少女がいた。

 

 おおよそ110センチ程度の矮躯。手足は細く、筋肉はおろか脂肪すらあまり見受けられない骨ばった身体つき。

 けれどもサイドに一本流した三つ編みを飾りとしたかんばせは、それらを補って余りあるほどかわいらしい。将来は誰もが振り返る美人になるだろうと思わせる……しかし今はまだ幼い少女。

 

 にもかかわらず、彼女の動きは機敏だった。彼女があてがわれた区画においては誰よりも早く動き、また誰よりも早く試験場となる模擬市街地に踏み入った。

 

 そんな彼女を、仮想敵であるロボットが早速迎え撃つが――ビルの壁を蹴って高く跳躍した彼女は、ロボットの頭上から落下。着地すると同時に、機体をひしゃげさせてあっさりと破壊してしまった。

 

 ゆるりと立ち上がり、会場の奥に目を向ける少女。その手元には、オレンジ色に輝く光の棒を生み出すシンプルな機械。

 ヴゥン……と独特の音を響かせるそれ――遠い昔、遥か彼方の銀河系でライトセーバーと呼称されていた武器を慣れた手つきで振り回す。そのまま彼女はセーバーを持ち上げ、顔の横で構えると、再び走り出した。

 

 視線の先には多くのロボットがいる。しかしどれもこれも、ただ少女目がけて殺到するだけ。重量や武器があり、数で勝るのにもかかわらずそれしかしないロボットに、少女はこの程度かとこぼした。

 

「脆いし、頭も悪い。これなら通商連合のバトルドロイドのほうがよほど有能だぞ」

 

 身体が跳ね上がる。壁を、標識を、柵を、そして何より標的のロボットをも足場にして、少女は立体的に、縦横無尽に動き回る。

 

 フォーム4、アタロ。ライトセーバーを用いた型において、最もアクロバティックに戦う型の動きだ。かつて今の彼女よりも遥かに小柄ながら、最強と謳われたグランドマスターが得意とした型でもある。

 そしてかような超人的な動きを可能とするものこそ、フォース。宇宙のあらゆる生物を繋ぐエネルギーである。

 

 かくしてフォースに導かれ――来た道とは反対側に彼女が着地すると同時に、この場にいたロボットが軒並み倒れ伏した。

 破壊痕はごくわずか。いずれも的確、かつ最小限の動作で破壊されていた。

 

 そして、少女は残心しない。ちらりとも振り返らず、さらに奥へと進んでいく。

 慢心ではない。彼女にはそれだけの確信があったがゆえのことだ。

 

 それに遅れること十数秒後。彼女が去った場所に、ようやく他の受験生たちが辿り着く。

 彼らは破壊されたロボットたちを見て、一様に顔色を悪くした。試験場は広い。そして仮想敵は有限だ。しかし総数は明らかにされていない。このままでは……。

 

「くそう! なんだあのチビ助!」

「言ってる場合かよ! 早く敵を探さないと……!」

「ちょっとどきなさいよ! 先に行けないじゃない!」

「うるっさいわねそっちこそどきなさいよ!」

 

 彼らは焦燥感に苛まれるままに、感情を露わにして争い合う。

 

 しかしそれは、モニタールームで様子を見守っていた試験官たちに筒抜けだ。彼らの多くは表には出さなかったが、内心でこの会場から受かる人間はほとんどいないだろうとは全員が思った。

 だが、だからといってこの学校は容赦しない。日本一のヒーローアカデミアであり、実際多くのヒーローを輩出するこの学校の校訓は、Plus Ultra(更に向こうへ)。土壇場で成長し、限界の向こう側に行けるものでなければ門をくぐることを許さないのだ。

 

 やがて試験の残り時間が五分となったとき。試験官の一人……百人が見たら百人ともネズミと評する男がボタンを押し、最後のギミックを起動させた。

 するとすべての会場にそれぞれ一つずつ、巨大なロボットが解き放たれたではないか。

 

 誰もが目を奪われたそれ。サイズは周囲の一番高いビルと同じくらい。当然歩くだけでも被害が出る規模であり、にもかかわらずそんな代物が破壊行動を行うとなれば、たまったものではない。

 実際、()()()()()会場で受験生たちは逃げ惑い始めた。事前の試験説明で、ポイントにならないお邪魔虫と説明されていたことも影響しているだろう。

 

 だが、わずかだが例外もいた。たとえば、逃げ損ねた少女を助けるために、()()()()()()()()()“個性”を振るった少年とか。

 

 そしてライトセーバーを振るう少女もまた、その例外の一人。彼女は小さめのビルの屋上に立ち、街を破壊して歩くロボットを軽くねめつける。

 

「……あれもAT-TEウォーカー(クローン戦争当時、銀河共和国で用いられていた大型歩行兵器)よりは脆そうだ。ほとんど宇宙進出していない星の科学力ではこれくらいが限界ということだろうか?」

 

 そう呟く彼女の姿には、悲壮感はおろか緊張感すらなかった。

 いや、試験に落ちるかもしれないとか、怪我をするかもしれないといった緊張感はなかったが、代わりに――()()()()()()()()()()()()()()()()()緊張はあった。

 

「とはいえ、あのサイズだと……このセーバーでは力不足かもしれない。……ならば」

 

 そして彼女は、ライトセーバーを握る自身の手のひらに軽く意識を集めた。それまで一切意図していなかったものを、引っ張り出すように。

 瞬間、彼女の“個性”が発動し――

 

「よし」

 

 ――ヴゥン!

 ライトセーバーの音が、光が、何より熱が、強まった。もはやこれは棒ではない。その名の通り、ありとあらゆるものを切断する光の刃だ。

 

「はっ!」

 

 そうして少女が、地面を蹴る。フォースの力を身にまとい、明らかに人を逸脱した跳躍をした彼女は巨大ロボの肩に着地する。

 と同時に、ライトセーバーが振るわれた。アタロの基本に忠実に、すぐさま跳ねて他の場所へ。そして移ると同時に再度セーバーを振るい、さらにまた……。

 

 掛け声とともに続けられるその作業が進むにつれて、ロボットのあちこちが地面に落ちていく。轟音を立てながら落下したそれらは――すべて抵抗なく切断されていた。

 やがて数十秒ののち。ふわりと着地した少女の後ろで、完全にバラバラになったロボットがぐしゃりと潰れて活動を停止した。

 

 少女は緩やかに立ち上がる。と同時に、ライトセーバーからオレンジ色の光が失われ、柄だけとなる。

 

 そして、

 

《終ゥーー了ォーー!!》

 

 少女が一息ついた瞬間、終わりを告げるアナウンスがすべての会場にこだました。

 

***

 

 雄英高校の一般入試からしばし経ったある日。関東のとある寺に一通の親展封筒が届けられた。

 特に感慨もなく開封された封筒から転がり落ちたのは、小型のホログラム装置。そしてそこから投影されたのは――

 

《私が投影された!》

「――オールマイト?」

 

 そう、日本どころか世界に名を轟かせるナンバーワンヒーロー、オールマイトだった。彼は筋骨隆々の巨体を仕立てのいいスーツでピッチリと覆い、いつものように陽気に微笑んでいる。

 

《HAHAHA、驚いたかい!? それならば関係各所に黙っていたかいがあったというものだね! そう……実は私ことオールマイトは、来年度から雄英高校の教師として赴任する予定なのさ!》

 

 そしていつものようにややオーバーな身振りを交えて話し始めた。

 

《さて、では早速君の合否を通知しよう! まずは筆記だが、こちらは問題なく合格ラインだ! まあ、こちらは不安視していなかっただろうね。何せ()()()()()()()()()()()、これくらいはできないとな! 問題は実技のほうだが……》

 

 ここでオールマイトはずずいと()()()に顔を大きく寄せてきた。撮影していたカメラに近づいたのだろう。

 しかしそれでも、少女はさほど感情を震わせることなく、淡々と映像を眺めていた。

 

《獲得ポイントはなんと107! 振り分けられた区画の仮想敵を一人で半分近く倒してしまったのは、まったくもって見事の一言だ!》

 

 ビシッと音が聞こえそうな勢いで指を向けてきたオールマイトに、少女は小さく頷く。

 

《だがそれだけじゃあない! この試験では敵ポイント以外にも、審査制の救助活動ポイントというものが隠してあった! 大雑把に言えば、誰かを助けることで獲得できるポイントということさ! 実際の合否は敵ポイントと救助活動ポイントの合計で判断される!》

 

 ここでようやくポジションを引いたオールマイトは、咳ばらいを一つしてから改めて口を開いた。

 

《増栄少女! 君は最初から最後まで一貫して仮想敵の撃破に注力していた。ゆえに救助活動ポイントはほぼゼロだ! まあ他の受験生が接敵する前に君がかなりの仮想敵を片付けてしまったから、あの区画では救助活動ポイントを稼ぐことがそもそも困難な状況だった、というのも事実ではあるんだが……》

 

 しかし、と彼が言葉を繋げる。

 

《最後に君は、ゼロポイントの仮想ヴィランを一人で打倒した! あれは間違いなくあの場における脅威であり、ほとんどの受験生が逃げ惑っていたことを考えれば、アレを撃破した君には救助活動ポイントを与えるべきだという意見が試験官の皆さんの中で大勢を占めてね! 協議の末、君には10の救助活動ポイントが加算された! ゆえに……》

 

 オールマイトが間を取った。その瞬間、彼の頭上に数値が表示される。117。つまり、

 

増栄理波(ますえ・ことは)、117ポイント! 文句なく、今年の一般入試最高得点だ!》

 

 そういうことであった。

 

 だがそれでも、彼女は……理波は、年頃の少年少女のように興奮することはなかった。合格(それ)が当たり前のことだと言わんばかりだ。

 

《さあ増栄少女、来るといい! 雄英(ここ)で君を待っているぜ! ――》

 

 そしてプツリと映像が消えた。

 ふう、とかすかにため息の音が室内に響く。

 

『まずは合格おめでとう、かな』

 

 だが直後に、どこからともなく男の声が聞こえてきた。理波以外に誰もいないはずだというのに。

 しかし理波はうろたえることなく、ゆっくり後ろへ振り返った。そこには、半透明の男性がこれまたどこからともなく出現していた。緩やかなローブを身にまとった青年だ。

 

「一応、ありがとうと言っておく」

『おいおい、随分と無感動じゃないか。この国で一番難しい学校なんだろう? 少しは喜んでもいいじゃないか』

「そうは言うけれどな、アナキン。私は人生二回目なんだぞ。特に実技……戦闘に関しては、戦争を経験しているんだ。あの程度では()()にならない。ギャザリング(ジェダイの通過儀礼。ライトセーバーを造るために必要な素材を探すこと)のほうがよっぽど難しかったぞ」

『よく言うよ、君はほとんど実戦に出ていなかったじゃないか』

「そうとも言う。それでもシスの暗黒卿と実際に戦ったことがあるのは、かなり貴重な経験と思わないか?」

『おっと、その話は僕に効く。オーケー分かった、これ以上はやめておこう』

 

 理波の問いに、男……アナキン・スカイウォーカーはおどけた様子で両手を上げて見せた。

 

 相変わらず半透明で、向こう側が透けて見える彼はありていに言ってしまえば幽霊である。しかし単なる幽霊ではない。宇宙全体に満ちるフォースと一体化した、フォーススピリットだ。

 生命としてのフォースが宇宙のフォースと交わり、すべてと結びつくことが可能となった存在。それが今のアナキンであり、彼はこの宇宙のどこにでもいない存在ながら、どこにでも存在しており、死してなお今を生きるものとも交信することが可能なのだ。

 

『……しかし、こんな宇宙の端くれに生まれ変わった君と再会して、かれこれ……あー、この星の基準で六年といったところか。ようやく君はスタートラインに()()()()()わけだな』

「ああ。可能な限り近道をしたけれど、それでもなんだか随分と長かった気がする」

『それだけ学ぶことが多かったってことさ。実際、無駄ではなかっただろう?』

「まあ……それは、本当にそう思う。いかに当時の共和国やジェダイが硬直していたのかは、生まれ変わらなかったら疑うことすらなかっただろうな」

 

 自嘲気味に肩をすくめた理波に、アナキンもまた似たような態度で小さく苦笑する。

 

『どんなものでも永遠はないということだな。この星の宗教観では、無常観と言うんだったか? つまりはそういうことさ』

「ん。けれど失われたなら、永遠でないなら、もう一度作りなおせばいいだけのことだ」

『……僕としては複雑だ。ジェダイに思い入れがあるのは間違いないけれど、嫌な思い出だってたくさんある。それに人間や人間の社会を下手に善と悪の二元論で語るのは悪手だ。共和国から帝国、新共和国までの歴史を振り返ればそれは間違いない事実だ』

「それは私もわかっている。けれどそれは前提として、腐るための平和が必要なんだ。翻って、この星はいまだ平和とは言えないからな」

『確かに。地域によってはタトゥイーンのほうがマシだもんな』

 

 かつての共和国でも、どちらかと言えば無法地帯に属する星のたとえに二人は苦笑する。

 

 そう。今のこの星は、地球は、決して平和ではない。あちこちで“個性”を用いた犯罪が日常的に発生しており、その内容も多種多様だ。日本は数少ない例外だが、それでもかつての“個性”が存在しなかった時代に比べれば、死者も行方不明者も明らかに多いのが現状だ。

 

 だからこそ、

 

「この星には今、ジェダイが必要なんだ。平和の守護者の存在が」

 

 彼女は、増栄理波は決意した。

 かつてジェダイとして、銀河の平和を守ってきた前世を持つからこそ。

 社会のために、平和のために、何より人類の自由と尊厳のために。今一度、遠く過去のものとなったジェダイを復興し、国という線引きを超越した治安維持組織として戦うのだ、と。

 

 くしくもその在り方は、この世界で多くの子供が憧れるヒーローという職業と、その存在理念と合致する。理波がヒーローの免許を求め、この国で最も実績あるヒーローアカデミア、雄英高校を受験したのはひとえにそのためである。

 

『……まあ、かつての友のよしみだ。協力はするさ』

 

 対するアナキンは、少しだけ言葉を濁したものの、賛同はした。

 理念は間違いなく素晴らしいものだ。平和を、秩序を希求することは人として正しいだろう。それでも彼は、どうしても楽観視できなかったのだ。

 

 なぜなら彼は知っている。自身を正義だと、善だと信じて疑わないのは、ジェダイの悪い癖だ。

 それゆえに振るわれる心ない言葉の刃は、間違いなく無用に悪を増やすだろう。それでもそうした悪がどうして悪であるのかを理解できず、延々と争い続ける。ジェダイとシスの歴史はまさにその繰り返しだった。

 

 その古い歴史に学ぶのであれば、善と悪の相克は互いの互いへの無理解が生むのだろう。アナキンはそう考えている。

 すなわち、真の平和のためには悪への理解は必要不可欠だと。それは一度悪の道に入ったことがあるアナキンだからこそ……善と悪双方に深い造詣があるアナキンだからこそ辿り着いた答えであり、だからこそ彼は理波の中に確かにある危うさを懸念する。

 

(まあ、この六年間でだいぶ改善したと思うし、大丈夫だろう。信じて送り出すのも師の務めか。師というのは本当にいつも難しいな、オビ=ワン)

「? どうかしたか、アナキン?」

『いや、何にも。……それよりコトハ、通知の確認も終わったことだし修行といこうじゃないか。ここまで近道してきたんだ、ヒーロー免許も最短で取りたいだろう?』

「それもそうだな。では……よろしくお願いします、マスター・スカイウォーカー」

 

 不意に畏まった理波にアナキンが頷き、ふっと消えた。

 彼を追って、理波は部屋を出る。さらには家を出て、その敷地内にある山の中へと向かう。

 

「父上、修行に行ってまいります」

「おう、夕飯までには戻ってくるんだぞ!」

「はい」

 

 途中で父と言葉を交わして。




いやさ・・・ヒロアカの地名がスターウォーズ由来なのは周知の事実だけどさ・・・それならそのままスターウォーズの銀河出身者ぶちこんでもいいじゃんって思って・・・。
連載するかどうかは未定だけど、やるならこのあと一旦時間遡って過去編から始めるか、そこらへんスルーして原作時系列から始めるか、どっちがいいだろうねぇ。
ヒロアカ的に、オリジンは描いとくべきだろうから過去編からかなー?

ちなみに、スターウォーズキャラはアナキンしか出てこないと思う。あくまで本筋はヒロアカなので、あんまSWキャラ出すのもなんかなって感じなので。

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