銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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9.学校の闇

 ……悔しいことに、アナキンが用意した作品群をじっくり読み込んだあとのギャザリングは、あっさりと完了してしまった。

 読んでいる最中も何度かギャザリングはしていたので、少しずつ成功に近づいているという実感はあったが……だとしても今までの苦労とはなんだったのか。

 

 まあだからとて、人間の負の感情というものを完全に理解できたとは口が裂けても言えないのだが。それでも前世の頃に比べれば、多少は理解が広がったのだろう。私は暗黒面の帳を、少しだけだが開けられるようになったのだ。

 

 この時点で、私の小学校四年生は終わる直前まで来ていた。そこからはライトセーバーを製作するよりも飛び級のための手続きなどで時間を取られたため、本格的に動き出せるようになったのは年度が明けて私が中学校一年生になってからだった。

 

 さて、それはともかくいよいよライトセーバーの製作である。これについても、ギャザリング同様ジェダイとしては修行の一環になっている。

 

 どういうことかと言うと、ジェダイが用いるライトセーバーは完全なハンドメイドなのだ。それも、使い手が自分のために製作するセルフメイド。自分のために、自分の命を預ける品を、図面もないところからフォースに導かれるままに造り上げる……そういう修行なのである。

 このとき、どういう部品を用いるのか、そういったところまでフォースの導きに委ねることになる。それだけフォースとの感応力を試されるため、単に機械いじりができるだけでは完成まで持っていけない。まさしく、フォースセンシティブによるフォースセンシティブのための道具と言えよう。

 

 そんな経緯で造られるため、ライトセーバーは二つとして同じものは存在しない。イニシエイト用の低出力なトレーニング・ライトセーバーはまた例外だが、少なくともパダワン以上のジェダイが持つセーバーは必ず個人ごとの特徴が色濃く表れる。

 それは単にデザインの違いだけにとどまらず、場合によっては上下にそれぞれ光刃を展開できるダブルブレード・ライトセーバーや、杖の中にセーバー機構を完全に収納してしまうケイン・ライトセーバーなど、そもそも普通とは異なるものになることもある。

 

 ちなみに光刃については、カイバークリスタルと調和して覚醒させることでクリスタルそのものに色がつき、それによって決定される。人によって、あるいは製作した時期によってセーバーの色が異なるのは、そういう理由だ。

 だがジェダイは一般的に青や緑になるため、私としてもその手の色には親しみがある。半面、赤といえばシスの色であり忌避感がある。

 

 しかしことさら特異な色と言えば、やはりマスター・ウィンドゥの紫だろう。あれは限りなくダークサイドに近づかなければ扱えない究極のセーバーフォームを用いる、マスター・ウィンドゥだからこその色であろうな。私ではそこまでは到達できまい。

 

 ……話を戻そう。

 

 そういうわけで、ライトセーバーを造るにはフォースの導きに従う必要がある。フォースが選んだ材料を、フォースが選んだ造り方で組み上げる。

 このため、単に大量のネジやらなにやらをロット単位で購入して、それを使う……という方法はなかなか難しい。フォースが選ぶものを聞き取り、それを入手する必要があるため、大量に買った中の一つたりとて使わない可能性すらあるからだ。おかげでセーバー製作は難航した。

 私が成人していて、自由に使える金が大量にあればよかったのだが……いかんせん、いまだ八歳の身の上では材料調達が難しいのだ。少しずつ製作は進んでいるが、恐らく完成は年を越すだろう。

 

 一方、他の修行はどうかと言えば、”個性”のほうが最近になってだいぶ伸びてきている。

 当初は手で触れたものしか増幅できなかったのだが、最近は私の身体が接触してさえいれば、効果を及ぼせるようになってきた。その幅も任意で調節できるようになったし、増幅していられる時間も伸びてきたし、消耗する栄養も少しずつだが減ってきている。

 

 ただ、発動の条件に私の栄養を消費するという欠点は、どれほど鍛錬してもなくせないようだ。こればかりはそういうものとして諦めるしかない。

 

 しかしこの欠点のために、私の身体はまったくもって成長しない。餓死するような事態はさすがにもうほとんどならないが、それでも鍛錬すればするだけ栄養を失うため、日常的に栄養失調である。

 最近は私の胃腸の機能を増幅するなどして、大量の食事が可能になってきたが……それでも足りないときは本当に足りない。特に永続増幅を行ったときは、相変わらずごっそりと栄養を持っていかれる。

 

 おかげで我が家の食費はすさまじいことになっているだろう。私が妹のために開発した子守用ドロイドの特許が取れなかったら、今頃我が家は経済的に干上がっていたかもしれない。まだ妹も幼いというのに、本当に申し訳ない。

 

 その辺りの問題を解決するために、最近の趣味はもっぱら電子翻訳機開発に凝っている。主目的はドロイドの電子言語を翻訳するためであるが、応用すればこの星に無数にある言語に対しても使えるようになるので、やっておいて損はないだろう。

 あとは、並行してスピーダー造りも行っているが……こちらはリパルサーリフト(反重力で空中に浮揚する技術)がまったく形にならず詰まっている。かつては何気なく使っていたものが、いかに優れた発明であったのかを思い知らされる日々である……。

 

***

 

 そんな私の中学校生活であるが、まあ順調である。学校の授業についていけないなどということはまったくないし、周囲の人間とも卒なく付き合っている。

 部活には入っていないのと、鍛錬に忙しいために放課後の人付き合いは悪いかもしれないが……これは将来のためなので、仕方がないと割り切っている。

 どのみち年度が明けたらまた飛び級する予定なので、今の同級生とことさら親しくしてものちのち縁が切れてしまうだろう、という思いもなくはない。

 

 しかしそんな学校生活で、一つ気になることがある。最初のうちは気づかなくて、二学期も終わろうかというところでようやく気づいたのだが。

 なんと、学校の中に極めて濃厚なダークサイドの気配がする人物がいるのだ。いまだ初心者とはいえフォースの暗黒面を少しは理解したからか、一度気づいてしまえばそうだとはっきりと感じ取れてしまう。

 

 とはいえ感じられること自体は、将来のことを思えば悪いことではない。ダークサイドの気配が強い人間は何かしら問題を起こしやすいということであるため、治安維持の観点からは感じられることに越したことはないからだ。

 だが、それが中学校という場所で感じられるとなると、いくらなんでも問題であろう。

 

 しかし問題はまだある。感じられるダークサイドの気配の中にある悪意が薄いのだ。

 ないとは言わない。間違いなく、ある。しかし薄い。暗い力を感じるが、それだけなのだ。

 

 だが、そんなことがあるのだろうか? ダークサイドとは、暗黒面とは、すなわち人の悪意そのものではないのか?

 

『君の見立て通り、渦中のダークサイダーにはそんなに悪意がないんだろうな』

 

 私の話を聞いたアナキンは、あっさりとそう言った。

 

 だがそれでも私は理解ができず、首を傾げるばかりだ。

 

「悪意のないダークサイダーなんて、存在するのか?」

『さすがに完全な悪意ゼロなんてやつはいないだろうが、ままあることだぞ。一番わかりやすい例を挙げると、自分のやってることが誰にとっても正義だと一切疑ってないやつなんかがそうだ。あとは……そうだな、これは稀な例だが、他者を害することがその人間にとって愛情表現になっている場合もあるぞ』

「? ……???」

 

 ええと、何を言っているのかよくわからない。

 

「何を言っているのかよくわからないのだが……」

『いや、これについては本当にそのままだとしか言いようがないんだ。色んな人間がいるからな、そういうやつだっているさ』

「そ、そうなのか……?」

『ジェダイをやっていると、あまりそういう人間と出会う機会はないからな。あったとしても、そこまでその人を深く見る機会もなかった。罪を犯したものを捕縛することはあるが、そうしたものを裁く、あるいは更生させるのはジェダイの任務ではなかったからな』

「まあ……それは、確かに」

 

 ジェダイの前で「私にとっての愛情表現は、相手を攻撃することです」などと言ったら、とりもなおさず捕縛されることだろう。

 そして、警察機構に引き渡して終わるはずだ。アナキンの言う通り、ジェダイに裁判権などはない。あくまでジェダイは共和国からは独立した、対等な存在だったからだ。

 そうでなくとも、ジェダイは一人で何十もの惑星を任務地としていたし、その備えのためすべきことはあまりにも多かった。

 

 ……おや? それは……もしや、この星のヒーローと、あまりにも状況が似ているのでは……?

 

『そういう人間は極めて少数だが、確かに存在するんだよ。多様性をこそ生存戦略の軸に据えた人類ならではの症例と言えるだろう』

「ん……、あ、ああ、なるほど……」

 

 だが考えを進めるよりも先に、アナキンの言葉が続けられる。私は慌てて意識を戻した。

 

『だが、今言ったようにそういう人間は極めて少数だ。彼らにしてみれば、一般的な社会は大層住みづらいだろうな。自分とは異なる価値観を常に強いられているんだから』

 

 アナキンはそこで言葉を切ると、どこか遠い目をした。懐かしむような目だ。

 

『そういう「普通」になれないやつが、裏の世界にはそれなりにいるものさ。タトゥイーンにだっていたし、コルサントのアンダーワールドでもそうだった』

「コルサントでも、あったのか……? というか、詳しいんだな……」

『まあね。何せ僕は生い立ちが特殊だし、シス時代は各地の視察とかで、わりと銀河星系の隅々まで見て回ったからな』

「経験者は語る、ということか……」

 

 暗黒卿がする視察、の意味を考えると少々恐ろしいものもあるが……。

 

『ちなみにオビ=ワンなんかは、そういう人間とも積極的に交流して情報源にしていた。アンダーワールドはさすがになかったと思うが、労働者街くらいならむしろ顔が利いたまであったぞ』

「マスター・クワイ=ガン門下はどうしてそう型破りなことばかりするのだ?」

 

 言われてみれば確かに、クローン戦争が始まる直前に私の上司だったマスター・ジョカスタ・ヌーは、マスター・ケノービが公文書館のアーカイブデータを軽視していると一時期憤慨していたことがあったな。なんでも、公文書館のアーカイブよりも一庶民の記憶を頼りにしたとかなんとか。

 

 まああのときはマスター・ケノービが正しく、ドゥークー伯爵によって削除されたデータが存在すると明らかになり、公文書館は戦争みたいになったのだが。マスター・ヌーも、後日マスター・ケノービに謝罪したという。

 

『話は少し逸れたが、君の質問に対する答えはまあこんなところかな。他に質問は?』

「あ、いや。ひとまずのところは十分だ。ありがとう、勉強になったよ」

 

 疑問は一応解消した。

 普通とは少し異なるが、とりあえず何かしでかす可能性が高いことは間違いないようだ。であれば、未然に防がねばなるまい。

 

 ということで、私は学校生活の傍ら学内に感じられる暗黒面の帳の正体を探り始めた。

 

 私が見つけていたダークサイダーとは、三年生の女子生徒である。名前をトガ・ヒミコという。彼女が抱く暗黒面の帳は、どのようなものなのか。なるべく早く見極めなければならない。

 

 トガ・ヒミコという少女は、一見すると周囲に溶け込んでいるように見えた。よく笑い、それなりに広く同級生と交友があり、平穏な日常生活に埋没している。

 そんな、いわゆる普通に見える少女である。少なくとも今は、何か悪事に手を染めているようには見えない。

 

 しかしそんな彼女の笑顔は、フォース越しに人を見る私からしたら、どこか空虚なものに見えた。なんだか作り物めいた、仮面のような。

 そしてそこから湧き出るように感じられるものは、他者を害したいという欲求であった。調べた範囲では、現時点で何か犯罪に手を染めているわけではなさそうであったが……しかし深く、複雑なその気配は、恐らく長く抱きながら抑えつけてきたゆえのものに見えた。

 

 そして暗黒面に疎い私には、彼女が抱く欲求の詳細はわからなかったが……少なくともそうした欲求を、しかし悪意があって抱いているわけではないように感じられた。恐らく、アナキンが稀な例としたほうに当たったらしい。それこそがトガなりの愛情表現らしいのだ。

 実際、注意して観察していなければわからなかったが、彼女は時折一人の男子生徒……の、首元をねっとりと粘つくような視線で眺めていることが何度かあった。他の人間にそうした視線を向けることはほとんどないため、愛情表現という話にも信憑性があると言えよう。

 

 そしてこれが問題だが、彼女がまとう暗黒面の帳は、日々大きくなっていた。ということは、トガの中で今は利いている抑制が外れつつある、ということでもあるはず。

 それがいつになるかはわからないが、ここまで来てなかったことにできるはずもない。

 

 とはいえ、いきなり「そういうことはよくない」などと声をかけても、不審者扱いが関の山だろう。相手はまだ犯罪に手を出したわけではなく、少なくとも人々の中に溶け込んでいるのだから。

 

 なので、ここは監視しておくべきかと考え、カメラ搭載の小型ドロイドを造ったのだが……造ってから思った。もしやこれは犯罪なのでは? と。

 

「断言はできんけど、犯罪になる可能性は十分あるな。盗撮関係の何かに引っ掛かりかねん」

 

 少し悩んで父上に聞いてみたところ、その通りであった。

 

「正当な理由があれば、なんとかなると思うが……そもそも監視したい理由は、理波(ことは)の第六感なんだろ? それはさすがに、なあ……公安を頼ればまた話は違うだろうけど、それはそれでちょっとな……」

 

 だろうなぁ。

 

 前世、共和国でジェダイがときにそうした行為を許されていたのは、それだけジェダイが社会に認知され、その存在そのものが犯罪抑止力となり、それだけの利益を共和国に供していたからだ。フォースという概念も、詳細はわからずとも存在そのものはそれなりに流布していたことも大きい。

 

 だが今の私が同様のことをしても、認められることはないだろう。何せ今の私はただの中学生だし、フォースにしても社会に認知されているものではない。だからこそ第六感としか言えなかったのだが、いずれにせよ現状では監視は難しいと言わざるを得ない。

 

 ではどうするべきか。

 すぐに思いつく案は、監視を人力で続けるか、あえて距離を縮めることだが……。

 

「俺なら距離を縮めるね」

 

 父上は、迷うことなくそう断言された。

 




はい、というわけで本作のヒロインは、トガちゃんです。
タグの通り、彼女をヒーロー側に引き込みます(正義に目覚めるとは言ってない)。
前回ギャザリングの回でわりとあからさまな伏線入れたのでお分かりの方もいらしたかもしれませんね。

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