銀河共和国の首都惑星、コルサント。ここにジェダイの本拠地、ジェダイ・テンプルはある。
一つの大きな基部と、そこから伸びる五つの塔によって構成されるテンプルは、銀河に満ちるフォースの意思を読み解くための修道院にして、ジェダイを目指すイニシエイトやパダワンのための学び舎であり。
また同時に、ジェダイという組織の意思決定機関でもあり、さらには銀河共和国とジェダイが脈々と積み重ねてきた歴史を、知識を、記録として保存する情報保管庫でもあった。
そんなジェダイ・テンプルの入り口は、主に二つある。一つは正面入り口に繋がる、行進の道。長い階段を上ればテンプルの門と、その手前に並ぶ偉大なジェダイマスター四人の像が見えてくるだろう。
もう一つは、スターシップなどを用いて空から来るものたちの場所。テンプルの横から突き出た発着場である。
そんな発着場に、一機のスターシップが着陸した。白を基調に、赤い縁取りがなされた半円型の機体。ジェダイが外交船として用いる輸送船、T-6シャトルである。今、一組の師弟が任務を終えてテンプルに帰還したのだ。
シャトルから降りた二人は、まっすぐにテンプルの四隅に立つ塔の一つへ向かう。評議会に任務の報告をするためだ。
それが終われば、ひとまずは自由行動になる。いかにジェダイが超人的な活躍をするものたちとはいえ、休息は必要なのだ。
しかし三十代も半ばを迎えたマスターに対して、二十歳に満たない若いパダワンはまだ元気だった。
「休めるときに休んでおくことも大事なことだぞ、アナキン」
「わかっていますよマスター! 大丈夫、長居したらあいつにも迷惑がかかるし、適当なところで退散します」
「……ほどほどにな。ではまたあとで」
「はいマスター!」
茶色の装束をなびかせて、きびすを返したパダワン……若き日のアナキン・スカイウォーカーは、テンプルの内部へ足を向けた。若さに、そして何より自信に満ち溢れたアナキンは、肩で風を切るかの如く堂々と歩き去っていく。
彼の背中を、オビ=ワン・ケノービはやれやれと言わんばかりに肩をすくめて見送った。だがその瞳に宿るものは確かな親愛であり、両者の絆は間違いなく本物であった。
このときはまだ。
一方、オビ=ワンと別れたアナキンが向かった先は、テンプルの基部となる場所。その中の一角である、ジェダイアーカイブだ。
公文書館とも呼ばれるここは、広い銀河系のあらゆる情報保管室の中でもトップクラスの情報を持つ。いわばジェダイの叡智の集積場である。
ただ、アナキンはあまりアーカイブを訪れることはない。もとより感覚派の天才肌である彼は、お行儀よく勉強するということがどうにも得意ではなかった。特に、アーカイブ特有の静謐な空気と、お堅い雰囲気が苦手であった。
それでも彼がアーカイブを訪れたのは、もちろん目的があってのこと。ただしそれは、調べたいことがあるとか、勉強したいと思ってのことではない。
彼の目的は――
「やあアヴタス! 相変わらず窮屈そうだな」
「アナキン? 戻っていたのか」
――共に学んだ同期、友人との邂逅である。
書架の前に立ち、古めかしい紙の書籍を折り目正しく元の場所へ陳列し直していたのは、平均より大きいアナキンをなおも上回る体格の巨漢であった。ヒューマン種としては限界近くまで大きくなった肉体は大きさに違わず筋骨隆々としており、手にした書籍がおもちゃのように見える。
だが男の顔は友人との再会にすっかり綻んでおり……そのギャップある姿に今回も耐え切れず、アナキンはくすくすと笑う。笑いながら、男――ジェダイナイト、アヴタス・イーダに歩み寄った。
そうして二人は、軽くハグを交わす。交わすと同時に、アヴタスがその身体を活かしてアナキンをきつく抱きしめた。
「いいい痛い痛い、痛いって!」
「君、また笑っただろう。いい加減に慣れてくれたまえよ」
「しょうがないだろ、君が一足先にナイトになってからというもの、会う機会が減ってるだろ。どうにも免疫がつかないんだよ」
「言わせておけば」
「うわっ、待て待て、僕が悪かった! ごめんって!」
「まったく……」
おどけたように両手を上げ降参と表明するアナキンに、アヴタスは仕方なさそうに笑う。
その顔はかなりの強面であったが、そこに不快や嫌悪はない。交流のないものは不機嫌に見えるかもしれないが、十年近い付き合いがあるアナキンには、ちゃんと楽しくしているとわかる。
アヴタスはそうやって笑いながら、アナキンの姿を上から下まで確認する。そして特に問題がないようだと判断して、一層柔らかく笑った。
「……怪我はないみたいだな。よかった」
「おいおい、今さら僕がそんなヘマをするわけないだろ?」
「そういうところだぞ、アナキン。まったく、君は少々自信過剰だ。それがいいところでもあるけれど……心配する私の身にもなってくれ」
「まったく、君は心配性だよ」
まるで母親に案じられながら叱られた子供のように、ばつが悪くするアナキン。
そんな彼に、アヴタスは当たり前だと答える。
「君の無茶に付き合って、私が何回バクタタンク(いわゆるメディカルポッド)に放り込まれたか教えようか?」
「……オーケー分かった、この話題はやめよう。僕が悪かった」
「いいや、やる。私が振った話題だぞ、やめるわけがない」
「勘弁してくれ! 今しがた評議会のお偉方から小言をいただいたばかりなんだ!」
降参、これ以上はやめてくれ、と声を上げるアナキン。
だが、そのセリフは失敗だ。アヴタスの顔がひそめられる。
「はあ? ……アナキン、君また無茶なことをしたのか」
「あ。い、いやいや、待ってくれ、待つんだアヴタス。今回は僕は無実だぞ!」
「どうだか……どうせあれだろう? 自分から面倒ごとに首を突っ込んだり、率先してとんでもないことを散々したんじゃないか?」
「本当だって、今回ばかりは僕じゃない!
この返事に、アヴタスは遠い目をした。
「……マスター・ケノービも、なんだかんだで無茶をするよなぁ……」
清廉潔白、質実剛健、謹厳実直。
ジェダイマスター、オビ=ワン・ケノービを評する言葉は様々あるが、いずれも理想のジェダイと称えるものばかりだ。それだけの実績があり、認められているからこそだが……いざというとき、わりと派手にやらかす面も間違いなくあった。
横の繋がりが薄いジェダイだ。オビ=ワンとの面識があまりないものはそれを知らないが、アヴタスはアナキンを通じてそれなり以上に面識がある。だからこその、ある種の諦観があった。
「普段はすました顔でお堅いことばっかり言うくせにな。まあ、あの人もマスター・クワイ=ガンの弟子ってことだよ」
「君……他人事じゃないってこと、わかっているかい?」
「さあ、なんのことだか?」
ただ、こんな会話は二人の間では日常茶飯事だ。
ひとまず会話にオチがついたところで、改めて二人はくすりと笑い合う。
「で? アンシオンはどうだった?」
「悪いところじゃなかったよ。少なくとも景色に関しては、コルサントのごちゃごちゃしたのより僕好みだ。人々も……まあ犯罪者はともかく、大体は素朴で……あれで紛争が起きてなかったらね」
アヴタスの問いに答えて、アナキンは首を振る。
今回のアナキンたちの任務は、その紛争の調停であったのだ。
「そうか……最近は本当に物騒だな。なぜこうもあちこちで紛争が頻発するのか」
「ドゥークー伯爵のせいだろ?」
「それはわかっているよ。私が言いたいのは、彼の口車に乗るものが、星が、こうも多いのはどうしてかということだ」
「うーん、それは色々理由があるからこれって言いきれないよ。アンシオンに関しては黒幕までの間に何人も人間が挟まってて複雑化してたから、一つってわけでもないだろうし」
政治の腐敗した銀河共和国から離れ、独自の道を行こうとするものたち。元ジェダイにしてシスの暗黒卿になった(このときそれを知るものは当のシス以外に誰もいないが)ドゥークー伯爵による、クローン戦争勃発前夜のご時世であった。
おかげでジェダイは広い共和国内を、あちらへこちらへと追われるように任務に当たっており、その人手の少なさにあえいでいる。先ほど任務から戻ったばかりのアナキンも、いつまた駆り出されるかわかったものではない。
しかしだからこそ、彼は少しでも友人との時間を持ちたかった。ジェダイの任務は、時に危険なこともあるのだから。
「……ああそうだ、アヴタス。これ、よかったらもらってくれ」
「うん?」
そんな会話のふとした瞬間。
アナキンが取り出したものを見て、アヴタスは小首を傾げた。
小さな容器。主に食料用に使われるもので、冷蔵および冷凍機能も持ったものである。
「アンシオンで、お土産にってもらったんだ。地元のミルクをたっぷり使ったアイスクリームさ」
「……アナキン、また君はそうやってものをもらってくる。下手したら賄賂だぞ」
「何を言うんだ。人の厚意を無下にするなんて、できるわけないじゃないか。捨てるなんてそれこそとんでもない話だろ?」
「勘違いされるようなことは慎むべきだ、と言っているんだよ。どんな言いがかりをつけられるか、わかったものじゃないというのに」
「じゃあ、いらないのか?」
「……いる」
からかうように言ったアナキンに、アヴタスは口をとがらせて顔をしかめた。しかめながら、その大きな手でちょこんとアナキンのローブの裾をつかむ。
友人の相変わらずの態度に、アナキンは笑わずにはいられなかった。
そこにある意味を理解しているアヴタスは、しかし何も言わない。今までの経験で、下手なことを言うと何倍にもされて茶化されるとわかっているからだ。
だが、そんなアヴタスの機嫌はすぐに直った。アナキンからアイスクリームの入った容器を受け取った瞬間、その顔がにっこりと崩れたのである。いつものことだった。
「……食べ物に罪はないからな。放っておいたら腐ってしまうし、うん」
すぐに表情を取り繕って、早口で弁明する。これもいつものこと。彼は甘いものが好きなのだ。
これでこの友人、隠し通せていると思っているのだからたまらない。だからアナキンは、この友人を銀河一の外見詐欺だと思っている。
まあそれは口には出さないし、思っても悟らせないほどには修行を積んでいる。よしんばバレたとしても、そのときはそのときだ。
と、そんなときであった。アナキンの懐で、コムリンクが通信をキャッチした。
「はい、こちらアナキン」
『アナキン、戻ってきたばかりで悪いがもう一度評議会へ来てくれ。新しい任務だ』
通信を飛ばしてきたのは、オビ=ワンであった。
だがその内容に、思わず顔をしかめてしまうアナキンである。ついさっき戻ったばかりだというのにまた任務なのか、と。
けれども、ジェダイの任務があるとき、そこでは必ず誰かが救けを求めている。ならば、いまだパダワンとはいえ、ジェダイとしては応えないわけにはいかない。
ジェダイは銀河共和国の守護者だ。広大なこの国の、自由と正義を守るものなのだ。
ゆえにアナキンはすぐに表情を引き締めると、応答する。了解、と。
「……また任務だって?」
「ああ。まったく、忙しくて嫌になるね」
「……私に、君ほどの実力があればなぁ」
「そうだな、僕も君が後ろにいてくれれば心強いんだが。まあ、仕方ないさ」
「ジェダイの絶対数が足りないものなぁ……」
「そういうこと。……じゃあ、僕は行くよ」
「気をつけてな。フォースと共にあらんことを」
「ありがとう。君も、フォースと共に」
そうして、アナキンはジェダイアーカイブを後にして、再び評議会へと向かった。
そこで下される任務が、彼の人生を決定づけるものだと知らずに。
***
意識が深い闇の底から浮上する。
ゆるりと目を開ければ、そこにあるのは白い天井。視線を横にずらせば、あるのは銀河共和国とは似ても似つかないインテリア。
高度な文明を思わせるものはほとんどなく、直前まで見ていたものよりほとんどが劣るそれは、地球のもの。
「……夢、かぁ」
現実に戻ってきた。それを認識したトガは、ぼんやりしながらつぶやいた。
つぶやいてから、その声が己のものではないことに気がついて、身体に目を向ける。
小さかった。愛しい人と同じ身体。
いつの間に、と思いながら変身を解除する。
そうして小さく息をついて、何気なしに窓へ目を向ければ、ほのかな明るさ。夜明け少し前、と言ったところか。少し早く目が覚めてしまったらしい。
だが、夢を見るときはいつもそうだ。正確には、銀河共和国の夢を見るときは、いつも。
最近……というより、理波とフォースダイアドとなってから、トガは時折こういう夢を見る。まったく知らない文明、まったく知らない人種が存在する、遠い昔、遥か彼方の銀河系の光景を。
アナキンはこれを、理波の記憶を垣間見ているのだと言った。フォース的に同質であるトガと理波は、そうした記憶をも交感しているのだろう、と。
細かい理屈は、トガには正直よくわからなかった。ただ、己の愛する人がかつて過ごしていた環境を、彼女という人間を構築したものを追体験できることは、嬉しかった。
惜しむらくは、視点が理波の……彼女の前世であるアヴタス・イーダのものであることか。おかげでどれだけ望んでも、理波がかつてどういう姿であったのかを知ることができなかった。
……できなかった、はずだが。
今日の夢は、少し違った。視点が俯瞰だったのだ。
あの夢の中で、トガはトガとして、はっきりとしていた。闇一色の場所で、ただ一つ闇ではないものを……さながら一人きりの映画館で、映画を観るような感覚で眺めていたのだ。
そんなこともあるのだろうか、と思う。うっかり眠っている間に、“個性”を使ってしまったからだろうか。それはそれとして、なんだか妙な場所にいた気もする……。
などと考えてみるが、よくわからない。そういう細かいことを考えるのは、少し苦手だった。
だから今は、ただ夢の感慨だけを愛おしく抱きしめることにする。
「……あれが、コトちゃんの前世。初めて見た……」
ふふ、と笑いながら、掛布団を愛しい人に見立てて抱きしめる。
……なんとなく、理波の前世が男であることは察していた。アナキンの態度からして、そうなんじゃないかなと。
だからどうということはないのだが……しかし、まさかあんなにも理波との差の激しい見た目をしているとは思わなかった。身長、二メートルはあったんじゃないかと思いなおして、改めて驚く。
それでもその姿を見た瞬間、トガは思ったのだ。
あ、コトちゃんだ、と。
迷うことなく、疑うことなく、そう思った。根拠は何もなかったけれど、確かにはっきりと。
けれど……と思い、トガは横に顔を向ける。
くうくうと静かな寝息を立てて、あどけない顔を無防備にさらす理波がいる。その小さな手が、いつの間にかトガの寝間着の裾をちょこんと握っていた。
その様子を見て、トガは改めて笑う。
「……コトちゃん、ちっとも変わってない」
だから、改めて確信する。アヴタス・イーダは増栄理波だと。
そして思う。アヴタスくんもかわいいな、と。でもカッコいいな、と。
やはり自分は、生まれ変わっても、記憶がなくなっても、どんな姿になっても、この人を何度でも好きになるのだろう、と。
胸の奥がきゅんとうずき、たまらなくなる。掛布団に顔を埋め、衝動を堪えた。
しかし自分のものと混ざって、理波の匂いがする。それがトガの心を多幸感で満たしていき、ますます衝動が身体を動かそうと暴れ始める。これを抑えるなんて、至難の業だ。
「んむぅ……」
と。
理波が身動ぎした。そうしてごそごそと這うようにして、トガの身体にぴたりと身を寄せてくる。
ただ、まだ起きているわけではないらしい。だからこその愛らしい動きに、思わずトガは相好を崩す。
「ふふ……」
にんまりと笑いながら、トガは改めてベッドに横になった。
そのまま眠っている理波と正面から向き合う形になり、さらにその小さな身体を優しく抱きしめる。
すると、まるで起きているかのように理波もトガの背中に手を回してきた。無意識だろうが、その動作にトガの笑みは深くなる。
全身に満ちていた、身悶えしようとする衝動はいつの間にか消えていた。
「……愛してるよ、コトちゃん。大好き」
いまだに眠りの世界にいる理波の額に口づけを落とす。
そうしてトガは、目を閉じて。
怠惰なる二度目の眠りへと旅立つことにしたのだった。
こんなやつが幼女になったら、そりゃあ違和感ないわなっていうお話でした。
ジェダイとしては腹芸はできないわ、友人には親身になりすぎるわで、わりと危うい存在って評価にならざるを得ないやつ。
でも一般ジェダイが「ジェダイならもっと慎みを」「掟に反する行為はすべきではない」とかなんとか言ってくるのに対して、アヴタスはまず無事であることにほっとしてから、「心配させないでくれ」と叱る。
なので、アナキンとしても友人として素直に認められるやつだったわけですね。しかも趣味が合うので、余計に。
まあそんなアヴタスの死因はアナキンによる首ちょんぱなんですけど(無慈悲
ちなみにSWを見たことのある方ならわかるかもですが、夢の時系列は原作EP2の冒頭ごろです。
このあとオビ=ワンとアナキンにアミダラ護衛任務が下り、運命が動き出す・・・って流れですね。その前にこんな感じのやり取りがあったらいいなぁ、なんて思います。
さて、およそ半月に渡って更新してきたEP5はこれにて本当におしまいです。
またここから書き溜め期間に入りますので、今しばらくお時間をください。
それはそれとして、今週末は今回の話の元になったヒロアカ映画が金ローでやるし、新作映画も封切られるから楽しんでこうぜ!