銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

105 / 288
5.強化合宿二日目 下

 私の“個性”、増幅の仕組みは基本的に足し算である。対象としたものに、任意の何かを任意の量、プラスする。数式で表現するならば、シンプルに「+X」というイメージだ。このXの部分に代入できる数値は、私の鍛え方やその日の体調、あるいは精神状態などによって上下する。

 まあ対象に存在しない要素を増幅することはできないので、そこは通常の足し算とは異なるのだが……ともあれ、基本的な仕組みは足し算である。

 

 では、初歩的な数学の話だ。このXに、マイナスの数値を代入するとどうなる? たとえば、「5+X」という数式でそれをやったとしたら?

 簡単な話だ。元の数値は減る。場合によっては正負すら逆転するだろう。これこそ、「マイナスの増幅」の概念である。

 

 ただそうは言っても、先の数式のXにマイナスを代入することは、現時点ではできない。できないと思っていた。他のやり方でマイナス効果を得られたから、余計にである。

 

 しかし“個性”というものは基本、なんでもありの代物だ。できないと思っていたことが、案外見方や意識を変えればできるようになったりすることもあるらしい。少なくとも、実例はいくつもあるようなのだ。

 

 先日のI・アイランド事件以降、シールド女史から色々と“個性”に関わる論文を融通してもらうなどして、その手の知識を得られた。

 なので、私も今回マイナスの増幅に挑むことにした、というわけである。

 

 ……と、言ったところで何なのだが。先に少し述べた通り、同様の現象を起こすことは現時点でもできたりする。

 マイナスの増幅ができないのになんでマイナスの増幅効果を出せるんだおかしいだろう、と思ったものもいるだろう。だが、できるのである。

 

 カギは、存在するものなら増幅できる、という性質だ。

 

 そうだな、実際にやってみようか。たとえば、ここに小石がある。指の第一関節程度の小石だ。

 しかし小さいとはいえ、石は石。風化もしておらず、普通であれば素手でどうこうできるものではない。実際、今の私には形を変えることなど不可能だ。

 

 これを、増幅する。対象は――柔らかさだ。

 

 するとどうなるか?

 小石は、ゴムボールのように柔らかくなった。指で挟んで力を込めれば、ぐにょりと形を変える。これはまさに、マイナスの増幅効果が現れたことに他ならないだろう。

 

 仕組みは、そこまで難しくない。つまり、物質が持つ要素に相反する要素。それは物質が実存在としてある限り、絶対にゼロにならない。ならばこれを増幅すれば、疑似的にマイナスの増幅効果を得られるというわけなのだ。

 

 硬さに対して、柔らかさ。

 堅さに対して、脆さ。

 速さに対して、遅さ。

 強さに対して、弱さ。

 長さに対して、短さ。

 多さに対して、少なさ。

 

 他にも、他にも。この考え方を駆使すれば、現時点でも十分な減少効果を起こすことができる。一見言葉遊びのようだがな。

 

 しかしこのやり方、基本的に燃費がとてもよろしくない。なぜなら以前(EP5の11話参照)にも述べたが、私の増幅は元となる要素が少なければ少ないほど、あるいは曖昧であればあるほど、必要なコストも多くなるという性質がある。相反する要素は、その両方に引っ掛かりやすいのだ。

 

 例として、時速100キロで動く物体を遅くする場合を挙げよう。このとき、今の私が取れる方法は「対象の遅さを増幅する」、ということになる。

 

 だが時速100キロの物体が遅いとは、普通言わない。もちろんハイパードライブ航法と比べれば格段に遅いが、人間という生物がその身だけで知覚できる速度としては明らかに速い。

 そこに内包されている「遅さ」など、あってないようなもの。ものすごく少なく、かつ曖昧。先に挙げたコスト増の要因に完全に抵触するわけである。

 

 ついでに言えばこの方法だと、動きを止めている状態では使えない。停止している物体に速いも遅いもないからだ。要するに融通が利かないところがあるのだ。

 

 これが単純に「移動速度をマイナス増幅する」ならば、状況によっては使えないという欠点だけでなく、コストの面でも恐らくは問題は起こらない。……はずである。

 通常プラスにしか増幅できないものをマイナスに増幅する、という形態はコスト増に繋がりそうではあるが、少なくとも移動速度という要素はかなりはっきりしているのだから。

 

 そういうわけで、今回の訓練ではマイナス増幅を使えるようになることを目標にしたわけである。もちろん現時点ではまったくできないので、私にとってB-8Tはしばらくお呼びでないだろう。

 しかし彼の相手は私だけではない。バクゴーがいるのだから、彼が暇を持て余すことはないだろう。

 

 ……ところで、私の“個性”を鍛えるとなるとかなりの栄養補給が必要になってくるのだが、その辺りはどうなのだろう。見た限り、それらしいものはないようだが。

 というか、マタタビ荘の食料備蓄は十分なのだろうか? その気になれば私はほぼ無限に食事ができるのだが。

 

 うむ……しまったな。イレイザーヘッドたちがいる間に聞くべきだった。ひとまず食料についてがわかるまでは、あまり無理はしないほうがよさそうかな……。

 

 そう思いつつ、私は渡されたノートに渡された鉛筆を向けることにした。

 書き込むのは、今考えている技についてだ。彼が戻ってくるまでの間、口頭での説明を省けるくらいにはまとめておくとしよう。そのほうが合理的だろうからな。

 

***

 

 結論から言うと、食料は足りなかった。今日、明日の分はなんとか持つようだが、それ以降はダメらしい。

 ので、どこかのタイミングで誰かが買い出しに走ることが確定した。業者からのまとまった仕入れが届くまでの間を、それでしのぐことになる。

 これでも当初の予定の倍くらい買い込んであったそうなのだが、それでも足りなかったわけだな。実に申し訳ない。

 

 そしてそこまでさせておきながら、マイナス増幅はまったく成功しなかったので本当に申し訳ない。

 ただ、成功はしなかったもののコストとして栄養は容赦なく消費されていたので、失敗だったわけではない。発動に失敗したときはそもそも消費がされないからな。それに本来のプラス増幅も、初期の頃は似たような挙動をすることが多かった。だからこれはそういうことなのだろう。

 

 つまりは失敗ではなく、マイナス増幅されている量が少なすぎて効果が認識できない程度でしかなく。しかししっかり消耗は発生している、というわけだな。

 恐らくやり方は間違っていないのだろう。これならば、特訓を重ねればマイナス増幅もプラス増幅同様に卒なくこなせるようになりそうだ。

 

 ……まあそれはそれとして、私がマタタビ荘の備蓄を食い尽くしかけたのは厳然たる事実だ。

 

「見かけによらずほんとよく食べるキティね!」

 

 とはラグドールの言葉だが。

 彼女は言いながら、少し顔が引きつっていた。その“個性”「サーチ」で私の状態を見ていたようだが、彼女の“個性”は私をどう見たのだろう?

 

 さてそんなこんなで、夕方四時。訓練は終わりを迎えた。

 

「さぁ世話を焼くのは初日だけだよ!」

「己の食う飯くらい己で作れ! カレー!」

 

 我々を出迎えたのは、未加工の状態の食材たちであった。ほぼ一日中身体を酷使させた上でこれとは、なかなか精神的に堪えるだろうな。

 実際、クラスのほとんどに覇気がなく、どんよりとした空気が漂い始めた。

 

 だが、それを吹き飛ばしたのがイイダである。

 

「確かに……! 災害時など避難先で消耗した人の腹と心を満たすのも救助の一環……! さすが雄英、無駄がない! 世界一うまいカレーを作ろうみんな!」

 

 と、鼓舞して回ったのだ。

 相変わらず少し的外れな内容なのだが、まあ間違っているわけでもなかろう。彼に釣られる形で、クラスメイトも気合を入れ直していたので無駄でもない。

 それはイレイザーヘッドがイイダを便利なやつだと思いながら見ている辺り、間違っていないのだろうな。色々な意味で。

 

 そういうわけで調理が始まったのだが……。

 

「……うん。増栄は皮むきお願いしていい?」

「すまないジロー……力になれずすまない……」

 

 私は調理班から戦力外通告を喰らい、ピーラーを片手にとぼとぼと立ち位置を移動した。

 

 なんということはない。私には調理の経験が皆無というだけの話だ。今も昔も、この手のことはドロイド任せだったから……。

 

「ハッ」

 

 私の背中に、怒涛の包丁さばきを見せるバクゴーの勝ち誇った笑いが刺さる。私がこしらえた乱切りの失敗作を見たらしい。

 

 戦力にならないことは事実なので言い訳をするつもりはなく、反論もしなかったのだが……ヒミコが躊躇いなしに包丁を振りかざした気配を感じて、慌てて止めた。

 それでもなおヒミコの顔はまったく笑っていなかったし、謎の(いや原因ははっきりしているが)迫力がそこにはあった。なんなら暗黒面特有の目になっていたので、さすがのバクゴーも少し引いていた。

 

「爆豪サイテー」

「同感だね。デリカシーってもんがないの?」

「まったくですわ。信じられません」

「増栄ちゃんは十歳なんだよ、料理できなくて当たり前でしょ!」

「てゆーか、授業ならまだしも料理の腕で十歳の子と張り合うってどうなん?」

「そうよ爆豪ちゃん。さすがにどうかと思うわ?」

「なんなんだテメェら……ッ!」

「今回はマジで一切擁護できねぇんだわ」

 

 ついでに言うと、彼はヒミコだけでなく他の女性陣(あとなぜかミネタ)からも言葉の袋叩きにあっていた。参加しなかった男性陣も擁護するものは一人もいなかった。そんなにか。

 

 私は気にしていないし、そもそもの話できもしないことを任されるままにやろうとした私が悪い。

 だから何もそこまで言わずともと思ったのだが、無理はすることはないとなぜかやたらと甘やかされた。よくわからない。その後ろでうんうん頷いていたヒミコのほうがまだわかる。

 

「申し訳ありません増栄さん、私の采配が至らないばかりに……!」

 

 あとヤオヨロズにはものすごく謝られた。どうも彼女からは、私にできないことは何もないと思われていたようだ。

 そう気に病まないでほしい。食材のカットくらい私でもできるだろうと思った私がいけないのだから。

 

 ……ちなみに、サーヴァントドロイドであるS-14Oと共に日々調理場に立っているヒミコは、料理に堪能である。バクゴーも相当だが、恐らくヒミコがクラスで一番上手い。身内の贔屓目とかではなく、純粋にだ。

 やり始めたのは私と同居し始めてからなので、実践経験は三か月程度。そう考えると驚異の成長速度だが……何分私が大食なので、作る量と頻度が違う。14Oという教師役もいるので、瞬く間に成長したのだろう。気恥ずかしい話ではあるが、私のためという目的意識も寄与していそうだ。

 

 今も彼女は、食材のカットに鍋の確認、ルーの調合など、ほぼ休むことなく八面六臂の大活躍だ。明らかに訓練より真剣な顔をしているのは、やはり私のために食事を作るのが好きなのだろう。ありがたい話である。頭が上がらない。

 

 実際、ヒミコの料理は全部私好みの味付けなので……うん。私は完全に胃袋を握られている。

 

「ヒミコの作る料理はどれも絶品だが、カレーは特にとてもおいしいんだ」

「そっかぁ、それは楽しみやねぇ」

「うん」

 

 完成を待つばかりとなった頃。ヒミコの料理について力説する私がいた。

 

 そんな私に、ウララカがとてもいい笑顔で頷いてくれた。ついでになぜか頭をなでられた。

 

「ちなみに辛さは?」

「甘口だ」

「あはは、そんな気はしてたよね」

 

 セロの問いに首を傾げながら答えたら、オジロにとても納得という顔をされた。

 

 どういうことだろうか?

 

 改めて首を傾げる私の後ろでは、ヒミコが一人で五つの鍋を同時に相手取っていた。

 

 ……ちなみに、私以外のメンバー用に作られた中辛のカレーを少し分けてもらったのだが、あまりの辛さに泣きそうになった。

 そのあとに食べたヒミコ特製のカレーは、心の底から安心できる味だった。

 

***

 

 で。

 

 食事も入浴も終え、部屋に戻ったあとのことである。

 

「ねーねー、女子会しようよっ!」

 

 アシドがとてもとても楽しそうに、声を上げた。




マイナス増幅を身に着けることにより、ますますぅゎょぅι゛ょっょぃが加速する。

ちなみにトガちゃん特製理波用カレーの辛さは、ポケモンカレー以上バーモントの甘口未満です。
EP1の最後に出したようなプロフィールを今やるとしたら、理波の好きなもののところにはトガちゃんの手料理が入ることでしょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。