銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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6.1年A組の女子会

 アシドの提案に即座に乗ったのは、普段から何かと一緒に盛り上げることが多いハガクレだ。

 彼女に続いてヒミコが手を上げ、さらに困惑しつつも楽しそうに応じたのがヤオヨロズ。ウララカも楽しそうだと参加を表明し、返事はしなかったが拒否もせずうっすらと微笑んだツユちゃんも参加と見ていいだろう。

 この流れに、ジローも拒否は無駄と見たか応じ、私もまたその中に飲み込まれた。

 

 ……ということで、部屋の中央にどこからか持ってきた菓子を広げ、自販機で買ってきたジュースを持ち寄り、布団をクッション代わりに車座になる。

 

『かんぱーい!』

 

 そしてジュースで乾杯。これだけで既に半分ほどが楽しそうだ。雰囲気で酔う、というやつだろうか。

 

「……実は私、女子会をするのは初めてなのですけれど……どういうことをするのが女子会なのでしょう?」

「私もわからない。単語には聞き覚えがあるのだが」

「女子が集まって、何か食べながら話すのが女子会でしょー?」

 

 ヤオヨロズと私の問いに、アシドが答える。

 

 わからなくはないが、それだと随分と定義が広い気がする。

 

「その定義だと、いつぞやジェラートを食べに行ったときも女子会ということになるのでは?」

「あれは……うーん、違くはないと思うけど……」

 

 私の再度の疑問に、アシドが困ったようにこめかみを押さえた。

 

 が、その隣でハガクレが腕を組みつつ言う。……たぶん、立てた指を左右に振っているな。

 

「女子会と言えば……恋バナでしょーが!」

 

 彼女の言葉に、場の雰囲気がさらに華やいだ。

 

「そうだ! 恋バナだ! 女子会っぽい!」

「うわぁ~」

「恋、ねぇ」

「こ、恋!? そんなっ、結婚前ですのに……!」

 

 特にアシドの盛り上がりは突出している。

 一方、ウララカとツユちゃんはほんのりと頬を赤くしていた。ヤオヨロズも同様だが、言葉とは裏腹に楽しそうではある。発言内容は、相当な箱入りだとよくわかるものだが。

 

 ……では私はと言えば、隣のヒミコとテレパシーを交わしている。

 

『……ヒミコ? この手の話題にはどう答えるべきなのだ?』

『コトちゃんは秘密にしたい感じです?』

『ああ。……恥ずかしいとか、そういう理由ではないぞ。そもそもこの国の法律上、私たちの関係は犯罪になり得る。主に君がだ。私が法で絶対的に守られるべきとされる年齢である以上、私がどれだけ合意の上だと主張したとしても私の意思は認められず、君は性犯罪者として扱われる可能性が高い。それは嫌だ。もちろんこのクラスの面々のことは信じているが……それでもこのことを知っている人間は極力少ないほうがいいと思う。少なくとも今はまだ』

『コトちゃんがそう言うなら、そうするのです』

『君はそれでいいのか? 隠す必要をまったく感じていないだろうし、法にしても守る必要を感じていないだろう?』

『うん。……でもコトちゃん、私のために言ってくれてるんでしょ? なら、私だってガマンするのです。だってコトちゃんのこと大好きなんだもん』

『君はそういう人だよなぁ』

 

 無意識に眉が片方下がったのがわかった。今私は苦笑しているのだろうなぁ。

 

 本来ヒミコは素直な人だ。思ったことは大体そのまま口にするタイプである。隠しごとも基本的にしない。

 かつて派手に振られた影響から、自分が仲良くしたいと思った人に嫌われることは避けたがる傾向にあり、それにかかわるであろうことは口にしたがらないところもあるが……今回の件についてはその範疇にはないのだろう。

 

 その上で、私に配慮すると言ってくれるのだ。こんないい人をパートナーにできた私は、もしかしなくても恵まれているのだろう。

 

「それじゃ、付き合ってる人がいる人ー!?」

 

 と、そうこうしているうちに、アシドがわくわくした顔と声を隠すことなく音頭を取った。心底期待しているのだろうな。

 

 彼女はその顔を引っ込めることなく、周囲に目を配る。他の面々も同様だ。

 だが動き出すものはおらず……次第にその間は妙な沈黙となった。

 

 しかし、

 

「はーい!」

 

 その中にあって一人。沈黙を切り裂いて、ヒミコがいつものにんまりとした笑みを浮かべながら、元気よく挙手した。

 当然、全員の視線が彼女に集中する。

 

「私! お付き合いしてる人、いまーす!」

 

 そしてこの宣言である。私以外の全員が、多少ほっとしつつも期待の眼差しを浮かべた。

 

「だれだれ!?」

 

 中でも食い気味に身を乗り出したのは、やはりアシドであった。彼女はその桃色の肌をうっすらと紅潮させて、ヒミコの二の句を待っている。

 

 ヒミコはそんなアシドににんまりと笑みを浮かべると、

 

「ひみつでーす!」

 

 と返してみせた。

 がくりとアシドが肩を落とす。もちろん、それで諦める彼女ではなかったが。

 

 そんな彼女とは別角度から、ハガクレが切り込んできた。

 

「あれー? でもさトガちゃん、例のヒーローさんはどーなったの? 諦めちゃった?」

「あっ、そーだ! そうだよ、そこんところどうなの? せめてそれくらい教えてよぉ!」

 

 そういえば、表向きはそういうことになっていたな。

 体育祭のあと、ヒミコはヒーローを目指す理由として好きなヒーローの隣にいたいからと語った。あのときの彼女の顔は控えめに言って恋する乙女であり、周りもそうだと確信してあれこれと質問攻めにしていたなぁ。

 

 ヒミコはそのとき、控えめに内緒だと言いつつも、頑なに誰のことか明かさなかったが。

 

「諦めるなんてしてないのですよ? ……その人と、お付き合いしてるのです」

 

 今回はそこまで言うことにしたらしい。どうやら、私のことを隠しつつも自分のやりたいことをやろうとしたとき、ヒミコの中ではここは言える範囲なのだろう。

 

 だが、この発言に反応したのは今まで口を挟まずとも微笑ましそうに成り行きを見守っていた面々である。

 その代表のような形で口を開いたのはツユちゃんだ。

 

「……待って? それって、結構な歳の差があるんじゃないかしら。場合によっては犯罪になってしまうんじゃ……」

「そうなのですよ。六歳差なので、私は別にそれくらい気にしないですし、まだ清い関係ですけど……きっと世間はうるさく言うと思うので。お相手については黙秘させていただくのです」

 

 そしてヒミコはまたにんまり笑うと、人差し指で己の口を封じて見せた。笑いながら「ないしょ!」と付け加える姿は、どこか色気がある。

 そう思ったのは私だけではないようで、ジローやウララカが座りが悪そうに赤面していた。

 

 ……六歳差というのは正しいのだが、それが下だとは誰も思っていないだろうなぁ。物は言いようである。

 

「……じゃあやり方を変えてー……増栄ちゃんはさ、トガっちの彼氏さんは誰か知ってるー?」

「えっ」

 

 と、ここで矛先が私に来た。だが私がその相手なので、なんとも答えづらい。

 

 その逡巡を見抜かれたのか、ハガクレが楽しそうに指差してきた。

 

「あっ、これ知ってるリアクションだ!」

「間違いない! ねーねー、教えてよぉー!」

 

 そうして私は、左右から二人に挟み込まれた。

 

「いや……その、うん。そりゃあ、彼女の相手が誰であるか知っているかと問われれば、知っている、と言うしかないのだが。しかし、その。ほら、世間体は大事であるからして」

 

 至近距離まで顔を寄せてくる二人に、私は何度も二人を交互に見ながらとりあえず言えることだけ口にする。

 

「どんな人!?」

「この際誰かは聞かないからさ、特徴だけでもさー!」

「ええと、それは、そのぅ」

 

 言えるわけないじゃないか。私なんだぞ。己を客観視して、それを端的に言い表すのはとても難しいんだぞ。

 よしんばできたとして、そこから私に辿り着かれたら困るし……。

 

「もー、二人ともコトちゃんに縋りつかないでください。ただでさえコトちゃん、隠しごとニガテなんだから」

 

 と、いうところでヒミコが二人を引き剥がしてくれた。ほっと一息つく。

 その言い分には物申したいことがないわけではないのだが、ここは何も言うまい。藪を突いて蛇を出すことになったら目も当てられないからな。

 

「ちえー、残念ー」

「少しくらい教えてくれてもいいのにー」

 

 対して、二人は口を尖らせながらぶうぶう言っている。

 文字にするとただ面倒な絡み方だが、実際はそんなことはなく、既に二人ともきっぱりと距離を取っている。物理的にも精神的にもだ。こういう切り替えの良さが、二人のさっぱりした性格に繋がっているのだろうな。

 

「はー、被身子ちゃん大人やなぁ……」

 

 そこで艶っぽくため息をついたのはウララカだ。

 どことなく憂いを秘めた仕草だが、その奥にある心では様々な言葉が大量に行き交っている。

 

 その様子はどことなくミドリヤと似ていて、確かに以前ヒミコが評した通り、二人はなかなかお似合いではないかと思う。

 

「そういうお茶子ちゃんはどーなんですー?」

 

 と、そこにヒミコが切り込んだ。自分の話はおしまい、とでも言いたげに。

 

「ふえっ!? いいいいいや、なんもないよ!?」

 

 それに対するリアクションは、実に可愛らしいものであった。顔を赤くしてわたわたと両手を振る様は、あると言っているも同然だと思うが。

 

「急にどうしたのお茶子ちゃん」

「あー! もしかして付き合ってる人いるのー!?」

 

 そう思ったのは私だけではなかったようで、「思ったことはなんでも言っちゃう」と言っていたこともあるツユちゃんが静かに問いかけた。

 ハガクレがこれに続いたが、両者の雰囲気の落差よ。

 

「おっ、おらんよっ!? おるわけないしっ!」

 

 焦った様子でそう言うウララカの頭の中に、ミドリヤの顔が浮かんでいることは私とヒミコにはお見通しである。

 が、それを言うとオーバーヒートしてしまいそうな反応だ。なので私たちは何も言わず、温かい目で見守ることにした。

 

 どうせ私たちが何か言わずとも、決定的なことを言わずとも、迫るものはいることだし。

 

「その焦り方はあやしいな~?」

「誰? 誰っ? 女の子だけの秘密にしとくから!」

 

 もちろんハガクレとアシドである。

 

「いやっ、これはその、そういうんと違くてっ」

「そういうのってどういうの~?」

「ほらほら、吐いちゃいなよ。……恋、してるんだろ?」

 

 ここまでいくとなんだか取り調べのようだ。そろそろとめたほうがいいだろうか。

 

「ほんまそういうんやないし! これはその、恋バナとか久々すぎて動悸がしただけっていうか!」

「どれだけ久しぶりなんだ」

 

 ジローの言葉に思わず吹き出した私である。

 

「そっかー」

「ごめんごめん」

 

 一方、ウララカの反応からやりすぎたと思ったのだろう。ハガクレもアシドも、これ以上はつつかないことにしたらしい。

 

 これに対してウララカはほっと一息つく……や否や、また百面相を始めた。頭の中では誰に対してでもない言い訳が延々と続いている。その勢いはまるで濁流のようで、内容はほとんど読めない。

 

 ……うーむ。こうして他人の恋模様を見るに、本当に好きという感情は人間を大きく動かすのだな。良くも悪くも。

 

 人生一度目の思春期にこれにぶつかれば、問題行動も起ころうというものである。ジェダイの恋愛禁止は、その悪くを絶対に踏まないようにということだったのだろうなぁ。

 私は人生二度目にして初めての経験だが、一度目でこれにぶつかっていたら果たして今ほど冷静に動けたかどうか……。

 

「お茶子ちゃん? なんだか疲れてるわね」

「いや、ちょっと動悸がおさまらへんだけ……」

「それは何かの病気なのでは? 無理は禁物ですわよ?」

「う、うん、ほんと、ほんとに大丈夫だから! ……うん!」

 

 まだ大丈夫ではないように思うが、とりあえずは気を取り直したウララカ。

 顔を少し緊張させた彼女は少しむくれるようにして、追い詰めた二人に目を向けた。

 

「ていうか……そう言う二人はどうなん? いい人おらんのっ?」

「……残念ながら……」

「……特には……」

「あっ……ご、ごめん……」

 

 反撃を試みたウララカだったが、どうやら急所に直撃したらしい。二人とも顔を伏せ、さらには明後日のほうを向いてしまった。

 

「……まあ、そりゃねぇ。そもそも雄英入る前は受験対策、入ったあとも授業やら宿題やらで忙しいもんなぁ」

 

 そんな二人を見かねたのか、ジローが助け舟を出す。これには全員が同意する。

 

「そんな状況でトガっちはどうやったら付き合うまで持ちこんだの?」

 

 で、結局話はヒミコに戻ってきた。

 

「どうって……ふつーだと思いますけど。意識してもらうために何度も自分をアピールして、話しかけて……あとは軽くボディタッチとか。ご飯作ったりもしてますよぉ」

「うーん、結局はそこに行くのかー」

「ていうか女子力高いな……ウチには真似できそうにない……」

「ぼ、ボディタッチ……軽くとはいえ、私もできそうにありませんわ……」

 

 軽く……ボディタッチ……?

 吸血はまったく軽くないと思うのだが……いやそれを抜きにしても、ヒミコのスキンシップは激しめなような……。

 

「てゆーか、私がやったことって好きな人がいる前提なのですよ。そもそもみんな、好きな人っているんです?」

『…………』

 

 この問いに、室内は沈黙に満たされてしまった。

 

 ……ああいや、ウララカだけは相変わらず顔を赤くしてわたわたしている。

 その様子がよほど気に入ったのか、ヒミコが楽しそうににたりと笑った。

 

 ああもう、悪そうな顔をして。まあ、相手を慮って口にしないだけの良識はあるようなので、私からはそれ以上何も言わないが。

 ……だが、気のせいだろうか。ハガクレのほうは、少しちらついたものがあったように見えた。一瞬で消えてしまったから、どうにも自信は持てないのだが……うーむ。ヒミコがこの手の話題に食いつかないはずがないし、反応していないということはやはり私の気のせいか?

 

 ……その後は、まだ見ぬ誰かのことを語るのではなく、より現実的に「どんな異性が好みか」という話題に推移して行った。

 

 ただ、私がそこで「異性に限定する必要性はないのでは?」と言ってしまったからか、少し妙な空気になりかけたのは申し訳なかったと思う。

 星にもよって差はあるが、銀河共和国では同性愛を問題視しないことが一般的な星も多かったから、これもまたカルチャーギャップの一つか。まあ、今の私がまさに同性愛をしているから、ということもあると思うが。

 

 元男? 今更である。元々性愛とは無縁の生活をしていたからか、私の性自認はもうほとんど女と言っていい。と思う。たぶん。

 

 あと、そう。雰囲気を悪くしておきながら、私はイレイザーヘッドとの約束の時間になったので途中で退室することになってしまったことも、申し訳なかったと思う。

 

 ただ、退室する直前。

 ヒミコが本当に心底楽しそうに、

 

「恋バナ楽しいねぇ!」

 

 と笑っていたのが印象的だった。

 




トガちゃんが本当の意味でA組女子と恋バナしてるところは、どうしても書きたかった。
こんな世界線もあってほしかったのです・・・。
なのでみんなもトガちゃんがヒーロー側の話もっと書こうぜ!

ちなみにこれ、本来ならB組から三人来るはずの話なんだけど、峰田による騒動が一日早く済んでいるので来ませんでした。
ボクとしては別にB組をないがしろにしたいわけではないんだけど、描写する機会がなかなかないんですよね・・・。
下手に入れようとしても蛇足になりかねないし・・・。
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