銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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9.連合の逆襲 2

 猛烈な速さで伸び、枝分かれし、広範囲を切り裂く白い刃が麗日と葉隠を襲う。そんな暴力的な連続攻撃を最初に回避できたのは、ただの偶然でしかなかった。

 その偶然に助けられた二人はしかし、逃げに徹している。直接的な攻撃手段を持たない二人には、それしか取れる手段がないのだ。

 

 しかし太い幹を持つはずの木々は大した壁にならず、むしろ逃走の妨げになっている。視界をふさぎ、足元を悪くしている木は、まさしく邪魔であった。

 

 そんな二人を追いかけているのは、黒い拘束具によって全身――顔も含めて――を覆われた細身の男。刃の根本は彼の口の中から生えており……つまりそれは、彼の歯であった。そういう“個性”なのである。

 

 男を示す名前はムーンフィッシュ。連続殺人犯であり、死刑囚であり、そして今は脱獄犯。

 そんな長年多くの命を刈り取ってきた男の技の前では、たかだか半年にも満たない訓練しか受けていない子供たちはまさに子供でしかなかった。

 

「肉……肉、見せて」

「なんなん……っ!? なんなんこの人っ!?」

「超っ! 気色悪いぃーー!」

「きっときれいだ……君たちの肉面……っ」

 

 歯が武器である関係上、常に開いたままの口からは抜き身の欲望が漏れっぱなしなっている。ついでに唾液も。

 

 そう、ムーンフィッシュは肉を切り裂くこと、その断面に美しさを見出しているサイコキラーだ。はっきり言って、あらゆる意味で常人とは住む世界が違う。

 

 けれども犯罪者として、ヴィランとしては間違いなく手練れだった。

 ムーンフィッシュは拘束された身体にも関わらず、“個性”である歯刃(しじん)を用いてさしたる苦もなく移動する。歯をまるで鞭のように扱い、周囲を軽快に跳び回る。

 

 常軌を逸した思考、美学を持ちながらも戦いに関する勘にかげりはなく、さながら狩りをするかのように二人を的確に追い込んでいた。

 

「……っ、麗日ちゃんっ!?」

「も、もうダメ……!」

 

 そんな一瞬のミスも許されない状況でひどく強い緊張を強いられ続け、足下への注意が疎かになってしまった麗日が木の根に足を取られて転倒した。葉隠が慌てて駆け寄るが、麗日は首を振る。

 

「葉隠ちゃんだけでも逃げて……! 私のことはいいから!」

「そんなことできるわけないでしょ!?」

 

 対する葉隠の返答は即座の否であった。

 ある意味、当然である。ここで素直に友人を見捨てられるなら、彼女は雄英にいないだろう。

 

 しかし。人によってはこれを、あるいは愚かだと断じるかもしれない。一人だけでも助かる道を潰した、と。

 

「きゃあぁっ!?」

「葉隠ちゃんっ!?」

 

 ムーンフィッシュの歯刃が、葉隠の身体を襲う。透明で狙いが定まらなかったからか、直撃とはならなかったが……間違いなく、彼女の身体は切り裂かれた。夜の闇の中に、赤い血が舞う。

 

 次いで、地面に倒れて転がる。それでもなお、傷ついた箇所を押さえつつ立ち上がろうとできるのは日頃の訓練の賜物だ。

 

 しかしそんな彼女であっても、こちらに手を伸ばしてきた麗日の腕に刃が刺さるところはとても受け入れられない光景であり。全身から血の気が引いて、我を忘れてしまった。

 

「うぎ……っ!?」

「麗日ちゃん!! こんのぉ……っ!!」

「ごめんね、ごめんね、君の番は次だからぁ」

「うあ……っ!?」

 

 再び蹴散らされて、地面を転がる葉隠。今まで経験したことのない痛みがした。起き上がれそうにない。

 

 そんな彼女の目の前で、麗日の腕が、

 

「あ゛ぐッ!?」

「「……え……?」」

 

 切り離される前に。

 

 ムーンフィッシュの身体が、刃が、不自然に硬直した。

 

 びくりびくりと跳ねる身体。併せて、口から泡が飛ぶ。じわり、じわりと身体が浮き上がっていく。さながら吊り上げられるように。

 

 その下で。ムーンフィッシュの首が、ぎりぎりと音を立てて締まっていた。

 

「ぎ……がッ、はッ、ぐぎ……っ!?」

 

 歯刃が、緩やかに元の姿に戻っていく。それでも完全には戻らず、敵に切先が向いている辺り、並ではない。

 

 そう、敵だ。ムーンフィッシュは明確に、敵を見た。

 

 森の中。全身で枝葉を押しのけながら、手のひらをかざした彼女が現れる。

 

「……と、トガ、ちゃん……!」

「ひ、被身子ちゃん……だめ……! 来ちゃダメ……!」

 

 二人で彼女を呼ぶ。だがそんな二人は、痛みを堪えながら見たものに圧倒された。

 

 普段、よく笑う人なつこい顔はそこにはなかった。あるのはただ、研ぎ澄まされた怒りのみ。

 そうして闇の中に、フォースのダークサイドに染まった金色の瞳が浮かび上がる。

 

「二人から離れてください……」

 

 抑揚のない声が漏れる。

 ムーンフィッシュに向けられていた手のひらが、ぐっと握られる。同時に、ムーンフィッシュの首がさらに締まった。

 

 フォースグリップ。フォースの力を用いて首を絞め、へし折る闇の技。

 

 トガの背負う邪悪な気配も相まって、麗日と葉隠は思わず呼吸を忘れた。ムーンフィッシュを前にしたときよりもなお恐ろしい、何かがそこにあったから。

 

 何より、その目が。赤い縁取りの金色が、なんの躊躇いもなく人を殺せる色に見えたから。

 

「……っ、ダメ! トガちゃん!」

「それ以上やったら死んじゃうよ!」

 

 だから、忘れた呼吸を忘れたままに、声を張り上げた。

 これに、トガははっとする。その身から、暗黒面が薄らいだ。

 

 次いで、フォースグリップをかけていた腕を勢いよく振り抜く。すると、ムーンフィッシュの身体は凄まじい勢いで森の中へ吹き飛んでいった。

 

「お茶子ちゃん! 透ちゃん!」

 

 彼女はそのままムーンフィッシュには目もくれず、倒れている二人に駆け寄る。

 駆け寄ると同時に理波へと身を変じ、すぐさま応急処置を開始した。

 

「大丈夫、大丈夫だからっ、すぐ治るから……治しますから……!」

 

 そうして泣きそうな顔で言い募る姿は、理波なら絶対やりそうにないもので。それがかえって麗日たちの心を落ち着かせた。

 

「んぐ……あ、ありがと……正直、死ぬかと思った……」

「麗日ちゃん大丈夫? 腕、結構深めに刺さってたみたいだけど……」

「どかな……どうなんだろ、どう思う被身子ちゃん?」

「たぶん、ですけど、靭帯とか骨とかの大事なところは大丈夫っぽいので……このままそっとしとけば、たぶん……。あっ、透ちゃんごめんね、透ちゃんも痛いのに……」

「私は大丈夫だよ、ちょっと切れたくらいだし!」

 

 葉隠はそう言って身体を動かして見せるが、わりと痩せ我慢であった。かなり痛い。動かなくていいなら動きたくないくらいには。

 しかし目の前に自分より重傷な麗日がいるのだ。それならこれくらいはと、葉隠は自分に言い聞かせている。

 

「ダメなのです! こんなに血が出てるんだから、無茶しないで!」

 

 だが、そんな心は怒りを解いたトガにはよく見えた。

 

 だからそう言うと、増幅による処置を終えた麗日から手を離して、今度は葉隠に向ける。もちろん、迷うことなく傷にだ。

 

「……ありがと」

「んーん、これくらいなんてこと……」

 

 ちょっと勘がいい、とはUSJ事件のときに言われたのだったか。そんなことを考えながら、葉隠は早くも引き始めた痛みの大元を見えないながらに見つめていた。その奥にある何かがが、かすかに揺れ動いたような気がして。

 

「……っ!」

 

 が、その途中でトガが勢いよく虚空へ手を向けた。

 その手前まで迫っていた歯刃が、斥力によってぴたりととまる。

 

「また来た……!」

「ひえぇ、しぶとい……!」

 

 身を引く二人をかばうように、前に立つトガ。今は理波のその顔が、再び怒りに染まっていく。

 

「ああぁぁぁあ゛あ゛ぁぁーーっ、なん、なんで治しちゃうの……!? ダメだ……ダメだろう……ぼ、僕の、僕の肉うぅぅ!」

 

 再度姿を見せたムーンフィッシュに、やはり再度フォースグリップがかけられる。

 

 だが、今度はムーンフィッシュはとまらなかった。いや、とまるという発想が頭から抜けているのか。

 せっかく切り裂いた肉が治り始めていることに半狂乱となったムーンフィッシュは、首を絞められながらも歯刃をがむしゃらに伸ばして周囲を破壊し始めたのだ。

 

 半ば狂っているがゆえに意図が薄く、フォースの先読みを多少なりともすり抜けるようになったのは皮肉と言えようか。

 おまけに、物量攻撃とも言うべき大量の、しかも四方から迫る刃には、フォースユーザーであっても圧殺できるだけの力があった。

 

 仕方なく、トガは舌打ちをしながらフォースグリップを解除し、フォースプッシュでムーンフィッシュを吹き飛ばす。

 

 それでもなお歯刃を展開し続け、強引に斥力をかいくぐろうとするムーンフィッシュ。この狂気を見て、トガは生半可な攻撃ではとめられないと理解した。

 だからこそ、前に出る。

 

「お茶子ちゃん、透ちゃん、逃げて!」

「トガちゃん!」

「被身子ちゃん!」

 

 刃の嵐の中に飛び込んでいく友人を呼ぶが、しかし二人はそのあとに続けない。続くだけの力がない。

 

 理波の小さな身体を借りて、刃の中をくぐり抜けるようにして進むトガ。フォースによる先読みを駆使し、フォースプッシュも組み合わせ、さらにはフォースブラストも振るっての強引な進撃である。

 それを追うだけの力は、二人にはなかった。

 

 何より、二人は理解できてしまったのだ。こんな無理矢理な進撃が、自分たちを慮ってのものだということを。敵の意識をすべて一人で集めるためだということを。

 

 悔しい。悔しくて、涙がにじむ。

 

 なぜあそこに立てないのか。なぜ彼女の隣に並び立てないのか。

 己の無力さが、あまりにも情けなくて。

 

 それでも、二人はヒーロー科。ぐいと目元を拭うと、立ち上がる。

 ここに自分たちがいたら邪魔になる。だからここから立ち去るべきだ。それが、戦えない自分たちにできる唯一のことだと。

 

 そう、理解して背を向ける。

 

「ごめんっ、ごめんねトガちゃん……!」

「すぐ先生たち呼んでくるから! だから……だからっ、約束だよ! 絶対、無事でいて!」

「はい!」

 

 返事を待たずに駆け始めた二人は、揃って顔を歪めていた。悔しさに歯を食いしばりながら、涙をこらえながら。

 

 二人の想いは同じだ。

 

 もっと自分にできることがあれば。

 もっと“個性”を伸ばせていれば。

 もっと戦う力があれば。

 

 二人は共に、心の中でそう叫んでいた。その気持ちに呼応するように、彼女たちの身に宿る()がひくりと(はら)んだ――。

 

***

 

 圧倒的な劣勢を強いられていたのは、切島と八百万も同様である。

 何せ相手は脳無だ。強大な膂力と凄まじい治癒力を標準で備える上に、複数の腕と武器を併せ持つ、正真正銘の化け物。正面から戦えばオールマイトですら苦戦するであろう化け物の相手は、学生には荷が重すぎる。

 

 それでも、二人はなんとか耐え凌いだ。まずは逃げて逃げて、追いつかれたあとは切島が硬化を発揮。それでもなお身を削られながら、地面に足を突き刺し意地でもって八百万を守り抜いた。

 

 八百万もまた、創造を駆使して脳無の動きを制して見せた。

 彼女が創り上げたのは、槍のように長い警棒型のスタンガンだ。壁に徹する切島の横合いから、果敢に電撃を叩き込み続けたのだ。

 

 脳無は改造を施された死体だが、それでもその基本的な身体構造は人に準ずる。電気信号によって動いていることは間違いなく、ゆえにスタンガンはかろうじて有効であった。

 

 もちろん、それだけでどうにかなるはずもない。二人が対抗できるのはほんの一分にも満たない間でしかなく、逃げていた時間を含めても大した時間ではない。

 

 それでも、その時間があったからこそプロが間に合った。理波のテレパシーによってまっすぐ誘導されたブラドキングが、間一髪間に合ったのだ。

 

「ブラドキング先生!」

「二人ともよく耐えた! ここは俺に任せて、マタタビ荘に戻れ!」

「っ、はいっ!」

 

 割り込んだブラドキングは、既に“個性”によって攻撃を行なっていた。

 

 操血……文字通り、己の血を自在に操る“個性”によって動く彼の血は、液体ゆえに破壊されることはない。チェーンソーやらドリルやら金槌やらで武装した脳無の攻撃は、柳に風である。

 

 もちろん凄まじい力でもって振われるため、固めた血は衝撃で弾け飛んでしまう。そういう意味では壊れないわけではない。

 しかし、液体である血そのものが破壊できるわけではない。そしてそこに血がありさえすれば、ブラドキングにとっては問題ない。よほど遠くにまで飛ばされない限りは、“個性”が続く限りは、彼の武器防具が失われることはないのだ。

 

 身体能力に差があるために、これでも倒すには至らないところが脳無の恐ろしいところだが……それでも間違いなく、ブラドキングは一人で脳無を抑え込んでみせた。

 

 彼の勇姿を確認して、切島と八百万はこの場を後にする。ヒーロー候補生としては悔しいが、しかし生きて帰ること、情報を持ち帰ることもまた戦いの一部であることを、彼らは期末試験を通して知っている。

 

 が、その直前。ふと思いついたようにはっとなった八百万は、“個性”によって小型の……本当に指先程度の小さな機械を創造したかと思うと、それをブラドキングへと投擲した。

 

「ブラドキング先生! もし逃げられることがあれば、これをお使いください!」

「なんだ!?」

「発信機です! 最悪逃げられても、それがついている限り追跡できますわ!」

「……なるほど! いい判断だ、もらっておく!」

「どうかご武運を!」

 

 それだけのやり取りの間にも、ブラドキングと脳無は何回も攻防を交わしていた。

 

 今のところ、両者は互角。だからこそ、手助けができるならしたい……とは思うが。

 できないものはできない。それがわかっているからこそ、八百万は再びブラドキングに背を向けた。

 

「やるなブラド先生!」

「ええ、さすがプロですわ。私たちも、いずれはあの場に並び立てるようにならないといけませんわね!」

「いやお前もすげぇよ八百万! お前と同じ“個性”だったとして、俺に同じことができたかどうか……!」

「……それはお互い様ですわ。私とて、硬化できたとしても切島さんのように勇敢に立ちはだかれるかどうか……」

 

 悔しさを押し殺して、そう言葉を交わす二人。

 

 そうして走る二人の隣に、同じく避難してきたであろうB組の面々が並んだ。

 

「どちらも謙遜する必要はないと僕は思う」

「しかりですな!」

「二人とも、今できることをしっかりやってたノコ!」

 

 やや小柄ながらも全体的に大きい、しかし引き締まった身体の少年、庄田二連撃。

 

 獣と化した身体を活かして軽快に走りながら、人一人を背負う眼鏡の少年、宍田獣郎太。

 

 彼に背負われた、茶髪のロングボブで目をほとんど隠した少女、小森希乃子。

 

「お、おお!? いつの間に!」

「ブラキン先生と共に。しかしあんなものを相手に、二人ともよく耐え切れたと思う。素直に敬意を表したい」

「一応、遭遇は二度目ですので……多少なりともどんなものかわかっていたのが大きいですわね。そうでなかったら、どうなっていたことか……」

「えっ、二度目ノコ? じゃあ一回目はどこで……」

「……ここだけの話だがよ、USJだ。そんときはオールマイトがやっつけてくれたんだよ」

 

 声をひそめた切島の言葉に、三人はぎょっとする。顔色も、少し悪くなった。

 

 対するA組の二人は、それが当たり前だと思う。

 

「なんとまあ。……だとしたら、体育祭のときに鉄哲氏や物間氏が喧嘩腰で食ってかかったのは、本格的に筋違いでしたな。あんなものに出くわした人間に対して、まずやるべきことはそんなことではありませんぞ」

「確かに。二人ともクラスを想ってのことだが、やっていいことと悪いことがある」

「ノコ……でも鉄哲はともかく、あの物間が謝るかなぁ?」

 

 小森の言葉に、他二人が遠い目をした。

 

 これを見た切島たちは、どのクラスにも問題児はいるのだなぁという、やや緊張感に欠けた、しかし素直な感想が浮かぶ。口には出さなかったが。

 

 そうして、なんとか森から脱した彼らが見たものは――四人のヴィランと対峙する、プッシーキャッツの姿であった。

 




第一試合:大事な友達を害されてガチギレのトガちゃんVS目当ての肉を治されてガチギレのムーンフィッシュ
ファイッ!

それと残念なお知らせなのですが、ブラキン先生の勇姿はここで打ち止めです。
基礎スペックの差を考慮すると延々続く泥仕合しか書けないので、物語的な進行が止まってしまうんですよね・・・。
おまけに他メンバーの戦いは今後の物語(原作との差異という意味でも)に明確に影響しますが、ブラキン先生の場合は特に影響がなく描写する意義が薄いので、申し訳ないですがカットします。
すまないブラキン先生・・・すまないB組・・・。

すまないついでに先に謝っておくと、プロットの上では対抗戦でもいくつかはカットされる予定で・・・。
すまない・・・本当にすまない・・・。
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