『コトちゃん、ごめん……フォースライトニングしたらすごく疲れちゃって、そのまま捕まっちゃったのです……』
ヒミコからようやくテレパシーが来たと思ったら、いきなりそんな内容だったので私は思わず激しくむせた。
いや、むせた理由の半分は、戻ってきたミドリヤが内側から粉砕させたような変色をした両腕をぷらぷらさせていたからなのだが。要はタイミングが悪かった。
ミドリヤに関しては、どうやらコータを助けるに当たって相当手ごわいヴィランと遭遇したようだ。苦戦を強いられたのだろう。イレイザーヘッドが間に合っていなければ、そのまま死んでいた可能性すらある。
無事……とは口が裂けても言えないので、クラスメイトはもちろん合流済みのB組の面々などは特に顔を青ざめさせていたが。ともかく、命に別条がなさそうなのは不幸中の幸いだ。コータやイレイザーヘッドもである。
となると、問題になってくるのはマグネたちだが……そこはさすがに現役のプロヒーローと言うべきか。マグネもスピナーも、イレイザーヘッドの抹消がなくとも捕縛に成功していた。
なお、ダビ二人はどちらも本物ではなかったようで、数回攻撃を受けたあとは消滅してしまっている。さほど耐久力があるわけではないらしい。
まあ、妙にトドロキと、それとなぜかエンデヴァーを強く意識していたのは気になるところだが……それはともかく。
ここで、事態は動く。恐らくはヒミコが捕らえられたことがきっかけなのだろう。
マグネとスピナーの心境が一斉に変化した。引き上げだ、と。恐らく、他のヴィランも同様のはずだ。
よくよく見ると、マグネたちはインカムをつけている。無線通信だ。どこからか、撤退の指示が出たのだろう。
と、私が認識するのに前後して、不意に黒い靄が出現した。それも、マグネとスピナーを取り押さえるプッシーキャッツ二人を覆うようにだ。
クロギリ。連合が抱える移動手段。このままだと逃げられる。
「やれやれ、皆さん少しどいていただきましょうか」
「させるか――っぐ!?」
もちろん、こちらにイレイザーヘッドがいる限りそれは許可されない。
だが彼の“個性”は、対象を一度視認しなければ効果を発揮できないという欠点もある。
イレイザーヘッドの前方に、青い炎の壁が走った。この“個性”の持ち主は、
「またあのヤケドヤローかよ!? 何人出てくるんだ!?」
そう、ダビだ。イレイザーヘッドの視界を完全にふさぐ形で、左右から一人ずつ、二人のダビが姿を見せながら炎を放ったのだ。さながら十字砲火のようにイレイザーヘッドを……何なら我々をも飲み込む形で青い炎がごうごうと音を立てて燃え盛る。
「何人っつーか、どういう“個性”っつーか……!」
「恐らく彼自身の“個性”はシンプルに炎のはず……ということは、他に
「だろうな……クソッ、俺の氷で炎自体は防げるが、先生の視界までふさいじまう……!」
敵方に人を増やせる“個性”を持つものがいることは、これで確定した。はっきり言って非常に厄介だ。
最初も今回も二人しか来なかったということは、そこまで多くは増やせないのだろうが……万が一“個性”が成長したとしたら、まったく笑えない事態になりかねない。
しかしそうこうしているうちに、クロギリはマグネとスピナーを回収して消えていく。プロヒーローたちが一斉に飛びかかるが、これはダビコピーたちが文字通り身を挺して阻止してしまう。
私もどうにかして敵の撤退を妨害しようとしたが、盛大にむせている最中にフォースを万全に扱うのは困難極まる。並行してヒミコとのテレパシーを試みていたこともあって、余計にだ。欲張りすぎたか。
結局、我々はヴィランたちの撤退を阻止できなかった。それは他の場所でも同様だったらしく、ほどなくして森の中にあったヴィランの反応が一つ、また一つと消えていく。
そして遂には、ヒミコの気配もこの周辺から消えた。別の星に、というわけではないが。それでも確かに、遠い場所へ彼女は移動してしまったのだ。
今すぐそこへ飛ぶなど、できようはずもない。フォースプロジェクションであっても同様だ。そもそもあれは、想いが重なったとき以外は命を縮める。
思わず、歯噛みする。無性に胸の奥が痛くなった。
あのフォースヴィジョンはこういうことだったか、と。今になってようやく思い至った。
……フォースに対して、なぜはっきりと問題の場面を見せてくれないのだと苛立ちを覚えてしまうのは、私の修行が足りないから……ではないのだろうな。
前世ではそんなこと、思ったこともない。それも試練であると考えていたし、ヴィジョンの解釈もまた修行の一部であった。
だからこれはきっと、私が理波になった影響なのだろう。この星に生まれ変わってからのおよそ十一年で積み重ねたものが、そう思わせるのだろう。
そして……私はそれを、間違いだとは思わない。
仮に間違いだとしても、私は後悔しないだろう。この二度目の人生は、それほどの価値がある。そう信じているのだから。
『……コトちゃん?』
『……すまない、ヒミコ。どうやら我々の負けらしい』
いつの間にか背中をさすってくれていたツユちゃんに礼を言いつつ、ヒミコとテレパシーを交わす。
いずれにせよ、悔やむことなどいつでもできる。私が今すべきはそんなことではない。
だから。
『……ヒミコ。必ず迎えに行く。だから……』
『……はい。私、待ってるのです』
『ああ。君のことは私が守る』
私はそう約束を交わして。
一つ、大きく深呼吸をした。
空を仰ぐ。闇の中にまたたく星々が何かを言うことは、なかった。
***
さて、
ヴィラン連合の襲撃によって我々雄英高校ヒーロー科生徒が受けた被害は、重傷者三名、軽傷者二名、それに行方不明者一名と、そこまで多くはなかった。
ヴィランの出現地点に近いものが多かったB組には被害者が出なかったので、これについては正直ほっとした。私がやったことは無駄ではなかったようで、安心したのだ。
なお一番の重傷者はミドリヤだが、ウララカとハガクレの怪我もなかなかのものであった。特にウララカの腕は下手したら切断されていたかもしれないということだったので、ゾッとする。
ただ、ヒミコが適切に応急処置を施してくれたようで、既に危機は脱している。救急隊員は「残りはリカバリーガールの手にかかれば、多少痕は残るかもしれないが完治するだろう」と言っていたし、そこは不幸中の幸いである。
そしてミドリヤについても、遭遇した相手がかの有名なヴィラン、“血狂い”マスキュラーであったことを考えれば軽傷なほうだと言える。
数え切れないほどの殺人を犯した凶悪犯罪者であり、その被害者の中にはヒーローも含まれている指名手配犯なのだ、マスキュラーは。明らかに学生が戦っていいヴィランではない。
そんなヴィランが出てきていたことを考えるなら、ミドリヤの独断専行も今回ばかりはまったくの無駄ではなかったと言うしかないだろう。コータは彼がいなければ、恐らく殺されていただろうからな。もちろん、軍隊であれば最低でも降格は確実だが。
まあミドリヤの場合、大半の怪我はマスキュラーの攻撃ではなく自らの“個性”が原因、という辺りがなんとも……である。これについては、イレイザーヘッドがあとでたっぷりと説教するのだろう。そんな内心をしていた。あるいはリカバリーガールもか。
……と、さも問題は少ないという体で話してきたが、どれだけ犠牲者が少なかろうと問題は問題である。行方不明者も出ているのだから、大問題と言っていい。
そして問題と言えば、もう一つ。プッシーキャッツの一人……ラグドールがなんと行方不明になっていた。
これは私の落ち度である。B組の避難を優先していたこともあって、彼女の動向はあまり見れていなかった。私もまだまだ未熟だな。精進せねばなるまい。
なおラグドールがいたであろう地点には、きれいにくりぬかれたような穴が開いていたこと。さらに言えば、ヒミコが消えたであろう地点にも同じような穴があったらしいことから、同じヴィランによって捕らえられたものと見ていいだろう。
捕まえることに特化している“個性”と思われることから、最初からヴィラン連合の目当てはヒミコとラグドールだったのではないかと私はにらんでいる。何をもって二人を狙ったかまではわからないが。
なお、ヴィラン側はどうなのかというと。
我々が逮捕できたのはヒミコが下したムーンフィッシュと、イレイザーヘッドとミドリヤが下したマスキュラーのみである。
単純な人数、という見方をすればイーブンかもしれないが、ヒーローという職業上、一人でも捕虜が出た時点で負けと言うべきなのだろうな。どちらも突出して凶悪なヴィランであることを差し引いても、負けであろう。
当然、林間合宿は中止である。我々生徒はそれぞれの家に帰されることとなった。怪我を負った五人は、もちろん入院だが。
私もまた、マスメディアが殺到する雄英の校舎を尻目に、我が家へと戻った。内心に渦巻く感情を、どうにかこうにか抑えながら。
「オ帰リナサイマセ、ますたー……アレ? ますたー、さぶますたーハドチラヘ?」
出迎えてくれたS-14Oが首を傾げる。彼女のアイカメラが、困惑したように瞬いた。
「ただいま、14O。I-2Oは?」
「ア、ハイ。ますたーノ作業部屋デすたんばいもーどデスガ」
「わかった。君も来てくれ」
「? ハイ、タダチニ」
私は、14Oに告げられた部屋へまっすぐ向かう。手にしていた荷物もそのままにだ。
そして部屋に入って数秒、I-2Oが起動して私を出迎えた。
「ヨォますたー。随分ト早イオ帰リジャネーカ? ドーシタ?」
「まあな。しかし事情については今話している暇などない」
「「?」」
I-2Oに返しながら、しかし私は彼に見向きもせず、コンピュータを次々に起動していく。
そしてそれらが立ち上がるまでのわずかな時間に、くるりと二機に向き直る。
「14O、I-2O。手伝え。
「「
即答した二体のドロイドに、私は笑みを深める。恐らくは、ほの暗い笑みを。
とはいえ、別に殺してやろうとは思っていない。そんなことはもってのほかであると断言するし、一方的に攻撃を加えようとも思っていない。フォースに誓って、それはない。
なぜなら、私はジェダイだからだ。感情に流されるまま、相手を害するなどあっていいはずがない。そこはちゃんと理解して、わきまえているとも。それができるからこそジェダイなのだ。
ああ、わきまえているとも。その辺りのことは、しっかりとわかっている。
だからそう、今回の襲撃に参加していたヴィランに関する情報を、最速で警察組織に提供して差し上げるだけのことだ。きっといいように使ってくれるだろう。
なので、今回私が確認できた人間については、
銀河共和国の技術力を見せて差し上げようじゃないか。
だがそれは、あくまでついで。
本当の目的は救出現場に私も同行させてもらうことであり、情報収集は救出を行うタイミングを早めるためのものでしかない。
まあ情報収集の過程で法に触れることにはなるが、
「君もそうするだろう? アナキン」
『ああ、するね』
虚空に投げかけた問いへの答えは、背後から返ってきた。さすがは我が友にして師である。こういうときの彼のやり口に、全面的に同意する日が来るとは思っていなかったが……まあ、私もすっかりクワイ=ガン門下と言ったところか。
ただ、私はアナキンに目を向けない。彼もそれ以上は言わなかった。
だが、それだけでいいのだ。私たちの間に、これ以上の会話は必要なかった。
***
ちなみに。
「すまねぇ……! すまねぇ増栄……! オイラ、オイラ何もできなかった……ッ!」
帰り際。ヒミコを助けられなかったことについて、ミネタから五体投地を重ねて謝罪された。
聞けばどうやらヒミコが捕まったとき、彼はヒミコを視界に収められるくらいには近くにいたらしいのだが……直前にフォースライトニングを放ったヒミコが恐ろしくて、竦んでしまったらしい。
しかし、非フォースユーザーである彼にしてみれば、フォースライトニングを放っているときの姿は恐怖以外の何物でもないのだろう。こればかりは仕方あるまい。
珍しく……と言ってはなんだが、ミネタは真剣に、心から、本気で謝罪していた。いつものよくわからない心境もゼロではなかったが、それはそれとして、彼はヒミコを助けられなかったことを心底悔いていた。
これに対して、私は答えた。ミネタは悪くない、と。
なぜって、他にも取れる手段があったろうに、わざわざフォースライトニングなどという暗黒面の奥義を放って派手に消耗したのだ。ヒミコのほうが悪いだろう。だから怒りというものは厄介なのだ。
そういうわけなので、私は大丈夫だとミネタをなだめたのだが……彼自身が、一番己を許せていないようだった。
ミネタが妙なことをしなければいいのだが……と、そう思わずにはいられない私であった。
第二試合:引き分け
総合結果:敗北
原作との主な違いは「さらわれた人間」「特大の無力感を味わった人間」「マスキュラー戦に相澤先生参戦」「それに伴い緑谷の怪我が軽く済む」「マスタード、逮捕を免れる」の5点。
あと、そう。二度目なのでお分かりだと思いますが、ブチギレてます。
単純なピンチではなく誘拐なので、前回よりキレてます。
なお、峰田の内心は「マジで何もできなかったふがいなさが6割、百合の間に挟まろうとしているやつ死すべしが4割」くらいです。
ちなみにマスタード君ですが、原作同様森の一か所に陣取り個性でガスを出して獲物を待ち伏せしていましたが、理波が索敵とテレパシーでその周辺に誰も近づけさせなかったので、最初から最後までひたすらぽつねんと待ちぼうけしてただけで終わりました。
なので原作と異なり逮捕を免れました。たぶんあとで襲にざぁこざぁこ言われまくることでしょう。