銀河の片隅でジェダイを復興したい!   作:ひさなぽぴー

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13.準個性

 襲撃翌日の昼前。私は今回の襲撃事件で指揮を執る刑事が、今滞在している警察署に来ていた。

 

 現在ここでは、イレイザーヘッドとブラドキングの事情聴取が行われている。また、事件に関するあらゆる情報を取りまとめるためか慌ただしく大勢の警察官が行き来していて、非常に混雑していた。

 まあ、混雑している理由の何割かは、私が匿名で送りつけたヴィラン連合の個人情報が原因だろうが。急に大量の情報が来て、その裏取りに手を取られているのだろう。

 

 そう、私は一晩でおおむねのところを調べつくした。私、それにS-14OとI-2Oの手にかかればこの星の電子システムなど敵ではない。

 

 ただすべてと断言しないのは、私の技術をもってしても調べきれなかったものがいるからだ。

 その筆頭はもちろんシガラキ・トムラだが、ダビもまたこれに該当する。恐らく、出生に関する情報を一切届け出ていない。あるいは、死んだと誤認させて生き延びた人間のどちらかだろう。

 

 一応ダビについては、この人物ではないかという推測までは立てられたが……確証はない。彼をヴィラン連合に仲介したブローカー、ギランですらその素性を把握していないのだから大したものである。

 

 あと、私が遭遇しなかったヴィランの情報も追えていない。さすがにフォースの探査だけでいたことしかわからない人間を調べるのは、不可能だからな。

 どちらにせよ、もっと時間をかければ正確な情報を得られた可能性もあったかもしれないが……さすがに半日にも満たない時間では、どうしても限界がある。それに、早くヒミコを助けなければならないのだ。今はこれで十分だろう。

 

 とまあ、そういうわけで警察署に来たわけだが。こんなおおわらわな状況であっても、私のような子供が一人でやってきたら当然声を掛けられるわけだが……しかし現実そうはなっていない。

 私はフォースクロークを行った上で、人目を避けて動いている。目当ての刑事……ツカウチ氏の下になるべく誰にも関わることなく直行したかったので、こうさせてもらった。

 

 問題ない。何せフォースは“個性”ではないからな。

 そしてツカウチ氏の正確な所在は、コンピューターを介して把握している。時間はほとんどかからなかった。

 

「なるほど? ではその発信機を……」

「ああ、やつの体内にブチ込んでやった。もちろん傷口はすぐに『超再生』してしまったが……胃腸に入れたならともかく、脇腹だ。今も有効だと思われる」

「……だが二回もアレを見た感じだと、アレはただの兵器だ。連中と同じ場所にいるかどうか……」

「ふむ……もっと言えば、さらわれた二人と同じ場所にいるかどうか、か……」

 

 部屋の中から、そんな会話が聞こえてくる。

 

 ああ……そういえば、ヤオヨロズがブラドキングに発信機を渡したと言っていたな。素晴らしい判断だったと思う。

 しかしイレイザーヘッドが言っている通り、脳無とヴィラン連合、そしてさらわれた二人が全員同じ場所にいるとは限らない。一つ場所が割れているだけでも進展だろうが、十分ではない。

 

 ならば、その残りを私が補おう。

 

「わかりますよ」

 

 私はそう言いながら、部屋の中へ踏み込んだ。

 

「なっ!?」

「増栄……!?」

「ええ……君、どうやってここまで……っていうか、誰も気づかなかったのか……?」

「ちょちょちょちょっと、困るよ君ィ、こんなところまで……」

 

 すると当然、室内は騒然となる。しかし最初に復活した猫の顔をした刑事が私を押し出そうとする。

 

「ヒミコの居場所なら、確実にわかります」

 

 だから私は、不動の構えを取るとともに断言する。

 これにはこの場の全員が、思わずと言った様子でピタリと静まった。

 

「私とヒミコは特殊な繋がりがありまして。彼女側が応答できない状態でない限り、制限なくテレパシーで会話ができます」

『……!?』

 

 さらに付け加えたら、静まるを通り越して硬直してしまった。

 

「……フォースか」

 

 そこから最初に復帰したのは、やはりと言うべきか。私という人間についてそれなりに詳しいイレイザーヘッドだった。

 

 彼に頷き、説明を続ける。

 

「はい。私は“個性”とはまた異なる力によってテレパシーができます」

『このように』

「うわっ!?」

「お、おお……」

 

 説明の途中で、この場の全員に軽いテレパシーを送る。既に何度も受けていて慣れているイレイザーヘッドとブラドキングは平然としていたが、この場にいる刑事二人は少し困惑しているようだ。

 

「マンダレイのそれとは異なり、このテレパシーは相手の場所を把握していなければ送れません。ですが先に述べた通り、私とヒミコの間には特殊な繋がりがあります。これがある限り、私たちは何光年離れていてもテレパシーで会話が可能なのです。……もちろん、今この瞬間にでも」

「な……!?」

「そして彼女はこう言っています。バーのあるビルにいる、と」

『……ッ!?』

 

 みたび刑事二人が硬直する。

 

 それもそうだろう。何せ今、彼らはヴィラン連合のアジトと思われる場所の情報を手にしている。そしてそれは、テナントとしてバーの入っているビルだ。この情報は無視できまい。

 

 もちろん、この情報は少々言えない手段で手に入れているので私が口にすることはないが。

 なお、不正アクセスの罪は予定通り闇のサポートアイテム開発会社に負ってもらった。

 

 まあそれはともかく。

 

「色々と思うところはあるが……君のその情報があれば、すぐにでも裏が取れそうだな……ありがとう」

 

 ツカウチ氏が緊張をにじませながらも少し喜色を浮かべて軽く会釈する。

 

 私もこれに会釈で応じるが……私はこの情報を知らせるためだけに来たのではない。

 

「この件で一つ、お願いしたいことがあります」

「……お願いしたいこと?」

「はい。救出作戦に、私も同行させてください。“個性”の使用と戦闘の許可をいただきたく」

 

 だがこの申し出には、ツカウチ氏は盛大に顔をしかめた。イレイザーヘッドとブラドキングも同様である。

 

「……君の気持ちはわかる。だが」

 

 しかしその反応は、想定済みである。それに対する返しもだ。

 

「私がその場にいれば、ヒミコの状況はすぐにわかります。それを作戦に参加する人員に知らせることも」

「……だが、それは」

「ええ、別に現場にいる必要はない。ですが、私の“個性”は『増幅』と言いまして……他者の強化はもちろん、治療も可能です」

 

 反応は劇的だった。やはり、治療ができる“個性”は貴重なのだな。実際、貴重でなかったならリカバリーガールはもっと早く引退していただろうし。

 

 ヴィラン連合を相手取るなら、怪我人は避けられないだろう。そのため、私が現場にいることは間違いなく意味があるのだ。これは無視できないはずだ。

 

 まあ、それでも私の参加を認めないのが良識ある大人というものだが。

 

「……それでも、ダメだ。資格を持たず、あまつさえいまだ十歳の君を最前線に出すなどもってのほかだ」

 

 このツカウチ氏のように。

 彼の言い分は正しい。まったくもって正しい。

 

 とはいえ、こう来るだろうなとは思っていたので、特に落胆はない。なので、私は素直に引き下がる。

 

「……わかりました。では、私はこれで……」

「……待て、増栄」

 

 だがそれを、イレイザーヘッドが引き留める。がし、と肩をつかまれた。

 

「お前、勝手に行動する気だな?」

「法に触れることはしませんよ?」

「……つまり行動自体はするってことじゃねぇか……」

 

 はあ、とため息をつかれる。

 

 さすがに彼はごまかせないか。どうにも彼には、私はやるときはやるやつだと思われているようだし……昨日実際に勝手に行動した男がいるから余計だろう。

 

 ただ、法に触れることはしないつもりというのは今回は本当だ。いまだ法整備が遅れている、超AI搭載型ドロイドは盛大に使うつもりだが。

 

「いいか増栄、お前は……」

「おっと、一旦その話はストップさせてください」

 

 だがそこに、さらに別の人間が割り込んできた。がちゃりと扉が開かれ、現れたのは……。

 

「なっ、誰だね君は!」

「……イッシキ?」

「こんにちは、お久しぶりですね」

 

 中肉中背、黒い首輪をはめた目立たない容貌の男。元ヴィラン、ルクセリアのイッシキ・アヤオだった。

 

「……なぜお前がここにいる?」

「お仕事ですよ。……と、まずはこちらを」

 

 彼はイレイザーヘッドの問いににこりと笑って見せると、懐からスマートフォンを取り出し中を全員に見せつけるように掲げた。

 直後、そこに電話がかかってくる。電話と言っても一般的な電話ではなく、通話アプリによるビデオ通話だ。

 

 いぶかしげにそれを見やる私たちをよそに、イッシキはこれに応答。そうして画面に表示されたのは……。

 

「……けッ、警視総監殿……!?」

『うむ』

 

 そういうことらしい。つまり今のイッシキは、サイバー対策課所属の冴えない刑事ではない。

 

 いや、身分立場に関してはその通りなのだろうが、それだけではないと。警察組織のトップがついているというわけだ。

 これにはツカウチ氏たちも何も言えず、敬礼するしかないらしい。

 

『安心したまえ、別に捜査権を移すなどという話ではない。単に、彼女に渡したいものがあるだけだ。……逸色くん、あれを』

「はい」

 

 そんなツカウチ氏を前に、警視総監は端的にそう言った。

 これに応じる形で、イッシキはにっこりと笑いながら再び懐に手を入れた。

 

 彼が取り出したものは、二枚のカード。そこにはなぜか、私とヒミコの顔写真がそれぞれ載っている。

 

「……それは……?」

『ヒーロー活動許可仮免許証だ。増栄くんと渡我くんの、な』

『な……ッ!?』

 

 警視総監の言葉に、イッシキ以外の全員が心の底から驚いた。

 当たり前だ。何せ、国が私という子供に対して、仮とはいえヒーロー免許を与えたのだから。

 

『ただ、少し特殊なものだ。気づいたかね? 従来のヒーロー免許と少しデザインが違うということに』

 

 しかし警視総監は私たちの驚愕を気にすることなく、そう言う。やはりこれに応じて、免許証を見えやすいように前に差し出してくるイッシキ。

 

 が、そう言われてもヒーロー免許を見る機会は実際のところあまりない。私は父上が元プロなので、一般家庭の出よりは見たことがあると思うが……それでも普段から見ているわけではない。

 

 ゆえに、最初に気づいたのはプロヒーローの二人。イレイザーヘッドとブラドキングだった。

 

「……免許の種類? ブラド、こんな項目あったか?」

「いや、間違いなくなかった。ヒーロー免許の種類? どういうことだ?」

 

 二人の言葉を受けて目を凝らせば、確かに。個人情報や交付日――よくよく見ればそれは六月にあった仮免試験の日付になっていた――などの一覧とヒーローネームの間に、黒い罫線で覆われた枠がある。

 そしてそこには「免許の種類」という文章が入った欄と、一つの空欄、さらに“準個性”という単語が入った欄の三つが並んでいた。

 

『……“準個性”?』

 

 これに再び、イッシキ以外のこの場の全員が声を上げた。

 

 対して、画面の中の警視総監がどこか満足げに頷く。

 

『その通り。かねてより()()は、彼女たちが用いる“個性”ではない超能力……通称フォースについての扱いについて議論を重ねていてね。その結論がこれだ。すなわち、フォースを“準個性”と定め、“個性”同様に国の管理下に置く、と』

 

 驚く我々をよそに、言葉は続けられる。

 

『これにより、フォースの持ち主もヒーロー活動が可能になる。状況に応じて、フォースの行使も認められる。ただし、書かれている通り“準個性”での活動に限る。“個性”を用いて活動するためには、また別に“個性”でのヒーロー免許試験を受けていただく必要がある。

 ま、全力でヒーロー活動がしたいなら、今までで言うところのヒーロー免許も別個で取得しなければいけないというわけだな。自動車免許と自動二輪免許が区別されているのと同じように、だ』

 

 ……そう来たか。ここでそう来るか。

 どうやら国は、是が非でも私を制御下に置きたいらしい。

 

 恐らく、前々から出すタイミングをはかっていたのだろう。昨日の今日で、いきなりこの仕組みやカードを用意したとは考えられないからな。

 

 だが腹立たしいものの、極めて有効だ。ヒミコのことを思えば私はこれを受け取るしかないし、仮に受け取らなかったらフォースを使うだけで犯罪者になってしまう。

 世間への発表より先に動いた上に、試験などを無視していきなり許可証を発行してきたのは、要するに私に対する配慮という体裁の脅迫だろう。

 なんならこの“準個性”、遡及法が適用されている可能性すらある。そういう意味でも私はこの()()を断れない。

 

「まあとはいえ、従来のヒーロー免許保持者による“個性”使用許可があれば問題なく“個性”も使えますからね。そこはあまり気にされる必要はないかと思います」

 

 と、ここまでほとんど無言だったイッシキが、補足するように言った。その顔にはセールスマンさながらの笑み。

 

 胡散臭いことこの上ないが、彼は通常の警察官とは立ち位置が少々異なる。今回はあくまで使い走りだろうし、彼自身は国の思惑にはかかわっていないはずだ。

 画面に映る警視総監が一瞬渋い顔をしたところを見るに、言う必要のないことを言ったようだしな。実際、イッシキの心情はこちら側にある。

 

『まァ……そういうわけだ。なので、彼女が救出作戦に参加することはもう何も問題はない。仮で限定付きとはいえ免許だからな、インターンの扱いで現場に入れて構わない』

 

 まあ、今度は私たちが渋い顔をさせられたわけだが。

 

 この場にいるのは全員良識ある大人ばかりなので、それも無理からぬことだろう。国の決定とはいえ、そのあまりの内容に嫌悪感を露にしている。程度の差はあるが。

 

 参戦を求めていた私が言うのもなんだが、同感だ。仮とはいえ、限定的とはいえ、試験を飛ばして子供にヒーロー免許を交付してしまうなんて、信用を欠く行為と言わざるを得ない。本当に何も思惑がないにしても、私をコントロールしたいと思われても仕方がないと思うぞ。

 

 それとも、私たち以外にフォースユーザーが見つかったのだろうか。地球はフォースの薄い星だが、ゼロではないので可能性はある。この機会にそうした人間を法の制御下に置いておこうと考えてのことか。

 

 あるいは、単純に焦ったか?

 だとしたら、恐らく国も警察も一枚岩ではなく、様々な思惑が入り混じっているからこそだろうが……まあいい。この免許証が、今このときだけは都合がいいことには変わりないのだ。

 

 私はそう考えながら、イッシキが差し出したままだったカードを手に取った。

 

 ……いいだろう、借り一つだ。だが、いずれ踏み倒す借りだ。

 必要以上に国や警察に警戒感を抱かせるわけにはいかないから、それを口には出さないが。

 

 と、そのとき。用件を終えるや否や沈黙したスマートフォンをしまったイッシキが、私に目を向けた。彼は申し訳なさそうに表情を崩していたが、くすくすと笑いだす。

 

 具体的に何をするかまではわからないが、何かをやらかそうとしていることはフォースによって見えたのだろう。

 

 ――どうぞどうぞ。

 

 彼の、そんな声が頭の中に響いた。

 




ザ・裏話
今回出てきた準個性、設定上「いわゆる個性以外のすべての特殊能力」が含まれています。
なので予定は一切ないですが、たとえばスタンドであったり念能力だったりがこの世界に出現したとしたら、それらもすべて法の下で制限されます。
普通に考えればそんなことあり得ないのですが、フォースという前例ができてしまっているので、お偉方は警戒したわけですね。
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