オールフォーワンが現れてからというもの。
緑谷たちは何もできないまま、状況を窺うしかできなかった。それほどの威圧感、それほどの恐怖をまき散らしていたのだ。
だが、それもオールマイトが現れてからは収まっていた。ただそこにいるだけで、人々を鼓舞する存在。それこそがナンバーワン、それこそが平和の象徴オールマイトなのだ。
しかしその安堵も、空前絶後の戦いが始まってからはしぼんでしまった。
何せ敵は、あのオールマイトをものともしない。なぜかここにいる理波にも強い敵が取りついていて、押してはいるが倒すにはまだ時間がかかりそうだ。
そして、もう一人の理波……変身したトガが、複数のヴィランを相手に苦戦を強いられている。
この状況で、戦うことが許されない。それが何よりも悔しくて。
それでも、緑谷は考えることをやめなかった。今の自分たちにできることを考え、それをどう生かすか。ありとあらゆることを考え続けた。
そして、彼は一つの答えを導き出す。
案の定、友達を引き戻すどころか自分から積極的に動こうとしていることに内心で苦笑しながら、八百万に一度止められかけながらも、その答えを開陳した。
四人はこれを受け、答えを出す。数秒の葛藤ののち、全員が「やろう」という答えを出した。
かくして五人は動き出す。
まず、葉隠を中心にして全員がその身体をつかむ。そうして葉隠が軽く念じると、
「は、葉隠さん、こんなことができたのですね……!?」
「ううん、できなかったよ。でもね、トガちゃんがさらわれたあとから、できるようになったんだ」
「……! 成長、したんだ……!」
緑谷が言う。“個性”はふとしたことをきっかけに、成長することがあると。
彼の言葉に、全員が納得した。そんなきっかけなど、心当たりがありすぎた。
そして、もう一人。
「……オイラもだ」
「峰田くんも……!?」
「おう。オイラの『もぎもぎ』、くっつかないのオイラだけだったんだけど……
今んとこ選べるのは一つだけっぽいけど、と付け足した峰田だが、その
元々ヒーローオタクで、“個性”についても知識が深い緑谷は、こんな状況ではあるが素直に感動した。そして称賛する。無個性だった彼にとって、どんな“個性”も素晴らしいものだが……それをさらに成長させることができたということは、この上なく素晴らしいことなのだ。
何より、選択肢が広がる。これなら。
「これなら行けるよ……!」
そうして彼らは姿を隠して、高所へと移動した。
戦場を俯瞰できる場所だ。オールフォーワンと激しくぶつかり合うオールマイト、瞬間移動を繰り返す襲を相手に押している理波、ヴィラン連合に囲まれながらも理波に変身することで持ちこたえているトガの姿がよく見える。
この一角に、緑谷は峰田の“個性”を設置させた。「もぎもぎ」を等間隔に張りつけたのである。
さらに、八百万はかつて理波からもらった設計図を基に、銀河共和国仕様のアンカーフックを二つ創造。念のためにと麗日と葉隠に渡す。
そしてこれを装備した麗日は、自身と葉隠に「
最後に、その二人の身体を緑谷がつかんだ。
普段なら、きっと女性に直接触れるということで挙動不審になっただろう。しかし今はそんなことを言っている場合ではなく、考えている場合でもない。
ゆえに、緑谷はためらわなかった。
「……麗日さん、葉隠さん。行くよ?」
彼の問いかけに、二人が頷く。
「お二人とも……どうかお気をつけて」
「オッケーまっかせて! 絶対助けてくるから!」
「うん! 思いっきりやっちゃってデクくん!」
そして。
――ワンフォーオール・フルカウル、
緑谷の身体を、いかずちのような緑色の光が覆う。
ぐん、と全身に力が込められる。
――SMAAAAASH!!
隠密ゆえに、直接声は出さなかったが。しかし心の中ではお決まりの掛け声を乗せて、緑谷は組んだ麗日と葉隠を思い切り投げ飛ばした。
その先は、峰田が設置したもぎもぎ。
このもぎもぎは、峰田によって葉隠がくっつく効果の対象外になっている。
効果の対象外になっているもぎもぎが、何を引き起こすか?
答えは――反発。さながらトランポリンのように、「もぎもぎ」は葉隠……と、彼女に組み付いた麗日の身体を、目にもとまらぬ勢いで弾き飛ばしたのだ。
そうして二人の身体は虚空を切り裂き、戦場の上を通過する。
この気配を、フォースユーザーの三人は敏感に感じ取った。
と同時に、まず理波が動く。上空に目を向けた襲が瞬間移動することを防ぐべく、シエンのフォームで猛然と攻撃を加えた。
上を見る余裕など一切与えない、苛烈な攻撃。これに盛大な舌打ちを漏らした襲はただでさえ押されていたところを、もはや後ろに下がり続けることしかできなくなる。
このタイミングで、麗日と葉隠の身体はちょうどトガの真上に到達していた。
そして、二人は。
「被身子ちゃん!!」「トガちゃん!!」
同時に声を張り上げながら、手を差し出した。
「うん!」
これを受けて、トガは理波の身体で心底嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
笑って、フォースと「増幅」を組み合わせて地面を蹴る。
蹴って、跳んで、飛んで。
二人の手を、取った。
「何ィィィ!?」
驚いたスピナーが声を上げる。
それをよそに、トガは理波の顔でにっこりと笑い続ける。彼女の身体を、麗日と葉隠が抱きしめる。
トガの身体に、すぐさま「
「よかった! 無事でよかった……!」
「ホントだよ……! 心配したんだから……!」
「ごっめぇーん! でも、ありがとう!」
見えないけれど、もう一度にこりと笑うトガ。
「逃がすな! 遠距離攻撃できるやつは!?」
「荼毘に黒霧! 両方ダウン!」
「私一応飛ばせるけど……どこに行ったかわからないわ!」
連合も黙ってはいない。いないが、透明になってしまった三人を見つけることができず、右往左往している。
さらに。
「ん~……っ、ばーん!」
理波に変身したままのトガがそちらに手を伸ばせば、連合メンバーの間に激しい空気爆発が起こった。
「ぬわあああ!?」
これによって吹き飛ばされるコンプレス、スピナー、マグネ。
だが彼らの不幸はこれに留まらない。この瞬間、到着したグラントリノの攻撃が見舞われたのである。
気絶する三人。これで、トガを追いかけることができるものはいなくなった。
ゆえに。
「よーっし、お茶子ちゃん、透ちゃん! 飛ばしますよぉ!」
「えっ!? ちょ、トガちゃん待ってよ!」
「そうだよ! 理波ちゃんがまだ……」
「コトちゃんは残るって言ってます。許可もらってるんだって」
「えぇ……マジ……!?」
「どうやって許可もらったんやろ……」
「そういうわけなので……私たちだけでも。ね?」
「んー……納得はできないけど……」
「そやね……仕方ない、か」
「ですです。コトちゃんなら絶対大丈夫だもん。……なので、二人ともしっかり捕まっててくださいね!」
「「……うん!」」
トガは理波の立体機動を駆使して、二人ともども戦場から離れていく。
去り際に、彼女はちらりと理波を見た。
理波は透明なはずのトガをまっすぐ見据えて、にんまりと笑っていた。
その顔は、トガのそれ――変身中という意味ではなく、元々の素顔での笑い方――によく似ていて。
――トガ・ヒミコ、救出に来たA組メンバーと共に脱出成功。
***
『コトちゃん?』
『私は許可を得ている。このままオールマイトと共に残るよ』
『ん……んんん……むぅ、わかったのです。……待ってるから。フォースと共にあらんことを』
『ああ、必ず戻る。フォースと共に』
ヒミコとテレパシーでそんな会話したあと、彼女はウララカとハガクレと共にこの場から離れていく。これでひとまず、最大の懸念は解消した。
「やられたな……一手できれいに形勢逆転だ」
それをよそに、とてもしてやられた側とは思えない声音で、オールフォーワンがつぶやく。
と同時に、彼は先ほどから何度も使っている空気砲を撃ってきた。カサネが私に斬りかかったタイミングでだ。
全能力増幅中だ。彼女の攻撃を避けたり受けたりすることは簡単だが……空気砲が続くとなると態勢を少しでも崩すわけにはいかない。カサネは気にしなくていい。どうせ瞬間移動で退避するはずだ。
なのでほとんどカサネから意識を外し、攻撃を受け止めながら空気砲への対処に動く。
オールフォーワンに向け……正確に言えば彼の肥大化した腕の下から、全力全開のスーパーフォースブラストを放つ。ここまでしてもなお、この技の威力は相変わらずヒミコに届かないのだが……今はそれでいい。
これにより、オールフォーワンの腕は上に向いた。結果、空気砲も上空に発射されるに至り、私は直撃を免れることに成功する。
とはいえ、その秘めたる威力は尋常ではない。余波が特大の暴風となって吹き荒れ、フォースブラストに注力していた私はさして踏ん張ることもなく、思い切り吹き飛ばされた。
まあこれほどの風なら、いっそ無理せず吹き飛ばされたほうがマシだろう。下手に耐えようとしてこの場に留まって、下手に動けない状態のときに追撃を受けかねない。
そう思いながら風に身を任せたところで、既にカサネの姿が近くにないことを確認する。だろうな。
彼女はオールフォーワンの近くにいた……が、そのオールフォーワンによってクロギリのほうへ投げ飛ばされていた。
「先生!?」
「襲、僕を想う君の気持ちはありがたいけれど……ここまで押し込まれたら、まずは逃げることを考えないといけないよ。逃げることは敗北ではないのだからね。最後に勝てばいいんだよ」
オールフォーワンが穏やかに言う。これをオールマイトと渡り合いながらしているのだから、まったく恐れ入る。
「でも……ッ! ボクまだ負けてない! 『憤怒』だって、ここからが100%で……ッ!」
「弔と一緒に逃げるんだ、襲。君の“個性”は素晴らしいし、僕の
「……ッ!」
「弔はもうできている。君だってできるはずだ。そうだろう?」
「……ッ、わ……わかった……わかったよぉ!」
大急ぎで戻ってきた頃には彼らの話は終わっていて、クロギリの靄に向けてカサネが気絶したヴィラン連合のメンバーを叩き込んでいるところだったのだ。トムラのほうも、一緒に気絶したメンバーを引きずっている。
「待て!」
なんとかそれをとめようとしたが、再びオールフォーワンの妨害が飛んでくる。伸ばした変形指がバラバラに薙ぎ払われ、グラントリノともども弾かれてしまった。
そうこうしているうちに、ヴィラン連合が完全に靄の中へと消える。
「「先生……」」
直前、トムラとカサネが並んでオールフォーワンを振り返った。さながら、旅立つ親にすがるような顔で。
「弔、襲。君たちは戦いを続けろ」
そんな二人に、オールフォーワンはそう言い残して。
背を向けてオールマイトに立ちはだかった。
と同時に、靄が収まる。そのあとには、誰も残っていなかった。逃げられたか……。
いや、これ以上はどうしようもあるまい。まずはオールフォーワンをなんとかせねば。
そう思い、意識をそちらに向けると……彼は例の黒い液体によってグラントリノを眼前に引き寄せ、オールマイトへの盾にしていた。
決して一瞬とは言えない行動であったが、オールマイトの速すぎる攻撃はもはやとまれないところまで来ていた。結果として、彼は強引に攻撃を逸らそうとしている。
「オールマイト! そのまま行ってください!」
なので私は、グラントリノを引き寄せる。スーパーフォースプルを用いて、オールマイトの攻撃軌道上からグラントリノを引きはがした。
応じて、オールマイトは攻撃を逸らすことをやめた。再び拳を握り込め、オールフォーワンへと殴りかかる。
オールフォーワンの舌打ちが聞こえたような気がした。直後、両者の拳がぶつかり合う。
これによって、オールフォーワンの空気砲に限りなく近い威力の暴風が周辺一帯に吹き荒れる。私はまたしても吹き飛ばされてしまった。グラントリノも一緒だ。
「グラントリノ、大丈夫ですか?」
「問題ねぇ!」
何はともあれ、急いでオールマイトの下へ戻らねば。
……と、思った直後である。また両者がぶつかり合ったのだろう。再び暴風が吹き荒れ、私たちはもう一度吹き飛ばされる。
ああもう、埒が明かない。前世の三分の一もない軽い身体が今ばかりは恨めしいぞ。重量も増幅したほうがいいだろうか?
だが下手に重量を増やすと、立体機動に支障が出る。これは今後の課題として、覚えておくとしよう。
ともかく大急ぎで戻った私たちが見たものは、
「貴様の穢れた口で……お師匠の名を出すな……!」
仰向けに倒れ込んだオールフォーワンの頭部に拳をめり込ませたオールマイトが、普段の彼らしからぬ怒声を上げているところだった。
葉隠ちゃんと峰田に上方修正かかりました。
好きな人()がヤケドしたのを見ただけでただの氷操作が氷の温度まで操作できるようになる世界だから、これくらいパワーアップしてもおかしくはないでしょう。たぶん。
あと今回ははっきりと示す状況にならなかったけど、お茶子ちゃんにも上方修正かかってます。彼女についてはEP7にて。
・・・おかしいなぁ、なんで峰田こんなに活躍してるんだろう・・・?